九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第29回九州理学療法士・作業療法士合同学会
選択された号の論文の171件中51~100を表示しています
  • ~GMSCSレベルIVの1症例を通して~
    山下 雅代, 木下 義博, 田中 亮, 園田 かおり, 山下 直子, 岸 良至
    セッションID: 051
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     我々は第28回九州理学療法士・作業療法士合同学会にて、Chailey姿勢能力発達レベルの到達度は、粗大運動能力分類システム(以下GMFCS)のレベルによって有意差があったことを報告した。そこで、運動を開始するためのサポートが必要となっているGMFCSレベルIVの子どもに着目し、Chailey姿勢能力発達レベルの視点から個別治療や日常場面での姿勢ケアを行ったので、その症例について報告する。
    【症例紹介】
     1歳7ヶ月、男児。脳性まひ(痙直型アテトーゼタイプ)。GMFCSレベルIV。Chailey姿勢能力発達レベルは、臥位(背臥位・腹臥位)レベル3、座位(床上座位・椅子座位)レベル2。移動は背這いを行う。臥位や座位の姿勢の問題点は、体幹が不安定であること、骨盤前傾の動きが乏しく、骨盤と分離して下肢を動かしにくいこと、肩甲帯の前突が姿勢の中で持続しないことであった。また母親の希望としては、家族が関われない時に1人で座って遊んでいて欲しい、寝返りができるようになって欲しいであった。
    【治療】
     姿勢ケアプログラムに関するエビデンスでは、背臥位と腹臥位の臥位姿勢能力発達レベル4に達するまで、1人で座ること(レベル3)はできないと言われており、また我々の前回の報告では就学前のGMFCSレベルIVの子ども達は背臥位と腹臥位の臥位姿勢能力発達レベルは5で、座位姿勢能力発達レベルは3という結果であった。よって本症例の座位能力の発達を手助けするためには、臥位能力の向上が不可欠であると判断した。背臥位では、Chailey姿勢能力発達レベル4で観察される下肢の抗重力活動が難しかった為に、体幹の抗重力屈曲活動を取り入れた。また腹臥位では、Chailey姿勢能力発達レベル4で観察される骨盤前傾や肩甲骨の前突の動きを促すために前もたれのクッションを使用した活動を取り入れた。使用する座位保持装置に対しては、座面の調整で骨盤後傾への動きを制御すること、前もたれのクッションをつけて肩甲帯の前突や上肢支持を促すこと、座位保持装置の背面を前傾に設定して体幹の重心を前方に位置させ、下肢支持を促すことを行った。
    【結果】
     骨盤を前傾方向に導き、肩甲骨の前突を保持することによって、支持基底面内で身体を動かすことが可能なChailey姿勢能力発達レベル4の臥位や座位姿勢能力を経験させることができた。それゆえに姿勢ケアされた臥位や座位姿勢では自分の両手を使った遊びが増え、特に座位場面では食事の際にスプーン操作を練習するなど積極的な活動が観察された。
    【考察・まとめ】
     Chailey姿勢能力発達レベルは、個別治療や日常場面での姿勢ケアに必要な構成要素を明確に提示してくれるものであった。今後は、症例数を増やしてChailey姿勢能力発達レベルの細分化を行って、レベルごとに重要となる構成要素について把握していきたい。
  • ~観血的治療を実施した一症例を通して~
    杉本 憲治, 吉田 勇一, 椋野 あけみ, 劉 斯允, 窪田 秀明
    セッションID: 052
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院では、小児麻痺性尖足に対する保存療法として理学療法(以下PT)と装具療法、ギプス療法を組み合わせたアプローチを試みている。ギプス療法の位置づけをPTの一助とし、装具療法と共に行うことで、尖足予防や改善が期待できると考えている。3年4ヶ月に渡ってギプス療法を組み合わせた保存療法を試み、観血的治療を実施した症例の治療経過に考察を加え報告する。
    【症例】
     初診時年齢2歳7ヶ月、男児。身長92.5cm。診断名は脳性麻痺、左下肢麻痺性尖足。左足関節可動域は、膝伸展足関節背屈角度(DKE)-25°膝屈曲足関節背屈角度(DKF)-15°。独歩可能で、松尾の動的尖足度3度であった。
    【治療経過】
     2歳7ヶ月よりPT開始。2歳9ヶ月から4歳2ヶ月に、4回のギプス療法を実施し、治療前後でDKE6°DKF8°の改善を得た。2歳9ヶ月で短下肢装具、4歳2ヶ月で夜間装具を作製。PTでは、ギプス療法で得た可動域の維持と、踵接地での荷重経験を考えたアプローチを行った。4歳4ヶ月から5歳5ヶ月に、5回のギプス療法を実施し、治療前後でDKE17°DKF12°の改善を得た。最大24週可動域改善は維持できたか、ギプス療法の回数を増すごとにPT場面で踵接地困難、足関節の外反方向へのくずれ、立位・歩行時の後足部外反、内側縦アーチ低下、装具内での踵の浮き、皮膚の発赤も観察され始めた。5歳11ヶ月、身長118cm、DKE-40°DKF-15°となり、観血的治療実施。術後はDKE5、DKF15°となった。
    【考察】
     観血的治療が低年齢である場合、尖足再発は高率であるとされる。本症例は初診年齢が2歳7ヵ月で、高度の尖足を示し、観血的治療を見据え、ギプス療法を組み合わせた保存療法を開始した。ギプス療法後は、可動域改善を得たが、実施回数を増すと維持期間は短縮した。ストレッチを行っても、アキレス腱の弛みを得ることは難しく、治療効果が得られにくくなった。これは症例の、独歩可能で運動能力の高さと身体の成長が大きく関わっていると考えられた。活動性が高く、より底屈筋力が高められたと推察される。また観血的治療時は就学前であり、成長期を迎えて、初診時から身長は25.5cm伸びた。この時期では、骨の成長と筋の成長の差が著しくなったと考えられた。これらが治療効果に影響を及ぼしたものと考えられる。保存療法に固執し観血的治療の時期を逸すると、舟底足変形を伴う外反扁平足や反張膝の出現がみられるとの報告もあり、本症例でも観血的治療を5歳11ヶ月で行った。3年4ヶ月に渡り、観血的治療を遅らせる効果はあったと判断している。
    【まとめ】
     観血的治療を見据え、ギプス療法を組み合わせた保存療法を3年4ヶ月に渡って行った。保存療法に固執することなく、治療効果の変化を捉え、適切な時期での観血的治療が必要である。
  • ~自閉症を持つAとその母親への介入を通して~
    立石 加奈子
    セッションID: 053
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     発達分野の作業療法は、家族を基盤に日常生活に即した活動提供が重要である。今回、作業療法士(以下OT)は自閉症を持つAとその母親に作業活動を提供し、作業能力の向上だけでなく母親の意識にも変化をもたらしたので経過を報告する。
    【症例紹介】
     Aは自閉症と重度の知的障害を持つ8歳の女児。FIM63/126で全般的に中等度介助が必要。簡単な言語指示の理解は可能だが、時に儀式的な行動等のこだわりがあり誘導が困難。母親はAの将来に漠然とした不安を持つが具体的な要望はなく、提案した訓練内容にも理解は示すが家庭での汎化は困難であった。作業療法では、母親の最大関心事である作業活動に注目し内容を検討。Aが色の識別・簡単な手本の理解が可能であることより、段階付けが行い易く作品が豊富なビーズ制作を提案。母親は制作に対し期待と不安を示した。
    【方法及び経過】
     <基本的練習>開始当初手本から作業手順を組み立てることが困難で、母親のAに対する声掛けも苛立ちを含む否定的なものであった。OTが手本の理解を促すと共に、母親にAの苦手な要因を説明し肯定的な声掛けを示すことにより、母親の成功を認める声掛けは増し、また作業の完成により作品に対するイメージと期待を持つことが出来た。<家庭への導入方法を検討>母親にとって制作は、特別な手本とOTの介入を必要とするものとの意識が強く家庭への導入困難が伺えた。そこでAの能力に応じた簡素化した手本を作成し、母親にその目的や工夫点を説明。母親はAが手本を理解し集中して取り組む姿から、活動の提示方法次第で集中できる作業があること喜び、家庭でも取り組みたいと持ち帰った。<作品の多様化を図る> Aと母親が制作に興味を持ち始めた為、他の作品を提案。Aが理解できる手本の種類も増え、母親は家庭でもAが理解し易いよう手書きの手本や道具を準備するようになった。母親は将来に期待感も持ち始め、認知面向上や日常生活動作自立を目標に具体的な要望を挙げ取り組むようになった。
    【考察】
     子どもの能力にのみ焦点を当てた支援では、提供した活動が関わる人や場所を限定し家庭導入が困難な場合がある。今回の制作活動でも当初母親は訓練室限定の活動との認識があり、OTへの依存も見られていた。作業療法ではAへの支援と共に、母親にAの能力や援助方法に対し共通認識を図り、母親がAの能力を再評価する機会を設けた。結果、作業能力向上と母親の肯定的な理解が見られ、それらは相乗効果をもたらし作業活動の家庭導入に加え、母親が将来に必要な課題を見出すことにも繋がったと考える。子どもの社会参加を目標とする発達分野の作業療法では、家庭や地域で子どもが能力を最大限発揮できるよう支援する必要がある。その為には家族が子どもの能力を十分理解し、将来に視野を向け目標を設定できるよう家族への支援も重要であると考える。
  • 沢田 大明, 木村 幸太
    セッションID: 054
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院に入院中転倒を繰り返す症例を担当し、転倒に対して考える機会を得た。近年、転倒など事故に関して患者の立場からの医療安全対策を第一に考える必要が強調されており、転倒に対して共に取り組む事が重要であると考えた。今回、排泄動作について症例と共に取り組み、その後の転倒リスク軽減に繋がったので経過を踏まえ報告する。
    【症例紹介】
     平成17年12月28日に右被殻出血により左片麻痺を呈した56歳の男性。Br-Stage上肢2手指2下肢3、高次脳機能面は抑制・注意障害あり。基本動作は寝返り以外、軽介助レベル。座位は静的自立・動的軽介助レベル。移動は車椅子にて自立レベル。ADLは車椅子レベルで食事・整容動作以外は介助を要した。Barthel Index(以下BI)45/100点。本人の要望は排泄の自立。
    【転倒リスク要因】
     転倒は、介入前に計8回あり、排泄や移乗場面で多くみられた。尿意切迫感による移乗時の車椅子操作の忘れや動作性急さによる転倒リスクが最も高く、さらに排泄時に介助を求めない事もリスクを助長していた。又、症例と検討した際に同様の問題が聞かれた為、排泄場面を中心に介入を行った。
    【介入及び経過】
     転倒リスクに対して、まず排尿パターンを知る為に排尿チェックリスト使用を提案し、症例自身が3日間の記載を行った。結果、日中8~10回、夜間2~4回、起床時や就寝前と食事前後、訓練前後に排尿傾向があると言われ、その時間帯に合わせて排尿を行うようになった。同時期に夜間排尿に関しての介入も行ったが、夜間は起き上れない、間に合わず失禁すると言われた。そこで尿器使用を提案し、夜間の排尿動作獲得を目標に動作訓練・環境調整を行った。その後、失禁なく起き上がる方法などを自らも考え、相談する事が増えた。約1ヶ月後、起き上がりは低床ベッドにて可能となり、日中の尿器使用による排尿動作は自立となった。夜間は座位が不安定で転倒の危険があると症例より言われたが、前方にテーブルを設置する事で夜間の排尿動作も自立し、排泄時の転倒はなくなった。BI65/100。
    【考察】
     今回の結果となった要因として、症例と話し合い、リスクを共有した事が挙げられる。そうした事で、症例の排泄に対する考えを把握でき、転倒リスク軽減が図れたと考える。リスク・コミュニケーションという概念があり、リスクを患者・家族・OTとの間で共通の問題として認識し、リスクに共に向かい合い、協業的に対処していく方法を考えていく過程とある。その過程を通じて転倒に対する認識を高められ、結果的に転倒リスク軽減に繋がるのではないかと考える。
  • 力丸 孝臣
    セッションID: 055
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     今回、借家のため住宅改修が困難であり入浴動作に過剰な努力を要していた50歳代女性に対して、機能的且つ安価な簡易シャワーを作成・設置することで入浴動作が快適なものとなったため若干の考察を含め報告する。
    【症例紹介】
     氏名:50歳代女性 診断名:右被殻出血(H17年○月) 障害名:左片麻痺
     BRS<Lt>:U/E3 Fin3 L/E4 ADL面:自立 移動:独歩にて自立(装具あり)生活状況:アパートに一人暮らし、1/週の通所リハを利用中(介護度:要支援)needs:風呂には一人で入りたい。※借家のため改修の許可得られず、また経済的に余裕なし
    【シャワー設置状況・費用】
     1:浴槽へポンプの挿入2:脱衣所にアダプタの設置3:浴室にノズル設置のためのアタッチメントを取り付け。合計\3,577
    【結果】
     今回、「安価で場所を問わず機能的」をコンセプトに簡易シャワーを作成した。費用としては約3577円と安価で浴室への設置ができ、電源の確保ができればどこでも使用することが可能となった。また、シャワーを設置したことで、入浴動作に選択肢が生まれ入浴時間の短縮、洗体動作への過剰な努力が軽減し、入浴を「きつい」から「楽しみ」なものにすることができた。
    【考察】
     今回、本症例の「風呂には一人で入りたい。一人暮らしを続けたい」というneedsを原点に家屋改修が困難である中、快適に且つ安価で症例が満足できる入浴ができるようにシャワーを設置することを考えた。実際、浴室改修が困難な中でもシャワーを設置したことで洗体動作にはシャワーを使用し、温まりたい時には浴槽へ入るなど症例の入浴動作に選択肢を創ることができた。これにより、自宅での入浴が快適且つ楽しみなものとなったことは症例にとっては有効な一手段であったのではないかと考える。本症例を受け持ち、対象者のneedsを尊重し共通の目標に向かってアプローチを行っていくことはリハビリテーションの原点であることを再認識することができた。今後としても対象者と共通の目標を明確に持ち日々のリハビリテーションに取り組んでいきたいと考える。
  • 佐賀里 昭
    セッションID: 056
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     本症例は協調運動障害、注意力低下等を呈し、能力低下していた。起立着座動作能力向上を目的にシミュレーションを実施、改善がみられた。考察を加え報告する。
    【症例紹介】
     73歳、男性、頭部外傷、左片麻痺。発症日平成19年1月9日、平成19年2月17日より当院入院、訓練開始。Br,stageVI、感覚は表在、深部軽度鈍麻、協調運動障害害、注意力低下がみられた。歩行は1本杖使用、中等度介助。起立動作は、杖を持ち急速に起立し、後方へバランスを崩す。着座動作は、1m程の距離から手掌を椅子の座面につき、バランスを崩す。機能的自立度評価法78/126。病棟スタッフからは、「杖を持ち起立し、後ろに倒れるため介助を行いにくい」「座る際、椅子まで距離があり危険」とのコメントがあった。
    【方法】
     起立、着座のシミュレーション方法 1 訓練を行う意味を確認する 2 患者が口頭指示を行い、OTがその動作を行う 3 2で指示した動作を患者が行う 4 患者の動作をOTが模倣し、エラーした箇所を患者が指摘する 5 反省を行う
    【経過】
     1週目 シミュレーション時、指示あいまい。動作手順誤り多い。口頭誘導が必要。病棟では手順を守れない。自己修正はできない。2週目(病棟での手順統一、病棟スタッフがシミュレーションを行った)シミュレーション時、指示誤り少ない。動作手順を覚え、リハ室では手順を守る。病棟でも手順を守ろうとする場面がみられる。自己修正はできない。3週目 シミュレーション時、指示誤りなし。リハ室では手順を守り、病棟でも手順を守るようになる。足部の位置が悪く、バランスを崩すことあり。膝と足部の位置関係に意識をむけることができるようになり、自己修正可能なこともある。
