九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
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  • 新川 陽太, 宮ノ原 章吾, 中村 宏志
    セッションID: 151
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     上腕骨近位端骨折は転倒して直接外力で起こり、特に高齢者、骨粗鬆症のある女性に頻発するとされている。骨折の治療は3partや4part骨折においても早期から保存的運動療法にて良好な成績が得られるという報告もあるが、手術手技や器具の改良の進歩が著しく発展し観血的治療が優先される傾向が強い。今回、治療中亜脱臼を生じた上腕骨近位端骨折の症例に対して保存療法を行った結果、上肢機能やADL面で良好な経過を認めたので報告する。
    【症例紹介】
     農業を営む70代後半の女性。歩行中に転倒し、利き側の右上肢と体幹部を打撲。右肩関節周囲の腫脹、疼痛、運動時痛が強く、翌日当院受診。右上腕骨近位端骨折(3part骨折)の診断を受けた症例である。骨粗鬆症による陳旧性第12胸椎・第1腰椎椎体骨折で、円背を呈している。
    【レントゲン所見】
    大結節骨折(上方転位)、上腕骨外科頚骨折 :3part 骨折
    【保存療法】
     上腕~前腕ギプスシーネ固定にバストバンド固定を行った。3週目、X線で大結節の転位が大きくなり、亜脱臼が生じてきたため、3週後からリハビリを開始した。
    【初期評価】
     体表上、上腕骨下垂位にて肩峰~上腕骨骨頭間に1横指程度の陥凹を認め、上腕骨を内旋位にすると前下方に2横指程度の陥凹を示す。肩関節周囲筋は全体的に萎縮があり、腋窩周囲の軟部組織は圧痛と硬結感を認め、他動的に上腕骨を動かすと肩関節周囲の疼痛と筋緊張が増強し、ほとんど不動の状態である。JOA‐S:14点 VAS:7/10 ADL:家事面では夫が食事を作り、入浴は来院時に清拭を受け、更衣は夫の介助を要する。
    【経過】
     保存療法は良肢位保持と肩甲骨臼蓋に対して上腕骨頭を求心位に安定させることを中心に実施した。レントゲン所見にて上腕骨頭の位置、仮骨形成の状態を確認しながら段階的に筋再教育や関節可動域訓練を進めた。
     受傷後、8週の時点で上腕骨下垂位にて肩峰~上腕骨骨頭間の陥凹は体表上ほとんど認めなくなり、レントゲン上、亜脱臼の改善がみられた。JOA‐S:48点、VAS:2/10、肩関節可動域においては、屈曲100°、伸展10°、外転80°、外旋20°であった。ADLは包丁の使用が可能、家事や更衣は独立して実施でき、入浴は軽介助レベルに回復した。
    【考察】
     今回、観血的治療を視野に入れた状況で保存療法を実施した結果、上肢機能の改善とADL向上に至った。この要因として、良肢位保持および肩甲骨臼蓋に対して上腕骨頭を求心位に安定させることが回復につながったと考えられる。亜脱臼を合併している場合、肩甲骨臼蓋に対して上腕骨のポジションをどう置くかが重要であり、自覚症状や反応、レントゲン所見を経時的に確認しながら機能向上に努めていく必要性を学んだ。
  • 安部 元隆, 小嶋 栄樹, 松田 あゆみ
    セッションID: 152
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    第9回関節ファシリテーション研究会で肩甲窩上腕関節(以下GH)は屈曲の最終域で上腕骨は内旋するという新たな知見を得た。その知見をもとに第44回日本理学療法学術大会において第1報として既往疾患のない健常成人のGHに対するアプローチの再考での研究結果で内旋誘導するという方法も効果的であることが示唆された。今回、中枢神経疾患の方の麻痺側GHに対し、内旋誘導・外旋誘導とを比較した場合、どのような差が生じるか検証した。また、初期内旋および外旋角度が屈曲角度にどのように影響するかを検証した。
