九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
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一般演題1[ 成人中枢神経① ]
  • O-001 成人中枢神経①
    横田 裕季, 山田 麻和, 山口 滉大
    p. 1-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 近年、パーキンソン病(PD)患者に対する入院での短期間集中リハビリテーション(リハ)の有用性が報告されている(Tomlinsonら,2013)。今回、短期間強化リハを導入し、既存の報告より少ない介入期間や回数であっても、身体機能の改善を認めたため報告する。

    【症例紹介】 PD診断後10年経過した50代後半男性。BMI:29.1、 MMSE:29点、手段的日常生活動作を含め全て自立。著明なOFF状態はないが、夕方から動きが悪くなる傾向にある。姿勢は体幹が前屈しており、かつ右に傾いていた。主訴は直進歩行が難しく、左腰部痛が出現し頻回に休憩が必要なことであった。

    【介入前評価】 修正Hoehn And Yahr重症度分類:stage 2.5, Unified Parkinson’s Disease Rating Scale(UPDRS)PartⅢ:31/132点、Mini Balance Evaluation Systems Test(Mini-BESTest):19/28点、10m歩行試験(10MWT、快適):1.02m/s、6分間歩行距離(6MWD):311.4m、脊柱計測分析器による体幹側屈角度:右30.5度、体幹前屈角度:11.0度、39-itemParkinson’s Disease Questionnaire(PDQ39):99/156点。歩行時は両手を後方で組み、左立脚後期における中足指節関節(MP関節)の伸展が減少していた。

    【仮説】 歩行時、体幹前屈による前方重心のバランスを取るために両手を後方で組み、腕振りが無いこと、体幹の右への傾きにより左下肢への荷重が不十分なため、立脚後期のフォアフットロッカー機能が低下していることが問題と考えた。姿勢の改善を図ることで重心移動が容易となり、直進歩行のスムーズさに繋がると仮説した。

    【PT介入と経過】 1回60分の理学療法を週2回、6週間実施した(計12回)。姿勢の矯正、および良好な姿勢を保ちながら四肢や脊柱を大きく動かす練習を行った。座位や立位での静的バランス練習から、ステップ動作や歩行など動的バランス練習に段階的に移行した。練習中は良好な姿勢を保てるように、姿勢鏡やセラピストの声かけを用いて、視覚や聴覚のフィードバックを利用した。また、重心移動に伴う足底の荷重感覚に注意を向けるように促し、体性感覚からのフィードバックを組み合わせた。介入後半では体幹伸展位での持続運動が可能となり、左腰部痛の訴えが無くなった。介入中に服薬の調整は行われなかった。自宅での自主トレーニングとして週2回の筋力増強訓練を併用し、介入後も継続を依頼した。

    【介入後評価】 UPDRS PartⅢ:20/132点、Mini-BESTest:22/28点、10MWT:1.20m/s、6MWD:396.78m、体幹側屈角度:右21.4度、体幹前屈曲角度:8.4度、PDQ39:81/156点。体幹の前屈と右への傾きが軽減し、歩行時に腕振りが可能となった。また、左立脚後期のMP関節の伸展が増加し、ステップ長も延長した。姿勢を意識するようになり、直進歩行のコツがわかるようになったと内省が得られた。

    【考察】 疾患早期~中期のPD患者に対して、週1回以上の理学療法を長期間(6ヶ月以上)行うことにより、運動症状の改善や、抗PD薬の内服薬を減少する効果があることが示されている(Okadaら,2021)。今回、短期間強化リハにおいても姿勢の改善に加え、UPDRS PartⅢにおける臨床に意義のある最小差(3.25点)や、10MWTにおける最小可検変化量(MDC, 0.18m/秒)、および6MWDにおけるMDC(82m)を超える身体機能の改善が認められた。視覚や聴覚、体性感覚を組み合わせた複合的なフィードバックにより、身体イメージや運動イメージが修正され、姿勢の改善や直進歩行の再学習に繋がったと考えられた。今後は3ヶ月おきに1年後までの長期効果について検証予定である。

    【倫理的配慮・説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に配慮し、症例に内容を説明し書面にて同意を得た。

  • O-002 成人中枢神経①
    浅香 雄太, 三宮 克彦, 大橋 妙子, 赤瀬 諒市, 時里 香
    p. 2-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 パーキンソン病(以下、PD)で大腿骨頚部骨折を受傷した患者を経験した。筋骨格系の疼痛にPD症状が合併し運動療法に苦慮したが、有酸素運動を重点的に行い身体機能が改善したため報告する。

    【症例紹介】 80代女性で、PD診断後3年が経過。Hoehn&Yahrの重症度分類はステージⅣ。主なPD症状はwearing-off現象、筋固縮、動作緩慢を認めた。Mini Mental State Examination(MMSE)は26点で、主な移動手段は手支持型歩行車であった。転倒により左大腿骨頚部骨折を受傷し、手術およびリハビリ目的で当院入院となった。

    【経過】 受傷3日目に左人工骨頭置換術施行し、術後1日目よりリハ開始。術後7日目に前腕支持型歩行車歩行開始。耐久性や筋力低下が著明であった。術後30日目に病室内手支持型歩行車歩行自立とするが、創部周囲の歩行痛残存により積極的には歩行されなかったため、術後33日目より負荷量可変式エルゴメーター(以下、てらすエルゴ)を用い下肢駆動による有酸素運動を開始。また、下肢のレジスタンストレーニング(以下、RT)を追加した。術後72日目に手支持型歩行車で自宅退院となる。

    【方法】 1ヵ月間有酸素運動を実施し、運動開始時と終了時の身体機能を評価した。項目は、Numerical Rating Scale(以下、NRS)での疼痛評価、Hand Held Dynamometer(ミュータスF-1、アニマ社製)での膝伸展筋力と伸展筋力体重率、5回立ち上がりテスト(以下、5STS)、Timed Up&Go Test(以下、TUG)、6分間歩行テスト(以下、6MWT)、10m歩行テスト、Berg Balance Scale(以下、BBS)、Functional Independence Measure(以下、FIM)、Unified Parkinson’s Disease Rating Scale(以下、UPDRS)とし、PD症状を考慮しON時に行った。てらすエルゴの運動負荷量は、強度を20Wで10分間、回転数50回/分、目標心拍数(カルボーネン法に基づき計算)を95回/分程度とした。RTは起立やランジ動作を40~50%1RMで行い、疼痛に応じ漸増的に追加した。なお、今回の介入期間を通しPDの薬剤調整はなかった。

    【結果】 有酸素運動実施前後で、歩行時の左大腿部痛はNRS5→1、膝伸展筋力は健側9.59→10.61 ㎏f、患側6.83→11.63 ㎏f、膝伸展筋力体重率は健側20.5→22.6%、患側14.6→24.9%、5STSは20.48→10.31秒、TUGは24.29→15.23秒、6MWTは160→280m、10m歩行テストは最大速度11.44→9.25秒、BBSは45→53点、FIMは94→107点、UPDRSは50→43点と全項目で改善した。

    【考察】 PDを合併する大腿骨頚部骨折患者は、周術期にPD症状や合併症が増悪するため非PD患者と比較してADL改善が不良であり、リハビリが遅延するとされている。本症例も周術期に寡動、筋固縮などPD症状を認め、リハビリ進行の妨げになっていた。加えて歩行時痛で活動量が増えず、身体活動量増加とADL能力向上が課題だった。そこで、疼痛なく一定量の運動を安全に行える「てらすエルゴ」を用いた有酸素運動を開始した。また、近年有効性が示されているRTを併用した。

     PD患者における有酸素運動はドパミンなどの神経伝達物質が分泌されることで、PD症状の緩和に役立つとされ、RTは筋力や筋量の改善に加え、黒質等の脳活動を活性化する可能性が示唆されている。また、城らは、「継続的な運動を行うことで身体活動量を増大させることが疼痛修飾機能の改善・向上につながる」としている。本症例の場合、有酸素運動を契機にPD症状の緩和や組織修復が促進され、疼痛が軽減できたのではないかと考える。加えて、RTの継続が筋活動及び身体活動量を増加させ、日常場面で活動しやくなったと考える。

     また、本症例は前回入院時より改善した評価項目もあり、有酸素運動とRTの併用が著効した症例であったと考える。

  • O-003 成人中枢神経①
    益田 頌子, 嶋本 稔也, 本島 拓哉, 平田 綾佳, 野島 健碁, 福永 貴之, 川野 裕貴, 敷島 侑政
    p. 3-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 パーキンソン病では腰部痛の罹患率が高く、臨床場面においても腰部痛の訴えは多く聞かれる。腰部痛は、活動量の低下や運動の阻害因子となり、精神的な苦痛も伴い生活の質までをも低下させる。そのため、腰部痛を予防することは、大変重要な課題とされている。そこで本研究では、腰部痛のあるパーキンソン病患者において疼痛の程度によって運動症状や腰曲がり角度、腰部筋の変性に違いがあるのかについて明らかにすることを目的とする。

    【方法】 当院に入院となったパーキンソン病患者の中で、整形外科的疾患がなく筋骨格性の腰部痛がある患者31例を対象とした。Numerical Rating Scale(NRS)にて疼痛を評価し、疼痛の程度からMild群(NRS:1-3)14例、Moderate群(NRS:4-6)9例、Severe群(7-10)8例の3群に分け、運動症状、腰曲がりの角度、傍脊柱筋群の筋断面積および脂肪浸潤度を比較した。運動症状はパーキンソン病の評価スケールであるUnified Parkinson’s Disease Rating Scale(UPDRS)partⅢを用い、筋断面積および脂肪浸潤度は腰部MRI(T1強調画像)をもとにImage Jを用いて第3腰椎レベルにて当該筋をトレース後算出した。

    【結果】 Mild群、Moderate群、Severe群において年齢、BMI、罹患期間、Yahr重症度、抗パーキンソン病薬量などでグループ間の有意差は認められなかった。また、UPDRS partⅢ、傍脊柱筋群内の脂肪浸潤度においても有意差は見られなかった一方で、腰曲がり角度(p<0.001)と傍脊柱筋群の筋断面積(p=0.04)においては有意差を認めた。Post hoc testとしてSteel-Dwass法にて多重比較を行った結果、Mild群と比較しModerate群(p>0.001)およびSevere群

    (p>0.001)間で有意に腰曲がり角度が大きかった。傍脊柱筋群の筋断面積においては、多重比較にて有意な差は認められなかった。また、サブ解析にてNRSを目的変数とし、腰曲がり角度を説明変数として単回帰分析を行った結果、有意性をもって(p<0.001)、決定係数0.63とやや強い正の相関を示した。さらに、腰曲がりの角度に影響を与えている因子についてSpearmanの順位相関係数を用いて解析したところ傍脊柱筋群内の脂肪浸潤度(r=0.54, p=0.002)、UPDRS partⅢ(r=0.45, p=0.02)、筋断面積(r=-0.42, p=0.02)の順で有意差を持って相関を示した。

    【考察】 腰部痛がMild群に比べModerate群やSevere群では腰曲がり角度が大きく、腰部痛の程度に腰曲がりの角度が関与している可能性を示した。これは、腰曲がりの角度を予防することが疼痛を回避できる手段の一つになりえる可能性を示す。さらに、腰曲がりの角度は傍脊柱筋群の筋内脂肪率および筋肉量、運動症状が関連する可能性が示唆された。パーキンソン病における腰曲がりの原因は様々な要因が考えられており、本研究で抽出した変数のみではすべてを明らかにすることは難しい。しかしながらこのような結果は、今後のパーキンソン病に対するリハビリテーション介入の一助となりうる可能性を秘めている。

  • O-004 成人中枢神経①
    川野 裕貴, 嶋本 稔也, 本島 拓哉, 平田 綾佳, 野島 健碁, 福永 貴之, 益田 頌子, 敷島 侑政
    p. 4-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 本邦におけるパーキンソン病患者数の60%を75歳以上の後期高齢者が占めているとの報告がある一方で、これまでパーキンソン病に対するリハビリテーション効果を示す報告は75歳未満の前期高齢者での報告が圧倒的に多い。そのため、本研究では、後期高齢者のパーキンソン病における入院リハビリテーションの効果について明らかにすることを目的とした。

    【方法】 当院にリハビリテーションを目的に入院となったパーキンソン病患者連続367例のうち他疾患による運動機能障害や心疾患などがなく、歩行可能な121例を対象とした。運動機能をUnified Parkinson’s Disease Rating Scale(UPDRS)partⅢにてリハビリテーション介入前後で評価を行った。後方視的に前期高齢者群と後期高齢者群に分け、両群間のリハビリテーション介入前後におけるリハビリテーション効果について検証した。さらに、後期高齢者群では、UPDRS partⅢの改善値に影響を与えている下位項目について検証を行った。

    【結果】 前期高齢者群(67.4±5.7歳)と後期高齢者群(79.5±3.9歳)におけるYahrの重症度分類、在院日数、リハビリテーション介入時間、抗パーキンソン病薬量、入院時UPDRS partⅢに有意差は見られなかった。両群におけるリハビリテーション実施前後のUPDRS partⅢは前期高齢者群で-4.6±6.1点(p<0.001)、後期高齢者群で-3.0±4.8点(p<0.001)と有意な改善が見られた。一方、両群間におけるリハビリテーション効果の比較では、UPDRS partⅢの改善値に有意差は見られなかった(p=0.26)。また、後期高齢者群におけるUPDRS partⅢの改善値に関連する下位項目をSpearmanの順位相関係数でみたところ運動緩慢(r=0.83, p<0.001)、軸症状(r=0.56, p<0.001)、筋強剛(r=0.45, p<0.001)の順に相関がみられた。

    【考察】 本研究において両群の入院リハビリテーションは一定の効果が見られ、さらに後期高齢者群におけるリハビリテーション効果は前期高齢者群と差異がないことがわかった。この結果は、既報告同様にリハビリテーションが高齢者のパーキンソン病患者に対しても有効である可能性を示唆した。さらに、後期高齢者群のパーキンソン病患者に対するリハビリテーション効果には運動緩慢、軸症状だけでなく、筋強剛の改善も関連している可能性があることが示唆された。

  • O-005 成人中枢神経①
    小牧 進太郎, 綱 翔太郎, 大原 円香, 西山 和宏, 上田 健一, 福永 誠司, 藤元 勇一郎
    p. 5-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 パーキンソン病(以下、PD)は四肢の振戦や動作緩慢などの主要症状を呈す、緩徐進行性の神経変性疾患である。PD症状の進行は加齢とともに相まって立位姿勢や歩行障害の調整に大きな弊害をもたらし、Hoehn&Yahr重症度分類(以下、H&Y分類)Ⅲ以降においては姿勢反射障害や突進現象が顕著化し、転倒が増えてくると言われている為、Movement Disorder Society Unified Parkinson’s disease Rating Scale(以下、MDS-UPDRS)part3で機能障害の評価を行う事が必要である。松村らによるとMDS-UPDRSはPDによる一次性機能障害の状態を把握でき、歩行との関係性があると報告している。また、PD患者における歩行評価として10m歩行やtimed up&go test(以下、TUG)が多く報告されているが近年、より簡便な方法として2step testが用いられている。しかし、先行研究の多くは対象者がH&Y分類ⅠからⅡまでであり、歩行障害を呈しやすいH&Y分類Ⅲ以降のPD患者を対象とした報告は少ない。そこで、本研究の目的はH&Y分類ⅢからⅣのPD患者において2step testと10m歩行およびTUG、MDS-UPDRSの関連について検証した。

    【対象と方法】 対象は2022年7月~2023年1月までに当院および当院の通所リハビリテーション室にてリハビリテーションを施行した9名(年齢74.8±7.4歳で男性4名、女性5名、罹病期間7.5±3.3年、H&Y分類Ⅲ:5名、Ⅳ:4名)とした。既往歴に歩行障害を伴う脳卒中を呈している者および口頭での動作指示理解が困難な者、他の神経難病の診断を受けている者は除外とした。基本情報として、カルテより年齢、性別、H&Y分類、罹病期間を抽出。歩行評価として、2step testおよび10m歩行、TUGを測定した。2step testは最大2歩幅長を身長で除し2step値を算出した。すべての測定において2度測定を行い、2step testは2step値の最大値、10m歩行およびTUGは最速値を代表値とした。MDS-UPDRS part3は下位項目である無動合計(指タッピング、手の運動、手の回内外の運動、つま先タッピング、下肢の俊敏性、運動の全般的な自発性)、固縮合計(筋強剛)、振戦合計(手の姿勢時振戦、手の運動時振戦、安静時振戦の振幅、安静時振戦の持続性)、姿勢反射障害合計(姿勢の安定性、姿勢)の主病4項目を聴取した。統計解析は、2step testと10m歩行およびTUG、MDS-UPDRS part3の下位項目の関連性をスピアマンの順位相関係数とピアソンの積率相関係数を用いて検討した。統計学的処理には、R-4.0.1を使用し、有意水準は5%とした。

    【結果】 各検査項目の結果は、2step値0.56±0.49、10m歩行18.5±5.2秒、TUG22.9±10.1秒、MDS-UPDRS part3に関しては無動合計7.7±3.2点、固縮合計0.8±1.6点、振戦合計4.5±2点、姿勢反射障害合計3.7±0.9点であった。

     相関分析の結果、2step値と10m歩行(r=-0.72、p<0.05)およびTUG(r=-0.86、p<0.05)、姿勢反射合計(r=-0.84、p<0.05)との間に有意な負の相関を認めた。

    【考察】 本研究の結果より、2step testと10m歩行およびTUG、MDS-UPDRS part3の姿勢反射合計との間に負の相関を認めた。先行研究同様H&Y分類Ⅲ以降においても2step testが10m歩行およびTUGと関連があると示唆された。また、先行研究によると姿勢反射障害の増大に伴い、2step値は低値を示すと報告しており、H&Y分類Ⅲ以降を対象とした本研究においても同様の結果となった。H&Y分類Ⅲ以降のPD患者は姿勢反射障害が顕著に出現しやすく、立ち直り反射が障害され2step値が低値になったのではないかと考える。今回の結果よりH&Y分類Ⅲ以降のPD患者に対する歩行評価として2step testの妥当性は高いと考えるが、PD症状の一つである姿勢反射障害の影響も考慮した上で、歩行能力の評価を行う必要性があると考える。

  • O-006 成人中枢神経①
    森野 美里, 山田 麻和, 志谷 佳久
    p. 6-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 サルコペニアは老化に伴う筋肉量・筋力の減少を指し、低栄養との関連が深く、身体機能低下に繋がり65歳以上の高齢者の15%程度が該当するとされる(内閣府,2018)。パーキンソン病(PD)患者における有病率は17-50%とされる(システマティック・レビュー,2021)。当院に入院したPD患者における調査では、有病率75%、低栄養率89%と併存率が非常に高かったが、在宅生活中のPD患者については把握できていない状況である。そこで今回、生活期リハビリテーション(リハ)を実施しているPD患者を対象にサルコペニア有病率と栄養状態について調査した。

    【対象】 対象は2022年4月時点に当院の外来・通所リハを利用中で、歩行可能なPD患者35名。年齢72.6±7.1歳、男20名、女15名、罹病期間6.0±4.0年、Hoehn&Yahr重症度分類Ⅱ9名、Ⅲ26名。

    【方法】 体成分分析装置InBody770を用いて骨格筋量、細胞外水分比を測定した。細胞外水分比とは体水分量に対する細胞外水分量の割合で、数値が高いほど浮腫の程度が強い。筋力は握力、運動能力は10m歩行速度、5回起立時間を測定した。サルコペニア診断基準はAsian Working Group for Sarcopenia2019に基づいて行った。栄養状態は、BMIと簡易栄養状態評価表(MNA-SF)を用いた。

    【説明と同意】 本研究は所属機関の倫理委員会の承認(承認番号:22-05)を得ると共に、対象者に書面で同意を得た。

    【結果】 サルコペニア有病率は25.7%、プレサルコペニア5.7%、ダイナぺニア28.6%であり、骨格筋量及び筋力が共に正常範囲の患者は40.0%と半数以下であった。細胞外水分比が年齢別標準値を超えた患者は51.4%と半数を占め、ダイナペニアにて60.0%と最も多く、正常範囲にて57.1%、サルコペニアにて44.4%であった。握力低下が54.0%と半数を占めたが、歩行速度低下は14.0%、5回起立時間低下は17.0%と運動能力の低下は少なかった。栄養状態では、BMIが男性22.9 ㎏/m2、女性16.8 ㎏/m2であり、女性に痩せが多かった。MNA-SFにて低栄養リスクあり(11点以下)は62.9%で性差はなく、サルコペニアにて77.8%、ダイナペニアにて60.0%、正常範囲にて57.1%、プレサルコペニアにて50.0%であった。

    【考察】 今回、在宅生活中のPD患者におけるサルコペニア有病率は25.7%と一般高齢者よりも高かったが、過去の報告範囲内であった。体成分分析装置では細胞外水分比が高いと筋肉量を過剰に高く算出してしまう。骨格筋量が正常範囲とされた患者のうち、53.8%は年齢別標準値を超えて細胞外水分比が高く、本来の骨格筋量よりも高く数値が出ている可能性が示された。そのため、ダイナペニアや正常範囲と診断された患者の中に隠れサルコペニアが存在する可能性があると考えられた。また、栄養状態では6割が低栄養リスクに該当しサルコペニアとの併存率が高かった。BMIではサルコペニアや低栄養の判断は難しく、体重管理だけでなく定期的な体成分分析や栄養評価の実施が必要である。坪井ら(2022)は、PDは緩徐に進行するため食事の量や質の低下に気づきにくく、生活環境にあった細やかな栄養管理・指導が必要と報告している。長く在宅生活を続けるためにも、食事の量や質の聞き取りを行い、リハの観点から栄養状態に見合った運動の提供・見直しを行うことが重要と考えられた。

    【結語】 今回、入院加療を必要とするPD患者と比べるとサルコペニア有病率および低栄養率は低かった。しかし、低栄養リスクのある患者は半数以上を占め、サルコペニアの予防を含め栄養状態を把握する必要性が示唆された。定期的な評価および管理栄養士と連携し、本人家族やケアマネージャーへの情報提供体制を行っていく体制を整えていきたい。

一般演題2[ 成人中枢神経② ]
  • O-007 成人中枢神経②
    田中 勝人, 篠塚 晃宏, 釜﨑 大志郎, 大田尾 浩
    p. 7-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 急性期の重度麻痺患者の歩行練習では備品の長下肢装具(以下、KAFO)を使用することが多いが、体格や麻痺の程度によっては備品のKAFOが適さないことを経験する。介助方法は、後方介助で行うことが多い。本症例は、体格が大きく備品が不適合であったため、膝関節の固定が不十分であり荷重時に膝折れが生じた。また、後方介助では、介助者にもたれかかるような歩容となり重心の前方移動を促すことが困難であった。そこで、体幹を中間位で留める事と股関節を伸展位で荷重する事を目的に前方介助にて歩行訓練を試みた。今回、従来の後方介助ではなく前方介助で歩行練習を行った結果、基本動作の介助量が軽減し歩容が改善した症例を報告する。