    【結果】
     機能面の著明な変化はみられない。起立動作は、足部を引き寄せ、臀部を座面前方へ移動し、体幹前屈、起立し、その後に杖を持つ。着座動作は、健側より適度な距離まで椅子に近づき、手すり、座面を支持し腰掛ける。バランスを崩すことはみられる。病棟スタッフからは「起立時に杖を持たなくなった」「健側から椅子に近づき、介助を行いやすい」とのコメントがあった。
    【考察】
     動作手順を記憶したが、エラーが生じた際、修正不十分であり、自立には至らなかった。諏訪によると、メタ認知とは、言語化は学習におけるdifferention(新しい変数にきづく)probrem-framingのきっかけを作るツールと述べている。シミュレーションのねらいは、手順の記憶、身体内部モデルの変換であった。現在は手順の記憶ができ、身体内部モデルへの気づきが得られた段階、若干であるが、変数に気づいた状態と考える。これを、きっかけに対象世界に対する新しい視点や詳細な知覚を得ることにつながると考える。今後は自己の身体関係性を重視した、一人称記述を行い、動作獲得を図りたい。
  • ~体幹へのアプローチと環境調整に着目して~
    井手 なぎさ, 宮本 多恵, 今村 純平, 松村 亮一
    セッションID: 057
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     今回、重度運動失調患者の摂食動作に対して、体幹機能と環境調整に重点を置いたアプローチを行い、良好な結果が得られたので報告する。
    【症例紹介】
     *初期評価時
    症例:50歳代、男性。傷病名:橋出血後遺症。障害名:四肢不全麻痺。現病歴:H18年2月に自宅で倒れているところを発見され救急車で搬入。頭部CT検査で橋出血を認め保存的加療をうけた。H18年4月にリハ目的で当院入院。
    【リハ評価】
     *発症後4ヶ月経過
     筋力:中等度低下。失調:四肢・体幹に重度認める。Br.stage:V-V-V。基本動作:最大介助。(端坐位は数十秒保持可能)ADL:BI→10点(食事は自力摂取可能だが食べこぼし多い)
    【方法】
     約2ヶ月間の訓練期間前後に下記2つの評価を行った。
    1.作業課題
     300gの大豆を、スプーンで容器Aから容器Bに移す作業を30秒間行い、移動量(g)、こぼした量(g)、ストローク数を測定した。作業を3回連続して行った際の平均値を比較した。測定は同一時間帯に9日間連続して行った。
    2.実際の摂食動作時の視覚的分析
     介助量、姿勢、食べこぼしの量を視覚的に評価した。食事の形態は、常飯・軟菜(一口大)であった。太柄のスプーンを使用していた。
    (理学・作業療法介入)*2ヶ月間
     理学療法では端座位バランス練習を中心に行い、数分の端座位保持が可能になり、外乱を加えた時の姿勢修正が可能となった。作業療法では、車椅子をモジュラー型に変更し、クッションを使用することで座位安定を試みた。また、食器を自助食器に変更した。
    【結果】
    1.作業課題
     移動量は86.5±23.7gから131.4±12.3g、ストローク数は11.7±1.3回から16.7±2.5回で、ともに有意な増加を示した(p<0.01)。また、こぼした量は4.4±3.2gから8.3±4.1gで、有意な増加を示した(p<0.05)。
    2.実際の摂食動作時の視覚的分析
     訓練前は、体幹の動きはなく、リーチ範囲が狭いため食器の入れ替えが必要であり、食べこぼしの量は多かった。訓練後は、随意的な体幹の前後傾を伴った上肢のリーチ動作がみられた。食器の入れ替えが不要になるとともに、食べこぼしの量は著明に減少した。
    【考察】
     作業課題において、移動量とストローク数は増加した。これは、車椅子座位が安定したことにより、上肢の動きが向上したためと考える。端坐位能力の向上や車椅子の調整といった体幹へのアプローチは、摂食動作を改善させるうえで効果的であったと考える。
     こぼした量は増加したが、実際の食事場面においては食べこぼしが減ったことから、食形態が常飯・軟菜一口大であり、太柄のスプーンを使用していたことが本人に適していたと考える。食事場面での食形態や食器を含めた環境調整、食事の方法を検討することが重要であると考える。
  • ~一症例を通して~
    岩田 充史, 福田 久徳
    セッションID: 058
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回、脳出血のため左片麻痺を呈し、病前の役割を失い作業バランスに変化を生じた患者(以下事例)を担当させて頂く機会を得た。事例と共に作業活動を実施する中で、作業バランスの変容がみられ、一部の家事動作を獲得したので報告する。
    【事例紹介】
     75歳女性。視床出血に伴う左片麻痺。発症日:H18.8.14発症。当院入院日:H18.9.12。翌日より作業療法開始。Br-stageでは上肢4、手指5、下肢4であり、簡易上肢機能検査では右上肢94点、左上肢67点であった。基本動作は立ち上がり・移乗動作監視、その他自立。車椅子駆動自立。日常生活活動はトイレ・更衣動作軽介助、入浴動作中等度介助レベル。家族構成は認知症を呈した夫と二人暮らし。病前は畑仕事、踊りなどを行っていた。
    【アプローチ】
     発症後、事例は妻としての役割や「生産・楽しみ」の時間を喪失した。Meyerは「人は自分の時間を組織化することで健康を維持させる」と述べており、「生産・楽しみ」となる時間を自己管理することができるペーパーフラワーを導入した。また、ペーパーフラワーは病前の役割であった「物を作り提供する」ことの可能な作業である。山根が「並行集団を用いて自己や他者、環境への関心を高めることができる」と述べているように、他者と交流する場を提供し、自他への関心や現実検討、及び作業バランスの調節を図っていった。
    【結果】
     ペーパーフラワーを行い、他者と関わる経験の中で誰かのために作品をつくるという「物を作り提供する」という、病前の地域への参加者として役割が芽生えた。その後「物を作り提供する」という類似した調理訓練への参加が見られ、一部の家事動作を獲得した。
    【考察】
     役割や余暇時間を喪失した事例に対して、他者と交流の図れる場でペーパーフラワーを行うことにより、入院生活に「生産的・楽しみ」の割合が増加し、その後、物を作り提供するという共通要素の多い調理へと汎化したのではないかと考えられる。村井は「作業の形態が変化しても機能・意味は類似することがある」と述べていることから、病前行っていた畑仕事とペーパーフラワー及び調理は、事例にとって類似した機能・意味を持っていたのではないかと考えられる。
    【まとめ】
     対象者の作業の意味を捉え、作業を提供することは有効であり、作業バランスを整えることは人を健康へと導く。今後、作業療法対象者にとって、客観的データから病前の作業バランスと発症後の作業バランスを近づけることが有効であるのか更なる検討が必要である。
  • 東條 竜二, 平名 章二, 花山 友隆
    セッションID: 059
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     昼夜逆転、抑うつ、臥床傾向にあったB氏を担当した。日常生活活動(以下ADL)に加え、作業を提示し、その中で興味を示した作業を用いて作業療法を展開した。その結果、生活リズムが確立し、B氏の生活に変化がみられたので経過を報告する。
    【B氏紹介】
     80代女性。診断名:右被殻出血。H18年12月に意識障害、左片麻痺出現し、A病院に救急搬入され、血腫除去術施行。リハビリテーション目的にて、H19年1月に当院入院。同年2月に作業療法開始。生活歴:夫の介護をしながら、農作業や家事全般を行っていた。
    【初回評価】
     Br-stage: 左上下肢・手指2。感覚重度鈍麻。構音障害、嚥下障害あり。昼夜逆転・傾眠傾向にあり反応乏しい。コミュニケーションは主に筆談等で表出。高次脳機能面は、精査困難で観察より注意障害、保続、構成障害の疑いあり。基本動作:全て中等度~全介助。ADL:食事は経管栄養にて摂取。排泄は尿・便意あると言われるも訴えなし。その他ADLは中等度~全介助。日中臥床傾向。Barthel index(以下BI):5/100、機能的自立度評価法(以下FIM):31/126。Demand:家に帰りたいと泣きながら訴えるのみ。
    【介入方針】
     障害後の生活環境の変化や抑うつ等の影響もあり、昼夜逆転・傾眠傾向が引き起こされたと考えた。そこで、ADLに加え、B氏が興味を示した作業を提供することで、生活リズムを確立し、主体的な病棟生活が送れることを方針とした。
    【経過】
     第1期:ADLを用いて生活リズムに変化を与えた時期。食事は経口摂取及び、車椅子座位にて行うことで時間の概念が確立され、また尿・便意の訴えが可能となる。第2期:作業の導入により覚醒時間の拡大を図った時期。作業に対しB氏からの主体的な参加や要求が出現する。笑顔が増え、言語による表出が可能となる。第3期:作業活動の更なる展開が見られ始めた時期。同室者に興味を示したり、他者が行う作業に自ら興味を示し挑戦したり、作製中の作業を自ら病棟で行うなど、主体的な作業選択・遂行が可能となる。
    【現在の評価及び結果】
     身体機能面は特に著明な変化ないが、車椅子上で生活することが多くなり、コミュニケーションも発話による疎通が増えた。高次脳機能面は明らかな問題を認めていない。基本動作は寝返り自立。ADLは、食事はスプーン使用にて自立、排泄はB氏の訴えのもと中等度介助にてトイレを使用。BI:30/100。FIM:54/126。Demand:身の回りのことができるようになりたい。肩こりなく仕事がしたい。家に帰りたい。
    【考察】
     食事・排泄動作等のADLと共に、生活の中に楽しみや余暇となりうる作業を一緒にみつけ提供することは、作業療法の重要な役割の一つである。今回、昼夜逆転、抑うつ、臥床傾向にあったB氏の意志や意欲に働きかけたこと、またB氏が作業に興味や価値を示し、継続して行い、習慣化したことで新たな作業選択や作業遂行ができたことがこれらの結果に至ったと考える。
  • 松崎 惠子, 瀬戸口 佳史, 松本 秀也, 中島 洋明, 大勝 洋祐
    セッションID: 060
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     退院後の日常生活活動、Activities of Quality of life(以下QOL)の向上を図るうえでバランス能力・歩行能力の獲得は、重要であると考えられる。脳血管障害片麻痺患者を対象に10m最大歩行スピード・Berg Balance Scale(以下BBS)を施行し歩行能力およびバランス能力との関連性を検討した。
    【方法】
     対象は、当院に入院および外来通院し理学療法を施行している脳血管障害片麻痺患者97例(右片麻痺65例・左片麻痺32例、男性72例・女性25例)平均年齢67.4±11.9歳であった。BBSは14項目の課題から構成されている。14項目の合計をBBS得点すなわち0~56点の範囲となる。歩行能力は5群に分類し屋外歩行が自立し、かつ信号機の横断も独力可能な群をA群、屋外歩行は自立しているが信号機の横断は独力不能な群をB群、屋内歩行自立群をC群、屋内歩行監視群をD群、屋内歩行介助群をEとしまた10m最大歩行スピードも測定し指標とした。分析項目として歩行自立度と歩行スピード、歩行自立度とBBS得点、BBS得点と歩行スピードの相関について比較検討した。
    【結果】
    1.歩行自立度と歩行スピード;自立度別平均歩行スピードはA群1.2±0.4m/s、B群0.6±0.2m/s、C群0.5±0.3m/s、D群0.4±0.1m/s、E群0.2±0.1m/sでありA―B群間で有意差を認め(p<0.01)、B-C群、C-D群、D-E群間で差を認めなかった。
    2.歩行自立度とBBS得点;BBS平均得点はA群53.3±2.9点、B群46.9±2.9点、C群44.7±3.9点、D群40.9±5.2点、E群18.3±12.3点でありA―B群間、D―E群間で有意差を認め(p<0.05、p<0.01)B-C群間、C―D群間では差を認めなかった。
    3.BBS得点と歩行スピード;BBSと歩行スピードの間には相関が認められBBS得点が高くなるほど歩行スピードも速かった(R=0.88)。
    【考察】
     今回の結果より歩行自立度と歩行スピードはA―B群間で有意差を認めB-C群、C-D群、D-E群間で差を認めなかったが、歩行スピードは自立度が高いほど速かった。脳卒中患者の歩行能力で10m最大歩行速度を指標にした文献で佐直らは20m/分(0.3m/s)未満では基本的な日常生活活動にとどまるが、20m/分(0.3m/s)以上では手段的ADL、余暇活動が行われるようになる。40m/分(0.6m/s)以上では屋外での活動が多くみられるようになると報告しており今回の研究結果と同様の結果を得た。歩行自立度とBBS得点では、Usudaらや望月は屋外平地歩行の平均値は、51.4点であり40~45点が屋内歩行自立の目安としており歩行自立度とBBSの関連でも同様の結果を得た。
  • 木場 加奈子, 前田 哲男, 木山 良二
    セッションID: 061
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     脳卒中によって引き起こされた歩行の障害は様々なものが考えられるが,その中でも立位でのバランス能力は歩行能力とも関連性が深いとされている. 今回,重心移動能力を重心移動に対して圧中心を支持基底面内にとどめることのできる範囲と考え,その範囲を有効支持基底面と定義し,立位バランスの評価に用いて歩行速度との関連について調査した.さらに下肢ステージ,重心動揺との関連を調べ臨床的意義を検討することを目的とし以下の研究を行った.
    【対象】
     対象は脳血管障害により片麻痺を呈した患者12名とし,杖・装具着用にて屋内歩行自立以上の者とした. 発症からの期間は平均31.4ア48.9ヶ月,疾患は脳梗塞5例,脳出血5例,脳血栓2例で,左片麻痺7名,右片麻痺5名であった.下肢のブルンストロームステージ(以下ステージ)はIII~VIであった.
    【方法】
     有効支持基底面の測定はzebris社製フォース&圧分布計測システムwin PDM(以下PDM)を用いた.対象者はPDM上に裸足にて立位姿勢をとり,前後,左右,斜めの合計8方向にできるだけ体重をかけ,これ以上はかけられないと思ったら中心にもどるよう指示された.有効支持基底面の値は立位にて前後・左右・斜めの合計8方向への重心移動距離を測定し,最大移動地点で囲まれる面積を算出することによって求めた.歩行能力の指標としては10m快適歩行速度の測定を行った.
    【結果】
     有効支持基底面麻痺側と非麻痺側間では有意差はなかった.有効支持基底面全体と歩行速度との相関はr=0.54と正の相関を認め,有効支持期底面の麻痺側が広いほど歩行速度が速くなる傾向を示した.歩行速度と有効支持基底面非麻痺側とは有意な相関を認めなかった.さらに有効支持基底面全体と下肢ステージとは有意な正の相関を認めたが下肢ステージと有効支持基底面の非麻痺側とは有意な相関を認めなかった.
    【考察】
     先行研究では麻痺側下肢への重心移動距離や荷重量の低下を報告しているが、今回は麻痺側と非麻痺側間で,有意な差がないという結果を得た.より多く麻痺側への重心移動が可能であった症例については,麻痺側体幹側屈の要素を用いたことが考えられる.体幹の側屈を用いた場合は股関節と重心との距離が,股関節周囲の運動方略を用いた場合よりも短くなるため中殿筋の負担が少なく,より容易に重心を麻痺側に移動させることが可能となると考えた.さらに有効支持基底面麻痺側と歩行速度との間にはr=0.67と有意な正の相関を認めたが,非麻痺側とは有意な相関は認められなかった.この結果は有効支持期底面の麻痺側が広いほど歩行速度が速くなる傾向を示しており,歩行速度と麻痺側の有効支持期底面との関連性が深いことを示唆していると考えられる.ゆえに片麻痺患者の訓練において麻痺側への体重移動能力を向上させるトレーニングが歩行能力向上に寄与する可能性が高いと考えられた.
