本研究では,以前に我々が開発したNIRSを利用したニューロフィードバックシステムを用いて,長期間のフィードバック訓練を実施し,その効果について検討した。まずタッピング動作で脳の賦活領域を推定し,その領域上の一つのNIRSチャネルを関心領域(ROI)と定めた。次に,タッピングをイメージさせながらROIのoxy-Hb濃度変化をバーメータの上下動として被験者にフィードバックする訓練を約一か月間実施した。最後に計測したoxy-Hb濃度変化を解析することで,フィードバックの効果について検討した。
6名の被験者をフィードバック有りと無しに振り分け,タスク中の濃度変化値を積分して検定したところ,フィードバック有りではタッピングとイメージの積分値に有意差はなく,フィードバック無しではタッピングよりもイメージが有意に低い値となった。このことから,訓練を重ねれば重ねるほど,より安定してイメージ中の賦活強度を高められるようになる可能性が示唆された。
本研究の目的は,「早産児の安定」の概念と構成要素及び特性について明らかにすることである。
分析方法は,Walker & Avantの概念分析の方法を使用し,42件の文献で分析を行った。
その結果,「早産児の安定」の概念として,5つの定義属性を示すカテゴリーと,7つの先行要件,結果を示すカテゴリーが抽出された。
以上から,早産児の安定の概念の構成要素が明らかになった。早産児の安定は,【安定性と不安定性】の相反する側面があり,【安定するプロセス】という特性を持っていた。また,早産児が安定するためには,児自身の要素である「内的側面」と,児の発達段階に合わせた環境との相互作用である「外的側面」が必要であることが明らかになった。今後,臨床場面で早産児の安定を統合して評価できる評価指標の開発が必要である。
Stevens-Johnson症候群(Stevens-Johnson syndrome : SJS)は高熱に伴い,粘膜移行部を含む全身に紅斑,びらん,水疱が多発し,表皮の壊死性障害を認める疾患である。SJSの原因は薬剤と感染症が多いが,エンテロウイルスによるものは極めて稀である。症例は6歳男児で,発熱に続き,全身のびらん,水疱を伴う紅斑,眼球結膜の充血と偽膜形成,口唇の発赤とびらんがありSJSと診断した。ステロイドパルス療法により全身の皮疹と眼病変の軽快がみられたが手掌と足底の皮疹は水疱の出現を伴い,むしろ増悪した。引き続き免疫グロブリン療法を追加し,最終的に全ての発疹は消失した。Nested-PCRにより血清中のエンテロウイルスDNAを同定した。手掌足底の水疱を伴うSJSでは,エンテロウイルス感染を原因として疑う必要がある。また,ウイルス感染が疑われる場合にはステロイドの後療法としての免疫グロブリン療法が有効である。
川崎病は乳幼児に好発する原因不明の全身性の血管炎であり,急性期または回復期に関節症状を合併することが知られているが,関節症状に対して治療を必要とする例は比較的少ない。関節炎のマーカー,および関節リウマチにおける関節破壊の予測因子としてタンパク分解酵素のマトリックスメタロプロテアーゼ-3(MMP-3)が広く用いられ,川崎病においても関節炎に関連することが報告されている。今回,川崎病の回復期に,MMP-3の高値を伴った遷延する関節炎を呈したため,メトトレキサート,プレドニゾロン,イブプロフェンの追加治療を行い,良好な経過を示した症例を経験した。本症例のように関節炎が遷延し,さらにMMP-3の著明な上昇を伴う場合は,関節型若年性特発性関節炎を完全に否定することは困難であり,関節破壊が危惧されることから追加治療が必要と考えられる。
心房細動は,頻度の高い不整脈で,高齢になると罹患率があがり,年々増加傾向にある。心房細動患者では,脳卒中リスクや総死亡率が上昇することが知られており,その治療,特に適切な抗凝固療法は非常に重要である。
検脈,12誘導心電図,ホルター心電図,植込み型ループレコーダーなど,心房細動をスクリーニングする方法は多様だが,記録時間が長いほど検出力が高くなる。近年では,アップルウォッチなどのスマートウォッチや腕時計型脈波計による心房細動検出の有用性も報告されており,日々技術が進化している分野でもある。心房細動の早期発見のために当科で行っている研究も紹介しながら概説する。