    【目的】
    麻痺側GH屈曲の可動域改善に有効な運動療法アプローチを検証するために1.GH屈曲に伴い、内旋を他動的に誘導2.GH屈曲に伴い、外旋を他動的に誘導。上記2種類の治療を行い治療成績を比較検証する。
    【方法】
    対象は、中枢神経疾患患者30名(男性13名、女性17名)30肢(麻痺側R15肢L15肢)とした。なお、これらの被験者には研究の目的を十分に説明し、同意を得た上で研究を開始した。方法として30名の被験者のGHに対し、_i_)背臥位にて麻痺側GHの屈曲角度、セカンドポジションにて内旋・外旋角度を測定(passive)_ii_)内旋アプローチ(麻痺側)_iii_)外旋アプローチ(麻痺側)_iv_)治療後背臥位にて麻痺側GHの屈曲角度、セカンドポジションにて内旋・外旋角度を測定(passive)。[注:_ii_)_iii_)は同数となるように分けて実施した。尚、同患者の麻痺側のみのアプローチとし、それぞれの影響(内旋・外旋アプローチ)を防ぐため、どちらか一つのアプローチとした。疼痛がある患者は疼痛の訴えや防御性収縮が出現する直前で可動域を測定した。初期屈曲角度はGHの角度を測定するため、背臥位にて肩甲骨外側縁と上腕骨長軸の角度を測定した。内旋および外旋可動域測定はセカンドポジションが望ましいが疼痛や可動域制限がある場合、外転45°(または最大外転角度)にて測定した。上記の結果を統計処理した。尚、測定方法として理学療法検査・測定ガイド(第3版)の肩関節屈曲に従いpassiveにて行った。統計処理は対応のあるT検定を用い、有意水準は5%未満とした。]
    【結果】
    初期屈曲角度と内旋誘導後の屈曲角度、内旋・外旋角度有意差あり(P<0.05)。初期外旋角度と外旋誘導後の外旋角度有意差あり(P<0.05)。初期屈曲角度と外旋誘導後の屈曲角度有意差なし。初期内旋角度と外旋誘導後の内旋角度有意差なし。
    【考察】
    本研究において内旋・外旋誘導の比較検証より内旋誘導のみ屈曲、内旋、外旋角度が有意に改善することがわかった。屈曲角度が改善した理由としてGHでは屈曲0~90°までの関節内運動はGHで軸回転と背側滑り、90~180°までは尾側滑りと腹側滑りをするといわれている。内旋誘導の方がこの関節内の通り道に沿った結果、可動域改善に対して効果的だったのではないかと考えられる。また、屈曲可動域改善に関する因子としては結果より外旋角度より内旋角度の改善が有効ではないかと考えられる。
    【まとめ】
    GHの屈曲において内旋を誘導するという方法が効果的であると示唆された。また屈曲角度改善に必要な因子として内旋角度の改善が有効ではないかということが示唆された。
  • 明石 理佐, 鈴木 綾香, 中村 佳子, 片岡 晶志, 津村 弘
    セッションID: 153
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    今回、肩関節血症の術後、ADL動作において肩関節の屈曲を伴う動作は早期に改善したが、伸展を伴う動作(伸展動作)の獲得に難渋した症例を担当した。作業療法を行った結果、疼痛なく伸展動作が獲得できADLが改善したため考察をふまえ報告する。
    【主訴】
    痛くて右手が使えない。
    【現病歴】
    73歳男性、利き手:右。4年前に屋根から転落し、右肩関節脱臼の診断にて治療を受けた。その後、再度脚立から転落し、右肩関節内に出血し、挙上不能となった。保存的治療を行っていたが徐々に疼痛が増悪し、関節内血症が繰り返し出現していたため、手術目的にて当院入院となった。
    【術前評価】
