平成27年3月9日,兵庫県淡路島で,精神障害者による殺人事件が起きた。病状不安定なため家族は心配し,警察や保健所などの関係機関に,何度も相談していた。過去にも,同様なケースは多く見られる。悲惨な事件を繰り返さない為には,「事件がなぜ起きて,なぜ防げなかったのか」を振り返り,対策を練る必要がある。何よりも,事件を未然に防ぐことが大切である。筆者は,26年間の往診の経験から,関係機関と連携した精神科医による往診が,有効な解決策の一つであると考えた。当事者と家族の困難時に寄り添い,不安を軽減し,状況に応じて判断を下すのは,現行法上,精神科医にしかできない仕事である。危機介入しても,すべての事件を防げるわけではないが,数は減らせるはずである。そのためには,無理のないシステムを作り,実践することこそ重要であろう。そこで,筆者のクリニックにおける往診の取り組みを報告すると共に,手上げ方式による,精神科往診輪番事業を提案した。
身体疾患と精神疾患は相互に影響し合うことが多く,近年の疾病構造の変化に伴いその傾向はさらに顕著である。そのような中,身体治療の現場からコンサルテーション・リエゾン精神医学に寄せられるニーズも高まっている。長崎大学病院では2012年度より精神科リエゾンチームを結成し,他科入院中の患者に対して精神医療を提供している。今回チームの活動を振り返り,高齢者のせん妄に対する対応が,我々に求められる大きなニーズの1つと考えられた。また,その他にも多岐に渡るニーズが見出され,今後もコンサルテーション・リエゾン精神医学に求められるニーズは高まっていくことが予想される。我々の活動内容について報告するとともに,活動を行ううえで意識していることにも触れ,これからの精神医学における位置づけなどについても考察を加える。
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