1990年代より以前は抗不整脈薬による薬物治療,その後心原性塞栓症に対する予防としての抗凝固療法の重要性が広く認識され,2000年以降カテーテルアブレーションを中心とした治療に心房細動治療は変化している。
心原性塞栓症の予防はワルファリンに代わる直接経口抗凝固薬の開発で,より簡単に頻繁な採血なしに有効に行えるようになった。ここでは,近年進歩の著しいカテーテルアブレーションを中心に心房細動治療の変遷を解説したい。
徐脈性不整脈に対するペースメーカ治療において,リードと本体が一体となったリードレスペースメーカが開発され,2017年より本邦でも使用できるようになった。本邦で保険償還されているMicra™は経静脈リードペースメーカの1/10以下の容積,重量と非常に小型であるが,VVIペースメーカとしての機能はほぼ同程度である。
安全性,安定性についても前向き多施設共同試験や市販後調査などで経静脈ペースメーカに比べて良好であると示されているが,植込み時合併症である心筋穿孔は外科的処置が必要になることがあり注意が必要である。慢性期の合併症は経静脈リードベースメーカと比較して少なく,リードアクセスに問題がある症例や感染後の再植込み症例ではリードレスペースメーカが選択されつつある。今後はVVIペーシングシステムのみでなく,VDDペーシングシステムも導入される予定であり,より多くの症例に対して使用されるようになると予想される。
ペースメーカ治療として従来右室ペーシングが施行されてきた。現在,ヒス束や左脚を直接捕捉し,刺激伝導系のネットワークを介して左室心筋の早期同期興奮を可能とする,より生理的なペーシング方法が注目されている。恒久ヒス束ペーシングの有用性は2000年に初めて報告され,心室ペーシング依存例では右室ペーシングと比較し,心不全入院及び死亡率を低下させる可能性がある。植込み時の捕捉閾値高値と,術後の閾値上昇によるペーシング不全が課題である。杏林大学病院では2016年より国内では先駆けて,恒久ヒス束ペーシングを開始した。当院における徐脈性不整脈51例に対する初期成績では,リード留置は43例(84%)で成功し,リード留置後深い陰性ヒス束電位が記録されると術後1年間良好なヒス束捕捉閾値が維持された。さらに右室側遠位ヒス束ペーシングにより,近傍心室閾値は術後も低く維持され,リード再留置予防のために有用であると報告した。2021年本邦のガイドラインでは,恒久ヒス束ペーシングの適応として,房室伝導障害患者で,高頻度の心室ペーシングが予測され,中等度の左室収縮機能低下を認める場合をクラスIIaとして,左室収縮機能低下を認めない場合はクラスIIbとして推奨している。今後は左脚領域ペーシングを含めた刺激伝導系ペーシングが,心臓再同期療法の代替療法として,慢性心不全の治療選択肢となることを期待する。
検査・治療の発展により,医療行為に伴う放射線被ばくは全世界において20年間で約6倍と大幅に増加しており,循環器領域も例外ではない。不整脈診療においても,各種の画像診断からカテーテルアブレーション治療,デバイス植込み手術に至るまで,被ばくを伴う検査治療は必須となっている。診療上必要な被ばくは正当化される一方,被ばくは可能な限り低減することが必要であり,その概念は“As Low As Reasonably Achievable(ALARA)の原則”として提唱されている。放射線が身体に与える短期的・長期的な影響を考慮すると,患者のみならず医療者にとっても,放射線防護を最適化することは,つねに意識するべき重要な課題である。
不整脈診療におけるマッピングシステムやカテーテルナビゲーションシステムの使用は,難易度の高い患者に対する手技であっても低被ばくで施行することを可能にしてきた。また,被ばく低減の意識を医療者間で共有,強化することの重要性も明らかとなってきた。
当科ではこうした低被ばく不整脈診療について積極的に発信してきており,本項では当科の取り組みについて紹介したい。