    疼痛:右肩関節安静時(+)運動時(+)、夜間時(++) ROM-t(A/P):右肩関節・屈曲30°/130°伸展5°/10°外転50°/70°内旋15°/15°姿勢:円背、肩甲骨・上腕骨頭は前方突出 ADL:自立。非利き手に依存しており右上肢は痛みのため全く使用できず、動作時に強い疼痛を伴っていた。
    【既往歴】
    糖尿病・拡張型心筋症
    【経過・治療】術前はROMの改善を図った。手術は関節鏡視下にデブリードマン・肩峰下除圧術を施行された。回旋筋群と上腕二頭筋長頭の全てが完全断裂、退縮していた。術後2日目より肩甲帯と脊柱のリラクゼーション・筋力訓練を行った。術後8日目より三角巾内での机上動作を開始した。術後12日目より三角巾固定を除去し、右上肢でのADL動作開始と同時に伸展動作による肩甲帯と脊柱の協調運動を開始した。術後14日目より自動運動が許可され実際に道具を用いて伸展動作を伴うADL訓練を行い、術後22日目に自宅退院となった。
    【考察】
    手術では関節鏡視下にデブリードマン・肩峰下除圧術を行い、腱板縫合術は行われず、術後に肩甲上腕関節の機能に大きな変化はみられなかった。そのため、ADLの改善を図るにあたり、長期間の疼痛により生じた姿勢を改善し、伸展動作の要素として肩甲帯や脊柱の動きが必要になると考えた。本症例は円背、肩甲骨・上腕骨頭が前方突出した姿勢を呈しており、胸筋群や三角筋等の筋緊張が亢進していたため、リラクゼーションと筋力訓練を図りアライメントの調整を行った。肩甲帯と脊柱の可動域・筋力が改善してきた頃より、肩甲帯と脊柱の協調的な運動を習得する目的で坐位での協調運動訓練を開始した。ADL指導の際には「肩甲骨を真ん中に寄せるように胸を張って」という口頭指示と、実際に道具を用いて動作指導を行った。その結果、疼痛なく背面でシャツを入れる動作やベルトを通す動作等の伸展動作を右上肢で行えるようになった。
  • 手関節牽引器による持続伸張法
    大川 尊規, 吉原 愛, 片山 智裕, 宮本 洋, 酒井 邦夫
    セッションID: 154
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    遷延する手関節拘縮に対して物理療法,運動療法,スプリント療法を施行するも満足な関節可動域が得られないことがある。患者が更なる治療を希望する場合には,救済手術として関節授動術が適応となるが,必ずしも良い結果を得るとは言い難い.今回,我々はこれらとは全く違った新しいアプローチを考案したため,2症例の少経験と考察を含め報告する.なお,今回の研究および発表にあたり対象者への説明と同意を得ている.
    【目的】
    手関節牽引器により手関節を長軸方向に持続牽引し,橈骨手根関節(以下RCJ)腔および手根中央関節(以下MCJ)腔の開大を図ることで,関節包・靭帯の伸長を期待し,失った関節の遊びの再獲得を目的とする.
    【方法】
    手関節牽引器は鏡視下手術で用いる物と同様の仕組みを利用.肢位は背臥位で肩関節45°外転,肘90°屈曲位で手関節が長軸方向に牽引される様にする.点滴架台に滑車を吊るし,Finger trap(以下FT)を示指・中指にかけ3.5_kg_で15分間牽引する.
    【評価】
    手関節腔開大の評価は,第3中手骨長をA,その延長線における有頭骨遠位部との接点をb1,橈骨との接点をb2,その距離をBとして,B/Aで算出,これを手関節腔比(wrist joint cavity ratio:以下WJCR)と定義する.牽引前,牽引直後,牽引15分後のX線撮影を行い,デジタル画像にてWJCRを測定し,数値の増加をRCJ腔とMCJ腔の開大の和として捉えた.
    【症例紹介】
    2症例とも橈骨遠位端骨折後,創外固定器で6週間固定された後,ROM訓練を開始.症例1は術後4カ月で掌屈35°背屈25°,症例2は術後5カ月で掌屈25°背屈20°であり著明なROM制限が残存し,運動最終域で疼痛も伴っていた.