    【症例紹介】 74歳男性、180 ㎝、85 ㎏の大柄な体格。入院前ADLは自立。診断名は心原性脳塞栓症であり、左中大脳動脈領域に梗塞の所見がみられた。発症3日目のJCSはⅠ-3、ROMは両足関節背屈5°以外は著明な制限なし、BRSは右上下肢ともにⅠ、TCTは0点、FIMは18点、基本動作は寝返りが両側ともに全介助、起き上がり、起立は中等度介助、歩行はKAFOを装着し全介助で5m程度可能。全失語で感覚検査や高次脳機能評価は実施困難。

    【経過と結果】 発症19日目から歩行訓練開始となる。備品のKAFOの膝継手はダイヤルロック、足継手はダブルクレンザックを使用。後方介助時の歩容は、介助者に寄りかかり後方重心となり、右立脚期は支持力が弱く膝関節は屈曲位となった。また、右初期接地(以下、IC)で爪先接地、立脚期を通して踵接地はなかった。支持力が弱く膝継手は伸展0°で制限するもマジックテープ式のパットでは膝関節の制動が困難であったため、膝折れを防ぐ介助が必要であり、複数での介助を要した。そこでKAFO装着下で前方介助にて歩行訓練を試みた。前方介助は、前方から患者に密着し両殿部を把持した。体幹を中間位に保つ事に加え、ICから立脚中期にかけて右股関節を徒手的に伸展位の方へ誘導し、遊脚期では殿部から右下肢の振り出しの介助を行った。その際、介助者は後方へ進みながらの介助となるため、後方の安全性を他者に確認してもらいながら行った。前方介助では体幹の中間位保持、右股関節は伸展位を保ちながら膝関節は軽度屈曲位で歩行可能となり、踵接地を認めた。その後、急性期病棟退棟時には、右立脚期の踵接地を認めるようになった。発症35日目では、BRSは右上肢、下肢がⅡ、TCT:37点、寝返り、起き上がり、起立は軽介助となった。歩行は、1人介助でKAFOを装着下で30m程度可能となった。

    【考察】 本症例の問題は、装具のサイズが合わず、麻痺側立脚期に膝が崩れ、床反力が更に股関節、膝関節屈曲方向のモーメントを増強させていた。さらに、後方介助では介助者にもたれ後方重心となり、上記屈曲モーメントを助長し、膝折れが生じていた。前方介助の利点は、立脚期に殿部から股関節を固定することで右立脚期に股関節、膝関節伸展モーメントを促せることにある。また、骨盤を中間位に保つことができ、重心が前方に移動し、体幹の伸展が得られやすくなった。殿筋の活動を促通する歩行の反復練習および内部モデルの構築、自動的な歩行制御機構が賦活され、より筋活動が得られることで基本動作の介助量も軽減したと考えられる。上記のことより、備品を使用する際は、装具の特徴と患者の身体特性を考慮した上で介助方法を検討する必要がある。

     なお、今回の報告の限界として歩行速度や筋電図などを用いた客観的な評価を行う事ができなかった。また、COVID-19の拡大に伴い、面会が禁止になったことで家族からの同意が得られず、早期から装具を作成できなかったことが挙げられる。

  • O-008 成人中枢神経②
    狩生 直哉, 戸髙 良祐, 甲斐 祥吾
    p. 8-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 移乗動作は在宅復帰の可否に影響を与え、右半球症状が移乗の自立に関連するとの報告がある。

     今回、右アテローム血栓性脳梗塞を呈した患者を担当した。本症例は左片麻痺に加えて、左半側空間無視、注意障害、感情コントロール低下等の高次脳機能障害を認め、移乗動作の積極的な練習が困難であった。「歩きたい」という主訴に即して、長下肢装具を用いた歩行練習を実施し、移乗動作が見守りで可能となった。その要因について検討したため報告する。

    【症例】 70歳代、男性。右アテローム血栓性脳梗塞を発症し、37病日で当法人回復期リハビリテーション病棟に入院。

     「歩けるようになれば何でもできる」との発言が頻回に聞かれていた。

    【神経学的所見】 入院時のStroke Impairment Assessment Set(以下、SIAS)の下肢項目は1-1-4。Scale for Contraversive Pushing(以下、SCP)は座位で2点。Trunk Control Test(以下、TCT)は24点。

    【神経心理学的所見】 Mini-Mental State Examination(以下、MMSE)は20点であり、図形模写では右側図形の右側のみの描写。Frontal Assessment Battery(以下、FAB)は5点。Trail Making Test Part Aは259秒。その他の検査は測定困難であった。左半側空間無視、注意障害を認め、易怒性が高く、積極的な介入は困難であった。

    【ADL評価】

    座位:頚部は右回旋し、正中位での保持は困難であった。体幹が左へ傾斜した際には手すりの把持がみられた。

    移乗:左側への姿勢の崩れがあり、立ち上がりが困難なため二人介助を要した。

    【介入】 起居や移乗など基本的動作の反復練習は拒否が強く、介入前後の離床と臥床時のみの実施となった。

     歩行練習は受け入れが良好であり、注意障害や半側空間無視による周囲への注意転導を避ける目的に、往来の少ない静かな廊下で長下肢装具を用いた歩行練習を開始した。

     長下肢装具歩行は、15~30m×1~3セットを本人の受け入れが可能な範囲で実施した。装具は当法人の備品を使用した。

     88病日より短下肢装具を併用し、麻痺側立脚期における支持性の向上に伴い、108病日より装具なし歩行へ移行した。

     担当PTによる歩行練習は受け入れが良好であったが、代理スタッフには暴言や暴力が認められた。

    【結果(120病日)】 SIASの下肢項目は3-3-4。SCPは座位にて0.25点。TCTは48点。座位は手すりを把持することで正中位での保持が可能となり、移乗は手すりを使用して見守りで可能となった。

     一方、MMSEは21点、FABは11点と高次脳機能障害は中等度に残存していた。

    【考察】 脳卒中ガイドライン2021では下肢機能、ADLに関しては課題を繰り返す課題反復訓練が勧められる。しかし、本症例は易怒性が高く、移乗の反復練習は困難であった。一方で、長下肢装具を使用した歩行練習は受け容れが良好であった。

     網様体脊髄路は、体幹と両上下肢近位筋の協調的な運動や姿勢を制御するとされており、長下肢装具を使用した歩行練習にて網様体脊髄路の賦活を図った。本症例は、積極的な介入は困難であったが、受け入れ良好であった長下肢装具歩行により、下肢近位筋の協調的な運動や姿勢定位障害の改善に繋がったと考える。

     また、本症例は易怒性が高く、暴言や暴力が認められていた。易怒性への対応は認知障害を軽減する環境調整が前提である。今回、①物理的環境は往来の少ない廊下を選定し、②人的環境は、受け入れ良好である担当PTによるリハビリを中心に実施した。

     以上より、中等度に高次脳機能障害を呈し、易怒性が高く、積極的な介入が困難な本症例においても主訴に沿って、長下肢装具を用いた歩行練習を実施することで、移乗が監視レベルまでに改善したと考えられた。

    【倫理的配慮】 本研究は、当院の倫理委員会の承認(承認番号61)を得て実施した。なお、本人家族へは書面にて同意を得た。

  • O-009 成人中枢神経②
    荒木 翼
    p. 9-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 今回、COVID19感染し、療養中に脳梗塞を発症した左片麻痺患者を担当した。脳梗塞発症後、意識レベルと呼吸状態が悪化し気管切開を施行、呼吸器管理が必要となった。状態が安定せず、抜管に1ヶ月以上を要したこと、隔離措置のため早期の退院調整が行えなかったことにより3ヶ月が経過しての回復期病院へ転院となった。隔離期間中は、早期のリハビリ介入が行えず、廃用症候群を生じていた。廃用症候群の改善と非麻痺側機能強化目的に、歩行量を確保することで介助下での歩行を獲得した。その経過をここに報告する。

    【倫理的配慮・説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、本症例には発表に関しての趣旨を説明した上で、同意を得た。

    【理学療法初期評価】 年齢:60代、性別:男性、診断名:塞栓性脳梗塞、Demand:「歩けるようになって、仕事復帰がしたい。」

     JapanComaScale(以下、JCS):Ⅰ-2、Brunnstrom Stage(以下、Brs):上肢Ⅰ手指Ⅰ下肢Ⅱ、感覚:表在・深部共に重度鈍麻(1/10)、握力(R/L):5/0 ㎏、下腿最大周径(R/L):32/30 ㎝、Functional Independence Measure(以下、FIM):運動44点 認知24点 計68点、基本動作:全介助、歩行様式:長下肢装具(以下、KAFO)にて最大介助

    【経過】 回復期病院転院翌日よりリハビリ介入。介入当初より起立訓練、歩行訓練を中心に実施。起立訓練は50回を目安。歩行訓練は、KAFO装着下で1,000mを目標とした。嚥下状態は問題なく、早期にST終了しPT5単位、OT4単位で介入を行った。介入1週目はKAFO装着下、最大介助にて700~1,000m、KAFO+1本杖にて50m3set実施。介入2週目に、KAFOと短下肢装具(以下、AFO)の併用を開始。4週目に、AFOへ移行し300m~500mを実施。訓練にパワーリハビリテーションを追加。生活面では、病棟ADLに歩行を導入。2ヶ月目にはAFO+1本杖にて700mを介助下で実施。3ヶ月目にはAFO+1本杖にて50mを監視下で歩行可能となる。5ヶ月目に自宅退院。

    【理学療法最終評価】 JCS:清明、Brs:上肢Ⅰ手指Ⅰ下肢Ⅲ、握力(R/L):19.7/0 ㎏、下腿最大周径(R/L):33 ㎝/34 ㎝、FIM:運動59点 認知30点 合計89点、基本動作:起き上がり、座位保持自立、移乗監視、歩行様式AFO+一本杖最小介助、10m歩行:14.7秒 18歩

    【考察】 脳血管障害による機能障害の可塑性は約3ヶ月でプラトーに達すると言われている。本症例は、回復期病院入院時すでに発症から3ヶ月が経過。機能障害へのアプローチより、歩行や起立訓練で運動学習を促進に比重を置いた。

     脳卒中ガイドライン2021では、運動障害に対して、課題に特化した訓練量、頻度の増加が勧められており、歩行機能改善のため、頻回な歩行訓練を行うことを勧められている。本症例においても、KAFOの時期は1回訓練で1,000m、AFOでは500mを目標とした。病棟内ADLに歩行を導入することで歩行量の確保ができたと考える。動作の反復により運動学習、錐体外路系が促進され自動歩行能の強化に繋がったと考察する。COVID19感染の療養時に生じた廃用性筋力低下も訓練量確保により改善を認め、歩行獲得の一助になったと考える。

    【おわりに】 回復期病院において脳梗塞発症3ヶ月が経過した状態からリハビリ介入する機会は少なく、貴重な経験となった。

     脳卒中ガイドラインでは、訓練量の確保や頻度の増加は勧められているが、明確な歩行距離を示した文献は少ない。年齢や性別、疾患の重症度により歩行距離を定めることは難しいと思われるが、一人一人に合わせた歩行量の設定を心がけていきたい。

  • O-010 成人中枢神経②
    野中 裕樹, 藤井 廉, 玉利 誠, 水田 直道, 蓮井 成仁, 田宮 史章, 田中 慎一郎
    p. 10-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 脳卒中後症例において、拡散テンソルトラクトグラフィー(Diffusion tensor tractgraphy;DTT)を用いて仮想的に描出された皮質脊髄線維(Corticospinal tract;CST)と皮質網様体線維(Corticoreticular tract;CRP)の損傷程度を定量的に評価することは、歩行能力の予後を高い精度で予測し得ることが報告されている。しかしながら、先行研究の多くで着眼している歩行能力は「歩行自立度」であり、脳卒中後症例の歩行リハビリテーションで問題となりやすい「異常歩行パターン」との関連は不明である。そこで本研究では、脳卒中後症例に特有な異常歩行パターンの一つである歩行の左右非対称性に着目し、CSTとCRPの損傷程度との関連性について分析した。

    【方法】 対象は脳卒中片麻痺患者11例であった。測定課題は最大速度によるトレッドミル歩行とし、三次元動作解析装置(KinemaTracer、キッセイコムテック社製、CCDカメラ:4台、計測周期:60 ㎐)を用いて座標データを取得した。歩行の左右非対称性の指標として、左右の遊脚期時間からSymmetry Ratio(SR)を算出した。また、DTTは1.5T超電導MRI装置(ECHELON RX, HITACHI社製、撮像条件:TE 90ms, repetition time 4,900ms, slice thickness 5 ㎜, FOV 23.0×23.0 ㎝, recon matrix 256×256, freq/phase 96×96, voxel size 2.395×2.395×5.0 ㎜, bandwidth 250k㎐, b-value 500s/㎜2, number of diffusion-encoding directions 13)にて拡散テンソル画像を撮像し、DSI-studioを用いて両側のCSTとCRPを描出した。描出の方法について、CSTの関心領域(ROI)は中脳大脳脚、CRPのROIは中脳被蓋に設定し、それぞれの線維追跡(閾値:FA 0.2, angular 50)を行った。この際、明らかにROIから逸脱した軌跡を任意にて削除しながら、CSTとCRPを同定していった。その後、CSTとCRPそれぞれのFractional Anisotropy(FA)値とFA値の左右比(FA比)、Fiber Volume(FV)値とFV値の左右比(FV比)をDTTパラメーターとして算出した。加えて、臨床評価指標として、FMA-LE(運動麻痺)、FMA-sensory(感覚障害)、TIS(体幹機能)、Mini-BESTest(バランス)、mGES(歩行自己効力感)を測定した。統計は各変数の正規性を確認した後、Spearmanの順位相関係数を用いて、SRとDTTパラメーターならびに臨床評価指標との関連性を分析した。

    【結果】 SRはFMA-LE(r=-0.72, p<0.05)とCRPのFV比(r=

    -0.74, p<0.05)に有意な負の相関を認めた。一方、その他の変数に有意な相関は認めなかった。

    【考察】 より左右非対称な歩行パターンを呈する症例ほど、損傷側CRPの損傷程度が大きいことが示された。CSTは四肢遠位筋の運動を、CRPは体幹と四肢近位筋の運動を司り、特にCRPは協調的な姿勢・歩行制御への関与が大きいとされる。歩行の左右非対称性は様々な要因(運動麻痺や痙性、バランスなど)が複雑に関与するが、その説明要因の一つとして、CRPの損傷によって生じる歩行制御の変調を反映した結果、左右非対称な歩行に至っている可能性が考えられる。本研究より、歩行の左右非対称性とCRPの損傷程度の関連を評価することは、歩行障害の病態解釈や介入指針を立案する上で有益な情報になると考えられた。

    【倫理的配慮】 ヘルシンキ宣言に基づき、対象には十分な説明を口頭で行い、同意を得た。

  • O-011 成人中枢神経②
    戸髙 良祐, 狩生 直哉, 梶山 哲, 阿南 雅也
    p. 11-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 脳卒中後片麻痺患者の歩行において、体幹運動は歩行速度や下肢運動機能と関連することが報告されている。そのため、歩行評価は体幹運動も含めて行う必要がある。特に、発症から6ヶ月以内のような運動機能が回復しやすい時期において、体幹運動の縦断的変化や、歩行速度などのパラメータとの関係を検証することはリハビリテーションプログラムを立案する上で重要である。しかしながら、これまでの報告では体幹運動を含めた縦断的変化に関する報告は少ない。

     そこで、本研究の目的は回復期リハビリテーション病棟に入院中の脳卒中後片麻痺患者を対象に、体幹運動の縦断的変化を検証するとともに、歩行速度およびTrailing limb angle(TLA)との関連を明らかにすることとした。

    【方法】 対象は回復期リハビリテーション病棟に入院中の初発脳卒中後片麻痺患者16人とした。課題動作は直線歩行路上の快適歩行とした。その際、麻痺側大転子および第5中足骨頭にマーカを貼付し、第3腰椎に加速度計を取り付けた。また、麻痺側より矢状面像のビデオ撮影を行った。ビデオ映像と加速度信号から、歩行速度、麻痺側下肢のTLA、体幹動揺性の指標であるRoot mean square(RMS)、体幹規則性の指標であるAuto correlation(AC)を定量化した。RMSおよびACは左右(x)・鉛直(y)・前後(z)にて算出し、RMSは歩行速度の2乗値で除して正規化した。計測のタイミングは、担当理学療法士が見守り歩行獲得(Functional ambulation categories:3)を確認した時点より(T0)、1ヶ月後(T1)、2ヶ月後(T2)の計3時点とした。

     統計解析は、各指標の縦断的変化を一元配置分散分析反復測定法またはFriedman検定にて検証した。多重比較はBonferroni法を使用した。また、各時点の歩行速度およびTLAと体幹運動の相関関係を、Pearsonの積立相関係数またはSpearmanの順位相関係数にて検証した。有意水準は5%とした。

    【結果】 有意な群間差を認めた項目は、歩行速度(p<0.01, η2=0.24)、RMSの全成分(p<0.01, r=0.49~0.55)、ACy(p<0.01, η2=0.25)であった。歩行速度とACyはT0と比較してT1およびT2で有意に向上した(p<0.01)。RMSの全成分はT0と比較してT1およびT2で有意に低下した(p<0.05)。また、歩行速度は全期間でTLA(p<0.01, r=0.59~0.79)およびACy(p<0.01, r=0.56~0.72)と有意な正の相関を示し、RMSの全成分と有意な負の相関を示した(p<0.05, r=-0.54~-0.9)。TLAはT0でRMSの全成分(p<0.05, r=-0.65~-0.72)、T1でRMSxおよびRMSy(p<0.05, r=-0.75~-0.86)、T2でRMSx(p<0.05, r=-0.53)と有意な負の相関を示した。

    【考察】 脳卒中後片麻痺患者の歩行は、前後および左右への体幹運動増加や非対称性が生じやすい。そのため、見守り歩行獲得時にRMSが高く、ACが低い状態は、歩行時の体幹運動が不安定であり、バランスが十分に保たれていなかったことを示唆している。T0からT1にかけて体幹運動が安定した結果、RMSの低下やACyが向上したものと考える。

     また、体幹運動の不安定性は、歩行速度やTLAの減少と関連することが報告されている。したがって、体幹運動の安定性向上は、歩行パラメータの改善に寄与することが示唆された。

     以上より、RMSおよびACyは歩行状態の変化を反映し、歩行速度やTLAといった指標と関連することから、歩行機能の改善の指標になりうる可能性がある。

    【倫理的配慮】 本研究は、当院の倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:22)。また、ヘルシンキ宣言を遵守したうえで事前に対象者へ十分な説明を行い、同意を得た。

一般演題3[ 義肢装具 ]
  • O-012 義肢装具
    臼元 勇次郎, 中井 雄貴
    p. 12-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 従来の研究では、インソールの装着は一般的に重心動揺の減少に有効であるとされている。これはインソールが個々の足底部の形状を補正し、足部の安定性を改善し、重心移動の制御を容易にするためである。ただし、インソールが適切でない場合、重心動揺が増加する可能性があることも報告されている。

     そのような問題を解決するため、熱形成によって作製するインソールが開発された。このインソールは、足構造に合わせて熱を加え、形状を変化させることができるため、個人に合わせた調整が容易に行える。しかし、このようなインソールが重心動揺に与える影響に関しては、まだ研究が限られている。

     本研究では、健常者を対象に個々の足底部の形状に合わせて作製した熱形成インソールと、既製のインソールを装着した場合の片脚立位および足踏み動作における重心動揺量を比較する。本研究の目的は、熱形成インソールが重心動揺に及ぼす影響について、より詳細かつ客観的な知見を提供することである。

    【対象】 熱形成インソールの作製を希望した健常成人女性6名(平均年齢:20.8±0.4歳、平均身長:162.3±6.7 ㎝、平均体重:57.9±4.9 ㎏、BMI:22.1±2.5 ㎏/m2、足長:24.2±0.6 ㎝)。選択基準は、6か月以内の整形外科的疾患の既往の無い者とした。

    【方法】 総合重心動揺解析システム(バランスコーダ、BW-6000、アニマ株式会社)を用い、2種類のインソールで片脚立位と足踏み動作の2つの課題を行った。熱形成インソールは対象者の足部に合わせて機械で熱形成したもの、既製のインソールは靴に元々入っているものを使用した。測定回数と時間は、片脚立位は左右3回ずつ30秒間測定し、足踏み動作は3回30秒間測定した。両課題は全て開眼にて行い、視線は目線の高さに合わせた2 m前方の壁面につけたマーカーを注視するように指示した。1回測定ごとに1分間休憩させた。測定順序はランダムとした。測定項目は、総軌跡長、単位軌跡長、外周面積、左右実効値を採用した。

    【統計解析】 熱形成と既製のインソールの重心動揺の違いを比較した。正規性の検定はShapiro-Wilk検定を用い、正規性の有無に従い対応のある差の検定(対応のあるt検定、Wilcoxonの符号付順位検定)を実施した。統計解析には、改変Rコマンダー(Ver 4.2.1)を使用し、有意水準は5%とした。

    【倫理的配慮】 厚生労働省の「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に従い、全ての対象者に本研究内容・方法を事前に説明し、研究協力への同意を書面により得た。

    【結果】 片脚立位では、総軌跡長、単位軌跡長、外周面積、左右実効値において2種類のインソールで有意差は認められなかった。足踏み動作では、総軌跡長、単位軌跡長、外周面積に有意差は認められなかったが、左右実効値においては既製インソールが8.24±0.73 ㎝、熱形成インソールが7.84±0.84 ㎝と有意に減少した(p<0.05、効果量r=0.84大)。

    【考察・まとめ】 本研究の結果から、熱形成インソールの装着により、足踏み動作の左右動揺を減少する事が示された。足踏み動作は片脚立位と比べ左右への重心移動を伴う動きである。熱形成インソールで個人の足構造に合わせた補正が接地時の左右動揺を減少させたと考える。先行研究においても、重心移動を伴う片脚スクワットや足踏み動作で重心動揺の改善がみられた。従って、熱形成インソールは、足部の変形がある患者の歩行時の動揺制御に有効かもしれない。今後は、熱形成インソールが重心動揺に与える縦断的な効果や下肢疾患を呈する患者を対象に検証していきたい。

  • O-013 義肢装具
    野﨑 桜陽, 三浦 恭平, 松尾 直樹, 小川 健治
    p. 13-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 今回、右被殻出血により重度左片麻痺、高次脳機能障害を呈した症例を担当した。本症例は入院時、30度の足関節底屈拘縮を呈しており、通常の下肢装具では適合できず、立位・歩行練習に難渋した。今回、装具に踵補高を付ける工夫を行い、立位や歩行時の麻痺側下肢への荷重や下腿前傾を促せたことにより、立位・歩行能力の改善を認めたため、その有用性について報告する。

