九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第27回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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  • 宮本 浩幸, 児玉 祐二, 小田 節, 川越 春樹, 馬場 敬子, 井崎 守, 房野 絹可, 尾崎 勝博
    p. 151
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     鼠径部痛症候群は、サッカー選手に特徴的な疾患である。発生要因としては、股関節周囲の拘縮や筋力低下、インサイドキック時の上体の後傾、それに伴う長内転筋の筋活動の増加等が報告されている。
     そこで今回、鼠径部痛症候群及び腰痛の発生要因について以下の方法で検討した。
    【対象及び方法】
     鼠径部痛症候群、腰痛を訴える選手3名(高校生2名、社会人1名:以下P群)。痛みを訴えない選手3名(高校生2名、社会人1名:以下N-P群)とした。
     1)鼠径部痛症候群の機能評価項目:(1)股関節のROM、(2)抵抗テスト(股関節内転・SLR・上体おこし)での疼痛部位、(3)股関節屈曲+内転強制での疼痛再現性テスト。
     2)腰痛及び体幹ROM:(1)FFD、(2)体幹伸展、(3)Kemp-テスト。
     3)インサイドキックフォーム分析のチェックポイント:(1)ボールに対する軸脚の位置、(2)キック脚のテイクバック、(3)ボールインパクト時の体幹の位置、(4)キック脚のフォロースルー(鼠径部周辺にストレスがかかっていないか)をビデオ撮影にて、矢状面及び前額面から観察し、P群、N-P群の比較を行なった。インサイドキックは十分なウォーミングアップ後にゆっくり正確なキックから、全力で強いキックを行なわせた。
    【結果及び考察】
     1)機能評価の股関節ROMは、P群、N-P群に著明な差はないが、P群は鼠径部周辺の筋緊張が亢進していた。P群の抵抗テストは股関節内転で長内転筋、股関節屈曲+内転強制で鼠径部周辺に疼痛を認めた。2)腰痛及び体幹ROMはP群にFFD制限がみられ、体幹伸展、Kemp-テストでPVMに腰痛を認めた。3)インサイドキックフォームチェックでは軸脚の位置はP群、N-P群で一定はしなかった。P群はテイクバックが大きく鼠径部周辺筋群への伸張ストレスが予測された、N-P群は股関節外転・外旋位でテイクバックが小さかった。P群は、体幹が後傾位で回旋し、腰部に伸展・回旋ストレスが過度に加わる事が予測された。N-P群は、体幹が後傾せず腹筋群が緊張し、腰部への伸展・回旋ストレスは回避されていた。P群は、体幹後傾位でキック脚が股関節屈曲・内転しており、鼠径部周辺へ圧縮ストレスが生じ、繰り返される事で鼠径部痛症候群が発生すると予測された。N-P群の体幹は、腹筋群が緊張し、キック脚は股関節屈曲・外旋し鼠径部周辺への圧縮ストレスを回避していた。
     今回、鼠径部痛症候群、腰痛の発生要因を検討した結果、機能評価の股関節ROMはP群、N-P群に著明な差は認めず、インサイドキックフォームの違いに鼠径部痛症候群及び腰痛発生の関連が認められた。今後症例数を増やし更に検討していきたい。
  • 多武 里恵, 安永  雅年, 益満 美寿, 田中 政敏
    p. 152
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     橈骨遠位端骨折は、転倒・転落時に起こる骨折の中で股関節頚部骨折と並び受傷頻度の高い疾患である。手関節の可動域を拡大する事は、日常生活や復職に於いて筋力の回復と伴に重要な因子である。臨床上、手関節の他動的関節可動域(以下P・ROM)はある程度改善が認められているにも関わらず、P・ROMに比較して自動的関節可動域(以下A・ROM)は低下を示す症例を多く経験する。
     今回、橈骨遠位端骨折に伴うP・ROMとA・ROMの差(以下、ラグと称す)について若干の知見を得たので報告する。
    【対象】
     対象は平成16年10月から平成17年3月の6ヶ月間に受傷した橈骨遠位端骨折患者9例9肢(男性5名・女性4名、右側4名、左側5名)であり、観血的治療8例(創外固定1例、プレート固定7例)、保存的治療1例であった。平均年齢60.9±10.7歳。受傷から調査日までの期間は平均13±6.7週であった。
    【方法】
     まず手関節背屈・掌屈においての関節可動域測定を行い、P・ROMとA・ROMの値の差よりラグ値を求めた。ラグに影響を及ぼすと考えられる受傷からの運動開始期間(自動・他動)、腫脹の有無、内出血の有無、安静時痛の有無、手関節筋力、握力の6項目について調査し、これらの因子と手関節の背屈および掌屈ラグとの関連について検討を加えた。また、健側ラグ値と患側ラグ値を用いてt検定を行い、有意差を調べた。
    【結果・考察】
     平均的ラグは、患側背屈18.3°・掌屈15°健側背屈ラグ6.7°・掌屈6.7°であった。対象者9名全症例に手関節背屈及び掌屈時に於けるラグを認め、背屈のみではあるが患側ラグと健側ラグにも有意差を得た(P<0.05)。各因子別分析から、受傷からの運動開始期間(自動・他動)、腫脹の有無、内出血の有無、安静時痛の有無、握力には有意差は認められなかった。ラグに最も影響を及ぼす因子の一つである筋力との関係では、手関節筋力の増強と伴にラグは減少する傾向が認められた。
    ROM制限をもたらす要因としては、(1)関節の変形・不動等による関節性のROM制限、(2)炎症・不動等による軟部組織性のROM制限、(3)出血・腫脹・不動などによる筋性のROM制限があると述べている(Halar.E.M.Bell.K.R.1988)。今回、我々の研究でも筋性(筋力低下)による影響が認められた事は、この可動域のラグ要因と一致するものと思われる。今回は、症例数が少なく充分な検討ができなかった。症例数を増やし今後さらに追及していき、最終的には治療法への示唆へとつなげていきたい。
  • 迫口 志穂里
    p. 153
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】在院日数の短縮が進む中、手指再接着後のリハビリテーション(以下リハ)において短期間での機能向上を図ることが求められている。一方、リハ開始時において手指以外の肩・肘・手関節に関節可動域制限を認めることが多く、機能予後における不良因子となっている。そこで当院における在院中の早期リハについて関節の可動域制限(以下可動域制限)を中心にどのような傾向にあるのか、現状を分析したので報告する。
    【対象】平成14年1月から平成15年7月までに完全切断あるいは不全切断のため当院にて再接着術を行った男性28例41指、女性6例9指、合計34例50指。手術時の平均年齢44.0±16.8歳、単指損傷24例、複指損傷10例
    【方法】リハ実施期間、在院日数、リハ開始までの期間、シーネ固定期間、可動域制限を診療録を基に調査した。手指切断の分類には玉井のZone別分類を使用した。分類別にはZoneI:4指、ZoneII:18指、ZoneIII:19指、ZoneIV:9指であった。
    【結果】平均在院日数は24.1日、平均リハ実施期間は12.9日であり、いずれもZone別による比較では有意差は認められなかったが、ZoneIII・IVにおいて長い傾向にあった。手指以外の可動域制限の併発率も同様にZoneIII・IVで高く、複指損傷例が多い傾向にあった。また、それぞれ手指以外の可動域制限部位別に比較を行ったところ、ZoneIでは手関節、ZoneIIからIVと中枢に近づくに従い、肘関節や肩関節の制限の頻度が高くなる傾向にあった。シーネ固定期間は単指損傷で8.9日、複指損傷で12.8日。リハ開始時での可動域制限の併発率は、シーネ固定中に開始した場合はリハ開始まで平均8.9日で57%、シーネ除去後開始の場合はリハ開始まで平均13.1日で91%であった。
    【考察】再接着後2週間はシーネ固定を行い、bed上安静となる為、2週後よりリハを開始するといったプログラムが一般的であるが当院においては、リハ開始が10日前後と早期からの開始となっているにもかかわらず可動域制限を併発していることが認められた。ZoneIII・IVでは複指損傷例が多く、この部位は「no man’s land」とよばれ骨癒合不全や腱の癒着などを起こし、血行不全を引き起こしやすいことから注意深く治療を進めなければならないことから可動域制限の要因と考えられる。シーネ固定期間において複指損傷例のほとんどがリハ開始時シーネ固定中であり、シーネ除去後にリハ開始となる例では可動域制限の併発率が高い傾向が認められることから、シーネ固定期間中あるいはbed上安静時期におけるポジショニング等を含めた患者指導やシーネ除去後の積極的な関節可動域訓練・病棟での自主訓練指導が重要と考えられる。今後はこのことを考慮した再接着後のリハプログラムを検討し実施していきたい。
  • -多発性関節拘縮症児の経過をおって-
    梶山 真紀, 永井 良治, 半田 亜紀, 上田 信弘, 上田 智子, 吉野 賢一, 市村 千裕, 吉野 絵美, 井上 明生
    p. 154
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    アキレス腱延長術および後内方解離術を施行した多発性関節拘縮症の女児を担当した。多発性関節拘縮症の報告は少なく,また拘縮の程度によって予後は一定ではない。本児は術後早期においてつかまり歩きの獲得が出来た。そこで今回,術前・後の関わりをふまえ,若干の知見を得たので報告する。
    【症例紹介】
    1歳6ヶ月の女児。診断名は多発性関節拘縮症,両側内反足症である。現病歴は1歳2ヶ月右アキレス腱延長術、後内方解離術、1歳3ヶ月左アキレス腱延長術,後内方解離術施行.1歳4ヶ月から荷重開始となる。生育歴は寝返り,生後 6ヶ月.座位保持,生後 8ヶ月.ずり這い,生後11ヶ月である。
    【術前の理学療法評価】
    足関節の可動域は左右共に背屈-40°。足背からは内転,前方からは回外,側方からは尖足,後方からは踵内反を呈した拘縮状態である。
    【経過及びアプローチ】
    <術前>
    術後の早期つかまり歩きの獲得に向け,術前より立位経験を促すとともに高這いや骨盤中間位での遊びによる体幹筋群の促通を図った。また,高座位による上肢操作から立位保持,その後立位保持での上肢操作,起立へと展開していくことで,抗重力筋である大殿筋や中殿筋・腸骨筋,大腿四頭筋などの発達上重要となる筋群の促通を図った。術前(生後1歳1ヶ月),過度な腰椎前彎,骨盤前傾を認めるが,内反尖足位で体幹を前屈させ台にもたれかかる様な姿勢で上肢支持による立位保持が可能となった。
    <術後>
