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友田 秀紀, 金澤 照正, 小島 梓, 堀池 紗由香, 森山 雅志, 小泉 幸毅
セッションID: 001
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【目的】
脳卒中患者の屋内歩行自立に対する寄与因子と、入院から屋内歩行自立に達するまでの期間を分析し、入院早期から歩行能力に関して自立するまでの時期も含めた予後の判断基準を探ることを目的とする。
【対象】
平成19年4月1日から21年1月31日迄に当院の回復期リハ病棟を退院した脳卒中患者の内、状態悪化等による転院者は除外し、調査及びデータ使用に同意の得られた537名(男性299名、女性238名、67.6±13.9歳)。なお、本研究を行うにあたり当院の倫理委員会の承諾を受けた。
【方法】
診療録より属性項目(発症回数、発症から入院までの期間、入院期間、屋内歩行自立等)、入院時項目(Japan Coma Scale、Brunnstrom stage、非麻痺側下肢筋力、失調症状有無、起居動作・排尿自制能力等)のデータを後方視的に抽出した。認知症有はMMSE22点以下とし、動作能力は自立・見守り・介助・未実施の4段階で評価した。
(1) 屋内歩行自立の寄与因子探索のための統計解析として、病棟歩行自立か否かの2値を目的変数とし、入院時項目を説明変数とした決定木分析を行った。(2) 入院から屋内歩行自立に達するまでの期間分析として、起居・移乗能力項目ごとにカプランマイヤー法によるログランク検定を用いて期間を算出した〔中央値(平均値±標準偏差)で表示〕。病棟歩行自立日をエンドポイントとし、屋内歩行自立に至らなかったものを打ち切りとして入院日数で統計処理した。統計解析には、JMPver5.0.1を用いて有意水準は5%未満とした。
【結果】
発症から入院までの期間は34.4±14.1日、入院期間は83.4±41.8日、屋内歩行自立したものは348名(64.8%)であった。(1)決定木分析の結果、屋内歩行自立に寄与する因子として、第1ノードで入院時の座位能力が選択され(自立89.5%、非自立10.5%)、次いで尿意有、認知症なしが選択された。(2)ログランク検定の結果、座位能力の自立が24日(37.2±2.0)、見守りが114日(116.5±5.1)であった。立ち上がり能力の自立が11日(21.4±1.6)、見守りが71日(74.1±3.6)であった。移乗能力の自立が7日(16.9±2.4)、見守りが45日(52.1±2.7)であった。また、起居・移乗動作の各動作で、4段階(自立・見守り・介助・未実施)間に有意差を認めた(p<0.001)。
【考察】
退院時に屋内歩行が自立したものの内、約9割が入院時の座位能力が自立しており、座位能力が屋内歩行自立するか否かの判断基準になると考えられた。屋内歩行自立までの時期は、動作レベルごとで差がみられた。座位能力において自立レベルであれば約1ヵ月以内での屋内歩行自立が可能であり、見守りレベルであれば自立までに約4ヵ月の期間を要すことが確認された。
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-認知FIMとJSS-Hとの比較-
椎葉 誠也, 寺師 円香, 宮城 大介, 桑田 稔丈, 中島 雪彦, 徳永 誠, 渡邉 進, 米満 弘之
セッションID: 002
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【目的】
先に筆者らは、当院回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期リハ病棟)から退院した脳卒中患者を対象に調査を行い、自宅復帰率の高い退院時の杖なしあるいは杖ありでの独歩をめざすには、入院1ヵ月後の車いす移乗自立が重要であることを報告した。佐々木らや三宅らの先行研究によれば、移乗自立には身体機能の影響が大きいものの認知機能も影響すると報告されている。本研究では、回復期リハ病棟入院時の患者情報から入院1ヵ月後の移乗自立を予測すること、そしてその予測において、入院時Functional Independence Measureの認知5項目の合計点(以下、認知FIM)と脳卒中高次脳機能スケール(以下、JSS-H)のどちらが有用かを明らかにすることを目的とした。
【対象と方法】
2007年9月1日~2008年9月30日に当院の回復期リハ病棟を退院した脳卒中患者のうち、入院時の移乗に監視・介助が必要であった180例中、JSS-Hを評価できた112例を対象とした。方法は、1) 入院時認知FIMと入院時JSS-Hの相関の有無。統計はSpeaman順位相関係数の検定。2) 対象患者を、入院1ヵ月後の移乗が自立した58例(以下、移乗群)と移乗に監視・介助が必要なままの54例(以下、介助群)に分け、年齢、入院時FIMの運動13項目の合計点(以下、運動FIM)、認知FIM、JSS-Hについて、移乗群と介助群の2群間での比較。統計はMann-Whitney U 検定。3) 検討2で有意差を認めた項目を用いて、入院1ヵ月後の移乗自立を予測するための判別分析。その際、認知FIMとJSS-Hのどちらを用いた判別分析がより正確なのかを調べた。検討1~3とも有意水準は5%未満とした。
【結果および考察】
1)認知FIMとJSS-Hには有意な負の相関があった(相関係数-0.69、p<0.001)。2)運動FIM、認知FIM、JSS-Hには有意差を認めたが、年齢には有意差を認めなかった。3)運動FIMと認知FIMを説明変数とし、入院1ヵ月後の移乗自立を目的変数とした判別分析では、z=0.119*運動FIM+0.011*認知FIM-4.760という線形判別関数が得られ、感度は81.0%(47例/58例)、特異度は72.2%(39例/54例)であった。運動FIMとJSS-Hを説明変数とし、入院1ヵ月後の移乗自立を目的変数とした判別分析では、z=0.129*運動FIM+0.023*JSS-H-5.146という線形判別関数が得られ、感度は84.5%(49例/58例)、特異度は75.9%(41例/54例)であった。したがって、認知FIMよりもJSS-Hを用いた予測式の方が感度、特異度とも上回っていた。先行研究同様本研究でも、移乗自立には認知機能も影響すると考えられる。そのため、移乗自立を目指すのであれば、身体機能だけでなく認知機能に対するリハも積極的に行なうべきであろう。
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車椅子レベルである片麻痺利用者様の家庭復帰システムの構築
中村 豪志, 萩原 純一, 新町 景充, 宮崎 真由美, 新町 裕子, 川畑 翔, 森川 兼誠
セッションID: 003
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】
家庭復帰を希望される片麻痺の車椅子利用者様で、独居生活もしくはお一人で過ごされる時間が長い利用者様にとって、トイレ動作の自立は重要な課題である。従来、トイレの手すりとしては、便座に座って非麻痺側の壁にL字手すりを設置するケースが多く見られているが、この環境だと立ち座り動作や移乗動作の補助にはなるが、立位保持の際に非麻痺側上肢の動きが制限され、下衣の上げ下げ動作が困難になる。そこで、便座に座って麻痺側に壁から離したL字手すりもしくは縦手すりを設置し、手すりの縦部分で麻痺側の胸部もしくは頭部を支持して、自由度が高くなった非麻痺側の上肢で下衣の上げ下げ動作を容易にするという麻痺側支持型手すりを考案し、昨年の九州学会にて報告した。これによって、下衣の上げ下げ動作が自立し、従来の手すりでは困難だった5例の利用者様の家庭復帰を達成することができ、麻痺側支持型手すりの有効性を認めた。今回さらに手すりの改良と早期の自立を目指した戦略を考案したので報告する。
【手すりの特徴】
一般的なL字手すりの設置基準とは異なる部分が多い。手すりの縦部分は一般的な位置よりも壁から離し、便座の側端から5cm、前端から15cm程度にする。便座から離れると回転動作や便座からの立ち上がり動作が困難になるので注意する。縦部分の下端は、床から70cm程度とし、上端は床から140cm程度とする。横部分は必ずしも必要ではない。本人の体格や能力に応じた微調整をする必要がある。また、支持部分にバスマットなどの素材を当てて、体重支持がしやすいようにする。
【リハビリメニュー】
動作能力としては、つかまり立位保持、移乗動作、逆移乗動作が自立していることが条件である。 立位バランスを重視し、麻痺側下肢に重心を移動できるようにリハビリを行う。具体的には、1.立位での膝屈伸運動、2.前後左右への重心移動、3.セラバンドを使った下衣の上げ下げ動作の練習、4.逆移乗動作の練習を行う。
【考察】
麻痺側支持型手すりは、トイレ動作自立に向けて、特に独居生活の方のトイレ手すり設置方法の有効な選択肢となるのではないかと考えられる。適応がうまくいけば、長期施設待機ではなく家庭復帰に結びつけることができ、その方の今後の人生にも影響を及ぼすといっても過言ではない。また、長期施設で生活される方にとっても、トイレ動作の自立もしくは介助量軽減は、QOLの向上に寄与することができると思われる。
今後の課題としては、動作を早期に獲得するために、他職種への指導を行い、全職員でアプローチすることが大切である。そして、身体機能評価・住環境評価・リハビリテーションプログラムをシステム化することができれば、片麻痺で車椅子利用者様の、トイレ動作の早期自立が可能であると考える。
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他動自動の関節可動域の比較から
石田 治久, 早川 武志, 百田 昌史, 生駒 英長, 田尻 香織, 高木 桂子, 毛利 誠, 水田 聡美, 本江 篤規, 橋口 鮎美
セッションID: 004
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】
パーキンソン病患者の体幹機能の低下は、周知の事実として広く認識されている。しかし、具体的に体幹のどの動作がどの程度の運動制限をうけるかという報告は少ないように思われる。今回は特に関節可動域(以下ROM)に着目し他動・自動のROMを測定し、一定の傾向を認めたのでここに報告する。
【対象】
当院を受診されたパーキンソン病患者25名。男性11名、女性14名、年齢68.2±11.2歳、Hoehn&yahr stageI 3名、stageII 7名、stageIII 9名、stageIV 6名
【方法】
日本リハビリテーション医学会の定めるROM測定方法にて、対象者の体幹の屈曲・伸展、側屈・回旋を、他動・自動のROMを測定し、その差を各運動ごとに比較した。
【結果】
参考可動域を100%とした場合の体幹各運動の他動、自動ROMを平均化して%で表すと以下の数値となった。
他動:屈曲93.5%、伸展24.1%、側屈30.4%、回旋74.4%
自動:屈曲80.6%、伸展 8.3%、側屈24.3%、回旋50.1%
【考察】
パーキンソン病患者の体幹は、屈筋が優位に働く為前傾しやすく、いわゆるパーキンソン姿勢を呈してしまう。また斜め徴候と呼ばれる前額面での左右の傾きが生じる事も多い。更に回旋動作も消失しやすく丸太に例えられる程である。これらの体幹機能の低下は、寝返りや歩行、方向転換などの基本動作の大きな阻害因子となる。
今回の測定結果からも、屈曲は他動ROMで参考値に近く、伸展は著しく制限されており体幹の前傾傾向が確認された。伸展については自動ROMでも、参考値のわずか8.3%と最も小値となった。更に自動は他動と比較すると70%程度と差が生じており、単に関節構成体の問題だけではなく、随意運動が困難なパーキンソン病患者の特徴が出現しやすい動作であることがわかった。そして、回旋に到っては他動ROMが74.4%と比較的維持されているにも関わらず自動ROMは50.1%と有意な差を認め、側屈同様パーキンソン病患者にとって自動運動の困難な動作であることが示唆された。
【まとめ】
今回の結果から、体幹の伸展は他動・自動ROM共に最も制限を受ける運動であるので、早期から充分な対応が必要と思われた。側屈、回旋に関しては他動ROMと自動ROMに差が生じやすいので他動的なROM練習に加え、自動運動も積極的に行っていくことが重要であると考えられた。
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~上衣・下衣の脱着を通して~
長友 恵美, 都甲 宗典, 加藤 友和, 木村 祐二, 平田 美香
セッションID: 005
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
フリー
【はじめに】
Barthel index(以下BI)の更衣の項目では“標準的な時間”という表現で点数の区分がなされているが,更衣所要時間に関する報告は少ない.そこで,更衣所要時間に着目し調査を行い,若干の知見を得たので考察を加え報告する.尚,対象者には本件に関し十分説明し同意を得た.
【対象】
当院入院中の脳卒中片麻痺患者でBrunnstrom stageは上肢,手指ともにV以下でBIの更衣が自立している40名を対象とした(高次脳機能障害を有する者も含む).内訳は男性21名,女性19名,平均年齢66.1±12.4歳.麻痺側は右20名,左20名.利き手は麻痺側18名,非麻痺側22名.使用手は,非麻痺側片手動作19名,両手動作21名である.
【方法】
ベッド端座位でパジャマを脱いで再度着るまでの一連の動作をビデオに撮影し所要時間を計測した.また対象者の身体機能,精神機能,高次脳機能障害について調査を実施し,対象者に対して更衣場面の感想を聴取した.
更衣所要時間の指標として平均値を算出し,統計処理にはt検定を用い有意水準は5%未満とした.
【結果】
更衣所要時間はtotal 197秒(片手245秒 両手154秒),上衣着衣83秒(片手109秒 両手60秒),上衣脱衣33秒(片手39秒 両手27秒),下衣着衣47秒(片手61秒 両手34秒),下衣脱衣27秒(片手31秒 両手23秒)であった.麻痺側参加状況と各所要時間において有意差を認め,両手動作での所要時間は大幅に短縮した.利き手別,麻痺側別と各所要時間では有意差を認めなかった.高次脳機能障害の有無とtotal,着衣上衣の所要時間において有意差を認めた(p<0.05).
【考察・まとめ】
今回の調査では上衣着衣に最も時間を要す結果となり,更衣所要時間には麻痺側使用状況や高次脳機能障害が大きく関与していた.上衣着衣に時間を要する対象者に共通していた点は,麻痺側上肢を袖に通す過程の困難さであった.さらに,麻痺側上肢の袖を通した際に,肩まで袖を通さずに非麻痺側上肢を通し始める為,襟ぐりや袖のねじれを何度も修正する点であった.これらの要因として,麻痺側随意性の低下により上肢の挙上が困難であること,注意障害や半側空間失認の為,麻痺側上肢に対する認識低下や注意力低下が考えられた.
更衣評価後の感想では,平均より時間を要する者に「時間がかかり疲れる」等の苦痛を伴う意見が聞かれ,そのほとんどが上衣着衣に対するものであった.今回得られた片手動作,両手動作それぞれの所要時間を目安に両手動作や麻痺側上肢の随意性および麻痺側身体認知に対するアプローチを行い,スムーズな更衣動作の獲得を目指し,患者の苦痛軽減に繋げていきたい.
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移乗動作を中心に
日高 俊和, 谷崎 豊喜, 渡 裕一
セッションID: 006
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
フリー
【はじめに】
今回,右後頭葉皮質下出血により,多彩な高次脳機能障害を呈した症例を担当した.症例は左側移乗時に無関連な動作が出現し,転倒の危険性が高く、今回,妻の希望で自宅退院が決まったが,移乗には妻の介助が不可欠であり,介護量増大が推測された.そこで,安全な移乗と妻の介助量軽減の為,左側の移乗動作に対し訓練を実施,若干の改善が見られたため,考察を加え報告する.
【症例】
80代,男性,右利き.右後頭葉皮質下出血.CTにて右後頭葉から頭頂葉に高吸収域.既往歴はHT,DM.介護者は妻で同敷地内に長男夫妻在住.本報告における本人・家族の同意を得て実施した.
【神経学的所見】
左片麻痺、Br.StageVI-VI-V.両膝関節伸展制限.左同名性半盲(+)
【神経心理学的所見】
ADLはFIM47点,病識低下も伴い転倒の危険性大のため退院後は車椅子での移動が予定され,整容・排便・排尿全介助、その他は部分介助であった.WAIS-R・HDS-R・TMTは指示に対し無関連な言動があり測定不可だが,聴覚的理解は単語レベルで可能であり,簡単な返答・指示理解・動作が出来るため,内容の複雑さに伴い無関連な言動が生じると考えた.その他,動作・言語的保続.近時・即時記憶低下.病識低下.拮抗性失行,左USN,複雑な系列動作困難等の半球間離断を思わせる症状を認めた.
【経過・結果】
左側の移乗動作は物的支持がない状態では動作開始困難.立ち上がり後,元の位置に座る,前方へ歩き出す,移乗対象物に殿部を向けるが座れず,系列動作困難であった.また,左USNにより移乗対象物認知が不十分であった.訓練では移乗動作を[移乗対象認知][立つ][殿部を移乗対象に向ける][座る]に細分化し,左上肢で触知,注視・呼称による移乗対象認知を行った.その後,動作を口頭指示と徒手的誘導で行い,誤り動作には,その都度言語的に修正し,反復訓練を行った.左USNには視覚走査訓練を行った.左USNの改善は認められなかったが,左上肢の誘導による触知と指示による注視で,動作開始がスムーズとなり、あわせて、左側の移乗対象物に殿部を向けて座る動作転換が口頭指示と近位監視で可能となり,無関連な動作も軽減し、移乗が可能となった。
【考察】
症例は脳梁膨大領域の血流障害により,種々の感覚や情報が両大脳半球間で伝達されないため,意図が統一されず,不完全な移乗動作を生じるものと考えた.移乗動作前の移乗対象物の視覚的確認と、行う動作の言語化で,両大脳半球間の移乗動作の意図が統一され,また,徒手的誘導での体性感覚,誤り動作への言語的修正による聴覚刺激等,多種感覚モダリティを用いた反復訓練による強化作用により,改善が得られたと考える.今回の経験を,妻を含めた家族に適切に指導することで、症例の安全な移乗,家族の介助量軽減に繋げることができたのではないかと考える。
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Vitality Indexを用いて
福田 麻依, 岩下 正明, 小林 真美
セッションID: 007
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
フリー
【はじめに】
作業療法を実施していく中で,患者本人の意欲の向上がADL能力の向上に影響を与えていると感じた.そこで今回,意欲の指標Vitality Index(以下VI)を用いて,意欲とADL能力の関連性について検討したので報告する.症例には本件に関し十分に説明し同意を得た.