    【結果】
    WJCRは牽引前,直後,15分後と増加する傾向にあり,症例1で0.503,0.516,0.535へ,症例2で0.530,0.538,0.543と値が増加した.牽引後,患者は手関節の自動掌背屈運動により即時に動きが軽くなったことを感じる.また,他動運動において関節がつまる様な疼痛が消失した.牽引開始より2ヶ月間で自動ROMは症例1で背屈15°,症例2で掌・背屈ともに15°拡大した.
    【考察】
    WJCRが牽引前,直後,15分後と徐々に増加したことには,持続伸張により手外在筋が経時的に緩み,目的とする関節包・靭帯に伸張が加わることで拘縮組織が伸長されたと考える.また術後4~5カ月を経過していたが可動域が若干改善したこと,自動運動により動きが軽く感じ,他動運動による疼痛が消失したことも関節の遊びが拡大したことを支持するものではないかと考える。しかし、実際に関節包・靭帯の伸長度を測ることは困難であり、本考察は推察の域を脱しない。
    【まとめ】
    本アプローチの利点はスプリント療法と同様「弱く・長時間」の原則により軟部組織を持続的に伸張し,FT装着時の指の圧迫感はあるものの手関節部には疼痛が無いことにある.また,今後の課題としては、牽引量および牽引時間はどの程度が適切であるか?また,対象者や拘縮の程度によってどのように設定するかなど検討する必要があると考える。
  • ~セラピスト介入時の情報を用いて~
    内野 康一, 井上 理恵, 西村 千恵, 池田 優生, 佐伯 匡司, 中島 雪彦, 中島 英親
    セッションID: 155
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    橈骨遠位端骨折は臨床上、数多く経験する骨折である。しかし、しばしば重症度に関わらず難渋する症例を経験することがある。難渋すると予測される患者の早期からの介入手段を考慮することができるように、介入時の情報で判断基準となりえるものがないか検討したため報告する。
    【対象】
    平成19年6月から平成21年10月に当院にて橈骨遠位端骨折に対して掌側ロッキングプレート固定を施行した157例中、リハビリテーション開始時The Disabilities of the Arm, Shoulder and Hand(以下、DASH)、術後6ヶ月時のMayo modified wrist Score(以下、Mayo)が行われた患者28例を対象とした。内訳は男性5例、女性23例、年齢65.4歳、受傷側(右:16、左:12)、AO分類(A1:1、A3:3、B2:6、B3:3、C1:5、C2:8、C3:2)であった。術後6ヶ月に評価した斉藤の分類(優:12、良:12、可:4、不可:0)であった。また、Mayo(優:3、良:6、可:10、不可:9)であった。
    【方法】
    Mayo と介入時の情報であるDASH、AO分類、年齢、術側、受傷から手術までの期間、術前・後のvolar tilt(以下VT)、radial tilt(以下RT)、ulnar variance(以下UV)の相関を回帰分析を用いて統計処理した。また、Mayoの総得点に影響する各項目の比重について回帰分析にて相関性を調べた。
    【結果】MayoとDASH総得点、質問項目別点で相関は認めなかった。また、AO分類、年齢、術側、受傷から手術までの期間、術前・後のVT、RT、UVにおいても相関はなかった。Mayoの総得点に影響する項目は疼痛、満足度、握力、ROMの順となっていた。
    【考察】
    DASHは患者の主観的評価であるため精神状況を反映していると思われる。また、Mayoは手関節機能と生活での使用程度を把握できる評価である。MayoとDASHで相関を認めなかった理由としてはDASH評価時期が術前・術直後であったため機能障害や症状に大きな違いがなかったことが考えられる。また、多くの文献でAO分類と治療成績には相関があると言われているが今回の調査では相関は認めなかった。このことは、手術での処置がしっかり行えており、術後の状態に偏りがなかったことを示している。今回の調査結果からは介入時の情報での予後予測は困難であるが、予後にはリハビリテーションが最も影響することが予想される。Mayoの総得点に影響する項目は疼痛、満足度、握力、ROMの順であったため、術後管理や患者指導を徹底し、疼痛の除去に努める必要がある。さらに、疼痛対策を含めたパンフレットへの改定、外来での自主練習や患側管理の見直しを行う必要があると考える。