    術後1ヶ月(生後1歳4ヶ月)ギプス除去し,足関節背屈(右)-30°(左)-20°の改善が見られ,踵内反も減少した。術後の問題は,術創部の疼痛による足底過敏,皮膚・足底筋膜の短縮,術創部の癒着による足関節背屈可動域である。術後1ヶ月では感覚入力を促し,同時に装具を作成し体重負荷を実施した。術後2ヶ月(生後1歳5ヶ月)では自力で床からのつかまり立ちが可能となった。しかし,足関節背屈(右)-10°(左)-15°と十分ではなく,皮膚や術創部の柔軟性の改善を重視し,ストレッチを実施した。その後,立位で体幹回旋を促し,proneボードにて股関節伸展位での荷重を促した。その結果,十分な背屈を獲得し,正中位での立位保持が可能となった。術後3ヵ月(生後1歳6ヶ月)で足関節背屈(右)5°(左)0°まで改善し,体幹の前屈,腰椎前彎,骨盤前傾が減少し,つかまり歩き獲得できた。また、支持なしで数秒間の立位保持が可能となった。
    【考察】
    今回,術後を想定し,術前より立位経験を促し,体幹・抗重力筋群の促通を図ったことで,つかまり歩きに必要な能力を獲得することが出来,術後の治療もスムーズに展開できたのではないかと考える。今後はもっと実用的な歩行を獲得していく必要がある。また成長に伴った問題に対しても本児に合った方法でアプローチすると同時に,補助装具などの検討もしていきたいと考える。
  • 転倒・転落、表皮剥離の現状と対策
    山下 太
    p. 155
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    北九州病院グループ(以下グループ)は福岡県下6市区町村、9病院1施設にリハビリテーション科(以下リハ科)を有する。今回、各施設のリハ科で生じたインシデント・アクシデントの現状把握、各事故を分析し対策を講じた。今回は発生頻度の高かった転倒転落、表皮剥離に関して報告する。
    【調査方法および調査内容】
    H15.9.1からH16.8.31までに各リハ科で提出された医療安全報告書を基とした。調査内容はグループ内研究班において調査項目を検討し、発生日時、発生場所、対象者、当事者、事故種類、原因、発生状況と対策について抽出した。
    【結果】
    調査期間中の総件数は85件で、発見事例8件を除く77件を対象とし、分析は調査項目の事故種類を柱とした。事故種類別件数は転倒・転落30件、表皮剥離17件、機器誤操作6件、異食4件、その他20件で、転倒・転落、表皮剥離が61%であった。
    【各事故別発生状況と対策】
    転倒・転落の発生原因は確認観察注意不足60%、思い込み24%、判断ミス11%、知識技術不足5%であった。発生状況は訓練時(訓練中、セッティング中等)63%、非訓練時(待機中、休息中等)37%であった。原因多数を占めている確認観察注意不足が生じる要因として、患者様が機能的に安定し、セラピストが全体像の把握が十分となり、思い込み、慣れが生まれ確認観察注意不足が生じると考えられる。対策として、転倒・転落リスクの高い患者様や転倒経験者のリストを作成し周知徹底を図ること、監視が外れる際は、患者様へのオリエンテーションを徹底し、他スタッフへ監視を依頼すること、準備が必要な訓練を行なう際は事前に行っておくことを講じた。表皮剥離の原因は確認観察注意不足、知識技術不足が85%で周囲環境に対する配慮不足、介助技術未熟、手順不順守が起因していた。対象者の自立度はB2、Cランクが82%と重症度が高い方の発生が多い傾向にあった。発生状況は車椅子に起因する発生が76%で、移乗時が70%を占めていた。損傷部位は前腕、手背、膝、下腿、足部で、下肢損傷はフットレストが起因していた。その他は重錘使用時、エルゴメーター使用時、いざり動作時であった。対策として、上肢損傷に関しては移乗前の肢位確認、下肢損傷に関しては患者様の皮膚露出を避けることを講じた。車椅子に関しては設置位置の確認、スウィング可能な車椅子導入の検討、フットレストカバーの使用、車椅子の定期検査、移乗に技術が必要な患者様や重症度の高い方に対し複数の介助者で実施すること、定期的な技術講習を実施し、院内レベルでの技術研鑽を図ることを講じた。
    【終わりに】
    今回の調査で、リハ科のみでなく、他職種と連携を図り医療安全チームの一員として積極的な参画が必要と感じる。今後、各施設において今回講じた対策を実施しインシデント・アクシデントの減少に貢献できたか否かアウトカムを探っていきたいと考える。
  • 森山 雅史, 渕野 浩二, 北原 浩生, 田中 智香, 齊藤 智子, 山鹿 眞紀夫, 古閑 博明
    p. 156
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    車椅子(以下;W/C)シーティングは、ADL場面で大きな影響を与える。そのため、各個人に合わせた調整と座るための椅子という観点を基に、W/C選定は重要である。しかし、当院では、標準型W/Cがほとんどであり、座るための機能は低く、各個人の身体状況や環境、生活能力に合わせた選定が不十分な状況にあった。今回、院内W/C充実のため、保守管理システムを構築させ、新規購入に伴い、作業療法士(以下;OT)の働きかけと購入後の役割について若干の考察を加え報告する。
    【W/C購入に向けての取り組み】
    現状把握とモジュラー型W/C各種の選定において、下記の事項を実施した。
    1.当院W/C現状把握と購入計画
    リハビリテーション部で院内W/C総数140台のタイプ・サイズ及び破損状況を確認した。これにより、不足台数・種類が明確となり、新規購入計画を立案した。
    2.W/C研修会開催
    W/Cは搬送させる為の道具という認識傾向にあった職員に対し、各個人に合わせた選定と生活構築のための重要な福祉用具という意識付けを目的とした研修会を実施した。アンケート結果では、W/Cを搬送用道具のように考えていたが、褥瘡予防や自立支援に向けての使い分けを知ることができた、患者様に役立てたい、などの肯定的な意見が多く聞かれた。
    3.W/Cタイプと規格の調整
    モジュラー型の選定については、各個人に合わせた選択・調整が行えるように当院での疾患割合、病棟機能、高齢者の身体特性などを考慮し、高さ・駆動輪・キャスター・座幅等において、モジュラー型W/C各種の特性を活かして選定することを提案した。
    【購入後フォローアップ】
    モジュラー型W/C導入後は、有効活用とシーティング技術の向上に働きかけを実施した。
    1.有効活用について
    看護部を中心とし、各個人の身体機能や生活能力に合わせた介助方法や他の福祉用具との使い合わせを考慮した活用方法やW/C選定方法など、実技を含めた研修会を実施した。
    2.シーティング技術向上について
    PT・OTを中心に、セラピストの技術向上を目的とし、モジュラー型W/Cでのシーティング研修会を実施した。
    【結果と考察】
    今回、OTとしてシーティングの視点からW/C購入に関わることで、利用する使用目的や身体機能、生活能力に合わせた選定が可能となった。専門的視点を持つOTが購入段階から具体的な規格調整において介入していくことは、各個人に合わせた選択・調整を可能とし、有効かつ重要であると思われる。
    購入後は、導入されたW/Cの有効活用に向け、技術や知識などの情報発信を行い、全職員で共有する事が重要と思われる。このチームアプローチにより、各個人の持つ能力やADL・QOLの向上、早期の自立支援につながものと思われる。また、シーティングに関しては、スタッフの技術・経験不足が懸念されるため、継続した研修会開催が必要と思われる。
  • -車椅子の台数・状態チェック調査をもとに-
    宮崎 絹子
    p. 157
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当院の車椅子管理は、各病棟と施設課で行なっていた。今回、車椅子の管理・整備の改善、使用者によりよく適合した車椅子の新規購等の視点からの調査・検討がOTに依頼された。そこでまず院内の車椅子の台数および車椅子の状態の把握が必要と考え調査を行なった。標準型車椅子に関する今回の調査結果および考察を以下に報告する。
    【方法】
    調査日時:平成16年12月22日から平成17年1月14日。車椅子低使用時間帯に実施。各車椅子は以下の11項目について調査・点検した。
    1)タイプ2)サイズ3)背シートの種類4)リクライニング有無5)ブレーキの種類6)アームサポートの種類7)レッグサポートの種類8)介護用ブレーキの有無9)ハンドリムの種類10)その他接続品11)整備の必要性
    【結果】 単位:台
    ・車椅子の総数:213台
    ・背シートの種類:固定式195、折りたたみ式18、着脱式4
    ・リクライニングの有無:有1、無212
    ・ブレーキの種類:レバー式35、タックル式178
    ・アームレスト:固定208、着脱3、跳ね上げ2
    ・レッグレスト:固定209、スウィング式4
    ・介助用ブレーキ:有9、無204
    ・ハンドリム:プラスチック66、ステンレス92、波型プラスチック50、その他5
    ●不備の箇所数BEST5
    1:タイヤの擦れ43台
    2:ブレーキの破損40台
    3:空気漏れ39台
    4:むしゴムの紛失36台
    5:パンク5台
    【考察】
     車椅子は歩行と比較してリスクも少なく、歩行能力の代行、介護道具として使用されており、広く生活を支援している。しかし、福祉用具の事故件数では、車椅子は他の福祉用具と比較して事故が特に多い1)。吉田2)は、中でも車椅子使用時、本人または介護者などの人に起因するものが全体の6割を占めていると述べている。車椅子の様に強度・耐久性が高い機器ほど細かい破損部分等には目が届きにくい傾向がある様に考えられる。今回の調査結果からも明らかなように、車椅子の破損によるリスクに対する意識の低さや、メィンテナンスに関する意識の低さが推測される。
    車椅子は身体に密着させて使用するものではなく、適合については気を使う必要がないと思われがちである。車椅子の保守管理も、怪我やトラブルの発生時にその箇所の整備を修理する程度のものではないだろうか。また、メィンテナンスシステムが確立されていないことも現状だと思われる。
    怪我や大きなトラブルを未然に防ぐためには、日常のメィンテナンスが重要である。一見無駄に思える点検も、怪我やトラブルの前兆を早期に発見するチャンスである。また、それらを継続させていく為にはフォローアップ体制の確立が重要である。そのためには、フォローアップまで確実に実行できる総括的管理システムの構築が必要であり、使用者の身体に適し、目的にあった車椅子の選択、メィンテナンスの実行、更にその必要性を周知させる事は、リハビリテーションチームの責任であると考えた。
    【まとめ・課題】
    院内における車椅子の調査・検討した結果、改善の為には下記の事項が必要である。
    ・リハビリテーションスタッフが車椅子に関する意識・知識・理解の向上を図る。
    ・他職種へも車椅子に関する教育指導を行い、意識・知識・理解の向上を図る。
    ・今後、車椅子の定期的な点検を継続させ、院内の車椅子管理と事故の防止に努め、病院としてのメンテナンスシステムを確立させる。
    【引用文献】
    1)(財)テクニカルエイド協会:福祉用具プランナー養成研修追加テキスト.1999.
