九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
Online ISSN : 2423-8899
Print ISSN : 0915-2032
ISSN-L : 0915-2032
第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
選択された号の論文の389件中51~100を表示しています
  • 野島 麻裕, 興呂木 祐子, 藤本 茂雄, 野尻 麻希, 増岡 鮎美, 平田 好文, 大隈 秀信, 浪本 正晴, 永井 邦子, 堀尾 愼彌
    セッションID: 51
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    今回、両聴神経鞘腫術後に四肢体幹の強い失調を呈し、ADL全介助である児を経験した。本児に合った机(以下:机ティ)を作製し、食事動作に関連した課題練習時及び病棟での食事場面へ導入した事により、食事動作向上が見られたため以下に報告する。尚、本人・家族には本報告に関し十分説明し、同意を得ている。
    【症例紹介】
    9歳女児、聴神経鞘腫術後。障害名:失調症、右片麻痺、ADL障害。術後CTにて小脳出血有り。1)STEF:実施不可能。2)鼻指テスト:失調強く(右>左)、測定障害あり。3)Chailey姿勢能力発達レベル:床上座位2、椅子座位2(四肢体幹の急激で不規則な動揺により、座位保持装置なしでは座位保持困難で、上肢の保護伸展反応も乏しいため頭部から転倒し非常に危険な状態であった)。4)食事動作:FIM[34/126(食事:1)]座位保持装置上に体幹をベルトにて固定され、全介助で食べていた。5)WISC-_III_(言語性のみ):VIQ85。父親のNeeds:食事・排泄が一人で出来るようになって欲しい。
    【方法】
    自発的な食事を促すために、食事姿勢を検討した。本児の上肢操作を阻害する要因として、下肢の過剰運動、体幹・頭部の不安定性、後方に重心が移動した際姿勢コントロールが不能になる事が挙げられた。この3点に注目し、検討した結果、割り座で机に前にもたれる姿勢が最も上肢の操作性が上がった。よって、この姿勢を再現すべく机ティを作製した。机ティは、体幹サポート(接触支持面の増加)・下顎サポート(頭部安定性向上)・右上肢で把持するグリップ(末梢安定性向上)が装着されており、割り座で臀部に枕を敷き(下肢の過剰運動抑制)使用するものである。食事動作に関連した課題練習時及び病棟の食事場面で机ティを導入し、1ヶ月半経過を追った。
    【結果】
    開始時と比べ3)は床上座位3、椅子座位3、4)はFIM[62/126(食事:3)]となり、机ティ上on elbow支持、右上肢で食器を押さえる、左手にてすくう等の食事動作が向上し、半分は自力で摂取可能となった。
    【考察】
    小脳性運動失調においては、安定した物に触れたりする事で運動出力を制限し、運動失調症状をコントロールする事ができると報告されている。今回作製した机ティを用いる事で、体幹・下顎サポートと床上にしっかりとした支持面を得、適切な姿勢調整が可能となり、それにより運動失調の出現を抑えた上肢操作の再学習が促されたのではないかと考える。机ティは、安価で作製容易、持ち運び可能で親でも簡単に設定でき、装着感や見た目も本児の意見を取り入れたため、病棟でも積極的に使用できた。反面、運用し易さを優先したため、本児の運動失調を抑えるには若干強度・重さの不足があった。その点と、本児の状態の変化を考慮した改良が今後の課題と言える。
  • 健常学生を対象として
    押川 武志, 小浦 誠吾, 小川 敬之, 岩谷 清一
    セッションID: 52
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    車いす上で起こるずれは,痛みの原因や褥瘡の発生,さらには転落などにつながり,シーティングで問題視されている.そこで日本シーティングコンサルタント協会(以下,JSSC)では「ズレ度」を評価する基準を設けた.これはシーティングの効果検証や再評価時の指標に繋がるものであるが,「ズレ度」の増減が身体機能や精神機能に与える影響についての基準はまだ明確にされていないのが現状である.
    【目的】
    今回,健常学生(以下,学生)に協力を依頼し,ズレ度の増加が上肢機能にどのように影響するのかを車いす20m走行(上肢のみの走行)の実施時間の比較により,ズレ度と車いす駆動に与える影響を明確にすることを目的とした.
    【対象】
     本学所属の学生30名(男性12名,女性18名)平均年齢19.18±0.46歳に対して実施した.なお,倫理的配慮として対象者全員に研究の趣旨および説明を十分に行い,同意書に署名を得たうえで本研究を実施した.
    【方法】
    車いすの設定は,JSSCの基準に基づき対象者個人の身体状況にあわせて設定した.使用した車椅子はモジュラー型車いす(レボネクスト:ラックヘルスケア_(株)_)を用いた.前記の設定をすべて満たした上で,「ズレ度なし」,「ズレ度5%」,「ズレ度10」「ズレ度15%」「ズレ度20%」のそれぞれのズレ度において20mの車いす駆動し所要時間を計測した.計測にあたり,学習効果の影響を防ぐために,実施する順番をズレ度なしから開始するグループ,ズレ度20%から開始するグループの人数が同じになるように行った.
    統計処理は,Stat View5.0を用い,ズレ度なしとズレ度5%から20%の比較を行った.なお,有意水準は5%未満とした.
    【結果・考察】
     ズレ度なしとの比較において,ズレ度15%・20%において所要時間に有意差が認められた.今回の研究では,ズレ度15%以上になると車いす駆動において支障をきたすものであることが明らかとなった.
     廣瀬らは両手でハンドリムを操作する手法を,_丸1_手をハンドリムまたはタイヤの11時のところをつまみ,_丸2_前方の2時のところまで駆動し,_丸3_手を11時のところに戻す3相に分類している.しかし,ズレ度の増加により肩関節伸展方向の制限が著明となること,さらにバックサポートが肩甲帯の可動性を制限することも原因と考えられる.
     今回の対象者は健常学生であり,対象者によっては,今回のズレ度15%よりも早い段階から影響がでることが予想されるが,ズレ度が車いす駆動に与える影響の1つの指標になり得ると考えられる.
     今後,対象者を増やし信憑性を高めると共に,細かいズレ度の検証が必要であり,さらに身長や車いすの種類による分析,ズレ度と簡易上肢機能検査(STEF)との関係,ズレ度と褥瘡との関係についても検証していく予定である.
  • 野間 俊司, 伊東山 洋一, 伊東山 徹代, 中村 智哉, 市坪 明子, 河上 紗智子, 池田 美穂, 千代田 愛美, 松崎 智範, 永田 ...
    セッションID: 53
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    片麻痺の症例が装具を装着する際、ベルトを片手で角環に通す動作は案外難しい。また、利き手が麻痺した例なら更に装着は困難となる。そこで角環に隙間を開けベルトを通し易く抜けにくい、相反する機能を持ったリングを発案した(以下イージーリングと称する)。そこで従来の角環と新たに作成したイージーリングでの装着時間を各々測定し、若干の考察を加え報告する。
    【方法】
    検証を理解し角環とイージーリングと装着について比較検討する事が目的である事を事前に説明し、同意を得た50例(右25・左25例)に行った。下肢BRSは1:0例、2:15例、3:19例、4:14例、5:2例、6:0例で、有効性の判断にはWilcoxonの符号付順位和検定を用いた。
    【結果】
    1) 角環での装着時間は、左片麻痺では13.3~166.1秒(45.0±46.3秒)右片麻痺は19.8~300.0秒(66.0±60.5秒)で 、イージーリングでの装着時間は、左片麻痺では7.8~140.1秒(平均32.2±37.6秒)右片麻痺は9.2~149.2秒(39.3±32.2秒) で、イージーリングの方が、左片麻痺でー4.1~―36.2秒(-13.8±9.0秒)、右片麻痺ではー5.6~―150.8秒(-26.7±30.3秒)と装着時間が短縮され、右片麻痺の症例で効果が著明であった。
    2)全例でイージーリングの有効性(P<0.01)が認められた。
    3)測定終了後、イージーリングから角環に戻す事を説明していたが、角環に戻す事を希望する例は1例もいなかった。
    【考察】
    今回、角環に隙間の開いたイージーリングを創作し、装着時間を計測したところ、全例でイージーリングの方が、装着時間が短縮され、装着し易いという結果を得た。装着が容易になった理由は、差込みから折返しまでベルトを持ちかえる必要が無くなった事が大きい。また、これらの症例の中には装具を作成して以来、初めて自力でベルト装着できた例もおり注目に値する。装具装着を容易にする事で安定歩行を獲得させる事は、転倒のリスクを減少させ歩行能力の維持・拡大のみならず健康維持にもつながる。その事は、在宅療養を継続するのに重要な因子であり、今回完成したイージーリングは在宅療養の継続に貢献できよう。また、今後は、症例の立場に立って装着し易さといった面も視野に入れて、装具の処方がなされる機会が増える事を切望すると共にイージーリングが装具を処方する際の選択肢の一つになれればと思う。
    【まとめ】
    1)脳卒中片麻痺に角環と新たに開発したイージーリングを用い装着時間を検討した。
    2)全例でイージーリングの方が装着時間を短縮できたが、特に利き手麻痺の例で効果が著明であった。
    3)症例の歩行能力をみる際、装具装着時間を考慮する事は有用であると考える。
  • 疑似脳卒中患者歩行分析結果より
    田島 徹朗, 浪本 正晴, 村山 伸樹
    セッションID: 54
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    在宅で過ごす脳卒中患者にとって,歩行機能の維持は必要不可欠な課題となっている.年々,歳を重ねるにしたがい麻痺側機能の低下もさることながら,非麻痺側機能の変化が移動能力低下の鍵となっている.そこで今回,在宅にて脳卒中患者自らが,簡便で歩行機能の維持に有効な訓練方法がないか疑似脳卒中患者を用いて検討し,若干の方向性が認められたので報告する.
    【方法】
    被験者には,歩行に支障をきたす既往ならびに障害を有しない健常人35名(平均21±0.2歳)を対象とした.まず,Aパターンとして,装具を付けない状態での通常歩行をさせ,次にBパターンとして,支柱付き短下肢装具(90°足関節固定)を装着させAパターン同様の条件で歩行測定を行った.さらに,Cパターンとして,Bパターンに加え,非装具装着側の股関節周囲筋に対し,ストレッチを施した後に同様の歩行測定を行った.Cパターンにおける簡便な訓練方法(ストレッチ)としては,ハムストリングス,および股関節内転筋群に対し,徒手にて30秒間持続的伸張を各3回施行した.ストレッチの強度は,あくまでも本人の可動限界点を基準として過剰なストレッチはさけた.歩行測定には,被験者に7mの直線距離を歩いてもらい,途中に埋め込んだ床反力計プレート通過時の連続4歩をもとに光学三次元動作解析システムVicon MX+MX-F20を用いて歩行率,重複歩行距離,重複歩行時間,歩行速度を中心に解析した.検定は,Stat View5.0を用い装具装着側を基準にPaired-t検定を行い,有意水準をP < 0.05とした.
    【結果】
    1)各B,Cパターンごとの歩行率,重複歩行距離,重複歩行時間,歩行速度に左右差は認められなかった.2)次にAパターンのパラメータを基準に各A,B,C間における(i)装具装着側と(ii)非装着側各々における検定を行った.(i),(ii)ともに正常歩行であるAパターンにおいてもっとも良い歩行効率を示すことは言うまでもないが,次に効率の良い数値を示したのは,両側ともにストレッチを加えたCパターンで,A,B値のほぼ中央に位置していた.つまり,介入効果の有効性が各歩行率,重複歩行距離,重複歩行時間,歩行速度において認められた.(P<0.05)
    【考察】
    疑似脳卒中患者の歩行において,非装具装着側における簡便な股関節筋群のストレッチにより,その歩行機能に良好な影響を与えることが確認できた.つまり,単純片麻痺患者が残された上肢を用いて,自ら非麻痺側下肢を入念にストレッチする方法は,その機能を最大限に発揮させ,歩行機能の維持に少なからず良好な対策になりうると推察される.また,装具装着にも拘わらず左右差が生じなかったことより,制限を有する側に健常な機能が自動調整され,常にバランスのとれた歩行へと補正が働くことが確認できた.しかし,以上の結果はあくまでも健常人による疑似脳卒中患者の歩行であるため,維持期における脳卒中患者に直接同様の訓練方法を施行し,その効果についてのさらなる検証が必要である.
  • 起居動作に注目して
    内間 紗貴子, 親泊 真奈美, 久貝 明人, 石川 丈, 平 敏裕
    セッションID: 55
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    今回、同一の症例について、回復期リハ病棟から訪問リハまで継続して担当する機会を得た。在宅復帰後に介助量が軽減した起居動作に焦点をおき、入院中のアプローチ内容を振り返り考察を加え報告する。尚、今回の発表に際し、症例及び家族に説明し承諾を得た。
    【症例紹介及び生活背景】
    60代女性。H20.7に右被殻出血(左片麻痺)。翌月に当院へ転院しH21.2に自宅退院。運動麻痺(BRS_II_-_II_-_II_)、感覚障害(麻痺側重度鈍麻)は、入院時から著変なし。失語、注意・記憶障害を認め、また、依存心が強い事もありADLは中等度以上の介助が必要(FIM入院時27点→退院時46点)。夫と息子2人の4人暮らしだが、主介護者は70代の夫(腰痛持ち)。
    【経過】
    回復期リハでは、「夫1人の介助でも起居、移乗、トイレ動作が安全にできる」事を目標とし、病棟での反復練習及び端座位や立位での機能的な練習を並行して行った。移乗及びトイレは介助量が軽減し、H21.1頃から夫1人の介助で可能となったが、起居は改善が難しく、夫への具体的な介助指導は退院約3週前からの取り組みとなった。
    退院2日後より、40分の週2回で訪問リハ開始(他サービスは通所リハ週3回)。退院10日後より夫の腰痛が悪化。原因は、介助量が増加している事と、症例の依存心による過剰介助と思われた為、症例への起居動作の再指導に重点をおき、並行して夫の介助方法変更も行った。約4ヶ月後、退院時よりも起居動作の介助量が軽減し、約5ヵ月後より夫の腰痛も軽減を認めた。
    【考察及びまとめ】
    在宅での起居動作は、入院中の指導内容が徹底されておらず、体幹伸展や非麻痺側での過剰努力が強まり介助量が増していた。入院中は、起居動作の根本の問題を「腹部筋活動が不十分」と捉え、座位や立位にて体幹伸展位での活動を通して促通していたが、訪問リハで体幹回旋や非麻痺側上肢の練習を重点的にアプローチした後に、入院中よりも介助量が軽減した事から、起居動作に対する視点の足りなさに気付かされた。また、在宅復帰後は、回復期リハ病棟と比較すると少なからずリハの頻度や質が低下する事による症例自身の機能低下を予測して関わる事が不十分だった事や、依存の強い性格から、過剰介助にならないよう写真での解説を作成する等、夫の腰痛への配慮も不十分であった事を痛感した。今回の経験等を今後に生かし、家族の介護負担軽減も踏まえ広い視野で症例に関われるよう努力したい。
  • ~食事動作を中心に~
    山中 留美, 牛津 智美, 中村 早央里
    セッションID: 56
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回、明らかな麻痺は認めないが、記憶障害、注意障害、全失語により、ADLの全てに全介助を要する重度高次脳機能障害を呈した症例を担当した。食事を中心とした関わりの中で、ADLや認知機能に若干の改善を認めたので考察を加え報告する。
    【症例】
     80代、女性。病前は夫と二人暮らし。階段から転落し頭部外傷を受傷。頭部CTにて両側頭葉、左頭頂葉、前頭葉、両側ACA(A2)にかけて梗塞を認め、X+49日に当院回復期病棟へ入院となった。介入当初、自発語がなく、無気力・無反応で評価のための認知課題が困難であったため、日常の行動観察を中心に評価を行った。FIMは18点で、寝返りのみ可能であった。
    【治療介入】
     介入当初は一点を見つめ、食物を全く見ようとしなかった。自発的動作も全く見られず、徒手的なアプローチに対して強い抵抗感があったため、食事動作としては全介助を要した。介入当初より、病棟スタッフや夫と協力し、毎日・毎食時症例に対してハンドリングを繰り返し行った。症例が把持しやすいグリップ付きのスプーンを提供し、すくう動作の開始時には必ず名前を呼ぶなど、症例の反応と動作を引き出すために最も良い方法を検討し、病棟とも関わり方を随時統一した。変化が見られた際は、手を握ったり拍手をしたりして正のフィードバックを与え、情緒的・身体的刺激が加わるように接した。また、症例の潜在的能力をできるだけ引き出すよう、他患と触れあう機会の多いレクリエーションの参加や自宅への外出訓練も取り入れた。
    【経過・結果】
     X+79日に治療者が症例の手をスプーンの方へ誘導すると、自力でスプーンを把持し、口まで食物を運ぶことが可能となった。X+102日には自発的にスプーンや皿、椀、湯飲みを正確に把持し、8割の自力摂取が可能となった。また、簡単な質問に対し首を縦・横に振るなどの表出が可能となり、意思表示が可能な時には、『トイレ』『ありがとう』『ちょっと』などの言葉が聞かれるようになった。更に、X+120日の外出訓練をきっかけに笑顔が増え、不明瞭ではあるが自分の思いを伝えようと、積極的に文章化した言葉を表出するようになった。FIMは33点へと向上した。
    【考察】
     今回、食事に焦点を当て関わった結果、覚醒や自発性等の認知機能の向上やADLの改善が得られた。これは、食事での味覚刺激による大脳辺縁系の活性化により、覚醒や自発性の向上が図られ、最終的に食事動作能力の向上につながったのだと考える。一つ一つの成功体験をフィードバックし、症例が情緒的に安定したことに加え、チームでの効果的な食事動作の反復練習を行ったことも今回改善に至った要因ではないかと考える。今後も症例の回復を決して諦めず、チームで根気強く統一した方法で取り組んでいきたい。
  • 廣川 琢也, 松元 秀次, 上間 智博, 種田 沙織, 野間 知一, 川平 和美
    セッションID: 57
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     脳卒中患者の体幹機能は,起居動作や歩行,日常生活動作において重要性が指摘されているがエビデンスに基づいた治療効果は示されていない.促通反復療法は脳卒中片麻痺に対する治療法として上肢(鎌田:作業療法 2004)や下肢(Kawahira K:J Rehabil Med 2004)において有効性が報告されている.本研究の目的は,体幹の促通反復療法が脳卒中回復期における体幹機能の改善を促進するかランダム化比較試験(RCT)を用いて明らかにするものである.
