杏林医学会雑誌
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52 巻, 4 号
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原著
  • 飛田 和基, 木村 雅彦, 児玉 優太, 合田 あゆみ, 岡島 康友
    2021 年 52 巻 4 号 p. 167-176
    発行日: 2021/12/28
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    背景 : 本研究の目的は,安静時の指標から肺高血圧症患者の運動中の肺循環動態悪化を予測する指標を明らかにすることである。
    方法 : 2018年5月から2019年12月の間に当院へ右心カテーテル検査で入院した27例を対象に,mPAP-CO slopeが3以上を上昇群,3未満を非上昇群とし,安静時の指標との関連を検討した。
    結果 : 分時換気量(オッズ比7.93, 95%CI 1.94-87.06, p=0.001),収縮期肺動脈圧(オッズ比1.35, 95%CI 1.06-2.23, p=0.007),VE/VCO2(オッズ比1.18, 95%CI 1.02-1.42, p=0.012),R(オッズ比3.28, 95%CI 1.33-11.01, p=0.046) が有意な項目であった。
    結論 : 安静時の分時換気量,VE/VCO,収縮期肺動脈圧は運動中の肺動脈圧上昇を予測する因子であった。

症例報告
  • 尾﨑 良, 齋藤 大祐, 大津 晃康, 徳永 創太郎, 箕輪 慎太郎, 嶋崎 鉄兵, 三浦 みき, 櫻庭 彰人, 林田 真理, 三好 潤, ...
    2021 年 52 巻 4 号 p. 177-182
    発行日: 2021/12/28
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

     症例は77歳男性。水様性下痢を主訴に受診し,感染性腸炎が疑われ抗菌薬投与により加療されるも,経過中に中毒性巨大結腸症を発症した。詳細な問診の結果,発症の数カ月前に風俗店での異性間性交渉歴が確認されたことからアメーバ性大腸炎を疑い,中毒性巨大結腸症を伴うことから劇症型と考えた。メトロニダゾールの投与を開始し症状は速やかに改善が得られた。アメーバ性大腸炎は原虫のEntamoeba histolyticaによる感染症であり,主に下痢や血便,腹痛などの症状を呈する。予後は良好であるが,一部に劇症型が存在し,重篤な経過を辿ることもある。劇症型アメーバ性大腸炎では外科的治療を要することが多いが,本症例では保存的治療が奏功し救命が得られた。劇症型アメーバ性大腸炎の救命のためには早期の診断および治療開始が必要であり,通常の治療が奏功しない感染性腸炎ではアメーバ性大腸炎を鑑別疾患として疑うことが必要である。

特集『炎症性腸疾患診療の最前線』
  • 久松 理一
    2021 年 52 巻 4 号 p. 183
    発行日: 2021/12/28
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー
  • 三好 潤
    2021 年 52 巻 4 号 p. 185-189
    発行日: 2021/12/28
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

     炎症性腸疾患の患者数は全世界的に増加傾向であるが,いまだ原因が不明であり根本的治療がないため,現在の治療目標は寛解導入・維持となっている。好発年齢が比較的若年であるため,治療期間が長期に及び,患者は多様なライフイベントを疾患と向き合いながら迎えることとなる。治療薬,治療戦略が著しく進歩する一方,患者の生活の質の向上,医療資源の有効利用など炎症性腸疾患診療の現場は新たな課題に直面している。そこで,杏林大学医学部付属病院炎症性腸疾患センターは,患者中心医療の実践,最先端の炎症性腸疾患医療の提供,地域における炎症性腸疾患診療への貢献,炎症性腸疾患医療に貢献する研究の実施,炎症性腸疾患診療を担う次世代の医療関係者の育成を目指して2019年に設立された。当施設では,院内の多診療科・多職種の連携・教育体制のもと難治性・重症炎症性腸疾患症例の先進治療・集学的診療に積極的にあたるとともに,地域医療機関との診療ネットワークを構築することが,西東京地区における炎症性腸疾患診療の質を高めるために必要不可欠と考え,さまざまな取り組みを行っている。さらに,国内・国際共同治験に多数参加し,また臨床・基礎医学が一体となった学術的活動を推進して国内外に発信している。

  • 松浦 稔
    2021 年 52 巻 4 号 p. 191-197
    発行日: 2021/12/28
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

     炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease ; IBD)は主として下部消化管に慢性炎症を生じ,再燃と寛解を繰り返す原因不明の難治性疾患である。近年,IBD患者の長期予後の改善や患者QOLの向上を目指して,IBDの治療目標は従来の臨床的寛解から内視鏡的寛解(粘膜治癒)へと変化してきた。特に,他の慢性疾患と同様,IBDの分野にもTreat to Targetの概念が導入され,現在のIBD診療では定期的な疾患活動性モニタリングと治療目標達成の客観的評価が必要不可欠となっている。それゆえ,IBD診療において内視鏡検査は重要な役割を担っており,IBDの正確な診断や病勢把握に加え,治療効果(粘膜治癒)の判定,癌サーベイランス,消化管狭窄病変に対するバルーン拡張術など,診断から治療に至るまでさまざまな目的で行われる。しかしながら,内視鏡は侵襲的検査であることに変わりなく,そのためIBD診療における内視鏡の役割をしっかりと認識した上で,その適応を判断することが重要である。IBD患者の長期予後改善に向けて果たすべき内視鏡の役割は依然として多く残されており,今後のさらなるエビデンスの構築が期待される。