【対象】
当院回復期リハビリテーション病棟(以下回復期病棟)に入院した脳卒中患者33名(男性21名,女性12名,平均年齢72,09±11,23歳)を対象とし,右片麻痺17名,左片麻痺14名,両片麻痺2名であった.
【方法】
まず,意欲の評価にはVIを用いた.VIは,起床,意思疎通,食事,排泄,リハビリ・活動の5項目について0~2点の3段階で評価する.得点範囲は0~10点で,得点が低いほど意欲が低下していることを示す.またADL能力の指標には,Barthel Index(以下BI)とFunctional Independence Measure(以下FIM)を用いた.回復期病棟入棟時(以下入棟時)と入棟後1ヶ月時(以下1ヶ月時)におけるVI,BI,FIMを評価し,相関を調べた.
統計手法はWilcoxonの順位検定およびSpeamanの相関係数を用い,有意水準は5%未満とした.
【結果】
VIは1ヶ月間で有意に改善し(P=0,001),VI向上群は15名,VIに変化のなかった群は16名,VI低下群は2名であった.また,BI・FIMは33名中28名が改善し,逆に低下した者はVIに変化がなかった群とVI低下群で1名ずつ見られた.また,入棟時・1ヶ月時ともにVIとBI・FIMの間に相関が見られたが(r=0,57~0,72),1ヶ月間のVI変化量とBI・FIMの変化量の間には有意な相関は見られなかった.(r=0,04.0,19)
【考察・まとめ】
今回の調査では,VIの得点範囲が狭く,VIが変化しなかった群が全体の約半数であった.そのため,1ヶ月間のVI変化量とBI・FIMの変化量には相関が見られず,患者の意欲向上がADL能力向上に関与しているということは認められなかった.しかし,VIを用いて患者の意欲を評価したことで,多くの患者が回復期病棟入棟時の意欲を1ヶ月間維持できているということがわかった.
回復期病棟入棟後,肩手症候群を合併したことや尿意が曖昧になったことが影響し,VIやBI・FIMが低下した患者も見られたが,多くの患者の意欲とADL能力は維持・改善されており,入棟時・1ヶ月時ともにVIとBI・FIMの間には相関がみられた.このことから,意欲の高い患者ほどADL能力が高いという,意欲とADL能力の関連性が明らかとなった.今後はさらに調査期間を延長し,発症からの期間や,身体機能の改善,ADL能力の改善が意欲に与える影響 についても調査を行っていきたい.
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松本 圭可, 花谷 達也, 矢野 高正, 佐藤 浩二, 桑野 慎一郎
セッションID: 008
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
フリー
【はじめに】
知的面と身体機能面は良好だが、今後の生活への不安に起因する自信の低下と早期復職への焦りが強かった症例に対し、退院後の実生活時間に合わせて訓練した。結果、早期退院・復職に繋がった。症例を通し、実生活時間に即した活動の効果について考察する。
【症例紹介】
50歳代、男性、平成20年8月発症のCVA 左片麻痺。Br.stage上下肢・手指共V。視野狭窄と極軽度の高次脳機能障害を認め、セルフケアは監視から軽介助(B.I:90点)。30年以上調理師として働き、復職への希望は強かった。2年前より喫茶店を立ち上げ調理師兼指導員として昼の定食作り、弁当出荷をしていた。
【チーム目標と作業療法計画】
目標は通勤を含め安全配慮を獲得しての調理師への復職とした。設定にあたっては、問診にて病前の過ごし方を聴取し、本人と退院後の主要な「する活動」を検討し、セルフケアと復職を挙げた。復職に関しては具体的に通勤、調理という課題を抽出した。訓練は、実生活時間に即してセルフケアは更衣と入浴に介入した。通勤は帰りの時間帯に応じた夜間19:00~19:30の屋外歩行の練習、調理は午後に弁当仕込み、翌午前に弁当作りと定食作りを計画した。実施期間は3週間とした。
【経過】
1)セルフケア自立を目指した取り組み
本症例の自信低下は、高次脳機能障害の影響よりも視野狭窄による安全配慮不十分な面が影響していた。入浴と更衣の動作練習を実生活場面にて繰り返し指導した。結果、2週間でこれらの動作は自立すると共に、院内歩行も自立した。
2)復職に向けた取り組み
早期のセルフケア・院内歩行自立により復職への過度な自信を持ち始めた為、実行状況との差を確認しながら、練習するよう努めた。
2週間で通勤を想定した夜の屋外歩行は、懐中電灯や反射板ヘ゛ルト等の使用で慣れた環境下では周囲への安全配慮が得られた。また調理は、視野狭窄の影響により動作拙劣であったが、繰り返し行う事で限られた時間内で手際よく5品の同時調理や、指導員としての指示出しが可能となった。
入院3週目以降には2度の試験外泊を実施した。結果、人ごみでの緊張も少なく、退院後の生活に対する自信に繋がった。また、職場の上司に実際の調理場面を見学してもらい情報提供した。そして入院45日目の9月25日に自宅退院した。平成21年4月20日の現在、安全に通勤し発症前と同様の8時間勤務を行っている。
【考察とまとめ】
本症例に対しては、退院後の生活を見据えた「する活動」を本人との共同作業で具体的課題を抽出し実生活時間に即して実践した事で、具体的な退院後の生活イメーシ゛構築に繋がり早期退院と復職に至った。今回の結果から、身体機能面は良好だが、退院後の生活に漠然とした不安を抱いているような患者に対しては実生活時間に即した働きかけは効果的と考えられた。
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佐野 幹剛
セッションID: 009
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】
平成19年4月より学校教育法等が改正され,小・中学校においても特別支援教育を推進することが法律上明確に規定された.療育支援センターにて月1回の頻度で就学後の問題を抱える児童の相談業務に携わる中,子どもだけでなく家族に対する支援,関連機関との連携を通して,作業療法サービスの介入の可能性を模索した.なお,報告するにあたり当センターの承諾を得た.
【目的】
特別支援教育に関連した相談の実態と作業療法士の役割を明らかにすることである.
【方法】
調査対象は,平成19年5月から平成21年4月までに当センターで演者が介入した来談者である.調査方法は,記録ノートを参考に来談者の概要,相談・支援の内容,相談・支援の分類について整理した.
【結果】
特別支援教育に関連した相談の総件数は111件で,児童と家族の相談が78%,学校教師の相談が17%,家族のみの相談が4.5%であった.来談した児童と家族は16組で,診断あり児童2名,来談後ついた児童9名であった.来談時小1が28.6%,小5が31.2%で多かった.来談時に特別支援を受けていた児童2名,来談後受けるようになった児童3名,担任による対応ありの児童は7名であった.相談・支援の分類で,学習支援28%,SST21.6%,学習・心理相談18.9%,発達心理検査15.3%,カウンセリング8%,学校訪問指導7.2%,ペアレントトレーニング3.6%であった.相談・支援の内容で,児童に対しては主に読み書き計算(学習支援),場面認知や相手の気持ちを理解する練習(SST),家族や教師に対しては主に児童の特徴・支援の経過・今後の課題・進路等の説明(学習・心理相談),児童との関わり方の指導(学校訪問,ペアレントトレーニング)であった.
【考察】
教育相談に携わる作業療法士として,平成19年度以降小・中学校との連携が密になり、学校長を始め担任教師の協力関係が得られやすくなった.特に,学校訪問や担任教師の来談件数が増えてきた.また,来談時に診断のない児童が多く,先の見通しが立たない不安な心境で就学を迎えた家族や中学への進学を控えている家族の現状が明らかになった.従って,作業療法士は児童を取り巻く教育現場で生じている現象の評価と児童の発達心理学的側面の評価とを実施するとともに特別支援の必要性を判断すること,児童の発達特性に応じた支援と家族・教師のニーズに応じた相談のスキルを修得することが必要と考える.さらに,地域でのセンター機能として,家族との調整(コーディネータの役割)はもとより,学校や教育委員会・行政,理学療法士,言語聴覚士,臨床心理士など他職種との協同による包括的な支援が重要であり,作業療法士が独断専行してはならない.
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塩屋 雄一, 岩下 大志
セッションID: 010
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】
重症心身障害児・者において日常生活の姿勢管理は重要であり、一手段として姿勢保持具の導入が挙げられる。以前より市販の綿・ポリエステルクッションやタオル(以下、クッション)にてポジショニングを行っている症例に半背臥位・半腹臥位姿勢保持具と背臥位姿勢保持具(以下、姿勢保持具)を作製した。今回、家族の了承を得て有効性の比較検討を行った。
【症例紹介】
H様 11歳 女性 サイトメガロウイルス感染後遺症 GMFCS level5
Chailey姿勢能力発達レベル 背臥位level2
右凸側彎(Cobb角120°)、胸郭の扁平、右股関節脱臼
【実施期間】
期間は各2週間、ABABデザインによる比較検討を実施。
A)クッション使用期間
B)姿勢保持具使用期間
日中は半背臥位・半腹臥位、夜間は背臥位を実施。
【測定方法】
1.胸郭の厚み/幅=比率
2.体幹の骨指標計測(a.烏口突起、b.上前腸骨棘)
ア)右a~右b イ)左a~左b ウ)右a~左b エ)左a~右b
3.Goldsmith指数 1~3を10回計測し分散分析を実施。
【結果】
介入前後において胸郭の比率や体幹の骨指標計測におけるウ)エ)差では有意差が見られなかったが、ア)イ)差やGoldsmith指数にて危険率5%にて有意差が見られた。
【考察及びまとめ】
日常生活におけるポジショニングは、身近にあるものを代用して行うことが多い。症例も市販のクッションを使用しており安楽さは見られるが、体の長さや幅に適合せず、私物の数も限られているため姿勢への修正が不完全であった。今回作製した姿勢保持具は、体に適合し対称的で均等な接触支持面を実現し、生体力学的にも有効的である。また簡易で統一したポジショニングが行いやすくなり、病棟スタッフの姿勢管理への意識付けも向上した。評価では介入前後でのア)イ)差やGoldsmith指数より有意差が見られた。これらは対称的な姿勢にて筋の持続的な伸張がなされ、結果として姿勢保持具の有効性が得られたのではないかと考える。しかし、胸郭の比率やウ)エ)差においては、長期間における構築的変形により短期間では緩和されず、有意差が見られなかったと考える。
今回、ABABデザインを用いて姿勢保持具の定量的評価を試みた。今後、症例数を増やし縦断的定点的調査を行い、課題に取り組むことが重要である。そして利用者の生活の質へと還元していきたいと考える。
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川原 紗弥香, 鶴崎 俊哉
セッションID: 011
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】
周産期医療の進歩によりハイリスク新生児の救命率は著しく高くなっているが,ハイリスク新生児は自律神経系が未熟なために容易に機能不全を起こしうる.自律神経系の不安定は,その上に積み上げられる運動発達を阻害する因子となる.救命された児が養育される新生児集中治療室
(Neonatal Intensity Care Unit,以下NICU)における音や光の刺激は,ハイリスク新生児にとって過剰すぎるいうことが先行研究により明らかにされている.現在,適切なNICUの環境としてはアメリカ小児学会が照度日中100~200 lx,夜間50 lx,環境音45db未満を推奨している.しかし,その数値に関して具体的に検証した研究や突発的な環境変化に対する児の変化について検証した研究は少ない.そこで本研究では児の自律神経系の反応に着目し,NICUの環境変化との関係を検討することを目的とした.
【方法】
対象は本研究への同意が得られた当院NICUおよび観察室に入院中のハイリスク新生児6名であった.環境刺激は当院NICUおよび観察室の日常的な照度と環境音を測定対象とし,保育器またはコット内の児の枕元で照度・環境音を2秒間隔で30分間測定した.児の自律神経系の変動をあらわす指標としては,心拍数(以下HR)および経皮的血中酸素飽和度(以下SpO2)を用い,環境刺激の測定と同時間帯のHRおよびSpO2を測定した.なお,当研究は本学倫理委員会より承認を受けている。
【結果】
今回測定を行った結果,対象児の受けている光刺激の照度は17~576 lxと幅があった.また,その照度は一定ではなく,度々変化していた.児の受けている音刺激の大きさはほとんど45dbを超えており,背景音に割り込む突発的な音も頻回に発生していた.対象児のHRやSpO2は環境音・照度の変化によ不安定になっており,照度の違いによりSpO2の安定性に違いがあった.しかしながら,同じような環境下でも児によってHRやSpO2の変化の仕方は異なっており,また同じ対象児でも時間帯によってHRやSpO2の安定性に違いが生じていた.
【考察】
ハイリスク新生児はどのレベルの照度・環境音であっても,その突発的な変化に弱いということがいえる.環境刺激の変化に対応してHRやSpO2の変化がみられたことから,児の受けている刺激が適切であるかを知る簡便な手段としてHRやSpO2を利用することが可能であると考えられる.今回の研究から,推奨されているNICUの環境が全ての児にとって良好な環境であるとはいえないことがわかった.同時に児の環境刺激に対する自律神経系の反応には個人差がある
といえる.そのため,児の養育環境を個別に調整する必要があると考えられる.NICU全体としてはどのレベルの照度・環境音が望ましいのかは,さらに症例数を重ねて検討する必要がある.NICU全体の環境調整と個別の調整の両方をどう進めていくのかが今後の課題であると考える.