    【方法】
     対象は脳卒中患者9名(男性6名,女性3名,年齢66.3±6.4歳,脳梗塞4名,脳出血5名,罹病期間7.8±2.0週)である.あらかじめ重度の高次脳機能障害は除外し,対象者には研究の説明を行い同意を得た.研究デザインはsingle blinded RCTとした.A群は体幹の促通反復療法群とし体幹回旋・側屈パターンを1日に各100回実施し,B群は対照群とした.両群ともに従来のリハビリテーションは週5日,8週間実施した.評価は徒手筋力測定器(OG技研製)による体幹回旋筋力,Computerized Trunk Exercise Assisting System(鹿児島大学工学部作製:以下,C-TEAS)による運動時間誤差,Functional Assessment for Control of Trunk(以下,FACT),Berg Balance Scale(以下,BBS),Functional Reach Test(以下,FRT),10m歩行速度,Functional Independence Measure(以下,FIM)を用い介入前,4週後,8週後に行った.評価は治療内容を知らない他施設の者が行い盲検化した.
    【結果】
     両群ともに8週後は体幹回旋筋力,C-TEASによる運動時間誤差,FACT,BBS,FRT,10m歩行速度,FIMのいずれも改善がみられた.両群の改善度を比較したところ体幹回旋筋力,BBS,歩行速度は4週後,8週後ともにA群の改善度が大きかった.FACT,FRT,運動時間誤差は4週後にA群はB群に対して大きい改善を示したが,8週後は両群間で差を認めなかった.
    【考察】
     体幹の促通反復療法は,従来の訓練よりバランス能力や歩行能力を改善させる可能性が示唆された.先行研究によると脳卒中患者の体幹機能はバランス能力や歩行能力と正の相関があることが報告されている(Verheyden G:Clin Rehabil 2006).今回,A群はB群に比べ改善度が大きかったのは,体幹の促通反復療法により骨盤周囲の随意性が高まり体幹回旋筋力に差を認めたと考える.そのことにより骨盤の安定性や操作性が向上しバランス能力や歩行能力の改善に繋がったと推測される.今後さらに症例数を増やし体幹訓練の有効性を検討していきたい.
  • 歩行獲得までの経過と重心動揺に着目して
    山下 早百合, 大田 瑞穂, 涌野 広行, 田原 友紀, 渕 雅子
    セッションID: 58
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    重度感覚障害と重度機能障害を呈した片麻痺患者一症例に対し、歩行獲得を目指しアプローチを行った。動作訓練の中で感覚障害に治療介入を行ったことで、早期の機能回復につながった。歩行獲得までの過程に、当院で定期に行っている重心動揺検査の結果を加えて考察し報告する。なお、本症例報告は対象者に説明し同意を得た上で行った。
    【症例紹介】
    60代女性。平成22年1月末に左視床出血(脳室穿破)を発症し、右片麻痺、失語症を呈した。同年2月末に当院入院、回復期病棟にてリハ開始した。職業は医療事務で、家族は夫と二人暮らしであった。
    【開始時評価】
    Br.stage上肢2‐手指3‐下肢3。感覚表在軽度鈍麻、深部重度鈍麻。基本動作は起き上がり重度介助、座位見守り、立位時強い恐怖感を訴え、立位・移乗動作に重度介助を要した。日常生活は食事見守り、整容一部介助、その他全介助を要し、FIM43点であった。高次脳機能障害は右半側身体失認等を認めた。Needsは一人でトイレに行くことであった。
    【治療・経過】
    以下開始時から3週後をA、6週後をB、8週後をCと記す。
    開始時は動的な座位バランス不良で端座位に見守りを要した。立位では上肢の支持を外すと麻痺側にバランスを崩し、非麻痺側の代償で姿勢を保持していた。麻痺側下肢が持続的に伸展できず、膝が屈曲しても認識できなかった。感覚障害が恐怖感や立位バランス低下の原因となっていると考え、治療を行った。両側で支持した立ち上がり動作訓練を行ったことにより、Aの時期には60秒間の立位保持が可能となった。しかし、閉眼では立位不可であった。さらに感覚入力を促すため、麻痺側下肢支持のステップを行ったことにより、Bの時期には上肢支持でステップができ、移乗動作が見守りで可能となった。次に、下肢の中間位でのコントロールを促すため、上肢で上から下方へ物品移動を行ったことにより、Cの時期には支持なしでステップが行え、10m歩行が軽介助で可能となった。A~Cの時期に60秒間静止立位で重心動揺計測を行った。総軌跡長(以下LNG、単位cm)、外周面積(以下ENV、単位cm2)をA→B→Cの時期で示す。開眼ではLNG(116→135→144)、ENV(6.9→4.1→4.7)、閉眼ではLNG(不可→246→208)、ENV(不可→10.9→7.9)となった。
    【考察】
    本症例の主要問題を感覚障害と考え、初期からの介入により、早期の機能獲得につながった。機能獲得の時期における重心動揺の結果から、Aの時期には麻痺側の感覚入力が乏しく、開眼でも非麻痺側中心の狭い基底面となっていた。Bの時期には麻痺側でも支持したより広い基底面となったが、麻痺側支持の片脚立位は上肢の支持を必要とし、麻痺側の不安定性によりLNGは増加したと考える。大きな動揺が減少したため、ENVは減少したと考える。BとCの時期には閉眼でLNG・ENV共に減少したことから、感覚を用いた姿勢制御が改善したことが考えられる。機能獲得の時期で重心動揺計測を行うことにより、本症例では開眼と閉眼の数値の差と変化が問題点抽出と治療立案の根拠となった。
  • ~重症症例の在宅復帰に向けて~
    牟田 沙織
    セッションID: 59
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    患者が在宅復帰するにあたり、患者や家族、関わるスタッフが入院時より具体的な退院後の生活のイメージを構築することは重要なことである。また、イメージを構築することにより、在宅で安心して暮らし続けられることに繋がる。その為には、患者の起こりうる生活機能面の低下を含め、家族へ介護負担について説明し、理解を深めた上で退院を進めなければならない。
    今回、重症症例を担当し、家族指導をはじめ、在宅復帰後に利用する各サービス担当者との情報交換を家族と共に行ない、イメージの構築を図った。また、退院4ヶ月後に、退院後アンケートをもとに自宅への訪問を実施したので、以下に報告する。
    【症例紹介】
    80歳代、女性。H21年に視床出血を発症し、右片麻痺重度、基本動作やADL動作全て全介助。3食経管栄養。MRSA(+)。H16年に左中大脳動脈梗塞発症、失語症を呈し、コミュニケーション困難な状態であった。次女と二人暮らし、長女夫婦が隣に住む。家族のdemandは「一緒に暮らしたい」。
    【経過】
    H21年3月初旬当院入院。(回復への期待が大きく、介護についても楽観的。)症例の状態の説明を適宜行ない、理解を得る。
    同年6月初旬胃瘻造設。自宅への訪問を実施し、住宅環境へのアドバイスを行なう。(症例の予後について、理解し始め、在宅での生活のイメージがついてくる)
    同年7月初旬頃より、病棟スタッフにより、オムツ交換等の介助指導実施。リハビリスタッフにより、移乗等の介助指導を実施。福祉用具の選定。(介護について、徐々に理解が深まる。)
    同年8月頃より、在宅復帰後に利用する各サービス担当者への情報交換を家族と共に実施する。(症例と家族の、より現実的な生活のイメージを構築させた。)
    同年9月下旬退院。
    H22年1月初旬、状況確認のため、アンケート送信。
    同年1月中旬アンケート返信あり。
    同年2月初旬退院後訪問を実施。
    【まとめ及び考察】
    当初より、家族の熱心さと期待により、家族が症例に負担をかけている様子や介護負担について楽観的な様子が見受けられた。しかし、家族が実際に介助を行ない、経験を重ねることにより、在宅後の生活のイメージを構築させることができた。退院後、症例と家族が各サービス担当者の支えと共に、大きな介護負担なく、楽しく「暮らし続け」ており、入院時のイメージに近いものであった。これは、家族とスタッフが情報共有を行ない、在宅復帰後に起こりうる生活機能面の低下や介護負担も含めた生活のイメージを入院時より構築させていった結果であると考える。また、家族や症例と共に在宅復帰後の生活や障がいについて、理解を深めた上で退院を進めることも重要であると考える。
  • 腰痛症へのPNFアプローチ
    山崎 博喜
    セッションID: 60
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    今回、先天性臼蓋形成不全が既往にある腰痛症患者を担当した。PNFを用いて股関節にアプローチを行い、しゃがみ込み動作の改善が図れたので報告する。
        【初期評価】
    ・疼痛:
    static:下位腰椎椎関関節周囲から多裂筋部  VAS3,1cm
    motion:脊柱屈曲時に多裂筋部VAS:3,2cm 伸展時に下位腰椎椎関関節周囲 VAS:5,2cm
    tenderness:多裂筋全体 VAS:4,4cm
    ・整形外科test: Thomas test(+) Ober test(+)
    posterior-lumber flexibility test(+)
    ・ROM test:左股関節屈曲100°内旋:35°外旋:25°前屈:25° 後屈20°
      SLR-test:右70°左55° ・MMT:左股関節4レベル  FFD:+15cm
    ・機能的制限:しゃがみ込み動作
    【仮説】
    症例の機能的制限から、スクワッティングテストを実施した。その際、体幹直立位にてのしゃがみ込み動作となる。Gaillietらは腰椎-骨盤リズムにおいて、全脊柱屈曲の75%は腰仙部で可動すると報告している事から、体幹の屈曲-伸展は下位腰椎に依存する。症例は既往歴により、股関節周囲筋群の弱化と可動域制限が出現している。しゃがみ込み動作時、骨頭の安定化を高めるために股関節内旋をとり、長期に及ぶ下位腰椎の過可動性を必要とした為、椎間関節へのストレス軽減姿勢となる体幹直立位での動作になってきたと考える。そこで、股関節外旋筋の出力を高め、骨頭の安定化を得る事で、股関節の可動域拡大が図れ、腰椎への過剰な負担が減る事で、しゃがみ込み動作時の疼痛軽減が期待出来ると考えた
    【治療方法】
    仮説より、股関節外旋筋出力向上を目的として、PNFを使用した。方法として、側臥位骨盤前方挙上運動時、刺激に対する反応の広がりとして、下位腰椎屈曲・股関節屈曲が起る。それを利用し、運動側の股関節を90°屈曲位・下肢機能軸垂直位に固定する事で、体幹の収縮を伴いながらの股関節外旋筋収縮を促した。
    【結果】
    股関節外旋筋出力向上に伴い、股関節・骨盤の可動性も向上し、しゃがみ込み動作での疼痛軽減が図れた。
    【考察】
    先天性臼蓋形成不全に伴う股関節外旋筋群の弱化により、股関節共同筋間バランスの不均等が生じ、運動軸が変位した為に関節運動の不安定性が生じたと考える。その結果、腰椎―骨盤リズムが崩れ、しゃがみ込み動作時下位腰椎に過剰なストレスが生じ疼痛原因となっていたと考える。治療として、股関節外旋筋群と腹筋群の収縮を促す事で、骨盤帯を中心とした位置関係にある両筋群の機能を向上させ、骨盤帯の安定性と股関節の可動性が向上し腰椎―骨盤リズムが改善され、しゃがみ込み動作時の疼痛が軽減したと考える。
  • 竹内 明禅, 佐田 直哉, 五十峯 淳一
    セッションID: 61
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     腰痛症患者は臨床で最も多く治療する機会があり、その中で頸部及び胸腰部の回旋方向への可動域制限を認める場合があり、頸椎の環軸関節(以下、C1/2)を治療し可動性を改善することで症候の緩和を認める経験をする。今回、腰痛症患者において頚部可動性と胸腰部可動性との関連性を調査し、C1/2治療後の症候の変化及び胸腰部の可動性の影響について研究を行ったので報告する。
    【対象と方法】
     腰痛群(以下、P群)は外来患者20名(男性6名・女性14名)、平均年齢25.7歳±11.1とし、対照群(以下、C群)は健常成人20名(男性9名・女性11名)、平均年齢30.1歳±7.72の2群とした。
    1.測定器具は東大式角度計を用いて頚部のa.屈曲b.伸展c.回旋d.側屈、胸腰部のe.回旋のROMを測定し、c~eに関しては左右差を算出して2群間を対応のないt検定にて比較検討した。
    2.頸部への治療技術はC1/2回旋に対する接近滑り法を実施し、P群の治療前後のa~eを測定し対応のあるt検定にて比較検討し効果判定を行った。
    3.P群において治療前後でのeに対するa~dの相関係数と治療前後のVisual Analogue Scale(以下、VAS)に対するa~eとの関連性をピアソンの積率相関分析を用いて分析した。
    【結果】
    1.C群と比較してP群のbが有意に減少(p<0.01)、c・d・eが有意に増加し (p<0.01・p<0.01・p<0.01)、頚部及び胸腰部の可動域制限を認めた。
    2.P群において治療前と比較して治療後にc・d・eが有意に減少し(p<0.01・p<0.01・p<0.01)、可動性が改善した。
    3.P群において治療前と後のcはeに対して高い相関を認め (r=0.66・r=0.62)、頚部の回旋制限が大きいと胸腰部の回旋制限も大きく、頚部の回旋制限が改善すれば胸腰部の回旋も改善した。また、治療前のcはVASに対して高い相関を認め(r=0.52)、頚部回旋制限が大きければVASも大きく、治療後のc・eはVASに対して高い相関を認め(r=0.65・r=0.76)、頚部・胸腰部の回旋可動性が向上すればVASは軽減した。
    【考察】
     結果1よりWhite, Panjabiが提示する脊柱の可動範囲から頸椎~胸腰椎の骨運動と関節内運動は四肢関節における運動とは異なる点が多く、動く骨体が軟骨で結合されている為、動きが僅かしか起こらない。しかも、運動分節は上位から下位に向かってドミノ倒しのように順番に動きが起こる特徴を考慮すると上位または下位からの連動性に問題が生じた為だと推測される。
     次にC1/2回旋に対する接近滑り法は頸椎のROMを総合的に改善することができ、特に回旋方向への可動性を向上することで頚部可動性の左右差を軽減し、胸腰部の可動性を増加させ、さらには疼痛の軽減も図ることが可能となった。これは治療対象器官を関節に設定したことで、Mennellが定義する関節機能障害の存在が推測でき、一連の脊柱のROM制限と疼痛の一要因が関節機能障害の関与ではないかと考えられる。
     今回の研究では、脊柱のROM制限と疼痛の関係が密接に関わっていることが分かり、特に頸部回旋運動、胸腰部回旋運動、疼痛との関連性が高いことが示唆された。
  • ~ブラインドウォークを用いての検討~
    二宮 省悟, 宇都宮 司, 森本 将司, 櫟本 浩太郎, 前山 政剛, 鍋島 健太郎, 西原 翔太
    セッションID: 62
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】近年,動的関節制動訓練(DYJOC訓練)に関する研究では,立位による静的バランス・動的バランス共に改善するという報告がなされている。しかし,動的バランスに関しては改善しないという報告もなされている。様々な報告があり,動的バランスの改善を検証するために,今回私達は,DYJOC訓練の中で特に足趾の固有受容器を刺激するタオルギャザーを用いることにより,動的バランスや歩行にどのような影響を及ぼすのか調査した。健常人の歩行における動的バランスに関して,大塚らによると視覚は人の感覚の80%を司っていることを示唆している。そこで,視覚的フィードバックを除いたブラインドウォーク(以下:BW)を実施し,若干の知見を得たためここに報告する。
    【方法】対象者は同意を得られたK大学の健常者11名(男性6名,女性5名,平均年齢21.2±0.7歳)である。実施期間は治療群1週間、コントロール群1週間の計2週間とし,1日計6回のブラインドウォークを行った。少ないデータ数の為,対象者全員をコントロール群とし,期間を空け,引き続きタオルギャザーを行う治療群とした。BWのコースおよび測定は,長さ15m幅80cmで設置し,アイマスクを着用しコース内を歩行させ,スタートラインからコースアウトした地点までの距離を記録した。比較・検討には歩行距離の最小値,最大値,平均値にt検定を用いた。また,歩行時のアイマスク着用における心理的な影響を考慮し,試行の前後に恐怖感のアンケートを取った。
    【結果】治療群において,最小値の初日(606.7±234.4cm)と最終日(767.8±264.0cm) (p<0.05),最大値の初日(1216.7±328.7cm)と最終日(1354.4±189.8cm) (p<0.05),平均値の初日(835.1±175.5cm)と最終日(1053.3±173.4cm) (p<0.05)であり、それぞれ有意差がみられた。また、コントロール群においては,最小値の初日(443.3±129.1cm)と最終日(533.3±212.4cm) (p<0.05)であった。恐怖感のアンケートについてはコントロール群の初日において,特に強い傾向があった。
    【考察】今回,治療群の初日と最終日の比較において,全ての値に有意差がみられたことから,タオルギャザーがBWからみた動的バランスの改善に有用であったと示唆される。また、最小値に関しては、コントロール群よりも向上している。これは,タオルギャザーが足底の固有受容器,特に足趾の固有受容器を促通したことにより,静的バランスだけでなく歩行時の動的バランスにも影響を及ぼし,BWにおける歩行距離を向上させたと考えられる。しかし,コントロール群の初日と最終日の比較において、最小値に有意差がみられた。これは,アンケート結果より心理的影響が強いのではないかと考えた。今後の課題として,恐怖感の影響も示唆されたため心理的影響を極力排除し,データ数を増やすことにより更なる検討を行う必要がある。
  • 末次 康平, 荒木 秀明, 堀尾 泰之, 廣瀬 泰之, 武田 雅史, 猪田 健太郎, 赤川 精彦, 太田 陽介, 吉富 公昭, 野中 崇宏, ...