  • 集団凝集性を高めたハンドベル活動の分析
    竹島 祐樹, 小林  真司, 西本 桂大, 井上 綾, 栗田 輝久
    セッションID: 156
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回、慢性期の統合失調症患者を対象に対人交流の拡大を目的にハンドベルを用いた集団作業療法を行った。同じメンバーで同様の目的で行う他のグループ活動と比べて集団凝集性が高かった。1年間を通してのハンドベルの活動分析と脳機能からの考察を加え報告する。 【対象と方法】
     対象は慢性期の統合失調症患者14名(男性8名、女性6名)、平均年齢53.5歳(±11.6)、平均在院日数は7.3年(±6.5)である。対象患者の中には、幻聴などの陽性症状が残存している患者が5名含まれている。  上記の対象患者を週に1回、クローズドグループで実施した。評価には、集団評価表(山根参考)と簡易精神症状評価尺度(以下BPRS)を用いて行った。
    【結果】
     集団評価では、集団凝集性の向上、課題に対する取り組み、対人交流技能において向上が認められた。集団内個人評価では、ハンドベル活動に対する意欲、注意、集中力に向上が認められた対象患者が10名、BPRSにおいて幻覚による行動で改善がみられた対象患者が3名、情動の平板化で改善がみられた対象患者が3名であった。
    【考察】
     ハンドベルは、曲を演奏するにあたり一人一人が、異なる音を受け持つため、全員参加と互いの存在と役割を感じとらないと成り立たない。また、他の楽器に比べ、簡単に綺麗な音をだすことができ、誰もが容易に演奏できることが、心地よさを感じ失敗への恐れを払拭し、対象患者に対して安心をもたらす。そして、個人の役割が明確なこと、一つの曲を皆で演奏するという集団での目標が明確なことが他の集団作業療法との違いであり、能動性を高め、集団凝集性を高める一因になると考えられる。
    ハンドベルでの音色は、聴覚神経を通し、初めに側頭葉のヘシュル回に到達する。ヘシュル回に至った情報は聴覚連合野や島回にネットワークされ、さらには記憶の海馬や、情動の扁桃体、帯状回へとネットワークされる。対象患者に快の刺激となるハンドベルの曲、音色は、前部帯状回が活性化され前頭前野の働きをも亢進する。そのために対象となる統合失調症患者に対しても、意欲や自発性、注意、集中力が向上したと考えている。また、前頭前野が他の領域の脳とネットワークして総合的に連動して働くことによって、対象患者にとって自己を知る手がかりになったと考える。ハンドベルを振るという動作により、聴覚や触覚、振動覚、位置覚、視覚の情報と運動の情報との融合によってセルフモニタリングの機能が働き、他者とのつながり、集団としての協調性、社会性が培われ、集団凝集性を高めたと思われる。
  • 患者の価値を認めることで新たな価値を育む
    瀬戸山 寛
    セッションID: 157
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     長期入院中の40代男性(以下症例)の主治医より肝臓の検査結果が悪いため精神科作業療法(以下OT)で体重減量に取り組めないかとの処方があり、OTを実施しその後、変化が現れたので報告する。
    【症例紹介】
    年齢:40代前半。性別:男性。診断名:心因反応。職業:漁業。最終学歴:中学卒。現病歴:X/8/2、母親が心筋梗塞で死亡後発病。X/9/4、医療保護入院。X+1/9/30、任意入院へ変更。入院以来、体重が増加傾向で経過しており入院時54kgであった体重がOT開始時には78kgになっていた。また肝機能低下の所見があり主治医より体重を減らすよう指導があったが実践できないでいた。
    【OT評価】