    2)OTジャーナルVOL.36 NO.6テクニカルエイド 福祉用具の選び方・使い方:吉田隆幸:導入におけるリスク管理(538!)541)
  • 車椅子の劣化箇所
    橋口 貴大
    p. 158
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    車椅子は病院で汎用される医療福祉用具であるが、ヒヤリハットの報告の多い機器でもある1)。当院では車椅子の総括的な管理体制は無く、車椅子の整備不良等に関しては我々療法士や病棟スタッフが日常業務の中で発見したり、患者様に指摘され気付くことが多い。今回、当院所有の全ての車椅子の調査をおこなった。その結果をもとに整備不良や破損・劣化を起こしやすい箇所を指摘し、今後の課題として提案する。
    【調査方法】
    平成16年12月22日から翌年1月14日の車椅子を使用度の低い時間帯に療法士が調査した。各車椅子は、次の11項目について調査・点検した。(1)タイプ、(2)サイズ、(3)背シート、(4)リクライニング、(5)ブレーキ、(6)アームサポート、(7)レッグ、(8)介助用ブレーキ、(9)ハンドリム、(10)その他、(11)修理の必要性・箇所
    【調査結果】
    当院所有の全ての自走式車椅子は総数212台。うち修理・調整の必要なものが137台。介助式車椅子総数13台。うち7台が修理・調整必要。なお、必要な修理・調整の内訳は以下の通りであった。
    空気圧不良41件、タイヤ磨耗・劣化41件、ブレーキ不具合35件、フットプレート故障・キャップ紛失14件、パンク7件、シート弛み5件、ブレーキ部分の破損・紛失・劣化5件、レッグレスト開閉不良2件、空気漏れ防止キャップ紛失34件、キャスター破損3件、アームレスト劣化2件、車軸ずれ2件。
    【考察】
    今回の調査から、病院所有の車椅子で整備不良や破損・劣化を起こしやすい箇所は、タイヤの空気圧、タイヤの磨耗、ブレーキの不具合等であり、タイヤの磨耗・劣化件数と空気圧不良件数は同数であったが相関関係は認められなかった。また、シートの修理を要する車椅子は、シートのサイズ400mmが3台、420mmが2台であった。それら全てリクライニング不可であり、背シート固定であった。ブレーキ修理を要したのはタックル32件、レバー8件であり、これらの構造とシートの弛みとの関係は認められなかった。また、多機能型車椅子は整備不良や破損・劣化を起こしやすいのではないかとの予測に反し、本調査では他種との間に有意差はみられなかった。
    今回は、自走式、介助式それぞれの破損や劣化しやすい箇所の要因については特定するまでには至らなかった。これは病院所有の車椅子の特徴として、その1台を様々な利用者が乗り回しているためと推測される。
    今後、車椅子購入からの期間を解析の中に組み入れ、破損・劣化等起こりやすい箇所及びその要因を検証したい。
    【まとめ】
    ・病院所有の車椅子で整備不良や破損・劣化を起こしやすい箇所は、タイヤの空気圧、タイヤの磨耗、ブレーキの不具合等であった。
    ・車椅子の機能的構造と整備不良等の箇所に相関は認められなかった。
    ・今後、車椅子購入からの期間を解析の中に組み入れ、破損・劣化等起こりやすい箇所及びその要因を検証したい。
    【参考文献】
    1)吉田隆幸 OTジャーナル36(6):538-541,2002
  • 櫻井 ゆかり, 木下 健一郎, 岡田 朋子, 米倉 裕樹
    p. 159
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    介護予防の重要性が言われている今日、我々は以前から転倒予防の運動療法としてセラピーマスターを使用した集団体操に取り組み、その効果を検証してきた。今回はその続報として対象者を介入群、コントロール群に分け、経過を比較することで集団体操の有効性を得たので報告する。
    【対象】
    当施設通所リハ利用者の歩行自立の者30名で、著明な運動麻痺、認知症のない者とした。集団体操実施者を介入群とし、非実施者をコントロール群とした。内訳は介入群15名(男性2名、女性13名 平均年齢82.7±5.8歳)、 そのうち杖歩行10名・独歩5名、平均介護度0.7(要支援から2)。コントロール群15名(男性5名、女性10名 平均年齢81.7±7.4歳)、そのうち杖歩行11名・独歩4名、平均介護度1.1(要支援から2)である。
    【方法】
    通所利用毎に、介入群には通常の運動療法に加え、独自に考案した集団体操を3ヶ月間実施した。またコントロール群は通常の運動療法を継続した。集団体操はセラピーマスター(Nordisk Terapi社)を使用し、対象者4から7名を同時にPT1名の指導のもと約30分行なった。内容は音楽に合わせて下肢筋力増強、バランス能力向上を目的とした動作を中心に20パターン実施した。
    10m最大努力歩行、Timed Up and Go test(TUG)を評価項目とした。介入群の体操開始時点を両群共に基準時の値とし、3ヵ月後の測定値と比較検討した。統計処理は2元配置分散分析後、Fisher’s PLSDの多重比較を行なった。
    【結果】
    体操開始時において両群間には有意差はみられなかったが、3ヵ月後にはTUGにおいて有意差が認められた(P<0.05)。10m最大努力歩行では有意差はないが、改善傾向がみられた。
    【考察】
    高齢者による転倒は10から40%とされており、その原因として筋力低下、バランス能力の低下が大きな要因とされている。足圧中心点(COP)軌跡長、Functional Reach(FR)など多くのバランス能力の指標とされるテストを我々も行なってきたが、今回は10m最大努力歩行、TUGの2つの測定とした。これらはCOP軌跡長や転倒率との相関が強いとされており、今までの研究においてもバランス能力の指標として有効である事を報告してきた。
    両群とも開始時に比べて3ヵ月後では数値の改善がみられたが、介入群の方がコントロール群に比べて有意に改善していた。そのことから従来の運動療法でもバランス能力は維持できるが、更にバランス能力を向上するためには通常の運動療法のみでなく、ダイナミックな動きの中でのバランス練習が有効である事が示唆された。以上の事からもスリング体操は、バランス能力向上に必要なダイナミックな運動を促す事ができ、紐を持つ事で集団でも安全に行なえる方法と言える。今後もスリング体操を継続し経過を追っていきたい。
  • 長期入院中に乳癌・肺癌を併発した高齢の統合失調症患者との関わりを通して
    三重野 利香, 宮嵜 津紀子
    p. 160
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】私は、癌を併発した高齢の統合失調症患者A氏の終末期に関わる機会を得た。A氏は当院で「銀の集い」と呼んでいるOT活動の参加を楽しみにしており状態悪化し、ベッド上の生活になってからも、参加への意欲は衰えなかった。そのため私はOT中止になってからも個人OTで関わりを続け、A氏は穏やかに死を迎えた。この経過をふまえ、統合失調症を併せ持つ終末期患者A氏の作業療法の意味ついて考察する。
    【症例紹介】75歳、女性、統合失調症。5人の異母姉妹の中で育つ。24歳時当院初回入院(X年)。その後一時期退院となるが大半の時間を当院で過ごし、再発・症状悪化時の症状として心気症状、幻聴、恋愛妄想等を生じる。X+33年乳癌併発。X+49年肺癌4期と診断されるが当院で医療継続し、MSコンチン開始後個人OT導入となる。開始当初の問題点として1)日課となっていた「銀の集い」中止による対人交流や楽しみの減少2)症状悪化に伴う生活能力全般の低下を挙げられ、OT場面ではできることに目を向け最期まで共に楽しむ事をめざした。
    【経過】<1期:「銀の集い」担当である私が友人として毎日同時間に訪室して関わった時期>薬物調整により見当識障害が改善され現実を認識して不安や希望を語り始めた。私は温かい雰囲気作りに配慮し、今を楽しむ事が大事だと伝えていった。メンバーの一員として季節行事への参加を目標に、また銀の集いに変わる楽しみとして絵画等の取り組みを促した。<2期:創作活動を継続しながら老いに直面しているA氏へ、過去を整理する手助けを始めた時期>A氏が回想した話を聞きながら、希望する絵や写真の整理も共に行う。私には健康的側面を多く見せるが、担当Nsへは不満をぶつけ、季節行事の参加を拒否する。製作品を行事でメンバーに贈り、次第に現状を受け入れ、作業意欲が高まった。<3期:家族への感謝の表現として贈物を私と共同製作した時期>心身機能の悪化が著しい一方で、妹へ手紙と人形を製作して贈る。作業時は意識が鮮明になり心境や希望も語れ、楽しげに取り組めた。<4期:語りの聞き手となり死の受容を支えた時期>会話のみの関わりとなり妄想的な内容の話が増加。私は訪室を躊躇するようになるが、改めて生を意識し、A氏のありのままを受け入れられるようになる。意識が鮮明な日には時間をかけて人生の思い出や現在の思いを語り、また人生の先輩として私に助言し、最後に「死んでも謎はとけないね。」とつぶやいた。
    【考察】人生の大半を当院で過ごし、様々なOT活動を行ってきたA氏に、私は最期の時まで訪室し寄り添った。OTとしての関わりを通して自分らしく生きる為に意味のある作業(希望)をした事は、統合失調症という病気を抱え、生・死の世界を揺れ動く中で、A氏にとって現実的な交流や楽しみの場となり、病に伏す生活に張りを作り、孤独感を和らげ、QOLの低下防止に繋がったと考える。