  • 福嵜  裕一郎
    セッションID: 062
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回、脳幹部梗塞により注視障害となり歩行障害を呈した症例に対しアプローチ実施し、若干の知見を得たので報告する。
    【症例紹介】
     症例は82歳男性。X年12月13日に橋下部背側脳幹部に発症し、保存的療法。初期時のブルンストロームステージは右上肢、右下肢、右手指ともに6レベル。平衡機能低下見られ立位時ふらつきがあり歩行は困難。ADLはバーサルインデックス40点。
    【理学療法アプローチ及び経過】
     1~5のような段階を考え実施。1.平行棒内にて麻痺側への荷重練習と交互の下肢の振り出し。2.立位バランス練習。3.歩行練習。4.離れた台の上にペグを置き、取る。続いて片目にて実施。5.ペグを台の上に同間隔に並べ、またペグの上にペグを重ねる。以上をパターン化し繰り返し練習実施。発症から1週目では立位バランス不安定であり、歩行にもふらつきがあり転倒リスク高い状態であった。下肢の交互の振り出しも困難。左目を隠すことでふらつき軽減。2週目では杖歩行実施するが順序上手くいかず、杖なし歩行で試すとふらつきは残存するが介助にて歩行は可能。3週目には平行棒内にて歩行安定。杖歩行安定傾向であり監視にて可能。4週目では片目を隠し歩行練習行う。ふらつきは軽減し歩行は安定するが距離感がつかめないという問題が出現。これに対し杖を使用し距離感を杖で代償する。5週目にはふらつきは軽減し、歩行安定。歩行距離延長し病棟内フリーとする。ADLは入浴以外自立レベル。在宅に向けてのシミュレーション実施。
    【考察】
     症例は、脳幹梗塞にて注視障害となり、歩行障害となった。脳幹部では感覚線維のほかに種々な脳神経核や運動神経線維が密着しているので、この部の障害では感覚のみが侵されることはなく、いろいろな脳神経症候、運動障害を伴う。本症例では橋背側部にある傍正中橋網様体(以下、PPRFと略)が障害部位である。PPRFは橋の外転神経核の高さで内側縦束よりやや腹側にあり、1ミリ程度の障害でも障害側への注視障害と眼振急速相の消失、反対側への眼球共同偏倚を起こす。発症当初より麻痺の影響は少なかったが注視障害の影響で物が二重に見えたり、目の前が回ったりと歩行やADLに大きな阻害因子となっていた。立位・歩行が安定してからは、視覚刺激を減らす方法として、日常の生活場面に適応しやすい方法である眼帯を用いた。左目を隠しADL練習を中心に行った。視覚遮断している間は効果的であるが視覚を開放すれば見え方は崩れ一定しなかった。練習を続ける中で片目での生活になれADLは自立となった。退院時、注視障害は残存し、日常生活においては外出時眼帯着用が必要となった。車の運転は危険と判断し、本人も納得した上で中止するように指導した。今回注視障害の予後不良を感じたが、視覚遮断することで歩行能力向上を認めた。今後更に注視障害に対するアプローチを検討したい。
  • 笠野 大輔
    セッションID: 063
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院では2006年9月より脊髄損傷・頚椎症・ヘルニアなどの頚椎疾患に対して前方固定術を実施し早期離床・退院を目指しアプローチを行なっている。今回、C4~6脊髄損傷により四肢不全麻痺を呈し座位バランス能力低下を認めた症例に対しアプローチを行なったので若干の知見を加えて報告する。
    【症例紹介】
     C4~6脊髄損傷。80歳・女性。既往歴として両変形性膝関節症、頚椎椎間板ヘルニア、糖尿病。転倒により前頭部打撲し受傷。同日頚髄損傷の診断にて前方固定術を施行し当院入院となる。
    【理学療法治療経過】
     術後1日目より理学療法開始。初期評価時、Frankrl分類にてC、Bridge muscle(以下BMと略)や四肢筋力は重力に抗せない程度。感覚は表在感覚C4以下重度鈍麻、深部感覚鈍麻。右膝関節運動時痛VAS7/10。基本動作全介助レベル。Barthel index(以下BIと略)=5点、食事のみ部分介助、他全介助。2日目よりリハビリ室にて端座位練習を開始する。16日目より静的座位安定しセラピーボールを使用し端座位での動的バランス練習と上肢・体幹コントロール練習を含めた長座位練習開始。29日目より端座位でセラピーボールをキャッチすることが可能になる。そして37日目より長座位保持可能となる。最終評価では左上肢・右下肢重力に抗せない程度、右上肢・左下肢重力に抗して運動可能となりBMの筋力向上も認められた。感覚は表在感覚Th12まで軽度鈍麻、L1以下重度鈍麻、深部感覚鈍麻である。右膝運動時痛VAS5/10。寝返り・座位自立、起き上がり・立ち上がり介助レベル。BI= 45点となる。50日目に転院となった。
    【考察】
     初期評価の結果から、座位保持困難な理由として体幹・四肢の麻痺・感覚障害や骨盤の可動性低下などが考えられた。訓練内容としてファシリテーションと漸増的座位バランス訓練を実施。術後15日目で端座位保持可能となるが、座位姿勢をみると常に体幹の傾きに違いがみられた為姿勢矯正鏡でのアプローチを継続する。アプローチ実施により体幹の傾きに改善がみられた。また、セラピーボールを使用したアプローチを実施し最終評価時では長座位獲得することが出来た。
     本症例では座位が安定した因子として随意性の改善が大きく感覚障害や骨盤の可動性改善も影響があったと考えられる。また、頚髄損傷では姿勢感覚やバランスの低下が起こることされているもBM促通による姿勢・運動感覚の改善も座位獲得に影響があったのではないかと考えられる。今後、座位に対する評価を行い各プログラムによる効果をより客観的に検証していきたい。
  • ~一症例における治療効果~
    吉村 恵三, 佐野 博之, 渡辺 寛, 牟田 貴美子
    セッションID: 064
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     歩行動作中のRocker functionは衝撃干渉や推進力を伝達していく機能として重要な役割を果たす。脳卒中片麻痺患者の多くはこれらの機能不全状態を呈する者が多い。また、これらの機能獲得は治療上難渋する症例を多く経験する。今回、比較的軽度の麻痺を呈する症例に対し、治療手段としてPNFを用い、Rocker functionの獲得に着目しアプローチを行った。アプローチ前後における即時効果が得られ、歩容の改善が得られたので報告する。
    【症例紹介】
     51歳男性、診断名は脳梗塞(左視床・ラクナ梗塞)。発症日は平成19年2/10。2/14から座位許可となりベッドサイドリハビリを開始。能力に応じ徐々に歩行訓練へと進めていった。開始時評価はB/S stageはV-V-V、感覚障害・高次脳機能障害は認めなかった。上肢Barre-t軽度回内、下肢Mingazzini-t膝軽度屈曲、足下垂と軽度の右片麻痺を呈していた。ADLは移動動作以外はほぼ自立していた。
    【経過】
     2/16より歩行練習開始。2/23平行棒内歩行は自立レベルであるが、振り出しはspasticで足部のdrop footを伴い分廻す傾向にあった。徐々に麻痺側下肢の支持性は向上したが、依然として抗重力位では肩甲帯下制、骨盤後傾した姿勢をとっており、非麻痺側へ重心偏位していた。歩行動作では支持期での足関節背屈が不十分でありHeel offが早期に出現しforefoot rocker が見られなかった。振り出しは非麻痺側への体幹後側屈を伴うSynergicパターンでの振り出しをしていた。Initial contact(IC)は足関節下垂・内反し前外側部での接地をしており体幹を麻痺側へ傾斜させていた。時折後方や側方へバランスを崩し軽度介助を要した。以上までの治療は主に基本動作の反復練習を行い、2/27からPNFを導入した。
    【評価】
     評価方法としては10m歩行スピードとF‐scanによる足圧中心(COP)の軌跡の観察を行い、導入後5日後の3/2に再評価を行った。
    【治療】
     非麻痺側からのirradiationやmanual contactを考慮する事でtime for emphasisを積極的に用い、足関節背屈の求心性の分離運動や下腿三頭筋の遠心性収縮活動などの要素を促通していった。また治療肢位は支持基底面および重力の影響を考慮し、臥位から座位・立位へと姿勢を変えながら行い、促通した部分の運動感覚を歩行動作に統合していった。
    【結果】
     10m歩行スピード33.7m/分から40.8m/分へ改善した。COPの軌跡は2/27踵部前から前足部までであったが、3/2踵中心から第1・2趾間までと延長した。歩行分析では支持期で足関節背屈が出現し、歩幅の拡大を認めた。また振り出し時のSynergic patternが減少した。IC時は背屈が出現し、踵接地が可能となった。
    【考察】
     PNFを用いる事により患者が持っている潜在能力を引き出し、運動学習を通じ動作獲得へと結び付けていく事ができたと考える。
  • 植野 拓, 由川 明生
    セッションID: 065
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     急性期におけるリハビリテーションの目的として早期離床及び日常生活活動(以下、ADL)の再獲得がある。ADLの再獲得のために体幹機能は不可欠であるが、急性期脳血管障害患者の問題として体幹機能の低下が挙げられる。また、同時に呼吸機能の低下を認める患者は少なくない。これまで経験的に呼吸機能を加味した体幹機能へのアプローチを行っていたが今回、急性期における体幹機能と呼吸機能を2週間の治療期間の前後で評価・測定し、その妥当性について検討した。
    【対象】
     2006年4月から2007年3月までの間に当院に救急搬送され、急性発症した脳血管障害患者19名(脳梗塞16名、脳出血3名)。呼吸器疾患の既往歴がなく脳血管疾患が初発であり、指示に応じられる症例を対象とした。平均年齢65.6歳±9.1歳(男性10名、女性9名)であった。
    【方法】
     脳血管疾患発症後の坐位開始時と坐位開始後2週間目に体幹機能としてTrunk Control Testを評価した。また肺機能として%肺活量(以下、%VC)をCHEST社製、総合肺機能検査システムCHESTAC-33を用いて測定した。統計学的にはWilcoxon順位和検定を行い、有意水準を1%未満とした。またTrunk Control Testと%VCの関連性についてはSpearman順位相関を用いて検討した。
    【結果】
     Trunk Control Test、%VCともに優位に改善した(P<0.01)。端坐位開始時のTrunk Control Testと%VCは相関係数(r=0.4821)(P<0.05)と正の相関がみられた。端坐位開始2週間後ではTrunk Control Testと%VCに相関は認められなかった。
    【考察】
     結果より急性期脳血管障害患者は坐位開始直後より体幹機能、%VCともに回復することが示された。また、発症後%VCが高ければ体幹機能も残存していることが示された。発症後早期より呼吸機能を加味した体幹機能へのアプローチを行う事が有用ではないかと考えられる。
    【まとめ】
    ・急性期脳血管障害患者の体幹機能と呼吸機能に対する治療アプローチの妥当性について検討した。
    ・端坐位開始時には体幹機能と呼吸機能に相関係数(r=0.4821)(P<0.05)と正の相関がみられた。
    ・脳血管障害発症後早期から体幹機能、呼吸機能ともに優位に回復がみられ、治療アプローチの対象である事が考えられる。
  • 濱尾 玲早, 四本 伸成, 薬師寺 京子, 玉島 亜希子, 永山 弓子, 芝 圭一郎, 東 祐二, 藤元 登四郎
    セッションID: 066
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     本研究の目的は、当院デイケア・外来作業療法利用者に対しアンケートを作成し、同意の得られた利用者に回答を頂く。アンケート結果より、利用者側のニーズを明らかにすることにある。
    【対象】
     当院デイケア・外来作業療法利用者を対象として実施した。内訳はデイケア利用者男性18名、女性8名計26名(平均年齢44.5±10.1歳)と外来作業療法利用者男性3名、女性1名計4名(平均年齢46.5±9.5歳)である。
    【方法】
     アンケートは「(デイケア・外来作業療法)にどのような目的を持って参加していますか」という質問に対し、同意の得られた対象者のみ無記名にて回答してもらった。利用者の言葉で答えられるよう、自由記載の形とした。実施期間は、平成19年2月6日~4月10日で、利用者の参加日に記載してもらった。結果からいくつかのカテゴリーを抽出した。
    【結果】
     アンケートの回答より、得られた結果を意見の多かったものより記載する。
     デイケア利用者の意見として、最も多かったものは、人と仲良くなるため(26.9%)、次いで、規則正しい生活を送るため・生活リズムを作るため(11.5%)、友達を作るため・手工芸(活動)のため(7.7%)、という回答が得られ、対人関係また、生活リズムに対するニーズを持った利用者が多い結果となった。同時にこの他にも、自分に自信をつける・悩み事により気分や調子を大きく崩さないようにするため・目標を立てるためなど個人個人違った様々な回答を得ることが出来た。
     外来作業療法利用者の意見としては、最も多かったものが、作品が出来る楽しみのため(33.3%)、次いで、活動がしたいから・気分転換のため・暇だから・人に会うため(16.7%)という回答となり、主に作業活動に対するニーズを持っているとの結果であった。
    【考察】
     今回、デイケア利用者の回答より抽出されたカテゴリーとして対人関係に対するニーズが最も多いことが明らかとなり、デイケアが利用者にとって他者との交流の場であると認識されていることが示された。デイケアは、設定された6時間という時間を他者と共有することとなり、集団での活動もあるため、集団を意識する機会が多かったことがこのような結果につながったと考えられる。加えて、交流の中で、他者からの承認と自己確認・模倣修正による自己確立などの作用が働いていることも大きいと考える。変わって、外来作業療法利用者は、作業活動に対するニーズが多いことが分かった。この結果より、利用者にとって活動の場として認識されていることが示された。外来作業療法はパラレルな場であり、場における普遍的体験をともなう安心・安全感の保障、自我を脅かされず自己愛を満たす機会となるなどの効用も結果につながったと考える。加えて、その中で、作業活動に伴う発散や達成感、有能感の充足などの作用が結果に関係していると考えられる。
  • ~共に生活のイメージ作りを行って~
    玉島 亜希子, 四本 伸成, 薬師寺 京子, 永山 弓子, 芝 圭一郎, 濱尾 玲早, 東 祐二, 藤元 登四郎
    セッションID: 067
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【報告の目的】
     今後の生活に不安を抱いていた症例と生活のイメージ作りをしていった。徐々に退院を前向きに考え新たな単身生活に至ることが出来たので報告する。
    【症例紹介】
     40歳代男性、統合失調症。中学校卒業後、単身生活をしながら稼動されていた。H17年に父親危篤の連絡を受け帰郷後、不眠・奇異言動が見られる。帰郷1週間後に包丁で親戚を追う他害行動を認め当院に措置入院となる。入院1ヵ月後本人希望で作業療法(以下OT)が処方された。一度再燃しOT中止となるも1ヶ月後再度処方された。
    【OT評価】
     陽性症状は否定され行動化はない。病棟ADLは自立しており月1回は宗教の集会へ他患者と出かける。OTの参加は積極的で特定の方には自ら交流されるがそれ以外の方との交流は受身的である。借金や免許更新の不安から再燃したこともあり「今後の事を考えると不安」との発言が聞かれる。GAF40点台。
    【介入の基本方針】
     まず気分転換と発散を促しつつ退院への動機付けをしていく。具体的に退院の方向性が決定すると、自信がないことや不安なことについて話し合い退院後の生活のイメージ作りを行っていく。
    【OT実施計画】
     パラレルな場での活動と個別での日常生活活動・デイケア体験
    【介入経過】
     (先の事を考えるのを避けていた時期)再燃後であり休息と気分転換できるよう関わった。今後のことは積極的には触れずにこれまでのことを振り返る作業をしていった。しばらくすると「退院すればアパート暮らしになるだろうけど保証人がいないしなぁ」とぼんやりとだが前向きな発言が聞かれるようになる。その後、今年はどんな年にしたいか尋ねると「退院したい」と再燃後初めて退院についての意思表示をされた。
    (症例と生活のイメージ作りをした時期)退院の意思表示があったがすぐに具体的に考えられないで躊躇していた。OTでは退院したい気持ちを維持する為に今後のことを話す機会を設けると共に、地域で生活している人の生活状況や利用できる社会資源について伝えていった。最初、聞いているばかりであったが徐々にデイケアや生活保護での生活について興味を示される。その後、本人を含めたカンファレンスにて退院の方向性が決まると、不安や今後必要となる技能や経験について症例と検討していき解決していく作業を行った。その集大成として外泊を実施する。帰院後「大丈夫だったよ」と誇らしげに外泊の様子を話された。2回の外泊を経て「退院か、ここまで来たなぁ」と言われその後退院された。
    【結果】
     生活保護を受給しながら様々な社会資源を利用し単身生活を送っている。
    【考察】
     症例は入院前と異なる生活環境をイメージすることが困難だったと考えられる。そこで、できるだけ単身生活をイメージしやすいように介入したことが不安解消の一助になり、退院に対する動機付けの一つになったのではないかと考える。
  • ~自分が主役!自分がうまけりゃそれでよか!~
    松藤 裕子
    セッションID: 068
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     単身生活をしているデイケア、デイナイトケアのメンバーを中心に、より個人のニーズ・生活に即した料理教室を目的に小集団にて実施。一年間の取り組みとその経過に考察を加え報告する。
    【運営方法】
     統合失調症の男性4名、女性2名で構成される、セミクローズドグループ。
     (1)個人専用ファイルの作成、(2)一週間の振り返り、(3)調理計画、(4)調理実習、(5)調理の振り返り、(6)スタッフの役割
    【経過】
     まずは、進行をスタッフにて行い、インスタント味噌汁をおいしく食べる方法探しから始め、試行錯誤を繰り返す。
     第1期:メンバーにも進行を担ってもらい、プログラムの名称をメンバーのアイデアより、「がんばろうクッキング」に決定する。ぎこちなかった進行も形になり始め、調理実習が徐々に生活に活かされ、料理の内容にも変化が見られる。
     第2期:「きつかったのでレトルトで済ませた。簡単な料理を覚えたい」との声で、スーパーへ便利な食材探しに出かける。実際に調理もしてみる。この頃から、後片付けを協力するなどメンバー同士の交流や買い物の内容にも変化が見られ始める。
     第3期:文化祭への取り組みで、メンバーの提案によりレシピ本を仕上げる。それを機に、半年間の総括をこめて『これからもがんばろうね会』を開催。感想では前向きな声が聞かれ、意見交換も活発になり、食生活にも変化が見られ始める。
    【考察】
     取り組みを通して、メンバー自身が生活をどうにかしたい、でもどうしていいかわからないという漠然とした不安など生活のしづらさに改めて直面し、無理をして料理する必要はないのではないかと考えた。バランスの取れた食事が重要ではあるが、生活リズムや自分の病状に合わせて食事を自分で調達することができること自体が重要ではないかと考えさせられる機会となった。しかし、生活圏の狭さ、活用できる資源に関する情報の乏しさにより「どうにかしたい」が「どうしていいかわからない」に至っていたのが実状だったのではないかと考える。今回、調理ばかりに着目せずに自分の食生活の何が不便で何が必要なのかを振り返り、それが各個人の問題として終わるのではなく、みんなで解決していくことで、より視野が広がるきっかけとなり、食を通じて仲間と共に生活の質の向上につなげていけたのではと考える。
    【おわりに】
     生活の主役はメンバーであり、その生活をどのように変えていくかは、その主役であるメンバーと試行錯誤して考えていくことが不可欠である。