     長期の入院により現実感・現実検討力の低下、自主的な社会活動への参加の機会の減少がみられた。自分の意思を伝えることが困難。精神的に未発達で責任感、セルフケア、自己管理能力、日常生活技能の熟練度が低い。ゲーム・アニメなど興味あることには強い執着がみられた。
    【OTプログラム】
    1.今回のOTの目的を伝え、OTは本人の自由意志のもとで行い、いつでもそれを撤回することができ、それによる不利益を被ることがないことを約束。
    2.活動時間と消費カロリーとの取り決めを行う。
    3.消費カロリー計算方法はMETS法を用いる。
    4.毎月1回体重体脂肪測定を行う。測定器:タニタ体内脂肪計TBF‐410
    6.頻度:5~6回/週
    7.内容:消費カロリー計画表作成・身体運動・趣味活動・体重の変化の記録
    【経過】
     初め3ヶ月間は体重変化が見られなかった。次に面接を行い目的と目標を明確にし、食事指導も併せて行った。6ヶ月後から体重の減少がみられた。毎月の体重体脂肪・腹囲の測定結果をパソコン(以下PC)に入力した。
    【結果】
    1.期間:10ヶ月(平成21年6月~平成22年3月)
    2.身体的変化[体重:78kg→69kg/体脂肪率:32%→26%/BMI:28.1→24.8/腹囲:99cm→91.2cm]
    3.生理的変化[TG:276→114/LDH:258→211/GOT:52→23/GPT:91→28/γ‐GPT:71→23]
    4.服薬の変化[EPL6cap→中止]
    【考察】
     症例は以前よりOTに参加しており、内容はTVゲームやPC、レクリエーションなど自分の興味あるものであった。また身体運動を促すも目的意識を持つことが困難で自発的に取り組むことができなかった。そこで今回は症例がゲーム・アニメ等に強い興味・価値を持っていることを利用し、それを退院という目的のもと、働くための健康的な体作りという明確な目標を定めることで新たな価値を作り遂行する意志に変換することができたと考えられる。同時にそれを習慣的作業へと定着させ体質改善を成功させることができた。またPCに体重の変化を記録することや主治医、薬剤師との面接で自己の変化を認めてもらうことにより自主的、客観的、肯定的フィードバックを図ることができた。それらのことが症例の課題への自主的で継続的な取り組みとなり、よりよい結果を導き出せたと考えられる。
    【まとめ】
     これは人間作業モデルにおいて形作られているモデルであり、認知療法の手段と併せて今回それを施術し実証することができた。精神科作業療法の分野でも新しいモデルを用い、エビデンスを集積し、明確な治療法として確立していく必要性を強く考えさせられる研究となった。
  • 川床 裕香
    セッションID: 158
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    今回、脳梗塞発症後、せん妄症状を呈した患者を担当した。自己(内部環境)と周囲(外部環境)の状況の把握・適合・保持に困難があり、それが不安要因となって穏やかに入院生活を送れていないのではと考えた。内・外部環境の適応のために植物を育て観察日記をつける活動の導入を試みたので、その経過を報告する。※当院倫理委員会より承認済。
    【症例紹介】
    80歳代、男性。診断名は脳梗塞。発症前は時々冗談を言う楽しい性格で、家庭菜園での収穫が日課だった。
    Br.stage(Lt)上肢・手指II、下肢IV。感覚(Lt)重度鈍麻。高次脳機能はせん妄により詳細不明。ADLはFIM 34/126点。HDS-R13/30点。日本語版ニーチャム混乱・錯乱状態スケール(J-NCS)18/30点で中程度の混乱・錯乱状態。せん妄評価尺度98年改訂版(DRS-R-98)スコア23.5/46点。
    病棟での様子…車椅子自走徘徊、転倒歴頻回、抑制帯常時着用、帰宅・離院願望、病識欠如、被害妄想、昼夜逆転、日時見当識低下、攻撃的発言。
    【治療】
    植物の鉢植に好反応を示し、一緒に育てる提案も肯定した。以前他疾患で入院時に病床日記をつけており、並行して観察日記も導入した。植物や気候と共に、自分の体調の変化も感じ、内・外部環境の把握・適合・保持を図り、見当識・記憶・不安焦燥感への好影響を狙った。