  • 井ノ口 隼人, 石神 真由美, 塩根 久美, 満 志穂美, 中村 由加, 三宅 智, 松迫 哲史
    p. 161
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     RAは慢性進行の疾患で、全身関節痛に加え、予後への不安は、患者の心理状態に強く影響すると考えられる。今回、几帳面でセルフケアができないことに劣等感を感じている症例に対して、ADL向上と心理的安定を目的として自助具の作成・指導を行った。その結果、QOL向上が認められた。退院後、施設入所し継続したアプローチが必要な症例のQOLに関して、若干の考察を加えここに報告する。
    【症例紹介】
     77歳、女性。性格:几帳面 職業:元教員 1987年にリウマチと診断。スタインブローカ(ClassIII・StageIII)。ADLは、Barthel Index(以下BI)(35/100)。食事は太柄スプーンを使ってベッド上で自立。その他は、一部・全介助である。セルフケアが自分でできないことに対し悲観的な発言が多く聞かれる。WHO QOL-26(以下QOL26)(2.27/5)
    【経過】
     通常の訓練に加え、ADL向上と心理的安定を目的として、「太柄スプーン・リーチャー・長柄ブラシ・ソックスエイド・点眼器」を作成し、使用方法を説明、練習を繰り返し行った。自助具の使用が可能となり、セルフケアが少しずつできると、悲観的な発言の回数が減少した。整髪動作が可能になったことにより、化粧に対しても興味を示し積極的に取り組むようになった。BIは、OT開始時35から退院時55へ変化した。QOL26は、OT開始時2.27から退院時2.73へ変化した。
     症例は退院後、施設入所し当院の外来でリハビリを継続している。現在は、自助具を上手に使用できるようになったため、RA教育の時間を増やし訓練を行っている。同時に、施設スタッフへの症例に関する情報提供も行っている。
    【考察】
     症例は、几帳面でセルフケアができないことに劣等感を感じていたため、ADL向上と心理的安定を目的として自助具の作成・指導を行った。その結果、BIが、35から55へ変化した。QOL26が、2.27から2.73へ変化した。自助具の使用でセルフケアができることによって、身体機能への執着が減少し、自尊心が保たれQOL向上につながったと考えられる。
     現在、症例は退院後、施設に入所し当院に外来通院しており、今後も継続したアプローチが必要と考えられる。今後、症状の進行に伴い自助具を用いても、ADLの維持・向上が困難になると予想されるため、自尊心を保ちながらのQOL維持が課題となる。そのためには、状態の変化に合わせた自助具の作成・指導に加え、「できないことは無理して行わず、介助してもらう大切さ」を本人に理解してもらうことや、施設スタッフへ症例のADL能力や介助方法などの情報提供・RA教育の重要性が増すと考えられる。
  • 濱田 素美, 四本 伸成, 青木 京子, 玉島 亜希子, 長倉 弓子, 芝 圭一郎, 藤元 登四郎, 関根 正樹, 田村 俊世
    p. 162
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    統合失調症の原因として、前頭葉機能障害説が提唱されている。我々は、前頭葉機能評価を簡便にできるPCシステムを開発しており、今回は健常者を対象に前頭葉機能評価テストの特徴を探る目的でデータ収集及び分析を行った。
    【対象】
    健常者42名:男性21名(平均年齢31.6±7.1歳)、女性21名(平均年齢31.8±8.2歳)年齢比較対象群:20代11名(平均年齢25.4±1.2歳)30代11名(平均年齢34±3.8歳)40代11名(平均年齢43±2.8歳)
    【方法】
    方法1:タッチパネルディスプレイを用い、以下の課題(15×15cmに6×6の36マス、配置は毎回変化)を実施。指示は実演し課題1「右示指にて早く正確に赤という文字を押して下さい」課題2「数字が1から36まであります。1から順に早く正確に押して下さい」と説明。テストの構成は、赤選択課題(以下、赤課題)では36マス中に赤青緑の文字が各12個あり、1.全て同じ背景2.文字と同じ背景3.文字と異なる背景で表示され赤という文字を選択する課題を両眼・左右片眼で実施。全て同じ背景は、白い背景に赤という文字(以下、白背景)、文字と同じ背景は、赤い背景に赤という文字(以下、赤背景)文字と異なる背景は、赤青緑の背景に赤という文字(以下、異背景)が表示。数字追跡課題(以下、数字課題)では1から36の数字が表示され1.選択した数字が消えない課題2.選択した数字が消える課題で1から順に選択するものを両眼で実施。方法2:以下項目1から5はt検定、6から8は分散分析にて比較1.赤課題の両眼と左右片眼の比較2.赤課題の左右片眼の比較3.赤課題の両眼と左右片眼の男女比較4.赤課題の左右片眼の男女比較5.数字課題の男女比較6.赤課題と数字課題の課題間の比較7.赤課題の両眼と左右片眼の年齢比較8.数字課題の年齢比較
    【結果及び考察】
    項目1から5では有意差はなかった。これより男女、両眼・左右片眼の視野制限に関係なく利用可能だが左右差なしより優位半球を評価できる課題ではないと考えられた。項目7、8で20から40代の比較において有意差は認められなかったことより年齢を問わず利用できる課題と考えられた。6の比較では全てP<0.01で有意差が認められ、赤背景(3.85秒)、白背景(5.91秒)、異背景(7.21秒)の順で時間を要した。白背景では赤以外の文字が、異背景では文字と背景が視覚的妨害要素であった。視覚的妨害の程度は妨害する要素に影響を受ける。異背景では文字より赤い背景に反応しやすいストループ現象により、色の刺激を排除し文字のみを選択することは妨害の程度が高く最も時間を要したと考えられる。一方赤背景では、文字を選択する際に同色の背景による色覚的な補助が加わり、選択が容易となり時間が短縮したと考えられた。数字課題では、数字が消えない課題では次の数字へ注意を転換する際の視覚的妨害の程度が高いが、消える課題ではその要素が減少するため少ない容量のワーキングメモリーで実施でき、消えない課題より時間が短縮し課題間に有意差が認められたと考えられる。
  • -LORETA解析を加え-
    兒玉 隆之, 森田 喜一郎
    p. 163
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    事象関連電位(event-related potential;ERP)が時間分解能に優れ、情報処理過程の検討など精神生理学的指標として有用なことは周知であるが、まだ発生源の同定には至っていない。そこで、人間の認知、情動などに影響を及ぼすとされる色彩環境に着目した。中でも、誘目性の高い赤は興奮・活動的に作用を持ち、逆に低い緑は安らぎ・沈静の作用があるといわれている。今回、認知機能を反映するとされる事象関連電位のP300成分を指標として、色彩環境の違いが認知機能へどのような影響を及ぼすかを解析した。加えて、Pascualらによる脳機能の三次元画像表示法であるLORETA(Low Resolution Brain Electromagnetic Tomography)にて解析・検討した。
    【対象】
    健常者10名(男性5名、女性5名)で平均年齢25.2±3.12歳であった。いずれも測定前に色覚検査(石原式色覚検査表国際版)にて色の弁別に異常のないことを確認した。
    【方法】
    「赤」「緑」の色彩環境下及び暗条件「黒」にて国際10-20法に基づき、両耳朶を基準電極としてF7・F3・Fz・F4・F8・T3・C3・Cz・C4・T4・T5・P3・Pz・P4・T6・O1・O2・Ozより事象関連電位を計測した。「赤」「緑」の色彩環境には、シールドルームに信号機(小糸工業株式会社製車両用交通信号灯器)を設置した。事象関連電位は、それぞれの色彩下、赤ん坊の泣き顔を標的刺激(出現率20%)、泣き・笑いのどちらでもない中性の表情を非標的刺激(80%)とした視覚オドボール課題を用い、標的刺激に対して「出来るだけ早くボタンを押し、出現回数を数える」よう指示した。その際、刺激後時間域(250-600ms)にて出現するP300成分の振幅と潜時を計測した。色彩環境の順序は、1回目は「赤」「黒」「緑」の順で行い、カウンターバランスをとるため十分な休息後、2回目は「緑」「黒」「赤」の順に行った。計測結果について、Fz・Pz・Cz・Oz・T3・T4でのP300成分解析とLORETA解析を行った。
    【結果】
    P300潜時は、Pz、Cz、T3において「緑」に対し「赤」が有意に速くなった。P300振幅は、Cz、Ozで「緑」に対して「赤」が有意に増大した。またLORETA解析においてはOccipital Lobe(Brodmann19)に差を認めた。
    【考察】
    以上の結果より、P300に反映される認知機能は、色彩環境の影響を受けることが示唆された。また、LORETAを用いることで事象関連電位をより具体的な解剖学的見地から解釈し得る可能性が示唆された。
  • 四本 伸成, 青木 京子, 玉島 亜希子, 濱田 素美, 長倉 弓子, 芝 圭一郎, 藤元 登四郎, 田村 俊世
    p. 164
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    統合失調症者では注視点の変更が出来にくい行動特性があると言われている。今回、図形抽出形式のテスト用紙を作成し症状による違いや探索範囲の特徴などを調べたので報告する。