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遠山 さつき, 宮本 清香, 臼杵 扶佐子
セッションID: 012
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【序論】
外来リハ利用により社会適応行動が変容した軽度の精神遅滞を伴った水俣病認定患者の男性例を経験した。その介入方法と行動変容の経過を報告する。なお、この報告は当事者の同意を得、かつ、当センター倫理委員会より承認を受けているものである。
【症例紹介】
50代の男性。難聴、軽度精神発達障害があり、20代に水俣病と認定。6人兄弟の末子として誕生。症例が30代の時、父他界。母と三女は2年前より身体障害者施設へ入所。他兄弟とは交流がなく独居。外来リハ利用開始時、WAIS‐RにてVIQ:53、PIQ:66、IQ:57。行動は自己中心的で性急さが目立ち、集団での場と活動の共有が困難で他者とのコミュニケーションスキルの低下が目立った。
【外来リハ利用状況】
H18.8より利用開始。週1~2回(約3時間/回)。
【介入と行動変容の経過】
第1期(利用開始時H18.8~):興味の転導が激しく、行動に粗雑さや性急さが見られた。作業中にリハ室を離れる、公共の面前で放尿するといった行動が見られ、他者を意識した行動が欠如していた。交流は二者関係で一方的であり、地域に相談者はいないようであった。スタッフは症例をあるがまま受け入れ、相談相手となった。また、不快な行動に対し一緒に考え、適切な行動は褒めるようにした。第2期(第三者との交流の芽生えH19.1~):他者との場の共有が可能になりリハ室を離れなくなった。スタッフは、用具等の準備や片付けを共に行い、他利用者と同じ作品を作る体験も徐々に取り入れた。他利用者との交流が芽生え、三者関係での相互の交流が可能となった。第3期(集団との交流の芽生えH19.03~):次の作業工程へ他者と同時に移るために待つという行動が見られ、性急さが軽減した。集団との交流が可能となり、居住地での交流の拡大を示す内容の話が多くなった。第4期(社会適応の芽生えH19.11~):作業について助言を求め問題解決を図るようになった。社会生活上の相談が多くなり、問題解決の方法を求めるようになった。スタッフは、問題の解決方法を症例と共に探し、時には付き添い、症例のコミュニケーション面をサポートした。症例は地域に相談者を求め活用できるようになった。
【考察】
症例の関心が二者関係から三者関係、そして集団へと向けられるようになった各時期、常にスタッフが介入している。新しい交流の開始場面で、スタッフが必ず介入していたことがその場に居場所を作り出し、あるがままに受け入れられるという安心感を与えていたと考えられる。社会参加が少ないことによる社会生活スキルの低下は、他者との交流を困難にする。個人の行動に専門的な視点で寄り添う介入は、症例の社会的障壁を軽減し、社会適応行動の変容に有用であった。
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奥村 亜沙美, 立野 伸一, 新堀 裕, 中島 伸一, 外牧 潤
セッションID: 013
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】
リハビリテーション部門は、平成18年度の大幅な診療報酬改定により、診療体系から根本的な変革がなされ、特に心臓リハビリテーション(以下、心リハ)については、施設基準の緩和に加えて「心大血管疾患リハビリテーション料」として対象疾患に末梢動脈性疾患(PAD)、大動脈解離、大動脈瘤、心不全(以下、新対象疾患)が新たに盛り込まれた。当院では、平成7年から心リハを導入、平成10年より保険診療開始して10年が経過した。
今回、過去10年間における心リハの総合評価を行い、現状や傾向を把握し、今後の方向性について検討してみた。
【検討項目】
1.心リハの実績:対象患者数、対象疾患、施行件数の年次推移、転帰。2.心リハの有効性:監視型から非監視型心リハ継続における運動耐容能の変化。3.新対象疾患への対応の3点を挙げた。
【結 果 】
1.心リハの実績:対象患者数3173名、対象疾患内訳:急性心筋梗塞1488名、狭心症34名、心不全471名、開心術後932名、大動脈解離101名、大動脈瘤76名、PAD10名、施行件数は26057件、診療報酬13044390点であった。中でも心不全においては平成18年度から増加が著しく、再入院率・1回入院日数も他の循環器疾患に比べて多い傾向にあり、転帰についても心不全、大血管術後は転院傾向であった。
2.心リハの有効性:開心術後の退院後非監視型心リハ継続77症例の約3ヶ月の運動耐容能向上を確認した。
3.新対象疾患への対応:PADにおいてはTASCII(Trans-Atlantic Inter-Society Consensus 2007)に基づく当院独自のPADハビリテーションとそのプロトコールを作成した。大動脈解離・大動脈瘤においてはクリティカルパスにリハビリテーションを組み込んだ。心不全においては入院中教育及び、退院後の心臓リハビリテーション教室参加など患者教育を中心に行い、受講率は30%であった。
【 総 括 】
当院心リハの実績と短期的有効性を確認した。近年の傾向としては、心不全症例数の増加及び心不全症例の再入院などが特徴であり、今後の対策としては、心不全発症リスクの高い患者に対し、入院中または心リハ教室に於ける、初回心不全発症予防を重点とした包括的心リハの指導徹底が重要と思われた。また、長期的予後改善を図るには、病診連携に伴う後方支援病院(通院型、回復期入院型病院)での心リハ継続やNPO法人の施設開設など、今後の環境整備へ期待するところである。
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作業が生活全般に変化をもたらした一症例
東谷 成晃, 入船 友紀子, 都甲 幹太, 中村 智子, 辻 泰子
セッションID: 014
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】
60代女性が癌治療の為に入院。ADL改善目的でOT開始するが癌性疼痛の増強及び精神的低下等により生活範囲の拡大がみられず、ベッド上中心の生活となった。この症例に対し作業療法の一環として「千羽鶴作り」の作業活動を提供・支援したことがきっかけとなり、症例の心・身体に変化が見られ、QOL向上に繋げることができたので報告する。
【全体経過】
10月中旬入院。3病日目:ST開始。 28病日目:OT開始。44病日目:折り紙開始。47病日目:千羽鶴作成開始・自室内環境変更。74病日目:外出。90病日目:千羽鶴完成。101病日目:自宅訪問。105病日目:外泊。116病日目:自宅退院。また入院中に合計59回のradiation(各部位)と合計7回の化学療法実施。
【症例の変化・考察】
第1期:折り紙導入前(介入当初)
入院当初、元々独歩自立が癌性疼痛によりベッド上生活となり、現病についての話題が大半を占め、自己の出来ないことに目が向くようになっていた。
第2期:折り紙導入時(介入から約2週)
自室内にて短時間で出来、馴染みある活動として「千羽鶴」作成を開始。広告紙や用紙準備・一日の折る羽数は患者自身で決め、2~3日の完成分毎にOTが飾り付けを行い自室内に飾った。また自室内の環境を座位活動や移動がしやすいように変更した。
第3期:心・身体の変化(介入から約4週)
「千羽鶴」作成で病態以外に目を向ける時間や、作業を通してスタッフや家族との関わりが増えた。また完成していく「千羽鶴」から満足感・達成感が得られると共に、他者から賞賛を受けた事で自己価値観の向上を認め、「癌治療きついけど千羽鶴が完成したら家に帰れるやろうか。」と発言内容にも変化が見られた。それに加え放射線や化学療法の治療効果もあり心理的苦痛の軽減や安心感が生まれたことで、院内を一人で散歩するなど生活範囲が拡大し徐々に生活習慣を取り戻していった。
第4期:家族の変化(介入から約8週)
作品を通しての会話が増え、家族が症例の姿や能力を知り得たことで共に喜びや満足感を経験でき、リハビリ以外の時間で院内での散歩や家族・親戚と一緒に外出・外泊するなど外への時間を増やすことが出来た。これらの動きが在宅復帰にも繋がり、「孫を抱っこしたい」という新たな目標を掲げて笑顔で退院となった。
【まとめ】
今回「千羽鶴」の余暇活動がきっかけとなりQOL向上から機能・能力の回復に繋がっていった。癌患者様へのリハビリには多面的な介入が必要であるが、作業活動を提供・支援することは患者様に目標ある生活を獲得させ、生活全般に変化をもたらす一助になると言える。
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~意識改善を目指して~
小出 将志
セッションID: 015
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】
今回、看介護部への介助指導として、動画における動作解析を可能としたソフトウェア、ダートフィッシュを用いて行った。より理解を得やすく、実践場面へ汎化していく為には、どの様な介助指導を行うべきか実施、検討したので考察を加え、ここに報告する。
【方法】
今回は、食事姿勢及び移乗動作を対象に動画を撮影。その動画をダートフィッシュで加工し、介助指導を実施した。実施後、効果を見る為にアンケートで、意識調査を行った。
【結果及び考察】
1)食事姿勢
車椅子座位と椅子座位において皿から口元までの上肢の移動距離を比較し、分析を行った。結果、椅子座位の方が、移動距離が短く、口元までの 操作時間が短いこと、食べこぼしの確立が低くなることが示唆された。こ のことから、椅子で正しい姿勢で食事を行う事が食べこぼしの軽減、所要 時間の短縮、引いては介助時間の短縮に繋がるということを示した。
2)移乗動作
動画は3パターン作製した。1つ目は介護スタッフの移乗介助動作、2つ目 はリハビリスタッフの移乗介助動作、3つ目に双方が行っている様子を同時 に再生したものを作製した。それを用いて移乗介助時のポイントについて説明を行った。基底面を広く取ること、重心を落とし自分の体重を上手く活用すること、予め介助開始時と終了時の位置関係をイメージして介助に臨むことを提示した。正しい知識を持って介助にあたることが介助量の軽減、介助時間の短縮に繋がることを示した。
3)アンケート内容
以下の3点についてYES、NO形式で回答後、その様に感じた理由についても答えて頂いた。
・椅子座位で食事をとることの重要性を感じたか
・移乗に対する意識の改善度
・動画を用いた介助指導について
結果、全ての職員がYESと答え、その理由についても「動画で良い点と悪 い点が同時に比較できて解り易かった」など良い反応が得られた。よって、良い点と悪い点を同画面上で示すことにより、より楽な姿勢で介助に臨むことの利点を明確化できたものと考える。また、動画によって介助者側が重心の位置や基底面の広さを認識することで利用者の能力を引き出し、スムーズな動作介助に繋がるのではないかと考える。
今回の様に、動画で実際に行った動作の比較を分析して提示することは、ポイントがより明確化され、理解し易くなるものと考えられる。今回得た結果を今後の業務に生かし、より実践的な介助の実施及びその継続に繋げていきたい。
【まとめ】
・動画での介助指導は、理解を得易く有効である。
・良い点と悪い点を同画面で示すことにより、違いを明確化できる。
・今回の介助指導の内容を、実践場面で継続していく為にはどうすべきかが今後の課題である。
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田口 光, 大西 芳輝
セッションID: 016
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】
今回,両側慢性硬膜下血腫術後に精神症状を呈した高齢患者の1症例を報告する.なお,本研究はインフォームド・コンセントの元,個人情報保護を含めた倫理的承認を得たものである.
【症例】
79歳,男性,職業(畜産業).
現病歴:X年5月交通事故(骨盤骨折に対し保存的加療),6月B病院へ転院(左坐骨・総腓骨神経麻痺にSLB作成).7月11日C病院へ転院(両側慢性硬膜下血腫除去術施行).8月1日B病院へ再入院,8月18日患者希望で自宅へ.8月21日在宅介護困難から当院入院.
入院時所見:意識レベル清明(HDS-R 24点).MMT中殿筋3.寝返り~端座位自立.立ち上がり~立位保持は手すり等にて可能,歩行はSLBと歩行器にて一部介助レベル(日中は車椅子),排泄はトイレ見守り,その他ADLでは入浴において一部介助.
【治療および経過】
入院5日目「公衆電話を使えない!」を契機に精神的落ち込み,不定愁訴や不眠,小声となる.リハの希望は高く,筋力増強・歩行器歩行中心に実施するが,「血圧は?」等心気的発言やトイレ動作等への介助要求増加.精査目的でC病院へコンサルテーション(「術後経過は良好、抑うつ状態」).抑うつ状態に対し,患者希望を第一優先と方針を統一. 10月下旬SLB歩行器歩行見守りにて100m程度可能と運動機能向上を認めるも,表情硬く,装具やブレーキ忘れ等危険な場面増加. 11月上旬精神科医へコンサルテーション(「記憶障害の認識は全く無く,抑うつ状態は改善傾向」).その後も時間の見当識不良,妻へ攻撃的な発言,居室内転倒など不安定な為,リハの方針を積極的心理介入とした.また,心理指標の一つとして唾液アミラーゼ活性値(ニプロ社製ココロメーター使用)を測定した.介入後2週間の結果より,安静時唾液アミラーゼ活性高値を確認,リラクゼーションを目標に行動分析を行った所,歩行練習後唾液アミラーゼ活性低値を確認.歩行練習を核に(内的・外的)行動因子を特定し,歩行練習を土台に会話誘導法や混乱誘導法を併用しながら認知行動療法開始.生活歴などキーワードにて自己への気づきを誘導.心理介入と運動療法を同時施行し,12月歩行器歩行から4点杖歩行へ,さらに1月T字杖歩行軽介助~見守りレベルに機能改善.運動機能改善に伴い精神的安定傾向(妻へ労いの言葉をかける場面あり).心身機能安定をうけ,2月在宅復帰となる.
【考察】
種々の精神症状によりリハビリテーション実施に難渋したが,心理的イベントを契機に心身機能低下を呈したという事実に立ち返り,ストレス耐性の再構築という観点から心理的・身体的介入により,最終的には目標とした在宅復帰に至ったものと考える.
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短時間通所リハへ移行して
平川 樹, 大石 賢, 横田 悠介, 田邊 花倫, 高柳 公司
セッションID: 017
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】
当院では、2006年4月より予防給付が開始とともに6~8時間の通所リハから、個別及び集中的なリハビリテーション(以下リハ)の提供、回復期から維持期へのスムーズな移行を目標に、短時間(3~4時間)の通所リハを開設した。内容としては、利用者に応じた個別プログラムの作成を行い、全対象者に個別リハの実施、マシントレーニング、集団体操、物理療法等を提供している。短時間通所リハを開始し約3年が経過した中で、以前の通所リハと比較すると身体機能面を重視する対象者の意見が多いように感じる。そこで、以前の6~8時間の通所リハと現在の短時間通所リハの介護度と身体機能等を比較・検討した。その中で若干の知見を得たので報告する。
【対象】
2006年3月時点で当院6~8時間の通所リハ(以下A群)を利用し、身体機能測定が可能であった42名。
2009年4月時点で当院短時間の通所リハ(以下B群)を利用し、身体機能測定が可能であった45名。
【方法】
年齢、性別、BMI、介護度、歩行速度、握力、Timed up&go test (以下TUGT)、片脚立ち、 膝伸展筋力を調査し、比較・検討した。
【結果・考察】
・対象者の内訳として、A群では男性20名、女性22名、平均年齢81.2±8.16歳であった。B群では男性24名、女性21名、平均年齢73.2±11.67歳であった。
また、介護度ではA群、要支援:3名、要介護1:18名、要介護2:8名、要介護3:10名、要介護4:3名で、9割以上が要介護者であった。B群では、要支援1:14名、要支援2:12名、要介護1:9名、要介護2:7名、要介護3:2名、要介護4:1名で、約6割が要支援者であった。これらを比較すると、B群はA群に比べ年齢は若く介護度は軽度であった(P<0.05)。これは、B群では食事・入浴サービスがなく運動機能面のプログラムが中心であるため、年齢が若く軽介護度の利用者が多いのではないかと考える。
・A群とB群の身体機能を比較すると、歩行速度、握力、TUGTでは有意差は見られなかった。片脚立ち、膝伸展筋力ではA群に比べB群が有意に高値を示した(P<0.05)。これは、B群がA群に比べ年齢が若く介護度が軽度である事も一つの要因と考えられる。さらに、A群との違いとして個々に応じたプログラムの作成を行い、全対象者への個別リハ・パワーリハ等を実施していることもこれらの差に繋がったのではないかと考える。
【終わりに】
介護給付の開始と供に、維持期のリハビリテーションはより介護保険へ移行・促進されていると感じる。利用者像としても、年齢が若い傾向で軽介護度の利用者が多いことから、身体機能面の重視を求めることが多い。その中で、当院短時間通所リハは、集中的な身体機能面への取り組みが行なわれ、ニーズに合ったリハビリテーションが提供でき有効であると考える。
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退院後の日常生活動作向上に着目して
中薮 誠, 宮崎 一臣, 隈井 圭輔, 今任 洋就, 児玉 大志
セッションID: 018
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【目的】
当院は回復期リハビリテーション病棟退院直後から訪問リハビリを実施している。 しかし、退院時に訪問リハビリ導入を進める指標がなく院内カンファレンスやリハ科内症例検討会にて導入を進めている。そこでどのようなケースが退院直後から日常生活動作(以下ADL)が向上するのか分析する事で退院時に訪問リハビリ導入を進める1つの指標になるのではと考え検討した。
【方法】
対象は平成19年6月~平成21年3月に当院回復期病棟退院直後より訪問リハ開始となった34名。そのうちFunctional Independence Measure(以下FIM)等の有効な情報が得られた19名(男性5名、女性14名、平均年齢79.4±13.4歳、運動器疾患15名、脳血管疾患4名)とした。方法は退院時院内FIMと退院1ヶ月後FIMの各項目にて以下の基準で検討した。1:独居(日中独居含む)と同居。2:認知症の有無として認知症群(Mini Mental State Examination(以下MMSE)21点以下)と正常群(MMSE21点以上)。3:運動器疾患と脳血管疾患。
【結果】
1:独居群では清拭・上衣更衣・下衣更衣・トイレ動作・ベッド移乗・トイレ移乗・移動にて有意差を認めた。同居群ではトイレ動作のみ有意差を認めた。2:認知症群では全ての項目で有意差を認めなかった。正常群ではトイレ動作・ベッド移乗・トイレ移乗・移動にて有意差を認めた。3:運動器疾患群ではトイレ動作・ベッド移乗・トイレ移乗・移動にて有意差を認めた。脳血管疾患群では全ての項目で有意差を認めなかった。
【考察】
結果から独居群の方がより多くの項目で有意にADLが向上した。これは日常動作への必要性が生じた際、ヘルパーや家族等の介助者が来るまでに待てない事や遠慮等により一人で実施している事からADLが拡大したと推測される。認知症については、やはり正常群の方に動作学習などの効果が高くADLが拡大したと推測される。疾患別では運動器疾患の方が麻痺等の身体制限が少なく上肢機能も良好であった事からADLが拡大したと推測される。
今回の調査より退院後ADLの拡大が予想される独居群・認知症のない群・運動器疾患群が退院直後から訪問リハビリ導入を進める指標の1つである事が伺えた。また退院後ADLの拡大により活動性が向上する事で転倒リスクが増す事が予想される。そこで退院時の環境設定をカンファレンスで把握し退院直後からの訪問リハビリによる環境調整や動作指導を適宜実施する事で、転倒のリスクを減少させる事が重要であると再認識した。今後は退院後ADLの維持・訪問リハビリ以外の介護サービスの有無・訪問リハビリ未導入群との比較等を検討し訪問リハビリの効果を研究課題とする。
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神川 大輔, 川本 愛一郎, 浜田 桂太朗, 上城 智美, 増田 ゆい, 吉屋 光晴, 島田 美緒
セッションID: 019
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】
通所介護施設で働く職員は施設での利用者の動きを把握し日々の仕事に励んでいる。しかし、在宅での動きや環境を把握することは難しい。
今回、当施設の訪問看護(訪問リハビリ)に同行し、在宅での動きやリハビリ、環境などを見る機会を持った。結果、利用者への視点や、介護・看護の変化が見られたため若干の考察を加え報告する
【対象・内容】
対象:当施設、看護師(2名)介護福祉士(5名)介護職(4名)
方法:平成21年3月20日~4月1日各職員の担当利用者を中心に当施設の訪問看護、デイサービスを利用されている利用者を主な対象とし、1職員当たり2件~3件訪問看護(訪問リハビリ)に同行した。その後、約2週間後にアンケートを実施し内容を集約した。
【結果】アンケートより抜粋
・利用者についての気付き、感じたこと
自宅での表情の違いや環境を知ることができた。
・自身についての気づき、感じたこと
自宅での様子やご家族との過ごし方などの家庭環境も知った上での関わりが必要だと思った。
今まで、利用者への関わりが足りなかったと思った
・同行訪問後、今の仕事に役立っていること
自宅へ行ったことで会話の内容が広がった
自宅での動きを見ることができ、デイでの目標が明確になった。
その方の個人史を見ることができ、それを大切に関わっていこうと思った。
【まとめ・考察】
アンケートの内容を要約すると、利用者の在宅での過し方・表情、生活環境・家族関係、個人史などを知ることできたという感想が多かった。実際の現場では会話の幅が広がり、関係作りが円滑に行えるようになった。また、個人史を知ることで、その方に合った話題・活動を提供することができ、介護サービス計画の目標設定もより具体化することができたなどの成果があった。
今回の訪問リハビリ同行により、これまでの関わりがサービス提供時間の中だけの動き、施設環境だけでの動きを捉えていたものが一日の生活の一部としてデイサービスの時間を捉えることができたのではないかと考える。また、訪問リハビリとの情報の共有化を強化する機会になった。今後もこのような機会を設け、サービスの質を向上をしていく必要があると考える。
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有村 圭司, 高柳 公司, 大石 賢, 平川 樹, 横田 悠介, 田邊 花倫
セッションID: 020
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
フリー
【はじめに】
当院の通所リハビリテーション(以下通所リハ)は3~4時間の短時間の提供時間で実施しており、利用者に応じた個別プログラムの作成を行い、全対象者に個別リハの実施、マシントレーニング、集団体操、物理療法等を提供している。今回、通所リハ利用者を対象に身体機能について経過を調査したので、若干の知見を加えて報告する。
【対象・方法】
対象は、当院通所リハを利用中で、身体機能を測定した利用者32名(男性21名、女性11名)、平均年齢71.7±12.4歳であった。調査・測定項目は年齢、性別、BMI、介護度、HSCS-30テスト、握力、膝伸展筋力、開眼片脚立ち、Timed up & go test(以下TUGテスト)、5m歩行時間とした。HSCS-30テストは、42cmの高さの椅子に座り、利き手(麻痺がある者は非麻痺側)で手すりを支持して、30秒間の立ち上がり回数を測定した。膝伸展筋力は右下肢(麻痺がある者は非麻痺側)の等尺性膝伸展力を測定し、また、TUGテスト、5m歩行時間の測定では、普段使用している装具や杖などの使用を許可した。介護度の変化により、向上群・維持群・低下群の3群に分け、それぞれの項目において初回評価、3ヶ月後の評価、6ヶ月後の評価を比較した。
【結果】
対象者全体を期間内での介護度の変化により群分けしたところ、向上群16名(男性10名・女性6名、平均年齢71.8±14.8歳)、維持群10名(男性7名・女性3名、平均年齢70.8±11.6歳)、低下群6名(男性4名・女性2名、平均年齢72.8±7.1歳)であった。
向上群では、膝伸展筋力において初回評価の平均値(25.3±10.6kg)と3ヶ月後の評価の平均値(28.6±12.2kg)で有意な向上がみられ(p<0.05)、3ヶ月後の評価と6ヶ月後の評価の平均値(30.2±13.7kg)では有意な向上が見られなかった(p=0.352)。その他の項目では有意差は見られなかった。
維持群において、膝伸展筋力で初回評価の平均値(32.6±17.6kg)と6ヶ月後の評価の平均値(37.2±20.5kg)の間で有意な向上が見られた(p<0.05)。
低下群において、HSCS-30テストで初回評価の平均値(11.3±3.2回)と6ヶ月後の評価の平均値(8.7±4.8回)の間では低下する傾向であった(p=0.078)。
【考察】
今回の調査結果より、当院通所リハ利用者における介護度の変化にともなう身体機能の特徴として、向上群では短期間での膝伸展筋力の向上を認め、維持群でも緩徐ではあるが、向上が見られていることが示唆された。
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外肛門括約筋強化の一考察
槌野 正裕, 荒川 広宣, 中島 みどり, 山下 佳代, 高野 正太, 高野 正博
セッションID: 021
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【背景】
アブラハム・マズローは,人間の基本的欲求を低次元から,1.生理的欲求,2.安全欲求,3.愛情欲求,4.尊敬欲求,5.自己実現欲求と5段階に分類している.生きていくうえで欠かすことの出来ない生理的欲求には,食欲,性欲,睡眠欲,排泄欲などが含まれている.リハビリテーション医療分野では,排泄欲に対する機能訓練は皆無である.当院は大腸肛門病を専門に扱っており,理学療法士は大腸癌術後の離床促進による呼吸器合併症予防と,排泄の機能障害に対しての直腸肛門機能訓練を行っている.