    【症例紹介】 50歳代女性、診断名:右被殻出血、障害名:左片麻痺、高次脳機能障害(注意、記憶、左半側空間無視)、失語症、入院前ADL:自立、現病歴:X日、自宅療養中に発症。A病院へ救急搬送され、すでに除脳姿勢を呈していた。頭部CTにて右被殻出血と診断。血腫除去術を施行。X+34日にリハビリテーション目的にて当院入院。

    【入院時評価】 JCS:Ⅱ-20、Br-stage:上肢Ⅱ手指Ⅱ下肢Ⅱ、左上下肢の表在感覚:鈍麻、深部感覚:低下、MAS:上肢4、下肢3、ROM:足関節背屈(Rt/Lt)20°/-30°、握力(Rt/Lt):9.9 ㎏/不可、SCP6点、TCT:12点、立位保持:最大介助、移乗:最大介助、歩行:全介助、HDS-R:3点、運動FIM:13点、認知FIM:9点。

    【経過】 入院時より麻痺側下肢は内反尖足位で拘縮しており、立位や歩行において麻痺側のつま先しか接地せず、歩行では膝折れが生じていた。踵接地を可能とし、立位や歩行時に麻痺側下肢へ荷重することや下腿前傾と股関節伸展を引き出すことを目的として、X+53日、主治医、義肢装具士とKAFO作成を検討した。膝継手はリングロック、足継手はダブルクレンザック、ハイブリットタイプとした。立位で膝伸展し、下腿後傾を制限した状態で床面から踵までの高さに合わせ、踵に4.5 ㎝の補高を貼付した。1 ㎝ずつ補高の高さが調整できるように、マジックテープで着脱可能にした。また、脚長差を是正するため、左右の上前腸骨棘の高さを評価し、非麻痺側の靴の足底に5 ㎝の補高を行った。週に1回、立位や歩行時の下腿後傾が生じないことを評価した上で補高を除去する方針とした。X+67日装具と靴が完成。足継ぎ手の背屈制限はフリーとし、底屈角度は下腿が床面に対して垂直になるように調整した。装具と靴の使用により、両下肢伸展位での立位が可能となり、立位保持が安定した。また、歩行時もICの踵接地と立脚後期の股関節伸展が可能となり、麻痺側立脚期の膝折れが消失した。加えて、1回の歩行距離が延長し、練習量を徐々に増やすことができた。X+91日、補高を1 ㎝除去した上で、下腿後傾が生じなくなったため、1 ㎝除去した。脚長差を調整するため、非麻痺側の靴の補高を1 ㎝除去した。入院後3か月評価(X+120日)JCS:Ⅰ-2、Br-stage:上肢Ⅱ手指Ⅱ下肢Ⅱ、ROM:足関節背屈(Rt/Lt)20°/-20°、握力(Rt/Lt):18 ㎏/不可、SCP0点、TCT:74点、立位保持:手すり使用し見守り、移乗:手すり使用し見守り、歩行:補高を評価したが、下腿後傾が生じたため、調整しなかった。AFOとQ-caneを使用し片手での腋窩介助、運動FIM:35点、認知FIM:12点。

    【考察】 今回、被殻出血後、重度左片麻痺、底屈拘縮を呈した症例に対して、装具に踵補高の工夫を行ったことで、即時的には立位で床面に対し下肢や体幹を垂直に保てるようになり、立位保持の安定性が向上した。また、踵接地や下腿前傾、股関節伸展が促され、歩行率の改善、歩行練習量の増加が図れた。長期的には歩行能力だけでなく、足関節ROMの改善も図れた。踵補高の使用により、立脚後期で下腿前傾することで、下腿三頭筋が伸張され、足関節ROMの改善につながったと考える。姿勢アライメントの修正や歩行量増加により立位や歩行能力の改善につながったことから、足関節底屈拘縮に対する踵補高を貼付した装具の工夫は有用であったと考える。

    【倫理的配慮】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき、対象者に研究内容を十分に説明し承認を得た後に実施した。

  • O-014 義肢装具
    大渕 堅誠, 松永 敏江, 野口 大助, 濵崎 寛臣, 三宮 克彦, 徳永 誠
    p. 14-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 脳卒中治療ガイドライン2021において歩行補助ロボットが推奨されており、なかでもウェルウォークWW-1000(以下、WW)は、多数歩歩行が可能で歩行の運動学習を効率化し、重度片麻痺患者の歩行能力を改善する効果が報告されている。今回3度目の脳出血を発症し、座位保持困難な両側片麻痺患者に対して約10週間WWを行い、退院時の自宅内歩行が4点杖で自立可能となった症例を経験したため報告する。

    【症例紹介】 10年前に右被殻出血、3年前に左被殻出血の既往歴があり、今回左視床出血を発症した40代男性。第39病日に急性期病院から当院回復期リハ病棟へ入棟した。病前生活は軽度の注意障害はあるが、杖なし歩行で就労していた。

     入院時の評価は下肢Brunnstrom recovery stage(R/L):Ⅳ/Ⅵ、右下肢Fugl-Meyer Assessment(以下、FMA):131/226点で運動失調を認めた。Stroke Impairment Assessment Set(以下、SIAS):右下肢触覚0点・位置覚0点、腹筋力0点・垂直性0点、Trunk Control Test(以下、TCT):24/100点、体幹筋は低緊張、頸部・体幹が直立保持できず座位・立位保持は困難であった。Functional Ambulation Categories(以下、FAC):0点、Berg Balance Scale(以下、BBS):2点。Functional Independence Measure(以下、FIM):運動項目16点、認知項目18点、合計34点で移動は車椅子介助。高次脳機能障害は軽度の注意障害を認めた。

    【経過】 入院当初から右下肢に長下肢装具を使用し後方介助で歩行を試みたが、体幹と麻痺側下肢のコントロールに難渋し歩行練習が困難であったため、WWを使用した歩行練習を試みた。開始時の免荷量は体重の20%、ロボット脚の膝伸展アシスト10、振り出しアシスト6の最大アシストとし、1日の歩行距離は40mであった。正面モニターに前額面動画を映し姿勢をフィードバック(以下、FB)した。実施期間は第55病日から第122病日の約10週間、頻度は40分/日、3回/週で実施した。

     WW開始時は頸部体幹の姿勢保持、左立脚時の左側への重心移動、右遊脚期の振り出しが困難であり、WW上での歩行が困難であった。体重免荷と理学療法士が重心移動を介助することで、難易度を調整し歩行運動を成立させた。開始4週で左右の重心移動が軽介助で可能となり体重免荷を終了した。この時期の1週間の総距離は約300mであった。次にWW上で介助なし歩行ができることを目標とし、FBでの自己修正を学習課題とした。前額面のFB画面に垂直線を表示し、右立脚時の過度な骨盤の右側方移動と体幹左側屈を自己修正するよう教示した。その後、左側への重心移動がスムーズとなり、つま先離地困難の出現頻度が減少し、介助なしでWW歩行が可能となった。段階的にロボット脚のアシスト量を漸減し、WW終了時は膝伸展・振り出しアシストは4、歩行距離は300m/日、1週間の総距離は約860m可能となった。

     終了時の評価は、下肢BRS(R/L):Ⅳ/Ⅵ、FMA:164/226点、SIAS:右下肢触覚1点・位置覚1点、腹筋力3点・垂直性3点、TCT:100点。BBS:40点、FAC:2点、FIM:運動項目70点・認知項目32点・合計102点、10m歩行時間は34.1秒(25歩)であった。平地歩行は右下肢に両側金属支柱付き短下肢装具を装着し、4点杖を使用した歩行が軽介助となった。第173病日に自宅退院となり、退院時の10m歩行時間は22.2秒(22歩)、自宅内移動手段は4点杖を使用し歩行自立可能となった。

    【考察】 座位保持困難な両側片麻痺患者に対して、適切な難易度調節と姿勢FBが可能なWWを用いて歩行練習を行った結果、バランス、歩行能力が改善した。WWは体幹機能が安定しない両側片麻痺患者の歩行能力を改善する一助になると考える。

    【倫理的配慮】 本症例に対して、目的と個人情報の取り扱いに十分に説明を行い書面にて同意を得た。

  • O-015 義肢装具
    鈴木 雄太, 平戸 大悟, 浦辺 幸夫, 白川 泰山
    p. 15-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 脳卒中後患者の歩行障害に対して、Hybrid Assistive Limb(HAL)による歩行練習が行われている。HALは脳卒中後患者の歩行能力を改善するとの報告が散見される一方で、最新のシステマティックレビューでは歩行能力の改善に対するHALの有効性は示されていない(Takiら、2022)。これは、脳卒中後患者の臨床症状や経過が多様であることに起因すると考えられ、HALを用いた歩行練習により、歩行能力の改善が得られる患者とそうでない患者の特徴を明確にする必要がある。本研究の目的は、HALによる歩行自立度の改善に影響する要因について記述的に検討することとした。

    【方法】 対象は回復期の脳卒中後患者5例(症例A:80歳代前半、女性、延髄梗塞、症例B:70歳代前半、女性、皮質下出血、症例C:80歳代後半、女性、側頭後頭葉梗塞、症例D:80歳代後半、女性、橋梗塞、症例E:70歳代前半、女性、内包後脚脳梗塞)とした。症例Cは両側変形性膝関節症および労作性狭心症、症例Eは両側変形性膝関節症が併存していた。HALを使用した歩行練習を1回あたり30分、週3~4回、8週間実施した。介入前、4週後、8週後のFunctional Ambulation Category(FAC)を確認した。また、介入毎の歩行練習距離を記録した。HALによる歩行自立度の改善に影響する要因として、HAL介入開始までの日数、介入前のFugl-Meyer Assessment下肢運動項目(FMA)、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を測定した。なお、本研究はマッターホルンリハビリテーション病院倫理委員会の承認を得て実施した(MRH22001)。

    【結果】 介入前、4週後、8週後のFACはそれぞれ、症例A:2→3→4、症例B:1→3→3、症例C、D、E:1→2→2であった。介入期間中の歩行練習距離は、症例A:462.9±215.7m、症例B:240.1±130.5m、症例C:191.0±80.2m、症例D:174.4±52.6m、症例E:172.0±79.5m、であった。HAL介入開始までの日数は、症例A:39日、症例B:24日、症例C:26日、症例D:31日、症例E:43日であった。介入前のFMAは症例A:23点、症例B:15点、症例C:20点、症例D:18点、症例E:17点であり、HDS-Rは症例A:26点、症例B:30点、症例C:22点、症例D:14点、症例E:28点であった。

    【考察】 症例AおよびBでは8週間の介入により歩行自立度が監視レベル以上に改善した。症例Aは運動麻痺の程度が最も軽度であり、最も多くの歩行練習を実施できた。症例Bは運動麻痺の程度が最も重度であったが、認知機能が良好で、より早期に介入を開始できたことで歩行自立度の改善につながったと考えられる。症例C、D、Eでは歩行自立度の改善はみられたが、介助を要するレベルにとどまった。症例Cは運動麻痺の程度は中等度であり、早期に介入が開始できたが、併存した両側変形性膝関節症および労作性狭心症により歩行練習距離を伸ばすことが困難であった。症例Eも同様に、両側変形性膝関節症に起因する歩行時痛の影響により、歩行練習距離の増加が困難であった。症例Dは重度の運動麻痺および認知機能の低下がみられ、歩行練習距離の増加が困難であった。

    【まとめ】 HALを使用した歩行練習による歩行自立度の改善には、介入開始までの日数や運動麻痺の程度よりも、認知機能の低下や歩行練習に影響する併存疾患の存在が影響する可能性が考えられる。

  • O-016 義肢装具
    荒牧 直生, 田邉 紗織, 大田 瑞穂
    p. 16-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 歩行における推進力にはTrailing Limb Angle(以下、TLA)が必要とされる。今回、大腿切断後の義足歩行獲得に向け、三次元動作解析装置を用い運動学・運動力学的評価を行った結果、TLAの低下を認めた。TLAの改善目的に股関節機能改善と動的立位能力向上の理学療法を実施した結果、歩行能力が向上したため、義足歩行患者におけるTLAの改善と歩行能力について検討することを目的とする。

    【対象】 60歳代男性、交通事故による左大腿切断。術後27日目に当院回復期リハビリテーション病棟に入院。術後63日目に大腿義足作成(ソケット:吸着式、膝継手:3R106多軸空圧膝継手、足部:1C30トライアス)。受傷前ADLは独歩にて自立。特記すべき既往歴や併存疾患なし。

    【説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に順守し、対象者に口頭にて研究の趣旨を説明し同意を得ており、当院の倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:22-271)。

    【経過】 術後81日目より義足での立位保持練習や歩行練習を開始した。術後128日目杖歩行見守り。運動学・運動力学的評価は三次元動作解析装置(VICON社製VICONMX・床反力AMTI社製6枚)を用い計測した。歩行速度:0.570m/秒、歩幅:0.493m。義足側、床反力:前方成分最大値0.028N/㎏、関節モーメント(以下、関節M)、足関節底屈M:最大値0.60Nm/㎏、荷重応答期(以下、LR)の股関節外転M:最大値0.065Nm/㎏、伸展:最大値0.223Nm/㎏、体幹側屈角度:義足側へ4.6度、TLA:3.6度。身体機能評価、左股関節ROM:屈曲105度、伸展10度、外転35度、内転10度、徒手筋力テスト(以下、MMT):股関節屈曲4、伸展・外転3。歩容:立脚期に体幹が義足側へ側屈。

     理学療法は、股関節の機能向上と下肢の支持性・動的可動性の向上を目的に、①体幹正中位閉脚位保持し視覚的フィードバックと固有感覚を用いた左右荷重練習、②義足側下肢を前方にしたstep肢位での同側上肢を挙上による荷重練習を行った。術後137日目屋内杖歩行自立、術後156日目屋外杖歩行自立。歩行速度:0.679m/秒、歩幅:0.519m、床反力:前方成分最大値0.043N/㎏、関節M、足関節底屈M:最大値0.073Nm/㎏、LRの股関節外転M:最大値0.105Nm/㎏、伸展M:0.209Nm/㎏、体幹側屈角度:義足側へ1.8度、TLA:7.94度。左股関節ROM:股関節屈曲115度、伸展10度、外転40度、内転15度、MMT:股関節屈曲5、伸展・外転4。歩容:立脚期の義足側への側屈はみられるも減少。

    【考察】 歩行における下肢の推進力にはTLAと足関節底屈筋群の活動性が必要である。しかし、義足歩行では足関節底屈筋群による推進力は得られないため、TLAが改善することが求められる。股関節の伸展運動が立脚後期に出現するためには、臼蓋と大腿骨骨頭の適合性を得る必要がある。今回、運動学・運動力学的評価の結果よりLRの股関節外転Mの低下が明らかとなった。股関節外転Mの低下は股関節伸展運動を阻害する一要因と考え、股関節外転筋の筋活動を促し股関節の安定化を図り、次にLRを意識した股関節伸展運動を誘発する理学療法を実施した。結果、歩行における運動力学的因子の値は向上し、筋力の増大を認めた。さらに、股関節外転Mは増大したものの、股関節伸展Mには変化を認めなかったことから、股関節外転M向上に着目した理学療法は、股関節の安定化とそれに伴う股関節伸展運動の運動学習を可能にしたことが歩行能力向上に有効であったと推察する。結果、立脚期の股関節伸展を拡大させ、TLAが増大したことで、義足歩行においても足関節Mの増大を可能にした。それに伴い床反力前方成分が増大し歩行速度は向上し、杖歩行自立獲得に至ったと考える。

  • O-017 義肢装具
    桂田 智基, 片寄 慎也, 飛永 浩一朗, 大田 瑞穂
    p. 17-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 脳血管障害患者の歩行能力低下の一要因としてフォアフットロッカー(以下、FR)機能低下が挙げられる。今回、北海道科学大学昆らが考案したFRを構築する逆オメガ形状カーボンプレートインソール型装具(以下、ROSI:Reverse Omega Shoe Insole)を、左変形性膝関節症(以下、膝OA)を有する左片麻痺患者の歩行練習に用いた結果、歩行速度に改善を認めたため、ROSIの有用性について検討することを目的とする。

    【症例紹介】 アテローム血栓性脳梗塞(右中大脳動脈領域)発症した60歳代女性。発症後22病日目に当院回復期リハビリテーション病棟へ入院、153日間理学療法を実施した患者。併存疾患は左膝OA(発症前は屋外独歩自立)。理学療法評価は研究開始時点でFugl-Meyer Assessment下肢運動項目(以下、FMA):23/34点、基本動作:自立、歩行:T字杖・踵くりぬき型短下肢装具(以下、AFO)、膝装具(OA-GX)で屋内歩行自立、屋外歩行軽介助、歩行時痛なし。MMSEは30/30点、高次脳機能障害は認められなかった。

    【倫理的配慮】 本研究は、症例の同意と本法人研究倫理審査委員会の承認(承認番号:23-275)を得た。

    【方法】 AB型研究デザインを用いた。①A期:麻痺側のインソールにROSIを用いた歩行練習期間(発症後121日から3週間)、②B期:ROSIを除去した歩行練習期間(発症後142日から3週間)、計6週間とした。A期・B期ともにT字杖、AFOと左膝装具を装着し歩行練習を行った。評価はA期前、A期後、B期後の最終日に3次元動作解析装置(VICON社VICON MX)と床反力計(AMTI社)を用い歩行解析をT字杖、AFO、左膝装具着用の条件で計測した。評価指標は歩行速度・ステップ長、立脚後期の床反力進行方向成分(推進力)、足関節の角度、モーメント、パワー、Tailing Limb Angle(TLA)、前遊脚期・遊脚期の膝関節屈曲角度の最大値を麻痺側下肢で算出し、比較検討した。

    【結果】 歩行速度(m/sec):A期前0.56、A期後0.62、B期後0.62、麻痺測ステップ長(m):0.49、0.52、0.52、非麻痺測ステップ長(m):0.41、0.44、0.46、推進力(N/㎏):0.041、0.067、0.046、足関節底屈角度(deg):6.7、7.7、5.8、足関節底屈モーメント:0.88、0.85、0.86、足関節求心性パワー(W/Kg):0.53、0.69、0.57、TLA(deg):4.8、8.3、7.2、前遊脚期膝関節屈曲角度(deg):47.3、45.5、45.9、遊脚期膝関節屈曲角度(deg):48.1、47.9、47.5であった。また、FMAは25点、屋外歩行はT字杖、AFO、左膝装具にて見守りレベルとなった。

    【考察】 昆ら(2022)は脳卒中片麻痺患者を対象に背屈制動付きAFOとROSIを併用することによりFR機能が改善したと報告している。今回、併存疾患にFR機能の低下が生じるとされる膝OAを麻痺側に有している片麻痺患者にROSIを用いた。本症例においても、ROSIを用いたA期では、推進力、足関節底屈角度・求心性パワー、TLAが向上し、歩行速度とステップ長の向上が認められた。これによりAFOとROSIの併用による効果が示唆された。しかし、B期後では、歩行速度とステップ長、TLA以外の数値がROSI導入前の計測値と同等の値となっていることから、ROSIによる改善依存度が高いことが示唆された。今回、B期後も歩行速度が維持された要因として、ROSI装着により一時的に得られた推進力が、ステップ長、TLAを増大させ、歩行速度の向上を促し、さらに3週間の継続的介入による運動学習が影響したことと推察した。つまり、ROSIはFR機能を補助し歩行能力向上に寄与していたが、OAを有する患者においては足部からの運動連鎖の機能不全にも着目した理学療法が必要であることが考えられた。

     今後、症例数を増やし、多角的な因子からROSIの有用性を検証することが必要である。

一般演題4[ 成人中枢神経④ ]
  • O-018 成人中枢神経④
    小原 卓博, 宮田 隆司, 大濵 倫太郎, 宮良 広大, 黒仁田 武洋, 倉内 健生, 下堂薗 恵
    p. 18-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 運動失調とは協調運動の障害であり、運動や動作を円滑に行うため多数の筋肉が調和を保って働くことができなくなった症状である。今回、小脳腫瘍出血後の運動失調の影響でバランス能力の低下や歩行障害を呈した回復期患者に対し、種々の治療介入にもかかわらず立位バランス能力の向上に難渋した。その原因として足底の感覚障害や下肢筋群の協調的な収縮不全を考え、全身振動刺激装置を用いた足底への振動刺激やリズミック・スタビリゼーションを治療に導入したところ、顕著な立位バランス能力の向上を得た症例を経験したため報告する。

    【症例】 患者は70代女性、診断名:小脳腫瘍内出血、障害名:左片麻痺、運動失調。第21病日に当院リハ病棟へ入棟。初期評価(第21病日):MMSE:30点、左片麻痺:BRS.Ⅵ、表在感覚:大腿4/10、下腿4/10、足底4/10、セメスワインスタイン・モノフィラメント知覚テスター(以下、SWM):防衛知覚低下(4.31F㎎)、深部感覚:股関節4/4、膝関節3/4、足関節2/4、足指1/4、麻痺側MMT:股屈曲3、股外転2、膝伸展4、足背屈3、SARA:23点、SPPB:0点、BBS:9点、基本動作:軽介助、FAC:1、FIM:54点。理学療法は1時間/日、週7日とし、筋力増強練習、振動刺激併用下での促通反復療法、歩行練習を実施した。

    【経過】 第49病日時点で表在感覚:大腿4/10、下腿4/10、足部4/10、SWM:触覚低下(3.61F㎎)、SARA9.5点と運動失調が残存し、立位や歩行に介助を要した。そこで、1)筋力増強練習、2)促通反復療法などの機能練習に追加して、3)車椅子座位にて全身振動刺激装置を用いた足底への振動刺激(35 ㎐、60秒を3セット)、4)リズミック・スタビリゼーション(介入姿勢は両膝立ち位、体幹・骨盤に各方向から2~3秒抵抗運動を加えるのに対して患者は姿勢を保持)を計30分、5)歩行練習は立位バランス・歩行能力に合わせて、平行棒内、歩行器、独歩練習と段階的に難易度調整を行う練習を30分実施し、1)~5)で合計60分実施した。第21(入棟時)、49、63、107病日(退院時)の経過は、表在感覚(足底):4、4、6、9/10、SMW:防衛知覚低下(4.31F㎎)、触覚低下(3.61F㎎)、触覚低下(3.61F㎎)、触覚正常(2.38F㎎)、深部感覚:足関節2、2、4、4/4、足指1、2、4、4/4、麻痺側MMT(股屈曲/外転/足背屈):3/4/4/4、2/3/4/4、3/4/4/4、SPPB:0、2、6、12点、SARA:23、9.5、6、3点、BBS:9、24、41、52点、FAC:1、2、3、5点、FIM:54、91、117、124点であった。