    【対象】
    統合失調症と診断された男性26名・女性16名・合計42名、平均年齢43.4±8.81歳を対象とした。比較分類群は陰性症状・陽性症状評価尺度(以下PANSSと略す)にて構成尺度得点3点以上を陽性群、-8点以下を陰性群として各12名ずつを比較した。機能の全体的評価尺度(以下GAFと略す)は21点から10点ずつ80点まで6(AからF)グループに分けて各7名ずつを比較した。
    【方法】
    テスト用紙はA4版とA3版の2種類の紙面を用い12種類384個の図形の中から同種類32個を探索し抽出する課題にて行った。試行時間は1個を1秒間と想定し1枚32秒間に設定した。探索範囲を検討するため抽出する図形は用紙全体に配置し、上下・左右・内外の数的比率を均一にした。
    【目的】
    PANSS分類における探索活動の差を図形抽出率にて検証し面積変化における探索範囲の特徴を図形未抽出率にて検証した。また、GAF分類における探索活動の差を図形抽出率にて検証した。統計処理は分散分析にて検定した。
    【結果】
    PANSS分類における平均構成尺度得点は陽性群7.0±3.98点で陰性群-10.6±5.20点であった。平均抽出率は陽性群A4版47,4%・A3版49.5%で陰性群A4版47.4%・A3版42.2%で有意差は認められなかった。しかし、A4版とA3版の抽出率の差を比較すると有意差を認めた。抽出範囲の特徴として陽性群はA4,A3版ともに上下比較において有意差を認めた。陰性群ではA4版で左下と右上以外の上下比較で有意差を認め、A3版では左下と右上以外の上下比較と左右比較でも有意差を認めた。陽性群と陰性群間で抽出範囲を比較するとA4版は右上に有意差を認め、A3版では上側と右上に有意差を認めた。GAF分類におけるA4,A3版の平均抽出率はA群34.8%・41.1%,B群43.8%・38.8%,C群49.1%・47.3%,D群56.7%・62.1%,E群66.5%・68.3%,F群58.5%・68.8%であり、A4版ではA群に対しD・E・F群,B群に対しE・F群がそれぞれ有意差を認め、A3版ではA群に対しD・E・F群,B群に対しD・E・F群,C群に対してもE・F群に有意差を認めた。
    【考察】
    陽性群と陰性群における抽出率の比較では有意差は認められなかったが、A4版とA3版の抽出率の差を比較すると有意差を認め探索面積の変化による抽出率への影響は精神症状との関連性が示唆された。抽出範囲の特徴として陽性群では全ての上下比較で有意差を認めたのに対して、陰性群では左下と右上以外の上下比較と左右比較でも有意差を認めたことから陰性群は陽性群に比べ面積が広がるほど探索に時間を要することが考えられた。また、陽性群と陰性群間で未抽出率を比較しても右上と上側比較で有意差を認めたことから陰性群では情報提供を狭い範囲に環境設定する必要性があることが示唆された。GAF分類では機能レベルにおいて有意差が認められ、心理・社会・職業的機能との関連性も深いことが考えられた。
  • 頭部外傷後遺症に対するOTアプローチを経験して
    野畑 信子, 川上 愛, 川上 裕子, 松藤 裕子, 柳 博文, 山本 あゆみ, 永畑 和則, 中山 栄子, 鳥岡 信孝
    p. 165
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当院は315床の内科・歯科を併設する精神科病院である。近年当院に高次脳機能障害を有する方が診察に来られる事が多くなっている。2001年11月、身障系病院のリハビリを受けられプラトー状態であるとの事で当院に紹介された頭部外傷後遺症の症例が受診され、外来の作業療法処方が出された。当時症例は車椅子での介助を要し傾眠傾向、失語症があり、反応もない状態であった。この症例に対して感覚刺激を中心にアプローチを行った。結果、現在では意識レベルが上がり、自力歩行が可能。簡単な言葉を話し、日常生活での介助もほぼ必要なく生活が可能となっている。症例にとっての作業療法の効果について考察したい。
    【症例紹介】
    氏名:A氏(47歳・男性)
    傷病名:脳挫傷(2000年3月受傷)
    作業療法開始:2001年11月1日
    【作業療法経過】
    開始時外来受診や妻の負担などを考慮し週1回導入。小Gでの活動や四肢への他動運動などで触覚や固有受容覚に感覚刺激を行い、反応を促した。2002年4月より頚部の他動運動を行い、前庭覚の刺激を行う事を加えた。次第に開眼時間が増え、追視するなど変化が見られた。同年10月口頭指示にて足の挙上が可能。12月手指の随意運動が出現。2003年1月口頭指示による運動遂行が9割程度可能になった。この頃粗大運動や手指の自動運動を風船パスやボールパスなどで促し可能となる。同年4月より手指の巧緻動作の訓練を開始し、食事動作の獲得を目的に箸動作の訓練や家族とのコミュニケーション獲得を目的に書字動作、意思表示の獲得を目的に絵カードを使い認知面へのアプローチを開始する。この頃より自宅でも妻と一緒に訓練の復習や宿題と言う形で主に書字動作を練習開始。2004年7月発語が見られるようになる。同年9月複雑な工程での活動の獲得を目的に創作活動を開始した。活動に対する意欲向上が見られた。現在意識清明で自立歩行可能。自宅では日常生活での介助が必要なくなり、家族とのコミュニケーションも可能になった。
    【考察】
    身障系の病院ではプラトーであった症例が3年かけて回復したのは第1段階として他動運動による感覚刺激の入力で覚醒し、意識レベルが上昇した。第2段階として活動を利用して粗大運動を促し、遂行動作が可能となった。第3段階として書字動作を行い日常生活での家族とのコミュニケーションが可能となる。第4段階として創作活動を行い、意欲の向上につながった。これらの相互作用により症例は回復したと考える。精神科領域におけるアプローチで重要なのは感覚刺激入力による覚醒作用とコミュニケーション能力の獲得であると思われる。
  • 長倉 弓子, 四本 伸成, 青木 京子, 玉島 亜希子, 濱田 素美, 芝 圭一郎, 藤元 登四郎
    p. 166
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】当病院は市の中心地にあり地域の施設・社会資源を利用しやすい環境にある。しかし、現状としてこのような環境を有効に利用できておらず長期入院にいたる傾向がある。今回、図書館を利用し2週間に一回の外出訓練を行う中で、活動開始時に比べマナー面や集団性において変化がみられたのでアンケート結果と集団経過を加え報告する。【対象】当院開放病棟でOT処方の方で図書館活動に参加しており調査に同意が得られた方で、男性5名、女性3名合計8名である。(統合失調症5名、統合失調症と精神遅滞2名、精神遅滞1名)また、対象者の平均年齢44.3歳(±14.4歳)。平均在院年数17年4ヶ月(±5年8ヶ月)である。【方法】H16.4に図書館活動開始時と現状を評価・自己認識する目的でアンケートを行った。アンケート内容は身だしなみ、持参物、病棟での管理、時間配分・時間厳守、交通ルール、一般的マナー、館員との接し方の7項目である。直線の中心を活動開始時(0点)とし、改善したら右(+)へ低下したら左(-)へと現在の状態を数直線で示し最高を100点、最低を‐100点とした。問題なしは0/100点である。【経過】並列集団・課題集団の時期(H14.11.8からH15.5.9)対象者の方に活動の流れを知ってもらう為集合時間や目的等はOTRで決めて行う。出発時間に病棟に誘導に行き、放送でメンバーに呼びかけていた。誘導時に準備をするため出発時間が遅れ、館内では本を床に広げ直接座り込んでいた。自己中心的協同集団の時期(H15.5.23から10.31)この頃よりメンバーの人数も定着し、集合時間に集まっていないと声をかけ合う場面も見られる。館内では立って本をみる、椅子に座って読むことができ小声で話しをする様になる。協同集団の時期(H15.11.14からH16.5.14)時間までに本と図書カードを準備して待っていることが多くなる。また、集まっていないメンバーに対し呼びに行き、図書カードを預かりの方は自らカードを貰い準備される。図書館では出発時間を気にされ、本を借りた後出入り口付近で待っている様になった。【結果】アンケートより初期時に比べ特に変化のあった項目は、順に集合時間を守る、身だしなみ、持参物であった。【考察】メンバーの期待していることが可能な限り実行できることを重視し、その事によって楽しむ・満足することを本人に受容してもらい、問題となる行動・不安に気付くよう対応した。また同時に集団の特性を活用出来たと考えられる。個人集団を構成する個々のメンバーが場を共有することで、個人の過程が相互に影響して集団に影響を与え、その影響を受けた集団の変化が個人にも影響していった。アンケート結果より、初期時に比べ特に変化のあった項目は個々人が意識しやすく改善しやすいと考えられる。今後の課題としては、集団全体の目的にそって課題を遂行し、リーダーの役割を分担して担うことができるよう関わっていく事が必要だと考える。
  • 四症例を通した考察
    土屋 恵睦, 行徳 尚子, 石橋 香, 佐伯 剛, 大穂 幸子
    p. 167
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     訪問リハビリテーション(以下訪問リハと略す)を実施していく目的の一つに生活圏の拡大が挙げられる.