今回,直腸肛門機能障害に対して取り組んだ,物理療法機器を用いての治療を報告する.なお,症例には当院倫理指針に則り患者への同意を得ている.
【症例紹介】
症例は,60代,男性,排便時出血と肛門痛を主訴として来院.直腸肛門機能検査では,外肛門括約筋筋電図収縮力(S/R)1.5,その他問題なし.外肛門括約筋の収縮に対するバイオフィードバック療法を実施したが,筋の単独収縮が出来ず,主治医より治療を依頼された.括約筋を収縮させようとしてもS/Rに変化は無く,逆に息むような奇異収縮を認めた.腰仙椎MRI画像では腰椎の過度な前彎と,代償的な骨盤後傾を認めた.
【治療方法と経過】
まず,骨盤帯の前傾を促すため,骨盤前後傾運動を指導した.骨盤帯の運動が可能となってからは,米国Chattanooga社製,Intelect Advance Combo 2762ccを用い,電流は筋電図誘発電気刺激(Electromyography-Triggered Neuromuscular Stimulation:ETMS)を使用した.電極パットを尾骨先端の肛門縁とS2~4仙骨部に貼付し,アースを臀部に貼付した.最初の訓練姿勢は左下側臥位で,骨盤帯は前傾位とした.治療開始4週間を経過した時点で括約筋の収縮は出来るようになってきたが,弛緩が上手く出来なかった.6週後,外肛門括約筋の収縮と弛緩をコントロール出来るようになった.収縮方法を学習したので,抗重力位での訓練方法を指導し,更に動的な訓練を行った.退院時S/R比は2.6へ上昇し,肛門痛も軽快した.
【考察】
大腸肛門の専門病院として,直腸肛門機能障害に対するバイオフィードバック療法を行っているが,視覚を用いたフィードバックのみでは患者自身の感覚の理解が得がたい症例に対して,感覚と視覚を利用した治療を行った.外肛門括約筋は収縮しても目に見えないため,視覚を用いたバイオフィードバック療法は有効な治療手段である.しかし,感覚入力も同時に行うことで収縮感覚を理解し易くなったことが考えられる.また,訓練姿勢に関しても以前の研究結果を基に骨盤帯を軽度前傾位へ誘導して取り組んだ.外肛門括約筋を含む骨盤底筋群が筋収縮を行いやすいアライメントに調整したことが治療効果を高めたと考える.
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田中 徹志, 川崎 伸二, 平野 和也, 上野 美紀
セッションID: 022
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【目的】
仙骨部位の効率的な除圧方法をコメディカルにフィードバックする為、背臥位時の大腿骨と水平面のなす角度(Femur-Horizontal Angle:以下FH角/単位:°)と仙骨圧縮応力値(Sacral Compression Stress:以下SCS値/単位:mmHg)の関係性を検討した。
【対象及び方法】
対象は、健常者40名。(男性6名、女性34名)被験者は簡易式マット(WESCO社製)上に背臥位となり仙骨最突出部に、簡易式体圧・ずれ力同時測定器PREDIA(molten社製)を設置。ずれ力(Newton:以下N値/単位:N)を4N以下に設定し、FH角0°、5°、10°、20°時の各SCS値を計測。この際、下腿は水平面に平行となるようにした。各FH角の平均SCS値に差があるかを検証するために、統計処理Excel(statcel2)を用いて一元配置分散分析を行い、有意水準は1%未満とした。
【結果】
平均SCS値は、各FH角において0°:83.9mmHg、5°:80.4mmHg、10°:96.3mmHg、20°:111.4mmHgという結果であった。一元配置分散分析の結果、P<0.01で4群間の平均SCS値に差がないとした帰無仮説は棄却された。
【考察】
FH角5°のSCS値が最も小さくなる要因の一つとして仙骨角度の変化が考えられる。MRI(磁気共鳴画像)による背臥位時の大腿骨と水平面のなす角度の解析を行った竹井仁等1)によると、骨盤と仙骨の後傾は連動しているという報告を行っている。さらに、FH角0°、15°、30°、45°、60°での仙骨角度を計測しているが、屈曲初期で仙骨角は前傾し、その後、仙骨角15°~30°では後傾に転じると報告1)している。これらを考慮すると、骨盤の前傾により仙骨角も前傾し、仙骨最突出部より比較的平行面である仙骨下部・尾骨に圧縮応力が移行し仙骨突出部の圧縮応力が分散したのではないかと考えられる。また前傾することで、大殿筋等の軟部組織の接地面積が拡大し、圧縮応力の分散に繋がったことも原因の一つとして考えられる。以上の理由により、FH角5°では仙骨最突出部への圧縮応力が分散しSCS値の減少という結果につながったと思われる。FH角10°、20°ではSCS値は有意に上昇した。これは仙骨が後傾し、臀部等に分散していた圧縮応力が仙骨部へ集中した結果、仙骨最突出部への圧縮応力が増大したと考えられる。
1)引用文献:竹井仁他:理学療法学 Vol.33, No.7 (20061220) pp. 363-369
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三次元CT画像を用いて
荒木 秀明, 武田 雅史, 猪田 健太郎, 赤川 精彦, 太田 陽介, 廣瀬 泰之, 吉富 公昭, 三村 倫子, 末次 康平, 野中 宗宏, ...
セッションID: 023
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【目的】
能動的下肢伸展挙上テスト(以下ASLR)は当初、産後女性における体幹と下肢間での効果的荷重伝達機能の検査として報告され、その後多くの追試が行われ、妥当性が報告されている。その理論的背景として、腰部-骨盤帯-股関節構成体が機能的に最適である場合、下肢をベッドから挙上する際なんら努力も要せず、また下肢や胸郭との相対的位置(屈曲、伸展、側屈、回旋)にも変化がないとされている。しかし、運動学的背景としての報告は三次元動作解析器を用いた骨盤と体幹、あるいは骨盤と下肢の関連性に関するものがほとんどであり、仙腸関節の機能に着目した寛骨と仙骨の相対的位置に言及し、画像から捉え検討した報告は未だない。今回、ASLRテストにおいて陽性と認められた症例に対して三次元CT画像を用いて、寛骨と仙骨と相対的位置関係を検討し、興味深い知見が得られたので報告する。
【対象および方法】
罹病期間が3か月以上の慢性腰痛症で、ASLRテストにて片側性に陽性を呈する5例を対象とした。内訳は男性3例、女性2例、平均年齢が32.3歳であった。除外診断項目として、明らかな神経学的脱落所見を呈するもの、外科的治療施行後、著明な脊柱の変形を有する症例とした。方法はHITACHI社製Multi slice CT ECLOSを用いて撮影を行った。測定肢位は、1)背臥位、2)両側下肢伸展位から陰性側下肢を膝関節伸展位で踵をベッドから30cm持ち上げた肢位(以下、陰性下肢)、3) 両側下肢伸展位から陽性側下肢を膝関節伸展位で踵をベッドから30cm持ち上げた肢位(以下、陽性下肢)。撮影画像からの測定項目は寛骨と仙骨の相対的位置関係を確認できるように、矢状面画像で上前腸骨棘(以下ASIS)と上後腸骨棘(以下PSIS)を結んだ線と仙骨上面の接線のなす角度、水平面画像で正中矢状軸と寛骨のなす角度を測定した。なお、対象者には事前に十分な説明を行い、同意を得た。
【結果】
全例とも性差に関係なく、同様に以下の傾向が認められた。1)矢状面画像では陰性下肢が開始肢位とほとんど変化がなかったものの、陽性下肢では寛骨の後方回旋と仙骨の前傾が有意(p<0.05)に生じていた。2)水平面画像でも陰性下肢は開始肢位とほとんど変化がなかった。陽性下肢は寛骨の正中矢状軸との開角には変化が認められなかったが、骨盤輪自体の挙上下肢側への回旋が認められた(有意差なし)。
【考察】
本論文はASLRテストで片側性に陽性を呈する症例に対して、骨盤内の動きを画像的に検討した初めての報告である。ASLRテストで陽性を呈する症例では筋による固定が効果的に作用せず、そのため寛骨の後方回旋、仙骨の前傾(仙骨nutation)という仙腸関節のlocking機序を代用しているものと示唆された。
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村上 雅哉, 福田 文雄
セッションID: 024
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】
大腿骨近位部骨折患者において術後早期荷重が指示される場合が多い.しかし、荷重を行うにあたって一番の阻害因子として疼痛が挙げられる.特にγ‐nail術後は早期荷重開始後、疼痛の訴えが強く術後1週経過しても訴えが持続する場合が多い.本研究の目的は、大腿骨近位部骨折でγ‐nailと人工骨頭置換術を実施した患者の術後1週の荷重時痛について違いがあるか否かを明らかにすることである.
【対象・方法】
2007.8.1~2009.1.31までに当院入院し、明らかな認知症を有する患者を除外し、今回の研究の同意が得られた患者22名(γ‐nail 9名、人工骨頭置換術13名)とした.平均年齢76.8±9.1歳、疼痛評価は、簡易的なNumerical Rating Scale(以下NRS)を用いた.NRSとは患者に口頭にて聴取し、その場にスケールがなくても簡易的に評価できる評価法である.術後1週での値を聴取し、Wilcoxonの検定により比較し有意水準は5%未満とした.
【結果】
γ‐nail群の術後1週のNRSは5.7±1.4、これに対し人工骨頭置換術群の術後1週のNRSは2.0±1.4であった.これら2つの関係において有意な相関関係(P<0.05)が認められた.
【考察】
高齢者の大腿骨近位部骨折後の理学療法は、術後せん妄・認知症・排尿障害などの二次的合併症を予防するため、早期離床・荷重が推奨さる.γ‐nail術後も例外でなく、ガイドラインによると「固定性良好であれば早期荷重訓練を推奨する」がエビデンスではGrade1となっている.当院において、大腿骨近位部骨折の症例は可及的早期に離床・荷重・歩行を行っている.しかし、今回の調査からγ‐nail術を行った場合は、人工骨頭置換術を施行した患者に比べ有意に疼痛の訴えが強いことが示唆された.骨折部の痛みの原因として、手術創部痛の他に、骨折部の安定性が考えられる.人工骨頭の場合、骨折部は切除されその代わりに大腿骨髄内にインプラントが挿入されるため骨折部の痛みはなく、主に手術による創部痛がメインと考えられる.一方γ‐nailの場合、骨折片を骨接合しているとはいえ、骨片間は不安定な場合があり、特に不安定型骨折の場合などテレスコーピングし骨折部が安定化するまで骨折部痛遅延が考えられる.早期荷重は術後成績がよいというエビデンスはないとされている.すなわち、二次的合併症を予防する早期離床・荷重・歩行を行う必要性はあるが、歩行能力の回復を目的とする無理な理学療法は痛みを助長させる可能性がある.したがって、早期荷重・歩行訓練を許可された場合であっても、二次的合併症の予防を目的とする理学療法を行うことが肝要である.
【まとめ】
大腿骨近位部骨折における術後1週の荷重時痛は、γ‐nailの方が人工骨頭置換術に比べ疼痛が強かった.