    【考察】 本患者においては基礎疾患が脳腫瘍であるにもかかわらず良好な退院時評価を得た。そのメカニズムとしては、定期的に種々の機能における詳細な評価のもと、足底感覚障害、運動失調による立位バランス能力の低下に対して、足底への振動刺激により、足底機械受容器の活性化(Presznerら、2012)や姿勢制御能力の向上(Özvarら、2020)が促されたこと、加えてリズミック・スタビリゼーションにて動筋・拮抗筋の等尺性収縮を交互に行なうことで(柳澤ら、2011)、協調的な収縮が得られやすくなり(Caycoら、2017)、同時収縮による骨盤や下肢の固定が可能となり、最終的に立位バランス能力の向上に繋がった可能性を考えた。

    【倫理的配慮(説明と同意)】 患者には定期評価や介入方法の目的、症例報告について十分説明し、文書による承諾を得て実施した。

  • O-019 成人中枢神経④
    佐藤 圭祐, 湧上 聖, 岩田 剛, 尾川 貴洋
    p. 19-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 移動能力の回復は、脳卒中後のリハビリテーションの目標の一つである。移動能力回復の予測因子には様々報告があるが、特にバランス機能は脳卒中後の患者における移動能力の最も一般的な指標である。バランス機能の低下は移動能力の低下や転倒の増加と関連していることから、バランス機能の向上は重要である。

     脳卒中後の患者の多くに低栄養を認める。脳卒中後の低栄養はADLや体幹機能の回復に悪影響を及ぼすことが報告されているが、低栄養とバランス機能回復の関連については明らかになっていない。もし低栄養がバランス機能回復の低下と関連するのであれば、低栄養を改善する取り組みはバランス機能やADLの獲得に有効である。そこで、本研究では、脳梗塞後の患者の低栄養がバランス機能の改善に与える影響を検討することを目的とした。

    【方法】 本研究は回復期リハビリテーション病棟入院患者を対象にした後ろ向き研究である。対象者は65歳以上の脳梗塞後の患者とした。調査項目は基本属性に加え、栄養状態(MNA-SF、GLIM)、バランス機能(BBS)、脳梗塞の重症度(NIHSS)、FIM、入院期間、1日あたりのリハビリテーション時間(分/日)を評価した。

     入院時のGLIM基準をもとに低栄養群と対照群に群分けし、群間比較を行った。また、BBSの変化量(退院時BBS-入院時BBS)に対し、低栄養の他に年齢、入院時BBS等を説明変数とした重回帰分析を行った。説明変数は先行研究でバランス機能に関連すると報告されている変数を選択した。統計処理にはRを使用し、有意水準は5%とした。

    【結果】 対象者は304名、平均年齢は79.2±8.1歳、男性173名(56.9%)、女性131名(43.1%)、低栄養群は114名(37.5%)、対照群は190名(62.5%)だった。低栄養群は対照群と比較して、高齢であり(81.5±8.0 VS. 77.9±7.9、P<0.001)、入院時NIHSSが高く(8[4-14]VS. 4[2-8]、P<0.001)、入院時BBSが低かった(16.0±17.1 VS. 28.3±18.4、P<0.001)。また、低栄養群は対照群と比べて、退院時BBS(24.2±19.6 VS. 40.0±16.9、P<0.001)、BBS変化量が小さかった(8.1±8.8 VS. 11.7±11.7、P=0.005)。さらに、低栄養群は対照群と比べて、入院期間は有意に長かったが、リハビリテーション量に差はなかった。

     交絡因子で調整したBBSの変化量に対する重回帰分析の結果、入院時低栄養は、BBSの変化量の低下と関連していた(B:-2.988、95%CI=-5.481 to -0.495、P=0.019)。

    【考察】 入院時の低栄養は、脳梗塞後の患者のBBS変化量の低下と関連していた。いくつかの先行研究では、低栄養と転倒のリスクや体幹機能の回復については検討されているが、低栄養がバランス機能の回復に及ぼす影響について検討された報告はない。脳卒中後の患者の低栄養の有病率は、発症後数週間で高くなることや低栄養の患者の多くは、骨格筋量と筋力が低下していることが報告されている。システマティックレビューでは、入院高齢者の多くが低栄養、フレイル、サルコペニアであると報告されている。つまり、低栄養は骨格筋量と筋力の改善を制限し、バランス機能の回復を小さくする可能性がある。西岡らは、低体重の患者は、肥満患者よりもADLの改善度が小さいことを報告している。さらに、栄養状態の改善はADLの回復と関連することが知られている。したがって、回復期リハビリテーション病棟入院時の低栄養を早期に評価し、栄養状態を考慮したリハビリテーションを実施することが必要である。

    【倫理的配慮、説明と同意】 当研究は「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」を遵守し、当法人の研究倫理審査会によって承認され(ID:23-08)、ヘルシンキ宣言に従って実施した。

  • O-021 成人中枢神経④
    元村 亮太, 城谷 茉奈, 安藤 浩樹, 久米 康隆
    p. 21-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 回復期リハビリテーションは既知の通り重症症例のADL向上が求められている。回復期病棟における重症症例の中には脳血管疾患が多数いるが、入退棟時FIMの点数が改善された症例であっても歩行自立が困難な症例も少なくない。

     先行研究では、BBS評価は姿勢制御の中で歩行に関与する生理的要因を反映しており、脳血管疾患における歩行獲得の予後の評価として有益であることが分かっている。しかし、重症脳血管疾患の歩行能力の改善におけるBBS評価の有用性を示した報告はほとんど見られない。

     本研究では、重症脳血管疾患患者を対象に歩行能力の自立に関与する要因についてBBSを基に抽出し、理学療法の一助となることを目的とした。

    【対象および方法】 対象は当院回復期病棟に2022年1月1日から2023年1月1日までに入棟した脳血管疾患とした。辻らの報告では、重症脳血管疾患の定義を回復期入棟時のFIM運動項目総得点が50点未満のものとしており本研究でも同様に分類した。その中から退棟時FIM50点以上に改善したものを抽出し、評価項目が不足していた例(11名)を除外し合計24名を対象に実施した。

     情報収集は後方視的に診療録等から基本情報とFIMとBBSを収集し、退棟時FIMの歩行が7・6点のものを歩行自立群、5点以下のものを歩行介助群とし検討を行った。

     統計処理は歩行の自立群と介助群の退棟時のBBSの2群間に対し比較検討を実施した。基本情報の正規性を示したデータにはF検定を行い、等分散の場合はStudentのt検定、非等分散の場合はWelchのt検定を用いた。非正規性を示したデータにはMann-WhitneyのU検定を実施した。BBSに対してはSpearmanの順位相関係数とMann-WhitneyのU検定を用いて検討を行った。全ての有意水準は5%未満とした。

    【結果】 基本情報は年齢に有意差を認めた(p<0.01)。

     退棟時FIM運動小計と退棟時BBS総得点では正の相関(rs=0.49 p<0.05)を認め、退棟時FIM歩行と退棟時BBS総得点でも正の相関(rs=0.6 p<0.01)を認めた。

     歩行自立群と歩行介助群の退棟時BBSの得点を中央値で算出した。BBSの着座、移乗、上肢前方到達、床から物を拾う、360°回転、片脚前方立位、片脚立位の項目で有意差を認めた(p<0.05)。

     またBBS総得点においても有意差を認めた(p<0.05)。

    【考察】 基本情報の歩行自立群と歩行介助群の2群間比較では年齢に有意差を認めた。高齢に伴う身体機能の低下、認知機能の低下等により歩行自立度に影響が生じたと考えられ、本研究の今後の課題である。

     BBSを用いた歩行自立群と歩行介助群の2群間比較では着座、移乗、上肢前方到達、床から物を拾う、360°回転、片脚前方立位、片脚立位の項目とBBS総得点で有意差を認めた。各項目を「支持基底面の保持」「支持基底面の変化を伴わない重心移動」「支持基底面の変化を伴う重心移動」に分類し、「支持基底面の保持」の項目では有意差がみられず「支持基底面の変化を伴わない重心移動」と「支持基底面の変化を伴う重心移動」では難易度の高い動的バランスの項目で有意差を認めた。歩行の立脚中期では身体重心を最大限高める必要があり、対側は遊脚初期から遊脚中期に相応するため、支持基底面の変化を伴いながらも安定した単脚支持が重要であり難易度の高い項目で有意差を認めたと考える。

     BBS総得点においても、先行研究の脳血管疾患の歩行とBBSとの関連性の結果と、本研究も同様の結果となった。

    【結語】 重症脳血管疾患患者の歩行自立度の評価としてBBSは有用であることが示唆された。

    【倫理的配慮】 ヘルシンキ宣言に基づき対象者における個人情報保護などに十分配慮した。

  • O-022 成人中枢神経④
    池田 優介, 岩崎 朋史
    p. 22-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 橋梗塞による運動失調によって立位、歩行時に著明なバランス障害を呈した患者に対し、下肢近位筋のトレーニングを行った結果、運動失調、バランス能力の改善を認めた。その経過について報告する。

    【症例紹介】 80代男性。橋梗塞の診断により某日入院。8病日に当院回復期病棟に転棟。Magnetic Resonance Imaging(以下、MRI)画像で橋上部~中部の左傍正中部に高信号を認めた。上田式片麻痺機能テストは右下肢グレード11。感覚は正常。Scale for the Assessment and Rating of Ataxia(以下、SARA)は23点(歩行6、立位6、座位0、言語2、指追い1、鼻指1、回内外1、踵脛1)。Berg Balance Scale(以下、BBS)は11点。Trunk Ataxic Test(以下、TAT)はステージⅡ。MMTは体幹屈曲3、右股関節屈曲3、右膝関節伸展4、右足関節背屈4であった。立位は下肢ワイドベースとなり、上肢外転位、股関節屈曲位。独歩は重度介助を要した。Functional Independence Measure(以下、FIM)は71点(運動49、認知22)であった。

    【経過】 8病日より、運動失調の軽減目的に弾性包帯による体性感覚入力。バランス能力向上を目的に立位や膝立ちのステップ訓練を行ったが、四肢体幹が過剰に緊張し、重度介助を要した。そのため、背臥位でのブリッジ動作や股関節屈曲位保持、膝立ち位保持や立位の膝屈曲位保持など関節運動を伴わないバランス訓練を実施。歩行は前腕支持型歩行器から開始した。23病日では、膝立ち位での側方移動やステップ訓練を実施。歩行は4点杖歩行、骨盤介助下での独歩を実施した。57病日では、SARAは8点(歩行3、立位3、座位0、言語0、指追い1、鼻指0、回内外1、踵脛0)。BBSは28点。TATはステージⅠ。MMTは体幹屈曲4。右股関節屈曲4となった。FIMは92点(運動67、認知25)。10m歩行速度は15.9秒(0.6m/sec)で屋内4点杖歩行が可能となり、段差に手すりを設置した自宅に退院となった。

    【考察】 吉尾らは「体幹と四肢の関係性は相互に関連しており、体幹失調や体幹の予測的姿勢制御の不十分さで四肢の協調性障害、体幹の過剰な固定性を強める」と報告している。本症例においても、入院時評価より運動麻痺や感覚の障害は認めなかったが、下肢筋出力低下、体幹の運動失調を認めた。立位時の緊張、バランス不良は、これら下肢近位筋の筋出力低下や予測的姿勢制御の不良によるものと考えた。そのため、過剰な緊張を取り除き、立位姿勢を安定にするための運動療法が治療に適していると考えた。介入当初は、弾性包帯や重錘を使用し、筋紡錘から小脳への固有感覚受容器による入力、背臥位でのブリッジ動作や物的把持で立位練習など、過剰な緊張が生じない課題を行った。動的バランス訓練では、股関節中間位を保持できず、介助を要していた。木下らは「膝立ち位は立位よりも多くの筋活動を要し、体幹筋や股関節周囲筋促通に効果的である可能性が高い」と報告している。足部、膝の影響が除外される膝立ち位の訓練は、股関節での姿勢制御が主であるため、本症例には有効であると考えた。膝立ち位保持より開始し、側方移動やステップを取り入れ、訓練時の介助量を本人のレベルに合わせて徐々に変更させていった。また鏡でフィードバックしながら、反復練習を行った。これらの訓練により、予測的姿勢制御を担う網様体脊髄路の活性化を図ることができ、下肢近位筋の機能向上に伴い、運動失調、立位バランス能力が改善したと考える。しかし、BBSでは方向転換や片脚立位など、単脚支持でのバランス低下は残存し、カットオフ値以下であったため、独歩は転倒リスクが高く、屋内4点杖での歩行自立とした。

    【倫理的配慮、説明と同意】 症例の本発表に際し、ヘルシンキ宣言に基づき、対象者には十分な説明と書面にて同意を得た。

  • O-023 成人中枢神経④
    竹松 怜也, 野中 裕樹, 藤井 廉, 千手 佑樹, 細川 浩
    p. 23-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 臨床場面における代表的なバランス評価指標にBerg Balance Scale(BBS)があり、転倒予測や歩行自立度の判定基準としての有用性が報告されている。その一方で、BBSは歩行が自立していなくとも天井効果を示す事例が存在することから、評価の鋭敏さに欠ける問題点も指摘されている。今回、BBSはカットオフ値を上回っていたものの、病棟内歩行において見守りから脱却できず自立度の改善が停滞した症例を経験した。本症例に対し、バランスのシステム理論に基づき開発されたMini-Balance Evaluation Systems Test(Mini-BESTest)の結果を踏まえ介入方法を立案・実践したことで、バランス能力・歩行自立度に改善を認めたため、報告する。

    【症例紹介】 症例は、脳皮質下出血を呈した80歳代女性である。軽度の注意障害を有していたものの、行動観察上それが日常生活の妨げとなるような場面は見受けられなかった。初期評価(第25病日目)において、Stroke Impairment Assessment Set下肢運動機能は5-5-5、BBSは50/56点と比較的良好な結果であった。しかし、歩行はFunctional Independence Measure(FIM)で4点とBBSの結果と歩行状態に乖離を認めた。そこで、バランス能力の追加評価としてMini-BESTestを行った結果、16/28点(予測的姿勢制御:4/6点、反応的姿勢制御:1/6点、感覚機能:5/6点、動的歩行:6/10点)とカットオフ値(19点)を下回る結果となった。

    【理学療法介入】 Mini-BESTestの結果から、本症例の歩行障害には、特に反応的姿勢制御の低下が関与しているのではないか、と推察した。そのため介入は、反応的姿勢制御の改善を企図し、外乱刺激に対するステップ課題を中心に構成した。また、ストループ課題を用いたランダムステップ訓練(予測的姿勢制御)、口頭指示による急な方向転換や歩行速度調整訓練(動的歩行)も実施した。

    【結果】 介入開始1週間後に、BBSは56/56点となった。しかし、Mini-BESTestは18/28点(予測的姿勢制御:4/6点、反応的姿勢制御:2/6点、感覚機能:6/6点、動的歩行:6/10点)と依然としてカットオフ値を下回るとともに、FIM(歩行)は5点と見守りが必要であった。介入4週後の最終評価では、Mini-BESTestが24/28点(予測的姿勢制御:6/6点、反応的姿勢制御:4/6点、感覚機能:6/6点、動的歩行:8/10点)とカットオフ値を上回り、さらにFIM(歩行)は7点へ向上した。

    【考察】 本症例の歩行自立度の改善が停滞した主要因として、反応的姿勢制御の低下によりふらつきが生じた際のステップ反応が出現しなかった点が挙げられる。実際に、Mini-BESTestでは、同項目の点数が著しく低下していた。ヒトがある特定の運動を効率よく学習するには、“課題の類似性”が重要となる(才藤,2016)。そのため、“反応的姿勢制御”に焦点化した一連の介入によって、バランス能力が改善し、そしてその改善が歩行動作へ汎化したことで、最終的には歩行自立に至ったものと考える。本症例の一連の経過から、Mini-BESTestはバランス障害を有する症例の介入指針の立案や介入効果を捉える上で有用であることが確認された。

一般演題5[ 成人中枢神経⑤]
  • O-024 成人中枢神経⑤
    深草 湧大
    p. 24-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 重度片麻痺を呈する脳卒中患者の起立・歩行練習は重要だが、転倒リスクの管理に難渋することが多い。今回、血栓性脳梗塞を発症し減圧開頭術により、左頭蓋骨を欠損した高度肥満の片麻痺患者に天井走行式リフト(handicare社製RiseAtras450M 耐荷重205 ㎏ 以下:リフト)を使用して理学療法を実施した。転倒等の有害事象なく立位での理学療法介入が実施でき、身体機能や動作の改善につながったため報告する。

    【症例提示】 42歳男性。身長170 ㎝ 体重110 ㎏ BMI:38.6 診断名:血栓性脳梗塞、障害名:右片麻痺。現病歴:意識障害により緊急搬送され、減圧開頭術後に左頭蓋骨を摘出した。本人希望で頭蓋骨形成術は実施されず、頭部保護帽装着しリハビリ目的で132病日に当院に入院となった。内科的な既往疾患なし。病前のADL、IADLは自立していた。入院翌日から理学療法を開始した。失語症のため発話は困難であったがジェスチャーでの意思疎通はある程度可能であり、Br. stage(右)は上肢、手指、下肢いずれもⅡであった。膝伸展筋力(Rt/Lt)は0N/97Nであった。感覚は深部・表在ともに中等度鈍麻であった。起居動作は全介助で、移乗時は膝折れがみられた。転倒恐怖感を11段階のスケール(0:まったく不安はない、10:とても不安がある)で聴取したところ、10であった。端座位保持練習時の疲労感はBorgスケール(以下、Borg):19(非常にきつい)であった。BP:140/85 ㎜hg P:95回/分。FIMは47点(運動22点 認知25点)であった。

    【介入】 転倒の危険性が高いため病棟では移乗時に床走行式リフトを使用した。高度肥満や左頭蓋骨欠損を考慮し、立位で行う下肢筋力強化や歩行、バランスの改善を目的とした運動療法にリフトを用いた。リフトは理学療法室の天井にレールを設置しており、レールの構造により前後10m程度、左右1m程度の可動性があり、症例の動きに追随する。リフト使用時は、免荷にならず、かつ転倒にならない範囲で挙上量を担当セラピストが訓練ごと調節した。各種歩行補助具や下肢装具は、課題の難易度や負荷量を調整するために随時使用した。疲労感や転倒への恐怖感を聴取しながら介入内容を変更した。

    【結果】 104日間の介入後、右下肢Br. stageはⅢ、膝伸展筋力は120N/164Nと改善が見られた。起居動作は自身で可能となった。移乗動作は短下肢装具を装着して見守りで可能となり、膝折れは消失した。歩行は、リフト装着下で短下肢装具とバランスウォーカーを用いて100m程度の連続歩行が見守りで可能となった(Borg13:ややきつい、転倒恐怖感:2)。加えて、担当者が不在時も同程度の運動負荷量を確保することができた。リフト使用中は、バランスを崩すことはあったが、転倒には至らなかった。病棟生活では、頭蓋骨欠損による脳挫傷のリスクを考慮し、移乗は2人介助、移動は車椅子介助であった。FIMは53点(運動28点 認知25点)となった。

    【考察】 脳卒中患者に対する起立・歩行練習の早期実施や練習量・頻度を増やすことは強く推奨されているが、体格の大きい重度障害者に対する介入には転倒の危険が伴う。本症例への介入時もバランスを崩すことがあり、リフト未使用であれば転倒に至った可能性は否定できない。頭蓋骨欠損の本症例において転倒回避は特に重要である。立位での運動療法実施時に転倒しない環境を準備することは、症例の転倒恐怖心を軽減させるだけでなく、理学療法士の個人因子に影響を受けず、起立・歩行練習の量や頻度を充分確保することが可能になると考える。

    【倫理的配慮】 本報告に際し、対象者、対象者家族に対して口頭で同意を得た。

  • O-025 成人中枢神経⑤
    山里 隆
    p. 25-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 脳出血発症から1年が経過し、歩行時には麻痺側反張膝や分回し様歩行、歩行の非対称性がみられ、杖なし歩行では恐怖感や転倒不安感があり、下肢装具を都度調整するも、歩行の改善が難しい方を担当した。平行棒用オーバーヘッドフレーム(以下、免荷平行棒)はハーネスを着用することで、不安や恐怖感を軽減し、歩行対称性や推進力強化などを増加させる効果が報告されている。対象者にも同様の効果を期待し、どのような効果や歩行学習が得られたかをここに報告する。

    【対象】 対象者は通所リハビリ利用の58歳の女性。診断名は右視床出血の左片麻痺。Br. stage上肢Ⅲ、手指Ⅲ、下肢Ⅴ。深部・表在感覚は左上下肢軽度鈍麻。発症からの研究介入までの期間は405日。日常生活動作自立。FIM124点。歩行評価のFunctional Ambulation Categoriesは4点。歩行は油圧式足継手付き下肢装具とT字杖使用し、2動作前型歩行にて自立。歩行観察にて麻痺側反張膝や分回し様歩行、歩行の非対称性がみられる。本人より、杖無し歩行は恐怖感や転倒不安感が聞かれる。

    【介入方法】 免荷平行棒の効果やハーネスの影響を検討するために、通所リハビリ(週2回利用)での通常理学療法以外に、通常の歩行、非免荷歩行、免荷歩行の3条件を1セットとし、封筒法にてランダム化を図った。計4セット行い6週間要した。それぞれの歩行は装具着用せず独歩にて行い、歩行練習は免荷平行棒内で行った。通常歩行は免荷を行わず、非免荷歩行はハーネスのみを着用。免荷歩行は先行研究を参考に体重の20%免荷にて実施。各歩行練習時間は10分間とした。

    【評価項目】 歩行計測はシート式下肢荷重計(アニマ株式会社製)を歩行練習の介入前後使用し、快適歩行速度、歩隔、stride長、歩行率、両脚・単脚支持時間割合、歩隔対称性を抽出した。歩行条件と介入前後の比較に対応のあるt検定(paired t-test)を使用。歩行やアライメントの比較をビデオ撮影により検討した。歩行練習前後に本人の歩行実感や違和感等聴取した。

    【結果】 非免荷歩行の非麻痺側立脚期介入前1.15±0.01秒、介入後1.12±0.04秒(P=0.01, P<0.05)。非麻痺側単脚支持期割合介入前75.7±2.5%、介入後72.3±0.89%(P=0.01, P<0.05)において有意な差が認められたものの、その他項目には介入前後での差はみられなかった。また歩容において歩行練習での顕著な差はみられなかったが、本人は免荷歩行や非免荷歩行では麻痺側の振り出しやすさを感じている様子であった。