    セッションID: 63
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    現在、理学療法において変形性膝関節症などの下肢疾患に対し歩容や運動パフォーマンスといった能力改善が治療目標として挙げられる。過去の研究においてhip (knee) spine syndromeといった下肢疾患に起因する脊柱機能障害の存在が取りあげられ、下肢疾患と仙腸関節の相関が着目されている。そこで今回術後の下肢疾患を有する症例の仙腸関節におけるActive-SLR test (以下A-SLR test)と片脚立位テスト (one leg standing test: 以下OLS test)の陽性症例を荷重伝達機能障害として、床反力計(ZEBRIS社製WinPDM)にて両下肢の安定性を比較することで下肢と荷重伝達機能障害の相関を検討する。
    【対象および方法】
    対象は片側膝関節の術後症例で男性1名、女性11名、平均年齢71.5±5.8歳、運動時痛(Visual analogue scale:以下VAS)は平均3.2±2.6であった。除外診断項目として著明な下肢アライメント異常と下肢神経脱落症状、および検査時に疼痛を生じる症例とし、以下の評価を行った。1)骨盤帯機能検査:骨盤アライメント、仙腸関節 joint play test、2) 荷重伝達機能検査:A-SLR test、OLS test、3) 床反力計にて開眼立位、片脚立位測定対象者には事前に十分な説明を行い、同意を得た。
    【結果】
    1)骨盤帯機能検査では骨盤アライメントは全例とも障害側の寛骨が後方回旋で、仙腸関節 joint play testは全例とも障害側仙腸関節に過剰運動性が確認され、うち7例は非障害側の過剰運動性も確認された。2)荷重伝達機能検査はA-SLR testが障害側に8例が陽性、4例が陰性となった。OLS testは12例すべて両側アンロックであった。3)床反力検査では開眼立位荷重は障害側に48.0±3.4%、非障害側に52.0±3.4%となった。片脚立位時での外周面積は障害側111.8±60.4mm2、非障害側91.4±71.8mm2となった。総軌跡長は障害側451.6±189.4mm、非障害側380.1±152.5mmであった。
    【考察】
    今回の検査結果から 下肢機能障害症例では全例で障害側に寛骨後方回旋と仙腸関節の過剰運動性認められた。また荷重伝達機能検査で障害側はOLS test、A-SLR testともに陽性であった。床反力計の結果では障害側の荷重割合が低く、重心点移動の外周面積と総軌跡長が大きかった。以上の結果から、下肢障害を有する症例では持続する疼痛により運動制御障害が生じ、下肢と体幹間の荷重伝達障害が起きていることが示唆され、長期間の下肢機能障害は腰部骨盤帯の機能障害を呈することが指摘された。
    【まとめ】
    今回の結果から下肢障害を有する場合、障害部位のみならず骨盤帯周囲の評価、治療を行うことで、適切な荷重伝達が歩行の安定、運動パフォーマンスの向上に繋がるものと思われる。なお、今回は膝関節疾患のみの検討となったが、今後更に症例数を増やし、足関節、股関節からの影響も含めて検討が急務と考える。
  • 野崎 壮
    セッションID: 64
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】免荷を呈した患者が荷重訓練を開始する際、足部のぎこちなさなどの違和感を訴えることを経験する。その原因の一つに、下肢の運動イメージ低下の影響があると推察する。全ての行為には運動イメージが先行しており、運動機能回復を促進するためには運動イメージを想起させる必要があるとされる。運動イメージの簡便な測定方法として手足の回転図形を用い、左右どちらかを回答するMental Rotation(以下、MR)がある。その反応時間は運動イメージ想起能力を反映すると考えられている。今回の目的は、免荷が足運動イメージに影響を及ぼすかを足部MRを用いて検討することである。
    【対象】下肢に既往の無い健常群14名(男性8名、女性6名、平均30.5±6.2歳)と下肢疾患により免荷を要した中で足関節可動域制限の無い患者群17名(男性8名、女性9名、平均42.7±15.1歳、免荷7~10日)。全ての対象者に本発表の趣旨を説明し同意を得た。
    【方法】足運動イメージの評価として足部MRを用い、反応時間について検討をした。1)健常群と患者群、2)患者群の健側と患側(免荷期)、3)健常群と患者群の患側(免荷期)、4)健常群と患者群の健側および、患者群のうち経過を追えた7名(全荷重開始7~10日)の5)健側での免荷期と全荷重期、6)患側での免荷期と全荷重期、の6項目とした。統計処理は1)2)3)4)はMann-Whitney U検定、5)6)はWilcoxon検定を用い、有意水準は5%未満とした。
    【結果】1)健常群と患者群の比較では、健常群1.20±0.26、患者群1.87±0.70で有意差を認めた。2)患者群(免荷期)の健側と患側の比較では、健側1.84±0.76、患側1.91±0.68で有意差を認めなかった。3)健常群と患側(免荷期)の比較では、健常群1.20±0.26、患側(免荷期)1.91±0.68で有意差を認めた。4)健常群と健側の比較でも、健常群1.20±0.26、健側1.84±0.76で有意差を認めた。免荷期と全荷重期の比較では、5)健側は、免荷期1.77±0.53、全荷重期1.61±0.39で有意差を認めなかった。6)患側でも、免荷期1.90±0.48、全荷重期1.63±0.41で有意差を認めなかった。
    【考察】荷重時の足部は様々な情報が入力される部位である。免荷によりその入力が減少し、運動イメージが低下することで、ぎこちなさなどの違和感を生じると仮説を立て検討した。2)3)4)の結果より、免荷によって、患側だけではなく健側においても足運動イメージが低下し、また、5)6)より、全荷重開始後、1週間以上経過しても反応時間が改善しないという結果が得られた。先行研究では、何らかの疾患を有する場合、罹患側の反応時間が延長するとの報告があるが、今回の結果からは患側と健側ともに反応時間が延長していた。また、免荷から全荷重の過程では足運動イメージ想起能力が改善されていないことからも、免荷側だけではなく健側への指導及び荷重、歩行訓練に先立ち、運動イメージを賦活できるアプローチの必要性を感じる。
  • 千原 麻衣子, 豊田 彩, 三好 ゆか, 林 奈津美, 廣田 明大, 古田 幸一
    セッションID: 65
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    立位時の足趾が、床面への接地不良状態を浮き趾といい、近年外反母趾を伴って中高年で80%にみられ、前方体重移動能力の低下、二次的障害を引き起こす報告がなされている。しかし、浮き趾と下腿筋活動との関連の報告例は少なく、下腿筋活動に特異的なものはあるのかという疑問を生じた。姿勢制御のために感覚受容器が多く存在する足趾底面が床面に接地していないことで、足関節制御機能の破綻が生じ、前脛骨筋の過剰収縮、腓腹筋の筋出力低下が生じているのではないかという仮説のもと、関連性を見出すためにFunctional Reach Test(以下FRT)を用いて検討した。
    【方法】
    対象は研究の目的、趣旨を説明し、同意を得られた健常人42名(男性17人、女性25人、平均年齢27±5.6)。静止立位時の足底圧画像をピドスコープ(先行研究を基に作成)にて測定後、画像をデジタルカメラにて撮影、足趾接地状態の評価を恒屋の方法に従い、全趾がグレードG該当者を非浮き趾例、グレードPとFの該当者を浮き趾例とした。FRTは東京都老人総合研究所の方法に準じ、裸足にて左右1回実施、最高到達時5秒間静止した際の両下腿筋出力を測定した。表面筋電図(酒井医療株式会社・マイオリサーチXP)は前脛骨筋、腓骨筋、腓腹筋内・外側頭に電極(日本光電・ディスポ電極Lビドロード)を貼付し、計測モードをスタンダード、サンプリング周波数1000Hzで実施。得られた波形は、デジタル処理(整流化、RMS法でスムージング、100m秒にて算出)されたものである。電極貼付、FRT検査及び浮き趾判定は各々同一人物にて実施。統計処理は2SDにて1回切断で極端値を除外処理し、Mann-Whitney検定にて有意水準5%未満とした。
    【結果】
    筋電図数値と浮き趾例で左FRTでの左腓腹筋内側頭で有意差が認められた。(P=0.028)その他、有意差は認められなかった。リーチ距離(単位:cm)は、浮き趾例が非浮き趾例よりも平均値は低かった。(右FRT28.2、非浮き趾30.7、浮き趾27.8、左FRT28.2、非浮き趾31.1、浮き趾27.8)
    【考察】
    浮き趾例では、FRT時に足趾の床面を捉える機能が不十分となることで足圧中心軌跡が足趾部まで到達せず、足関節での姿勢制御よりも股関節機能にて多く代償されることから、下腿筋出力との関連性が認められなかったと推察する。左FRT時の浮き趾例では腓腹筋内側頭が低値であった。先行研究より左側は軸足と報告され、より足趾での床反力を受ける必要がある。FRT距離の減少からも、遠心性収縮での筋出力を多く必要とせず、内側頭のみみられたのは、感覚受容器が多く存在する第1趾への体重移動が不十分であったことが考えられる。浮き趾例では前方体重移動能力は低下傾向であることがいえるが、その際股関節制御機能を多く働かせ、姿勢制御を行っており、腰痛などの二次的障害にも繋がりやすいことが考えられる。また、左右での下腿筋活動の違いも示唆されたが、軸足との関係や接地状態の詳細な判定など因果関係の検討が今後必要となってくる。
  • 藤田 政臣, 武田 和生, 吉村 ゆかり, 松尾 実香, 井上 雅史, 唯岡 千佳, 福田 宏幸
    セッションID: 66
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    福岡大学病院(以下当院)にて脳死肺移植術が実施された。当院において初の両肺移植例であった。理学療法にて身体機能が改善し自宅復帰を遂げたためそれまでの経過を報告する。なお本症例に対して匿名の上データなどの利用を説明し同意を得ている。
    【症例紹介】
    21歳男性。診断名:びまん性汎細気管支炎(DPB)。現病歴: 16歳時にDPB疑いと診断、以後気道感染を繰り返す度に呼吸状態は悪化。2007年3月からHOT開始。同年7月には肺移植適応評価のため当院に入院、12月には脳死肺移植適応となりJOTに登録。待機期間中は酸素の増量なく4L/分。2010年1月、脳死ドナーからの肺の提供があり、両肺移植のため緊急入院・同日手術となった。
    【登録時評価】
    FVC:1.87L、FVC%:40%、FEV1.0:0.89L、%FEV1.0:21.1%、胸郭拡張差:1.5cm~3.5cm、F-H-J:4、膝伸展筋力:23.0~24.0kg、6MWT:酸素4L/分投与下で372m。自宅内は独歩、屋外移動は車椅子使用。
    【理学療法と経過】
    4日目より人工呼吸器管理下、SICUにてROM訓練より開始。5日目に3L/分の酸素投与となり、腹式呼吸訓練・呼吸介助・排痰訓練・シルベスター法・四肢筋力増強訓練を追加。6日目にMRSA肺炎発症、抗生剤投与開始。9日目に酸素量が1.5L/分となり端坐位、10日目に介助下にて起立・立位訓練を追加。この頃より自己排痰可能。11日目の酸素量は0.5L/分、12日目にroom airとなり一般病棟へ転棟、呼吸筋ストレッチ体操・歩行訓練を追加。16日目に抗生剤中止。23日目に階段昇降訓練を追加。30日目に肺生検と胸骨の固定ワイヤー修復のため一時中止となるが翌日再開、35日目より訓練室に変更となり自転車エルゴメーターを追加。屋外歩行訓練を経て53日目に自宅退院となった。
    【退院時評価】
    FVC:3.09L、FVC%:65.9%、FEV1.0:2.00L、%FEV1.0:47.4%、胸郭拡張差:4.5~5.0cm、F-H-J:2、膝伸展筋力:18.0kg、6MWT:酸素投与なしで495m。屋内外移動は独歩、階段昇降も3フロア分を1往復可能。
    【考察】
    筋力以外は登録時よりも改善している。文献の中で免疫抑制剤の副作用として振戦や筋力・運動耐用能の低下が挙げられており、本症例も動作中に振戦がみられていて、十分な筋力を発揮させにくい状況であった。
    術後、最終的に登録時の6MWTの速度であれば1km以上の連続歩行が可能になった。運動耐用能の改善がみられたのは術後の集中的理学療法の成果によるものと考える。その裏付けとしてCOPD患者に対して定期的な有酸素運動を施行した結果、酸化酵素が増加し、有気的代謝が改善すると報告されている。
    文献の中で集中的理学療法が終了してから6MWTがピーク時よりも低下していることも挙げられており、退院後の定期的な理学療法の介入が必要と考える。
    肺移植後生存例の80%が就業・就学との報告があり、本症例もこれからの就業の可能性は十分にあると思われる。
    【まとめ】
    就業に向け運動耐用能・筋力の更なる改善のためには引き続き定期的な運動療法が必要である。
  • 大重 匡, 徳松 明
    セッションID: 67
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     運動には、それぞれのユニホームがあるが、そのサイズの違いが、身体にどのような影響をもたらすかについては、明らかにされていない。そこで、同じ形状で異なった2種のサイズで軽い運動を行わせ、深部体温に新しい知見が得られたので報告する。
    【対象】
     対象者は健常な若年男性8名(年齢21.6±0.8歳、身長174.8±7.0cm、体重64.6±6.0kg(mean±SD))である。
    【方法】
     着衣はUNDER ARMOUR社製METAL COLD GEAR(以下ギア)を用いた。ギアサイズの違いは2サイズ違う着衣方法をとらせた。 運動は、室温19℃前後の環境にて十分な安静座位後、ギアを着衣させ10分間安静座位を取らせた。その後時速4kmでトレッドミル歩行を10分間行わせた。測定は、舌下温、脈拍数、血圧を測定した。 舌下温はTERUMO社製MODEL CTM-205を用い、血圧はOMRON社製デジタル自動血圧計HEM-770A、脈拍数はTEIJIN製PULSOX-M24を使用した。統計処理は対応のあるt検定にて処理した。
    【結果】
     ギア着衣後安静座位10分経過で舌下温は小さいサイズで着衣前の安静時より0.24±1.22℃上昇し、大きいサイズで0.26±1.08℃低下したが有意差は認めなかった。脈拍数は共に平均で3回/分程度の違いであった。10分運動経過の舌下温は小さいサイズで安静時より0.13±0.12℃上昇し、大きいサイズで0.03±0.25℃低下し5%の危険率で有意差を認めた。脈拍数は共に15回/分上昇し、収縮期および拡張期血圧は共に10mmHg以下変化であった。(mean±SD)
    【考察】
     衣服の違いは、小さいギアは全身を圧迫し、大きいギアは圧迫のない状態を呈した。杉本らは衣服の圧迫が皮膚の真皮層にあるルフィニ小体を介し、間脳視床下部ある体温調節中枢に作用し徐々に皮膚温が上昇させると報告している。今回の結果より、衣服の密着度が強い着衣であれば、運動を行わせなくても深部体温を上昇させることができることが明らかになった。軽い運動時の深部体温においては、宮川らは暑熱負荷や運動負荷があまり強くなく、発汗量が中等度以下の状態では皮膚圧迫の発汗抑制効果が著明に現れると述べており、小さいギアでは皮膚圧迫が起こり、皮膚圧‐発汗反射により発汗が抑制され汗の蒸発による熱放散が低下したため深部体温が大きいギアより上昇したと考えられる。 Michelleはストッキングなどで強く圧迫すると、圧迫したものが断熱材として働く効果があり、局所の表在性の組織温度を上昇させる効果があると述べている。今回小さいギアは室温19℃と寒い環境で断熱効果をもたらしたのではないかと考える。
    【まとめ】
     健常な若年男性8名に対して、サイズの異なる着衣を行い舌下温、脈拍数、血圧を測定した。結果、サイズの小さい着衣は、安静座位の状態でも舌下温を上昇させ、運動時では大きいサイズの着衣より有意に舌下温を上昇させることを認めた。
  • 気分調査票を用いて
    小屋敷 ゆかり, 吉満 幸二, 有馬 美奈子, 下高原 里菜, 田中 茂穂, 萩原 隆二
    セッションID: 68
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    リハビリテーション(リハ)を行う中で慢性血液透析患者(HD患者)から「疲れた」「休みたい」との訴えを聞くことがある.これはリハ遂行上大きな阻害因子である.そこで本研究では,HD患者の精神機能面に着目し主観的気分状態にどのような特徴がみられるか検討した.
    【対象】対象は当院入院患者のうちリハを受けているHD患者(HD群)12名と,透析は受けておらず他の障害で加療中の患者(非HD群)9名であった.なおHD群のうち透析歴が3年未満の者は5名,3年以上の者は7名であった.HD群の年齢は63.3±9.8歳,FIM得点は72.9±28.1点であり,非HD群の年齢は77.3±4.6歳,FIM得点は73.7±20.5点であった.
    【方法】
    坂野ら(1994)の気分調査票を用いて主観的な気分状態を調べた.これは「緊張と興奮」「爽快感」「疲労感」「抑うつ感」「不安感」の5項目計40問の質問票である.HD群と非HD群間の比較と両群各々について5項目間の関連性を検討した.なお本研究においては対象者に説明をし同意を得ている.
    【結果】
    HD群と非HD群間においては,HD群は非HD群に比べ「不安感」が有意に低かった.両群各々の項目間の相関について,HD群では「緊張と興奮」は「疲労感」「抑うつ感」「不安感」と正の相関がみられ,「疲労感」は「抑うつ感」「不安感」と,「抑うつ感」は「不安感」と正の相関がみられた.非HD群では「疲労感」と「抑うつ感」にのみ正の相関がみられた.
    【考察】今回HD群の「不安感」は非HD群より低く,一般的にHD患者に言われる精神的疲労感等の訴えを示唆する結果は得られなかった.この点について正木ら(1990)は「コーピング行動(ストレッサーへの対処行動)から見ても透析歴3年は一つの区切りである」と述べている.本研究のHD群のうち透析歴が3年以上の者は7名であったことから,HD群の半数以上の患者に既にコーピング行動がなされた可能性があり,非HD群との差異が生じなかったのではないかと考えられた.なおコーピング行動については現在HD患者のデータを蓄積し,透析歴3年を境にHD群を短期HD群と長期HD群に分け,透析歴の経過と主観的気分の変化について学会発表時に報告する予定である.また非HD群においては「疲労感」と「抑うつ感」にのみ相関が得られたが,HD群においては「爽快感」を除く4項目に正の相関がみられた.以上よりHD患者の主観的気分においては互いに複雑に影響しあっている可能性が示唆された.
    【まとめ】
    HD患者の主観的気分は透析治療によって生じる時間的,空間的束縛からくる様々なストレスから影響を受けている.リハ遂行にあたりHD患者の気分の変化に十分留意し,早期に対処することで,HD患者のコーピング行動移行への一助となりえ,円滑なリハ遂行へとつながることが期待される.