  • 齋藤 大祐
    2021 年 52 巻 4 号 p. 199-205
    発行日: 2021/12/28
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

     炎症性腸疾患に対する治療は従来,副腎皮質ステロイド,チオプリン製剤,カルシニューリン阻害薬による非特異的な腸管免疫の抑制が中心であったが,1993年に世界で初めて抗TNFα抗体製剤の有効性がクローン病患者で報告され,その後20年余りの間に抗TNFα抗体製剤は炎症性腸疾患の疾患概念や治療ストラテジーを大きく変えた。さらに新規分子標的治療薬が次々と開発され,現在では抗接着分子抗体や抗IL-12/23p40抗体,低分子化合物ヤヌスキナーゼ阻害薬など,様々な作用機序を有する薬剤が選択可能となった。基本治療薬においても5-アミノサリチル酸製剤やブデソニド製剤の選択肢が増え,チオプリン製剤についてはNUDT15遺伝子多型検査による副作用リスクスクリーニングが確立されるなど新たなエビデンスが構築されつつある。さらに長期予後の改善が重要視されるようになり,新たな治療戦略として具体的な治療目標を設定したtreat to targetの重要性が唱えられるようになった。いっぽうで,各薬剤の好適症例の設定,適切なモニタリングの確立など解決すべき課題も残っている。

  • 須並 英二, 吉敷 智和, 小嶋 幸一郎, 麻生 喜祥, 若松 喬, 飯岡 愛子, 片岡 功, 金 翔哲, 磯部 聡史, 久松 理一
    2021 年 52 巻 4 号 p. 207-211
    発行日: 2021/12/28
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

     潰瘍性大腸炎手術に際しては,その適応に関して絶対的適応と相対的適応が想定されている。内科的治療の進歩により外科治療が必要となる症例は減少しているが,癌・dysplasiaを手術適応とする割合は増加している。手術術式は大腸全摘・J型回腸囊肛門吻合術(IAA)と大腸全摘・回腸囊肛門管吻合術(IACA)が現在では標準術式となっている。肛門管に炎症が強く存在する症例や癌・dysplasia症例ではIAAが選択されることが多く,その他では術後機能の面でIACAが選択されることが多い。手術は必ずしも一期的に行われるわけではなく,患者の状態や病状などにより二期的三期的に分割して行われることも多い。IAA,IACAともに術後の排便機能・QOLは低下するが経時的にはある程度回復する。IAAとIACAとの比較では,漏便頻度や排便回数など術後3年まではIAAが不良であるが3年以降はその差は縮まる。低侵襲手術として腹腔鏡下手術やロボット手術が行われることも増加している。腹腔鏡下手術では,手術時間は長くなるが,術中出血は少なくなり,縫合不全や創感染などの合併症は増加せず,術後パッド使用頻度は減少するなどの報告もあるが,十分なエビデンスとはいえない。IAAに近いIACAの変法の提案なども認められ,今後はロボット手術を中心とした低侵襲手術を中心とし,さらなる外科治療の展開が期待される。

  • 久松 理一
    2021 年 52 巻 4 号 p. 213-217
    発行日: 2021/12/28
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

     人類が初めて経験した新型コロナウィルス感染拡大は炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease, IBD)診療においても多くの課題を突きつけた。当初全くエビデンスがない状況であったが,国際的データベースであるSECURE-IBDや厚労省難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班によるJAPAN IBD COVID-19 Taskforceの設立などによる情報取集により,今日一定のコンセンサスを有する治療体系が確立されつつある。いっぽうで新型コロナウィルス感染拡大下での患者行動変容に関する研究結果は,患者や実地医家に対して正確な情報を提供することがいかに重要で,そして難しい課題であるかも明らかにした。ワクチン接種を含めてまだ解決されるべき課題は多いが,新型コロナウィルスでの経験は今後のIBD診療の向上に必ず役立つものである。本稿では新型コロナウィルス感染拡大下におけるIBD診療について解説し,明らかになった今後の課題について考察する。

特集『脳卒中の最前線』
  • 平野 照之
    2021 年 52 巻 4 号 p. 219
    発行日: 2021/12/28
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー
  • 海野 佳子
    2021 年 52 巻 4 号 p. 221-226
    発行日: 2021/12/28
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