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諸正 史代, 大平 貢一郎
セッションID: 025
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【目的】
書道は、毛筆を使って文字の美を表そうとする東洋の造形芸術である。習字と違い、文字の習得を目的とせず、個性を表現するものとされている。今回、書道教室に参加する10名のうち、活動性の乏しい2名において自発的な行動変化や生活の活性化(行動変容)が見られたので、若干の考察を加え報告する。
【方法】
事例は、閉じこもりや臥床傾向のある入院患者2名。A氏、88歳女性。抑うつ神経症。FIM105点、車椅子駆動可。臥床している事が多く、依存的かつ悲観的。作業活動においては拒否があった。標準意欲評価法の中の日常生活行動評価(以下行動評価)は20点であった。B氏、94歳女性。腰椎圧迫骨折・脳梗塞。FIM107点、車椅子駆動可。リハビリ拒否があり、年齢を理由にどの作業活動も受け入れない状況にあった。難聴で攻撃的な発言が多く、閉じこもり傾向であった。行動評価は16点であった。教室の開催は、週1回1時間半のセミクローズドで行った。まず本人が手本を選択し、自由に書いてもらった作品を元にコミュニケーションをとりながら、筆者が朱液での添削を行った。さらに毎週、リハ室や病棟廊下へ作品を展示し、その後の作品は本人に綴ってもらう事とした。
尚、今回の対象者2名には書面による説明を行い、署名による同意を得ている。
【結果】
A氏は、導入3ヵ月後には自ら時間前に起き、準備をする様になり、FIMが109点(移乗・排泄が向上)、行動評価は9点となった。B氏は、導入1ヵ月後、徐々に攻撃的発言が減少、A氏と共に自ら車椅子駆動する様になり、FIMが110点(移動・社会的交流が向上)、行動評価は10点となった。両者とも参加者間同士で小筆を貸しあったり、相手の字を見て話をしたり等、教室内での相互理解や交流が生まれる様子が観察された。また書道がない他の日には、それぞれが部屋から出て、作品を見に行く、家族を案内して話をする等、自主的行動も見られる様になった。リハビリ場面でも作品の鑑賞目的で歩行され、他の作業活動への興味や積極性が見られ始めた。
【考察】
吉川(2005.11)は「対象者の人生や生活の中には、どんな作業があるかを知ることから、作業療法を始める必要がある」と述べている。導入時、高齢者にとって筆で字を書く、という作業を身近で馴染みがあった事と捉え、作品化(目標)した事が、自主的な活動を促すきっかけになったと考える。書道の芸術性(個性をだすもの)が自己を表現する事となり、筆者による話しかけ(聴覚的)や添削作品や展示(視覚的)のフィードバックによって自信の増進につながったと考える。書道という一連の作業活動を通して自己効力感が高まり、意欲が向上し、自主行動や他者交流、コミュニケーション増加や他の作業活動への興味や積極性へとつながり、生活の活性化、リハビリへの意欲の高揚が見られ、閉じこもりや臥床傾向が減少したと考える。
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~ スムーズに品物を探すためには ~
黒木 俊光, 藤川 努
セッションID: 026
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】
買い物は、衣食住の全てに関係し、在宅での生活を行う上で非常に重要な活動である。しかし、長期における当院ストレスケア(精神科)入院患者は、買い物に対し不安を訴える者が多い。今回、買い物の不安な要素の一つと考えられる「品物をスムーズに探す」ことに着目し検査を行い、若干の知見を得たのでここに報告する。
【方法】
次の3つの検査を行った。
(1)実地検査とし、スーパーで陳列してある品物の中から、メモ(同じ種別が続かないように配慮)を見ながら15品目を探し出す課題(制限時間20分)
(2)品物の写真50枚を10種の種別に分ける課題(制限時間10分)
(3)スーパーの新聞折り込みチラシより(1)と同じ様にメモを見ながら15品目を探し出す課題(制限時間10分)
【対象者】
当院の活動プログラムの社会生活トレーニングに参加している開放病棟入院患者6名。内訳は、男性2名(器質性人格障害1名、アルコール精神病1名)、女性4名(統合失調症4名)。平均年齢60.7±16歳。平均在院年数15年11ヶ月。また、全員、疾病からくる明らかな精神症状による行動化などは認められていない。
【結果】
(1)では、時間内で全て探すことが出来た者は3名であった。探し方として、一つの品物を見つけるとメモを確認し、同じ売り場にある別の品物(野菜・果物は15品目中5品)を探す傾向が見られた。逆に、見つけることが出来なかった者3名は、メモを見ながら一つの品物を探し歩き、見つけた後も同じ売り場にある別の品物には気が付かないようであった。(2)では、時間内に出来た者は2名で、品物分類の正解率は96%と84%であった。時間外になった者の内1名は、25枚しか分類できなかったが、その中での正解率は96%であった。他の3名は、正解率60%以下であり、(1)で品物を見つけることが出来なかった者と同一であった。(3)では、時間内で探せた者は3名であり、メモとチラシを見比べながら探していた。時間外になった患者は、(1)と同様に1つの品物を探しており、チラシの裏表を何度も見返していた。(1)から(3)の検査全てにおいて、時間内で出来た者は同一者であり、統合失調症の2名であった。
【考察】
結果より、品物をスムーズに探すには「探す品物の種別が分かる」ことが重要ではないかと考えられる。また、今回の検査でメモを利用した理由としては、ワーキングメモリ機能を利用するためであった。しかし、メモに書かれている品物が視線の中に入っても、今探している品物にしか注意を向けられず、気付かずにいた。これは、注意機能面や認知機能面、環境への適応能力なども影響していると考えられ、今後精査を行っていきたい。しかし、メモの記載の仕方を種別ごとにする、品物の種別分類が出来るようにするなど、今後のトレーニングに活かせる情報が得られたと考えている。
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広場恐怖を伴うパニック障害患者を通して
河野 智彦
セッションID: 027
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
フリー
【はじめに】
今回,パニック障害により社会参加・ADLが著しく制限され,廃用症候群と診断された症例を経験した.精神科病院等での積極的な治療を受けず,廃用的な能力低下に至った本症例に対して認知行動療法(以下,CBT)による個別訓練を導入した.経過を追う中で活動範囲の拡大,QOLの向上に繋がり自宅退院,外来フォローに至ったので報告する.
【症例紹介】
40歳代男性無職.30代の頃心療内科にてパニック障害と診断,以後薬物療法を行うも自己判断にて中断.H20年7月にトイレでパニック発作出現.その後強い不安の為外出せず.同年10月に再び浴室にてパニック発作出現,母親が救急車を呼び当院入院.翌日より作業療法介入.
【初期評価】
パニック症状(動悸,めまい感,死に対する恐怖,冷感),SDS(56),WHO-QOL26(2.38),シーハン不安尺度(72),FIM(90/126)
【訓練及び経過】
訓練開始時は自室より出る事や,運動に伴う心拍数上昇によるパニック症状の予期不安が強く,筋力訓練や歩行訓練が積極的に行えず.作業療法目標として,CBTによりパニック症状に対するセルフコントロール獲得を目的とし,回避行動縮小を目指した.具体的内容としてはCBT5つの要素である1)心理教育,2)呼吸訓練,3)暴露療法,4)継続的症状モニタリング,5)非機能的思考記録(以下,DTR)により認知再構築を図った.訓練開始後2週間までは入浴に対する不安が強く,介護職員による清拭のみであった.入浴場面に介入し,症例のペースを尊重しながら活動内容を進めた事で徐々に不安は小さくなり1ヶ月程度で自立可能となる.以降はDTRを導入し,不安に対して自己洞察が促されたことで,回避行動の縮小が認められ,屋外での活動も可能となる.訓練開始後2ヶ月程度で外泊訓練を導入,入院前に行っていた活動レベルの実行が可能となり,また症例が退院を意識し始めた事で就業についての意識が強くなった.訓練開始後3ヶ月で退院となり,日中は近所の小売店でボランティアとして1日2時間程度の職業的活動を行っている.作業療法では週1回の外来フォローを行い,退院後の活動についての報告を受けた.現在退院後1ヶ月で症例希望により2週間に1度のフォロー中である.
【結果】
パニック症状(なし),SDS(30),WHO-QOL26(3.73),シーハン不安尺度(13),FIM(126/126)
【考察】
運動や入浴など症例が不安を感じるような状況に反復して介入した.暴露療法にて段階的に活動レベルを進め,また認知の歪みについて洞察を促した事で認知再構築が行われ,活動範囲は拡大し広場恐怖は軽減しADL・QOLの向上に至ったと考えられる.一般病院では個別訓練が原則であるが、精神科病院等での集団訓練において治療効果の高いとされる精神科疾患に対し,一般病院でのCBTによる個別訓練は有効であった。
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集団を通して
堀 智一
セッションID: 028
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
フリー
【はじめに】
当院は熊本県北部に位置し、220床を有する単科の精神科病院である.昨年10月に新病棟が完成し5病棟となった.その内の1つにストレスケア病棟という女性専用の病棟がある.建設にあたり、演者はこの病棟の担当となり、作業療法プログラムとしてのストレスマネジメントグループの立ち上げに携わった.その後演者は病棟からデイケアへ異動になったが、デイケアで行っているストレスマネジメントについてここに報告する.
【対象】
診断名には関わらずストレスに興味があるデイケア利用者
【目的】
ストレスの対処法、自己認識や自己理解を高め、再発防止に繋がるよう、プログラムを作成した.
【方法】
司会がホワイトボードの前に立ち、司会から見てU字型に机をセッティングする.導入で自己紹介と今の気分を聴き、その後約束事の確認(プライバシーを守る、入退室自由、パスができる)を行う.また、ストレスに関する情報が多い中、自分の情報とプログラムの内容が違った際にはその場で流れを止めるのではなく、終了後にスタッフに尋ねるよう伝える.
内容は1回1時間、ストレスのABCDとヤクシンのABCDの計8回を1クールとして、繰り返し行っていくプログラムである.ストレスのAではストレスの概念、Bではコミュニケーションパターンを知る、Cではセルフトークを変える、Dではアサーションを行っている.ヤクシンのAでは気分障害を知る、Bでは再発サインを知る、Cでは主治医と情報を共有する方法、Dでは服薬の注意事項と副作用を行っている.
【考察】
集団で行う事により一人では浮かばないような色々な意見を聞くことができ、それを今後の考えに活かす事が出来るように考えている.
学会当日では現在行っているストレスマネジメントプログラムの紹介と若干の考察を加え、参加しているメンバーと意見交換が出来ればと考えている.
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~家庭用ゲーム機を用いて~
田崎 雅人
セッションID: 029
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【目的】
今回,長期入院の統合失調症患者に対する作業療法導入及び,家庭用ゲーム機を用いた対人交流・コミュニケーション能力へのアプローチを行った.そこで日々の活動場面より評価を実施し効果判定を行う事にした.
【対象】
50歳代・男性・統合失調症.入院より約16年間特に何の活動に参加する事もなく病棟生活を過ごしており,自己の要求・欲求以外の事に関する意欲の低下がある.また長期入院により対人交流・コミュニケーション能力の低下が見られる.
【方法】
作業療法導入より週3回(セミクローズドグループ)にて参加を開始し,週2回は自発的に活動を選択し行う創作活動,1回はスタッフが準備したレクリエーションを行う.家庭用ゲーム機導入後は,週1回のペースにて家庭用ゲーム機を用い対人交流・コミュニケーション能力へのアプローチを行い,他の2回に関しては上記の2つの活動を継続しH20.04~H21.03の期間にて行う.
また活動中の様子に関してはICFに即した8項目(1活力 2精神的安定性 3思考機能 4課題遂行 5ストレス対処 6対人関係 7コミュニケーション 8耐久性),5段階評価により評価を行い経過記録として記録する.評価点に関しては月に1回集計を行い,月毎の平均点数の変化を調査する.本研究に関しては主治医・対象者・保護者に対し許可を得た上で行う.
【結果】
作業療法導入時と開始12ヶ月後を比較するとスタッフに対する帰棟要求が聞かれなくなり,終了時間に対する強い執着心が緩和された.また,課題遂行項目が1.31→0.92,ストレス対処項目が1.77→1.00,耐久性項目が0.92→0.00と変化している.
対人交流技能面においては,家庭用ゲーム機導入前と導入1年後を比較すると対人交流項目が1.77→1.00,コミュニケーン項目が1.00→0.85と変化した.活動中の様子においては,自発的に参加メンバーを募る・他患者に対しゲームの使用方法を説明する等の場面も見られているが,他患者に対する言葉使いに関しては粗暴さも見られている.
【考察】
作業療法導入時と比較すると耐久性が向上しスタッフに対する訴えが減少した.要因として,作業療法活動そのものが生活サイクルの一部となった事・集団の中で過す事により協調性が育まれ周囲に対する適応能力が向上した事が考えられる.
また,対人交流・コミュニケーション項目において上記の変化が見られた背景には,症例本人が使用した家庭用ゲーム機に対する興味・関心があった事,ゲーム性の中にスポーツ特有のルールという明確な枠組みが存在した事,使用した家庭用ゲーム機が複数人で楽しむ要素を持ち合わせた事などが考えられる.
【まとめ】
上記の様な変化は見られたものの,課題として他患者に対する適切な言葉使い等が挙げられる為,今後はケースバイケースでの対応・正のフィードバックを重視しながら更なる対人技能向上にアプローチする必要がある.
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家族教室を通して
穐田 祥子, 岩本 由美, 坂元 由香里, 渡邉 雅文
セッションID: 030
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
フリー
【はじめに】
日本は,諸外国に比べ,精神疾患を有する当事者と同居する家族が多い.家族が効果的な介入法を知ることは,家族の負担の軽減と同時に,当事者の回復を促す一助となる.当院では,家族支援の一環として,家族教室を実施した.その概要に考察を加え,ここに報告する.
【対象・方法】
対象は,当院に入院・通院中の当事者がいる家族の中で,家族教室への参加を希望された14世帯19名.1世帯より複数名の参加や当事者の参加も受け入れた.主な診断名は統合失調症である.グループは,途中参加・リタイアも受け入れるセミクローズドグループで実施した.疾患についての情報提供に加え,問題解決技法によるグループワークを月に1度2時間を目安に全12回実施した.
【結果】
家族教室に毎回参加したのは1世帯1名.1回のみの参加は7世帯8名であった.相談内容は,自宅での過ごし方や当事者との距離のとり方など様々であった.開始直後には,家族同士の交流は少なかったが,回数を重ねるにつれ,家族同士で意見を言い合う場面もみられるようになった.しかし、多くの場合,医療従事者に対し「質問を行う」という形式になりやすく,十分にピアの力を活かすことはできなかった.また,家族教室内で相談された内容を治療に活かすことができず,何度も同じ相談ごとを行う家族もいた.
【考察】
今回の家族教室は,枠組みが緩やかであり,参加者のニーズを十分に把握することが出来なかった.さらに,十分なオリエンテーションを受けることなく「試しに参加してみよう」と考え参加に至った家族もいたと考えられる.そのため,多くの参加者が定着することなく,1回のみの参加であったのではないか.家族は,病院職員以上に,生活者としての当事者を知っており,当事者の支援を行う上で重要な情報をたくさん持っている.家族教室では,家族の力を活かすことができるように,家族自身の対処能力の向上を目指していたが,「医療従事者から,最も効果的である(と思われる)介入法を教えてもらいたい」と考える家族が多く,家族の相互交流よりも,医療従事者と家族の会話が多かったのではないかと感じる.当事者・家族は治療・援助が必要な対象ではなく,共に治療に取り組むパートナーであるということをスタッフは意識し,それぞれの対処能力の向上を目指す働きかけが必要なのではないだろうか.今後、課題を整理しよりよい関係を築くことが出来るよう努力していきたい.
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アンケート調査を通して
小嶋 亜美, 四本 伸成, 薬師寺 京子, 永山 弓子, 芝 圭一郎, 松崎 裕史, 手島 茉李, 東 祐二, 藤元 登四郎
セッションID: 031
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
フリー
【はじめに】
当院では精神科医療に関わる多くの専門職がそれぞれの専門分野で対象者と接し,退院支援を行なっている.今回,多職種が関わる精神科医療の中で,それぞれの専門性を最大限に尊重した医療チームを形成し,作業療法士(以下OT)としてどのような役割を担っていくかを検討する為にアンケート調査を実施し,他部門がOTに求める退院支援の取り組みの把握と今後の課題について報告する.
【対象と方法】
当院に勤める医師3名,看護師39名,精神保健福祉士6名,臨床心理士3名,薬剤師2名,管理栄養士3名,OT7名にアンケートを依頼し,回答を得た63名を調査対象とした.アンケート用紙を直接配布し,目的と内容に説明を加えた上で記入をしてもらい,後日回収した.質問項目は1.スムーズな連携の為に必要な事を記述式で行った.2.他部門からOTに求める退院支援,連携を強めたい退院支援について30項目の選択肢を設け,チェック式で行った.また,30項目はICFのカテゴリーに分けて分類した.
【結果】
アンケートの結果,1.スムーズな連携の為に必要な事として1.情報共有,2.スタッフ間の信頼関係,3. 方向性の統一の順で多く挙げられていた.2.OTに求められている退院支援として,ICFの活動と参加の項目が中心となっていた.その中でも,身辺処理(排泄,入浴,食事,身だしなみ,服装など),基本的交流(挨拶,常識的なマナー),言語的交流(表現,主張,断り方,聞き方など),社会資源(交通機関,公共施設)の利用,作業能力(集中力,持続力など)について,特に期待されていた.また,それらの項目は,OTを含め,看護師,精神保健福祉士も,重要視して支援を行なっている部分であった.
【考察】
結果より,スムーズな連携の為に必要な項目が挙げられたが,その為には連携の鍵となるカンファレンスやマネジメントする役割が重要である.当院では,退院支援の中で看護師を中心とした多職種との合同カンファレンスが行なわれている.そのような場において,OTとして他部門から期待されている項目である身辺処理,基本的交流,言語的交流,社会資源の利用,作業能力についての情報を積極的に提供,共有していかなければならないと考えた.多職種がお互いに重要視している項目を把握し,専門家として情報を提供することにより,マネジメントを担っている看護師のサポートとなり得ると考えられる.今回のアンケート調査の結果を踏まえ,実際に退院支援を行なっていく中で出てくる問題点や課題を見つけていき,地域へ移行する対象者へのよりよい支援を提供できればと考える.