  • 現状調査と心不全連携シート作成による在宅連携の強化へ向けて
    渡辺 恵都子, 植野 拓, 青木 尚子, 伊藤 毅充, 高畠 由隆, 野口 美香
    セッションID: 69
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    当院では診療報酬の改訂に伴い、2006年6月より心大血管リハビリテーション(以下心リハ)を開始した。心不全患者の再入院率が高く、2008年度では17%だった。今回、再入院の減少と、医療・介護間での連携強化へ向けて、介護保険分野に関わる多職種(以下、在宅スタッフ)にアンケート調査を行い、心不全患者の管理の現状把握と、心不全連携シートを作成したためここに報告する。
    【方法】
    対象者は当グループの在宅スタッフ(リハ・看護師・助手)50名で、方法は、対象者にアンケート調査を実施し、1勉強会参加(参加・不参加)、2情報収集の方法(書類のみ、書類+スタッフ間での連絡)、3理解度(注意点、増悪因子)について職種別に比較した。
    【結果】
    今回のアンケート結果より、心不全の注意点・増悪因子の理解度に職種間でばらつきがあった。また、リハスタッフより看護師の方が理解度が高いことが分かった。また、アンケートよりシートに記入してほしい点として「注意点」「受診の基準」「運動強度」「飲水制限」「出やすい症状」「耐久性」が挙げられた。この点を考慮し、心不全連携シートを作成した。
    【考察】
    当院では、これまで心不全患者の退院時の申し送り形式は特に規定はなかった。在宅への退院の場合は、看護師からケアマネージャーに対し電話での情報交換のみ実施、他施設への退院の場合は看護師・リハの添書を患者家族へ手渡す形式だった。今回、アンケートの結果からも、入院から在宅への情報連携不足や在宅スタッフの心不全に対する知識・理解度のばらつきがみられた。心不全連携シートの運用により、在宅スタッフの心不全への関心や、心不全患者の再入院の減少、増悪時の早期発見へとつながればと考える。
    【今後の課題】
    今回のアンケート調査後、在宅スタッフとの情報交換の機会が増した。2例にシートの利用を試みたところ、1例は心不全増悪の早期発見による再入院、1例は週2回の通所リハビリテーションの利用により、在宅での心不全コントロールが可能となった。今後、症例数を増やし、シートの運用と改善、スタッフの心不全に対する意識の改善に着目していきたい。
  • 自宅退院まで関わった一症例
    上村 幸子, 和才 慎二
    セッションID: 70
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    心大血管疾患の理学療法の目的は、順調例では安静度管理・有酸素運動、遅延例では基本的ADL能力の獲得の二極化がみられており、個別のリハビリテーションプログラム(以下個別プログラム)対応の必要があるといわれている。今回腹部大動脈瘤破裂術後、退院時訪問指導を経て自宅退院した症例に対し、個別プログラムの重要性を経験したので報告する。
    【症例紹介】
    対象は、本報告に関し趣旨を説明し、本人・家族に同意を得た80歳代男性。現病歴は、平成21年7月下旬、腰背部痛出現し救急車にて当院搬送、来院時ショック状態で腹部CTにて腹部大動脈瘤破裂と診断され、同日K病院にて緊急腹部大動脈置換術(ステントグラフト挿入)を施行。リハビリ目的で平成21年8月当院転院となった。慢性腎不全の既往があり、入院前生活状況は独歩自立であった。[入院時現症] 胸部画像所見では両側胸水貯留・両下肺無気肺が認められた。心エコー検査ではEF40.76% 、血液検査結果はWBC 10.7、Hb 7.3、PLT 332、CRP 32.0、BUN 62.7、Cr 3.7、ALB 3.1、TP 6.8であった。Barthel Index(以下 BI)35点、起居動作要介助、歩行器歩行要介助耐久性10mにて下肢筋疲労感・息切れ著明で自覚的運動強度15、Performance Statua(以下PS)grade 4、握力右17kg左11kgであった。
    【経過】
    術後主な経過について以下に示す。術後5日目:食事・リハ開始、術後10日目:車椅子移乗開始、術後11日目:起立練習開始、術後14日目:当院転院、術後24日目:病棟内歩行器歩行可、術後36日目:早期胃癌_II_cと診断、術後51日目:杖歩行耐久性20m(下肢筋疲労著明)・階段昇降要介助、術後65日目:内視鏡的胃粘膜下層剥離術(以下ESD)、術後66日目:食事再開、BI 70点(起居動作自立)、PS grade3、術後86日目:退院時自宅訪問指導、術後101日目:自宅退院、BI 80点、杖歩行耐久性80m、階段昇降・畳上動作可、PS grade 2、握力右20kg左15kgとなった。
    【考察】
    心大血管疾患のリハは重症例が多く、遅延率が高いといわれ、その遅延理由としては、高齢、元来低ADL、脳梗塞・脊髄虚血、酸素化障害、他腎不全、肺炎、不穏などがあげられている。また、術後経過不良要因については、胸水貯留例、要酸素投与例、下痢・食欲不振などの消化器症状例の報告がある。本症例も入院前は低活動状態で、破裂・緊急手術例、酸素化不良、食欲不振など術後経過不良であり、かつ遅延因子を多く合併した症例であった。加えて依存的・楽観的な性格から離床には難渋したが、低負荷・頻回に起立・歩行練習を積極的に実施した。ESD施行後は経過良好で、食事摂取量増加とともに自宅退院への目標が明確化したことで日中活動性・ADLも向上した。退院時訪問指導にて自宅内動作を確認し、家族指導や介護サービス利用の検討を関連職種で行うことで自宅生活がイメージでき、家族・本人の自宅退院への不安が解消され、退院への調整が可能となった。今回の症例を通じて個別プログラムの対応の重要性が示唆された。
  • ~呼吸困難感・心理面に着目して~
    秋山 謙太, 岩永 健児, 柴原 健吾
    セッションID: 71
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)患者は,26~74%にうつ傾向が認められ,不安症状は96%に認められたという報告もある.これらの精神状態はリハ導入・進行に対する拒否等の悪影響を及ぼす.またGOLDの分類ではCOPDによる不安・抑うつの軽減はエビデンスAともなっている.今回リハに不安・拒否がみられたCOPD患者に対し,導入時に趣味活動を用い,人工呼吸器離脱訓練まで至ったので症例同意の下,以下に報告する.
    【症例紹介】
    70歳代男性.在宅酸素療法を行っていたが,平成21年8月末より呼吸困難感,全身浮腫により受診し,胸水貯留,呼吸状態悪化,急性腎不全の診断にて,A病院へ転院した.挿管後,人工呼吸器装着し,持続的血液透析濾過療法を2ヶ月間実施後,症状改善しリハビリ目的にて当院へ入院となる.
    【作業療法介入時】
    人工呼吸器設定はSIMV+PSモード.血液ガスはPaO2:78mmHg,Paco2:59mmHg,SpO2:98%であった.意思疎通は筆談にて可能.Barthel Index(以下B.I.):0点,起居動作は軽介助レベルであった.端座位保持は15分程で修正Borg Scale:4~5であり,呼吸困難感の訴えが強かった.訓練中は呼吸困難感への不安が強く,「きつい」「苦しい」と拒否的な訴えが多かった.自己評価式抑うつ尺度(以下SDS)は拒否により行えなかった.
    【方法と経過】
    主治医より人工呼吸器離脱訓練の指示があったが,呼吸困難感の不安が強く,拒否的であったため,OTではその軽減目的にて,人工呼吸器装着により, ベッド上端座位にて趣味活動である将棋を開始した.介入当初はSpO2:96~98%であったが,修正Borg Scale:6であり,呼吸困難感の訴えが多かった.介入1カ月後には呼吸困難感・不安がなくなり,修正Borg Scale:0~1と改善がみられた.また訓練は,120分まで可能となり,O2:2l使用にてon-offでの人工呼吸器離脱訓練を開始するまでとなった.SDSは軽度うつ状態ではあったが,on-off訓練開始1ヶ月後には日中offの時間が増え,B.I.が50点となった.
    【考察】
    日本呼吸管理学会/日本呼吸器学会ではリハビリの適応症例に患者自身の積極的な意思があることを確認することと推奨されており,また呼吸困難感には抑うつ・不安等の心理的因子が強く関与することが従来から知られている.本症例は,呼吸困難に対する不安が強く,リハビリに対し拒否的であった.導入時に趣味活動を用いることで,楽しみつつ活動を行え,活動に注意が向いた.それらが,呼吸困難感の軽減に繋がり,成功体験や達成体験になったと考える.そして自己効力感を高め,拒否があった人工呼吸器離脱訓練や機能訓練も行え,不活動等の悪循環を断つことができ,身体機能向上に繋がったと考える.呼吸リハは,意欲に影響されると言われているが,心理的アプローチに着目した報告等は少なく,今後も検討を重ねていく必要性があると考える.
  • 褥瘡発生状況に応じ他部門と連携し、在宅訪問、対応の統一化を続けた一例
    川田 隆士
    セッションID: 72
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    在宅での褥瘡発生は症候と介護事情から治療基準を満たせない事が少なくない。今回このような背景から多発褥瘡を発症した事例に対しOTを中核に在宅生活を維持しつつ、全治をなした取り組みを報告する
    本報告において当施設倫理委員会及び対象者とその家族から承諾を得た
    【症例】
    85歳女性、やせ型(140cm34kg)アルツハイマー型重度認知症(パーキンソン症候)。通所毎日利用。介護度5。市販ウレタンマット併用柵なしベッド。食事は前滑り椅子座位にて中等介助。他ADL全介助。家族は窒息の恐れから2炊刻み少食対応。食事以外臥床。体位交換なし。H21.5月5日仙骨2度褥瘡発生
    【アプローチと経過】
    8日在宅訪問(以下訪問)。体位交換は食事、家業、疲労等から就寝時1回が限度。臥床時45度側臥位、着座は90度ポジション座椅子設定にて創無圧化を確認し指導。通所対応統一(以下統一)。かかりつけ医了承を得て通所にてラップ療法、亜鉛サプリメント15~30mg摂取開始。13日治癒
    6月5日再発。訪問。体位交換不足の為、同内容再指導。10日尿路感染、食思低下、やせ進行。両大転子1度、左第1指2度褥瘡発生。傾き座位。モジュール車椅子及びジェルクッション使用、傾き防止。開放靴対応。両大転子、足指除圧確保。13日仙骨再発創治癒
    17日右大転子2度へ進行。訪問。自動体位変換エアマット(以下CRADE)導入検討。しかし、支点となる仙骨再生上皮は脆弱かつ深部は未熟な肉芽組織であり、再発・重度化のリスクが高い事。落下の不安等から見送り6cm厚低反発ベッドマット貸与、重ねて使用。体位交換は右大転子創と左方寄りに仙骨再生上皮を有する事から帰宅後右30度、就寝時左45度側臥位を指導。統一。7月7日全箇所治癒。食思改善。
    8月5~16日発汗多量。症候進行。両大転子・左第1指内側2度褥瘡再発。右外果部、腸骨部1~2度褥瘡発生したが、仙骨再生上皮は強固で深部の肉芽も瘢痕組織化した治癒形態へ変化していた為、CRADE導入。15分毎に体側角度15度設定。下肢外側創無圧化を確認。オムツ交換しにくいという意見から低圧設定より開始。200kcalムースを捕食追加。24日仙骨2浅度褥瘡再発した為、超低圧切り替え。9月1日全治。
    【考察】
    多発する褥瘡ほど処置に限らず、頻回な除圧と栄養確保等、組織耐久性の早期解決が成されるべきであるが、在宅での褥瘡発生は施設対応と異なり、その背景が観察しにくく、本症例のように症候と介護事情から治療基準を満たせないのが現状である。症例が在宅生活を維持しつつ、全治に至った要因はOTを中核に創の高度深達化前に早期在宅訪問にて家族と情報共有できた事。その中で創箇所と介護事情に応じて除圧肢位の変更、除圧用具及び補助栄養の適宜導入・指導の機会を得た事。これに追随して他部門と連携し、対応の統一化を確保できた事が考えられる
  • ~買い物を楽しんで続けるために~
    村上  千佳, 北迫 郁代, 川嶋 美里
    セッションID: 73
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    進行性疾患症例はADLが低下する中で生きる意欲も低下することが多いとされる。今回、脊髄小脳変性症(以下SCD)症例の訪問リハを経験し、Needである「買い物」を達成することで意欲向上・活動性の維持を図ることが出来た。進行に伴う外出手段の変更と訪問リハ、他職種との連携について検討したので、本人・家族了承及び当院の倫理委員会より承認を受け報告する。
    【症例】
    80代、女性。疾患名はSCD、糖尿病。障害を持つ息子と2人暮らし。他人に迷惑をかけたくない、気丈な性格。ほぼ全てのADLに介助を要し、臥床傾向。しかし、買い物時は意欲的な動作や笑顔が認められる。
    【経過】
    H16年SCD発症。屋外歩行時に転倒が見られるようになり、電動四輪車にて1人で外出を行っていたが、操作法・安全性獲得について訪問リハへ依頼がある。
    1期:電動四輪車使用の継続(H18.9~)
    自宅から買い物先までのルート確認、買い物先の動線の確認・交渉を行い、安全に1人で買い物出来る方法について他職種を交え検討した。連携ノートを作成。
    2期:電動四輪車から電動車椅子へ(H19.5~)
    1人ではSCDの進行から、操作判断に危険が生じる。会議の結果、前腕での操作であるスティック式の電動車椅子を導入、ヘルパーの見守りにて買い物へ行く事にした。
    3期:スティック式操作からボール式操作へ(H19.11~)
    SCDは進行し、前腕での操作に支障がみられ、ボール式へと変更。福祉用具業者と連携し、アームレストにクッションを作成、前腕が安定することで失調症状は減少、手指での安定した操作が可能となった。買い物時、自分で商品を選べるように、座位リーチ動作の訓練を行った。
    4期:電動車椅子から介助用車椅子へ(H20.10~)
    SCDの進行と共に失調症状は増大し、電動車椅子の操作困難となってきたため、本人の意向やヘルパーからの情報を統合し、介助用車椅子の導入を行った。導入時は買い物に同行し、介助方法や安全なルートを検討した。玄関部は手すりと介助にて段差昇降した。
    5期:介助用車椅子にスロープの導入(H21.6~)
    介助での段差昇降が難しくなり、玄関部へスロープを導入。他職種と共に統一した介助方法を検討・実施した。
    【考察・まとめ】
    症例にとって「買い物」とは障害を忘れる唯一の楽しみの時間、母としての残された役割など様々な意味を持っている。症例自身で買い物を行う事で、糖尿病を持つ症例にとって、食事量と食事内容の安定という効果も得られた。買い物に行きたいというNeedから、目的を持ったプログラムの作成・実施を行う事が出来、症例は意欲を持って取り組まれている。今回ADL低下がみられる中でも、意欲の向上を図る事が出来た症例を経験した。進行性疾患症例に対する訪問リハの役割は、残存機能を最大限活用し、全職種と連携を図り、意欲向上を支援していく事が重要であると再認識出来た。
  • ~他職種との連携を通じた自宅復帰支援を経験して~
    加治 哲也
    セッションID: 74
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回、経済的に余裕がなく、家族による介護が望めない患者を担当する機会を得た。様々な職種と連携を取り、自宅復帰を果たすことが出来たのでここに報告する。
    【症例紹介】
     80歳代女性。診断名:第12胸椎圧迫骨折(H21/11/24発症)。既往歴:脳梗塞(BRS:V:IV:V)、両膝OA、認知症(HDS-R18点)。生活背景:公営団地にご主人と娘2人の4人暮らし。患者は自宅に引き篭ることが多かった。ご主人は軽度の認知症があり、他人から手助けを受けることや、介護サービスを受けることに否定的である。娘2人は共に知的障害があり定職に就いておらず、また患者の病態理解も乏しい。世帯収入はご主人の年金である月13万円程度である。
    【経過】
     H21/12/1リハビリ開始(腰痛VAS7/10、BI25点、FIM43点)。治療経過は順調で、H22/1/28には階段昇降も監視にて可能となり、受傷前以上のADLを獲得した(腰痛VAS0/10、BI70点、FIM93点)。H22/2/18住宅訪問、退院前カンファレンス実施。そこで家族に介護サービスや住宅改修の必要性を説明したが、自己負担の増額は出来ないとの訴えがあった。そのため医療福祉相談員、ケアマネジャーらと支援体制を整えH22/2/27退院となった。
    【支援内容】
     患者の自宅復帰を困難にした問題は、まず家族が介護協力できない点である。次に世帯収入が低いために介護サービスの導入や必要な福祉用具の購入を拒否している点である。
     これらの問題に対して以下の支援を行った。家族が介護協力できない問題では、患者が最低限自宅でするADLである食事、トイレ、更衣、洗濯の自立を目指した。そのため作業療法士にもリハビリ介入してもらい動作の自立を果たした。世帯収入の問題では生活保護を検討した。しかし申請には患者夫婦と娘の世帯を分離する必要があり、それを家族が受け入れられず申請を断念した。介護サービスや福祉用具の導入を拒否する問題では、サービス内容や購入品を必要最低限なものにし、家族の負担金額が大幅に増額しないように配慮して家族の了承を得た。介護サービスはADLを維持し、自宅での引き篭もりを防ぐために週2回のデイケアを導入した。福祉用具はベッドと杖のみを導入した。ベッドは法人内で呼び掛けをして不要な物を引き取り利用した。杖は100円ショップで販売している物を調整して使用した。
    【まとめ】
     今後、近年の経済不況や核家族の増加などにより金銭的、家族介護に問題を抱える症例は増え、こちらが想定した介護サービスや住宅改修のプランが実現出来ない事例も多くなると推測される。今回、様々な職種と連携して自宅復帰支援をする中で、介護保険サービス以外の社会資源を模索し、福祉用具購入のコストを下げるために代替品を探すなど、広い視野を持って患者を支援する事の重要性を実感した。
  • 利用者アンケートを通して
    久野 彩, 和田 明美
    セッションID: 75
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     福岡市立心身障がい福祉センター(以下、当センター)では、介護保険制度でのサービスに適応しづらい青壮年層の身体障害者の健康維持・体力向上を目的とした「地域障がい者フィットネス教室(以下、教室)」を福岡市より委託を受け、実施している。教室は週1回、午前10時~12時に行い、前半は理学療法士によるコミュニケーションを目的とした情報交換、運動指導員による体操を、後半は10分間の休憩を挟んだ後、外来講師によるヨーガとエアロビクスを週交代で行っている。
     今回、21年度末に教室利用者を対象に教室の内容・目的に関するアンケートを行ったので以下に報告する。
    【対象及び方法】
     教室の対象者は、18歳~64歳までの身体障害者で、21年度利用者34名の疾患は脳卒中後遺症者56%、その他の疾患が44%であった。その他の疾患は、脳外傷、筋ジストロフィー、脳性麻痺などであった。
     アンケートは21年度末の教室利用者を対象に無記名にて実施し、20名の回答を得た。失語症などで記入が困難な場合は教室に同行している家族が記入した。
     アンケート項目は教室の内容・回数、スタッフの対応、教室の利用目的、教室以外の外出・運動の機会及び意見・要望とした。
    【結果】
     教室の内容、スタッフの対応の項目では「よい」、「だいたいよい」が100%を占めた。教室の回数の項目は「よい」、「だいたいよい」が65%、「あまりよくない」、「よくない」が30%であった。「よくない」と回答した理由は、回数を増やしてほしいというものがほとんどであった。
     教室の利用目的の項目は、「健康・体力維持増進のため」という意見が一番多く、次いで「コミュニケーションの場として」、「障害に配慮してもらえるから」という意見が多かった。
     外出機会の項目では、教室以外の定期的な外出機会が「ない」と回答した人は全体の70%を占めた。「ある」と回答した人の外出先は、病院での外来リハ、作業所などだった。