     安定した日常生活活動(以下ADLと略す)を獲得した後も,利用者の満足を得るための働きかけは,重要なことではあるが,個人の楽しみを見つけ生活の質(以下QOLと略す)の向上を図ることは容易な事ではない.
     今回当事業所において関わりを持った四症例について考察を含め報告する.
    【症例紹介】
    症例1
    73歳 男性 元会社役員
    疾患名:脳梗塞後遺症,ポリオ
    経過:H11年脳梗塞にて右片麻痺
    H15年4月より通院困難のため訪問リハ開始
    要介護度:3
    機能訓練に固執し身体的不定愁訴が多かったが,パソコンを始めたことで,新たな趣味ができ意識が身体機能以外の方向に向けられるようになった.
    症例2
    72歳 男性 元大工棟梁
    疾患名:外傷性くも膜下出血術後,狭心症
    経過:H13年交通事故にて受傷.軽度の右片麻痺と脳血管性認知症を呈し,自発性の低下,記名力低下が著明であった. 病前の仕事を活かした活動を促し,踏み台や本棚の制作作業を行うことで,徐々に自発性が向上し活動量が増した.
    症例3
    64歳 男性 元郵便局員
    疾患名:脊髄小脳変性症,胸腰椎圧迫骨折
    経過:H6年脊髄小脳変性症と診断. 病状進行は緩徐であったが,H13年浴室で転倒し圧迫骨折受傷入院.退院後訪問リハ開始.
    疾患の為引きこもりの生活にならざるを得なかった事に対し,電動車椅子の導入を行った結果,自由な外出が可能となり将棋クラブへ通うようになった.
    閉ざされた生活から活動範囲が広がった.
    症例4
    36歳 男性 元会社員
    疾患名:第6頸髄損傷
    経過:H7年,交通事故にて受傷.介護負担軽減を目的にH14年より訪問看護,訪問リハを開始.社会参加に対し焦燥感を抱いていたが,作業所,バスケットボールへの参加によって生活圏の拡大に繋がり疎外感も減少した.
    【考察】
     全国訪問リハビリテーション研究会に掲げられた訪問リハを行う目的の一つに, 日常生活の自立や主体性のあるその人らしい生活の再建及び質の向上を促すという項目がある.ADLの確立や介助量の軽減に同じくして,精神的なサポートを行っていくことは大変重要である.
     障害を背負い,その事実を受けとめ今までとは違った自分を認識し,別の視点を持った生活を送るためには,それ相応の時間も必要となり相当な労力を要することとなる.
     今回安定の時期を迎えた症例に対し生活圏の拡大を目標にアプローチした結果,いずれの場合も,今までとは違った自分を見つけ出すことに繋がった.
     今後も利用者のQOL向上を念頭においた訪問を行っていきたい.
  • 伊藤 潤
    p. 168
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)では訪問時以外のトレーニングを利用者に委ねることになる。利用者の自主的なトレーニング継続の如何により、在宅における生活能力低下の回復・防止にも差が生じてくると考える。今回、実施表を用いてトレーニングの実施状況等を比較検討することで当訪問リハにおける自主トレーニングの現状を探っていくことを目的とした。
    【対象】
    当訪問看護ステーションの訪問リハ利用者で自主トレーニングの必要性があり、実施可能かつ実施表を回収できた29名を対象とした。平均年齢は73.1±13.8歳であった。訪問以前のリハビリテーション既往歴(以下、リハ既往)があった対象者は18名であり、訪問リハ継続期間は半年未満8名、半年以上1年未満4名、1年以上17名であった。
    【方法】
    対象者1人につき3週間を自主トレーニング期間とした。各対象者に即したトレーニング目的とプログラムを担当セラピストが設定した。実施後の訪問時にセラピストによるトレーニング目的と目的以外の変化、満足度、モチベーション変化、感想を評価・聴取した。比較検討を継続日数(A、B、Cで群分け)、実施達成度(実施度を○、△、×で表示)、実施後の変化、リハ既往、訪問リハ継続期間、満足度(モチベーション)の項目で行った。統計学的解析にはMann-WhitneyU検定、Spearman順位相関を用い、有意水準を5%とした。
    【結果】
    1)継続日数の比較ではA群とB・C群間に有意差が認められた(p<0.01)。実施達成度では○と△・×間に有意差が認められた(p<0.01)。2)実施後の変化では継続日数との相関が認められなかった。3)リハ既往、訪問リハ継続期間の比較では継続日数および実施後の変化との相関は認められなかった。4)満足度と実施後の変化との相関は認められなかった。満足度とモチベーションの相関は認められなかった。
    【考察】
    1)継続日数や実施達成度に関しては自主トレーニングの高い実施状況が推察できる。2)各セラピストによる目的・プログラム設定の差異や発症からの経過日数、訪問リハ実施時期などが関与していると考える。3)訪問前のリハビリ経験や訪問リハ実施の長短という要因は、在宅における自主トレーニング継続とそれによる変化に対して関連性が薄く、シームレス・サポートの現状の一端が垣間みられる。4)要因として実施後に変化が現れても利用者本人にそれが体感できていない可能性や、変化が感じられないことへの不満などが挙げられる。また満足度とモチベーションの関連については、今回のトレーニング方法や実施表の有用性に再検討を要する結果と捉えている。
    【まとめ】
    今回の比較検討で自主トレーニングの一側面を検証できた。しかし実施表記入において信憑性が疑われるケースもあったため、在宅における自主トレーニングの確認という意味では課題も残った。以上のことを念頭におき、今後も訪問リハにおける自主トレーニングの取り組みを続けていき、利用者の生活障害の改善・予防を図っていきたいと考える。
  • -AMPSを用いて-
    石橋 裕, 西野 由希子, 吉武 恵美, 村上 亜弥, 前田 亮介, 田中 孝子, 井手 睦
    p. 169
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】在宅サービスは、様々な職種が対象者の生活背景を検討した上で実施し、作業療法士もADL能力よりサービスを検討することがある。今回、ADLの作業遂行能力の評価が可能なAMPS(Assessment of Motor and Process Skills)に注目した。AMPSは評価者寛厳度の設定・環境に影響を受けにくい性質を持つ。この客観性の高い性質を活かし社会資源の利用状況とAMPSの結果との関連性を今回は社会資源の利用が多い入浴動作より調査し、AMPSが社会資源導入の一指標となるか検討した。
    【対 象】対象は平成14年9月から平成17年3月までに当院を退院した在宅療養を継続中の25例。男性7名・女性18名であり、平均年齢71.9±9.4歳、発症日より平均427±299日であった。疾患内訳は脳梗塞13名・脳出血8名・股関節骨折3例・パーキンソン病1例であった。
    【方 法】対象者には5項目の質問票とAMPSを同時期に実施した。質問は1)入浴動作介助の有無、介護保険で利用可能なサービスを元に2)住宅改修の有無3)福祉用具使用の有無4)施設入浴の有無5)入浴目的の訪問看護及びヘルパー利用の有無の5項目とし、回答は項目毎に2択で実施した。住宅改修と福祉用具は入浴動作に関与するサービスを1つでも実施・使用の場合を有りとした。検定は項目毎の2群間で運動・処理項目の平均の差を検定した。解析はMann-WhitneyのU検定を使用し統計学的有意水準はp<0.05とした。
    【結 果】・入浴を独力で実施している群は、運動・処理項目が非実施群より高く有意差を認めた(p<0.01)。・住宅改修の有無は、改修の非実施群が運動・処理項目共に実施群より高く有意差を認めた(p<0.01)。・施設入浴の有無や訪問看護及びヘルパー利用の有無に関しては、運動・処理項目共に有意差を認めなかった。 ・福祉用具使用の有無に関しても有意差は認め、福祉用具の非使用群が運動・処理項目共に使用群より高く有意差を認めた(p<0.05)。
    【考 察】 入浴介助の有無・住宅改修に関しては作業遂行能力と有意差があり、これらの項目はADL能力が反映されると推察し、サービス導入の一指標となると考えた。人的介助や施設入浴の必要性に関しては有意差を認めていないことから、ADL能力に反映されにくいと推察した。福祉用具使用に関しても有意差を認めたが、同じ代償手段の住宅改修と比較するとADL能力との関連性は低い傾向となった。今後は導入までの過程や両者の特性の違いを調査する必要があると推察した。今回入浴サービスの一部でAMPSとの関連性が示唆された。今後は症例数を増やし、介助や住宅改修を必要とする対象者の運動・処理項目のカットオフ値を検討し、AMPSを指標に加えサービスを検討した場合の妥当性や利用状況、対象者の満足度等を調査する必要があると考えた。
  • 自己表現の拡大を目指して
    大穂 幸子, 松野 浩二
    p. 170
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     意思伝達手段を確立する事は個人を尊厳する意味でも最重要点と考えられる。今回、意思伝達手段が不明確なケースに対しアプローチを行っていった結果、若干の変化が認められたため経過とともにここに報告する。
    【症例紹介】
     35歳、先天性福山型筋ジストロフィー症の女性。生後間もなく発症し呼吸不全、心不全を繰り返し現在は人工呼吸器を使用し寝たきり状態。随意運動が認められるのは顔面筋のみ。平成9年の一時的な心肺停止後から発語困難となり、意思伝達が困難な状態となる。知的レベルは不明。主介護者である母親は、本人の表情と瞬きの微妙な変化から本人の意思を読み取っているが、他者からすると明確なものではない。
    【アプローチ内容及び経過】
     本人の身体部位で随意的な動きが確認できる舌を使用してのポイントタッチスイッチと環境制御装置付き意思伝達装置を導入。日常的に使用できるようベッドサイドにセッティング台を作成した。
     意思伝達装置で二者択一の選択練習から開始したが、舌の反応は正確性に乏しい状態であったため、環境制御機能を利用した訓練を開始した。テレビのリモコン操作を促し、活発な舌の反応と表情の変化が認められたが、反応は正確性に欠け、練習を繰り返すうち徐々に表情や反応が薄いものとなっていった。
     そこで、幼少の頃に音楽教室に通っていたという情報から、音楽を取り入れたアプローチを開始。意思とスイッチを押すタイミングが合うようリズムに合わせた反応を促した。その結果、リズムに合わせた舌の動きや表情の変化が徐々に確認できるようになった。現在は、リモコン操作ロボットで楽器が鳴るようセッティングしアプローチを継続している。
    【考察】
     コミュニケーションアプローチを実施するにあたり、それが本人の興味を引くものであるか、楽しめるか否かが重要となり、QOL(生活の質)の向上に結び付けていく必要がある1)。そのため、本人の興味や集中が持続できるよう訓練内容に常に変化を持たせアプローチを行い、表情の変化が以前よりも確認できるようになった。
     現在の目標は、本人が幼少の頃通っていた音楽教室の発表会に参加することである。今後も自己表現できる喜びを感じてもらい、意思伝達手段の確立につなげていきたい。
    【まとめ】
     今回、症例のように身体的に重度の障害を呈した方に対し、身体機能面のみに目を向けるのでなく、身体機能を補う環境因子や活動性に働きかけることで、社会参加につなげられる事、リハビリテーションとして関わる必要がある事を再認識するよい機会となった。
    【参考文献】
    1)久保健彦/AAC/建帛社/2000
  • 筋力向上トレーニング事業,転倒・骨折予防事業に参加したケースを通して
    山内 淳, 川副 巧成, 松尾 亜弓, 佐藤 辰夫
    p. 171
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】近年各自治体で「介護予防・地域支えあい事業」が推進されている.今回,高齢者筋力向上トレーニング事業(以下,筋トレ事業)と転倒・骨折予防事業(以下,転倒予防事業)の2つの介護予防事業に参加したケースを通し,効果的な介護予防事業の実践について検討した.