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筋力強化に主眼をおいた一症例
武智 あかね, 藤井 満由美, 久保田 珠美, 廣瀬 賢明
セッションID: 032
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
フリー
【はじめに】
大畑らは筋力低下は中枢神経障害を形成する主症状の一つであり、脳性まひ児においても筋力トレーニングの重要性を述べている。そこで今回、下肢の選択的筋解離術を受け、9ヶ月後から筋力に主眼をおいてアプローチを行った結果、数mの独歩獲得という機能向上がみられた症例を経験したので報告する。尚、今回の研究は両親に説明と同意を得ている。
【症例紹介と経過】
脳性まひにより痙性両麻痺を呈した活発な6歳女児。IQ73。手術前GMFCS LevelIVで主な移動手段は交互性のある四つ這いで、つかまり立ちは強い屈曲・尖足位でかろうじてとれる程度、歩行不可能であった。H21年5月、両側の長内転筋・薄筋・大腰筋・大腿直筋・内側ハムストリングスの筋膜解離術と両側腓腹筋Vulpius法を受けた。その結果、関節可動域で改善が見られた。術後9ヵ月時の運動能力としてはロフストランド杖歩行(以下、杖歩行)で20~30mの屋内歩行が行えるようになった。筋力は分離した運動が難しいため正確にはMMTを実施できなかったが左側が強く、股関節屈曲3程度、膝関節伸展3程度であった。股関節伸展の筋力については収縮は認められたが、運動を発揮できていなかった。立位保持は股・膝関節屈曲位、上肢はmiddle guardで数秒しか保持できなかった。また、床からの立ち上がりや独歩はできなかった。
【集中的な取り組みと結果】
そこで独歩獲得へ向けて3週間の集中トレーニングを行った。毎日40分間の個別PTの中で、大腿四頭筋を圧迫し収縮を促しながらの立位保持練習・腹筋を意識した体幹屈曲筋強化・腹臥位で自動介助にて股関節伸展・on handでの背筋強化や上肢支持・ダイナミックな筋力増強等を集中的に行った。また、起立台立位での食事や隣接する養護学校への登下校を杖歩行で行うなど、立位での持久的活動も徹底して行った。その結果、筋力はより分離した運動でMMTが股関節屈曲4程度、膝関節伸展4程度、股関節の伸展は完全に分離した運動ではないが、できるようになった(MMT3程度)。独歩はAFO装着にて屋内で10m以上行えるようになり、床からの立ち上がりも可能となった。立位保持はlow guard、股・膝関節が伸展位にて10秒以上できるようになった。
【考察】
今回歩行困難な症例が、下肢の選択的筋解離術を受けて杖歩行から立位保持・数mの独歩が獲得できた。手術により余分な筋緊張が緩んで関節可動域が拡がり、本来持っていた運動が発揮できるようになったことで、抗重力伸展活動に必要な筋に対して明確に指示を与え、意識させながら筋力トレーニングを行い、筋力強化が図れた。自らの身体を意識的に動かせたことで、ボディイメージやコントロールの向上に繋がったと考えられる。加えて生後から歩行の経験のなかった本児は日に日に移動能力が向上し、活動の範囲が拡がった。今後も筋力に注目したアプローチをさらに検討していく必要がある。
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下腿下垂式ポジショニングが座位姿勢に及ぼす影響について
西元 美貴, 原 寛道
セッションID: 033
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】
下腿下垂式ポジショニングが、重症心身障害児者の非対称性体幹変形の改善に有効であると報告されている。今回、随意性を有しながら、自発動作によって筋緊張を高め、体幹変形を助長している症例に対して姿勢管理を行なった。その結果、非対称性の改善と筋緊張の軽減による安楽化と随意性の改善に効果を認めたため報告する。
【症例紹介】
25歳男性。痙性アテトーゼ型(混合型)四肢麻痺。GMFCSレベル5。右凸側彎で第5胸椎から第5腰椎間、cobb角140°。Goldsmith指数60 to Leftねじれ型。移動は座位保持装置付電動車椅子(以下電動車椅子)を使用。一日の大半を電動車椅子の上で過ごし、全ての姿勢において股関節が屈曲している。寝返り・ずり這い・上肢操作などは可能である。余暇はオセロ勝負をして過ごしている。随意性は上肢の方が優位であり、変形した状態から更に動作を行うため、筋緊張は更に高まり変形を助長し、現在もなお変形が進行している。
【アプローチ法】
支持面を増加するために体幹から臀部・大腿部にわたってクッションを作成。足台を設置し、側彎を矯正し左右対称的な下肢肢位に保てることを基本姿勢とした。週3回、入浴後に30分間このクッションの上に下腿を下垂した背臥位で保持した。
【結果】
下腿下垂式ポジショニング実施中に不快感は訴えなかった。様々な姿勢にて、下腿下垂式ポジショニング効果について評価を実施した結果、電動車椅子上の姿勢における改善が一番大きかった。
【電動車椅子上の姿勢に関する評価結果】
<ポジショニング施行前>
・臀部にかかる圧力をアビリティーズ社Xセンサーで計測した。体重は偏在はあるものの両臀部で支えられており平均圧は183mmHg。最高圧は右臀部付近で210mmHg。局所的な圧がかかり続け右側へ重心が偏移していた。側彎度は右烏口突起から右上前腸骨棘間距離54cm、左26cm。
・オセロの駒を片付ける時間が3分30秒であった。オセロ中、座位姿勢を自発的に正す回数は8回であった。
<施行後>
・圧が支持基底面内で動くようになり重心が右から正中に近づいた。側彎度は右烏口突起から右上前腸骨棘間距離50cm、左30cmとなり、施行前と比べ、左右対称的な姿勢に近づいた。
・体動は自力にて圧の分散が行え徐圧できるようになった。
・駒を片付ける時間が2分9秒、姿勢を正す回数が5回と減少した。
【考察】
下腿下垂式ポジショニングで間欠的によい姿勢をとることにより、筋緊張緩和効果が得られた。過度の筋緊張が軽減されたことにより随意的な力が発揮されやすくなった。
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足関節背屈他動運動抵抗の数値化とその信頼性
松本 力, 栗原 まり, 間普 千恵, 柴田 さやか, 重信 聖貴, 坂井 奈津子, 劉 斯允
セッションID: 034
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】
足関節の整形外科的選択的痙性コントロール手術(以下osscs)後の理学療法評価としていくつかの項目が挙げられるが、訓練時に容易に計測でき、本人・家族にも変化が分かりやすいものとしては関節可動域テストしかないのが現状である。しかし、小児の場合、角度の変化はなくても、その抵抗感が成長等によって変化していくといった経験をすることは少なくない。そこで、その抵抗感をハンドヘルドダイナモメーター(以下HHDとする)を用いて数値化し、その方法の検者内信頼性を検証したのでここに報告する。
【対象】
下肢に既往歴や感覚障害、可動域制限のない健常者4名(男性1名、女性3名、平均年齢30.2±3.89歳)の両下肢8肢を対象とした。尚、検者、被検者ともに今回の目的を説明し、了承を得た上で実施した。
【方法】
測定にはANIMA社製 等尺性筋力計μtas F-1を用いた。被検者には計測時のストレッチ効果を最小限にするため、予め足関節最大背屈位にて2分間斜面台に立ってもらった。その後マット上に背臥位になり足関節背屈角度(膝伸展位)を計測した。検者・被検者には目的を説明して行った。検者にはHHDの数値が見えないように配置した。被検者には協力も抵抗もしないことを伝えた。センサーの位置は第1~5中足骨遠位端に合わせ、1名の被検者につき、各回に休息を取りながら計4回の計測を実施し、級内相関係数(以下、ICC)を求めた。
【結果】
平均は27.9 ±3.63 kg。検者内信頼性はICC(1.4)=0.878であった。
【考察】
足部osscs後の理学療法評価として、通常我々が頻繁に実施しているストレッチに着目し、その時に感じる抵抗感を数値化することでいわゆる「硬くなった」「柔らかくなっている」といった表現を具体化でき、患者やその家族にフィードバックできるのではないかと考え、検討を行ってきた。数値化に関しては信頼性が実証されているHHDを用いることで容易に可能であり、理学療法士1名で計測が出来る点も実用性はあると考えられる。また、今回は検者内の信頼性も良好という結果を得ることができたが再検討課題も多く、検者側の男女差(力の強さ)、経験の差(力を加える方向の差)などの検者間での信頼性、また、ストレッチを指導して統一した方法で行った場合、目的を告げずに行った場合、脳性まひをもつ子どもを被検者とした場合の検証など、臨床で応用するためにどういった設定であれば理学療法評価として利用できるのかデータを集積して再検討していきたい。
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100Nの力を加えたときの足関節背屈角度の変化
栗原 まり, 松本 力, 間普 千恵, 柴田 さやか, 重信 聖貴, 坂井 奈津子, 劉 斯允
セッションID: 035
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】
第1報においてハンドヘルドダイナモメーター(以下HHDとする)を用いた足関節他動運動抵抗の数値化を検討し、検者内の信頼性は良好な結果を得ることは出来たが課題も多い。そこで今回、より高い信頼性を求めることを目的として、足関節他動運動抵抗時の加える力を一定としたときに得られる角度を計測し、整形外科的選択的痙性コントロール術(以下osscs)後の「硬さ」の変化を表現できないかを検討・検証したのでここに報告する。
【対象】
下肢に既往歴や感覚障害、可動域制限のない健常者3名(男性1名、女性2名、平均年齢30.3±5.31歳)の両下肢(6肢)を対象とした。尚、検者・被検者ともに今回の目的を説明し、了承を得た上で実施した。
【方法】
測定機器はANIMA社製 等尺性筋力計μtas F-1を用いた。測定は背臥位で行い、100N時の足関節背屈可動域角度を測定した。HHDはセンサーパッドを第1および、第5中足骨頭を結ぶ線上に当て、足関節を他動に動かした。測定時は遅い速度で他動運動を行い、被検者には力を抜いておくように伝えた。検者にはHHDの液晶画面が見えるように設定し100Nの力を加えたところで角度を計測した。尚、角度の計測者は検者間の誤差を最小限にするために1名に限定した。統計処理には級内相関係数(以下、ICC)を求めた。
【結果】
平均は12.8±5.21°、検者内信頼性はICC(1.4)=0.95であった。
【考察】
今回、100Nの力を加えることで得られる角度の変化で「硬さ」を表現できないか、その方法の検者内の信頼性を検証した結果、ICC(1.4)=0.95と優秀であった。これにより、臨床でも評価として利用できる可能性が示唆された。より高い信頼性を得ることができた要因としては、加える力を固定したことで第1報の検討課題であった検者の男女差や経験の差などに影響されず、評価の目的説明の有無、対象者の問題などの影響も反映されにくいのではないかと考えられる。また、100Nをkgに変えることで、本人や家族にも分かりやすく抵抗感を伝えることが可能となった。また、今回の目的であるosscs後の評価だけでなく、実際の理学療法前後での効果判定にも応用できる可能性が示唆された。
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HHDを実際に使用し足関節背屈他動運動抵抗を評価記録した1症例
間普 千恵, 松本 力, 栗原 まり, 柴田 さやか, 重信 聖貴, 坂井 奈津子, 劉 斯允
セッションID: 036
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】
小児領域のリハビリテーションにおいて、尖足に対する整形外科的選択的痙性コントロール術(以下osscs)後の足関節背屈の可動域を評価することは重要なことである。しかし、実際の臨床場面では成長や筋の粘弾性の低下により足関節背屈時の抵抗感に違いを感じることがある。その抵抗感を客観的に評価する検査はまだ確立されておらず、症例やその家族に主観的なフィードバックしか行えていないのが現状である。そこで今回、足関節背屈時の他動運動抵抗をハンドヘルドダイナモメーター(以下HHD)で測定・評価できないかと考え取り組みを行った。
【対象】
脳性まひをもつ(右足部尖足)11歳の男児。GMFCSレベル1。平成19年に右足部のosscsを実施。以後、週2回の理学療法と自宅にて立位台でのストレッチを行っている。尚、今回の目的を症例及びその家族に説明し、了承を得た上で実施した。
【方法】
測定にはANIMA社製 等尺性筋力計μtas F-1を用いた。測定は背臥位で行い、理学療法前後に一定の抵抗を加えた場合と最大抵抗時の膝伸展時の足関節背屈角度(以下DKE)を測定した。抵抗は筋線維の伸張に最も影響を及ぼすといわれている100Nとした。HHDはセンサーパッドを第1および、第5中足骨頭を結ぶ線上に当て、測定はなるべく遅い速度で行い、症例には協力も抵抗もしないように伝えた。なお自宅での訓練はチェック表を作成し、症例自ら記入してもらった。測定結果の統計処理には対応のあるt検定を用い、危険率5%未満を有意水準とした。
【結果】
100N時の平均角度は理学療法前12.4±3.08°、後16.7±3.30°となった。最大抵抗時は、理学療法前26.4±3.26°、後31.4±2.43°であった。ともに理学療法前後において有意な差がみられた。(p<0.05)
【考察】
今回の結果より理学療法前後で100Nという同じ抵抗を加えた時の角度を記録することで、抵抗感の増減を客観的に表現することができたのではないかと考える。また、自宅での訓練が実施出来ているときは、特に理学療法前100N時のDKE値の増加がみられたことを症例やその家族に客観的なデータとして繰り返しフィードバックしたことで、本症例自身が自主訓練の必要性を認識することができた。これは単に術後評価だけでなく自己管理を意識付けすることにも有用な方法であることが示唆された。
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下尾 隆成, 生駒 成亨, 森田 容子
セッションID: 037
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】
クライアント中心の作業療法を実践するためのツールとしてカナダ作業遂行測定(以下COPM)は用いられるが整形外科疾患の患者に対してCOPMを用いた報告は少ない.そこで今回右変形性股関節症を呈し人工股関節全置換術(以下THA)を施行され,自宅復帰をされる患者に対して日常生活を主体的に考える機会の提供と退院前の不安軽減を目的にCOPMを実施し,患者のニーズに沿ったリハビリテーション(以下リハビリ)を行い変化が得られたので報告する.
【症例紹介】
70歳代前半の女性.平成20年9月に左THAを施行し,自宅退院後に徐々に右股関節痛増強し,右変形性股関節症の診断にて平成21年3月に右THAを施行.手術後は当院THA術後パスに沿ってリハビリを実施し,バリアンスなく経過.術後14日目の時点で著明な関節可動域制限なし,右股関節周囲筋群の筋力はGレベル.歩行は一本杖にて院外歩行可能であるが連続歩行は約500m程度である.Barthel indexは入浴,更衣が減点で90点であった.
【方法】
術後14日目にCOPMを用いてクライアントが問題としている作業を上げてもらい,その結果を基にクライアントと優先項目を決定した.この項目について集中的にリハビリを実施し,術後21日目に再評価を行い,その傾向を分析した.
なお今回の発表に際し,クライアントへ説明し承諾を得た.
【結果】
術後14日目の評価で問題があるとした9項目の作業の中から優先項目をつけたのは「床のものを拾う」重要度;10点,遂行度;7点,満足度;5点,「畳の上を安定して歩けるようになる」重要度;9点,遂行度;2点,満足度;2点,「ズボンや靴下を履けるようになる」重要度;10点,遂行度;2点,満足度;3点であった.
術後21日目の評価の結果, 「床のものを拾う」は遂行度;8点,満足度;8点,「畳の上を安定して歩けるようになる」は遂行度;5点,満足度;7点,「ズボンや靴下を履けるようになる」は遂行度;9点,満足度;8点となった.
【考察】
整形外科急性期,特に術後患者では機能回復と自宅指導が中心であるが,臨床において退院に不安を抱える患者を多く経験する.そこで今回,THA術後患者にCOPMを用いたアプローチを試みた.
クライアントは病棟内ADLがほぼ自立されながら,在宅復帰に不安を抱えていたため,問題となる作業を考える機会を提供し,より主体的にリハビリを行うことが重要だと考え,アプローチを試みた結果,遂行度,満足度ともに良好な結果を得られた.
今回のことから,機能回復を図るとともにクライアントにとって意味のある作業について共に取り組むことで退院時の不安軽減に繋がるのではないかと考える.また回復期や外来時でも継続し再評価を繰り返し行うことで,その時々の状態,ニーズに沿った作業療法を提供することができるのではないかと考える.
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~病棟ADL実施表を用いて~
片平 貴子, 安楽 秀樹, 笠野 大輔, 小屋野 宏明
セッションID: 038
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
フリー
【はじめに】
回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期リハ病棟)は,疾患により障害を呈した患者が,社会及び自宅復帰するための大切な役割を担っている.そのためにも,患者と病棟スタッフが共通の目標をもち,患者の能力を病棟生活動作で発揮することは必要である.
今回,患者・家族と共通の目標をもつこと,リハと病棟スタッフ間の情報伝達が不十分であり患者の能力に応じた介助が出来ていないという問題がみられたため,回復期リハ専従セラピストが中心となって病棟ADL実施表を作成,また,取り組み前後でアンケートを実施したため,その結果に若干の考察を加えここに報告する.
【目的】
患者と病棟スタッフとの共通目標を明確にし患者の主体的な生活の再獲得を支援する.リハと病棟スタッフ間の情報交換を密に行い病棟生活リハビリの機会を増やす.
【内容】
病棟ADL実施表:A4用紙に15×15mm程度の大き目の文字で,患者のADL介助上の注意点3~5個程度を担当回復期リハ専従セラピストが記入したもの.病棟での目標,訓練内容,介助方法,禁忌・注意点の項目よりなる.
【対象】
当院回復期リハ病棟36床に入院中の患者に対し平成21年2月4日より約5週間実施.各患者の消灯台に掲示した.なお,掲示については院内個人情報保護規定に従い,各患者の同意を得ている.
【方法】
病棟ADL実施表使用前後での意識調査を目的として,5段階の選択肢及び自由記載による質問紙を配布し,留め置き法にて回収した.対象は当院回復期リハ病棟勤務の看護師14名,介護職員8名.
【結果】
1.患者様のADL能力を知っていますか?使用前(よく~だいたい知っている91%)使用後(よく~だいたい知っている91%)2.患者様のADL能力を考えて介助を行っていますか?使用前(よく~だいたい考えている91%)使用後(よく~だいたい考えている100%)3.病棟ADL実施表を見ましたか?使用後のみ(ほぼ毎日~ときどき見た91%)4.病棟ADL実施表の必要性を感じたか?使用後のみ(感じる100%)使用前後での大きな変化はみられなかったが,全体的に肯定的な回答であった.その他に,病棟ADL実施表はポイントを押さえてわかりやすく書いてほしい,文章より絵で描いてある方がわかりやすい,回復期カンファレンスの再開を希望するといった意見が挙げられた.
【考察とまとめ】
取り組みにより病棟スタッフが病棟生活リハビリの必要性を感じていることを知ることができたが,提供した内容に従った病棟生活リハビリの実施,介助方法の統一は不十分な状況である.今後は,病棟ADL実施表の記載内容を再検討し,患者の最大能力を病棟生活で発揮できるような環境を調えていく必要がある.また,並行して患者満足度,FIMを検証し病棟ADL実施表の客観的な効果判定を行っていきたい.