     運動機会の項目では、教室以外に運動の機会が「ある」と回答した人が35%、「ない」と回答した人が65%であった。
     自由記述では、「一般のフィットネス教室などでは他の利用者とのコミュニケーションがとれず、互いに利用しにくさを感じた経験がある」や「参加して体の動きがスムーズになった」との意見があった。
    【考察】
     今回のアンケートから教室が健康・体力の維持増進だけではなく、コミュニケーションの場や外出促進としての効果・役割があることがわかった。教室以外に外出・運動をあまり行っていない人が通い続けている理由として、専門スタッフがいるため安心して安全に運動を行える場であることが考えられる。また、一緒に頑張る仲間がいることが大きな励みになっている。今後は、利用者が教室に通うことで外出や家族以外の人とのコミュニケーションをさらに行いたいと自信がつくようさらなる支援を行いたい。
  • 石掛 陽介, 上田 直樹, 太田 直吉
    セッションID: 76
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回、胸部脊髄症を呈し2度の後方除圧固定術を受けた症例を経験した。本症例の身体機能を廃用か脊髄症によるものかを分析し、社会的背景を加味した上で予後予測をたて、短時間での集中的なリハビリテーションを行った。その結果、入所から3ヶ月で在宅復帰にいたることができたためここに報告する。
    【症例紹介】
     90歳代の男性。平成20年5月胸部脊髄症(Th11-12ヘルニア)に対し後方除圧固定術(Th10-L1)を施行。術後リハにて杖歩行可能な状態まで改善していた。平成21年6月頃より両下肢の痺れが強くなり歩行困難となった。同年8月14日にTh9-10ヘルニアに対し後方除圧固定術(Th8-L1)を施行。同年9月2日には回復期リハビリテーション病院に転院されたが、本人の家に帰りたいとの希望が強くリハ継続のため同年12月1日に当施設入所の運びとなった。
     もともと妻との二人暮らしであったが、妻も高齢のため身の回りのことが自分で行えるようになれば、在宅復帰可能とのことであった。
    【理学療法評価】
     寝返り、起き上がり、坐位は自立。立位は重心が過度に前方偏位しており上肢の支持なしでは保持困難であった。歩行は平行棒内で軽介助レベルであったが、重心の前方偏位と左下肢が接地時に内転位に入りやすいため前方や側方への動揺が著明であった。車椅子への移乗は監視で可能であったが、立位バランス不良のためトイレ動作では下衣の着脱に介助を要していた。
    【アプローチと経過】
     主に廃用による体幹や股関節・膝関節周囲の筋力低下に対する筋力訓練や立位バランス訓練を中心に行うことで筋力・立位バランスが向上し歩行も固定式歩行器を使用し監視レベルで可能となった。
     トイレでの動作に関しても立位の安定性が向上したことにより監視レベルで下衣の着脱が行えるようになった。
    【考察】
     医療機関に対して、老人保健施設における一人当たりのリハ提供時間は限られてくる。その中で効果を挙げ在宅復帰を成し遂げるにはしっかりと医学的評価をし、リハビリテーションを提供しなければならない。本症例は、仙髄レベルの脊髄症状が主に認められていた。そのため麻痺筋より回復の早い廃用性筋力低下を起こした腰髄レベル以上の筋にターゲットを定め筋力訓練を行った。その結果、短期集中リハの期間である3ヵ月で立位の安定性、恐怖心の改善、さら歩行器歩行の獲得にまで至ったと考えられる。今回の症例を通して、正確な病態把握と社会的背景の評価から適切な予後予測を行ったうえでリハをすすめることの大切さを再認識することができた。
  • 法人の立場より
    小川 哲史
    セッションID: 77
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    平成12年4月より介護保険が施行され訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)事業所も増加してきた。サービス提供においても量的には充足してきた感がある。今回公益法人の立場でそのサービス内容について第3者評価を実施し、サービス内容等評価でき今後サービスの向上改善につなげていくことが示唆できたので報告する。
    【対象・方法】
    1.宮崎県理学療法士会所属訪問リハビリテーション事業所3施設、2.対象者
    訪問リハ利用者10名
    、3.方法
    、訪問リハサービス担当者と同行訪問し、サービス内容の見学。直後に利用者本人にサービス内容に関する評価をアンケート方式にて実施。(聞き取りまたは記入式10項目)アンケート項目、結果のとおり。評価は5段階方式。
    【結果】
    5段階(5点満点)平均 1.リハビリ目標は明確化 4.4、2.説明はわかりやすいか 4.2、3.やる気の起きるリハビリですか 3.4、4.今日の内容を高く評価できますか 4.1、5.時間は守られていますか 4.5、6.リハビリの進む早さはよいですか 4.7、7.要望に応えていますか 4.6、8.効果を期待してますか 4.6、 9.担当者に満足してますか 4.5、10.自分の意見が言えますか 4.5 【考察】
    居宅を訪問してリハサービスを実施することは、密室に近い状態が環境として設定されセラピストと利用者の人間関係が非常に重要となってくる。よりよい訪問リハの提供を目的に訪問リハについて第3者(公益法人)の立場でリハサービス内容について評価をした。その結果10項目の中で大部分は良い、ふつうという結果が得られた。その背景には訪問リハの担当者とサービスを受ける側との信頼関係がすでに構築されているからだとだと考えられる。 具体的に見ていくと、訪問リハの目標はセラピストと利用者と一致していた感がある。治療の説明については契約時に説明があるものの通常は訓練重視であったようである。やる気という項目については普通といった意見が多く内容の変化を期待している話もあった。リハビリの進む早さは満足があるものの意見として居宅にいる時間が長い方が良い傾向である。高齢者の心理面を考えると、疎外感やさみしさなどに悩んでいる方々も多く、訪問リハで伺うセラピストはコミュニケーションの一つの場面であることは間違いないだろう。訪問リハにおいては在宅の受け入れイコール信頼関係は重要でありその関わる人のヒューマニテーが問われている。今回の調査では純粋に訪問リハのサービス内容について評価したが、関わる人材の経験値を含めた技術の評価はできていない。課題としては、事業所内での評価方法はどうか。苦情処理についてはどうか調査していきたい。訪問リハのアセスメントのチエックも今後は必須とも思えた。今回は理学療法士会の立場で居宅に同行訪問リハのサービス評価を行ったが、今後は質問項目の検証を実施し、客観的なより納得できる評価として取り組んでいきたい。
    【まとめ】
    1.訪問リハのサービス内容について法人の立場で評価を実施した。2.サービス内容については大方、現状に満足されている。3.やる気の起こるリハビリについては普通という意見が多かった。4.今後は、質問項目の検証、ならびに苦情処理の仕方、アセスメントのチエックなど詰めていきたい。
  • 膝伸展筋力の値に着目して
    西村 友紀, 三好 安
    セッションID: 78
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    脳卒中片麻痺の既往があった大腿骨頸部骨折(以下頸部骨折)患者の歩行やADLを調査した報告は多いが、その経過における筋力の変化に関して記載されたものはない。今回、骨折受傷前の膝伸展筋力を測定していた脳卒中片麻痺例を分析し、筋力の値から頸部骨折の治療経過を調査した。
    【対象】
    平成2年1月から平成21年12月の20年間に頸部骨折術後のリハビリテーション(以下リハビリ)目的で当院入院となったのは167名(全入院総数の2.5%)であり、うち既往症である脳卒中片麻痺も当院で入院リハビリをしていたのは21名(全頸部骨折総数の12.6%)であった。この中で認知症のために訓練に協力が得られなかった、病変が両側大脳半球にあったなどの理由から計7名を除外し、起立訓練を自主的に200回/日以上行えた計14名を対象とした。
    【方法】
    当院にて脳卒中後のリハビリを行い、その退院時に測定した膝伸展筋力を基準値(100%)とし、頸部骨折術後の当院入院時、退院時の膝伸展筋力とそれぞれ比較した。膝伸展筋力は座位でisoforce GT-300(OG技研)を用いて3回測定し、平均値を算出した。基準値と入院時の筋力差から急性期加療期間における変化を、基準値と退院時の筋力差から頸部骨折が脳卒中片麻痺の身体へ及ぼした変化を推測した(ただし、麻痺側の筋力が0kgであった1肢を除外)。また、歩行状態やBarthel index(以下BI)も調査した。理学療法は起立訓練を中心に行い、免荷指示がある期間は受傷側へ体重をかけずに起立するよう指導した。なお、統計学的解析にはWilcoxon signed-rank testを用い、5%未満を有意とした。
    【結果】
    脳梗塞6名、脳出血8名、男2名、女12名、平均年齢73.4±8.8歳、脳卒中発症から頸部骨折受傷までは39.7±40.3カ月、麻痺側のBrunnstrom stageは2.9±1.7であり、全例が麻痺側に骨折を受傷していた。術式は大腿骨頭置換術が5名、骨接合術が9名、受傷から手術までは4.4±2.9日、手術から当院入院までは12.8±4.2日であり、他院における頸部骨折の急性期加療期間は17.1±4.8日であった。この期間に非麻痺側は骨折前と比較して69.3±13.5%、麻痺側は24.2±20.2%へ低下したが、その後の75.6±32.8日間の当院入院リハビリにより、非麻痺側は101.1±19.8%、麻痺側は104.7±44.6%まで改善し骨折前の筋力と比べ有意差はなくなった(p>0.05)。骨折前の歩行状態は、屋外自立2名、屋内自立4名、監視5名、介助3名であったが、退院時には屋内自立3名、監視5名、介助6名となり、不変であったのは8名(57.1%)だった。BIは、骨折前の78.2±16.9点から退院時には73.2±17.6点へと悪化した(p=0.047)。
    【考察】
    脳卒中後に発生した頸部骨折では、平均17日間の急性期加療期間中に非麻痺側で7割、麻痺側で2割5分程度まで筋力は低下したが、少なくとも200回/日の起立訓練を行うと、歩行状態やADLは悪化しても下肢筋力は骨折前の状態にまで回復し得ることが示唆された。筋力以外の要因が身体能力低下に関与している可能性もあり、急性期加療期間を短縮する対策が望まれる。
  • 久場 美鈴
    セッションID: 79
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    今回ハンソンヒ゜ン術後、LSC を呈した症例について 考察を加え報告する。 【症例紹介】
    70代後半女性 体重46_kg_左大腿骨頚部骨折garden Stage_II_ 【経過】 H21 2/13ハンソンヒ゜ン施行され術後2週間目で自宅退院。術後2か月後疼痛増悪しX線にて骨頭壊死の診断。H21 5/13人工骨頭置換術を施行され、術後4週目で自宅退院となった。 【骨接合術後2週目の評価】
    歩容は左下肢単脚支持期は短縮し、逆trendelenburg跛行に加えDuchenne跛行がみられる。立脚中期から後期にかけて膝伸展位でロッキングが観 察される。日整会点数疼痛35点、可動域17点、歩行能力18点、日常生活動作20点。
    【考察】
    ハンソンヒ゜ンは骨折部に持続的な圧迫力が加わり従来の骨接合術と比べ早期荷重が可能である。また低侵襲により術創部痛を軽減し、早期ADL拡大ができる利点をもっている。その反面、フックが骨頭を穿破したり、整復位破綻や骨頭壊死により再手術となる場合がある。本症例は術後疼痛の訴えはなく跛行が残存したまま自宅退院となった。加藤らによると痛みの強い症例ほど逆trendelenburg跛行を示しやすいと述べている。その理由の一つとしてtrendelenburg跛行では立脚相の股関節は相対的に内転位となり、大腿骨頭の 臼蓋に対する被覆率が低下し単位面積あたりの接触圧が高まり、疼痛の増悪しやすい環境となることを考える。これに対し逆trendelenburg跛行では、立 脚相の股関節は相対的に外転位となり、被覆率が増大し単位面積あたりの接触圧が低下するため疼痛が軽減しやすい環境になると述べている。よって本症例は疼痛回避跛行を行っていたことが考えられた。疼痛回避跛行の原 因として骨接合術をしてるとはいえ、骨片間は不安定な状態だったことが推測され術側の固定力が不十分なため殿筋群の筋出力低下により骨盤を水平位に保つことが困難となり、骨頭への負荷応力の変化に加え循環不全によ り股関節内圧が上昇したことが考えられた。したがってLCSの予防として発生の危険性は半年から術後2年までは特に高く、荷重管理のための動作指導や生活指導が重要である。今後さらに症例数を増やし、再手術例の特徴などに調査検討を重ねる必要があると考える。
  • 無痛を中心とした運動療法
    吉田 純一, 杉尾 秀一
    セッションID: 80
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    複合性局所疼痛症候群(以下、CRPS)は世間に浸透しつつあるが、未だ状態を考慮し治療を実施しているのは数少ない現状である。今回、約4ヶ月間無痛を中心とした運動療法を施行した結果、疼痛および可動域の改善が認められたのでここに報告する。尚、発表に際し本症例に同意を頂いた。
    【症例紹介】
    30代男性。診断名:左脛腓骨骨折。H21年8月バイクにて転倒され受傷。4日後他院にて髄内釘による骨接合術施行し、PT開始。H21年10月(OPE後48日)骨癒合乏しく、脛骨遠位・足根骨部に骨萎縮認めており、ADL障害強く残存しているため当院へ転院の運びとなる。
    【方法】
    痛みは足背部・踵部にみられ荷重時に著明。下腿遠位・足部に非圧痕性浮腫および皮膚光沢、足部全域に発汗。ROM膝屈曲95°足背屈-15° MMT大腿四頭筋4 前脛骨筋3。歩行は両松葉杖にて自立していたが荷重はほぼできていない状態であった。運動療法は関節運動学的アプローチ博田法(以下、AKA)副運動技術後、膝関節・足関節の関節可動域運動を施行。
    【結果】
    初回の治療にて痛みはVAS8→VAS4と減少しROM膝屈曲95°→115°足関節背屈-15°→-5°と改善した。最大荷重量は32.0[41%]→40.8[52%]/78.0_kg_へ増大が認められた。OPE後(以下、PO)64d片松葉杖歩行PO73d一本杖歩行PO80d独歩開始しPO85d自宅へ退院。その後週に一度外来にて理学療法実施。PO160d痛みは足背部消失、踵部VAS1 と減少。非圧痕性浮腫は下腿遠位部消失、足部軽減。皮膚光沢、異常発汗消失。ROM膝屈曲145°足背屈10°最大荷重量79.5/79.5_kg_[100%] 歩行は足関節背屈制限のため左立脚時に体幹前屈生じるが、独歩にて荷重時痛なく可。
    【考察とまとめ】
    痛みの原因として骨折からの一次性のものに加え、二次障害としてCRPSの症状である疼痛と、足根部および足関節のjoint playが減少しており、特に距骨下関節でjoint playの減少が著明にみられたことから関節包内の運動異常による関節原性の痛みが考えられた。AKA副運動技術を行ったことにより関節包内の運動は改善され、関節原性の痛みは緩和し、関節可動域の増大が認められたと考えられる。また、関節可動域運動の際は関節面の滑りを誘導しながら実施したことにより、関節運動反射および関節静的反射を起こさずに無痛下で関節包外軟部組織の伸張が可能であった。このように無痛で運動療法を実施したことにより、CRPSの増悪を防ぎ、症状の軽減・骨癒合の促進に繋がったと考えられる。今回CRPSを生じた原因として、髄内釘による異物反応の他、急性期での痛みを伴う理学療法、症例本人の過度の自主練習といった過用・誤用が考えられた。この症例を通して、PTとして重要な役割は二次的な痛みの原因となりうる関節包内の運動を治療した上で、関節可動域運動や伸張運動を無痛下で行うことや悪化因子となりうる運動・動作へのアドバイスや量のコントロールなどを指導していくことが肝要になると感じられた。
  • -歩行不能からの挑戦-
    中元寺 聡, 多々良 大輔, 谷口 隆徳, 本村 正和, 堤 麻梨子, 諸岡 孝明
    セッションID: 81
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    今回、軟骨形成異常症による先天性下腿内反変形、それに伴う両変形性膝・足関節症を呈した症例を担当した。症例は高度な両下腿変形で、術前は両膝共に荷重位で強い疼痛を呈していたため、屋内をシャッフリング又は四つ這いにて移動していた。今回、症例に対し外科的介入と術後の下肢アライメントから、立位姿勢保持と歩行動作に対しアプローチを行い、4点支持歩行器での歩行が可能となったため、以下に報告する。
    【症例紹介】
    60歳代女性。独居で術前の介護認定は要支援1。週1~2回ヘルパーによる在宅支援を利用していた。出生時より両下腿に彎曲があり、徐々に進行し20歳代後半に膝関節に疼痛が出現した。6年前の転倒を機に杖歩行となり、その後両膝痛が増強したため歩行困難となった。平成21年3月A病院にて両下腿矯正骨切術を施行、加療継続のため同年4月に当院に転院となる。
    【下腿術中所見】
    術前立位Femoro-tibial angle (以下:FTA)は228°/238°(右/左)。術前評価より右下腿45°内捻(左は不明)に対し、脛骨を内彎が最も強い部分から32度closing wedge osteotomyを実施し、骨軸としての内彎矯正を行った。また下腿の内捻に対し、遠位部の30°外旋矯正を行った。左側は右側と同じく脛骨を内彎が最も強い部分から30度closing wedge osteotomyを実施した。両側腓骨は25mm切除し、内反変形に対する矯正は施行しなかった。
    【理学療法評価とアプローチ】
    転院時、関節可動域(右/左)は膝関節屈曲(90°/100°)伸展(-45°/-50°)股関節伸展(-25°/-25°)足関節背屈(-40°/-20°)底屈(45°/25°)であった。両膝関節の荷重時痛(右>左,Visual Analog Scale:6~7/10)等もあり、平行棒内立位保持が困難であった。今回、症例の全体像として特に股・膝関節伸展、足関節背屈制限が著明で、立位保持・歩行動作における支持脚としての機能が両側とも著しく低下していた。加えて、術後FTA (右<左)と、足関節底屈位(右>左)による機能的脚長差も生じていた。今回は上述部に着目し、まず右側に足底板 (距骨下関節回内矯正、踵骨最高部2.5cm補高)を使用した。また、左右調節のため左側には踵部4cmの補高を実施し、平行棒内立位保持練習・歩行練習を行った。さらに、歩行練習において4点支持歩行器を用い、両上肢支持を使用することによって立位保持能力の向上と、加えて、歩行時に体幹を前傾位に保つことで身体重心の前方化と両下肢推進力の向上を目指した。結果、4点支持歩行器にて屋内歩行が自立し、立位姿勢保持も27秒可能となり、わずかではあるが日常生活動作上における立位での両上肢の使用が可能となった。
    【まとめ】
    先天性形態異常からくる変性疾患に対し、外科的介入と術後の下肢アライメントの変化を踏まえたアプローチを行った。今回の経験から、術後に残存している患者の身体機能を診ることの必要性と、その可能性を再認識することが出来た。
  • 宮崎 麻理子, 松田 友秋, 児玉 興仁, 福田 秀文, 榎畑 純二, 久松 憲明
    セッションID: 82
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    膝関節の伸展制限を有する症例は臨床で遭遇する機会が多い.その伸展制限因子として荷重位での身体アライメントや膝窩部後方の筋群,関節包やその周囲靭帯等の関節構成体の制限が考えられているがそれらの直接的な関連性は明確ではない.
    今回我々は膝関節伸展制限と腓腹筋,ヒラメ筋,その両筋から構成される下腿三頭筋全体の伸張性との関連性を検討したのでここに報告する.
    【対象・方法】
    対象は本研究に同意を頂いた膝関節の外傷・手術歴がなく,膝関節伸展制限を有した患者9名(男性1名,女性8名).平均年齢は81±5.1歳で,両側制限5名,片側制限4名,計14脚とした.