     プログラムをより生活に活かしていくためには、プログラムの中でも生活の主役であるメンバーが主役となり、その主役がどれだけ満足して、自己効力感が得られるかが重要である。
  • ~TEGを用いた自我状態から~
    山崎 誠, 土谷 健治
    セッションID: 069
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     2006年度診療報酬改定で、長期にわたるリハビリテーションを行う患者には算定日数(期間)に制限をつけ、一定期間を過ぎると公的医療保険の適用外とされる事となった。
     しかし、適用外とされる患者の中には適用期間と同様のリハビリの継続を求める患者も存在している。そのような患者に東大式エゴグラム(以下TEG)を用い、自我状態から対象者の理解を試みた。
    【集計方法】
     セラピストが新版TEG53項目の質問を行い、質問結果を書き込み。
    【症例】
     A氏:男性78歳
     疾患:脳出血後遺症
     発症:平成11年8月6日
    【結果】
     集計結果は下記のとおりであった。
     CP…18 NP…14 A…18 FC…13
     AC…6 L…0 Q…21
    【考察】
     この症例は保険対象後もセラピストによるリハビリ継続を希望しており、理由としては「リハビリをしないと悪くなりそうだから」という意見であった。
     今回集計を行った症例の自我状態は、他の自我状態に比べAC低位である点と、CP及びAが同程度の高位である点が示された。一般にACが低位である場合に妥協しない面がみられるとされ、一方のCP及びAが高位である点からは厳しく、規律に従うといった面がみられるとされる。
     低位、高位に存在する自我状態から今回集計を行った症例においての心理的特徴としては「自分の決まりごとをやりぬこう」とする人物像が窺える。
     また、新版TEGを実施した症例は医療保険でのリハビリは行っているが、介護保険を利用したリハビリに関しては現在まで利用していない状態である。
     「医療」としてのリハビリのみで「介護」としてのリハビリを受け入れていないという点は、「介護」という頼る行動を非依存的という特徴があるとされるAC低位な自我では受け入れる事ができずにいることが考えられる。
     以上の点から、本症例が医療保険下でのリハビリの継続を望んでいるのは、「セラピストによるリハビリを行う事で症状の悪化を防ぎたい」という意思を他の方法では望まないといったCP優位な頑固な点。介護に頼らないといった非依存なAC低位な点が併せ持った自我状態からみられる行動ではないかと考えられる。
     今後の本症例への対応は、介護保険下のデイケアでも介護的な面は除きリハビリのみでの利用も可能である等の説明を行う予定である。
    これはA高位である自我状態に、具体的・合理的な説明をして働きかける意味合いとして示唆したものである。
     今回は治療の枠組みを変更する症例にTEGを用いて追跡する形となったが、事前にTEGを実施して患者の理解を深める為の手段の一つとして活用する事を今後は検討していきたい。
  • ~探索反応の遅延と動作スピードとの関連性について~
    四本 伸成, 薬師寺 京子, 玉島 亜希子, 永山 弓子, 芝 圭一郎, 濱尾 玲早, 東 祐二, 藤元 登四郎, 関根 正樹, 田村 俊世
    セッションID: 070
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     統合失調症者(以下SC者)の簡便な認知機能評価機器開発の試みとして、タッチパネル方式のモニタを利用したパーソナルコンピューター(以下PC)を用いて視覚的探索課題を提案している。これまでの報告でSC者は健常者に比べ視覚的探索反応の遅延を認め、ストループ効果やワーキングメモリ機能の要素が多く含まれるほど探索と反応に時間を要すことが判った。しかし、本課題における反応の遅れは動作スピードによる影響も考えられ疑問が残った。今回はSC者を対象に運動能力との関連性について検証したので報告する。
    【対象】
     DSM-IV診断によるSC者13名(男性9名,女性4名,平均年齢45.0±7.7歳)を対象とした。
    【方法】
     被験者に2種類の視覚的探索課題と運動課題を課した。被験者はモニタから50cmの相対する位置に着座する。モニタ上に15×15cmの範囲で縦横6×6の36マスに漢字または数字が提示され、出来るだけ早く間違わないよう示指にて押し回答する方法にて実施し経過時間を計測した。視覚的探索課題はこれまで同様にストループ効果内容(以下S課題)を2課題とワーキングメモリ内容(以下W課題)を2課題の計4課題を行った。S課題は赤青緑の文字が12個ずつ提示され赤の漢字を回答する方法で、文字と同一意味の背景色にて表示される(以下S1課題)と文字の意味とは異なる背景色にて表示される(以下S2課題)にて実施した。W課題は1から36までの数字が同時かつランダムに提示され1から順に36まで数字を回答する方法で、押した数字が消える(以下W1課題)と押した数字が消えない(以下W2課題)にて実施した。運動課題(以下T課題)としてはPCに接続できる2ボタン式フィンガータッピングテストを用いて、30秒間示指と中指にて2ボタンを交互にできるだけ早く押す方法にて実施し試行回数を計測した。比較の方法として同課題間の差は分散分析で検定を行いp<0.01を有意とし、異課題間の差は相関係数を用いた。
    【結果】
     同課題間の比較ではS1課題とS2課題及びW1課題とW2課題ともに有意差を認めた。S課題とW課題間の比較ではS1W1課題r=0.37、S1W2課題r=0.55、S2W1課題r=0.64、S2W2課題r=0.74でありS2W2課題間で高い相関がみられた。S課題及びW課題とT課題間の比較ではS1T課題r=-0.38、S2T課題r=-0.59、W1T課題r=-0.21、W2T課題r=-0.36であり相関はみられなかった。
    【考察】
     SC者は視覚的探索課題において刺激の中から一定のルールに従い区別して注意を向ける二重処理能力の問題や、ある情報を一時的に保持し続け目的達成のために状況に合わせて利用しながら忘却する一連の過程の問題などが考えられた。視覚的探索反応の遅延と運動能力との相関関係は低く、与えられた状況に関連する刺激を検出し焦点を当てるまでの選択的注意の過程、あるいは、焦点を維持しながら処理反応を起こすまでの情報処理の過程の問題が示唆され、今後の分析課題としていきたい。
  • ~ベンチャー(危険な企て)と題した活動を行って~
    田上 慎也
    セッションID: 071
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院は熊本県北部に位置し、220床を有する単科の精神科病院である。平成8年よりデイケア(小規模)を開始した。その後、外来思春期患者の増加にともない、平成10年より思春期グループを作り、平成11年より思春期デイケアを開始した。平成13年にデイナイトケア(小規模)開始。平成15年からは、デイケア・デイナイトケア(大規模)を開始し、思春期(~20歳)、ヤング(20歳~30歳前後)、ミドル・シニアの年代別と目的別のグループに分けて活動を行っている。
     現在は思春期・ヤンググループでの年代別の活動は週2回、内容としては運動やゲーム・創作など、同年代で楽しむ体験や交流を持つ事を目的にしたものが多い。その中で継続性のあるプログラムとして平成17年より「ベンチャー」と題したものを施行した。
    【ベンチャーとは】
     英語で「危険な企て」との意味があり、物を売ってがっぽり儲けようというテーマでこのネーミングをメンバーがつけた。メンバーで病院スタッフの昼食を作成し販売するというものである。
    【目的】
     思春期・ヤンググループのメンバーは、発症年齢が低く、学校での集団体験が少ない、同年代での交流が苦手、また就労経験が少ないといったメンバーが多い。その為、活動を通して対人交流を図ると共に集団体験や達成感を得る・模擬就労体験といった目的で、立案・実施した。
    【内容】
     週1回、約3ヶ月をかけてミーティング・試食・値段決め等を計画的に行っていく。
    販売した利益の利用方法はメンバーで考え、活動の中でメンバーに還元することにした。
    平成17年6月から平成18年10月までに、過去5回実施した。
    【経過】
     実施当初、メンバーは実施のイメージが難しいようで受身的であったため、スタッフ主体で行った。しかし、販売が無事終了する事で、達成感を共有できた印象があった。その後は、回数を重ねるごとに、前向きな感想が聞かれるようになり、積極的な姿勢に変化していった。活動内容においても個々の能力に応じた役割を作る等、試行錯誤をしながらスタッフ・メンバーで活動を作りあげ、集団凝集性が上がっている状況である。
     今回は、ベンチャーの活動内容、個人・集団の変化に応じて工夫した点、またプログラムの効果を若干の考察を加えて報告する。
  • ~1ヶ月間でバランスに及ぼした影響~
    恵 佳和, 神田 勝彦
    セッションID: 072
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     高齢者における姿勢バランス戦略は、体性感覚優位から視覚優位へと退行する傾向にある。また加齢と共に、立位姿勢バランスの安定性の維持が難しくなってくることや、片脚立位保持時間の短縮が認められている。本研究の目的は、タオルギャザーによる足趾の把持能力や情報入力機能の改善を目指しながら、当院における待ち時間の活用と共に、自宅での自主トレーニングへの動機づけを行うことである。その効果を、バランス評価として行ったそれぞれ開眼・閉眼での片脚立位保持時間と重心動揺の測定結果から検討した。
    【対象と方法】
     当院外来通院中で中枢性疾患の既往が無く、下肢に整形疾患を有する女性患者30名、平均年齢76.0±5.9歳であった。タオルギャザーは、1回10分程度で来院時と自宅で1日2回を1ヶ月間毎日続けてもらった。片脚立位保持の測定は、被検者は開眼・閉眼それぞれ裸足にて立位となり、合図とともに片足を挙上させ再び接地するまでの時間とした。挙上足の肢位は特に規定せず、両側上肢は体側に沿って自然におろした肢位とした。支持脚については患側、もしくは左右どちらか疼痛の大きい側とした。重心動揺の測定はアニマ社製G-5500を使用し、開眼・閉眼ともに両側上肢を体側に沿って自然におろした閉足直立位をとらせた。測定項目は総軌跡長、単位軌跡長、矩形面積、外周面積を採用し、サンプリングタイムは60秒間とした。統計学的処理には一標本のt検定を用いた。
    【結果】
     片脚立位保持時間は、タオルギャザー導入前後で開眼は平均8.3秒から12.8秒(p<0.01)、閉眼は2.5秒から3.5秒(p<0.05)へと改善し、共に有意差が認められた。一方、重心動揺は全ての項目で有意差は認められなかった。
    【考察】
     タオルギャザーのみの1ヶ月導入で片脚立位保持時間が開眼・閉眼ともに改善したことから、足部からの入力機能改善訓練が視覚系からの入力の有無を問わず高齢者におけるバランスに影響を及ぼすことが示唆された。我々は片脚立位保持時間、重心動揺共に閉眼時により高い改善率が得られると考えたが、前者のみで開眼時により高いそれがみられた。これは、重力下での姿勢の安定性に寄与する因子とされる把持力・感覚・足底の基底面などへの影響が、立位時に比し片脚立位時が大きいためであると考える。またタオルギャザーによる関節受容器を介した神経・筋反応の協調性の改善訓練が、身体全体の姿勢制御機能において上記の部分的因子に対してでは無く、むしろ総合的にバランスに影響を与えたためであると考える。今後も定期的な測定を行い長期間での効果を検討していきたい。
  • 榎本 奈々, 阿南 誠二, 後藤 真由美, 浅野 圭司, 高木 憲司
    セッションID: 073
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当センターは主として頸髄損傷者(以下頸損者)の自立を目指し、ADL獲得に向け支援を行っている。頸損者のADL訓練においては、障害特有の動作遂行を的確かつ詳細に把握すること、問題点を明確化し、目標設定や訓練内容の検討に結びつく評価が必要となる。当センターでは平成10年度に頸損者の動作に焦点を絞ったADL評価表を独自に作成し、以後数年間使用してきた。今回、頸損者向けADL評価表の紹介と併せて、改良を加えるべき課題について考察したので以下に報告する。
    【評価表の作成の目的】
     過去のADL評価表(昭和60年代作成)では、頸損者における評価基準の妥当性の問題やADL状況を明確に示しにくく、詳細な変化を捉えにくい等の問題点が挙げられた。これらを踏まえ評価表作成にあたっては、1.ADL状況を詳細に示し、訓練経過や問題点を明確化すること、2.目標設定や訓練内容の作成や検討に直結できるものであること、3.他部門との連携上使用しやすく、評価作業を効率よく行えること等の視点から内容の検討を行った。平成10年度に頸損者に対象を絞った評価表を試作、平成11年度より使用を開始、平成14年度まで毎年内容の検討・見直しを行い、その後現在まで継続して使用している。
    【評価表の構成】
     ADL評価項目としては、食事・整容・更衣・排尿・排便・入浴・移乗・移動・床上・生活物品の操作・家事に分類し、大項目としている。各動作は活動分析を行い、更に細かい動作の小項目に分けている。大項目と小項目は、各々6段階(0~5)・非適応2段階(+,-)で採点する。大項目では各動作別に自立度に基づいた基準を設け、他者との比較が可能となっており、小項目では各動作共通の自立度に基づいた基準を設け、個別の経過を追うことが可能となるよう構成している。
    【考察】
     頸損者向けのADL評価表の作成・使用することで、ADL状況や訓練の進捗状況、問題点が明確化しやすく、機能レベル別の目標設定や訓練内容の検討等にも反映しやすくなった。また、大項目においては、同時に使用していたFIMと比例した数値が追えていることから、評価表として妥当性があるのではないかと考える。更にFIM等では追えない詳細なADLの向上や経過も追えることも利点である。
     現在挙がっている課題としては、小項目の見直しが挙げられる。項目数の多さや頸損者の動作をある程度熟知してなければ基準に当てはめにくい、高位頸損者(C4レベル以上)に対応しにくい等、項目内容や項目数等の見直しを行う予定である。また、蓄積されたデータの分析を行い、更なる評価表の妥当性や実用性の向上を図っていきたい。今後も検討を重ね、頸損者の評価表として万人が共通して使用できる評価表の作成を目指していきたい。
  • ~整形外科疾患の早期トイレ動作習得を目指して~
    松岡 絵美, 前野 聖子, 島田 将尚
    セッションID: 074
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     臨床場面にて、トイレの介助量の軽減、又は自立を機に活動意欲やリハビリ(以下リハ)に対する意欲が高まり自立心が強くなる症例に多く出会う。また、当院通所リハ利用者の家族に対する介護負担アンケートをとった結果セルフケア、特にトイレ介助に対する負担の声が多く聞かれた。トイレ動作の早期自立がリハの進行に大きく関わり、在宅生活においても重要になるのではないかと考えた。しかし、何をもってトイレ動作自立と判断するか細かな尺度がなく、当院スタッフ間でも判断に差があり曖昧であった。そこで今回当院で対象の多い整形外科疾患に対するトイレ動作の評価スケールを作成した。
    【目的】
     トイレ動作の評価スケールを作成する事で問題点を明確にし早期自立を目指す。トイレ動作介助量の統一化を図り、できるADL・しているADLの差をなくす。
    【方法】
     トイレ動作を身体機能別、動作能力別に細分化し評価スケールを作成する。今回は身体機能面、動作能力面に限定し認知機能、高次脳機能に障害がある症例に関しては対象外とした。
    【評価スケール内容】
     身体機能:上肢・下肢・体幹の可動域制限の有無、筋力に関する項目を設定。バランス能力:座位バランス、立位バランスに関する項目を設定。移動能力:トイレまでの移動能力、移乗動作能力に関する項目を設定。一連のトイレ動作:動作を細分化した項目を設定。
    【考察】
     セルフケアやADLに関する評価尺度は数多くあるがトイレ動作独自の一般的な評価スケールを見ない。臨床場面でよく用いられるBarthel indexは移乗と後始末に限られており自立か介助かの大まかな評価項目しかない。FIMでは排泄コントロール、トイレ動作に細かく分けられ具体例も明記されているが、点数で表記する為、第三者がその点数表記を見たときに「何ができて、何ができないか」という事が分かりづらい。
     今回作成した評価スケールはトイレ個室に入り出るまでの一連の動作を細分化し、できる動作、できない動作を明確に表記している。試験的に評価スケールを導入してみたところ、問題点を抽出し易くなった。そうする事で、トイレ動作自立に対する目標設定、プログラムの組み立てが容易になり、早期にトイレ動作を習得できるのではないかと考える。またチェック方式で表記するため簡便に評価できる。この結果をリハスタッフ間、病棟スタッフ間で共有する事で介助方法の統一も図れるのではないかと考える。
    【今後の課題】
     今回はスケールの作成に留まっている。今後スケールの再現性、妥当性の検証を行い必要に応じ改良していく必要がある。作成したスケールを導入し、データを蓄積、点数化、統計処理を行いトイレ動作の自立ラインの設定を目指す。その結果をトイレ動作自立と判断し、監視を外す指標としていきたい。
  • 廣重 次郎, 村田  潤, 村田 伸, 大田尾 浩, 大山 美智江, 豊田 謙二
    セッションID: 075
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】
     加齢に伴う影響は、筋力や柔軟性など身体的体力だけでなく手指運動機能(巧緻性、正確性など)にも及び、それらの機能は減弱する。一方で、手指は運動器官としての役割だけでなく、外環境に直接触れて情報を集める感覚器官としての役割を持っている。巧緻的な運動制御を必要とする手指機能においては、筋力よりも感覚機能の方が高齢者の手指機能低下に対する決定因子として重要であるかもしれない。そこで今回、手指機能と手指感覚および筋力を測定し、それぞれの関係を調査したので報告する。
    【対象・方法】
     本研究は、要介護認定を受けてない日常生活が自立した60歳以上の在宅高齢者でMMSE 24点以上の女性49名を対象に行った。平均年齢は73.9±6.6歳である。手指機能はPurdue Pegboard Testを用いて評価した。検査は、利き手で2回ずつ実施し最高スコアを記録データといて採用した。手指感覚はSemmes-Weinstein Monofilamentsを用いて利き手の示指先端部の触圧覚閾値を測定した。握力はデジタル握力計を用いて利き手で2回計測し、最高スコアを記録データとして採用した。得られた各データは年代ごとにグループ化し、比較した。さらに手指機能と手指感覚および筋力のそれぞれ測定項目間の相関関係を調べた。
    【結果】
     ペグ課題の成績は、60代15.4±1.5本、70代前半12.8±2.5本、70代後半11.2±2.2本、80代10.9±2.8本であった。手指感覚閾値が正常範囲を逸脱した対象者は60代1/14名(7%)、70代前半4/13名(31%)、70代後半7/10名(78%)、80代7/12名(58%)であった。握力は、60代20.4±4.3kg、70代前半20.3±3.2kg、70代後半20.2±2.2kg、80代18.9±6.0kgであった。またペグ成績と手指感覚閾値との相関係数はr=-0.513(P<0.001)であった。一方で、ペグ成績と握力との相関係数はr=0.255(P=0.09)で有意な関係は認められなかった。
    【考察】
     本研究成績において、ペグ成績が加齢に伴い減少することが明らかとなった。この結果は、手指運動機能が加齢により影響を受けることを示唆した。この手指機能低下に関して、握力および手指感覚の身体的要素の関連を調査したところ、手指感覚閾値は加齢にともない高くなるが、握力と手指運動機能の関連は認められなかった。これらの結果から、高齢者の手指運動パフォーマンスに対しては、筋力よりもむしろ感覚機能の保持が重要である可能性が示唆された。
  • 長田 沙織, 大津 麻実, 杉本 尚美, 井上 仁, 川上 健二, 松本 裕美, 明石 理佐, 鈴木 綾香, 中村 佳子, 片岡 晶志, 津 ...