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重症度別での分類に関連して
田久保 早紀, 田中 正昭, 光武 翼, 西村 香織, 真島 東一郎
セッションID: 039
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】
H20.4月の診療報酬改定に伴い、退院患者の60%が自宅復帰、日常生活機能評価(以下、看護必要度)を用いた改善度と、この必要度を用いた新規入院患者の重症率が15%以上の項目が導入された。我々は、Barthel index(以下、BI)と看護必要度の関連について検討し、関連性が強いことがみられた。そこで今回、当院回復期リハビリテーション病棟(以下、リハ病棟)の脳疾患患者を対象に、看護必要度を用いて重症度別での転帰の影響について検討した。
【対象】
H20.4月~H21.3月の間に、当院リハ病棟を入・退院した78例(男性40例、女性38例)のうち、転帰が死亡退院または再発等による急性期病棟への転棟、転院例を除く62例(疾患内訳 脳梗塞42例、脳出血12例、くも膜下出血4例、その他6例)を対象とし、平均年齢は74.1±14.1歳であった。対象者を入棟時看護必要度の点数が10点以上の症例を重症群、10点未満を軽症群に分類した。
【方法】
以下の項目に対し、診療録にて後方視的に調査をした。調査項目は、年齢、発症から入棟までの日数、入棟・退院時BI、入棟・退院時Ns必要度とした。これらの項目に対し、転帰で自宅群・自宅外群(療養病床、施設等)に分類し、比較・検討をした。尚、統計方法は、対応のないt検定を用い、有意水準は5%未満とした。
【結果】
今回、リハ病棟を退院した62例の重症度別での自宅復帰率は、重症者11例(39%)、軽症者31例(91%)であった。重症度別での年齢・発症から入棟までの日数では、年齢は重症群(自宅群78.0±8.8、自宅外群80.8±9.1)、軽症群自宅群(68.8±16.7、自宅外群77.3±4.9)、発症から入棟までの日数は、重症群(自宅群28.0±15.9、自宅外群42.6±28.4)、軽症群(自宅群23.5±11.4、自宅外群29.5±24.5)であり、有意差を認めなかった。入棟・退院時BI(入棟時/退院時)では、重症群(自宅群20.4±17.3/53.1±29.6、自宅外群13.8±17.4/28.8±32.3)、軽症群(自宅群77.2±18.4/96.9±7.2、自宅外群31.6±23.6/58.3±2.8)であり、軽症群は入棟・退院時ともに有意差を認めた(p<0.001)。入棟・退院時看護必要度(入棟時/退院時)では、重症群(自宅群11.5±2.2/7.1±4.5、自宅外群12.7±5.4/9.8±4.2)、軽症群(自宅群3.0±2.3/0.3±0.9、自宅外群7.6±1.5/6.3±1.5)であり、軽症群は入棟時(p<0.01)退院時(p<0.001)ともに有意差を認めた。
【考察】
当院のリハ病棟は、看護必要度が入棟時10点以上では、自宅に帰りにくい傾向にあった。重症度別での転帰に影響する要因として、軽症群では、ADL能力が転帰への影響に強いことがわかった。一方、重症群では、ADL能力には差が見られていないことから、家族支援の配慮が必要であることが言える。そのため、退院後のサービス利用の準備に加え、家族への介助方法等の動作指導を早期から積極的に取り組んでいくことが自宅復帰するためには重要であると考えられる。これより、転帰には入棟時点での重症度において、早期からの援助体制を整える一つの指標になると考えられる。
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FIMからの検討
重吉 太一, 伊藤 正和, 興梠 貴美恵, 毛井 敦, 松崎 哲治
セッションID: 040
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】
当院は大分県別府市に所在する97床の完全回復期リハ病院である。特徴は入院患者の約86%が脳血管障害患者という点である。今回、当院における脳血管障害患者の自宅復帰患者と非自宅復帰患者のFIMの点数等を用いて自宅復帰因子を検討したので報告する。
【対象】
平成20年度1月1日から平成20年12月31日の期間に当院を退院した全314例の患者の内、運動器障害の患者や再発などで急性期病院へ転院になった患者を除外した、201例の脳血管障害患者を対象とした。内訳は自宅復帰群が136例、非自宅復帰群が65例であった。
【方法】
対象の転帰を自宅復帰群と非自宅復帰群の2群とし、1:年齢2:当院入院までの期間3:当院の入院期間4:同居者の有無5:入院時FIM(全ての項目)6:退院時FIM(全ての項目)7:入院時FIMと退院時FIMの変化の各項目を調査した。そして、独立変数を転帰とし、従属変数をその他の項目とした、重回帰分析を行った。
【結果】
自宅復帰に有意な相関があったものは入院時の更衣動作やトイレ動作などの項目と、退院時の浴槽・シャワー動作や移動、階段、更衣、移乗、問題解決といった項目であった。
【考察】
結果から更衣動作やトイレ動作の早期獲得が自宅復帰に繋がっていくと考えられる。これらは病棟で頻繁で行われるADL動作であり、当院でもセラピストが積極的に介入している。退院時は浴槽・シャワー動作や移動、階段、更衣、移乗、問題解決の項目が挙がった。これらは単独の系統動作であるが組み合わせると入浴動作という複合動作に近づくと考えられる。入浴動作は更衣や浴室内の移動、浴槽への出入り時の段差昇降、清拭動作が含まれる。複合動作は様々な動作が組み合わさっており、自立させることは非常に困難である。よって、複合動作を自立させるために単に機能訓練を行うだけでは不可能である。また、脳血管障害患者は何らかの高次脳機能障害を合併していることが多いので、実際の動作訓練だけでは無く、行為の細分化を図り、分かりやすく学習させていく必要もある。退院前には自宅復帰に向け、家屋改修や入浴動作の家族への指導も必要になってくる。理学療法士は基本動作や歩行動作に目を向けがちであるが自宅復帰に向けては単一な動作では無く、今後は複合動作にも目を向けていく必要があると感じた。
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野波 智恵, 田場 辰典
セッションID: 041
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】
前学会で「退院追跡調査からみる病棟ADLと退院支援~退院患者の声からVolI~」の発表にて、退院後追跡調査でのFIM評価および退院支援の状況について報告を行った。整形疾患患者のFIMの内訳にて、一番低下率が高かった項目が入浴の67%であった。そこで今回、整形病棟における入浴関連動作のFIMを調べOT訓練内容の再考を行ったので以下に報告する。
【現状把握】
FIM入浴4点・更衣FIM4点で自宅退院。入浴介入は、初回入浴評価のみ。少しでも介助が必要な場合はNsへ依頼。そのため自宅退院する患者は、退院までに自立していなく家族も患者の能力を把握できていない。また、Nsとの連携不足で初回入浴未評価の方もいる。シャンプー・石鹸置き場が無いため椅子の上や地面に石鹸などを置いており,安全面の問題やリーチ動作不十分,疼痛増強といった点が挙げられる。
【対象】
入院中にOT介入し、平成20年6月~9月の間に自宅退院した整形疾患患者30名(頚髄症6名・膝疾患3名・大腿骨頚部骨折8名・腰疾患13名、男性12名・女性18名、平均年齢63,58歳±18,82、認知面問題なし)とした。
【対策】
Nsとミーティングを実施し、その日入浴訓練を行う方の情報交換や初回入浴の患者を確認するなどの連携を図る。初回入浴後、引き続き週3回の入浴日に,OTが入浴訓練を実施し入院中で自立できるよう援助していく。また、家族面会時に入浴練習の趣旨・必要性を伝え、退院までに入浴練習に同席してもらう。浴室にシャンプー・石鹸置きの為の棚の設置や更衣のために使用する棚の設置。また、入浴の際に使用する洗体タオルや柄付きブラシの自助具の作成。
【結果および考察】
以前は退院時ADLと在宅でのADLを比較すると低下した方が多くみられたが,今回は入浴FIM6点・更衣FIM5点と低下した方はみられなかった。Nsと連携を図ることで、初回入浴の介入頻度が向上した。初回入浴後も継続した入浴訓練を実施したことで、患者が自分の能力を把握でき、自宅でも同様に取り組めたと考える。また家族指導を実施することで、患者本人の活動能力が把握でき、家族の介助量軽減にも繋がったと思われる。また、自助具の使用にて疼痛なくリーチが可能となりできる範囲が拡大。棚の位置を安楽な動作を行える位置に設置することで、動作時の疼痛訴えが少なくなりリーチ動作が円滑になった。患者や家族に在宅生活を想定したADL指導や退院時動作指導など入院当初の早期から実施することで、入院から在宅へのスムーズな移行に繋がるものと考える。
【おわりに】
入浴回数の適正化の検討、OTマンパワー不足、申し送り内容の標準化の検討などを、今後の課題としてデータの蓄積を行いたい。
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~自宅訪問の結果より~
金城 有香
セッションID: 042
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【目的】
退院後の在宅生活を考える上で住宅環境を知ることは大切である。今回、自宅訪問で行われた改修箇所を調査することで、ADLへの取り組みの参考になる要素がないか探ってみた。自宅訪問における重要な視点を把握し経験による違いがないようチェックリストの作成に繋げていくことを目的に取り組みの経過を報告する。
【対象】
平成19年4月から平成20年3月にOTが関わった内の自宅訪問を実施し自宅復帰した134例(男性49名、女性85名、平均年齢75.39±13.39歳)。疾患別内訳は脳血管疾患53名、整形疾患55名、廃用症候群24名、その他2名である。
【方法】
自宅訪問調査表より改修を必要とした箇所の件数を集計し、半数以上に改修を要した箇所(トイレ、浴室、玄関、寝室)を年齢、性別、疾患別、入院時から訪問までの日数、在院日数、入院時FIMの比較検討を行った。尚、改修としては手すりの設置、福祉用具・福祉機器の利用、段差解消(底上げ、スロープ、踏み台設置)、ドアをカーテンへ変更、家具の配置変え、不整地の整備、敷物の配置変え・撤去、出入口の変更(玄関から勝手口)とし介助指導に関しては除外した。
【結果】
134例中、トイレ100例、浴室97例、玄関87例、寝室74例、屋外51例、廊下28例、台所7例が改修を必要とした。(※大半は手摺り設置や段差解消)年齢、訪問までの日数、入院時FIMの比較では、訪問までの日数が短いほど在院日数が短く入院時FIMが高い結果となった。また、年齢が若いほど訪問までの期間が長く入院時のFIMの得点も低い。疾患による改修箇所の比較では特に変化は見られなかった。
【考察】
直接ADL能力を発揮するための改修に比べ底上げやスロープ、踏み台の設置、立ち上がりや立位保持、段差昇降用の手すりの設置や玄関での椅子の設置、浴室でのシャワーチェアの利用も多く見られた。そのことより、座位から立位、立位から座位など姿勢の変化が必要な場所や段差がある箇所が殆どであり基本動作や応用動作の取り組みの強化が必要とされることが考えられる。
入浴動作ではサービス利用もある中、在宅における入浴の必要性も多く入院時からの入浴動作に対する取り組みも必要であると思われる。
今後、自宅訪問を行うにあたって経験による環境調整の視点のずれが生じないようチェックリスト作成も試みていく必要がある。
【まとめ】
年齢、性別、疾患に関わらず、トイレ・浴室・玄関・寝室の環境を考慮し、バランス能力や直接的なADLへの働きかけを増やした治療計画を進めていく。
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~リスクコミュニケーションの試み~
吉田 康雄, 佐溝 良美
セッションID: 043
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】
外来患者から転倒状況を聞く中で、実際の生活環境やADLに対し、患者・家族・療法士の間で能力の認識やリスクの判断に差意が生じることがある。今回リスクコミュニケーションを、一例を通して試みたのでここに報告する。リスクコミュニケーションとは、リスクを患者・家族・療法士の間で共有の問題として認識し、リスクに共に向かい合い、協業的に対処していく方法を考えていくことである。
【症例紹介】
60代女性・脳出血・発症日H12年5月24日・3人暮らし。B.r上肢III・手IV・下肢III。歩行は短下肢装具を着用し、一本杖自立。トイレには杖を使用せず手すりを利用。ADLは入浴以外自立。B.I90点。
【方法】
患者・家族との間で面接を行う。それぞれ出来ない事〔能力評価以下「能力」と略す。〕危険だと感じていること〔リスク評価以下「リスク」と略す。〕の動作項目を生活のイメージにより選択する。動作項目に対し能力評価4段階(1.全く出来ない2.少し出来る3.ほぼ出来る4.できる)リスク評価4段階(1.非常に危険である2.危険である3.やや危険である4.危険ではない)の評価をし、評価結果に差意が生じた動作項目については理由を聴取する。得られた情報から作業療法介入の具体的方略を検討する。
【結果】
リスクコミュニケーション評価の動作項目は、*入浴時裸足で立ち上がる(指先が丸くなり滑る)症例;能力4・リスク3家族;能力4・リスク3OT;能力4・リスク3*敷居を踏む時(ふらつく)症例;能力3・リスク1家族;能力4・リスク4OT;能力3リスク2*トイレに行く時の角(手すりがない所)症例;能力3・リスク2家族;能力4・リスク4・OT;能力4・リスク3*タイルの上を歩く(足が引っかかる・雨の日すべる)症例;能力3・リスク3家族;能力4・リスク4OT;能力3・リスク3であった。症例と療法士は、移動の様々な環境に対し出来ているが危険であり自信がないと感じている。家族は、問題ないと考えていたのでリスクの認知の差異が認められた。また、評価の中で、何も持たず立ち上がること、敷居を踏まない様になりたい要望があった。これらの事から3者間で移動に対し症例のリスク認知の共有が図れた。
【まとめ】
評価を施行し、患者・家族・療法士のリスク認知に違いがある。危険と感じる観点や能力の認識に違いがある。ニードに関しての情報収集のツールにも使用でき、何を感じ、何を考えているのか心理的情報も知りやすくなった。以上より患者と家族と療法士が話し合うことで、協業的に取り組みリスク認識の理解、情報の共有化を図ることができる。そのことがリハビリ目的とアプローチ内容がより具体的かつ明確化され、患者のリハビリに対するモチベーション向上に繋がると考える。今後も継続して生活リスクの軽減の為、リスクコミュニケーションの理解を深めよりよいリハビリが提供できるよう努めていきたい。
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~圧バイオフィードバック装置を使用して~
馬場 義行, 野村 二朗, 築地 弘志, 上田 瑞世, 日高 洋一
セッションID: 044
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】
近年、腸腰筋に関しては加齢による姿勢変化や歩行能力との間に高い相関が認められるなど多くの報告がされている。また、腸腰筋の走行や作用から立位における重心安定に重要な筋であることが認識され、臨床におけるエクササイズのターゲットとされることも多い。しかし、実際に重心動揺を計測し比較検討した研究は少ない。
そこで今回、腸腰筋エクササイズを圧バイオフィードバック装置を用いて実施し、エクササイズ前後での重心移動距離の比較を行い、腸腰筋が静止立位姿勢に及ぼす影響について検討した。
尚、被験者には本件に関し十分に説明し同意を得た。
【対象】
対象は健常な男女27(男性14、女性13)名、平均年齢21.9歳、除外基準は下肢・体幹に整形疾患等の既往歴のあるものとした。
【方法】
腸腰筋エクササイズはChattanooga社の圧バイオフィードバック装置(Stabilizer)のマニュアルにそって実施した。足底非接地の端座位を対象者にとってもらい、圧パッドを腰部と壁面の間に挿入し、40mmHgに設定しておく。対象者には「腹壁を引き込ませるように」と口頭指示を与えて48~50mmHgに加圧させ、この圧を保ったままゆっくりと片脚を挙上し、5秒間保持してもらう。それを左右交互にそれぞれ10回反復してもらった。エクササイズ前とエクササイズ後の重心移動距離の測定には重心動揺計ウィンポッド(Medicapteurs社製)を用いた。3m前方の一点を目線の高さで注視させた上で、足幅を5cmとした自然立位を測定条件とした。サンプリング周波数30Hz、測定時間30秒での総軌跡長を計測し、個人のデータとした。検定には対応のあるt検定を用い、危険率5%をもって有意とした。
【結果および考察】
総軌跡長[mm]はエクササイズ前:199.8(±62.3)、エクササイズ後:181.1(±45.9)であり有意差を認めた(p<0.05)。
以上の結果より、腸腰筋エクササイズを行うことが重心を安定させる一要因として有効であることが示唆された。総軌跡長が減少した要因として、腸腰筋のその走向から椎体間及び骨盤・大腿骨頭間が圧迫、安定化されたことが考えられる。また、インナーユニットが賦活され、腸腰筋の起始となる腰部が安定化し、より効率的な腸腰筋エクササイズが行えたのではないかと考える。
【まとめ】
圧バイオフィードバック装置を用いた腸腰筋エクササイズを実施し、静止立位姿勢に与える影響について検討した。その結果、総軌跡長が有意に減少し、重心安定が得られた。バランス改善を目的として臨床においても応用することが期待できる。今後は腸腰筋エクササイズの練習期間も含めた検証が課題である。
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峰岡 哲哉, 松木 直人, 崎田 正博
セッションID: 045
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【目的】