    測定項目は➀膝関節伸展角度,➁膝関節伸展位での足関節背屈角度,➂膝関節屈曲位での足関節背屈角度(膝関節90°屈曲位で計測),➃足関節背屈位での膝関節伸展角度(➂の背屈角度を保持した状態で膝関節90°屈曲位から徐々に伸展し,背屈保持困難に至った角度を計測)とした.全て腹臥位・他動的に測定し,計測指標は日本整形外科学会の評価法に準じた.
    統計学的処理は➀と➁,➂,➃それぞれの関連性をspearmanの順位相関係数を用い,危険率5%未満を有意水準とした.
    【結果】
    1) ➀と➁において有意な相関は認められなかった(rs=-0.33,P>0.05).
    2)➀と➂において有意な相関は認められなかった(rs=-0.22,P>0.05).
    3)➀と➃において有意な正の相関(rs=0.65,P<0.05)が認められた.
    【考察】
    結果1)・2)から,膝関節伸展制限と腓腹筋・ヒラメ筋の単独での伸張性との関連性は認められなかったが,結果3)から両筋を一つの筋腱複合体とする下腿三頭筋全体の伸張性との関連性が認められた.
    筋連結を持つ二関節筋と単関節筋とを伸張する場合,一方のみの伸張だけでは骨付着部の筋線維の伸張は得られるが,筋連結部の筋線維の十分な伸張は得られにくい.下腿三頭筋全体の起始・停止は,表層から腓腹筋腱膜層(腓腹筋起始部),総終止腱膜層(両筋の停止部),ヒラメ筋腱膜層(ヒラメ筋起始部)の3層からなり,腓腹筋・ヒラメ筋の両筋は総終止腱膜層で強固に連結している.これより両筋の伸張性が膝関節伸展制限と関与していることが考えられる.また膝関節伸展制限因子として回旋中心軸の外側偏位や関節包内運動の異常配分が考えられているが,今回検討した腓腹筋は大腿骨顆部,膝関節後方関節包に起始を有している為,その伸張性の低下や過剰緊張が関節包内運動の異常配分に関与し,膝関節伸展制限の一要因になりえると推測され,腓腹筋のみならずヒラメ筋との連結も踏まえ下腿三頭筋全体の伸張性を考慮する必要があると考えられる.さらに,腓腹筋・ヒラメ筋は足関節を介し姿勢制御に関与するので,これらの筋の機能不全は姿勢制御においても影響を及ぼすと考えられる.今後は,膝関節伸展制限における病態運動学や屍体解剖などの知見を整理し,姿勢制御も含めた更なる検討が必要である.
  • 日常生活動作と三味線演奏における必要角度の違いを知る
    片山 智裕, 大川 尊規, 吉原 愛, 宮本 洋
    セッションID: 83
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    橈骨遠位端骨折の術後3ヶ月経過をした症例が,日常生活動作(以下ADL)は自立していたが,仕事である三味線演奏に支障をきたした.この事からADLと三味線演奏では必要な手関節角度が異なるのではないかと考えた.
    そこで,三味線演奏においてどのような上肢の運動特性があるか調査したため考察を加え以下に報告する.尚,研究および発表において,対象者への説明と同意を得ている.
    【対象および方法】
    対象は,三味線講師と教室に通う生徒5名(男性1名,女性4名,平均年齢65歳),全例右利きで,上肢の疼痛が無い者とした.
    測定は,関節可動域をゴニオメーターを用いて日本整形外科学会,日本リハビリテーション医学会の測定方法に基づいて行った.
    方法では,同じ撥(ばち)と三味線を使用し,糸を弾く側を右手,押さえる側を左手とした.
    演奏姿勢は,正座位をとり,二の糸(中間の糸)の糸巻きが左耳の延長線上にくる位置で三味線を構える.演奏中,肩・肘・前腕・手関節の各肢位において最も可動域が必要とされる肢位で動作を止めてもらい,その角度を最大角度として測定し,それぞれ平均値を算出した.
    【結果】
    撥で糸を弾く側の右上肢では,肩関節は、屈曲19°±18°,外転43°±7°,内旋10°±10°,外旋0°±7°,肘関節は、屈曲92°±3°,伸転-84°±5°,前腕は、回内15°±19°,回外-9°±12°.手関節は、掌屈60°±11°,背屈-53°±10°,橈屈6°±5°,尺屈8°±3°.
    糸を押さえる側の左上肢では,肩関節は、屈曲11°±12°,外転45°±13°,内旋43°±10°外旋22°±8°,肘関節屈曲104°±2°,伸転-88°±4°,前腕回内2°±11°,回外67°±19°,手関節掌屈7°±24°,背屈29°±9°,橈屈-3°±12°,尺屈-1°±13°.
    【考察】
    右上肢では,三味線を右前腕近位と右大腿部で押さえ,肘と肩は安定した位置で,手関節掌屈の動きにより撥を糸に近づけ,手関節と前腕回旋の複合運動で演奏する.この時,手関節掌屈は60°±11°と大きな可動域を必要とし,この肢位を保持しながら,わずかな回内・背屈・尺屈動作で糸を弾く.
    一方,左上肢では肩関節と前腕の動きにより棹(さお)を移動し,糸を押さえる手指が大きな動きを求められ,手関節は微調整を行う程度である.
    これらよりkey motionとなるのは右上肢における手関節掌屈であると考える.
    【まとめ】
    日常生活動作においては背屈動作が優先され,掌屈の大きな可動性はほとんど必要とされないと報告がある.また,背屈転位型の橈骨遠位端骨折では,一般的に掌屈制限が残存するとされており,これらのことが三味線演奏を困難にしていたと考える.
    今回は一連の動作を静止させた肢位で角度を測定しており,演奏は複合運動により行われているため,今回の結果を演奏に必要な角度と言及は出来ないが,三味線演奏における運動特性は確認できたのではないかと考える.三味線演奏において最も必要とされる関節の可動性は手関節掌屈である.
  • 松崎 稔晃, 益川 眞一, 河津 隆三, 原 賢治
    セッションID: 84
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    我々は前回の研究において、円背高齢者の下肢の筋力バランスについて検討したところ、膝関節屈曲筋力に対し膝関節伸展筋力が高値を示したという結果を得た。そこで今回は前回の研究で得た知見をもとに、筋力増強訓練の違いにより円背高齢者のバランス能力に差が生じるかどうかを検証することにした。尚、報告に際し当院の倫理委員会より承認を受けている。
    【対象】
    当院外来通院および通所リハビリテーションを利用している患者で、既往に中枢疾患がなく下肢関節に強い不定愁訴のない円背を呈している患者25名(男性4名・女性16名、平均年齢82.2±7.5歳)を対象とした。円背の定義については、円背指数13以上の患者を円背とした。円背指数計測は第7頸椎~第4腰椎棘突起を結ぶ直線をL、直線Lから彎曲の頂点までの距離をHとし、Milneらの式を用い、その割合を円背指数(H/L×100)として算出した。
    【方法】
    まず全ての患者に対し重心動揺、ファンクショナルリーチテスト(以下FRT)、膝関節屈曲・伸展筋力を測定した。重心動揺についてはユニメック社製UM-BAR2を用い、単位面積軌跡長を測定した。筋力については日本メディックス製パワートラックMMTコマンダーを用いて行った。その後患者を膝関節伸展筋群のみの筋力増強訓練を行う群8名(以下A群)、膝関節屈曲筋群のみの筋力増強訓練を行う群8名(以下B群)、膝関節屈曲・伸展筋群の筋力増強訓練を行う群9名(以下C群)の3つの群に分け、それぞれ3ヶ月間筋力増強訓練を行った。3ヶ月後上記した3つの評価を再度行った。
    【結果】
    統計処理の結果、筋力、FRT、単位面積軌跡長においてA・B群はともにすべての評価項目において有意差は認めず、C群についてはすべての評価項目において有意差を認めた。すなわちC群は3ヶ月後、筋力は向上し、FRTの数値は大きくなり、単位面積軌跡長の数値は小さくなった。
    【考察】
    円背高齢者では脊柱の力学的均衡が崩れ、全身的に様々な影響を及ぼす。その一つの現象として、姿勢保持筋を中心とした筋群の主動筋と拮抗筋を同時収縮させることにより姿勢を安定させようとする傾向が若年者と比較して強くなる。そのため常に筋収縮が過度に要求され、このことが筋の易疲労性を招き、二次的に筋力の低下をもたらす原因にも繋がる。つまり、円背高齢者ではバランスを保つために主動筋と拮抗筋双方の収縮が過剰に要求されるが、同時に主動筋と拮抗筋双方に筋力低下をきたし易くなるという相反する要素を含んでいる。これが円背高齢者のバランス能力低下をきたす一つの要因であると考える。そしてこのような円背高齢者特有の力学的構造が、今回の研究において主動筋と拮抗筋双方にアプローチしたC群に有意な差がでた結果に影響を与えたのではないかと考えた。
  • 松岡 太志, 宮崎 一臣
    セッションID: 85
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     脊椎圧迫骨折の保存療法には,体幹ギプス固定と半硬性コルセットによる固定がある.当院でもこの2種類の治療法を行っている.体幹ギプス固定は入院後ギプスにて体幹を固定し,3週から4週間の固定の後,軟性コルセットを作成し治療を継続する.半硬性コルセットによる固定は,入院後すぐにコルセットを作製し,治療を行う.どちらの治療法も,早期に患部を固定し,後療法へ移れるために,有効な治療法であると言える.
     しかし,どちらの治療法がより有効であるかを示した研究は少ない.そこで本研究は,脊椎圧迫骨折患者の保存療法において,どちらがより有効な治療法であるのかを調査することとする.
    【目的】
     体幹ギプス固定と半硬性コルセットによる固定との治療成績に差があるか否か,を調査・検討することである.
    【対象】
     平成18年6月から平成21年6月までに当院回復期病棟に入院し退院した脊椎圧迫骨折の患者143例を対象とした.内訳は男性32例,女性111例で,平均年齢は79.8±8.3歳.在院日数は56.9±21.4日であった.治療法については,体幹ギプス固定44例,半硬性コルセットによる固定99例であった.
     また,今回は脊椎圧迫骨折のみによる入院患者で,受傷後すぐに来院若しくは救急病院を受診し,治療を開始できた患者を対象とし,他の骨折などの合併症を有する患者,指示入力が困難であるような重篤な認知症である患者は除外した.
    【評価及び方法】
     評価項目として,在院日数,痛み,退院時のADL能力,受傷後8週経過時点で,骨癒合していないものを遷延治癒とし,その有無を挙げた.痛みについてはVAS,ADL能力についてはFIMにて評価した.以上の項目を評価し,体幹ギプス群と半硬性コルセット群の2群間に分け比較した.
    【結果】
     在院日数は体幹ギプス群55.1±22.6日,半硬性コルセット群57.8±20.9日であり有意差を認めなかった.退院時のADL能力については,FIMにて体幹ギプス群117.1±7.0点,半硬性コルセット群112.0±14.4点であり,有意差を認めなかった(運動項目・認知項目共に有意差なし).痛みについても,有意差を認めなかった.遷延治癒に関しては、体幹ギプス群4例,半硬性コルセット群8例で有意差を認めなかった.
    【考察】
     今回の結果より,体幹ギプスと半硬性コルセットの治療成績に差がないことがわかった.
     体幹ギプスに関しては,強固に固定できるが,固定期間中取り外しができないため,患者のストレスが強く,ADLの中でも清拭等制限されるものが多い.一方半硬性コルセットは,取り外しができ,ADL上の制限も少なく,患者のストレスは体幹ギプスに比べると少ないのではないかと考える.治療成績に差がなければ,患者のストレスが少ないほうがより良いのではないかと考える.しかし,装着率の問題は否定できず, 今後の研究の課題となる.
    【まとめ】
     脊椎圧迫骨折の保存療法において,体幹ギプス固定と半硬性コルセットによる固定との治療成績に差はない.
  • 骨盤帯アライメントと片脚立位の重心動揺
    赤川 精彦, 武田 雅史, 猪田 健太郎, 廣瀬 泰之, 太田 陽介, 末次 康平, 三村 倫子, 山形 卓也, 野中 崇宏, 吉富 公昭, ...
    セッションID: 86
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    臨床上、慢性腰痛症例において骨盤帯の左右非対称性が頻繁に観察される。その骨盤帯の左右非対称性を左右対称に調整するために様々な手技が用いられている。しかし、骨盤帯のアライメントを修正しても、骨盤帯の非対称性が生じることを度々経験する。そこで、今回、骨盤帯の非対称性と仙骨アライメント異常の関連性を運動学的に考察し、骨盤帯のアライメント調整前後での左右の片脚立位における重心動揺の変化、立脚側の仙骨と寛骨の相対的位置関係を検討したので報告する。
    【対象と方法】
    対象者は、下肢に問題のない骨盤帯の非対称性のある対象者を選択する。男性19名、女性5名の計24名。平均年齢24.3±3.05歳。1)骨盤帯の位置の確認(上前腸骨棘/上後腸骨棘/仙骨のアライメント)、2)立脚側の仙骨と寛骨の相対的位置関係、3)仙腸関節のjoint play test、4)重心動揺計(Zebris社製、PDM)を用いて静的立位重心、片脚立位の重心動揺の測定をした。骨盤帯の非対称性に適応させたmanual therapyを施行後、再度同様に検査を行い、治療前後での比較、検討を行った。
    【結果】
    1)仙骨と寛骨の相対的位置関係:24例中21例の左仙腸関節が仙骨に対し寛骨の後傾が認められた。2)静的立位重心:全例とも治療前に認められた総軌跡長が治療後、有意(P<0.05)な短縮が認められた。3)右片脚立位の重心動揺の変化:24例中18例において重心動揺の総軌跡長の短縮が認められた。4)左片脚立位の重心動揺の変化:24例中13例において重心動揺の総軌跡長の延長が認められた。5)右立脚側の仙骨と寛骨の相対的位置関係:24例中23例が仙骨に対し寛骨は前傾した。治療前後での変化はなかった。6)左立脚側の仙骨と寛骨の相対的位置関係:24例中19例が仙骨に対し寛骨が前傾した。治療後19例中2例において仙骨に対し寛骨の後傾が認められた。
    【考察】
    仙腸関節が安定する状態は、仙骨が前傾し、仙骨に対し寛骨が後傾するときである。今回、骨盤帯の位置を修正する前は、右仙腸関節において、仙骨は後傾し、寛骨は前傾し不安定な状態になっていた。仙骨の位置と寛骨の位置を修正後、仙骨に対し寛骨が後傾し、仙腸関節が安定する状態となり右片脚立位時の重心の総軌跡長は減少した。左仙腸関節においては、仙骨は前傾し、寛骨は後傾し安定する状態となっていた。仙骨の位置と寛骨の位置を修正後、仙骨に対し寛骨は前傾し修正前よりも不安定な状態になり左片脚立位時の重心の総軌跡長、重心動揺面積ともに増加した。よって、骨盤帯の非対称性が修正されることのより、右仙腸関節においては、片脚立位時の安定性が向上し、左仙腸関節は仙骨が前傾し、寛骨が後傾し安定させている状態から不安定な状態に変化するため片脚立位時の安定性が低下したと考えられる。骨盤帯の位置を修正することにより、静的立位保持能力が向上するが、片脚立位のようなアライメントだけでなく筋の出力を要するような課題においては安定性が低下すると考えられる。
  • 長ヶ原 真奈美, 榊間 春利, 長谷場 純仁, 米 和徳, 池田 聡
    セッションID: 87
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    腰部脊柱管狭窄症(Lumbar Canal Stenosis: LCS)における腰椎低侵襲手術である、筋肉温存型腰椎椎弓除圧術(Muscle-preserved interlamina lumbar decompression: MILD)と開窓術(fenestration)を施行されたLCS患者の手術前後の多裂筋横断面積を計測し、多裂筋横断面積がADLに及ぼす影響を検討した。
    【対象】
    LCSと診断され、L4を病巣に含み、MILDを施行された12名(男性9名、女性3名、平均年齢71.3±8.8歳:MILD群)、開窓術を施行された10名(男性7名、女性3名、平均年齢72.0±5.6歳:開窓術群)を対象とした。なお本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施し、対象患者には本研究の目的・方法を十分説明するとともに、データは個人が特定されない形で公表される場合があることを説明した。
    【方法】
    疼痛・痺れなどのより症状の強い一側を疼痛優位側とし、症状の少ない方を反対側とした。手術前と手術後3週のC T・MRI画像より、L4レベルの多裂筋横断面積をScion image softwareを使用して計測した。ADL scoreは日本整形外科学会腰痛疾患治療成績判定基準(JOA score)の日常生活動作項目を使用し点数化した。統計学的検定は、手術前後の比較はWilcoxon符号順位和検定、術式ごとの比較はMann-WhitneyのU検定、相関についてはSpearmanの順位相関係数を求め、無相関の検定を行った(p<0.05)。
    【結果】
    L4レベルの多裂筋横断面積は、MILD群では有意差は認めなかった。開窓術群では疼痛優位側で手術前613.51±236.61mm2から手術後695.95±326.95mm2と有意な増加を認めた。また手術前のL4多裂筋総横断面積とADL scoreにおいてMILD群r=0.5、開窓術群r=0.53で有意な相関を認めた。ADL scoreはMILD群で8.3±1.63点から10.5±1.64点、開窓術群で7±3.65点から11.1±1.86点と両群において手術前後で有意な改善がみられた。
    【考察】
    L4レベルにおける多裂筋横断面積の手術前後の比較から、MILD施行患者では筋への侵襲が少ないことが示唆された。また開窓術施行患者では手術後に増加傾向を示し、深層筋に浮腫が起こっていると考えられた。術後リハに対するクリティカルパスでは、MILD施行患者では術後1日目より離床・歩行開始、開窓術施行患者では術後2日目より離床・歩行開始が一般的であるが、両術式における術後リハの進行は大差がない状況である。今後は各術式における違いを踏まえた上で術後リハの実施、クリティカルパスの導入を行うことでMILD施行患者においてはADL scoreの改善がより早期より可能となると考えられる。
  • 中野 吉英, 井元 淳, 高宮 尚美, 甲斐 尚仁
    セッションID: 88
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    今回、腰部脊柱管狭窄症(L4/5、L4/5 conjoint nerve)と腰椎すべり症(L4/5)に対し腰椎後方椎体間固定術(PLIF)を施行し、術後消失した下肢痛が再度出現した症例を経験した。再度出現した疼痛の発生起序について検討したのでここに報告する。