    セッションID: 076
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     人工膝関節全置換術(TKA)後の膝関節伸展筋(膝伸展筋)力は、安定した歩行を獲得するために重要である。
     近年、ハンドヘルドダイナモメーター(HHD)を用いた下肢筋力に関する検討が報告されている。しかしながら、整形疾患のない高齢者におけるデータが多く、疾患における筋力の検討は少ない。
     今回、当院におけるTKA術前、術後の膝伸展筋力をベルト固定付HHDを用いて検討したので、文献的考察を加えて報告する。
    【対象】
     両側変形性膝関節症の患者6例(12関節)を対象とした。(平均年齢75.8歳、平均体重53.0kg)1例は反対側にTKA施行されていた。日本整形外科学会膝関節機能判定基準は平均56.7点であった。
    【方法】
     HDDはアニマ社製徒手筋力測定器μTasMF-01を使用した。測定は、術前と術後1週毎、杖歩行開始時、退院直前に施行し、さらに術後3ヶ月、6ヶ月に測定した。測定肢位は、膝関節90°屈曲位(90°)と、膝関節60°屈曲位(60°)であり、HDDを下腿遠位部に面ファスナーで固定した。測定は両側施行し、2回行ったうちの最大値を求めた。以上より、1)HHD値/体重(体重比)2)測定肢位3)杖歩行開始時、退院時のHHD値/体重(体重比)の比較、検討を行った。
    【結果】
    1)術側―90°:術側体重比の平均は、術前が0.305kg/kgであり、術後1週で0.155kg/kgと有意に低下し、術後2週で0.172kg/kg、3週で0.223kg/kgと徐々に増加した。特に6例中2例は術後3週で術前と同等となり、1例は4週で同等となった。
    2)術側―60°:術側体重比は術前が0.270kg/kgであり、術後1週で0.128kg/kgと有意に低下し、術後2週で0.174kg/kg、3週で0.205kg/kgとほぼ術前値に近づいた。
    3)非術側―90°:術前が0.385kg/kgであり、5例が術後も同等もしくは、徐々に増加を認め、1例のみ術後1週に有意に低下した。
    4)非術側―60°:術前が0.327kg/kgであり、術後は同等あるいは軽度増加傾向が見られたが、術後1週では2例が低下した。
    5)90°と60°の比較では、術側の術前に有意差が認められた。
    6)杖歩行開始時の体重比は、平均0.20kg/kg前後であった。また退院時の筋力は術前と比べ0.07~0.09kg/kg(21.7%)の筋力低下を認めた。
    【考察】
     90°と60°ともに術側では術後1週で有意に低下していた。これは手術による侵襲が原因として最も考えられ、力を入れすぎることに対する恐怖心、痛み、可動性が関与しているものと考えられた。
    1)90°-60°間では有意差は認められないものの、90°での測定値が高値を示す傾向があった。これは、測定開始時の固定、安定性の影響が否定できない。
    2)非術側では、恐怖心によると考えられる術後の一時的な低下が認められたが、ほぼ同等か増加を認めた。
    3)術前に比べ78.3%の筋力で退院となっていた。しかしながら退院後の体重比はさらに増加し術前値を上回っていくことが予想できる。
  • 重松 雄大, 佐田 正二郎
    セッションID: 077
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     最近空き地や公園でこども達が遊ぶ光景が少なくなってきている。そのためスポーツや運動の基本となる自然の中での遊びや包括的な遊びが減少する一方、こどもスポーツでは技術や勝敗が先行している傾向が強く、基本的なキャッチボールが出来てないように感じる。そこで投球動作に不安を感じているこども達の運動能力(体力)測定を行い、投球動作訓練等を週1回のペースで2ヶ月間行った。訓練前と訓練後で運動能力にどのような影響を与えるのかを目的とした。
    【対象】
     当院主催のこどもドリームコースを受講した小学生4~6年生7名。(平均年齢11歳・平均身長147.1±9.6cm・平均体重39.9±6.7kg)健康な両下肢を有する者のみ体力測定実施。
    【測定項目・方法】
     片脚立位(左右)/片脚ジャンプ(左右)/立ち幅跳び/垂直跳び/反復横跳び/3段跳び/全身反応時間を訓練前と訓練後のそれぞれ3回づつ測定し、その平均値をWilcoxonの符号順位和検定を用いて有意差(P<0.05)を求めた。
    【訓練期間・内容】
     期間・1回(60分)/週×2ヶ月間。内容・投球動作等を中心に様々のスポーツを遊び感覚で行った。
    【結果】
     右片脚立位/垂直跳び/反復横跳びにて有意差が認められた。投球動作において不安感を訴える者はいなかった。その他の項目では有意差は認められなかったが全ての数値に改善が見られた結果となった。
    【考察】
     今回は投球動作を通じて基本的な身体の使い方等の訓練を遊び感覚で行った。一番効果が得られたのは訓練(2ヶ月)後、投球動作時に不安感を訴える物がいなかったということである。筋力強化をしたわけでも、入念にストレッチを行ったわけでもない。野球以外の動作(スポーツ)を取り入れることでなんらかの影響が認められたのでないかと考えた。様々なスポーツを通じ勝敗を求めず遊び感覚で行うことに重要な意味があるのではないかと感じた。無理(ケガ)をしないためにも、こどもの成長に合わせ個人個人にあった投球動作・運動を行いながら、定期的に体力測定も行えれば障害予防にもつながるのではないかと考えた。今後も様々な視点からこどもスポーツ障害の予防を検討していく。
  • ~正しいコンディショニング普及のために~
    久保田 正一, 黒田 良 (MD)
    セッションID: 078
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     スポーツ障害の予防が叫ばれている現在、スポーツ大会へのメディカルサポートが盛んに行われてきている。これはスポーツを安全に行う上で重要なことであると考える。
     そこで、平成17年より福岡県筑後地区を中心に年2回少年野球のメディカルサポートを実施している。今回はそのメディカルサポートにて得た知見、今後の改善点、反省点を踏まえ報告する。
    【サポート実施内容】
    ・試合後のアイシング及びアイシング指導
    ・試合後のストレッチ指導
    ・試合中のアクシデントに対する対応
    ・メディカルチェック
    【事前勉強会】
     大会前にアイシングやストレッチ指導、応急処置・RICE処置の基礎知識等の勉強会を実施。
    【サポートインフォメーション】
     メディカルサポートの実施とその目的を大会抽選会にて参加者にインフォメーションしている。
    【サポート実施状況】
    サポート実施大会回数:4回(2007.8~2008.3.)
    サポート対応試合数:109試合(1大会平均27.3試合)
    サポートスタッフ数(延べ人数):107人(1大会平均26.8人)
    アイシング数:218件(1試合平均2.0件)
    ストレッチ指導:51件(1試合平均0.5件)
    メディカルチェック数:200名(1試合平均2.3名)
    【反省点(スタッフアンケートより)】
    ・指導者との関わりをもっと密に出来ればと感じた。
    ・指導者の関心を引く必要がある。
    ・ストレッチの指導が難しかった。
    【サポートを通しての変化】
    ・前回は自分たちでアイシングをしているからいい、とサービスを断っていたチームが、今回は積極的にサービスを受けていた。
    ・メディカルチェックは通常1回だけの実施であったが、継続してチェックすることにより障害の進行状況を把握できるため、可能な限り定期的に実施した。
    【考察】
     スポーツ現場において、基本的なストレッチ、アイシングなどの行ない方を正確に把握している指導者、保護者、選手は少ないのが現状である。
     通常理学療法士は病院に勤務しており、障害を持ったスポーツ選手に対応する。そこで対応したとしても、根本的な改善には至らない場合が多い。それはなぜかというと、スポーツ障害はスポーツ現場で生じているからであり、現場での対応を変えなければ根本的な改善にはならないからだと考えられる。
     メディカルサポートを通して分かったことは、日頃のコンディショニング管理がいかに不十分な状態でスポーツを行っているということである。メディカルサポートにて直接指導者や保護者と接することにより、正しいコンディショニングの普及活動ができればと考え、継続して実施していこうと考えている。
  • 中島 新助, 吉村 修
    セッションID: 079
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院では、スポーツ障害にて来院する学生に対して柔軟性を評価し、競技に必要な柔軟体操を指導している。今回、一症例において自動運動での可動域を判定基準として股関節の柔軟性変化についての経過、及び現在の自己静的柔軟体操の指導方法、内容について報告する。
    【症例報告】
     右肘内側野球肘にて、当院を受診した14歳、男性である。硬式野球を行っており、二塁手の選手である。右肘の投球時痛が出現し、当院受診となる、医師よりレントゲン上にて右肘内側の剥離骨片が確認されたため、投球禁止の指示となる。その後、全身の柔軟体操指導による理学療法の処方がでた。
    【測定・指導内容】
     柔軟性の評価には、「SLR」、「背臥位にて一側股関節、膝関節屈曲位」、「胡坐での股関節外旋」、「腹臥位での股関節内旋」の4項目を行った。判定は自動運動での可動域を判定基準として行った。「SLR」70°以上で3秒保持できるとし、「背臥位にて一側股関節、膝関節屈曲位」の判定は伸展した下肢の膝が床に着く、「胡坐での股関節外旋」の判定は胡坐、両膝を屈曲した状態で両足底を合わせ、大腿部外側を床面に着けることができる。「腹臥位での股関節内旋」の判定は腹臥位、膝90°屈曲位で股関節を30°以上内旋できるとした。指導方法および内容として、パンフレットを使用し、個別にて自己静的柔軟体操を伸張部位の確認を行いながら指導する。さらに、体を温めることの重要性、伸張する部位の張りが感じられるが痛みのない程度に、30秒間行うなどの指導に加え、成長期における柔軟性の重要性を指導する。実施頻度としては、毎日継続して行い、入浴後には積極的に行うように指導する。毎週、測定および柔軟体操の習得状況の確認を行い8週間で7回計測した。
    【結果】
     「SLR」、「背臥位にて一側股関節、膝関節屈曲位」、「胡坐での股関節外旋」が4週目の計測において自動運動での可動域の改善が確認できた。「腹臥位での股関節内旋」においては、8週間を通して可動域の改善が認められなかった。
    【考察】
     柔軟性の変化についての経過は、継続した指導を行うことの重要性を確認できた。股関節などの球関節は解剖学的に全方向に動き、身体各部の関節の中でも可動域が大きく、軟部組織による可動域の制限が著明であると考える。静的柔軟性体操は受動的な外部の力によって可動域の拡大を行うため、今回の結果は当院における股関節の内旋関節可動域を改善させる指導方法を見直す機会となった。
  • 安田 知子, 溝田 康司, 小嶺 衛, 仲盛 真史
    セッションID: 080
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     沖縄理学療法士会には、社会局スポーツ推進部があり、その役割として、理学療法士の立場からスポーツ活動を支援することである。本部の活動は広く県民の健康増進や楽しむべきスポーツ活動時のケガの予防とその対応などに寄与する公益事業の一つと位置づけている。
     今回、高知県理学療法士会からの紹介を受け、韓国プロ野球チームの春季キャンプにおけるコンディショニングサポートを行う機会を得たので、若干の考察を加え報告する。
    【経緯】
     平成19年2月中旬に高知県理学療法士会事務局より、沖縄県理学療法士会事務局に以下のような依頼があった。
     1月より高知県下にて春季キャンプを行っていた韓国のプロ野球チームSが2月15日より沖縄でオープン戦を含むキャンプを継続することになっている。高知県理学療法士会は、このチームから依頼を受け、1月中旬から2月中旬までの間の2週間、夜間練習後にコンディショニングのサポートを行っており、引き続き沖縄でもできないかという相談を受けたので、対応をお願いしたいということであった。
     チームはすでに15日に沖縄入りしており、早急な対応が必要となり、会長の勅命とともにスポーツ推進部担当理事、部長の承諾の基、活動を行うこととなった。
    【期間および活動内容】
     平成19年2月15日から3月8日までの沖縄キャンプ期間中に、夜間練習後のコンディショニングの対応が可能であったのは11日であった。内容は、チームトレーナーの指示を受け、主として疲労回復を目的としたマッサージを含む徒手的療法を行った。対応選手数は、延べ38名で、ポジションの内訳は、投手19名、内野手7名、外野手6名、不明6名であった。
     サポートに対応した県士会員は、14名であった。終了後アンケートは、14名中10名から回答を得た(回収率71.4%)。その結果、協力者の平均経験年数は2.8年であった。また、全員が活動への興味から協力を希望し、7名が今後も同様な活動があれば積極的に協力したいと答えた。しかし、今回の貢献度としては、不満足であると答えた者が半数の5名いた。さらに言葉が通じないことに対する不安があるとした者が7名、どのように対応したらいいかわからないとした者は4名であった。
    【考察】
     沖縄県は、年間を通じた温暖な気候のため各種スポーツの合宿が盛んに行われている。プロ野球について言えば、今年も日本が1軍8球団2軍4球団、韓国は3球団が春季キャンプを行っている。今回のようなプロのスポーツチームのサポートは日ごろの臨床とは異なった技量が要求され、我々も対応に苦慮するところではある。しかし、沖縄県の県外に対する公益性を考えた時、我々も関与できる可能性を示唆したものと考えられる。対応チームが韓国であったことも考慮すれば、国際的な貢献もあるものと考えられ、今後も同様の依頼があれば積極的に協力すべきと考える。
  • 浜浦 美智子, 重松 康志, 池田 博信, 島居 恵, 松尾 佐智夫, 橋口 浩治
    セッションID: 081
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     近年、栄養や心理面など各分野からスポーツ現場への介入や支援が積極的に行われている。その中でスポーツ外傷や障害(以下、スポーツ傷害)などメディカル面に対する理学療法士の役割は大きいと考える。今回、長崎県では比較的珍しいアイスホッケーのチームに対しメディカルサポートを行った。その中で対応したスポーツ傷害とその原因について報告する。
    【対象者および期間】
     対象者は過去2年間、アイスホッケー競技成年男子長崎県選抜チームに推薦された延べ50名、年齢は18才~35才(平均24.5才)である。経験年数は1~20年と広範囲にわたっている。練習形態は概ね週1~2回、週末深夜3時間程度の氷上および陸上練習である。サポート期間は平成17年5月から平成19年3月までの約2年間である。
    【活動内容】
     週1回の練習や試合(延べ64回)において(1)急性外傷に対する応急処置(2)ストレッチングやテーピングなどのリコンディショニング(3)ウォーミングアップやクーリングダウンの指導(4)医療相談などのサポート活動を行なった。
    【結果】
     全体の72%の選手がスポーツ傷害を経験していた。2年間のスポーツ傷害対応件数は162件であった。そのうち急性外傷として対応したのは49件であった。その内訳は、打撲が36%、関節捻挫が19%、擦過傷が14%であった。受傷機転としてはボディチェックとフェンスへの激突が併せて46%、スティックやパックによるものが17%であった。試合中の受傷は35件で1試合平均1.4件発生していた。慢性障害としては、腰背部痛、股関節痛などがみられた。全体の罹患部位としては足部、肩関節周辺、股関節周辺、腰背部の順に多かった。急性外傷の対応内容は、RICE処置が74%と最も多く、次いで創傷処置であった。救急搬送は1件にとどまった。慢性障害の対応内容はテーピングが39%、ストレッチングが37%であった。
    【考察】
     経験したスポーツ傷害のうち急性外傷が6割以上を占め、特に試合中の受傷が多かった。その多くはボディチェックやフェンスなどへの激突によるもので「氷上の格闘技」とも呼ばれるアイスホッケーの競技特性が窺えた。一方、慢性障害は体幹や下肢に多くみられ、環境要因や身体動作的要因の関与が推測された。以上のことから適切な応急処置の技術向上とその後のリコンディショニング、選手自身に対しては自己管理能力を高めることが重要であり、またスポーツマナー遵守を啓発、指導することもスポーツ傷害を予防する上で必要であると考える。
  • ~東大式エゴグラム(TEG)を用いて~
    神田 勝利, 田中 利昭, 藤本 英明, 白浜 幸高, 東海林 麻里子, 高江 陽子
    セッションID: 082
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     本校では、2年次に2週間の評価実習、3年次に第1~3期(順に8週・6週・6週)の臨床実習を行っている。実習間の間隔は、評価実習・第1期間は1ヶ月半、第1・2期間は2ヶ月と長く、第2・3期間は2週間と短い。その間、学生においては実習に対する期待や緊張、不安等が混在する。そこで今回、実習を有意義に勧める事を目的に、臨床実習前後に東大式エゴグラム(以下、TEG)を実施し、学生の実習に対する自我変化と今後の実習体制の在り方について検討した。
    【対象及び方法】