ストレッチングの目的として、筋肉の緊張を和らげ心身に対するリラクゼーション効果があることが報告されている。しかし、リラクゼーションの指標と自律神経活動を用い、ストレッチングとの関係を報告した例は少ない。また、ストレッチング部位の違いとリラクゼーションとの関係も明らかとなっていない。本研究では, 健常者を対象にストレッチングを施行し、施行部位の違いが自律神経機能に及ぼす変化について検討した。
【方法】
対象者は健常女性3名(20.3±1.6歳)。研究の主旨を十分に説明し,自主的な参加の同意を得た者とした。実験手順は、対象者に対し心電図の電極を第II誘導で設置し、メモリー心拍計(アクティブトレーサーAC-301A)にて心電図R-R間隔を記録した。計測はベット上仰臥位にて30分の安静を保った後、研究者によるストレッチングを20秒間施行、その後15分間の安静背臥位姿勢までの期間とした。ストレッチングの施行課題は右僧帽筋上部線維(以下UT)と右大腿二頭筋(以下BF)とし、施行順序はランダムで行ない双方の影響が残らないよう同日以外での施行した。ストレッチングの強度は、対象者の疼痛が生じない範囲にて施行筋に対する伸張感覚が得られる程度とした。解析はMemCalc法にて、心電図R-R間隔による周波数解析を行なった。サンプリング周波数は0.04~0.15Hzを低周波成分Low Frequency(以下LF)0.15~0.40Hzを高周波成分High Frequency(以下HF)とした。HF成分は心臓迷走感神経の指標とされている。対象者ごとのHFを標準化するため、全周波数帯に占めるHFを%HFとし心臓迷走神経の指標とした。交感神経の指標としてはLF/HFを用いた。それぞれのストレッチングによる%HF、LF/HFの比較においては、ストレッチング施行前安静位での平均値を基準として、ストレッチング施行後0~5分間、5~10分間、10~15分間での平均値との比較を行なった。
【結果】
今回の実験において、各筋における%HF、LF/HFの統計的有意差は認められなかった。しかし、ストレッチング施行による自律神経の推移として、UTに対する%HFは施行前基準値に対し、各対象者ともに上昇する変動が見られ、施行後5~10分にてピークを示し10~15分においても基準値より高位となっていた。UTでのLF/HFでは、施行前基準値に対し各被検者ともに減少を示した。BFでの%HFおよびLF/HFは、施行前基準値と比較して対象者間でのばらつきが大きく、基準値よりの上昇は確認できなかった。
【考察】
UTとBFに対するストレッチング施行による自律神経の変化において、UTが%HFの上昇とLF/HFの減少より、副交感神経系である心臓迷走神経が優位となる傾向を示した。BFについては副交感神経の優位な変化は見られなかった。UTに対するストレッチングでは筋伸張に伴うリラクゼーション効果にくわえ、頚部に位置する迷走神経背側核への刺激につながり、迷走神経を刺激した可能性も考えられる。今回の傾向より対象者を増やし更なる検討が必要と考える。
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森 稔晴, 松山 拓史, 井手 満雄, 小西 隆洋, 三木 克彰, 達城 大
セッションID: 046
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【目的】
腰椎疾患は発生頻度が高く病態も様々である。そこで今回、 なかでも腰椎椎間板ヘルニア(以下LDH群)と 腰部脊柱管狭窄症(以下LCS群) に着目し、大腰筋、腰椎後方筋群と、腰椎アライメントの関係について検討し報告する。
【対象】
当院にてMRIとX線で撮影可能であった25例。うちLDH群13名(平均46.3±11.8歳)、LCS群12名(平均68.7±9.1歳)とした。
【方法】
MRI画像を用いてL4/5高位で横断された左右の大腰筋(以下Psoas)・腰椎後方筋群(以下PVM)断面積を測定した。またX線を用いて腰椎中間位側面像でL1椎体上縁とL5椎体上縁とのなす角を腰椎前彎角(以下LLA)として測定した。LDH群とLCS群でのPsoas、PVM、LLAの有意差と各群におけるPsoas、PVMと LLAの相関関係の有無について分析した。なお筋断面積は体重で除した数値を用いた。統計処理はt検定とPeasonの相関係数を用い検討した。
【結果】
LDH群ではPsoas断面積平均3.87±1.21cm2/kg。PVM断面積平均7.12±0.65cm2/kg。LLA21.6±10.5°。LCS群ではPsoas断面積平均3.58±0.86cm2/kg。PVM断面積平均7.60±0.84cm2/kg。 LLA平均26.7±8.0°。それぞれに有意差、相関関係はなかったが、LDH群においてPVM断面積に低値を示す傾向がみられた。
【考察】
LDH群とLCS群では有意差は認めなかった。しかし腰椎アライメントでは、疼痛や痺れなどの誘発姿勢や回避姿勢が相反するため、姿勢の違いからLLA角において両群間で差が生じる傾向が見られた。筋断面積では、加齢とともに低下傾向にあるとされている。 Psoasにおいては平均年齢の高いLCS群が低値を示す傾向が見られた。PVMにおいては、計測したL4/5高位のPVMは50%から80%多裂筋が占めているとされ、その機能は脊柱伸展のための強い筋出力よりも腰椎椎間関節の適合と腰椎の屈曲に抗した調和による脊柱の安定に関与するとある。 今回平均年齢の低いLDH群が低値を示す傾向がみられたことからLCS群に比べよりLDH群では多裂筋へ及ぼす影響が大きいことが示唆された。
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~起き上がりと立ち上がりの共通点に着目して~
小川 知己, 山崎 真美, 船元 都子, 荒木 那美
セッションID: 047
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】
立ち上がり動作の際、大腿広筋群がうまく機能せず立ち上がり動作に不安定さがみられる症例を経験した。上肢での支持がなければ立位保持不安定であり、抗重力肢位における訓練は困難を要した。そこで立ち上がりと起き上がり動作の共通点に着目し起き上がり動作にアプローチした結果、大腿広筋群がうまく機能し、安定した立ち上がり動作の獲得に繋がったので以下に報告する。
【症例紹介】
77歳男性。当施設デイケア週2回の利用。現在、既往として脳梗塞後遺症(左片麻痺)を持ち6年経過。
【理学療法評価】
MMT(Rt/Lt)は大腿四頭筋(4/4)、腸腰筋(2/2)、大殿筋(3/3)。BRS上肢V、下肢IV。左右大腿直筋、大腿筋膜張筋の過緊張。左右大腿広筋群の萎縮(+)。
【動作分析及び臨床推論】
端坐位から立ち上がる際、殿部離床直後重心は足底よりも後方に位置し、それを代償するため上肢を後方に接地。その後、正常であれば重心を上方に持ち上げるために、股・膝関節の協調した伸展が生じるが、本症例では股関節伸展のみが先行し、膝関節軽度屈曲位のままであった。最終肢位である立位においても、膝関節伸展は不十分であった。
殿部離床後の膝関節伸展が不十分である理由として、正常であれば、大腿広筋群により膝関節を安定させることで股関節と膝関節の協調した伸展が生じる。しかし、本症例は大腿広筋群の機能不全のため、膝関節の安定化を大腿直筋により代償していた。この代償方法では膝関節を軽度屈曲位に保つ必要があるため、股関節伸展のみが先行する立ち上がりになると考えた。結果的に、重心が後方へ偏位した立位姿勢となり立位保持が不安定になっていると考えた。
次に、on elbowを経由する右への起き上がりをみると、下肢の重みを提供するための大腿と下腿の連結を大腿直筋にて連結していたため、膝関節が屈曲位であった。従って大腿と下腿を連結するための大腿広筋群の機能低下があると考えられ、この点が立ち上がりとの共通の問題点であると考えた。
【理学療法アプローチ】
on elbowを経由した起き上がり(体幹が屈曲・回旋する際に大腿四頭筋の収縮強調)
【結果】
起き上がりにおいては、大腿と下腿の連結が得られるようになったため、膝関節の伸展がみられるようになった。立ち上がりにおいても、股関節屈曲に合わせて大腿広筋群の収縮がみられるようになり、大腿と下腿の連結が得られた。その結果、股・膝関節の協調した伸展が得られ、安定した立ち上がり動作の獲得へと繋がった。
【まとめ】
障害を持つ高齢者の場合、抗重力姿勢での活動に不安定を要する症例が多く、立ち上がり動作の訓練に難渋することも多い。そのような場合、起き上がりと立ち上がりでの共通する問題点を分析し、立ち上がり訓練の一手段として、起き上がり動作にアプローチすることも有効であると考える。
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荷重割合の違いが身体に与える影響
新保 千尋, 松田 友秋, 窪 昌和, 児玉 興仁, 榎畑 純二, 福田 秀文, 福田 隆一, 野元 佳子, 久松 憲明
セッションID: 048
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【はじめに】
Step動作は歩行の前段階として、動作時の対応やその際の下肢・体幹の姿勢を評価・再現する目的で行える有効な動作である。この動作を課題とした先行研究では、開始肢位での両下肢の荷重割合は任意で行われており、荷重の偏りが動作に与える影響を検討した研究は少ない。
今回、我々はStep動作の部分的要素であるStep位での前方重心移動動作にて、開始肢位での両下肢の荷重割合の違いが、身体に与える影響を検討したので報告する。
【対象・方法】
対象は、健常男性8名16側(平均年齢は23.9±2.6歳)。
方法の概要は、Step位で両膝関節伸展位、両下肢を接地させた状態での前方重心移動動作を測定課題とし、開始肢位での前方下肢にかかる荷重量を体重の60%(以下、前方荷重位)と体重の40%(以下、後方荷重位)の2条件に設定し比較した。
撮影は前方下肢側方より、動作開始時・終了時に行い、得られた画像より、床面を基準とした空間座標軸に対する体幹(肩峰‐ASIS)の傾きを体幹傾斜角、骨盤(ASIS‐PSIS)の傾きを骨盤傾斜角、大腿軸(大転子‐膝関節裂隙)の傾きを大腿傾斜角とした。また前述のランドマークを元に骨盤に対する体幹の相対角度を体幹屈曲角、骨盤に対する大腿軸の相対角度を股関節屈曲角とし計測した。
統計学的処理は、開始肢位と終了肢位の各傾斜角度とその角度変化量(終了-開始)を検定項目とし、2条件間の比較を、対応のあるt検定・Wilcoxon符号付順位和検定を用いて検討し、危険率5%未満を有意水準とした。
【結果】
1)開始・終了肢位ともに床面を基準とした全ての傾斜角度の前方傾斜が前方荷重位で大きかった(p<0.05)。
2)骨盤を基準とする相対角度において、開始肢位では体幹・股関節屈曲角が前方荷重位で大きかったが、終了肢位では統計学的有意差を認めなかった(p<0.05)。
3)角度変化量において、前方荷重位は床面を基準とした全ての傾斜角度と、股関節屈曲角 の伸展方向への変化量が少なかった(p<0.05)。
【考察】
結果1)より、前方荷重位で床面を基準とした全ての傾斜角度の前方傾斜が大きいことから、前方下肢への荷重の偏りは床面に対して身体を前方へ傾ける要因となることが考えられた。
結果2)より、開始肢位では、身体の傾きを体幹・股関節の屈曲で対応しているのに対して、終了肢位では体幹・股関節の対応に個人差が推測された。
結果3)より、前方荷重位では動作の運動範囲やこれを制御する股関節伸展活動を阻害することが考えられた。
以上のことより、動作開始時の前方下肢に荷重の偏りがある場合は、非効率的な代償運動・身体制御などが生じやすいことが推測された。
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白木 信義, 生駒 成享
セッションID: 049
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【目的】
歩行を含め日常生活において方向転換を行う場面は多く,荷重位での股関節回旋筋の果たす役割は大きいと考える.しかし方向転換における動作特性の把握は十分であるとはいえず,また,方向転換と股関節回旋筋の関連についての報告はまだ少ない.今回,荷重位股関節回旋筋活動と方向転換の関連を股関節外転筋活動条件の違いから調査,方向転換の動作特性把握のための一指標を得ることを目的に研究を行い若干の知見を得たのでここに報告する.
【方法】
下肢に変性疾患,疼痛のない健常男性10名20脚(平均年齢24.1±2.2歳,平均身長175.8±4.8cm,平均体重68.4±6.9kg)を対象とし,対象には本研究の目的,内容を説明し同意を得た後に測定を行った.測定は平行棒内片脚立位にて支持側下肢と同側上肢支持,対側上肢支持の2通りとし,支持側股関節を内旋,外旋させ,非支持側ASIS1横指内側,PSIS1横指内側に加わる力をそれぞれ日本メディックス社製コマンダーPower Track IIを使用し測定した.支持側下肢と同側上肢支持の状態で非支持側ASIS,PSISへの抵抗の順に各2回,その後,対側上肢支持で同様にいずれもmake testで約5秒間の最大努力による等尺性運動を30秒以上間隔をあけて実施,平均値を体重で除し体重比とした(単位:N/kg).上肢支持の違いによる荷重位内旋筋力,外旋筋力を比較検討するため対応のあるt検定を用い危険率5%を有意水準とした.
【結果】
内旋筋力は同側上肢支持0.91~1.62,平均1.20±0.17N/kg,対側上肢支持1.06~1.77,平均1.40±0.18N/kgとなり,対側上肢支持による内旋筋力が有意に高値を示した(p<0.01).外旋筋力は同側上肢支持1.04~1.62,平均1.28±0.19N/kg,対側上肢支持1.11~1.74,平均1.43±0.21N/kgとなり,対側上肢支持による外旋筋力が有意に高値を示した(p<0.01).
【考察】
重心と関節モーメントとの関係を説明したPauwelsの理論にあるように,片脚立位時の股関節外転筋出力は上肢支持,体幹アライメントの影響を受ける.その理論を応用した対側上肢支持による前額面における外転筋出力低下と,水平面における股関節回旋筋出力効率化との関連性が本研究から示唆された.片脚立位時,対側上肢支持により支持側中殿筋,小殿筋,大腿筋膜張筋の筋出力は低下,支持側股関節内旋への抵抗により中殿筋前部線維,小殿筋前部線維,大腿筋膜張筋は前額面における骨盤水平位保持に要する筋力を内旋筋力へ転換可能となり,同様に外旋において大殿筋,中殿筋後部線維,小殿筋後部線維の筋出力は増加した可能性が考えられる.また股関節側方安定化に要する内転筋群の内旋補助筋としての筋出力動員,股関節求心位保持のために働く股関節深層筋による外旋への筋出力動員が可能になったと考える.本研究より,荷重位,水平面における股関節回旋筋活動の効率化に前額面における股関節外転筋活動が関与していることが示唆された.
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多裂筋に着目して
三浦 恭平, 永井 良治
セッションID: 050
発行日: 2009年
公開日: 2009/12/01
会議録・要旨集
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【目的】
近年,腹横筋や多裂筋といった体幹深層筋に着目した脊椎の分節的安定性のためのアプローチが注目されている.しかし体幹深層筋の活動を体表面から評価することは困難である.
MRIは、特に運動後、骨格筋の水分布における変化に敏感で,簡便に,そして,非侵襲的にこれらの変化をとらえることが可能である.このような特徴から,多裂筋の収縮をMRIのT2強調画像によって捉えることが出来るかを検証することを目的とした.
【方法】
対象者は腰痛症などの既往がない7名の健常男性,平均21.5歳(20-22)とした.対象者には研究内容を書面及び口頭にて説明し,同意を得た.多裂筋のトレーニング方法は背臥位で膝90°屈曲位,水銀圧計のカフを第2仙椎にあて,圧を40mmHgにあわせた状態で行った.圧を一定に保ちつつ,一定の速度で膝関節の屈伸運動を20分間実施した.測定前には十分な練習を行い休息後に実施した.
使用装置はGE横河メディカルシステムのMRIを用い,撮影法はSigna HDeであった.撮影条件は1.5T,TR:2000/TE:20であった.撮影したMRI画像より第4,5腰椎横断面での多裂筋の表層部と深層部の信号強度を知るためにROI(Region of Interest)を2箇所設定した.統計処理は対応のあるt検定を用い,有意水準5%未満とした.
【結果】
多裂筋の運動前の表層信号強度は20.5±5.7,運動後は21.2±4.3であり,深層強度信号は運動前16.3±4.1,運動後16.6±5.5であった.トレーニング前後におけるMRI信号強度の有意差は認められなかった.
【考察】
筋を収縮させる際,栄養素を主としてATPが産生され,必要なエネルギーを得,このとき,最終産生物としてCO2とH2Oにまで酸化分解される.この際に産生された筋細胞内のH2Oの量的変化を,MRIT2強調画像における信号強度の変化で捉えることが出来るという報告が存在している.また,MRIの変化は筋活動により起こった筋細胞内外の自由水の移動によるもので,炎症や疲労によるものではないという報告もある.
本研究で用いた多裂筋のトレーニング法は,超音波により筋収縮が確認されており,また手法として特殊な機器や高い技術を使用せず実行できる.
本研究ではMRIによる多裂筋の強度信号の変化を捉えることはできなかった. Fotedarらは運動による水分量と筋活動について,腓腹筋に対して5%,10%,20%の等尺性最大収縮を施行し,20%MVCレベルにおいて筋活動と相関を認めたと報告している.つまり今回用いた多裂筋を収縮させる運動は,20%MVCに満たない低負荷トレーニングであったため,MRI T2強調画像による変化を捉えることが出来なかったと考えた.
今後,抵抗量を調節し,どの程度の負荷でMRI T2強調画像の変化を捉えることが出来るかを検証していきたい.
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