    【症例紹介】
    60歳代女性。H15年頃より腰痛が出現した。H19年頃より右下肢痛が出現。H21年当院受診し、MRIにて腰部脊柱管狭窄症・腰椎すべり症(L4/5)と診断される。翌月、PLIF施行される。
    【説明と同意】
    発表に先立ち本症例に十分説明を行い、紙面にて同意を得た。
    【経過及び評価】
    術前は歩行時に腰背部、左膝関節部、また右殿部から足底にかけての疼痛があった。表在感覚は右殿部から足底にかけて中等度鈍麻であった。膝蓋腱反射は左右とも正常、アキレス腱反射は左右とも消失していた。立位姿勢は腰椎前彎、骨盤前傾・軽度右挙上位を呈していた。徒手筋力検査では右股関節外転4、右足趾伸展3の筋力低下を認めていた。術後2日目より硬性コルセットをつけての座位、歩行が許可され、術後3日目より理学療法が開始となった。この時点での評価は、右下肢痛は消失し、新たに術創部痛が出現していた。表在感覚は右鼡径部、右大腿外側から前面にかけてと右母趾に軽度鈍麻があった。立位姿勢では、腰椎前彎、骨盤前傾が軽減していた。腱反射、筋力については術前と変化はなかった。術後6日目から11日目にかけて「右股関節に違和感ある」、「右脚がだるくて眠れない」などの訴えがあり、右鼡径部・大腿部の歩行時痛と夜間痛が出現した。術後13日目に右股関節臼蓋形成不全・変形性股関節症と診断された。術後14日目、独歩にて自宅退院された。
    【考察】
    臼蓋形成不全患者は疼痛回避のため、大腿骨頭に対する臼蓋の被覆率を高めようとし、腰椎前彎・骨盤前傾姿勢を呈することはよく知られている。本症例も臼蓋形成不全により同姿勢を取るようになったため、腰椎の剪断力が高まり、腰椎すべり症を発症したと考えられた。
    下肢と腰椎の運動連鎖を考えれば、腰部脊柱管狭窄症・腰椎すべり症患者の股関節評価は見落とせない部分である。術前評価では、腰部神経症状と変形性股関節症による関節症状を判別するのは困難であった。しかし、前述した下肢と腰椎の運動連鎖や本症例での特徴的な立位アライメントを考慮しつつ、股関節のエンドフィールの精査ができていれば関節症状を予測できた可能性もある。
    本症例では、術後原因不明の疼痛が再び出現したため、手術に対する不安が増したのではないかと考えられる。入院中、患者の身体に触れる機会が多い理学療法士がより早期に異変に気付き、医師と情報交換ができれば不安軽減に繋がったのではないかと考えられる。
  • ~2症例での比較~
    安部 信子, 村山 みゆき, 甲斐 之尋
    セッションID: 89
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当院で実施されている腰椎椎体後方固定術(以下PLIF)後・椎弓形成術後のコルセット着用期間は3カ月間である。臨床上、コルセット除去後の体幹可動域低下・胸郭拡張低下を多く経験する。今回、コルセット着用期間から胸郭拡張を促すエクササイズを導入することにより胸郭拡張低下予防を促すことができないかを2症例で検討した。尚、本研究は当院の倫理委員会より承認を受けている。
    【方法】
    安静時・最大吸気時・最大呼気時の下位胸郭(第10肋骨位)の周径、左右肋骨弓間の距離を測定、チェストグリッピングテストを施行した。症例1は胸郭拡張エクササイズを1週間実施し、症例2は未実施とした。胸郭拡張エクササイズについては、背臥位にてコルセットを除去し下位胸郭の拡張を意識しながらの腹式呼吸5分と横隔膜リリース5分を自主エクササイズで行わせた。このエクササイズを1日3セット1週間行い1週間後に再評価し、2症例で比較・検討した。
    【症例1】
    35歳女性・腰椎椎間板ヘルニアによりPLIF(L4/5・L5/S1)を施行。術後3週5日。結果:安静時介入前61.6cm→介入後62.0cm(差+0.4cm)、最大吸気時63.5cm→64.5cm(安静時からの拡張差1.9cm→2.5cm、差+0.6cm)、最大呼気時57.8cm→57.8cm(安静時からの拡張差3.8cm→4.2cm、差+0.4cm)、左右肋骨弓間距離8.0cm→9.5cm(差+1.5cm)、チェストグリッピングテストにて介入前右下肢自動伸展挙上時に下位胸郭が内側へ引き込まれたが、介入後現象は消失。
    【症例2】
    31歳女性・馬尾神経腫瘍により腫瘍切除術及び椎弓形成術(L3/4)を施行。術後2週5日。結果:安静時介入前65.8cm→介入後65.9cm(差+0.1cm)、最大吸気時66.4cm→67.4cm(安静時からの拡張差0.6cm→1.5cm、差+0.9cm)、最大呼気時60.8cm→60.9cm(安静時からの拡張差5.0cm→5.0cm、差0.0cm)、左右肋骨弓間距離10.5cm→10.5cm(差0.0cm)、チェストグリッピングテストは介入前後ともに陰性であった。
    【考察】
    胸郭拡張エクササイズ介入の効果として、安静時の下位胸郭横径拡張増大・肋骨弓間増大・チェストグリッピングテスト陰性がえられた。これは、今回実施した胸郭拡張エクササイズの効果として肋骨下部のスティフネスの減少と腹式呼吸パターンへ促すことができていると推察される。しかし、最大吸気・呼気時での下位胸郭横径拡張については、エクササイズ未実施の症例2の方が効果を得た。今回の胸郭拡張エクササイズでは横隔膜運動を促すことができたが、拮抗・協同作用としての腹筋群の機能向上を得ることができず、最大吸気・呼気時の胸郭拡張効果がえられなかったと推察する。
    【おわりに】
    今回は短期間であったことと、2症例間の検討であったため、エクササイズの意義を実証するには乏しいデータであった。今後は体幹筋機能の評価・エクササイズを含めた検討とコルセットが胸郭拡張に及ぼす影響について検討を行っていく。
  • 宮城 大介, 佐伯 匡司, 中島 雪彦, 渡邊 進
    セッションID: 90
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    近年、身体図式に関する研究がリハビリテーションの領域でも増えてきている。しかし、身体イメージを利用していくにあたり評価においては主観的要素が強く画一的に行うことが困難であることが多い。そこで本研究では自画像を身体図式の一つの表象として仮説立て、心身機能やADLとの関連性を調査した。
    【対象と方法】
    脳卒中患者20名(内訳男性12人/女性8人・平均年齢66,6歳・発症から描画評価までの平均日数21日)に対し、対面にてA4用紙と鉛筆を用い「御自身の全身の自画像を描いて下さい」と指示を行い、必要に応じて「頭からつま先まで」と追加指示を行い描画して頂いた。評価にはグッドイナフ人物画知能検査(Goodenough draw-a-man intelligence test:以下DAM)を用い、項目を野本のDAM項目の分類に従い部分、比率、明細度に分類した。精神機能評価としては、Attentional Rating Scale(以下ARS)、The Cathrine Bergego Scale-Japanese(以下CBS-J)を用い、運動機能評価としてはFugl-Meyer Assessment (以下FMA)、生活機能評価としてFunctional Independence Measure(以下FIM)を用いた。また、年齢や発症から描画評価までの日数も含め、それぞれの得点の相関関係を回帰分析にて優位水準を1%として検定した。
    【結果】
    分析結果にて、DAMの点数と認知FIMにおいて強い相関関係を認めた。また、FIMの総合得点、ARS、FMAの感覚評価項目、運動FIMの順で相関関係を認めた。しかし、決定係数は認知FIMで50%程度、その他の相関関係のある項目においては30~40%であり適合は十分ではなかった。また、その他のFMAの総合得点、各項目、年齢、発症から描画評価までの日数とは相関はみられなかった。
    【考察】
    相関のあった項目であるFIMに関しては、純粋な運動機能だけではなく、高次機能も含んだ活動内容の評価である。そのため、知的機能の評価としての自画像と関係が深い可能性があったと考えられた。このことは認知FIMでより強い相関があったこと、ARSでも相関があったことからも推察された。
    また、FMAの感覚評価項目と相関があったことに関して、森岡は感覚(視覚)と運動(体性感覚を含む)の統合の繰り返しによって身体図式が生成され、リアルタイムに更新しているとし、今回の結果はこれに関連した結果になったと思われる。さらに、運動機能の項目と相関のなかった点に関しては、視覚的イメージを行う上で直接的に関与しないことも考えられた。しかし、成人への自画像描画に関しては検者との関係性や取り組む際の意欲などでも左右される為、それらも考慮した上で検証を重ねていく必要がある。
  • 柳田 信彦, 井上 和博, 簗瀬 誠
    セッションID: 91
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    精神科病院において実施されている精神科作業療法についての知識の普及は、身体障害分野などの他の作業療法に比べて大きく遅れている状況にある。例えば身体障害分野のリハビリテーションとしての作業療法が病院で行われていることは多くの家族が知っているが、一方、精神科病院で作業療法が行われていることを知らない家族も少なくない。この事は精神科作業療法を利用する精神障害者やその家族にとって不利益をもたらすものではないかとの問題意識を持った。そこで鹿児島県内の精神障害者をもつ家族を対象にした精神障害者家族会の研修会で精神科作業療法の普及活動を行った。今回、この活動の概略を紹介し、若干の考察を加える。なお、この普及活動は平成20年度日本作業療法士協会「作業療法推進活動パイロット事業助成制度」を受けて実施した.
    【普及活動の内容】
    精神科作業療法を紹介する「精神障害者家族会の研修会」を3回行った。各研修会において鹿児島県内の精神科病院に勤務する作業療法士が講師になり、「精神科作業療法の役割と実際」をテーマに精神科作業療法の実践を紹介し、その後、意見交換を行った。各々の内容は次の通りである。
    1)種子島会での研修会(平成20年度精神保健福祉研修会)
    開催日時:平成20年11月22日(土)13:00~15:30
    会場:西之表市市民会館      参加者:合計106名
    2)鹿児島県精神障害者家族会連合会での研修会(平成20年度「心の健康ネットワーク研修会」)
     開催日時:平成21年1月28日(水)10:00~14:30
     会場:鹿児島市勤労者交流センター 参加者:合計120名
    3)きもつき会での研修会(平成20年度精神保健福祉研修会)
     開催日時:平成21年3月1日(日)13:00~15:30
     会場:リナシティーかのや     参加者:合計113名
    【結果と考察】
    今回行った一連の研修会参加者は合計339人であり、これらの参加者に精神科作業療法の役割と実際について概要から実践に至るまでを具体的に説明できた。さらにその参加者の立場や職業は家族や当事者に加えて民生委員や警察職員、行政職員、医療福祉施設職員など幅広いもので、精神障害者の治療を担う精神科作業療法の認知度を幅広く高める契機になったと考える。
    参加者へのアンケート結果では「今回の紹介で、精神科病院で行われている作業療法についての理解が深まりましたか?」という質問に対して94.2%が「はい」と回答している。また「今後、精神科病院で行われている作業療法について知る機会を増やして欲しいと思いますか?」という質問には94.7%が「はい」と回答した。この結果からこのような機会を多く作り精神障害者のための医療・保健・福祉における作業療法の役割を認識してもらう場を積極的に継続して設ける必要性を感じた。さらに当事者や家族、それを支援する地域の精神科作業療法に対するニーズを把握する場になると考えた。
  • リンパ浮腫改善からADL拡大・QOL改善がみられた一例
    太田 祐子, 上島 隆秀, 禰占 哲郎, 藤田 曜生, 瓜生 充恵, 田尻 由季, 高杉 紳一郎
    セッションID: 92
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    今回、乳がん術後に重度リンパ浮腫を呈したことによる上肢機能低下に伴いADL・QOLが著しく低下した症例を担当した。複合的治療により、特にQOLが顕著に改善したため、その介入方法などを報告する。
    【事例紹介】
    50代女性。11年前、右胸筋温存乳房切除術施行。その後、原発巣増大、肺転移指摘。癌性胸膜炎による胸水、呼吸苦を認め、胸腔ドレナージ、胸膜癒着術施行。昨年、呼吸苦、咳嗽が強く、症状緩和目的で入院。右上肢のリンパ浮腫著明であり疼痛強く日中は臥床傾向。症状緩和とADL改善目的でリハビリ開始。主訴は、「腕があがらない」「肩がいたい」。ニードは、主婦業をやりたい。入院前は、夫・息子と三人暮らし。食事が入らず、体重12kg減。夫が家事など手伝っていた。
    【介入の基本方針】
    リンパ浮腫に対して、複合的治療をPTと実施。PTによる用手的ドレナージ・圧迫療法(バンテージ)を実施後、OTではバンテージ着用下での運動療法を実施。呼吸に対しては、PTによる呼吸理学療法実施。適宜、OTによるADL・APDL訓練を導入する。また心理的サポートを行いながらQOL向上を支援する。
    【介入経過】
    当初は、車椅子で来室され、表情乏しく、訴えが十分にできないほど息切れなど全身的に倦怠感強い。その状態での介入がストレスとなっていた。運動面では、右上肢の自動運動不可で、他動運動では強い疼痛出現。精神面では、「なさけない」とネガティブな発言が目立っていた。当初は、リンパ浮腫への複合的治療を中心として、活動量向上してからは、PTは呼吸理学療法、OTはADL訓練を中心へと変更していった。介入により、退院直前には、独歩で来室され、食が進まない状況であるが、調理に関して楽しそうに話すなど活動への意欲が受け取れた。実際、調理訓練場面では無意識下で右手を使う高負荷の活動も可能となっていた。精神面では、笑顔がみられ、「家族のために何かしたい」とポジティブな発言が聞かれるようになった。
    【結果】
    周径は、肘下10cmで最大で4.2cmの軽減。リンパ浮腫が軽減したため、右上肢の自動運動可能となり、バンテージからグローブ・スリーブへ移行して日中着用している。呼吸苦に対しては、酸素1.5リットル投与開始されて、SpO2 96-7%。息切れあるが、訴えを伝えることは可能。運動時に腫瘤周辺に疼痛あるが、服薬により緩和傾向。FIM74点から99点に改善。離床機会増加。右手で歯磨き粉やペットボトルのふた開け可能。慈恵リンパ浮腫スケール(JLA-Se:最高100点)にて機能は0点から35点、感覚は0点から24点、美容は8点から100点、心理的苦痛は0点から51点と大きく改善。
    【考察】
    当初はリンパ浮腫のために、セルフケアも思うように出来ず、家族に対して自責の念に駆られて精神状態が不安定であった。リハに対する希望は薄く、積極性が乏しかった。しかし介入により、リンパ浮腫が軽減して自動運動可能となったことで、セルフケアへの右手参加も見られるようになり、精神状態にも改善が見られて、積極性がみられるようになってきた。セルフケア自立となった頃から、妻・母親としての役割を果たしたいという思いを訴えることが多くなり、家族に自分が出来ることを何かしてあげたいという気持ちへと変化が見られた。以上から、リンパ浮腫改善が心身の苦痛を緩和させて、ADL拡大とQOL改善をもたらしたものと考える。
  • 満足度の変化と他職種の意識、関わりの変化について
    下村 亮輔, 豊田 敬一, 中山 利美, 吉本 龍司, 鋤田 千穂, 柚木崎 雅志, 坂本 幸子, 黒木 尚美
    セッションID: 93
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院では患者さんのことをゲストと呼ばせていただいていることをご了承ください.今回,ゲストに対して自己有能感の獲得,満足できる日課をもつことを目標に,筆ペンを使用しての絵画,書字を提供し,作品展『ちょっとみ展』を開くこととした.この作品展を通して本人の意志,習慣化,遂行,環境の変化と,他職種のゲストに対する意識,関わりの変化を調査した.このことから得られた事を検討し考察を報告する.なお,本研究はゲストへの説明と同意を得,当院の倫理委員会より承認を受けている.
    【ゲスト紹介】
     80代男性,診断名は腹部大動脈瘤術後廃用症候群.既往として脳梗塞あり.BIは5点,FIMは33点,食事は胃瘻増設し経管栄養,移動は電動車いすで見守り,寝返り,整容が一部できる程度.認知機能について,HDS-Rは20点,見当識は比較的良好.コミュニケーション手段は構音障害が重度で,自発話は「アー」程度.実用的手段は筆談となっている.自己排痰困難で吸引が必要な際に,ナースコールを押して要求することができる.
    【対象・方法】
     ゲストに対しての満足度の変化については,作業に関する自己評価(以下OSA_II_)を用いた.他職種へのゲストに対する関わりの変化については,『ちょっとみ展』終了後に,質問紙調査を無記名方式で実施.調査対象は,担当PT,OT,ST以外の病棟スタッフで,調査内容は,ゲストへの声かけの頻度や内容に関するものとした.
    【経過】
     ゲストの生活パターンはADLのほとんどをベッド上で過ごし,週三回の入浴とPT,OT,STの日々のリハビリ平均5単位以外は,自室で臥床して過ごしていた.リハビリに対して拒否はないがリハ終了後にはすぐに臥床を希望.書字,絵画を行うことで作業活動時間が長くなり,作業終了後には笑顔が見られるようになった.OSA_II_より本人が1番変化を望む項目は,「自分について」の21項目中では,自分の責任をきちんと果たすで,「環境について」の8項目中では,自分が行けて楽しめる場所であった.この評価結果より展示者としての役割,責任を持ってもらいゲスト自身も楽しめる場として,作品展を行うことを提案した.ゲストの同意を得,共に準備をすすめていった.
    【考察】
     作業療法で提供している活動を,病棟内で作品展として発表する,環境を操作することで,ゲスト自身の満足度の変化だけでなく,病棟で働く他職種に対して,ゲストができること,病棟内での関わりだけでは見えにくいゲストの能力を知る機会になったのではないか,と考えられる.Kielhofnerは,「ある人の障害の範囲は,かなりの程度がその周辺環境からもたらされる」と述べている.ゲストや他職種の関わりが『ちょっとみ展』を通じてどのように変化したのか考察を加え発表する.