     杏林大学医学部付属病院脳卒中センターは多職種が脳卒中専門診療チーム(Stroke Care Team)を形成し,専用病棟で脳卒中急性期からの集中的な治療と早期からのリハビリテーションを計画的かつ組織的に行うことのできる脳卒中ユニット(SU)であり,2006年に開設された。近年大きく変化している脳卒中医療の最先端を踏まえ,常に最適な急性期脳卒中医療を提供している。24時間365日rt-PA静注療法や血栓回収療法などの急性期再灌流療法を提供しながら工夫を重ね,日本脳卒中学会より一次脳卒中センター(PSC)として認証され,更にPSCコア施設を委嘱された。脳卒中センターは脳卒中科医を中心に運用され,救急初療担当者は救急隊からホットラインで連絡を受ける。脳梗塞急性期再灌流療法の適応は灌流CTを活用し脳組織の評価をもとに行い,血栓回収療法には脳卒中科医と脳神経外科医のチームが参加している。毎朝多職種のカンファレンスを行い,さらに外科治療症例の検討や,画像診断の工夫のため別にカンファレンスを行っている。入院後はチームで患者を担当し,リーダーを中心に病態や基礎疾患を総合的に判断しながら診療する。院内発症脳卒中への対応として,特に急性期再灌流療法の適応となる症例を見逃さないことに留意したFAST-DANプロジェクトを立ち上げ,一定の成果が得られた。COVID-19感染蔓延に際しては,医療者と患者を守るための工夫を行いながら,必要な医療を継続して提供した。

  • 天野 達雄
    2021 年 52 巻 4 号 p. 227-232
    発行日: 2021/12/28
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

     急性期脳梗塞,特に,脳主幹動脈急性閉塞の治療ターゲットは,虚血状態にあるものの梗塞には至っていない脳組織(ペナンブラ領域)を救済することにある。機械的血栓回収療法は,血栓回収デバイスを用いて,血管を閉塞している血栓を回収し閉塞血管を再開通させる治療方法である。ペナンブラ領域は脳梗塞発症から時間が経過すると梗塞に至るため,少しでも早く再開通をさせる必要がある。2015年に発症6時間以内の症例で機械的血栓回収療法の有効性が証明され,エビデンスレベルの高い標準的治療として普及した。その後,画像自動解析ソフトの登場でペナンブラ領域を可視化することが可能となった。2018年には発症6時間以降の症例でも,ペナンブラ領域が広範に存在する場合,機械的血栓回収療法が有効であることが証明され,それまでの時間ベース(time base)から組織ベース(tissue base)の適応判定にシフトした。本項では,機械的血栓回収療法の変遷と実際の症例提示,今後の課題について解説する。

  • 吉田 裕毅, 塩川 芳昭
    2021 年 52 巻 4 号 p. 233-238
    発行日: 2021/12/28
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

     脳血管障害とは血管病変を原因として起こる脳神経系の異常を総称する言葉であり,脳梗塞,脳出血,くも膜下出血などが含まれる。しばしば脳卒中とほぼ同義語として用いられるが,卒中の「卒」は突然を意味し,「中」は「中風」すなわち半身不随や言語障害などを指すことから,言葉どおり急性期の病態を示すのに対して,脳血管障害は血管病変による慢性期の異常も含まれる。
     脳血管障害を発症して神経学的異常が生じた場合,もとの社会生活に復帰できる患者は限られてくる。その最も大きな理由は中枢神経の再生能力の弱さにある。しかし画像検査の発達によって手術治療が有効であるかを正確に診断できるようになり,また少しずつではあるが手術技術も向上しているため,かつては回復不可能とされていた病態でも外科治療によって良好な転帰が得られる症例も増えてきた。
     脳血管障害と一括りにされてはいるが,上述のそれぞれの疾患は大きく異なる病態であるため,治療の目的も求められる外科処置の内容も変わってくる。本項では脳血管障害の疾患別に脳卒中に対する外科治療の役割について概説する。

  • 田代 祥一
    2021 年 52 巻 4 号 p. 239-243
    発行日: 2021/12/28
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

     ニューロリハビリテーション領域では,非侵襲的脳刺激法を用いて脳の可塑性の誘導,学習の向上,皮質興奮性の増加などを介してリハビリテーションの効果を改善させる試みが行われている。電流を用いた経頭蓋直流電気刺激(tDCS),経頭蓋交流電気刺激(tACS),磁気刺激により発生する誘導電流を利用する経頭蓋磁気刺激(TMS)のうち,パターン化された高頻度刺激を用いるシータバースト刺激法や四連パルス刺激法といった方法について研究が進められている。臨床応用の障壁となっている効果の個人差の克服のため,精密刺激手技がさまざまに工夫され,またニューロイメージング法の併用による効果の可視化が図られている。本稿では,ニューロリハビリテーションとそれぞれの非侵襲的脳刺激法を概説する。

  • 河野 浩之
    2021 年 52 巻 4 号 p. 245-249
    発行日: 2021/12/28
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

     脳卒中には,脳血管が詰まる「脳梗塞」,脳の血管が破れる「脳出血」「くも膜下出血」がある。本項では主に脳梗塞と脳出血に関し,当科が関わっている最新の臨床研究を中心にまとめる。これらの臨床研究を通じて,脳卒中治療の進歩,より良い医療提供,社会貢献に繋げたい。

特集『画像診断・画像下治療の最前線』Part 2
杏林大学学位論文要旨および審査要旨
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