     対象は平成18年度理学療法学科3年35名(男性20名、女性15名:平均年齢22.7歳)で、評価実習と第1~3期の各実習成績を優は5点、良は4点、可は3点、要検討は2点、不可は1点と点数化し、今回は全学生のうち平均値3.7より下位の者16名とした。方法は(1)臨床実習前、(2)評価実習~第1期終了後、(3)第2~3期終了後、TEGの特性から6ヶ月空けて計3回実施し、TEG検査用紙(項目60問)を用いて学生には事前に説明・同意を得て実施した。そこで、TEG5尺度(CP:批判的親、NP:養育的親、A:成人、FC:自由な子、AC:従順な子)について、実習に対して経時的変化を対応のあるt検定を用いて検討した。
    【結果】
     成績下位の学生は成績上位の学生よりFC値は低く、AC値は高い傾向にある。今回、(2)と(3)のAC平均値は(2)13.8、(3)11.5であり、P=0.016と有意差(P<0.05)を認め、その他の項目については有意差は認めなかった。 【考察】ACは基本的に自己否定の構えを有し、AC高位の場合、主体性に欠け、他人の目や評価が気になり、自分の思っていることや感情をなかなか表現できないとされている。今回の調査でも、成績下位の学生は上記に当てはまる学生が多く、実習でも緊張や不安に加え、消極的に陥り易い状況が多くみられた。しかし、実習を重ねるごとに実習に対する適応や経験が養われ、成績下位の学生でも実習終了後、AC値が全体的に減少し、実習に対して積極性が現れ、第3期の実習では良い結果を残す学生もみられた。このことは、第2期と第3期との間隔は2週間と短く、実習に対するモチベーションが比較的保たれた状態と考え、学生によってはあまり期間を空けずに、実習を行っていくほうがよいのではないかと考える。また、学校での準備期間中に、学生の実習に対するモチベーションを如何にして維持するかは教員の取組み・指導を明確にすることで、学生が実習を有意義に実施できるものと考える。
    【まとめ】
     今回、実習を有意義に実施することを目的に、3年生を対象にTEGを用い、実習に対する自我変化から実習体制について検討した。その結果、実習間の間隔が短いほど学生の実習に対するモチベーションが保たれ、成績下位の学生においても、実習終了後には良い結果で終了できることが確認できた。
  • 平野  高志
    セッションID: 083
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     平成18年に医療・介護保険の改定が実施され、リハビリテーション(以下リハ)では算定日数の制限が、入院療養では医療区分などが大きな問題となった。医療120床、介護293床全て療養病床の当院では、病院全体が大きく変わる事を余儀なくされた。そこで改定前後における当院の動向について調査し、私見を含めここに報告する。
    【対象・方法】
     平成18年1月から12月の1年間における、病床稼働率、待機者数、入退院数、入退院者動向、医療区分、平均介護度、日常生活自立度、リハ延単位数について調査し、保険制度改定前後の動向と患者像を比較、検討した。
    【結果】
     病床稼働率は、3月99.7%が12月には97.4%に低下し、待機者は3月に61名であったのが、6月には待機者なしとなる。入・退院数は順に1月は15名・11名、5月は22名・20名、10月27名・35名と最も多く、12月は18名・20名と低下傾向である。入院経路としては、病院からの紹介が多数を占め、自宅、近隣施設からの入院が続く。退院経路としては、転院、自宅、死亡退院が多数を占めている。4月以降介護系施設への退院も少数ではあるが増加している。医療区分の推移は、重症化が進んでおり、区分2以上の割合は、7月時点で71.3%、9月で80%を超え、12月には87.0%まで増加している。平均介護度は、全体で1月では4.18だったのが、6月に3.88、11月には3.67へと変化している。日常生活自立度は、病院全体でC2、B2、B1の順で多く、年間を通して変化はない。介護病棟ではB2、B1の増加C2の減少、医療病棟ではB2、B1の減少C2の増加となっている。リハ月別延単位数は、医療は3月に最も多く12月には47%減少し、介護では31%増加している。全体は、療法士の増減により多少変化はあるが大きな変化はない。
    【考察】
     この改定で、リハにおける日数制限と医療区分が設けられ、療養病床のみである当院は、その対応に追われる1年となった。慢性期入院医療に関わる見直しで、区分の低い患者の療養が厳しくなり、介護保険の申請を勧め介護度を取得すると同時に、医療区分を確認した。医療と介護の適応判断を全患者で行い、必要時には退院指導も行った。在宅復帰・生活重視への移行で退院指導重視と種々の施設開設で、待機者なしとなったと考える。7月に向け、院内で医療と介護間で患者の移動があり、患者像が逆転したことが日常生活自立度、介護度から伺える。リハにおいてもリセット後180日で、医療の適応患者が減少し、療法士の配置を介護で増員し、リハ継続を進める事となった。医療と介護の機能分担と連携の明確化を痛感した。本年の例外的な医療保険の改定と2年後の介護の改定、また介護療養病床の廃止と情勢は変化する。医療と介護の連携に当院の方針を見出す必要がある。
  • 大塚 未来子, 山田 康二
    セッションID: 084
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     2006年4月の診療報酬改定ではリハビリテーション分野における疾患別体系の見直しが打ち出された。当院では新たに呼吸器・心大血管の施設基準を取得し、4疾患(脳血管・運動器・呼吸器・心大血管)の体制整備を目的に、疾患別リハビリ処方システムを開始した。システム紹介及びその後の業績変化について報告する。
    【システム内容】
     当院では2004年4月電子カルテ(基幹システム)が導入され、オーダリングシステムが開始した。2005年3月リハビリ部門システムを導入し、基幹システムと連動させた形態を用いている。
    【疾患別リハビリ処方の作成過程】
     医師を中心とした疾患別チーム(4チーム)を構成し、処方内容の検討は、各チームに依頼した。<1>脳血管処方は、対象疾患が多いため、幅広い疾患に対応すべく標準的な処方内容とした。<2>運動器処方は、指示の経時的変化に対応するためROM・筋力増強法・荷重量・歩行手段等が時系列に掲載でき、パスデータ導入も可能な独自のオーダースタイルとした。<3>呼吸器処方は、酸素投与量・安静度・SpO2下限など運動基準の設定を基調とし、プログラムは呼吸理学療法を中心とした。<4>心大血管処方は、CPXの心肺運動負荷試験データを元に運動強度設定を掲載した。以上の1~4の書式をシステム会社へ調整依頼し、その後のシステム反映には1ヶ月以上の期間を費やした。最終決定は、当院帳票委員会の判断により医局でのプレゼンテーションにて承諾を得て開始となった。
    【実績】
     2006年10月より疾患別リハビリ処方開始し、2007年3月現在では、脳血管54件・運動器66件・呼吸器11件・心大血管23件を数える。2006年10月と2007年3月を比べ経時変化を見ると、処方件数は呼吸器2.2倍・心大血管5.8倍の増加を認めた。業績では、呼吸器3.1倍・心大血管2.3倍と業績向上を認めた。
    【考察】
     疾患別処方システムの構築により、4疾患の稼働状況が安定し、疾患別リハビリ体制が整備された。また、今回の取り組みを機に、各専門医師の疾患別リハビリに対する意識が高まった。それに伴い、定期的なカンファレンスが定着し、各チームでの連携強化と専門治療の活性化へ繋がった。特にパスデータを導入した運動器処方では、医師の指示の効率化・詳細化が可能となり、積極的治療に反映できている。疾患別リハビリ処方システムは体制整備の一手段として有効であったと考える。今後の課題として、当院は急性期病院であるため、DPCのパスデータを見据えた疾患別リハビリ処方体制の必要性を感じている。
  • 坂元 陽子, 山本 和彦
    セッションID: 085
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     専門学校生を対象にストレス度とストレス耐性低下度、唾液アミラーゼ活性を測定し、それらの関係性を調べたので報告する。
    【対象と方法】
     対象は医療系専門学校生(以下「学生」)44人(男性18名、女性26名)であった。平均年齢は24.0 ± 3.53歳。ストレス調査ではまず4件法で学生の主観ストレスをたずね、心理社会的ストレス度を評価する「ストレス度調査票(以下IMPS)」と、回答者のライフスタイルに関する質問項目からなる「ストレス耐性低下度調査表(以下IMST)」を用いてストレス度とストレス耐性低下度を評価した。同時に生理学的指標として二プロ株式会社製の「COCORO METER」を用い、唾液中のアミラーゼ活性を測定した。
    【結果】
     学生の主観ストレスの平均値は2.7±1.15点であった。IMPSによるストレス度の平均点は27.21±14.45点であった。合計点数によって回答者を5群に分けると、最もストレス度の低い(0-4)点群は0%、(5-9)点群が7%、(10-19)点群が29%、(20-39)点群が45%、最もストレス度の高い(40-80)点群が19%であった。IMSTによるストレス耐性低下度の平均は13.19±5.68点であった。合計点数により回答者を4群に分けると、安定したライフスタイルをもつ(0-4)点群は7%、(5-9)点群が19%、(10-19)点群が52%、不安定で不規則な生活が示唆される(20-40)点群が12%であった。また、IMPSによるストレス度とIMSTによるストレス耐性低下度(r=0.44 p<0.01)の間に正の相関関係があった。唾液アミラーゼ活性の平均は37.42 ± 27.68KU/Lで、最小値は4 KU/L 最大値は138KU/Lであった。ストレス度が高くなると唾液アミラーゼ活性が上がる傾向を認めたが(r = 0.263、p =0.88 )、有意差はなかった。主観ストレス、ストレス度、ストレス耐性低下度について男女差はなかった。
    【考察】
     今回の調査結果と一般大学生の結果(2005.山本)と比較すると、専門学校生のストレス度は一般学生より高かった。定期考査等がない時期に調査を行なったにも関わらず、ストレス度が高いことは、専門学校生のストレスが大きいことを示唆している。IMPSによるストレス度が高くなると唾液アミラーゼ活性が上がる傾向を認めたが、有意差はなかった。この理由として、唾液アミラーゼ活性が比較的短期のストレス状態を反映するのに対し、IMPSによるストレス度が比較的長期のストレス状態を表す指標であると考えられることがあげられる。今後専門学校生が様々な課題や試験、実習等を乗り越えていくためには、ストレス耐性や問題解決能力の向上とともに、ストレスを適切にマネジメントしていくことが重要であると考えられる。
  • 管 直美, 土谷 健治
    セッションID: 086
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院では更なるリハビリテーションサービスの充実を目指し、平成18年7月に療養病棟52床を回復期病棟へ転換した。今回、「介護」主体であった療養病棟から、「自宅復帰・ADL向上」を目標とする回復期病棟へ転換するにあたっての取り組みを報告する。
    【対象疾患】
     療養病棟時:整形19% CVA62% その他19%
     移行後:整形75% CVA15% その他10%
    【平均病棟滞在日数】
     療養病棟時:79.8日 移行後:53.2日
    【当院での取り組み】
     1.環境面への取り組み:入浴設備、トイレ設備の改修・自主訓練用具の設置・在宅復帰支援室の設置
     2.運営面での取り組み:回復期パスの導入・退院前訪問指導の徹底・病棟スタッフによる病棟リハの徹底・病棟での実践的なADLの導入・在宅復帰支援室の活用・カンファレンスやリハビリ連絡板などによる情報の共有
    【考察】
     今回、回復期病棟開設にあたり、療養病棟時が主に重介助を必要とし、ADLの変化が乏しい患者様が大半を占めていた為、スタッフの意識改革とADL向上の為の環境整備を行なうことが何よりもまず必要であった。そこで前述した環境整備を行うと共に、病棟とリハで定期的な勉強会を開き、回復期病棟のあり方や患者様への関わり方についての意識の統一を図った。回復期病棟ではOTを中心に、ADL訓練や家事動作訓練などを実施すると共に、日中は普段着と靴の着用を促し、食堂での食事や病棟での自主トレ、ADL指導などをNsの協力のもと実施している。また、円滑な在宅復帰を目標として、退院前訪問指導をリハスタッフ、病棟スタッフ共同で実施し、退院後の生活環境の把握を行うと共に、改修指導や介護用品のアドバイスを行っている。その際、地域連携室を介してケアマネージャー等の関係職種への連絡・調整も実施している。なお、退院前訪問指導に先立って、社会資源の活用も最大限に行えるよう介護保険の申請や身体障害者手帳の申請をパスの中に組み込んでいる。その他、転棟から退院までにチームカンファレンスや家族を含んだカンファレンスを必要に応じて頻回に開き、ゴールの設定や退院後のケアプランの提案を行うようにしている。このような取り組みの結果、入院期間中のADLの向上及び退院後の環境整備が可能となり、回復期病棟からの在宅復帰率は開設以来、常に8割以上を維持している。医療保険によるリハビリに様々な制限が課せられている現在、より早期でのADL改善、QOLの向上、在宅復帰を達成すると共に、患者様のリハビリ対する理解を促す為に今後も1.「出来るADL」を「しているADL」へするための情報共有化の徹底及び指導方法などの統一2.退院後の生活範囲の拡大への取り組み3.次のサービスへのスムーズな移行と患者様及びご家族への指導4.住宅環境などの早期把握等の活動が必要と考える。
  • ~在宅復帰と亜急性期病床での関わり~
    吉村 日沙, 三原 和行
    セッションID: 087
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     両変形性股関節症(以下股OA)により股関節に著しい変形を呈し、人工股関節全置換術(以下THA)を施術した症例が術後歩行困難となったが亜急性期病床をへて在宅復帰に至ったので報告する。
    【症例紹介】
     70歳女性、夫と二人暮らし、主婦。S56.6.5.左THA。H17.10.4.左revision。右THA目的にて入院。
    【手術所見】
     右THA、右大腿骨転子下筋切併用。伸展、内転、外旋(45°以上)で脱臼傾向増悪。
    【理学療法評価(Rt,Lt)】
     術前:ROM股関節屈曲35°,50°伸展0°,-5°内旋Rt-40°。MMT股関節屈曲4、3+外転2、2。SMD、Rt>Lt(2cm)。歩容は二本杖左下肢先行の揃え形で全体的に右回旋しており、骨盤挙上と右下肢外旋位での内転筋優位の振出。
     退院前:ROM股関節屈曲95°,95°伸展-10°,-10°。MMT股関節屈曲4、4伸展2、3+外転2、2。歩行は2cmの補高靴着用、T-cane両下肢交互型、右下肢屈曲での振出。
    【考察】
     急性期病院においては入院期間の短縮が進められており、在宅復帰まで関わることが少ない。当院は亜急性期病床が設置されたことで在宅復帰、住宅改修等も実施可能となった。これは患者側にとっても一貫した医療が受けられるという安心感があるのではないかと思う。今回、在宅復帰することができたのは、患者本人の在宅復帰への強い希望と亜急性期病床でのチームとしての関わりがあったためといえる。
     本症例は両股OAで右股関節は著しい外旋拘縮を呈し、歩行時ほとんど筋活動を伴っていなかった。術後可動性が向上し、筋力低下のため股関節の安定性が低下、歩行困難となった。そのため理学療法では早期から積極的な可動域訓練と筋力強化、アライメント保持を意識付けた。結果的には歩行可能となったが、歩行の自立には四点歩行器や二本杖の使用が不可欠であった。
     本症例は約5ヶ月の入院期間で4ヶ月目に亜急性期病床へ転科した。これは術後熱発等で臥床が約1ヶ月続き、廃用が見られたことと著しい筋力低下による歩行困難となったこと、在宅復帰と当院での継続したリハを本人および家族が強く希望していたためである。
     転科後はOT訓練が追加され、ADLを想定したより応用的な訓練を実施した。徐々にADL改善が見られ、在宅復帰という目標に近付き、より積極的にリハへ取り組むようになった。歩行能力とADL能力の改善により在宅生活が具体的になった時点で介護保険の申請を行い、自宅の環境調整を行った。
     退院後デイケアにて入浴とリハを実施。退院後2ヶ月目に訪問した際、屋内の一本杖歩行が可能となっており、その他のADLも大幅に向上していた。これは主婦としての役割を持った生活とデイケア通所等による社会的活動の維持により能力が向上したと考えられる。
  • ~チームアプローチの中で、作業療法でできること~
    徳尾 美香, 田中 佳巳, 久原 聡志, 竹村 仁
    セッションID: 088
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     がん多発骨転移により易骨折のため著しくADLが制限された患者にリハビリテーションを行い、自宅復帰することができた。その経過におけるチームアプローチの中で、作業療法でできることについて報告する。
    【症例紹介】
     63歳、女性 診断名:乳がん骨転移による左大腿骨頸部骨折(本人へ告知済み、MRIにて胸椎・腰椎・仙椎・両側腸骨に転移の疑いあり)。既往歴:59歳;左乳がん(乳房切除術)。現病歴:平成18年5月9日朝トイレにて転倒し、上記診断にて入院となる。骨折部位は易骨折とされ、保存的に加療となる。入院当初リハは医師の判断で適応外とされた。しかし、約2ヶ月後ベッド上ADL改善のために看護師の依頼にてリハ開始された。
    【初期評価】
     (平成18年7月10日)主訴:「家に帰りたい」 腫瘍マーカー:CA15-3;300以上 基本動作:全介助 ADL:Barthel Index:40/100点 排泄;全介助(差込便器使用) 食事;自立。
    【経過およびプログラム】