  • ~初老期鬱病患者との関わりを通して~
    矢野 亜美
    セッションID: 94
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【始めに】
    今回初老期鬱病を呈する症例に個人作業療法(以下個人OT)を実施する機会を得た。意欲に乏しく、疲労感の訴えの多い症例であったが、個人OTを継続する中で、前向きな言動などの変化が見られるようになった。今回経過を振り返り、症例の変化の要因について考察を加え報告する。
    【症例紹介】
    60代女性。X-6年妄想性障害と診断され、入退院を繰り返す。X-2年4回目の入院。診断名初老期鬱病。抑うつ状態で、臥床傾向強く、病棟でのOT活動への参加はほとんどない。X年個人OT開始。
    【個人OT経過】
    開始当初は、義務的で表情硬い。OTRの声かけに返事をするのみである。症例の好きな音楽鑑賞を行なうが、選曲はOTRに任せがちである。疲労の訴えが多く、帰棟要求や休みの希望もあり、その都度個人OTの目的を説明する状況であった。2ヵ月後より、A氏から話す機会も増え、話題の幅が広がる。選曲も自分で行い、活動終了時には、「ここで音楽を聴くのを楽しみにしているんですよ。」と表情良く話すようになる。この頃、病棟での活動性も上がったため、本人・スタッフ・家族とカンファレンスを行い、さらに活動性の向上を目的に、病棟のADL目標を設定した。個人OTでは『がんばらなくていい、一息つける時間』を保証し、継続した。半年後、自ら活動への要望を言うようになる。個人OTの振り返りでは、「楽しみ」「継続することで自信がつく」「OTRと話せる」など非常に満足度の高い結果であった。
    【考察】
    個人OTの治療構造を経過を踏まえて考察した。
    1.本人の興味があり、受動的で失敗も無い作業内容
    2.病棟外で人の出入りも少ない環境設定
    3.作業を介して寄りそう、傾聴・支持的なOTRの関わり
    これらの要因により、症例にとって、『今のありのままを受け入れられる』場になったと考える。このような体験を繰り返すことで、病棟では聞かれないような愚痴や前向きな発言が聞かれ、思いを語る場となった。継続することで、自信につながり、「1週間の楽しみ」と個人OTを捉え、積極的な利用につながったと考える。また、カンファレンスを通じ目標に向って、それぞれの職種で役割分担をしながら、関わりを持つ事ができた。症例にとって、ADL目標は『努力の要るもの』として、捉えられていたが、『病棟でがんばっている分、個人OTはがんばらなくていい時間』と保証したことで、積極的な休息がとれ、気分転換を図ることができたと考える。その結果、活動と休息のバランスが上手く提供でき、病棟内でのADLの改善にも効果的であった。
  • 儀間 智子
    セッションID: 95
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    今回、対人緊張が高い為関わりが難しく外出に対しても抵抗がある症例に対して、雑誌コーナーの雑誌購入を導入した結果、退院してピアノ教室に通いたいと口に出すようになった。振り返りを行い考察を加えたので報告する。
    【症例紹介】
    30歳代女性。19歳、人と付き合い難くなり家へ閉じこもる。21歳、薬学に通うが寮生活で対人関係上手くいかず不登校となる。帰沖し復学試みるが、自主退学する。33歳、多量服薬しA病院の5階から飛び降り、興奮状態で当院入院となる。関わり当初、単語での返答多く近くに座ると自ら離れていき関わるのが困難であった。雑誌や化粧品を一人で見て過ごす場面が多く見られた。
    【方法と経過】
    『雑誌コーナーの雑誌購入』月に1回個別で行い、1.楽しむ体験2.自信の回復を目的とした。OTRから誘い、雑誌を2~3冊程度選んでもらう。〈BR>症例が他患と雑誌や化粧をしているOTRの姿を見る事から始め、同じ机で雑誌を見ながら徐々に会話を図り購入へ誘った。購入初回時には拒否もあった。移動中の車内では、OTRが1~2回話しかけるのみで帰りは笑っている表情が多く見られた。初めは常にOTRの後ろから歩いており、多くの雑誌の中から選ぶ事が出来ず、立ちすくむ場面が見られた。その為、「購入月の前後や読んだ事のある雑誌から選ぶと選びやすいよ」と段階付けを行い読みたい本(漫画)の選択が出来る様になる。その頃と同時期にOTRの前を歩くようになり、買いたい雑誌や漫画の棚に積極的に足を運ぶようになる。また、会計後の雑誌を積極的に持つようになる。
    【結果】
    OTRに対して、感情を表出したり、「家に帰りたい、ピアノ教室に通い、○○の40番を完成させたい」と話すようになる。
    【考察】
    今回、対人緊張が高く関わり難い症例に対して、興味がある雑誌を通して個別での雑誌購入を導入した。雑誌購入は、将来に関わる大きな決断ではない事やOTRからの誘いから受容的な参加が可能な状況が参加しやすく、選んだ雑誌に対してOTRに肯定される体験から安心感が生じたと考える。安心感から次第に自分の読みたい雑誌を意思表示出来るようになり買えた満足感や購入した雑誌をホールに来て見る事、女性らしさを意識する本人の楽しみから継続して購入に至っているのではないか。また、他者が手に取り読む姿を見て「この雑誌でよかった」と喜ぶ姿や賞賛される体験が自信に繋がったと考える。今回の雑誌購入は、(1)流行の服や髪形を気にする、(2)自分を変えたいと感じる機会と症例自信から生じる喜びが大きかったと考える。結果として現在では、以前やり残した「家に帰ってピアノ教室に通いたい、曲を完成させたい」という希望をOTRを含め他者へ意思表示する様子が伺えるようになった。今後は、本人の気持ちを引き出していきながら意思を固めていく。活動でもピアノを取り入れていき糸口を見つけていく。
  • 最大呼気口腔内圧は腹筋群の客観的筋力評価法として活用できるのか
    熊谷 祥子, 堀江 淳, 長山 亜里沙, 北島 貴大
    セッションID: 96
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    要介護高齢者に体幹屈曲の筋力評価を行う場合、腰痛や脊柱の変形の為、実施するのが困難なケースをよく経験する。今回、我々は努力性呼気筋である腹筋群に着目し、呼気筋力評価法である最大呼気口腔内圧(MEP)が、体幹筋(特に腹筋群)の筋力評価法として活用でるかをパイロットスタディーとして検討した。
    【対象と方法】
    当院および関連施設でリハビリテーションを行っている要介護高齢者20名(男性10名,女性10名)、平均年齢75.5±9.2歳を対象とした。除外対象は、歩行が不可能な者、研究の主旨が理解できない者、重篤な内科疾患を有する者とした。なお、要介護高齢者とは、介護保険法による要支援、要介護認定を受けている者とした。
    測定項目は、呼吸筋力として最大吸気口腔内圧(MIP)、MEP、四肢筋力として握力、大腿四頭筋等尺性最大筋力を測定し、体重で標準化した数値(%MIP、%MEP、%握力、%膝伸展筋力)とした。その他、最大歩行速度、Timed Up and Go Test(TUG)、10秒椅子立ち上がりテスト(CS-10)を測定した。
    統計学的分析方法は、%MEPと各々の測定値の関係をPersonの積率相関係数を用いて分析した。%MEPの影響因子はステップワイズ法による重回帰分析を用いて分析した。数値表記は平均値±標準偏差とし、帰無仮説の棄却域は有意水準5%未満とした。解析にはSPSS version 17.0を使用した。
    また、本研究は、大学に設置されている研究倫理審査委員会の承認を得て実施した。
    【結果】
    %MEPは0.59±0.34であり、%MIPは0.59±0.29、%握力は0.62±0.21、%膝伸展筋力は0.62±0.19、最大歩行速度は0.78±0.45(m/sec)、TUGは18.2±10.3(秒)、CS-10は3.6±1.6回であった。
    %MEPは、膝伸展筋力(r=0.60, p=0.005)、最大歩行速度(r=0.68, p=0.002)、TUG(r=-0.50, p=0.036)、CS-10(r=0.62, p=0.004)の間に有意な相関が認められた。
    %MEPの影響因子は、%MEP=0.46×最大歩行速度+0.58(R2=0.45 p=0.002)と有意な回帰式が得られた。
    【結論】
    %MEPと有意な相関が認められた最大歩行速度、TUG、CS-10は、下肢筋力のみでなく体幹筋筋力に影響を受けることが予測される。%MEPが、%膝伸展筋力と相関が得られたことと、これら項目に有意な相関が認められたことから、下肢筋力と同様に%MEPが、体幹筋筋力を反映することが考えられた。%MEPは、客観的体幹筋力評価が難しい要介護高齢者の体幹筋(特に腹筋群)の評価法として活用できることが示唆された。
  • 弓岡 まみ, 片渕 友一, 中島 龍彦, 中原 正統, 村田 伸
    セッションID: 97
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     足底感覚は立位の平行機能維持のために重要な感覚の一つである。しかし従来の足底感覚検査は時間がかかり、患者への負担も大きい。そこで今回、臨床においてより簡便に感覚検査を実施するため、簡易感覚検査法を考案し、従来の感覚検査と比較することでその併存的妥当性を検討した。
    【対象・方法】
     本研究の内容に同意が得られた高齢者16名、32足を対象とした(平均年齢:79.8±7.9 歳)。対象者は、検査方法が十分理解でき、かつ重度の末梢循環障害や足部変形がない者とした。計測は今回開発した簡易感覚検査法(以下簡易式)、ならびに感覚検査として一般的に実施されているSemmes-Weinstein Monofilaments(以下 SWM)と二点識別覚を実施した。簡易式は、市販のビー玉(直径約1cm)と硬さの違う2種類のスポンジを用意し、足型に切ったスポンジにビー玉大の穴をあけ、間にビー玉をはめ込んだものを用意した。スポンジは3層に分けて重ね、下に体重計を置いた。測定方法は、端坐位で測定器に片足を置き、10秒間測定器を押し、設置されたビー玉の数と位置を答えてもらう方法とした。なお、検者が前傾位を口頭誘導し、体重計が10kg程度を示すよう促しながら測定した。採点基準は5個のビー玉のうち個数・部位が一致すれば加点(5点満点)とし、6ヶ所以上チェックした者は除外した。SWMは足底の皮膚(中央部)に垂直に押し当て、同一部位へ3回施行した。3回とも応答があれば感知できたと判定した。二点識別覚はノギスを用いて、足底の皮膚(中央部)に2点当てる方法により、同一部位へ数回、0.5cm間隔で施行した。判定は2点を認識できる最小値を計測した。統計処理は、簡易式と従来の感覚検査法との関係をピアソンの相関係数を用いて分析した。なお、統計解析にはSPSS-11.0J統計ソフトを用い、統計的有意水準は5%とした。
    【結果】
     各検査法の結果は、簡易式2.41±1.14点、SWM 4.64±0.44g、二点識別覚3.49±1.33cmであった。相関分析の結果、簡易式とSWMとはr=-0.55(p<0.01)、二点識別覚とはr=-0.48(p<0.01)であり、有意な相関が認められた。
    【考察】
     簡易式と従来の感覚検査において、有意な負の相関が認められた。つまりSWMの値が大きく表在感覚が低下しているほど、また二点識別距離が大きく複合感覚が低下しているほど、簡易式検査値が低くなり、両者の結果に一致がみられた。 このことから簡易式は、足底感覚において表在・体性感覚の総合的な評価として適していることが推察された。 ただし、本研究の相関は中等度であり、精密な検査とは言い難い。今後の課題としては足の大きさを考慮し、男女別にて測定機器のサイズを検討していきたい。
  • 白坂 祐仁, 田中 創, 副島 義久, 森澤 佳三, 山田 実
    セッションID: 98
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    直立二足歩行を行うヒトにおいて、足部形態・機能に左右差が生じ足長は長軸方向へ成長しながら右が大きくなり、足幅は筋や腱と足部の成長に伴い、支持機能を持ち左が大きくなる事が報告されている。本研究では、利き足・非利き足が荷重時・非荷重時において前足部横アーチの機能にどのように関連しているか検討したので報告する。
    【対象及び方法】
    対象は、身体に重篤な既往のない健常成人15名(男性13名、女性2名)平均年齢24±4歳である。アーチ下降測定にはメジャーを使用し、非荷重位では、股関節90°屈曲位、内旋外旋中間位、足関節背屈0°に肢位を定め、荷重が足部に乗らないよう坐骨支持である事を確認し、計測した。荷重位では、立位にて測定脚を一歩前へ出し脛骨を第2・3趾間に傾斜させアーチ下降を認めるものを荷重位として測定した。それぞれMP関節部での周径を計測し、荷重・非荷重値とした。統計処理には二元配置分散分析行い左右の交互作用を確認しその後多重比較検定を用いた。
    【結果】
    対象者全体において利き足は右であった。 二元配置分散分析の結果、(F1.14=20.397 P<0.001)にて交互作用を認めた。
    非荷重位では利き足と非利き足では差はなく(p=0.653)荷重位では利き足と非利き足で有意な差を認めた(p=0.006)
    【考察】
    足は、常に地面と接地しており足部アーチも二足歩行時、衝撃吸収の一因子となっており、反力を利用し、推進力を生み出している。
    鳥居らは、右利きでは左足が回転の中心となり、左足は支持足として機能すると報告しており、臼井らも成長とともに支持足が利き足の逆の足に移行し成人では左足が有意に支持足として機能すると報告している。 本研究では、利き足は対象者全員右利きであった。利き足・非利き足と荷重・非荷重値の関係性は交互作用を認めている。非荷重位では利き足と非利き足の差は認めなかった。その要因として非荷重位では前足部アーチは保たれており荷重位になる事により利き足・非利き足としての特性が出現する事が推測される。
    また、利き足より非利き足の方がアーチの拡がりが小さいのは、非利き足は支持脚となっており、利き足に比べ荷重位ではアーチを低下させやすい機能になっていると考えられる。利き足は動作を行う足として非利き足より荷重量は少ないのではないかと推測される。
    前足部横アーチは歩行周期のmidstance以降主に作用する。その為、今回の結果を歩行で考えると立脚後期で前足部横アーチの沈み込みを行い離地させる事より、アーチの拡がりが多い利き足で、蹴りだしを非利き足より強く行っている事が推測される。
      今後、この結果をふまえ利き足・非利き足での足部機能の違いが歩行・全身機能に与える影響を色々な側面から検討していく必要性がある。
  • シングルケースを通して
    屋富祖 司, 城間 伸也
    セッションID: 99
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    臨床上、運動機能の改善は認められるが、内観での変化が乏しい患者を経験することがある.これは、運動イメージの変容による自己身体能力の誤認識と考えられる.今回、右大腿骨転子部骨折を受傷し、練習開始から歩行速度や歩行距離の向上を認めるが、自らの運動と内観との不一致を示す症例に対して、運動イメージを用いた治療として運動観察治療を行ない、内観の変化に伴ったパフォーマンスの向上が得られたので報告する.
    【症例紹介】
    85歳、女性。平成22年1月に右大腿骨転子部骨折を受傷.2日後にγネイル術施行.3月当院入院.ADLは、移動は車いす自立で、立位を伴う動作は監視レベルであった.T字杖歩行監視にて50m連続歩行可能であるが、内観として「歩けない.歩けている?」などのコメントが頻回に聞かれ、生活場面では「出来ない.怖い」と歩行に対しての受け入れが悪く、階段昇降や屋外歩行は拒否がみられた.
    【方法】
    シングルケーススタディのBABデザインを用いた.第一操作導入期(以下B期)では、一般的な治療(関節可動域・筋力増強・歩行訓練)に加えて運動観察治療を実施した.基礎水準測定期(以下A期)では、一般的な治療を実施した.第二操作導入期(以下B2期)では、再度一般的な治療に加えて運動観察治療を実施した.治療期間はB期、A期、B2期ともに各5日間とし合計15日間施行した.また、各治療前後に歩行自立度との関係が多く報告されているTUGを測定、変化量の平均値を算出し、コメントも聴取した.なお、本症例には、本件に関して充分な説明を行い、同意を得た.
    【結果】
    TUGは初日は38.15秒、最終日は18.18秒であった.変化量の平均値は、B期では2.33±1.95秒、A期では0.34±5.09秒、B2期1.32±3.07秒と短縮していた.コメントでは、B期では「歩いているけど、ビデオみたいには歩けない」、A期では「歩くのが疲れる」、B2期「速くなっている」などパフォーマンスの変化に伴っての内観が聞かれた.また、階段昇降や屋外歩行に対する拒否もみられなくなった.
    【考察】
    全体を通じてTUGの短縮を認め、特にB期での短縮が一番であり、A期ではばらつきがみられた.内観での変化として、B期・B2期では歩行に対する歩容や速度といった質的な内容のコメントが聞かれた.松尾らは、運動観察治療は課題実行前の準備期におけるミラーニューロンシステムの明瞭な増加活動パターンを惹起すると報告しており、運動実行のためには運動イメージによる先行的な準備が必要であると考えられる.今回の結果からも運動観察治療は、特に治療開始初期での運動イメージの想起が乏しい時期における導入が有効ではないかと考えられ、本症例においては歩行に対する内観の変化にも般化したのではないかと考える.
  • 岩坂 知治, 江藤 正博, 田中 創, 小牟禮 幸大, 森澤 佳三, 西川 英夫, 副島 義久, 山田 実
    セッションID: 100
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     座位姿勢では,殿部および大腿部が支持面として機能するため,座位での体幹回旋運動には股関節可動域が関与すると考えられる.しかし,股関節に着目した座位姿勢の検討は少なく,体幹と股関節の関係性は明確ではない.そこで我々は,第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会にて体幹回旋と股関節回旋可動域の関係性について調査を行った. その結果,体幹回旋可動域と股関節回旋可動域に関係性は認められなかった.しかし,体幹回旋運動に伴う股関節運動は,屈曲位での股関節内外旋運動のみでなく,同肢位での内転・外転運動も関与することが予測される.そこで今回,体幹回旋運動に影響を及ぼす因子として,股関節可動域に屈曲位での内外転運動を含め再調査を行ったので報告する.
    【対象】
     身体に重篤な既往のない健常成人25名(男性21名,女性4名) 平均年齢24.6±8歳.対象者には,ヘルシンキ宣言に基づいた本研究の趣旨について十分説明を行い,同意を得た上で本研究を行った.また,当院の倫理委員会に本研究の趣旨を説明し,了承を得た上で実施した.
    【方法】
      測定にはゴニオメーターを使用し1)端座位での左右体幹自動回旋,2)端座位での左右上部体幹自動回旋(骨盤を固定した状態での体幹回旋),3)股関節内外旋可動域(背臥位で股関節90°屈曲位),4)股関節内外転可動域( 背臥位で股関節90°屈曲位 )の4項目の可動域を測定した.各項目の基本軸移動軸は日本整形外科学会による評価法に従って計測した.4)の計測法は基本軸を両側の上前腸骨棘を結ぶ線への垂直線とし,移動軸は大腿中央線に設定,水平面より計測した.統計学的処理にはSpearmanの相関分析を用い,1), 2), 3), 4)の関係性を検討した.
    【結果】
     体幹右回旋と上部体幹右回旋(r=0.413,p<0.05),体幹左回旋と上部体幹左回旋(r=0.603, p<0.01)において正の相関関係が認められた.体幹回旋と股関節可動域,上部体幹回旋と股関節可動域において関連性は認められなかった.
    【考察】
     今回の結果は,第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会で報告したものと同様に,屈曲位での内外転運動を含めた股関節可動域と体幹回旋運動との関係性は得られなかった.関係性が認められたものは,体幹回旋可動域と上部体幹回旋可動域であり,上部体幹の回旋可動域が大きい側に体幹回旋可動域が増大するという前回と同様の結果となった.つまり,座位姿勢における体幹回旋可動域には,股関節可動域の関与は少なく,上部体幹の可動性が大きく影響を及ぼしていると考えられる.よって,体幹回旋運動は股関節・骨盤帯より上位体節である脊柱や胸郭の可動性が,体幹回旋可動域を形成する主因子となることが推測される.このことから,座位での体幹回旋運動を評価する際,骨盤帯より上位の体節に着目し,分析していく必要性が示された.
feedback
Top