    【考察】 免荷歩行や非免荷歩行では麻痺側の振り出しやすさを感じていることから、免荷平行棒内でハーネスを着用することで、体幹垂直位を補助し、姿勢を制御するために体重を支持していた麻痺側下肢が推進しやすくなったと考えられる。心理的影響も大きく、6週間の介入後荷重練習や歩行練習に積極的に取り組まれたり、楽だからと日常で使用していた車いすの利用頻度が減ったりと日常生活への影響もみられた。

     今後は対象者に対し免荷量の調整や、転倒恐怖感の軽減、心理的影響、装具着脱や杖の有無、歩行対称性の工夫の必要性があると思われるので、更なる検討を行っていきたい。

    【倫理的配慮、説明と同意】 本研究内容はヘルシンキ宣言を遵守し対象者には本研究の主旨と測定内容に関する説明を十分に行い、了承を得た。

  • O-026 成人中枢神経⑤
    下世 大治, 宮﨑 宣丞, 竹下 康文, 山添 桃菜, 松浦 央憲, 福田 将史, 中島 将武, 加治 智和, 川田 将之, 木山 良二
    p. 26-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 歩行に直接介入する方法として、バイオフィードバック療法を用いた歩行練習が挙げられる。神経障害患者の歩行に対し、フィードバックを行うことで、歩行速度や歩幅、関節角度、バランス、可動域の改善が報告されているが、臨床現場での検討は少ない。本研究の目的は、ラクナ梗塞患者に対するウェアラブルセンサーによる歩行中の関節角度のリアルタイムフィードバックを用いた歩行練習の即時効果を検討することである。

    【対象と方法】 対象はラクナ梗塞(左被殻、発症後21日)の入院患者1名(88歳、男性)とした。身体機能は、歩行速度0.90m/s、Brunnstrom stage下肢Ⅵ、Fugl-meyer assesmentの下肢機能33/34点、バランス10/14点、FBS40/56点、TUG12.30秒であった。リアルタイムフィードバックを用いた歩行練習の前後で10m歩行テストを実施し、フィードバックによる即時的な歩容の変化を分析した。歩行条件は、通常歩行(C条件)、立脚後期の足関節底屈角度(A条件)、下肢全体の伸展角度(T条件)をそれぞれ強調した計3条件とした。歩行練習は30mの歩行路にて各条件を1分間ずつ、同日内に実施した。歩行練習前の歩行テストでは通常通りの歩行を行い、練習後の歩行テストではフィードバックで練習した歩容を順守させた。歩行テストは歩行練習前後に各2回ずつ実施し、仙骨後面、両側の大腿と下腿の前面、足背部に固定した慣性センサー(Mtw Awinda)を用いて計測した。快適歩行時の関節角度を20%増した角度を目標値とし、目標値に達した際に音声でフィードバックした。A条件では「音が鳴るように足で蹴って歩いてください」T条件では「音が鳴るように脚全体を後ろに伸ばして歩いてください」と指示した。歩行テストのデータは各歩行の中央5歩行周期を解析し、歩行速度、ストライド長、ケイデンス、立脚後期における足関節底屈角度、下肢伸展角(矢状面における大転子と外果を結ぶ線と、垂直線のなす角度)を算出した。2試行の平均値を代表値とし、歩行練習前後の各指標の変化を比較した。

     対象者には説明を行い、同意を得た後に実施し、ヘルシンキ宣言に則り倫理的配慮に基づいてデータを取り扱った。なお、発表に際し、所属機関の倫理委員会の承認(倫委第20-8号)を得た。

    【結果】 歩行速度はC条件(Δ0.5 m/s, 6.3%増)、A条件(Δ0.6 m/s, 7.5%増)、T条件(Δ0.2 m/s, 2.7%増)となり、A条件で最も歩行速度の増加がみられた。ストライド長はフィードバック下で増加(A条件14%増、T条件15%増)し、ケイデンスは低下(A条件6%減、T条件11%減)した。A条件では足関節底屈角度(Δ2.0°、15.8%)、T条件では下肢伸展角度(Δ2.8°、14.7%)がそれぞれ増加した。

    【考察】 今回はラクナ梗塞患者に対して歩行中の関節角度のリアルタイムフィードバックを行い、歩行速度は即時的に増加し、フィードバックの指標に応じて歩容が特異的に変化した。他条件と比較して本症例では、A条件での歩行速度が即時的に増加した。立脚後期での蹴り出しをフィードバックしたA条件では、ケイデンスを保ちながらストライドを延長することで歩行速度を増加させることができたと考えられる。また、身体機能および麻痺肢の下肢筋機能も良好であり、足関節底屈筋が優先的に選択された可能性も考えられる。本研究は単一症例における即時効果の検討にとどまるが、客観的な指標を用いた歩行練習の臨床応用の実現可能性を示すとともに、継続した介入により歩容の改善に繋がると考える。

  • O-027 成人中枢神経⑤
    田代 耕一, 古川 慶彦, 堀内 厚希
    p. 27-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 脳卒中片麻痺患者(以下、CVA患者)の歩行速度の低下は、生活範囲を狭小化することが報告されている。そのため生活状況に戻る前段階にある回復期リハビリテーション病棟入院中に、どれだけ歩行速度の改善が可能であるかによって退院後の生活状況は一変する。しかし、麻痺等の後遺症を伴った状況で歩行速度を上げる練習を行うと、不安や恐怖によって筋緊張の異常を引き起こし、歩容に影響を与え逆効果となることも経験する。近年ではリハビリテーション分野において、CVA患者の歩行を支援するロボットが複数開発されており、当院においても歩行支援ロボットTree(リーフ株式会社製)を導入している。Treeは上肢で支持が可能なグリップを要し、一定速度での歩行練習を可能とする。そこで、CVA患者の歩行練習にTreeを用いることにより、速度を上げた歩行練習が可能であると考え、CVA患者を対象にTreeを使用した歩行を10日間実施し、その有用性について検討した。

    【方法】 対象は当院回復期リハビリテーション病棟に入院し、脳梗塞の発症から131日経過した70歳代男性である右片麻痺患者1名とした。症例は、下肢Brunnstrom recovery stageがⅣ、上下肢の筋緊張はModified Ashworth Scale1であり、転倒に対する不安感があったため移動は監視レベルであった。Treeを使用した歩行練習の前後にShoe Horn Braceを装着、T字杖を使用し2動作前型で快適速度、最大速度の10m歩行を計測し歩行速度と歩数を抽出した。Tree歩行練習は、約40mの直線歩行が可能な環境で往復しながら1日20分の歩行練習時のみ10日間実施した。Treeの設定はフリー走行モードで、設定速度は歩容が乱れない範囲での最大速度とし、理学療法士2名が歩容を観察して設定した。歩行練習中、設定速度を変更することと、対象者の意志による適度な休憩は許可した。

    【結果】 初日、Tree歩行練習前の快適歩行では0.50(m/s)、18(歩)、最大歩行は0.56(m/s)、17(歩)であり、Tree歩行練習後の快適歩行は0.52(m/s)、17(歩)、最大歩行は0.8(m/s)、16(歩)であった。10日目のTree歩行練習前の快適歩行では0.71(m/s)、16(歩)、最大歩行は1.09(m/s)、15(歩)であった。

    【考察】 Perryらによると、片麻痺患者の生活範囲は快適歩行速度によって影響を受け、歩行速度が0.4m/s以下では生活範囲が屋内にとどまり、0.4m/sから0.8m/sでは限られた範囲での外出が可能、0.8m/s以上では制限なく地域に外出が可能であると述べている。

     本症例において、発症から131日経過した時点で監視レベルでのT字杖歩行を獲得していたが、歩行速度の改善が乏しく、生活範囲が屋内にとどまるレベルであった。しかし、10日間のTree歩行練習の導入によって快適速度が0.71(m/s)となり、屋内移動はT字杖歩行で自立し、限られた範囲での外出が可能なレベルとなった。

     これは、Treeで設定された本症例の歩行速度より速い速度に対し、歩幅の増加や下肢駆動力の増加により適応した結果であると思われる。また、Treeは前方に画面が設置されていることから歩行中の視線が前方へ向きやすく、体幹の前傾が生じにくい特徴がある。そのため、Treeの機器特性により、立脚後期の股関節伸展が生じやすい体幹直立位が促され、歩幅の増加が得られた可能性も考えられる。今後、効果のある対象者の特性等を検証していきたい。

    【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院倫理審査委員会の承認(2016112802)を得た後、対象者に本研究の内容と個人情報の取り扱いについて十分な説明を行い、同意を得て実施した。また、利益相反に関して開示する事項はない。

  • O-028 成人中枢神経⑤
    梶山 哲, 伊東 祐輔, 狩生 直哉, 加藤 和恵, 戸髙 良祐
    p. 28-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期リハ)における疾患別の転倒率は、整形疾患が12.2%であるのに対し、脳卒中は21.8%と多い。これまでに転倒有無に関する研究は多く報告されているが、転倒回数に影響する因子を報告した研究は少ない。脳卒中では、転倒者のうち36.2%が2回以上転倒していることから、脳卒中患者への転倒予防の取り組みが求められている。そこで本研究では、転倒回数に影響する因子について分析する。

    【方法】 2021年4月から2023年3月までの期間に当法人回復期リハを退院した脳卒中患者401名を対象として、電子カルテのデータベースを用いて後方視的に調査した。

     除外基準は入院期間が10日以内で退院した者とした。解析は、非転倒者を含めた転倒回数に影響する因子(モデル1)と非転倒者を除いた転倒者のみでの転倒回数に影響する因子(モデル2)についてそれぞれ分析した。説明変数は、年齢、性別、入院時運動FIM、入院時認知FIM、入院時FBS, SIAS下肢機能、リスク対策(センサーマット等)有無、ナースコール有無とし、転倒回数を目的変数とした重回帰分析(強制投入法)を行い、関連する因子を求めた。統計上の有意水準は5%とした。

    【結果】 モデル1の転倒回数を目的変数とした重回帰分析の結果(R2=0.11)、性別(β=0.31, p<0.001)、入院時認知FIM(β=0.02, p<0.05)、入院時FBS(β=-0.01, p<0.05)が関連因子として抽出された。

     モデル2の重回帰分析の結果(R2=0.15)、性別(β=0.53, p<0.05)、入院時認知FIM(β=0.03, p<0.05)が関連因子として抽出された。

    【考察】 本研究は、回復期リハにおける転倒回数に関連する因子を後方視的に分析した。その結果、モデル1では、男性で、入院時認知FIMが高く、入院時FBSが低いほど転倒回数が増加する可能性が示唆された。モデル2では、男性で、入院時認知FIMが高いほど転倒回数が増加する可能性が示唆された。入院時FBSはモデル1のみ関連因子として抽出されたことから、非転倒者を含めた場合は転倒回数に有意に影響を与えるが、転倒者のみでの検討では影響が小さいことが明らかとなった。このことから2回目以降の転倒には、バランス機能の影響を考慮しつつもその他の転倒予防策を多角的な視点から導入する必要があると考えられる。入院時認知FIMについては、入院時に認知機能良好と判断された場合、リスク対策以外の転倒予防対策(ベッド周辺の環境調整、動作指導等)に留まる可能性が高い。さらに回復期リハでは身体機能が回復途中にあるため、現状の身体機能から患者自身がどこまで安全に動けるかといった自己動作能力評価についても経験的に不十分になりやすい状況が考えられる。したがって、リスク対策の判断の難しさや自己動作能力評価の問題が転倒回数増加の因子の背景として考えられる。

    【まとめ】 転倒回数に関連する因子として、性別、入院時認知FIM、入院時FBSが抽出され、これらの因子を考慮して転倒予防策を講じる必要がある。

  • O-029 成人中枢神経⑤
    片渕 功規, 藤﨑 拡憲, 富永 雄太, 鳥飼 有希子, 小原 健志
    p. 29-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 当院は痙縮患者に対し、2011年よりボツリヌス療法を始め、2017年痙縮センターを開設し、2019年よりボツリヌス療法と短期集中リハビリテーションを併用した取り組みを開始した。今回、一般病棟に入院しこの取り組みを行った患者の傾向を後方視的に調査したので報告する。

    【対象】 2020年1月~2022年12月までの3年間における、ボツリヌス療法と短期集中リハビリテーション目的にて一般病棟へ入院した患者19名、計103件。

    【調査方法】 電子カルテに記録されたSOAP、サマリーを中心に後方視的に調査。

    【調査結果】 〈実人数〉男性10名、女性9名(内、入院での定期継続16名、他3名は外来通院にて継続)。〈平均年齢〉62.7±10.6歳。〈平均介護度〉1.35(介護保険対象外4名)。〈平均在院日数〉11.9日±6.9日。〈平均入院間隔〉3.9±2.1ヶ月。〈原因疾患〉被殻出血5名、視床出血5名、痙性斜頸2名、他1名→アテローム血栓性脳塞栓症・心原性脳塞栓症・出血性脳梗塞・くも膜下出血・脊椎形成不全仙骨欠損症候群・脊髄小脳変性症・HTLV-Ⅰ関連脊髄症。〈平均発症経過年数〉7.1年。〈平均通算施行回数(対象期間外含む)〉11.3±7.3回(最大32回、最小2回)。〈ボツリヌス療法施行部位割合(平均単位数)〉上下肢63.1%(393±149単位)、上肢のみ24.3%(208±115単位)、下肢のみ12.6%(165±77単位)。〈FIM〉入院時平均105.3±14.6点、退院時平均107.3±14.2点、前回退院時から次回入院時の増減-2.2±5.3点。〈BI〉入院時平均85.5±16.7点、退院時平均86.8±15.7点、前回退院時から次回入院時の増減-1.6±5.9点。〈筋緊張〉全件で入院時に比べ筋緊張改善認める。MAS評価で1程度の改善、またはMASの変化はないが抵抗感の軽減あり。〈疼痛〉76件中61件(80%)で入院時に比べ改善認める。〈ROM〉97件中76件(78%)で入院時に比べ改善認める。〈満足度調査〉大変満足7件、満足19件、やや満足29件、どちらでもない5件、やや不満0件、不満1件、大変不満0件(61/103件回答)。

    【考察】 多くの患者がADL評価では自立度が高い点数となっており、日常生活動作のほとんどは自身で行えている又は一部介助が必要な状態だが、痙縮による抵抗感や疼痛、可動域制限、不随意運動発生による身体の動かしづらさや、それによる介助量増加が主な訴えとなっている。そのためそれらを改善し、動作の快適さや介助量軽減を求めている。多くの症例でボツリヌス療法の効果に加え、ストレッチや動作指導、自主訓練指導などの短期間リハビリテーション介入により、筋緊張緩和、疼痛軽減、可動域改善を認め、基本動作、ADL動作の安定性向上や介助量軽減が図れたと考えられる。

     ボツリヌス療法は決して安価な治療手段ではないが、調査期間の全患者が定期的に施行継続しており、通算施行回数や満足度調査によりボツリヌス療法と入院リハビリテーションの併用に対する信頼度が高いと思われる。定期的に継続することで前回退院時から次回入院時のFIM、BIの差は少なく、痙縮増悪防止や日常生活動作能力の維持に貢献している要因の一つではないかと考える。

     今後の展望として、日常生活の再構築さらには社会参加に繋げるべく、定期継続するに至った満足度の詳細(メリット、デメリット、IADLの状況)を患者や関係者に直接聞き取り、リハビリテーションの質の向上を図っていきたい。

    【倫理的配慮、説明と同意】 本調査は当院倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:2302)。また、得られたデータは個人情報が特定出来ないよう十分な配慮をした。

一般演題6[ 骨関節・脊髄① ]
  • O-030 骨関節・脊髄①
    東家 翔平, 宮本 健太, 木原 香保
    p. 30-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 骨粗鬆症椎体骨折治療において保存加療が多く適応されているが、2011年より経皮的椎体形成術(Balloon Kyphoplasty:以下、BKP)が保険適応として承認された。BKPの除痛効果は高いという報告が多くあり、ADLの低下や遅延性麻痺の予防にも有効とされている。当院においても2020年よりBKPを導入し施行例が増加しており、術後から退院までのリハビリテーションが円滑に進む症例を多く経験する。本研究は、早期離床や在院日数についてBKP施行例と保存加療例を比較検討し、BKP術後リハビリを進める上での指標を作ることを目的とする。

    【方法】 対象は、2019年4月1日~2020年3月31日までに胸椎または腰椎椎体骨折と診断され保存治療を行なった入院患者(以下、保存群)と2021年4月1日~2022年3月31日までに胸椎または腰椎椎体骨折と診断されBKPを施行した入院患者(以下、BKP群)の中で杖または独歩を獲得し、自宅退院となった各30名(保存群79.4±7.4歳、男性9名、女性21名、BKP群78.8±7.3歳、男性12名、女性18名)とした。なお、その他、腰部脊柱管狭窄症などの脊椎疾患を含むものや多椎体骨折のもの、固定術を施行したものは除外した。検討項目は、①入院日または術日から離床日(歩行や車椅子などトイレまでの移動手段の獲得に至った日)、②歩行器歩行自立までの日数、③杖または独歩自立までの日数、④在院日数とし、保存群とBKP群で比較を行った。群間比較にはMann-WhitneyのU検定を用い、有意水準は5%とした。

    【結果】 離床は保存群1.9±2.5日、BKP群1.0±0.2日でBKP群が有意に早かった(P<0.05)。歩行器自立は保存群5.8±6.5日、BKP群1.6±2.2日でBKP群が有意に早かった(P<0.05)。同様に杖・独歩自立も保存群16.4±12.7日、BKP群6.4±3.6日でBKP群が有意に早かった(P<0.05)。在院日数は保存群33.6±16.1日、BKP群18.2±8.2日でBKP群が有意に短かった(P<0.05)。

    【考察】 BKP群の方が離床から杖または独歩自立までが早く、在院日数も短い結果となった。宇都宮らはBKP施行により術直後からVASが大きく改善したと報告している。椎体骨折では、起居動作で上半身の重量が垂直方向に加わり、骨折部に対する圧縮ストレスが増加し、疼痛出現することで動作が困難になる。BKP施行後は、骨折椎体へセメントを注入したことで圧縮ストレスに耐えうる強度を獲得でき、起居動作時痛が改善する。疼痛軽減したことで介助なしでの動作遂行が早期から可能となり、歩行器歩行自立やその後の杖・独歩自立までの期間が短くなり、階段昇降や床上動作訓練に対し、早期から介入を行うことができた。退院に必要な能力の獲得が早くなり、BKP群は保存群と比較して在院日数が短くなっていると考える。以上のことから保存加療と比較し、BKPは早期離床ができ、在院日数が短縮することで廃用症候群の予防や早期社会復帰ができる可能性が示唆された。今回の結果、離床や移動手段の獲得時期をプロトコル内で設定しやすくなり、目標達成するための機能訓練など理学療法の提供が標準化され、在院日数短縮の一助となると考えられる。

    【結語】 BKPは早期離床および退院に向けた積極的な運動療法や機能訓練への早期介入に対して有効であることが示唆された。今回の反省として、当時の当院プロトコルでは初回や術前、退院時の疼痛評価やADL評価は実施していたが、術後1週毎の一定間隔で実施していなかったため、実際の疼痛変化やADL能力の比較ができなかった。現在、本研究結果の指標や疼痛・ADL評価をプロトコルに反映させ評価を定着させていきたい。

    【倫理的配慮】 本研究はヘルシンキ宣言に則り、倫理委員会(承認番号23108)の承認を得ている。

  • O-031 骨関節・脊髄①
    荒木 美穂, 生野 有一, 工藤 義弘, 隈田 絵梨, 中園 貴志, 柏戸 佑介, 播广谷 勝三
    p. 31-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 今回脊椎関節炎(spondyloarthritis:SpA)と診断され薬物療法後のCRP低下後に残存した仙腸関節部の動作時痛に対して、理学療法介入による運動療法にて改善を得た症例を経験したので報告を行う。

    【症例】 60歳代女性。X年4月の仕事後から両側腰部・殿部・大腿部の疼痛が出現し歩行困難となったため他院へ入院。化膿性脊椎炎の診断で治療継続されていたが、炎症反応高値が遷延したため同年5月に当院内科に精査入院となりSpAと診断された。入院時に両殿部に自発痛(安静時・起居動作時NRS:4)があり、MRIにて両側仙腸関節にSTIR高信号域を認めた。入院時の血液検査はCRP:28.23 ㎎/㎗と高値であった。股関節伸展制限(右−30度/左−10度)、Patrick test両側陽性であった。BI:25点であり日常動作全般において介助を要した。

     入院後早期にステロイド投与開始し、投与後24日目でCRPが沈静化し、安静時痛の軽減を認めた。しかし起き上がり動作・歩行動作時の疼痛は依然として持続していた。

    【理学療法アプローチ】 理学療法介入は入院後10日目から開始し、脊椎や股関節の関節可動域訓練・起居動作訓練を実施。入院後27日目にCRP値が沈静化するも、One finger testにて動作時の仙結節靭帯部痛が持続していたため、プログラムの再構築を行なった。起き上がり動作では上肢により柵を引っ張ることで腰椎過前弯が生じ疼痛を誘発していた。また歩行動作では右下肢立脚中期~後期にかけて股関節伸展制限の代償として腰椎過前弯が生じ疼痛を誘発していた。このような動作を繰り返していたことで多裂筋の筋緊張が亢進し、付着する仙結節靭帯部の疼痛を誘発していると考えた。さらに腰椎過前弯が生じる原因として腹部低緊張が認められ、ASLRが困難であったことから骨盤帯周囲筋の機能不全と考えた。アプローチとして骨盤帯の安定性に寄与する腹横筋、横隔膜、骨盤底筋群、多裂筋のコアユニットに着目し、ドローイン、四つ這い運動、座位バランスクッション上運動を段階的に実施した。結果、起き上がり動作時・歩行時の疼痛は消失(NRS:0)し、BI:90点となり入院後85日目で杖歩行自立となったため自宅退院することが可能となった。

    【考察】 SpAは脊椎や仙腸関節といった体軸関節や、手指関節などの末梢関節に炎症を来す疾患である。治療の第一選択薬は生物学的製剤やステロイドであり、反応は比較的良好とされる。仙腸関節の関節包や靭帯組織には侵害受容器が多数存在し疼痛の発生源となる事や、関節の不安定性を有した仙腸関節で反復動作が行われることで疼痛が生じるとの報告もされている。仙腸関節への負荷軽減にはコアユニットを同時に働かせることが重要であるとされており、本症例に行なった治療は効果的であったと考えられる。

    【まとめ】 近年薬物療法の進歩により早期からの治療効果が期待できるが、殿部痛が遺残した場合には仙結節靭帯部の評価・治療介入が有用である症例が存在することが示唆された。