    【ケース紹介】84歳男性,要介護1で妻と二人暮らし.膝関節痛,腰痛などの慢性痛に加え,手指の震え,かすみ眼や耳鳴り等が主訴であった.動作面では,立ち上がりや歩行時の動揺性が著しく,過去に転倒経験があった.また物忘れや不安な心理状態を表す発言も多く,閉じこもり傾向であった.
    【評価項目】動作能力の指標にBBS,また精神・知的機能の指標にGDS, MMS,FABを用いた.加えて活動状況の指標として老研式活動能力指標を用いた.
    【筋トレ事業経過】初期評価の結果から,歩行はT-cane独歩が可能であったが,バランス能力の低下が著しく転倒の危険性が伺えた.そのため,負荷量を他の参加者より低く設定し,コンディショニングを優先にプログラムを進行した.加えて適宜個別の声掛けを行うなど,ケースの意欲向上に努めた.そして3ヵ月後,評価結果は初期評価の得点より高値を示した.しかし一方では,ケースの全体像に変化をおよぼすまでには至らなかった.
    【転倒予防事業経過】筋トレ事業から1ヶ月後,転倒予防事業への参加を試みた.開始直後,意欲的な様子が伺える一方で,立位保持や高度な動的バランスを含む同事業の集団体操には介助が必要であった.最終評価時,体操時の介助量は軽減したものの,同事業の転倒予防体操を独力で実践できるまでには至らなかった.
    【考察】ケースは,心身機能の一部や活動性,社会性といった生活機能全般に問題点があり,その原因として老年症候群の影響が考えられた.老年症候群の特徴は,1)明確な疾病ではない,2)症状が致命的でない,3)日常生活への障害が初期には小さいことであり,従来の疾病対策との差異に困難性がある.そして,老年症候群の解決には,危険因子の明確化,効果的なスクリーニング,長期に渡る身体機能改善機会の確保がある.今回のケースにおいて十分な効果が得られなかった背景には,事業前評価が効果的な検診として機能しなかったこと,事業が短期間であったことなどが考えられた.今後,要介護状態に陥らない為の一次予防サービス,要介護状態の悪化防止を目的とした二次予防サービスの効果的な実践のために,効果的な検診手段の選択や,事業期間や頻度等について検討が必要であろう.
  • 回復期リハ病棟での歯磨きチェックを実施して
    古賀 郁乃, 渡 裕一, 中園 聡子, 野添 清香, 井黒 誠子, 松下 兼一
    p. 172
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】回復期リハ病棟では、ADLの改善を目指し様々な取り組みを行っているが、歯磨きは片手動作ということもあり「出来るだろう」と思われがちで、他のADLに隠れ後回しになっている。介助に関してもさほど手間もかからないためか、過介助になっている。しかし、歯磨きは移動、姿勢保持、巧緻動作を含み、専門的知識による訓練、介入が必要だと言える。高齢者の生命・健康、QOLの維持・回復における口腔ケアの重要性が見直されてきた今、当院での歯磨きについても考える必要があるのではないか。そこで、患者の歯磨きの現状を把握し、アプローチを行うため「歯磨きチェック」を行ったところ、いくつかの問題点が抽出されたため、検討を行った。
    【対象】回復期リハ病棟の脳血管障害患者から無作為に抽出した男性10名、女性10名。平均年齢75.1±11.2歳。
    【方法】1.移動2.姿勢3.棚への出し入れ4.歯磨き粉をつける5.歯を磨く6.うがいをする7.口をふく8.道具を洗うの8項目についてそれぞれ4つの基準を設け、セラピストが実際の動作場面を観察し、いずれに該当するかチェックする。チェックは3週間ごとに3回実施。その他のADL、高次脳機能障害などの調査も行う。チェックの結果をもとに、アプローチ方法を検討し、カードへ記入。それを車椅子にかけ、歯磨きを行う際の参考とした。必要に応じて、アプローチの更新を行った。
    【結果】「歯を磨く」「口を拭く」「うがいをする」に比べ、「歯磨き粉をつける」「道具を洗う」は動作が複雑になるため介助量が増えている。業務円滑化のための介助量増加がみられる。環境設定と患者の主体的・自主的行動の優先化により、特に「歯を磨く」項目は他項目より改善が見られた。セラピストによる歯ブラシ操作に対するアプローチが的確に行えなかった。カードの活用が少なく、統一見解が不十分ではあったが、患者の現状の能力を把握することは可能であった。
    【考察・まとめ】病棟ADL訓練として歯磨きに直接的にアプローチしていることが少ないという現状から、今回のチェックを行った。セラピスト、病棟スタッフともに歯磨きに対する意識の低さ、知識の無さが浮き彫りになった。その理由として、動作労力としての歯磨きと医学、社会的側面から考えた歯磨きとのギャップが存在することが挙げられる。
    今後引き続き調査し、セラピストの視点での正確な動作分析・高次脳機能障害の分析、それらに対する介入方法の指標を示す必要があると考える。また業務整理を行い、リンクさせた形で効率的に関わっていくために、アプローチすべき患者の抽出方法の導入や外部委託の歯科医・歯科衛生士とも協力し知識の向上を図る必要がある。そして何より、ADLの定義を明確にし患者を生活者と捉え、QOL拡大を視野に入れ関わりをもつことの大切さを全スタッフ共通認識として捉えていかなければならない。
  • 排尿チャート表を導入しての一考察
    野元 祐紀, 楠本 真理子, 廣瀬 和陽, 福田 友香里
    p. 173
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     排泄とは、最も個人的行為でありケアにあたる際は個別性を重視しなければならないと言われている。当院療養型病棟では、平成15年度より排尿チャートを導入し排泄のケアを行っている。しかし個別性を重視して行っているとは言い難く、様々な要因により十分なケアの提供ができていない。そこで今回、病棟スタッフに対してアンケートを実施し今後の排泄ケアについて検討したので以下に報告する。
    【当院で使用している評価用紙について】
    ・排尿チャート表:尿意の有無のチェックと排泄方法を記入する。
    ・排尿チェック表:日付、時間、訴えの有無、排泄の有無、排泄方法を記入する。
    ・排尿サイン確認表:全7項目からなり非言語的な尿意の訴えの確認を行う。
    【使用方法】
    1)全患者様に対して排尿チャート表で対象となる患者様の選定を行なう。
    2)排尿チェック表で1日の尿量・排泄方法を1週間評価する。また、尿意・便意が曖昧な患者様に対しては排尿サイン確認表で行動チェックを行う。
    3)評価後、ミーティングにおいて排泄方法の確認・検討を行う。
    【当病棟における利点と問題点】
     アンケートの結果から利点として、情報の共有ができる・排尿パターンを把握できる・誘導時間の割り出しができるということが挙がった。問題点として、ケアに携わるスタッフの知識・問題意識の差があがった。例えば、『失禁の種類を知っていますか』との設問では、知っている47.1%、知らない52.9%であった。また知っていると答えた人でも、その内容については不十分であった。
    【考察】
     当病棟では、よりよい排泄ケアが提供できるように排尿チャート表を導入している。導入後、情報の共有や排尿パターンの把握が可能となり、質の高いケアを提供できるようになってきた。しかし現在使用している排尿チャート表は失禁の種類については考慮していないため個々の患者様に応じたものとは言えない。またアンケートの結果からも分かるように、実際にケアに携わる機会が多いスタッフのほとんどが失禁の種類について知らない状況である。そこで患者様の排尿評価時に失禁分類を行い、個々に応じたケアの提供をすることが望ましいと考える。当病棟で使用している排尿チャート表で失禁分類が可能となるようにし、状態に合わせたケアの方法について検討することが可能となるように変更していきたいと考える。
     当病棟における排泄ケアには様々な職種が関わっているが、それぞれの立場からの視点でケアに当たり情報を共有していくことが必要である。他職種間での情報交換を円滑に行い、より良いケアが提供できるように今後も連携を図って行きたいと考える。
  • 石井 梨沙, 下釜 美月, 平川 樹, 梅津 由加, 高柳 公司, 小島 進
    p. 174