     1.ギャッジアップ座位から離床へ(8月まで):PT開始から2週間後よりOT開始。端座位自立を目標に実施し、作業や季節感のあるものを取り入れながら、心理支持を中心に行った。2.ポータブルトイレへ(10月まで):ポータブルトイレでの排泄動作自立を目標に実施。転移が認められたため、両下肢免荷の状態であった。そこで、トランスファーボードを用いるなど、ベッド周囲の環境設定を行いながら進めた。チーム間でも共通した理解をもてるよう、動作を実際に看護師に見てもらうことや、病室に動作方法を掲示した。移乗が自立して行えるようになり、医師と相談のうえ、非骨折側下肢20kg荷重での起立訓練を開始した。下肢への負担が少なく移乗できる移乗バー付きベッドと、車いすを借りた。3.自宅復帰へ向けて(12月の退院まで):ケースカンファレンスの実施、2度の病状説明への参加、4度の家屋訪問・環境設定を行った。
    【最終評価】
     (平成18年12月22日)腫瘍マーカー:CA15-3;300以上 基本動作:寝返り~起き上がり;自立、移乗;自立 ADL:Barthel Index:75/100点 排泄;ポータブルトイレ使用し自立、更衣;自立。
    【考察】
     本症例はがん多発骨転移のため著しくADLが制限されており、入院当初は医師の判断によりリハ適応外とされ、自宅復帰も困難と思われていた。そこで、まずはベッド上で可能な作業や季節感のあるもの(花や鈴虫)を取り入れ、心理支持を中心に行い、次第に信頼関係を築いていった。更に、PT・医師・看護師と協働し、病状説明への参加・家屋訪問・環境設定を繰り返し行ったことで、最終時には自宅での身の回りの動作自立レベルとなり退院することができた。チームアプローチを行いながら、作業療法士としてベッド上動作のみ許可された時期から症例に寄り添ったことで信頼関係が生まれ、その後の訓練導入や笑顔での退院へとつながったと考える。
  • 花岡 亜季, 上田 源典, 田村 肇, 前田 貴也, 押川 明美, 山下 卓哉, 山本 千晶, 飛永 浩一朗, 渡邉 哲郎, 井手 睦
    セッションID: 089
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     認知症を有する大腿骨頚部骨折術後の患者で、病棟スタッフによるトイレ動作導入に患側下肢の支持性が影響するのかを検討した。
    【対象】
     対象は平成18年1月から平成19年2月までの14ヶ月間に大腿骨頚部・転子部骨折に対し骨接合術を施行し以下の条件を満たす患者とした:1)年齢70歳以上2)術翌日から全荷重が許可3)認知症を有する。38名が対象となり、内訳は男性10名、女性28名、平均年齢85.0±4.5歳、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は平均9.2±5.5点であった。HDS-Rで20点以下を認知症ありとした。
    【方法】
     検討項目は年齢・HDS-R・術後リハ期間・在院日数・術後1週後の健側と患側下肢への荷重度合い(荷重率)とした。荷重率は当院の先行研究と同様に体重計に一脚ずつのせ、平行棒を把持させた状態で患側下肢に疼痛自制内で荷重させその値と体重の比率とした。病棟で看護・介護スタッフによる誘導により監視もしくは介助下でトイレでの排泄行為が実施できたトイレ実施群とできなかった非実施群について上記の項目について比較検討した。統計学的分析にはマンホイットニー検定を用い、有意水準は5%未満とした。
    【結果】
     トイレ導入実施群17名と非実施群21名において、年齢・術後リハ期間・在院日数・術後1週後の健側下肢の荷重率には有意な差は認められなかった。一方、HDS-R(実施群12.2±4.6点、非実施群6.6±5.2点 P<0.01)・術後1週時点での患側下肢への荷重率(実施群34.4±6.7%、非実施群24.2±9.8%   P<0.01)は実施群が有意に高かった。
    【考察】
     トイレまでの動作は起居・移乗動作、トイレでの立位・移動動作と複合的な動作を要する。立位保持能力はほとんどの動作に求められ、下肢の支持性は介助量に大きく影響する。トイレ動作は認知症を有する患者の離床を図る良い機会であるが、退院まで床上排泄を余儀なくされる者も少なくない。従って下肢の支持性の影響を検討することで、病棟スタッフによるトイレ動作の機会を促進できないかと考えた。結果、入院中トイレ導入が出来なかった患者は、導入出来た患者に比べ術後1週時点で患側下肢の支持性は低く認知機能の低下が著明であった。急性期病棟では看護・介護スタッフが処置に追われ時間とマンパワーが常に不足している。そのため認知低下や介助量の増大はトイレ導入を敬遠させ、離床を促す機会を減少させる。術後1週後の健側下肢の荷重率においてはトイレ導入の可否に影響を及ぼさなかったことからも、少なくとも認知症患者の場合は患側下肢の支持性がトイレ導入・離床を促す上で重要であることが示唆された。早期からトイレ導入・離床を促すためにも、理学療法士ができる一手段として立位能力の向上を目標とし、患側下肢の支持性を高めることで看護・介護スタッフの介助量を軽減させることが重要であると考える。
  • 松本 涼子, 尾上 伸一郎, 川原 みゑ子, 大坪 義昌(MD)
    セッションID: 090
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     歩行において脊椎変形に加え、転倒に対する恐怖心から歩幅を減少させ、姿勢保持優位に働かせる高齢者は多い。そのような高齢者が歩行補助具を使用することは、安全な歩行能力獲得につながる。
     しかし、補助具使用に対し心理的抵抗感を抱く高齢者もおり、安易な推奨や積極的な導入に困難なケースがある。今回、歩行速度が低下し補助具使用に消極的であった症例に対し、生活の中できっかけを見いだし、歩行能力に変化が生じ、意欲向上につながった症例を報告する。
    【症例紹介】
     70歳代女性。診断名は左変形性膝関節症、右結晶誘発性膝関節炎、左単純性足関節症。
    【評価】
     支障をきたす疼痛なし。胸椎後弯著明で股・膝関節軽度屈曲位、両上肢を膝につきワイドベースの歩行である。独歩可能だが外出頻度は少なく屋外移動は夫が付き添い、歩行速度低下し実用性に欠ける。
    【経過】
     杖やシルバーカー等の歩行補助具使用を勧めるが、本人による拒否的言動があり積極的な導入はできず、杖を使用しても機能的な効果がみられなかった。しかし、傘を杖代わりに使用したことをきっかけに変則的な四点杖の使用を勧め、10m歩行1分41秒から54秒へ改善し、意欲も向上した。
    【考察】
     重心移動が乏しく姿勢保持優位な歩行姿勢が構築化した高齢者に対し、姿勢改善を目的とした運動療法に加え、移動手段である歩行の安全かつ効率性の確保が必要である。日常の動作をきっかけに変則的な杖使用で歩行速度が変化し、症例の意欲向上に結びついた。
  • ~退院時ADLに着目して~
    木村 昌樹, 松枝 頼子, 江崎 晴菜, 山本 綾香
    セッションID: 091
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院において股関節臼蓋形成不全に伴う変形性股関節症に対し、前方進入による寛骨臼回転移動術(以下CPO)が施行されている。江副らは、本法の術式の特徴から、腸骨筋の剥離による屈曲筋力の低下、脚長の短縮などによる股関節周囲筋力の低下が危惧され、筋力の回復には長期間を要すると述べている。そこで今回、CPO術後経過およびADLへの影響を調査したので報告する。
    【対象・方法】
     平成18年4月から平成19年1月までにCPO施行した12例12股(右7股、左5股)、全例女性であった。手術時年齢は18歳から54歳(平均42.3±9.3歳)、平均在院日数は54.2±10.4日、術後経過観察期間は入院期間とした。調査項目は1)術前・退院時の股関節可動域、2)筋力(徒手筋力検査法;以下MMT)、3)退院時の疼痛、4)主に屈曲動作を含むADL(靴下着脱、足趾爪きり、階段昇降、患肢の床上移動、歩行時振り出し)とした。可動域の術前・術後比較の統計学的処理はWilcoxon検定を使用した。
    【術式】
     上前腸骨棘を中心に切開し、大腿筋膜張筋を剥離し縫工筋を上前腸骨棘と共に切離する。腸骨筋を骨膜下に剥離し、骨切り部を確認できたところで坐骨、恥骨、腸骨荷重部の順に腸骨内壁より骨切りする。その後、寛骨臼を透視下に外方、前方へほぼ満足すべき骨頭の被覆と荷重部傾斜角の改善が得られるまで回転移動させる。この位置で吸収性海綿骨裸子により寛骨臼と骨盤とを固定する。骨盤外壁の中殿筋の部分には剥離などの操作を全く加えない。
    【結果】
     1)可動域は股関節全ての方向で術前・術後での有意な差を認めなかった(P>0.01)。
     2)術後筋力におけるMMT3レベル以上への改善は、伸展・内転に関しては全例で向上がみられ、外転12例中10例は改善し屈曲12例中7例の改善となった。
     3)疼痛は、安静時痛は全例で改善がみられ、運動時痛12例中9例、荷重時痛12例中11例の残存がみられた。部位としては、全例で術創部周囲、主に股関節前面に残存する傾向を示した。
     4)ADLにおいて入院時全例全項目可能であった。退院時は患肢の床上移動のみ全例困難を要し、他項目に関しては全例可能となった。
    【考察】
     CPO術後経過の特徴として、早期荷重により早期歩行が可能となり可動域改善と共に両下肢支持によるADL向上がみられる。しかし、入院期間内での屈筋群の十分な回復は得られず、更に術後の疼痛残存が深く関与しておりADL動作能力の低下につながった。今後、股関節屈筋群への運動療法の展開が課題となることを確認できた。
  • ~患者情報交換連絡ノートの利用~
    飛永 浩一朗, 上田 源典, 田村 肇, 前田 貴也, 押川 明美, 花岡 亜季, 山下 卓哉, 山本 千晶, 渡邉 哲郎, 井手 睦
    セッションID: 092
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     大腿骨頚部骨折術後において術後早期訓練・離床に加え病棟内での移動能力の向上を視野に入れリハビリテーション(以下リハ)を行うことは重要である。今回当院において理学療法士と病棟スタッフ間に患者情報の連絡ノートを利用することで病棟での歩行器歩行導入に良好な結果が得られたので報告する。
    【 対象・方法】
     対象とした32名の選択基準は、1)平成18年1月から平成19年1月までの13ヶ月間に大腿骨頚部・転子部骨折に対し骨接合術を施行2)術後翌日より全荷重が許可3)70歳以上で受傷前独歩・杖歩行が自立4)認知症なし5)入院中に病棟において歩行器歩行を獲得。内訳は男性4名・女性28名、平均年齢78.4±5.3歳、平均HDS-R27.0±2.9点。検討項目は年齢・在院日数・術後リハ期間・PTによる歩行器歩行訓練開始までの術後期間・病棟スタッフによる歩行器歩行導入までの術後期間とした。患者のリハや病棟状況・情報を毎日交換するための連絡ノートを利用しなかったA病棟と利用したB病棟の2病棟で上記の項目を比較した。統計学的処理にはマンホイットニー検定を用い、P<0.05をもって統計学的有意とした。
    【結果】
     対象患者はA病棟15名、B病棟17名であった。2病棟間において年齢・在院日数・術後リハ期間に有意な差は認められなかった。PT歩行器歩行訓練開始までの術後期間は2病棟間において有意な差は認められなかった(A病棟4.3±2.1日、B病棟4.6±2.9日)。病棟スタッフによる歩行器歩行導入までの術後期間はB病棟が有意に短い期間で導入できていることが示唆された(P<0.05、A病棟10.9±4.9日、B病棟7.3±3.8日)。
    【考察】
     大腿骨頚部骨折は高齢者の日常生活動作能力や生活の質を著しく損なう可能性が大きい疾病である。そのため術後より早期訓練を開始しリハでの歩行能力の向上とともに病棟での移動能力の向上を目指すことで日常生活動作能力の向上につながると考えられる。連絡ノート利用以前は病棟への移動能力の変化について申し送りやカンファレンス等で伝達していたが病棟スタッフに十分伝達することが難しく、B病棟で患者情報をリハと病棟間で伝達する連絡ノートの利用を試みた。その結果、連絡ノートを利用することで病棟での歩行器歩行導入が連絡ノートを利用していなかった病棟より早期化することが可能となった。これは病棟スタッフが患者のその時点での歩行レベルを把握できるため、病棟においての歩行導入が遅滞なく進められた結果だと考える。これにより、臥床傾向となりがちな高齢者に対して早期より離床を図り歩行や日常生活能力を推進させる効果が考えられる。
     今回連絡ノートの導入により病棟での歩行器歩行導入が早期に可能となった。今後連絡ノートの充実化を図り歩行や日常生活動作能力の向上に活用していきたい。
  • ~脳性まひ(痙直型アテトーゼ)の女児に装着した経過から~
    田中 亮, 高橋 知義, 岸 良至, 木下 義博, 山下 直子
    セッションID: 093
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     Hart Walker(以下HW)は英国のDavid Hart氏により開発された歩行器である。股・膝・足関節部にジョイントを持ち、アライメント調整も可能とするブレース部と体重支持を補助するサスペンションや下肢の交互運動を補助するゴム紐が付いた台車部を組み合わせて使用する。個々に合わせた設定が可能であること、両手を自由にした状態で歩行できることが特徴である。これまで、その機能・構造の紹介、HWにおける移動能力の評価システム作成の試みについて報告してきた。今回は自力での移動が困難な女児に装着した事例を通して、HWの有効性について報告する。
    【症例紹介】
     9歳11ヶ月(装着時年齢8歳10ヶ月)、診断名:脳性まひ(痙直型アテトーゼ)・右股関節脱臼、GMFCS:レベルV、粗大運動能力:独座は不可能であり、座位保持装置使用。自力での移動手段は寝返りのみ可能。介助立位では左下肢支持となり、右下肢は屈曲で引き上げてしまう。PT場面では体幹支持+サドル付き歩行器での歩行練習を行なっていたが、右下肢は屈曲で引き上げ、左下肢の振り出しは他動的に行なっている状況であった。
    【初回装着時の状況】
     右股関節脱臼や骨盤の右後方回旋、体幹の左側屈があり、右下肢での体重支持が困難で、左下肢は突っ張るように支持するような左右差あり。HWで移動しようとすると体幹での代償を伴う。移動可能な距離は2m程度であった。
    【経過及び現状】
     HWでの移動目標を「屋内での移動距離の拡大」とし、まず、1.両下肢での体重支持、次に、2.交互性のある下肢の振り出しができるよう調整を行なった。1.に対する調整ではa.パッドでの体幹・骨盤の対称性保持、b.ブレースサイズ延長による右下肢での脚長差の軽減、c. 股関節伸展を援助するゴム紐追加による右下肢の伸展保持、2.に対する調整ではa.下肢の振り出し援助のゴム紐追加、b.ゴム紐による立脚側の下肢伸展援助を行なった。家庭や個別治療場面を中心に、週に2~3回程度の頻度で使用した。また、月に1回の調整も行なった。装着から1年経過し、下肢の交互運動が可能となり、移動距離も10m程度と拡大した。屋外の移動も可能となり、学校の体育場面でも使用するようになった。
    【まとめ】
     今回報告した症例の歩行制限因子は、移動の開始肢位である立位の非対称、体重支持の左右差、下肢の振り出しの困難さが考えられた。このような症例に対し、HWが有する体重支持機構・アライメント調整機構が対称的な立位保持を可能にし、ゴム紐による運動補助機構が下肢の交互の振り出しを可能にすることで移動距離が拡大し、屋内はもとより、屋外での単独移動も経験することができたものと思われる。HWの移動における有効性を実感する症例であった。今回は1症例での報告であったため、今後は多くの症例を通して歩行器としてのHWの有効性について報告したいと考える。
  • 野島 丈史, 吉元 洋一
    セッションID: 094
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
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    【目的】
     高齢者の歩行中の転倒原因は様々だが、転倒経験を有した高齢者の多くは「つまずき」であったと報告されている。これは歩行時遊脚期での足部クリアランス不良により生じ、その素因として遊脚期における足関節底背屈角度、底背屈筋力低下、筋持久力低下などがあげられる。今回、健常成人において、足関節を軽度に固定、容易に装着でき、長時間装着可能な足関節サポーターを装着することで、歩行時遊脚期の足部クリアランスへの効果を検討したので報告する。
    【対象と方法】
     対象は研究に同意を得た健常成人男性20名(22.5±1.1歳)。歩行時遊脚各期における床面と第5MP関節の最小距離(以下、第5MP高)、足関節背屈角度、背屈モーメント、筋電最大値及び立脚後期における床反力を測定し、測定機器として三次元動作解析装置、床反力計、表面筋電図を使用した。測定に使用する足関節サポーターは日本シグマックス社製エバーステップ1を使用し、装着は検者が行った。測定は、三次元動作解析室にて裸足で3回の自由歩行の後、サポーター装着下で同様に行った。データは裸足時、サポーター装着時のそれぞれ各3回の平均値を使用し、比較した。統計は、対応のあるt検定を用い、有意水準は5%未満とした。
    【結果】
     遊脚期の第5MP高は、裸足時4.4±0.5_cm_ サポーター装着時4.9±0.8cmと有意に増加した。また遊脚各期における足関節背屈角度では遊脚初期で裸足時35.48±4.72°、サポーター装着時28.91±3.78°、遊脚中期では裸足時 14.27±2.53°、サポーター装着時11.94±2.93°、遊脚後期では裸足時23.83±2.86° 、サポーター装着時 20.4±3.13°となり、いずれにおいても有意な増加がみられた。遊脚初期における背屈モーメントでは裸足時2.19±0.81Nm 、サポーター装着時2.15±0.49Nmと有意に増加した。立脚後期における床反力前後分力では有意な差はみられなかった。遊脚初期における筋電最大値では裸足時 38.15±21.17mV、サポーター装着時 31.37±16.13mVと有意に低下した。
    【考察】