    【倫理的配慮】 ヘルシンキ宣言に基づき、本報告の目的や内容について書面を用いて説明し、署名を持って同意を得た。

  • O-032 骨関節・脊髄①
    保坂 公大, 大田尾 浩, 西 栄里, 今村 純平, 田中 順子, 柴田 元
    p. 32-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに・目的】 現在、我が国は高齢化が進み、超高齢化社会に突入している。このような状況の中、骨粗鬆症に起因した脊椎圧迫骨折患者は今後更なる増加が予測されている。高齢者の多くは旧家屋で生活しており、在宅復帰する際に段差が障壁となる場合がある。また、段差昇降能力は外出能力に関係しており、理学療法において着目すべき観点である。脊椎圧迫骨折患者は、受傷後に強い疼痛や活動制限を伴うため、立位バランスや歩行の初期評価は実施できないことが多く、予後予測に難渋することが考えられる。そこで本研究では、脊椎圧迫骨折患者を対象に、臥位やベッド上長座位でも測定できる初期評価から、退院時の階段昇降動作の自立に影響を及ぼす要因を検討することを目的とした。

    【方法】 本研究では、医療法人かぶとやま会久留米リハビリテーション病院に入院し、回復期病棟を経て退院した女性の脊椎圧迫骨折患者173名を対象に調査を行った。対象期間は2017年10月から2022年3月までである。調査期間に死亡した患者や調査項目が欠損する患者は除外した。調査項目は、年齢、入院時のHDS-R, SMI, BMI、握力に加え、脳卒中の既往の有無、椎体骨折数、受傷回数をカルテから後方視的に調査した。階段昇降自立の可否はFIM階段項目の6点以上を自立群、5点以下を要介助群の2群に分類した。次に、階段昇降自立の可否を従属変数としたロジスティック回帰分析を行い、階段昇降能力に関係する因子を抽出した。多重共線性を確認するためにVIFを算出し、各測定項目間の関係を確認した。さらに、ROC曲線を求め、曲線下面積にて適合性を判定し、2群を判別するカットオフ値を検討した。統計解析にはSPSS statistics ver. 28.0(IBM)を用い、有意水準は5%とした。

    【結果】 退院時の階段昇降能力の内訳は、階段昇降自立群が95名(81.6±8.2歳)、階段昇降要介助群は78名(86.2±6.1歳)であった。退院時の階段昇降自立の可否別に各測定項目を比較した結果、年齢、入院時HDS-R、入院時SMI、入院時握力に有意差を認めた。階段昇降自立群と要介助群に関連する各項目をロジスティック回帰分析で検討した結果、入院時HDS-R(OR:1.06, 95%CI:1.03~1.16)と入院時握力(OR:1.11, 95%CI:1.01~1.23)が選択された。Hosmer-Lemeshow検定の結果はp=0.24であり、判別的中率は68.9%であった。退院時の階段昇降自立のカットオフ値は、HDS-Rが19.5点(AUC=0.75)、握力は13.9 ㎏(AUC=0.72)であった。

    【考察】 本研究は、脊椎圧迫骨折患者の退院時の階段昇降能力に影響する要因を調査した。結果、入院時HDS-Rと入院時握力が選択された。先行研究においても、認知機能が低下すると階段昇降動作に影響することが報告されており、本研究の結果はこれを支持するものであった。また、握力は高齢者の総合的な筋力を反映しており、膝伸展筋力や立位バランスと関連することが報告されている。すなわち、脊椎圧迫骨折患者の入院時の握力が階段昇降の能力に影響している本研究の結果は妥当である。本研究の結果から、脊椎圧迫骨折患者が入院時にHDS-Rと握力が高値であると、退院時には階段昇降が自立する可能性が高いことが示唆された。

    【倫理的配慮】 本研究は、医療機関情報および患者の個人情報を匿名加工することによって、患者が特定されないように配慮した。また、本研究は当院倫理審査委員会の承認(No:22-003)を受けている。

  • O-033 骨関節・脊髄①
    山下 将弥, 野中 裕樹, 藤井 廉, 千手 佑樹, 細川 浩
    p. 33-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 体性感覚障害の改善を目的としたアプローチの一つに、能動的感覚再学習がある。これは、手触りや形態が異なる対象物を遮蔽下にて触れ、その性質を区別したり選択肢から同定したりする介入方法であり、脳卒中後症例の感覚障害に対するアプローチとして広く用いられてきた。我々は、脳卒中後症例のみならず、運動器疾患に対しても応用可能なのではないかと考え、足底部に重度感覚障害を呈した腰部脊柱管狭窄症術後症例に能動的感覚再学習の導入を試みた。その結果、感覚障害の改善を得ることができたため、その経過を報告する。

    【症例紹介】 症例は腰部脊柱管狭窄症術後(L3/4、L4/5後方固定術 L2/3開窓術)のリハビリテーション目的で、当院へ入院となった70歳代女性であった。入院時(術後15日目)からADLは概ね自立していたが、足底の重度感覚障害をきたしており「スリッパを履いたかわからない」との訴えが確認された。

    【理学療法介入】 一般的な理学療法に加えて、先行研究(花田ら,2021)を参考に能動的感覚再学習を実施した。介入方法は以下のように課題を設定した。①関節運動覚:足趾を他動で上下に動かし運動方向を答える、②肌触り覚:異なる表面素材4種類を足底で触れ、目の前にある選択肢から同じ素材を選択する、③大小知覚:異なる大きさの木製の円柱4種類を足底で触れ、目の前にある選択肢から同じ円柱を選択する、④立体覚:形の異なる積み木4種類を足底で触れ、目の前にある選択肢から同じ積み木を選択する。なお、本介入は全て遮蔽下で実施した。本介入は術後38日目より開始し、1回20分の介入を1日2回実施し、介入期間は2週間とした。

    【評価方法】 疼痛および痺れについてVisual Analogue Scale(VAS)を用いて測定した。また、体性感覚は表在感覚、運動覚、位置覚を評価した。

    【結果】 介入後、腰部痛(VAS:介入前65 ㎜→介入後55 ㎜)、殿部・下肢痛(VAS:介入前70 ㎜→介入後55 ㎜)、殿部・下肢の痺れ(VAS:介入前75 ㎜→介入後50 ㎜)にそれぞれ改善を認めた。また、体性感覚について、右側の感覚は特に問題なく、左側の表在感覚は左足底内側(介入前3/10→介入後9/10)、左足底外側(介入前2/10→介入後4/10)、左足趾(介入前2/10→介入後4/10)、足趾の運動覚は(介入前2/5→介入後3/5)と改善を認め、足関節の位置覚は(介入前4/5→介入後4/5)と不変であった。実際の介入場面において、試行数を重ねるごとに各課題の正答率は向上するとともに、「スリッパを履いたのもわかってきた」との内省が得られた。

    【考察】 腰部脊柱管狭窄症術後症例に能動的感覚再学習を行った結果、痺れと体性感覚の一部に改善を認めた。脳卒中後症例を対象とした先行研究において、能動的感覚再学習による感覚障害の改善機序は、体性感覚に関連した神経領域の活性化や他領域での機能代行(Carey, 2016)、他の感覚による代償(花田,2021)によって説明されている。本症例報告は術後の自然回復による影響を除外できていない点、また、どのような機序によって改善が生じたのか明確に説明できない点などいくつかの限界を有するものの、本症例の一連の経過によって、能動的感覚再学習は運動器疾患に起因した感覚障害に対しても改善する可能性が示唆された。

  • O-034 骨関節・脊髄①
    土肥 昌太郎, 東 真彦, 髙野 直哉
    p. 34-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 高齢者において、脊椎圧迫骨折は頻度の高い骨折であり、脊椎圧迫骨折をきっかけに疼痛や脊椎変形により日常生活動作能力の低下が生じる高齢者は多い。また、初発の脊椎圧迫骨折をきっかけに再発する患者も少なくない。本研究の目的は、脊椎圧迫骨折早期再受傷患者の特徴から、これに関連する要因を探索し、理学療法士としての介入内容を検討することである。

    【方法】 対象は、2017年4月~2022年1月に脊椎圧迫骨折を受傷した55例(男性8例、女性47例、平均年齢85.6±7.7歳)とし、1年以内に脊椎圧迫骨折が誘因で再入院した群25例(以下、再入院群)と再入院しなかった群30例(以下、control群)に分類し、再入院に影響する因子について比較検討した。検討項目は全て初回受傷時のデータとし、年齢、Body Mass Index(以下、BMI)、Young Adlut Mean(以下、YAM)、受傷機転、脊椎圧迫骨折既往の有無、既往脊椎圧迫骨折の椎体数、入院在日数、退院先、退院時の歩行形態とした。統計分析は従属変数を1年以内の再骨折の有無、各検討項目を説明変数とした多重ロジスティック回帰分析、Mann-Whitney U検定、Receiver Operatorating Characteristic curve(以下、ROC曲線)を行った。有意水準は5%とした。

    【結果】 各項目での平均値は(再入院群/control群)、入院時年齢:87.7歳/83.9歳、BMI:18.4 ㎏/m2/20.7 ㎏/m2、YAM:66.4%/71.4%、受傷機転:転倒10例・他15例/転倒15例・他15例、脊椎圧迫骨折既往の有無:有14例・無11例/有7例・無23例、既往脊椎圧迫骨折の椎体数:0.92椎/0.23椎、入院在日数:69日/56日、退院先:自宅21例・老健、施設4例/自宅27例・老健、施設3例、退院時の歩行形態:独歩6例・杖歩行4例・伝い歩き3例・歩行器6例・車椅子介助6例/独歩11例・杖歩行8例・つたい歩き1例・歩行器8例・車椅子介助2例であった。多重ロジスティック回帰分析の結果、再骨折に影響する因子として、入院時BMI(オッズ比:0.741、P<0.05)が挙げられた。Mann-Whitney U検定の結果、入院時BMI(0.00632 P<0.05)を示した。ROC曲線の結果、入院時BMIカットオフ値:18.5 ㎏/m2(曲線下面積0.716、95%信頼区間0.579-0.853)を示した。

    【考察】 本研究では、1年以内に脊椎圧迫骨折を再受傷した患者の再受傷因子について検討し、入院時BMIが低値であるという結果に至った。また、再骨折リスクのカットオフ値は18.5 ㎏/m2ということが分かった。このことから、BMIが18.5 ㎏/m2以下の患者に対しては早期再受傷のリスクが予測されるため、入院中の体重変動や栄養状態の把握、訓練負荷量に配慮する必要があると考える。また、当院で実施しているNST回診の対象として挙げ、他職種と情報共有を行い、多方面からの治療や介入を行っていく必要があると考える。

    【まとめ】 今回、1年以内に再受傷となった脊椎圧迫骨折患者の早期再受傷に至る因子としてBMIが低値であること、カットオフ値が18.5 ㎏/m2という結果に至った。脊椎圧迫骨折患者には、入院時BMIが再受傷の予測に活用することが可能かと考え、理学療法士として介入する上で重要な一助になることが考えられる。

  • O-035 骨関節・脊髄①
    大坪 亮太, 橋田 竜騎, 広田 桂介, 中江 一朗, 不動 拓眞, 松瀬 博夫, 平岡 弘二
    p. 35-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 腰部脊柱管狭窄症(LSS)は、脊柱管の狭窄により腰部や臀部、下肢の痛みを引き起こす疾患である。LSSの治療については議論の余地があるとされており、治療選択のために予後予測が重要とされている。LSSを対象としても用いられる身体機能評価の1つにTimed up and go test(TUG)がある。TUGは外科分野で術後転帰と関連があり、運動器不安定症の診断基準にも含まれていることから、本研究では身体機能の代表値として採用した。また、Phase angle(PhA)は簡便に体組成を測定できる評価と注目されており、栄養やTUG、筋力などの身体機能との関連が報告されている。がん患者や維持透析患者においては予後との関連も報告されているが整形外科疾患患者の予後に関する報告は少ない。そこで本研究の目的はLSS患者の術後の身体機能の変化と栄養、PhA、疼痛との関連を調査することとした。

    【方法】 本研究は当院に2020年5月から2021年8月に入院したLSS患者から除外(体組成測定不能なもの、データ欠損例)を除いた114名(男性48名、女性66名)を対象とした後ろ向き研究である(承認番号:21052)。評価項目は術前のPhA、予後栄養指数(PNI)、腰部と下肢の疼痛(Visual Analog Scale(VAS))、身体機能として入院時、退院時のTUGから変化量(ΔTUG)を測定した。PhAの測定には、Inbody 770を使用した。解析は、JMP Pro 15を使用し、ΔTUGに関連する因子の解析に重回帰分析を行い、説明変数には年齢、性別、Body Mass Index(BMI)、PNI、腰部と下肢のVASをそれぞれ選択した。また、ΔTUGから改善あり群と改善なし群に分け、重回帰分析と同様の変数を使用して決定木解析を行った。

    【結果】 ΔTUGに関連する重回帰分析の結果はPhAが独立因子として選択された。(P=0.0478)。また、決定木解析の結果はΔTUGに関連する因子の第1分岐は下肢のVASであった。下肢のVASが72 ㎜以上の患者では約81%がTUG改善なし群であった。下肢のVASが72 ㎜以上の患者の第2分岐はPhAであり、PhAが4.2°以下の患者は全例がTUG改善なし群であった。

    【考察】 本研究においてLSS術後患者におけるTUGの変化に影響を与える要因は下肢のVASとPhAであった。下肢痛に関する先行研究では、軽度の下肢痛を有するLSS患者において手術療法が有効と報告されているため、術前より重度の下肢痛を有する患者の予後は不良である可能性が示唆された。また、術後のTUGの変化とPhAで相関を認めた。他の疾患を対象とした先行研究と同様にLSS患者においてもPhAは予後を予測する可能性が示唆された。また、PhAのカットオフ値についての議論は十分にされていないが先行研究で健常アジア人のカットオフ値は6.55±1.10°、栄養指標としてのカットオフ値は男性5.0°、女性4.6°とされている。今回の決定木解析での4.2°での分岐はどちらのカットオフ値も下回っており、妥当な結果と考える。

    【結論】 本研究におけるLSS術後患者のTUGの変化に関連する因子として下肢のVASとPhAが選択された。LSS患者において術前のPhAは術後のTUGの変化と関係しており、予後を予測する可能性が示唆された。

一般演題7[ ウィメンズヘルス ]
  • O-036 ウィメンズヘルス
    小野 日菜乃, 河上 淳一, 東 春華, 宮崎 大地, 佐藤 一樹, 里 優, 釘宮 基泰
    p. 36-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 近年、美容的価値観は大きく変化しており、妊娠してもヒールを履きたいと望む傾向がある。しかし、妊婦がヒールを履くリスクとして転倒があるため、積極的に推奨できるものではない。当院職員の妊婦(本対象)はヒールを常用しており、靴を勧めるも拒否された。本対象の訴えは、ヒールと靴でも歩行のし易さが変わらないため、ヒールを履きたいとのことだった。また、本対象からの依頼で妊婦が履くヒールの影響を確認して欲しいと希望された。そこで本研究では妊婦が履くヒールの高さがバランス機能へ与える影響を検討した。

    【対象と方法】 本対象は30歳代の経産婦であった。本対象の身体的変化は母子手帳にて腹囲と体重を確認した。評価は妊娠7ヶ月から産後3ヶ月までの各月に実施した。評価の条件は、靴(ヒールの高さ0 ㎝)とヒール(ヒールの高さ3 ㎝)とした。評価項目は先行研究を参考に、Timed Up&Go Test(TUG)、Functional Reach Test(FRT)、開眼片脚立位(OLS)、5m最大歩行速度、寛骨傾斜角とした。また、全ての評価項目の際の転倒不安感をVisual Analog Scale(VAS)で測定した。

    【結果】 各評価前後に体調の変化を認めなかった。本対象の身体的変化[腹囲 ㎝/体重(妊娠前より±㎏)]は妊娠7ヶ月:77 ㎝/-1 ㎏、妊娠10ヶ月:87 ㎝/+2 ㎏、産後1ヶ月:±0 ㎏であった。評価の結果[以下は(靴/ヒール)で示す]は、妊娠7ヶ月:TUG(8.3/8.3)秒、FRT(30.5/28) ㎝、5m最大歩行速度(4.7/4.5)秒、OLS(60/60)秒、寛骨傾斜角(76/76)°。妊娠10ヶ月:TUG(9.0/10)秒、FRT(24/25) ㎝、5m最大歩行速度(5.0/4.3)秒、OLS(60/24)秒、寛骨傾斜角(81/75)°。産後1ヶ月:TUG(6.4/7.2)秒、FRT(37/35.5) ㎝、5m最大歩行速度(3.7/3.9)秒、OLS(60/60)秒、寛骨傾斜角(88/84)°であり、各時期において靴とヒールの結果は概ね同等であった。転倒不安感は妊娠10ヶ月のOLS(ヒール)がVAS24 ㎜であり、その他のVASは全て10 ㎜以下だった。

    【考察】 各妊娠月数における変化では靴、ヒール共にTUG・5m最大歩行速度が妊娠10ヶ月にかけて増加し産後1ヶ月以降で減少、FRT・OLSが妊娠10ヶ月にかけて減少し産後1ヶ月以降で増加を示した。本症例のバランス機能・歩行機能は靴とヒールで概ね同等であり、同年齢女性のTUG、FRTと比較すると、低値を示していた。よって、ヒールの高さよりも、妊娠による身体的変化に伴う姿勢や姿勢制御の変化が影響していると考えた。本結果より妊婦におけるバランス機能の観点では、靴とヒールでバランス機能が同等であったことから、ヒールに限らずバランス機能が低下しているため転倒に注意が必要であると考える。しかし、産後1ヶ月以降では、徐々にバランス機能は向上傾向にあり、妊婦が履くヒールの高さの影響は少ないのではないかと考える。妊娠・出産により心理社会的要因にも変化が生じるため、今後は身体機能だけでなく心理社会的要因も含め、妊婦におけるヒールの高さがバランス機能に与える影響を検討していきたい。

    【倫理的配慮】 ヘルシンキ宣言に基づき説明と本対象の同意および署名を得た。また、リスク管理として評価前後の血圧管理、自覚症状を入念に確認した。評価の際は評価結果に影響を与えない範囲で、評価者とは別に3人で見守りを行った。

  • O-037 ウィメンズヘルス
    次山 航平, 髙田 理恵子, 辻 陽子, 福島 芳子
    p. 37-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【Ⅰ.活動目的】 「女性の心と体はエストロゲンが守っている」と言われるが、閉経に伴いエストロゲンは急激に低下する。本邦において閉経年齢の中央値は52.1歳と報告されており、閉経前後の5年が更年期とされている。この時期に女性は様々な症状と向き合うことになるが、同時に、仕事や育児、家事、介護など多様な役割を担う。そのため、更年期障害の予防に向けた取り組みは、女性の身体的・社会的健康を維持するうえで重要と考える。

     更年期障害の中でも尿失禁を経験している中高年女性は、心理的な不安を持ちながら過ごしておりQOLへの影響が問題視されている。尿失禁の予防が事前にできれば、女性のQOLの維持や向上が可能になるのではないかと考えた。

     尿失禁の原因としてエストロゲンの減少や骨盤底筋群の筋力低下などが挙げられているが、近年エストロゲンに代わり、エストロゲン様の作用を行うエクオールが注目されている。エクオールは女性の約半数で産生されるとされており、エクオール産生の有無が更年期症状にも影響するとされている。このことを知り、自身の体質を知ることで運動を含めた生活環境を変容するきっかけになるのではないかと考える。また、骨盤底筋群のトレーニングが尿失禁の予防として推奨されているが、骨盤底筋群のトレーニング以前に女性の運動習慣の低さが指摘されている。そこで、今回はエクオール検査を行い自身の体質を知ることで行動変容が起きるかを調査し、加えて骨盤底筋群のトレーニングを提示することで運動の習慣を定着させ、精神面、身体面にどのような影響を及ぼすのかを調査した。この調査をもとに更年期症状を呈し始める可能性がある30代後半~50代女性に対するアプローチを模索していきたいと考えている。

    【Ⅱ.活動方法】 対象は、研究の目的や方法に同意を得た30代後半~50代の女性7名とした。そのうち、出産経験のある女性は6名、出産経験のない女性は1名だった。初期評価として、エクオール値の測定と運動習慣、生活習慣に関する行動変容ステージ、更年期指数を調査した。調査方法としてGoogleフォームを用いた。

     エクオール検査結果の到着後、再度アンケート調査を実施するとともに運動指導を行った。運動は骨盤底筋トレーニングを中心とした有酸素運動で1日25分程度、週に3回以上実施することを目標として提示した。具体的な実施日や実施時間に指定はなく、普段の生活の中で可能な時間に実施することとした。3か月後、アンケート調査を実施し、運動介入前後での行動変容及び身体の変化を比較する。

    【Ⅲ.活動経過】 対象者7名中4名がエクオールを産生でき、3名が産生できない結果となった。検査結果を受ける前の運動に対する行動変容ステージに関しては2名「実行期」で、5名「関心期」であったが、検査結果を受けた後は「関心期」であった5名において「準備期」へと移行し運動に対する意識が高まっていた。特にエクオールを産生できなかった者に関しては、より運動などの生活習慣を改める必要があるため行動変容ステージが改善されたと考える。今後は、運動指導を継続すると同時に、運動の実施状況を確認していく。そして、3か月後、行動変容ステージ及び更年期指数等を用いて身体状況を再評価し、更年期世代の女性に対する理学療法の有用性について検討していきたい。

  • O-038 ウィメンズヘルス
    髙田 理恵子, 辻 陽子, 坂口 弥生, 福島 芳子, 次山 航平
    p. 38-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 女性のライフステージはホルモンの変動に左右され、更年期では多種多様な症状が現れる。症状の一つである泌尿器生殖器症状は運動療法が有効の場合があり、理学療法士がサポートできる分野である。しかし、理学療法士が女性をサポートできる職種だということが認知されているのか疑問に感じている。そこで、今回は理学療法士が女性の身体的サポートができることに対する認知度調査を行うとともに、泌尿器生殖器症状を含めた更年期症状に対する関心や実態を調査した。

    【対象】 熊本市女性のためのつながるサポート事業、UXProject等イベント参加者を対象とした。

     35歳~59歳の女性53名(30代6名、40代20名、50代27名)