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】早期在宅へのニーズが高まる中、家族の要望が高いもので排泄動作の自立が挙げられる。排泄動作は上肢による動作、移動、移乗、姿勢変化の際のバランス動作など様々な動作の連係から成り立っている。そのため自立に向けた獲得が難しい動作であるとされる。そこで今回、排泄動作の現状把握を目的に調査・検討し、若干の考察を加えてここに報告する。
    【対象・方法】対象は当院入院中の患者で、作業療法を実施している者のうちトイレ(P-トイレ含む)を使用して排泄を行っている29名(男性9名、女性20名、平均年齢は73.38±14.31歳)とした。調査方法は、排泄動作を1.尿意・便意、2.移動、3.衣服を下げる、4.移乗、5.排尿・排便、6.後始末、7.衣服を上げる、8.手洗いの8項目に細分化し「できる」「している」において自立、監視、一部介助、全介助で評価した。また、その他の調査項目は移動区分(歩行可能群と車椅子群と群分け)、痴呆の有無、意欲の指標(Vitality Index:V.I、7点以下を意欲低下群、8点以上を意欲あり群と群分け)、高次脳機能障害の有無を調査した。排泄行為の調査項目で「できる」「している」の差から、差がある群と差が無い群に群分けし、その他の調査項目と比較した。
    【結果】「できる」「している」の間に差がみられた者は13名(44.8%)であった。項目別では移動、衣服を下げる、移乗、後始末、衣服を上げる、手洗いにおいて「できる」「している」の間に差がみられた。また、これらの項目において、「できる」が監視、一部介助の者が多い傾向であった。差がある群と差が無い群で、V.I、移動区分、痴呆の有無、高次脳機能障害の有無を比較した結果、移動区分で有意な差がみられた(P<0.05、カイ二乗検定)。
    【考察】今回の調査により、排泄動作において約半数の人に移動、衣服を下げる、移乗、後始末、衣服を上げる、手洗いの項目で「できる」「している」の間に差がみられた。一般的に意欲、痴呆度、高次脳機能障害はADL動作獲得の阻害因子になることが多いが、本研究では、移動区分の車椅子レベルで日常生活自立度Bランクの者に差がみられた。この結果から、車椅子移動で、移乗動作や立位能力に障害があるレベルでは、介助量に差があり、介助するスタッフの介助方法により、残存能力の発揮力が左右されることが考えられる。よって、様々な動作を含む一連の動作として獲得される排泄動作では、病棟におけるADL訓練の不十分さ、看護・介護スタッフとの情報共有不足などにより「できる」「している」の差が生じやすい現状にあると思われる。
    今後の課題として、定期的な評価を実施し個々に合った動作のアプローチを行い「できる」能力の向上を図り、「している」能力との差を少なくし、排泄動作獲得へつなげていく必要がある。
  • 木下 美智子, 渕 雅子
    p. 175
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】左半側空間無視、身体失認を呈した脳卒中患者を担当した。更衣時において、身体意識の低下が手順の間違いや袖通しの困難さに影響していたため、ビデオや物品操作を用いた視覚・体性感覚入力による自己身体意識の向上やカードを用いての手順の修正への介入を行った結果、改善を認めたので考察を加え報告する。
    【症例】85歳の女性で、平成16年9月23日に脳梗塞(右基底核から放線冠)を発症し、左片麻痺を呈し平成16年10月18日より当院でのリハビリを開始した。
    【OT評価】身体機能は、Br.stage上肢3から4、手指3、下肢4で、表在・深部感覚左上下肢、体幹で軽度鈍麻。非麻痺側上肢機能は、簡易上肢機能検査(以下、STEF)が79/100点でスピードの低下を認めた。精神機能は、Mini Mental State Examination(以下、MMSE)で17/30点、行動性無視検査日本版(以下、BIT)は、通常検査107/146点、行動検査60/81点でともにカットオフ値以下で、左半側空間無視を認めた。また動作時に左上下肢の忘れがみられる等身体失認も認めた。ADLは機能的自立度評価(以下、FIM)73/126点で、更衣は袖・頭部・背部の通しの介助が必要で3点であった。
    【着衣の問題】右袖・頭部から通し始め、左袖からの通しを誘導しても修正が行えなかった。また他動的に左袖入れを促しても、袖に腕を十分に通せず、頭部を通していた。
    【治療目標・期間】身体意識を高めることにより、正しい手順とスムーズな袖通しの獲得により、更衣の自立を図る。期間は2ヶ月実施した。
    【治療】身体意識を高めるために、まずセラピストの介入により症例が左袖から着衣している場面をビデオカメラにて撮影し、そのビデオを提示して動作の視覚的に確認を行った。加えて、操作手順を文字でカードに示し、言語における視覚的、聴覚的に喚起した。次に、台拭きや積み木等の操作や筒状の布や手袋を用い、正しい部位に身体を合わせていくといった両手協応動作を行い、視覚-体性感覚の連合を行った。さらに、実際場面での継続を目的とし、看護師の協力を得て、カードを利用しての更衣動作を行った。
    【結果および考察】STEFは85/100点、MMSは22/30点に向上し、BITは通常検査124/146点で、行動検査は72/81点と正常値を示した。着衣は手順の間違いはみられず、左袖通しもスムーズになり、FIMは準備のみ介助で5点となった。以上より、自身の動作をビデオで視覚的に確認し、加えてカードによる視覚的・聴覚的な確認の強化、さらには物品操作を行い視覚-体性感覚との協調的な運動を促すことで左側の身体意識が高まり、正しい手順での更衣が可能となったと考える。
  • 中川 綾子, 長野 浩子, 木下 美智子, 乃美 寛子, 清水 志帆子, 原 志保
    p. 176
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】今回、靴はき動作は可能であるが、足組み時の姿勢保持困難や足部に靴を入れるのに時間を要す質的問題がある症例を担当した。連合反応の出現や足組み時の座位バランスの低下が動作の困難さに影響していたため、乳液、マニキュアを用い姿勢筋緊張の調整や動作の徒手的な誘導を行った結果、改善を認め考察を加え報告する。
    【症例紹介】53歳の女性でH16.10.23に脳出血(左橋)を発症し、右片麻痺を呈し、H16.12.21に当院でのリハビリを開始した。Br.Stage上肢3手指2下肢3から4で、感覚は軽度鈍麻。静的座位は骨盤後傾位で体幹は左側に傾いており、非麻痺側後方に回旋している。3歳時に左手指第2、3指PIP関節より欠損し、簡易上肢機能検査は83/100点であった。ADLは機能的自立度評価102/126点で入浴のみ介助を要す。
    【靴はき動作の問題】足組み時、右上肢の連合反応、右足部の内反が出現し、体幹・骨盤は右後方に引かれ、右下肢の足組み位の保持困難であった。靴を入れる動作では体幹、肩甲帯が後方に引かれ靴の入れ口が麻痺側足指に届きにくく、また足部内反により足背部のゴムのところで引っ掛かりが見られ何回も引き上げる動作がみられた。所要時間は56秒を要した。【治療目標・期間】対称的な座位姿勢の中で動的座位バランス向上をはかり、足組み座位を安定させ、スムーズな靴はき動作の獲得を図る。期間は2週間行った。
    【治療】座位の安定性を得るため、腹部の筋緊張向上させ体幹の立ち直りを徒手的に誘導した。また、足組み動作の安定性を図るため、麻痺側下肢筋緊張向上を促した。座位安定性の向上に伴い、足部の形状の認識を図るために、乳液を下腿や足部に塗り、足部の形状にそった手の形状づけや運動の方向性を誘導した。更なる認識の向上や足部へのリーチ範囲の拡大を図るためにマニキュアを足趾に塗り、目と手の協調的な運動を徒手的に誘導した。また、実際場面でも以上のことを考慮しながら介入を行った。
    【結果】右下肢を組むときに体幹の後方への倒れがなくなり、右下肢の足組み位の保持が可能となった。右足部へのリーチでは右上肢の連合反応、足部の内反、体幹の非対称性が減少し、靴と足を上手く合わせることができた。所要時間は17秒であった。
    【考察とまとめ】腹部や股関節周囲などの中枢部の筋緊張を高めることによって、座位バランスや足組み座位の安定性が得られ、連合反応も軽減した。さらに、乳液や、マニキュアを塗る動作を行うことで、自己身体に対するスムーズなリーチや適切な運動の方向性の再学習が行えたことが効率の良い動作獲得につながったと考える。またこの動作は訓練以外でも自主的に実施し継続性も得られ、生活につながった考える。
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