     足関節サポーター装着下での歩行時足関節背屈角度及び背屈モーメントや、第5MP高の増加は、最大背屈位にて装着したことから足関節サポーターの固定力によるものと考える。又、筋電最大値の低下は、サポーターが背屈方向への補助力として働いたためと考える。床反力に有意差が認められなかったのは、被験者が健常成人であり、十分な底屈筋力が得られたためだと考える。本研究によりサポーターの効果に遊脚期における足関節背屈角度及び背屈モーメント、第5MP高の増加が認められたことから、高齢者の「つまずき」予防に足関節サポーターの使用が有効となりえることが示唆される。
  • 松本 和也, 三好 進太郎, 溝口 一成
    セッションID: 095
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【始めに】
     以前より従来のマジックベルトを使用したAFOに対して自力装着が困難な患者様に多く接してきた。折り返しのマジックベルトなどはリングを通して張り合わせるという動作が必要で高次脳機能障害、認知症などを有していると困難である事が多く、下肢を組む動作は股関節に疼痛があると困難である。この様に自力装着が出来ない理由は様々であるが、高齢者の片麻痺患者にとって動作が複雑である事は否めない。そこで今回、有薗製作所の協力を得、着脱動作が簡易に出来るAFOを作成し若干の知見を得たので報告する。
    【AFO紹介】
     従来のAFOをベースに作成した。材質はサブオルソレンを使用。固定ベルトは従来のマジックベルトではなく下腿前方部、足背部にカフを取り付けフタ式にし、留具としてスキー靴などで使用されているラチェットベルトをカフに取り付けた。また、ワンタッチで外れるようにカフのジョイントはバネ付の蝶番金具を使用した。さらに、AFOを立て掛ける装着台を作成し着脱の際に下肢を組む必要がないようにした。
    【特徴及び考察】
     材質は現在ポリプロピレンが多く使用されている。しかし今回、バネ付の蝶番金具を取り付ける際に割れてしまう恐れがあった為、柔らか味のあるサブオルソレンを使用した。またラチェットベルトは締め込みが可能で、従来のマジックベルトと同様に下腿周径変化への対応はある程度可能である。それでは従来のAFOとの違いを述べる。このAFOのメリットとして、装着台を使用し地面に置いて着脱する為下肢を組んで空中で装着する必要がない。また前方のカフを閉じるだけと手順が簡単である。デメリットとしては重さが約1.8倍、靴の使用が限定される(カフやラチェットベルトの受け具が大きい為)。また装着台を一定の場所で使用する際は良いが、複数の場所で使用する際持ち運びに手間がかかる。このようにまだまだ改良の余地はあるが、「着脱動作が簡易なもの」という点では一定の成果が得られたと考える。
    【終わりに】
     今まで「こういう装具があれば」「こういう継ぎ手があれば」と思うことは多々あったが自分で壁をつくり「無理だろう」と諦めてきた部分があった。しかし、これでは技術の向上や新しいものを生み出す事は出来ない。今回の経験を通して既定の枠に囚われず考える事の大切さを再認識した。
  • ~屋内・屋外用の足底板を利用した2次的障害の改善・予防を図る~
    木原 太史
    セッションID: 096
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回、自動車事故により、左腓骨頭開放骨折を受傷し、重度の足関節拘縮を呈した症例を担当した。他の部位への手術によるリハビリの長期中断や、足関節内反尖足位での歩行の習慣化などのために、機能改善が十分にできず、さらに股関節の可動域低下、腰痛発生など他部位への2次的な障害を起こしてしまった。そのため、足関節の機能訓練を行うとともに、屋内外にて足底板を使用していくことで、日常生活内での歩容改善とそれに伴う2次的障害の改善・予防を図ることができたのでここに報告する。
    【症例紹介】
     50歳台男性、H18.9.9の早朝、トラック運転中に正面の車に衝突し、受傷。意識不明のまま、A病院に救急搬送され、左腓骨頭開放骨折に対しデブリードマン処置、右橈骨遠位端骨折に経皮的鋼線固定術、顔面開放骨折に神経縫合、骨接合術が施行された。同夜に左下腿コンパートメント疑いにて、筋膜切開術施行。翌日に腓骨神経麻痺を認めている。10日後に意識が戻るが、事故前数日の記憶がない状態であった。H19.9.22リハビリ開始。H18.10.11に下腿部の植皮術施行にてリハビリ中止。H18.11.2に足継手付の短下肢装具装着にて当院に外来転院し、リハビリ再開となる。
    【理学療法アプローチ】
     初期評価にて足関節に重度の拘縮を認め、足関節を中心にリハビリ行った。その後、足関節の機能は改善していったが、H18.12.31に事故後の硬膜下血腫の除去術のためB病院に入院、再びリハビリ中止となる。H19.1.22より当院にてリハビリ再開するが、足関節拘縮の重度化、股・肩の拘縮、腰痛が見られた。さらに短下肢装具を除去し裸足にて歩行していたため、足根中足関節にて荷重する内反尖足位の歩行が習慣化してしまい、さらなる足関節拘縮の重度化を招いてしまった。そのため、一端、以前の短下肢装具歩行に戻し、足関節を矯正位とし生活して頂いた。また、屋外用の補高靴と屋内用の足底板を作成し、装着を徹底した。それにより、足関節の背屈・外反誘導を行い、全身に悪影響を及ぼしていた歩容の改善が見られ、足関節の機能改善と、2次的障害への改善・予防を図ることができた。
    【考察】
     足関節が拘縮した場合、強い制動を持つ靱帯や狭い関節包、足部の密な構造のため、他の関節よりも可動域の改善は難しい。本症例でも、重度の拘縮を呈し、受傷後長期間を経過しており、さらに継続的なリハビリが困難であったため、拘縮のスムーズな改善は困難であった。そのため、屋外用の補高靴・室内用の足底板を作成し、終日の内反尖足位の矯正・足底への感覚を与えることで機能改善を認め、さらなる2次的障害に対しても改善・予防することができた。このように、その関節を使用しやすい環境を足底板などを用い、理学療法士が作ることで、関節の機能改善とともに、その症例の2次的障害の改善・予防が図れるのではないかと考えた。
  • 藤後 大輔, 益山 康秀, 弓木野 勇次
    セッションID: 097
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回、機能性・操作性に優れた新しい足継手UG-joint(以下ラビットI型)を使用したプラスチックAFOを作成し、その機能的有用性を検討した。以下、ラビットI型の機能を紹介し、本AFOを処方した脳卒中片麻痺2例に対する使用経験に考察を加え報告する。
    【ラビットI型の特徴】
     継手部は軽量・コンパクトで病状や障害の変化に対して現場でも対応出来るよう操作性を考慮。鋼球を使用した底屈・背屈可動域の制御。ウレタンゴム、鋼球を併用した背屈・底屈補助・制動の制御が可能。
    【症例紹介】
     症例1:71歳女性。右視床出血、左片麻痺。Br.stage上肢5、下肢4。足関節底屈・内反筋群の筋緊張軽度亢進。平行棒内歩行では麻痺側下肢の筋緊張亢進し、伸展パターン優位となり、反張傾向、足部内反がみられ歩行困難であった。
     症例2:77歳男性。左脳血栓症、右片麻痺。既往に膝OAあり。Br.stage上肢4、下肢4。足関節底屈・内反筋群の筋緊張中等度亢進し足関節背屈-5度の制限あり。裸足では膝の過伸展みられ膝の痛みが誘発された。
    【経過】
     症例1:発症後8日目より歩行訓練開始。以後試行用プラスチックAFO使用し、四点杖にて近位監視歩行レベルまで改善。4週後、本AFO作成。底屈-5度制限、背屈遊動の設定で歩行訓練実施するが「歩きづらい」「足が引っかかる」などの訴えあり。背屈補助機能追加し、「歩きやすさ」の主観的判断も参考に微調整を行い、歩容改善。9週後屋外独歩可能にて退院。
     症例2:発症後5日後より試行用AFO使用し起立歩行訓練開始。立脚期の反張傾向により右膝荷重時痛増強し立位歩行困難であった。4週後より本AFO作成。底背屈0度固定にて歩行訓練実施。その後背屈遊動とするが膝痛は残存。底屈-5度制限に背屈補助機能を追加し、徐々に膝痛は軽減。発症より14週後、屋内歩行自立にて退院。
    【考察】
     今回、脳卒中片麻痺2例にラビットI型を使用したことで、回復段階に合わせた足部の調整が可能となり、より近位部の股・膝関節のコントロールが改善された。それにより歩容の改善が得られ、快適歩行に繋がったと考えられる。脳卒中片麻痺に対して発症早期からの装具を検討する際、足部の角度調節や制動、遊動等の機能を持った足継手の選択は機能予後も含め重要である。今回使用したラビットI型は治療場面での操作性に優れ、ウレタンゴムと鋼球を併用した背屈補助機能によって症例の「歩きやすさ」という主観も評価材料にできた。このため装具の受け入れもよく積極的歩行訓練が進められ、大変有用であったと思われる。今回は発症後、早期起立歩行訓練を行う上で試行用AFOを使用していたが、今後起立訓練開始当初より本AFOを処方することを検討し、さらなる症例を重ねていきたいと考える。
  • 一 道伸
    セッションID: 098
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回、手指変形の重度な関節リウマチ(以下RA)を呈する1症例より、趣味でもある絵を書く事に対する要望があり、また書類等のサインは代筆を使う事が多いという訴えを聞いた。そこで、書字を実用的にする為、書字動作時の評価を行い、それに対して簡単に作製可能な補助装具を導入し、良好な結果、反応を得たので報告する。
    【症例紹介】
     53歳、女性、主婦、右利き、診断名はRA、右示指から小指のMP関節掌側脱臼に対して、示指から環指人工指(MP)関節形成術、小指関節形成術を施行した。術後5週での手指の総自動関節運動域は、示指24°、中指40°、環・小指に関しては自動運動不可。尺側偏位は中・環・小指に若干みられ、対立動作は母指(H18年7月にMP・IP関節固定術施行)と示指中節部間で可能だが、他指との対立は不可。ピンチ力は母指と示指側副間0.6kgであった。
    【書字動作時の問題点】
     3指間つまみが困難な為、把持(支持)と操作を母指と示指間での側副つまみと中指指腹の2点にて行う。把持というよりも多くはペンを支えているだけで、中指指腹は押さえが弱いため側方へ滑り落ち、またペン先端の側方を支持することで尺側偏位を助長していた。結果、筆圧が弱く、何度も握り直さなくてはならない等訴えが強かった。
    【装具作製方法と目的】
     隣接指を一緒に動かす時に使用されるbuddy splintに改良を加え、自分での装着を容易かつ強固にする為ベルクロにループをとりつけ、示・中指の基節部と中指末節部の2箇所で固定した。一方のベルクロで尺側偏位防止を目的に示・中指の基節部を一緒に固定し、もう片方のベルクロで把持をサポートする目的にペンを固定した。中指指腹は横滑り防止と押さえを得る為にペンの上方で固定した。
    【結果】
     筆圧、スピード、文字の大きさ・丁寧さ等を装具装着前後で評価した。筆圧は書類等で使われる複写紙を用い、1cm×1cmのマスに1文字ずつ漢字20字を書いてもらい、時間を計測した。装着前の筆圧は複写紙3枚目で薄く読みにくかったのに対し、装着後は4枚目まではっきりと読むことが可能であった。また、スピードも3分15秒から1分59秒と向上し、細かい字も震えがなくなり、書字が可能となった。症例自身からも今までの滑るような感じがなくなり、止め・跳ねができるようになったと発言がみられた。
    【考察】
     今回の1症例は、変形とそれによる二次的要因により把持と支持の機能性が失われていたが、主に支持となっていた2点をサポートするように簡単に固定するだけで書字能力が向上した。装具を作製するにあたり重要なのは、軽量で装着容易、機能的であることはもちろんだが、その為の手指機能や変形の評価を十分に行い、問題点を明確化すべきであると考える。
  • 井原 雄彦, 弥富 みほ, 坂井 知佳, 松尾 清美, 森川 雅司
    セッションID: 099
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
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    【はじめに】
     今回,松尾清美氏より三洋電機株式会社との共同研究への参加を依頼され,研究センターと共に高機能体位変換介護ベッド(以下 HIST)の機能評価および効果検証を行ったので報告する.
    【研究方法】
    1 HISTの特長の調査
    2 体圧測定による比較
     HISTの効果検証を行うにあたり,当院で使用しているマットレス(以下 マットレス)とHISTにおける体圧の分散と体位変換後の圧力の変化をタカノ株式会社製体圧測定器(以下 FSA)を使用し健常者にて比較.
     測定方法は,それぞれ仰臥位と同程度の右側臥位(約50°)にて姿勢が安定し10秒後を計測.
    3 事例報告
     事例報告として脳梗塞後遺症,うつ病を呈した症例.
    【結果】
    1 HISTの特長の調査結果
     ベッドのボトムは,寝返り動作を再現できるよう12分割されており,それぞれが独立した動きを展開する.ギャッジ&ロール機構としてボトム中央部の動きにより背上げ・膝上げを行い,左右側方部のボトムが連動し,体幹を保持しながら緩やかな体位変換動作を行う.
     HIST専用マットレスは,特性が異なる4層構造のウレタンを使用.マットレス下部2層は「ギャッジ&ロール機構」がつくりだす寝返り動作に伴うよう3分割されている.
     HISTは,リモコン操作に加え,音声認識システムを導入し,基本動作のすべてをコントロール出来るようになっている.他にも自動モードとして仰臥位,左・右側臥位の保持時間をそれぞれ設定でき,自動モードの継続時間は生活に合せて設定できる.
    2 体圧測定による比較
     FSAによる比較において,HISTでは仰臥位・右側臥位にて局所圧の最高値は50mmHg以下で,体幹・下肢が全体的に支持され,寝返り姿勢での安定感が明らかとなった.マットレスでは,支持面が少なく局所圧の最高値は100mmHgを超えた.
    3 事例報告の結果
     症例は,自ら寝返りできる能力を有しながらも,自発性が低下し,介護を必要としている為,HIST使用による介護負担の軽減を目的として導入した.HIST導入初期は介護者によるリモコン操作にて体位変換を行った為,介護負担の軽減を達成.
    【考察およびまとめ】
     FSAにおいて,HISTマットレスにおける体圧分散効果や局所圧の低下,寝返り姿勢での支持面の広さなどストレスの軽減による寝心地の良さを評することができ,健常者,障害者および家族,医療関係者の評価からも総じて「良い」との評価を得られた.
     事例では,導入初期は,不安感から拒否があったが,徐々に軽減.また,次第に患者自身でベッド操作を行うようになり,自発性の向上がみられた.これは,自分で寝返りを操作する行為が患者自身の成功体験となったものと思われる.
     今後のHIST使用に関しては,ベッド上での身体の位置決め方法,使用者の体格差による寝返りでのズレを少なくする方法や使用環境への配慮も必要だと考える.
  • ~ベッドからの離床を目指して~
    河野 修
    セッションID: 100
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/02/01
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    【はじめに】
     介護保険開始後、訪問リハビリの需要は高くなってきており当院でも病院からの訪問リハビリを提供している。今回入浴以外は全てベッド上で生活しており、リハビリに対する拒否が強い症例を経験した。しかし、ヘルパーと連携してベッドから離床し外に出かける事に成功したので報告する。
    【症例紹介】
     X-15年脳梗塞発症し、病院でリハビリ実施して在宅生活となる。ADLはほぼ自立して歩行器歩行可能だったが、娘と二人暮らしで、日中は症例一人となるためヘルパーを利用していた。その後、徐々に活動性が低下し、X年の訪問リハビリ開始時は著明な麻痺や関節可動域制限はないものの、ADLは入浴以外全てベッド上でヘルパーや娘が介助で行っていた。精神面は問題ないが、ベッドから動くことも他動的に動かすことも嫌い、訪問しても断られる状況であった。
    【経過】
     症例自身、全て介助してもらう生活に満足しており今更、身体機能面の向上やADLの向上を望んでいなかった。しかし、廃用による筋力低下と全身耐久性の低下が著明で、耐久性の向上が出来れば、活動性の向上も可能ではないかと考えられた。そこで、ヘルパーに活動性の向上を促すよう協力を依頼した。ベッドをギャッジアップして好きな料理の話をすることから始め、その後リハビリの際はパジャマから洋服に着替えるようヘルパーと共に提案し、実施した。アプローチを継続していく事で、生活リズムのなかでリハビリの時間は、「起きて何かしよう」という動機付けにつながり、X年+4ヶ月からは、頻度が週1回から2回へと増加し、車椅子を自分で操作して居間まで移動する事が可能となった。そして、何年かぶりにヘルパーと共に、車椅子で屋外を散歩した。ベッドから離床する時間も増えてきている。
    【考察】
     介護度が高く、又認知症も伴った状況で在宅生活を送っている症例の多くは、本人よりも家族の希望や、ケアマネージャーの紹介による訪問リハビリの依頼が多いように思われる。本症例の場合、認知症は認めないものの長期臥床による、活動性や耐久性の低下が著明であった。本人のニードが引き出せないとしても、在宅生活を支えていく一スタッフとして、ADLの向上や、身体機能の向上のみにとらわれるのではなく色々なアプローチがあると考える。本症例についても、ヘルパーと情報交換しながら一緒に取り組むことで、機能訓練やADL訓練に固執しなかった事と、急がずに徐々に取り組んだ事がベッドから離床を促すことが出来た一要因と考える。本人のペースに合わせる事と連携の重要性を再認識すると共に今後は、趣味であった調理に挑戦できるようヘルパーと検討している。
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