    【方法】

    1. 質問紙記入 泌尿器生殖器症状を含む更年期症状に対する意識と実態調査、女性の身体的サポートにおける理学療法士の認知度について質問紙を用いて調査した。

    2. 倫理的配慮 本研究を行うにあたり、対象者には文書と口頭で説明を行い書面にて同意を得た。また、個人情報の特定ができないよう十分に配慮を行った。

    【結果】 更年期症状に対する意識調査では、更年期症状に対して関心がある84.9%(30代66.7%、40代100%、50代77.8%)、どちらでもない9.4%(30代16.7%、40代0%、50代14.8%)、関心がない5.7%(30代16.7%、40代0%、50代7.4%)、更年期症状に対して不安がある60.4%(30代50.0%、40代85.0%、50代44.4%)、どちらでもない24.5%(30代33.3%、40代5.0%、50代37.0%)、不安がない15.1%(30代16.7%、40代10.0%、50代18.5%)更年期症状があると感じたことがある64.2%(30代0%、40代70.0%、50代74.1%)、どちらでもない20.8%(30代33.3%、40代25.0%、50代14.8%)、感じたことがない15.1%(30代66.7%、40代5.0%、50代11.1%)、更年期症状に泌尿器生殖器症状(尿漏れ、頻尿、外陰部の違和感等)があることを知っている60.4%(30代66.7%、40代65.0%、50代55.6%)、知らない39.6%(30代33.3%、40代35.0%、50代44.4%)となった。

     泌尿器生殖器症状の調査ではトイレが近い・尿漏がある71.6%(30代33.3%、40代75.0%、50代77.8%)、膣や尿道の痛みがある43.3%(30代16.7%、40代15.0%、50代70.3%)という結果となった。

     女性の身体的サポートにおける理学療法士の認知度については、理学療法士が女性の身体的トラブルにサポートできることを知っている34%(30代16.7%、40代60.0%、50代18.5%)、知らない64%(30代83.3%、40代40.0%、50代81.5%)となった。

    【考察】 調査の結果では、更年期に関心のあるものが8割を超え、40代では100%だった。また、更年期症状に対して不安を感じるものも6割を超え40代では8割を超した。40代は更年期症状が身近で、何かしらの症状が出現している可能性が高いことが示唆された。更年期症状に泌尿器生殖器症状があることは約6割のものに認知され、7割以上のものに症状を認めた。認知度は、症状のある40代や50代に比べ30代が高いことが興味深く、フェムテックの推進により女性の健康に対する認識が若年女性に高まっていることが考えられる。また、泌尿器生殖器症状の一つである尿失禁はQOLに影響を及ぼすため問題視されている。原因の一つに骨盤底筋群の機能の低下が挙げられる。尿失禁に対する骨盤底筋群のトレーニングは「女性下部尿路症状診療ガイドライン」でも高い推奨グレードがつけられている。我々理学療法士は運動療法を専門としており、このような症状をきたす女性のサポートが可能と考えるが、その認知度は34%と低かった。この結果は理学療法士の今後の職域の拡大や啓蒙活動などの必要性が示唆された。

  • O-039 ウィメンズヘルス
    末吉 恒一郎
    p. 39-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 ワーク・ライフ・バランスや働き方改革が推奨される中、出産や育児をしながら働く環境作りは重要である。その中で、産育休による欠員に対する対策を講じ、患者・利用者へのリハビリテーション(以下、リハ)を滞りなく実施することを考える必要がある。そこで、当院リハビリテーション科(以下、当院リハ科)では、2015年度から出産希望アンケートを行い、5年先の実働人員をシミュレーションし人事管理を行ってきた。今回、本取り組みを検証し、今後の課題を明確にすることを目的とする。

    【方法】

    (1)2017年度 当院リハ科女性職員36人(平均年齢31±5.8歳)を対象とし、アンケート用紙を配布し回収した。

    (2)アンケートは、目的やビジョンを説明した上で、個人情報が特定できないように配慮し回答は任意とした。

    (3)アンケート内容は、下記の2点とした。

      1)将来、何人くらい子供が欲しいですか

      2)いつ頃、出産したいですか(今年、1年後~5年後、未定の7項目から選択。2人以上の場合は複数回答可とした)

    (4)調査期間:2017年度~2022年度の6年間

    (5)出産希望人数と実際の産育休人数の比較にSpearman順位相関係数を用い、有意水準は5%とした。

    【倫理的配慮】 本研究は当院倫理委員会の承認を得ている(承認番号23-08)。

    【結果】

    (1)回答状況 35/36人(回収率97.2%)

    (2)アンケート結果

      1)将来、何人くらい子供が欲しいですか(0人;3人、1人;6人、2人;12人、3人;13人、4人;0人、5人;0人、計34人)

      2)いつ頃、出産したいですか(2017年度;5人、2018年度;7人、2019年度;8人、2020年度;6人、2021年度;7人、2022年度;6人、未定;13人 年平均;6.5人、未定含めた年平均;7.4人)

    (3)実際の産育休人数

     2017年度;5.8人、2018年度;6.8人、2019年度;6.2人、2020年度;6.4人、2021年度;4.5人、2022年度;4.2人、年平均5.7人。

    (4)出産希望人数と実際の産育休人数の比較では有意な相関は認められなかった(p<0.05)。

    【考察】 出産希望人数と実際の産育休人数者においては、有意な相関は認められなかった。しかし、2017年度~2018年度に関してはアンケート結果と実際の産育休人数が近い傾向であったことから、アンケート調査は1~2年後の動向を予測する上では有効であったと思われる。

     本アンケート調査を実施した2017年度には、実働人員が不足していたことにより、必要なリハを提供できず、入院リハの一部制限や外来リハの新規受け入れ制限等の課題があった。これらを改善する目的にて本アンケート調査を実施し、必要な実働人員を確保するために本データを根拠として雇用管理(定数増員)を図ってきた(2017年度65人、2018年度68人、2019年度69人)。

     これにより、患者・利用者への必要なリハサービスを滞りなく提供することが行え、出産や育児をしながらも継続して働きやすい職場環境作りに繋がったものと考える。また、その他職員においては、欠員による業務負担を回避することになり、職員全体にとって本取り組みは有効であったと思われる。尚、本取り組みは、女性職員を対象とした出産希望アンケート調査であったため、男性職員の育児休業取得や病休や介護休暇については含まれていない。2021年6月に「育児・介護休業法」が改正され、2022年10月からは「男性の出生時育児休業(産後パパ育休)」が施行された。当院においても男性職員の育休ニーズは高まっており、現在の重点課題である。また、病休や介護休暇に関しても、過去の実績を踏まえて検討し、時代のニーズに対応した人事管理につとめていきたい。

  • O-040 ウィメンズヘルス
    松田 憲亮, 髙松 夏帆, 西屋敷 美紅
    p. 40-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 産後うつ病(Postpartum Depression 以下、PPD)の有病率は、周産期において12-19%程度と報告され、PPDは妊娠中または産後12ヶ月までに発生する軽度および重度のうつ病とされている。PPDの症状として、悲壮感、憂鬱、出産したばかりの子供への興味の不足や中傷に対する恐怖心があり、母親の幸福と子供の認知や運動発達に影響するとされている。PPDの予防に対する非薬物的手法として運動介入があり、これまでのメタアナラシスでは、PPD症状の予防または軽減における運動介入の有効性が検討されている。しかし、介入時期、運動介入の種類、研究の質が異なり、包括的な結論を妨げ、これらの知見を統合する研究は実施されていない。このシステマティックレビューとメタアナラシスでは、PPDの予防に対する運動介入効果だけではなく、1)介入時期、2)運動強度と頻度、3)重度の産後うつに焦点を当て、運動介入効果について検討することを目的とした。

    【方法】 データベースはPubMedを用い、2010年1月1日から2021年11月30日までに公開された妊娠中または産後女性を対象としたランダム化比較試験(randomized controlled trail;RCT)を検索した。システマティックレビューについては、PRISMA(Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses)ガイドラインに準じて実施した。最終的に採用した研究論文についてはバイアスの評価・検証を行い、メタアナラシスについては、Review Manager 5.3 for Windowsを用いてランダム効果モデルを実施した。サブグループ解析は、1)出産前の運動介入、2)産後期間の運動介入、3)運動強度(Borg Scale:12-14)、運動頻度(週3回)かつ指導付監視下の運動介入、4)重度のPPDに関する研究について実施した。

    【結果】 検索された研究は248件、重複等を削除後、246件がスクリーニングされ、最終的に13件が採用基準を満たした。バイアスリスク評価では、参加者・研究者の盲検化について13件中2件がhigh risk, 9件がunclearと判断された。アウトカム評価者の盲検化については13件中8件がunclearと判断された。メタアナラシスでは、PPDに対する有効な運動介入効果を示した(RR=0.65, 95%CI=0.51-0.82)。サブグループ解析では、出産前の運動介入(RR=0.61, 95%CI=0.44-0.84)、運動強度(Borg Scale:12-14)、運動頻度(週3回)かつ指導付監視下の運動介入(RR=0.54, 95%CI=0.36-0.81)、重度のPPD(RR=0.72, 95%CI=0.53-0.98)のいずれもPPDに対する有効な運動介入効果を示した。産後期間の運動介入については有効性を認めなかった(RR=0.70, 95%CI=0.49-1.00)。

    【結論】 PPDに対する出産前の運動介入、重度のPPDに対する運動介入は、予防効果が期待できる。運動強度ややきつい、運動頻度を週3回以上とした場合も予防効果が期待できるが、研究は全て出産前のものであり、出産前の運動方法として限定される。今回のシステマティックレビューに含まれた研究の研究方法の質があまり高いものばかりではなく、今後、適切に設計された研究によるエビデンスが求められる。また本研究は、ウィメンズヘルス領域の理学療法の発展において、エビデンスの構築に貢献する可能性がある。

一般演題8[ 骨関節・脊髄② ]
  • O-041 骨関節・脊髄②
    吉田 研吾, 白尾 泰宏, 濱里 雄次郎, 福島 佳織
    p. 41-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 膝前十字靭帯再建術(以下、ACL再建術)後における膝伸展・屈曲筋力の回復に関わる因子として、性別や年齢などが報告されている。円滑にリハビリテーションを進めていく上でそれらの傾向を踏まえ、介入を行う必要があるが、膝屈筋腱を用いたACL再建術では性別・年代別の筋力値の報告がなされている一方、骨付き膝蓋腱を用いたACL再建術(以下、BTB再建術)の報告は少ない。そこで今回、BTB再建術後における膝伸展筋・屈曲筋の筋力値を性別・年代別に算出し、傾向を把握することを目的に検討を行った。

    【対象と方法】 対象は2013年1月から2022年3月に当院で初回BTB再建術を施行した188例(男性88例、女性100例)とした。反対側損傷や再損傷、その他の靭帯損傷合併例、手術時に半月板縫合術を施行した症例は除外した。方法は、Isoforcee GT-380(オージー技研社製)にて測定した術後8ヵ月における角速度60°deg/Secでの膝伸展・屈曲筋力の健患比と患側の体重支持指数(以下、WBI)をカルテ内より集計した。10代、20代、30代、40代の男女別に群分し、筋力値を比較した。統計学的処理は多重比較として、Steel-Dwass法を実施し、有意水準は5%未満とした。

    【結果】 角速度60°deg/Secでの膝伸展筋力の健患比は、男性の10代が85.5%、20代が89.5%、30代が70.8%、40代が73.5%、女性の10代が76.7%、20代が74.9%、30代が66.1%、40代が67.8%で男女ともに10代・20代と比較して、30代・40代が有意に低値を示した(P<0.01)。角速度60°deg/Secでの膝屈曲筋力の健患比は、男性の10代が92.4%、20代が88.3%、30代が91.0%、40代が93.2%、女性の10代が94.4%、20代が92.4%、30代が89.8%、40代が90.3%でいずれも有意差は認められなかった。患側のWBIは男性の10代が1.23、20代が1.3、30代が1.11、40代が1.25、女性の10代が1.05、20代が1.0、30代が0.93、40代が0.93で、男性では20代と比較して、30代が有意に低値を示し、女性では10代と比較して、30代が有意に低値を示した(P<0.05)。

    【考察】 舩元らはBTB再建術において、30歳以上の症例では30歳未満の症例と比較して、筋力回復の遅延または低下が示唆されたと報告している。本研究では、角速度60°deg/Secでの膝伸展筋力の健患比において、男女ともに10代・20代と比較して、30代・40代が有意に低値を示し、船元らの報告と同様な結果となった。これらの要因として、術後の疼痛や可動域制限の有無、通院頻度、自主トレーニングの実施状況など様々な要因が考えられるが今回の検討では抽出に至らなかった。今後、要因分析を行い、その結果から30-40代への介入内容を再考することが課題として挙げられた。

    【結語】 角速度60°deg/Secでの膝伸展筋力の健患比が男女ともに10代・20代と比較して、30代・40代が有意に低値を示したが、要因の抽出には至らなかった。今後、要因分析を行い、30-40代への介入内容を再考する必要がある。

    【倫理的配慮】 本研究は当院の倫理審査委員会の承諾を得て実施した(承認番号NCR22-15)。ヘルシンキ宣言に基づき、個人が特定できないよう匿名化し、データの漏洩がないよう配慮した。

  • O-042 骨関節・脊髄②
    三代 菜月, 辛嶋 良介, 本山 達男, 川嶌 眞人
    p. 42-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 前十字靭帯(以下、ACL)損傷に対する治療は再建術が主流であるが、当院では新鮮ACL損傷例に対して一次縫合術を行っている。今回、一次縫合術施行後の経過について報告する。

    【症例紹介】 37歳の男性であり、現病歴は2022年6月12日に平坦な道を横歩きで移動していた際、右膝関節外反が強制される状態となり疼痛が出現、以降疼痛が持続し当クリニック受診となった。MRIのT2強調像での矢状断にてACL大腿起始部で連続性消失、身体所見でも徒手最大弛緩性の健患差は6 ㎜であった。

    【手術内容】 鏡視下にてACL全周に滑膜の連続性はあるが、大腿起始部で靭帯線維が一部露出していた。緊張も大腿側で緩く、滑膜内の完全断裂が示唆された。縫合糸を用いて断端部とACLを縫着させ大腿骨に骨孔をあけpull-outし、大腿筋膜に皮下縫合を行うことでACL全体に連続性と程よい緊張が得られた。

    【理学療法】 当院では受診後速やかにkyuro装具を装着して理学療法を開始し、術後3ヵ月は装具装着下で膝関節の異常運動を制御した状態で保護的早期運動療法を行う。

     本症例は腫脹と疼痛の訴えが少なく、術後1日目より保護的早期運動療法を開始し、退院日の術後12日目では装具下で可能な膝関節可動域である0°~120°が獲得できたが、extension lag 5°あった。

     退院後早期より仕事復帰となったが、装具の自己管理は良好であった。定期的な外来理学療法通院も可能であり、保護的早期運動療法を継続して行うとともに、下肢筋力増強トレーニング、神経運動器協調トレーニングを中心に行った。また、術創部の疼痛がなかった為、早期に荷重下での動的姿勢制御トレーニングを実施した。装具除去後は、疼痛に応じて膝関節の深屈曲可動域獲得に努め早期に可動域の獲得が得られた。

    【結果】 術後3ヶ月のMRIのT2強調像での矢状断にて、ACLは描出良好で連続性がみられ、セカンドルックでは、鏡視下にてACLは断裂部の緊張が良好で、太さも正常であった。

     身体所見は、術後3ヵ月後の徒手最大弛緩性は健患差0 ㎜であり、術後6ヵ月も同様の値で推移した。術後6ヵ月では右膝屈曲角度は145°で、膝伸展筋力と屈曲筋力ともに健患比100%となり、IKDCは症状29点、スポーツ38点、機能8点となった。

    【考察】 当院では以前より新鮮ACL損傷例に対し保護的早期運動療法を行っており、その治療成績は約70%がACLの緊張良好で靭帯の太さも2/3以上となることを報告している。一方、癒合には滑膜の連続性の程度や断端の状態に依存しており、それらが不良であると成績が低下する傾向にあった。このため、2018年より一次縫合術を追加し、靭帯の縫合架橋と骨孔による血液供給を行うことで、成績向上に努めている。本症例では滑膜が豊富な完全断裂であったことに加え、術後の疼痛や腫脹が少なく、積極的に保護的早期運動療法が実施できたことで良好な癒合靭帯の獲得に至ったと考えられた。

     また、保護的早期運動療法では確実なkyuro装具装着と活動レベルの制限を要する。しかし、未成年者や競技レベルのスポーツに参加している患者では、装具管理が不十分であったり、活動の制限に対する遵守が得られず靱帯癒合が不良となる場合も多い。これに対し本症例は、復職しつつも装具管理が良好であり、needも日常生活レベルであったことから、理解を得て理学療法が実施でき満足度が高い結果となった。

    【結論】 新鮮ACL損傷に対する一次縫合術を行った症例について報告した。滑膜の連続性も良好で術後早期より積極的な保護的早期運動療法を実施できたことで、靭帯の癒合や身体機能ともに良好な結果が得られた。

    【倫理的配慮】 ヘルシンキ宣言に基づき対象者には発表の趣旨を説明し、同意と承諾を得た。

  • O-043 骨関節・脊髄②
    潮﨑 遥
    p. 43-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 当院では人工膝関節全置換術(以下、TKA)術後の機能改善・維持を把握するため、術前・術後1年毎の機能評価に加え、変形性膝関節症患者機能評価尺度(以下、JKOM)を実施し、患者立脚型評価を調査している。今回、術後1年後JKOMに影響を及ぼす因子を調査することで、TKA術後のリハビリテーションの一助になるのではないかと考えた。

    【方法】 対象は変形性膝関節症の診断で初回TKAを施行され、追跡可能であった男性14名、女性44名、計58名(年齢74.8±7.15歳)とした。1年経過時の調査日数は365日±24日であった。術後合併症(感染症、深部静脈血栓症、人工関節のゆるみ)、関節リウマチ、中枢性疾患の既往のある症例は除外した。調査項目は、手術時の年齢、術前JKOM・日本整形外科学会膝痛疾患治療成績判定基準(以下、JOA)・膝関節可動域(以下、ROM)・Visual Analog Scale(以下、VAS)、術前の活動レベル、術後の歩行開始時期、入院日数、退院時JKOM・ROM・JOA・VAS、術後1年後JKOM・ROM・JOA・VASとした。1年後のJKOMに影響を及ぼす因子を調査するために、JKOMの総合点数と上記の調査項目の関連性を調査した。また、退院時及び術後1年後JKOMの中項目である、こわばり・日常生活の状態・ふだんの活動・健康状態と、上記の調査項目との関連性を調査した。統計処理はPearson順位相関係数、Spearman順位相関係数を用い、有意水準は5%未満とした。

    【結果】 術後1年後JKOMの総合点数と退院時のVAS(rs=0.27)及び術後1年後のVAS(rs=0.54)に正の相関を認めた。退院時及び術後1年後JKOMの中項目と各調査項目は相関を認めなかった。

    【まとめ】 本研究結果より、術後1年後JKOMに退院時のVASと術後1年後のVASが影響していることが示唆された。このことから退院時・術後1年後の疼痛を軽減させることでQOLの向上に繋がると考えられる。そのため、急性期において疼痛の早期沈静化を図り、適切な炎症対応の処置・リハビリテーションの提供・患者教育を行い、長期化させないことの工夫が重要だと考えた。

  • O-044 骨関節・脊髄②
    牛島 武, 今屋 将美, 東 利雄, 高井 浩和
    p. 44-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 人工膝関節全置換術後(TKA)の理学療法として、Doらは股関節周囲筋や、Sanoらは体幹筋群への介入により関節可動域(ROM)と歩行能力の改善を報告している。これらの報告を基に股関節周囲筋と体幹筋群に自重運動を段階的に実施しROMと歩容の改善が得られた症例を経験したので報告する。今回の症例報告は、患者に症例報告の主旨・目的を説明し同意を得た。

    【症例紹介】 60歳代女性(身長154.2 ㎝、75.0 ㎏、BMI 31.3)で、10年以上前から膝痛があり左TKA(PS)を施行した。膝関節の状態は、KL分類左右ともにstageⅣ、術前左膝他動ROM75°~-15°、FTA右185°、左術前184°、術後176°であった。術後34日にT字杖歩行で自宅退院となったが、膝ROM不良、歩行不安定感の残存あり、術後43日から外来理学療法(OPT)を週1回開始した。評価時、後弯-前弯姿勢を認め、左膝他動ROM80°~-10°、MMT(右/左)膝関節伸展5/4、屈曲4/3、股関節屈曲4/4、伸展4/4、外転4/4、内転4/4、腹直筋2、腹斜筋2であった。歩容では、quadriceps-avoidance gait(QA gait)、体幹傾斜が観察された。OPTとして、術側ROMと股関節周囲筋と体幹筋群の機能低下に対し、股関節と体幹の協調性を意識した自重運動(①背臥位股関節屈伸運動、開排運動)を開始し、段階的に ②腹筋運動と体幹回旋運動、③ステップ動作、④側方リーチ運動を追加し各10回介入した。介入5回目、10回目にデジタルカメラで歩行を撮影し歩行中の膝ROM角度と体幹前傾角、体幹傾斜角、重複歩距離をImageJにより計測した。

    【経過】 5回目介入前(術後83日)の評価では、左膝他動ROM 85°~-5°、歩行周期の初期接地期(IC)体幹前傾角右10°、左6°、立脚中期(MS)膝関節屈曲角右17°、左18°、右左MS体幹左傾斜角3°、遊脚期(Isw)膝関節屈曲角右54°、左51°、重複歩距離右837 ㎜、左890 ㎜であった。介入後(①②)の左膝他動ROM 105°~-5°。歩容は、IC体幹前傾角右7°、左4°、右左MS膝関節屈曲角15°、右左MS体幹左傾斜角2°、Isw膝関節屈曲角右60°、左55°、重複歩距離右1,108 ㎜、左1,043 ㎜となった。10回目、最終介入時(術後104日、①~④)は中間位姿勢様が観察され、左膝他動ROM 105°~0°。MMT(右/左)膝関節伸展5/4、屈曲4/4、股関節屈曲4/4、伸展4/4、外転4/4、内転4/4、腹直筋3、腹斜筋3であった。歩容は、ICの体幹前傾角右8°、左2°、右左MS膝関節屈曲角14°、右左MS体幹左傾斜角1°、Isw膝関節屈曲角右59°、左60°、重複歩距離右1,196 ㎜、左1,150 ㎜となった。

    【考察】 Satoらは体幹制御向上に伴うROMと歩行能力の改善を報告しており、本症例も体幹制御機能向上に伴う下肢筋緊張が変化し関節周囲軟部組織の滑走性が向上したことにより膝他動ROMが改善したと考える。また、股関節体幹制御機能向上に伴い下行性運動連鎖と協調性が高まり、QA gait、体幹傾斜角と膝関節屈曲角が改善したと考えられる。さらに、遊脚期の膝関節運動範囲は歩行速度と重複歩距離に影響することから、その結果として重複歩距離が増加した。最終介入時の歩行能力向上は、側方リーチ動作で内腹斜筋による仙腸関節の安定性の向上、ステップ動作による内転筋と股関節外転筋の共同活動による骨盤傾斜制御機能向上が影響したと思われる。また、股関節骨盤体幹制御向上により右MSの下肢支持機能が向上し、体幹前方移動が促され、左Isw時の膝関節制御に影響を及ぼし膝関節屈曲角が改善したと考えられた。自重運動による股関節周囲筋と体幹筋群への理学療法介入は、歩容(QA gait、右左IC体幹前傾角、MS体幹傾斜角、Isw膝関節屈曲角)と重複歩距離、術側ROM改善を促す一助となりえる。

  • O-045 骨関節・脊髄②
    菊池 光祐
    p. 45-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 人工膝関節全置換術(Total knee arthroplasty:以下、TKA)は特に変形性膝関節症に対して選択され、当院においても多く施行されている。当院におけるTKA術後の入院計画は3~4週であるが、在院日数が長期化する症例がしばしば見受けられる。そこで今回、退院遅延症例の術後成績を検討し調査することで、術後の理学療法介入や退院時の指導に活かせると考えた。

    【方法】 対象は2021年1月1日~同年12月31日の期間に変形性膝関節症によりTKAを施行し、追跡可能であった75例(年齢74.2±6.50歳)とした。関節リウマチ、中枢性疾患、入院中に特定の原因で理学療法の介入が出来なかった期間のある症例は除外した。全症例の在院日数の中央値である30日を基準とし、30日未満で退院可能であった群36例(以下、早期群)と30日以上であった群39例(以下、遅延群)の2群に分けた。調査項目は手術時の年齢・BMI・同居者の有無と歩行レベル、変形性膝関節症患者機能評価尺度(以下、JKOM)、日本整形外科学会膝痛疾患治療成績判定基準(以下、JOA)、疼痛(Visual Analog Scale:以下、VAS)、膝関節可動域(以下、ROM)の各項目を術前・退院時・術後1年でそれぞれ比較した。なお、退院時のJKOMについて在院中には回答が不可能な「ふだんの活動など」の全項目と「日常生活の状態」の買い物・簡単な家事・負担のかかる家事の3項目を除いた17項目にて評価を行った。統計処理はStudentのT検定、Mann-WhitneyのU検定を用い、群間の比較を行った。有意水準はすべて5%(P<0.05)未満とした。

    【倫理的配慮】 本研究は、当院倫理委員会の承認を得て実施した。

    【結果】 術前ではVAS(P=0.020)とJKOMの「普段の生活など」(P=0.019)で有意差を認め、その他の調査項目では有意差は認めなかった。退院時ではJKOMの除外項目以外の合計点(P=0.046)、「日常生活の状態」の合計点(除外項目を除く)(P=0.007)、「健康状態について」の合計点(P=0.048)で有意差を認め、その他の調査項目では有意差は認めなかった。術後1年では、すべての調査項目において有意差は認めなかった。

    【まとめ】 今回、在院日数の違いでは術後1年の成績に影響はみられなかった。有意差のみられた項目は術前のVASとJKOM「普段の生活など」と退院時のJKOM「日常生活の状態」、「健康状態」であった。藤本らは、膝OA患者のADLに大きく関連する基本動作として「椅子からの立ち上がり」「歩行」「段差昇降」の3つを挙げている。「日常生活の状態」の項目では階段昇降や立ち上がりに関しての質問項目があり、これらの動作は入院中の生活と比較して動作遂行の難易度は高く、動作時の困難感が生じやすいと考える。遅延群では日常生活動作の困難感や健康状態の低下が退院遅延につながったと推察する。そのため術後理学療法介入において、個々の生活状況に応じた日常生活動作を獲得し、反復的に練習することで退院後の生活に対する不安を解消していく必要があると考える。また術前において疼痛が強い症例や、普段の生活を制限している症例は在院日数が長くなる傾向にあり、術前において退院遅延を予測するうえでのひとつの因子になり得ると推察する。

  • O-046 骨関節・脊髄②
    鶴田 千尋, 染川 晋作, 内藤 卓也, 元尾 篤, 平川 善之, 花田 弘文, 藤原 明
    p. 46-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 変形性膝関節症患者における10m歩行時間は、日本版膝関節症患者機能評価との関連が示されている歩行能力を示す一つの指標とされている。また、変形性膝関節症患者に対する手術後の10m歩行時間についても日常生活動作との関連が示されており、術後早期から歩行速度を向上させることは重要であると考える。しかしながら、膝関節周囲骨切り術(Around the knee osteotomy:AKO)後患者における術後早期の10m歩行時間に関連する因子については不明瞭であり、明らかになることで入院中の理学療法介入の一助となり得ると考える。したがって本研究では、AKOを施行した患者の術後5週における10m歩行時間に関連する因子について調査することを目的とした。

    【方法】 対象は2019年3月から2021年4月までに変形性膝関節症と診断を受け、AKOを施行した222名のうち、術前と術後5週の評価が可能であった58名58膝とした。対象の内訳は、男性21名、女性37名、年齢64.7±8.7歳、体格指数(Body Mass Index:BMI)25.8±4.0 ㎏/m2、内側開大式高位脛骨骨切り術(Opening wedge high tibial osteotomy:OWHTO)21名、内側開大式粗面下骨切り術(Opening wedge distal tuberosity osteotomy:OWDTO)37名であった。評価項目は、術前と術後5週における10m歩行時間(秒)、歩行時痛(Numerical Rating Scale:NRS)、膝伸展可動域(°)、膝伸展筋力(㎏f/㎏)とした。術後5週の10m歩行時間に関連する因子について、説明変数を術前の10m歩行時間、術前と術後5週の歩行時痛、膝伸展可動域、膝伸展筋力、共変量を性別と年齢、BMIとした重回帰分析を行った。統計ソフトはR4. 1. 2を用いて、有意水準5%とした。

    【結果】 各評価項目の平均値と標準偏差を示す。10m歩行時間は、術前8.9±4.0秒、術後5週10.6±4.0秒、歩行時痛は、術前4.3±2.3, 術後5週2.2±1.3、膝伸展可動域は、術前-5.5±6.0°、術後5週-2.4±3.4°、膝伸展筋力は、術前27.6±13.2 ㎏f/㎏, 術後5週20.0±8.2 ㎏f/㎏であった。重回帰分析の結果、術後5週の10m歩行時間と術前の10m歩行時間(β;0.29, 95%CI;0.01~0.56, VIF;1.5)、術後5週の歩行時痛(β;0.14, 95%CI;0.72~2.2, VIF;1.1)との間に正の関連性を認め、術後5週の膝伸展筋力(β;-0.19, 95%CI;-0.33~-0.04, VIF;1.8)との間に負の関連性を認めた(調整済み決定係数;0.29)。

    【考察】 本研究結果では、AKOを施行した患者における術後5週の10m歩行時間には、術前の10m歩行時間と術後5週の歩行時痛、膝伸展筋力との関連が示唆された。このため、AKOを施行する患者においては、術前より歩行能力を向上させ、術後の疼痛管理と膝伸展筋力を回復させる工夫が必要であると考える。今後はOWHTOやOWDTOといった術式の違いや歩行形態の影響を考慮して検討すべきであると考える。

    【まとめ】 AKOを施行した患者に対するリハビリテーションにおいて、術前の歩行能力を高めること、術後5週の疼痛軽減と膝伸展筋力を向上させることは、日常生活動作との関連があるとされる10m歩行時間において重要であることが考えられた。

    【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき、対象者に説明と同意を得て実施した。

一般演題9[ スポーツ・健康① ]
  • O-047 スポーツ・健康①
    西 沙也佳, 木村 淳一, 井本 光次郎
    p. 47-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 ハンドボールは飛ぶ・投げる・走るという3つの運動要素が必要な競技である。身体接触が許容され、激しいプレーが多く、外傷・障害発生の頻度も高い。時には脳震盪のなど頭部外傷により生命に関わるケースもある。今回高校生ハンドボール競技大会期間中の外傷発生調査と医務活動の報告を行う。

    【対象と活動内容】 対象は2019年8月~2022年11月開催の大会に参加した県下高校生選手の男女(15歳~17歳)。活動内容は県下大会中において外傷発生時に選手または指導者からの対応要請があったもの、試合前後にテーピング含むコンディショニング要望があったものである。対象者に対し情報収集(所属名・ポジション(コートプレイヤー:以下、CP/キーパー:以下、GK)・性別・既往歴・受傷時間・受傷起点・所見)と適宜評価、対応を行った。

    【結果】 身体部位別は下肢が最も多く57%(132件)、上肢19%(44件)、頭頚部18%(42件)、体幹5%(10件)と続いた。外傷内容は挫傷・筋痙攣24%(55件)と最も多く、捻挫19%(43件)、打撲15%(34件)、出血8%(19件)の順で頻度が高かった。対応内容は全体に対しテーピング28%(100件)、アイシング26%(91件)、ストレッチ11%(40件)、経過観察9%(31件)と続いた。ポジション別ではCP91%(189件)、GK9%(19件)だった。

    【考察】 身体部位別では下肢、上肢、頭頸部、体幹に順に多く、傷害は挫傷や筋痙攣が多かった。ハンドボール競技の外傷・障害の特性として先行研究では、手・指の発生が多い結果との報告や、競技種目に関わらず足関節の外傷・障害を経験する(2004,中尾ら)との報告がある。しかし、部位は下腿部が最多であり先行研究とは異なる結果となった。症状の中で創傷は擦過傷含め裂創の発生は接触プレーや衝突・転倒時に皮膚への強い牽引ストレスや圧迫により生じ創縫合が必要なケースもある。また、運動中に発生する筋痙攣の要因は筋疲労や脱水、血中電解質の現象及び環境温が関係すると考えられるが、関係性のみならず予防策を含め、明確な科学的検証を行っている報告は渉猟しえない。我々は指導者や選手に対し大会時期や環境を考慮したコンディション調整や水分摂取の促しを行うことが必要だと考える。また、今回の調査は通年で行っており、季節による暑熱環境下等の条件、学年や経験年数の違い、covid-19情勢で、練習量や頻度、試合同様の練習の不足に関しても考慮が必要だった。加えてポジション別特徴では90%以上がCPの受傷だが、CPの中でも詳細に調査し、特性を理解する必要がある。また、大会の全体救護として依頼を受けているため、対象者の大会以前の罹患症状・疾患の詳細把握や、対応後の経過については収集可能な範囲で対応しているため不明瞭な側面も多く存在する。現在、大会時は県協会医務班員が1名以上常駐しているが、外傷内容により複数でサポートが必要な場合も有る。我々の課題は選手をはじめ、指導者を巻き込んだ体制作りと、スタッフ間の評価と対応にばらつきがないよう共通認識を持つ場を設けることが今後の課題である。

    【倫理的配慮、説明と同意】 当調査報告において、調査の趣旨を十分に説明し同意を得た上で、ヘルシンキ宣言に基づき実施し、個人を特定できないように無記名で情報収集を行った。

  • O-048 スポーツ・健康①
    澤村 拓朗, 大津 知昌
    p. 48-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 腰椎分離症は発育期におけるスポーツ活動などにより、腰椎椎弓の椎間関節突起間部に繰り返し負荷がかかることで発生する疲労骨折であり、当院を受診される発育期の患者の腰痛の大きな原因の一つとなっている。腰椎分離症の治療過程において、患者の病態理解の不十分さ、競技復帰への強い希望などにより治療が継続出来ず、骨癒合の遷延化、再骨折などを招いてしまう例も少なくない。そこで今回、運動療法介入と治療離脱患者の関係性に着目した。本研究の目的は、運動療法介入の有無が、患者の治療離脱の有無に影響を及ぼすかを明らかにすることである。

    【方法】 対象は2018年1月から2022年12月までに当院を受診し、「腰椎分離症(初期~進行期)」と診断され、骨癒合を治療目標とした患者143名(男性108名、女性35名、平均年齢14.3±2.079歳)とした。運動療法介入群(1か月以上の継続的な介入)と非介入群に分け、その違いで治療離脱(予定された再診日以降に来院がなかった患者)に差があるかを比較検討した。群間の比較はχ2乗独立性検定を用い、p<0.01をもって有意差とした。

    【結果】 運動療法介入ありの患者で、治療が継続できた患者は47名、治療離脱した患者が32名であった。運動療法非介入の患者では治療継続できた患者は16名と少なく、それに対し治療離脱患者は48名であった。χ2乗独立性検定の結果、有意な偏りが認められた(p<0.01)。

    【考察】 腰椎分離症患者に対する運動療法介入は、患者の治療離脱を阻止できる可能性があることが示唆された。発育期腰椎分離症の最大の治療目標は関節突起間の骨癒合であり、治療方法はスポーツ活動の完全中止と装具療法が主であるが、併せて運動療法介入を行う事が治療離脱を防ぐ事に有用である事が示された。身体機能改善などのコンディショニングを行うことは再骨折予防に有用であるとされているが、加えてスポーツ活動中止の受け入れ、装具装着へのコンプライアンスなど治療離脱の要因となる部分に対しても、時期に応じたトレーニング指導、精神的ケアにて治療の満足度を上げる事に繋がったのではないかと考える。一方で、運動療法介入群にも治療離脱患者は一定数存在し、改めて腰椎分離症患者のスポーツ復帰までの十分な介入を継続する事の困難さが露呈された。今後の展望として、最適なプロトコルの再考、患者教育用のパンフレット作成、競技指導者への医学的知見の啓発など、多岐にわたる患者サポートを病院全体で充足させていき、引き続き、病期に応じた考察や、運動療法別の効果比較に繋げていきたい。

    【倫理的配慮】 本研究は成尾整形外科病院倫理委員会の承認を得て実施した。(承認番号:23107)

  • O-049 スポーツ・健康①
    西山 裕太, 佐熊 晃太, 永江 槙一, 長谷川 隆史
    p. 49-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 本邦では、介護予防の重要性が高まっており、2006年度より介護予防事業の1つとして、基本チェックリスト(以下、基本CL)による評価が導入されている。基本CLは7領域、25項目で構成され、4項目以上に該当する者はプレフレイル、8項目以上に該当する者はフレイルに相当するとされている。菱井らは基本CLの運動器領域の得点と運動機能との相関を検討し、運動器領域の得点が身体機能の低下をスクリーニングする有効性を報告した。身体機能は閉じこもりや抑うつなどとも関連が報告されており、身体機能低下の要因としては多くの因子が関与している。そのため、運動器領域に該当し、更にその他の領域にも該当する者は身体機能が低下している可能性が高いと考えられる。そこで、本研究の目的は基本CLの運動器領域を含む複数領域に該当する地域在住高齢者の特性を明らかにすることとした。

    【対象】 対象は、A市の高齢者サロン体力測定会に参加し、基本CLへの回答が得られた52名で、男性14名、女性38名、平均年齢は77.6±7.5歳であった。

    【方法】 基本CLの運動器領域を含む複数領域に該当する者(複数群)とその他の者(対照群)の身体機能を比較した。また、複数群を対象として、運動器領域とどの領域に該当する場合に身体機能への影響を及ぼしやすいか検討した。身体機能評価は、握力、片脚立位保持時間(以下、片脚立位)、5回立ち上がりテスト(以下、SS-5)、Timed Up and Goテスト(以下、TUG)の4項目を実施した。4項目とも2回ずつ測定し、最大値を採用した。これに加えて、基本CLへの自己記入による回答を得た。

    【統計解析】 統計解析はMann-Whitney U検定を用いて比較した。統計解析にはSPSSver. 22(IBM社製)を使用し、有意水準は5%とした。

    【結果】 複数群と対照群との比較において、握力は複数群が21.7(13.0/43.9) ㎏([中央値(第1四分位数/第3四分位数)]、対照群が25.1(15.5/43.5) ㎏で複数群が有意に低値を示した(P<0.05)。SS-5では複数群が7.26(4.0/11.4)秒、対照群が5.77(4.09/13.3)秒で複数群が低値を示す傾向にあった(P=0.09)。また、複数群を対象とした検討において、片脚立位は運動器と抑うつに該当した者が19.2(1.0/60)秒、運動器と抑うつ以外の領域に該当した者が53.93(5.18/60)秒で運動器と抑うつに該当した者が有意に低値を示した(P<0.05)。

    【考察】 運動器領域を含む複数領域に該当している場合、筋力に影響を及ぼすことが示唆された。高齢者の筋力低下はADL, IADLに加え、QOLにも関与する大きな問題であり、早期のスクリーニングにより能力低下の進行を抑制することが重要であると考えられた。また、運動器、抑うつに該当した者ではバランス能力に影響を及ぼすことが示唆された。抑うつの原因は多岐に渡り、高齢者は抑うつを呈するリスクが高い。また、抑うつは外出頻度などの身体活動量に影響を及ぼすことが指摘されている。これらの事から、抑うつを呈することにより身体活動量が減少し、バランス能力に影響した可能性が考えられた。また、先行研究では抑うつと立位姿勢保持能力との関連を指摘しており、抑うつにより動作が緩慢となることで直接的にバランス能力に影響した可能性も考えられる。運動器、抑うつに該当した者は特に身体機能への影響が危惧され、早期の対策が必要となる。本研究においても、基本CLを用いた早期スクリーニングが介護予防の一助となる事を支持する結果が得られた。

  • O-050 スポーツ・健康①
    本田 啓太, 久保下 亮, 八巻 魁成, 木下 夏美, 新井 勇人, 枝尾 久美, 荒木 理恵, 松原 誠仁, 楢原 真二
    p. 50-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 片脚着地動作時の動的バランス能力低下は、膝前十字靭帯損傷や足関節捻挫の危険因子であり、Time to stabilization(以下、TTS)によって評価される。TTSは前後、側方及び上下方向の床反力が片脚着地後に安静立位時と同等に戻るまでの時間を評価するものであり、この時間が短いほど動的バランス能力が高いことを意味する。近年、TTSは競技レベルとも関連することが報告され、競技レベルが高いサッカー選手における鉛直方向のTTSは小さいことが明らかにされた。このようにTTSはスポーツ傷害や競技レベルと関連することが明らかにされてきたが、TTSと下肢筋機能の関係は不明な点が多く、動的バランス能力指標であるTTSを改善するための理学療法介入は確立していない。本研究の目的は、競技レベルの高い女性アスリートを対象として、片脚着地動作におけるTTSと膝関節周囲筋機能の関係を明らかにすることとした。

    【方法】 ハンドボール及びバスケットボールの実業団チームに所属する女性アスリート15名を対象とした。チームが実施する練習と試合への参加が困難なもの、足及び膝関節靭帯損傷の既往があるものは除外した。本研究は研究者の所属する倫理審査委員会の承認を得て実施した。対象者に対して書面及び口頭で研究内容の説明を十分に行った後に参加への同意を得た。対象者に身長の40%に相当する距離を前上方に両足でジャンプさせ、その後の片脚着地動作を分析対象試技とした。跳躍距離の中央には30 ㎝ハードルを設置し、跳躍高を統制した。対象者は着地後に速やかに姿勢を安定させ、その姿勢を5秒間保持することを指示された。着地動作は30×60 ㎝の床反力計(AMTI社製)を用いて計測され、先行研究に準じて、前後、側方及び上下方向のTTSをそれぞれ算出した。膝関節周囲筋の機能は等速性膝関節屈曲・伸展筋力を指標として、測定にはBIODEX 3(Biodex Medical System社製)を用いた。低速度(60 deg/s)と高速度(180 deg/s)条件のそれぞれで、体重にて正規化した最大トルクと膝関節屈曲/伸展トルク比を計測した。データ分析と統計学的処理にはMATLAB R2019b(MathWorks社製)を使用した。TTSと等速性膝関節屈曲・伸展筋力の関係を調べるためにピアソンの積率相関係数を用いた。有意水準は5%とした。

    【結果】 高速度で計測した膝関節筋力指標はTTSとの間に有意な相関関係を認め、右側の膝関節屈曲/伸展トルク比と鉛直方向のTTSの間に有意な負の相関関係が見られた(r=-0.56、p=0.029)。左側についても同様に膝関節屈曲/伸展トルク比と鉛直方向のTTS間に負の相関関係を示したが、有意ではなかった(r=-0.37、p=0.177)。膝関節屈曲/伸展トルク比は右が0.65±0.10、左が0.64±0.13であり、鉛直方向のTTSは右が1.16±0.09秒、左が1.15±0.09秒であった(平均値±標準偏差)。なお、偽相関の可能性を検討したが、除脂肪体重及び膝関節最大トルクと鉛直方向のTTSの間に有意な相関関係はなかった。

    【考察】 本研究の結果は、高速度での膝関節屈曲・伸展運動中に発揮される膝関節伸展筋力に対する膝関節屈曲力が大きい選手ほど、着地後における鉛直方向の床反力を安静立位時と同等に戻すまでの時間が短かったことを示した。大腿四頭筋の発揮筋力に対するハムストリングスの発揮筋力の大きさは肉離れや膝前十字靭帯損傷の予防の観点からも重要視されている。本研究では動的バランス能力の視点からも、大腿四頭筋に対するハムストリングスの発揮筋力が重要であることを示唆した。

    【まとめ】 高速度運動時の膝関節伸展筋力に対する屈曲筋力の比率が低い実業団女性アスリートでは、片脚着地動作時の動的バランス能力が不良であった。

  • O-051 スポーツ・健康①
    平野 琳太郎, 牧 健一郎, 大場 俊二
    p. 51-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 サッカーのキック動作における各相ごとの不良動作は、スポーツ障害を引き起こす要因の一つである。当院では、成長期サッカー選手が多く受診しているため、今回フォームチェックシートを用いてどのような不良動作が見られるかを、今後の治療や統合と解釈の一助とすることを目的に調査した。

    【対象と方法】 2023年4月から2023年8月までの期間に当院を受診し、膝関節スポーツ障害と診断された、13~15歳のサッカー選手を対象とした。方法は、ゴールを模した壁から約11mの位置にあるペナルティスポットにボールを置き、壁に向かってシュート性のキックをする様子を、矢状面及び前額面方向より動画撮影した。その後、広瀬らの報告を参考に作成したフォームチェックシートを用いて、各相ごとの不良動作のチェック及び選手への説明を行った。

    【結果及び考察】 テイクバック~インパクト相においての後方重心により、軸足の大腿直筋の過度な遠心性収縮が起こることで、膝蓋腱や脛骨粗面にメカニカルストレスが加わり、膝蓋腱炎やオスグッドシュラッター病を引き起こすと考える。また、対側上肢の不使用により予備伸張が失われ、代償動作として蹴り足の膝関節伸展運動が増大し、膝伸展機構へストレスが加わると考える。

     これらの影響を踏まえると、患者本人が自身のフォームをチェックし、客観的に不良動作を確認することは重要である。また、問題点が視覚化されることで、実施される治療プログラムへの理解や意欲の向上、モチベーションを保った治療の進行が期待出来る。

     しかしながらも、我々が第一に介入すべき点は筋力や関節可動域等の身体機能面であり、それらの改善によって不良動作が解消され、症状の改善に繋がることが目標である。治療を行う上で、あくまでも1つのツールであることを念頭に今後も使用していき、サッカーにおけるスポーツ障害の治療及び防止に繋がることを期待する。

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