    (1)日付や天候を記録。(2)バイタルサイン測定、記録。(3)鉢植を好天候時は屋外へ、悪天候時は屋内で水遣り。(4)観察日記記録。(5)その他の出来事を記録。(6)屋外の鉢植を、夕方屋内へ。
    【経過】
    発熱時などは依然焦燥感が強く消極的なこともあるが、体調安定時は、促せば実施可能である。
    〔1週目〕全ての記録においてこちらが言ったことを書き記すのみ。〔2-3週目〕自ら記載するようになる。日光浴・水遣りなど、鉢植の世話方法も自ら選択。〔4週目〕観察記録の記述内容を考え、植物の変化に気付いたり、自主的に世話をする。病棟スタッフとも関わる機会が増え、一緒に植物のスケッチもされた。
    【結果】
    J-NCS20/30点で軽度の混乱・錯乱状態。DRS-R-98スコア21/46点(睡眠覚醒サイクル、情動の変容、短期記憶の項目で点数改善)。
    病棟での様子…徘徊頻度減少、帰宅・離院願望頻度減少、病識改善傾向、入眠覚醒リズム安定、攻撃的発言減少。
    【考察】
    日付・天気・植物などの周囲状況と、バイタルなどの自己の状況を把握し、行動決定を促すことで、外部情報と自己の行動の適合を図った。更に、日記帳に残すことで、把握・適合した事柄の保持も促した。把握・適合・保持の過程を共有できるこの活動は、症例に安心感を持たせ、入り口がないと言われているせん妄状態であるにも関わらず、生活の一部になったのではと考える。
  • 精神科医療においてのOT,PTの連携と、それによる患者様、スタッフの気づき
    藤本 雄大, 大城 志乃舞, 松岡 太郎
    セッションID: 159
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当院は長期入院者の多い精神科介護病棟(特殊疾患病棟_II_)が設立されているが、精神、身体疾患を併している対象者が自己能力や自身の可能性に気付く事は容易ではない。今回、OT・PT双方の介入や連携により、症例の達成感の積み重ねや気づきから得られた変化や、そこから得たスタッフの気づきについて考察を踏まえ以下に報告する。
    【症例紹介】
    60代男性。16歳の頃より統合失調症にて当院長期入院となる。後に発症した脳梗塞により徐々に身体機能低下し現在は車椅子使用。(FIM63点)右上下肢の疼痛訴えあるが、「出来ない、治らないから」と身体(リハ)接触を強く拒む。性格はこだわりが強く依存傾向。カレンダーや詩など作品作りを長年取り組んでおり得意とされ、賞賛される事を好む。又OT室に馴染みがある。
    【介入方法】
    馴染みがあるOT室にて得意とすること、やりたい作業を中心に活動に取り入れる。そこから生まれる自信や達成感、症例の気付きの獲得や、更にそれを得る為の作業の一つとして身体機能の維持・改善を目的にOT、PTの連携による介入を図った。加えて本人の望んでいる事への探索を心がけアプローチを行った。
    _丸1_興味のある作業や選択肢の幅を広げる(カレンダー作りなどの作品展示枠を増大、園芸、外出支援、ネットや社会資源の活用など)
    _丸2_馴染みのある場所(パラレル)でOTとPTの協業(共通認識を持ち活動に参加)
    身体リハに対する不安を軽減するよう始めは、わずかな保護的接触の回数を増やす事で姿勢筋緊張の変化、疼痛の緩和を行っていく。
    *経過による気持ちの変化を知るために、OTスタッフによる症例との振り返りを行った。
    *症例の障害や問題点に着目するのではなく、人間性や個性を重視した関りを行った。
    *身体面のアセスメントやアプローチはPTと共に行い、OT活動にも取り入れた。
    【 結果と考察 】
    第1期 自身のもつ可能性に気づき始める。
    症例が得意とし興味の沸く活動を続け、賞賛される事により自己能力を意識する。反面、疼痛を理由に身体面への可能性には目をつぶり、あきらめている現状があった。
    第2期 新しい事への取り組みや挑戦
    作品づくりにより成功体験を重ね意欲も増す。又、他者の意見を取り入れる症例が伺える。同時期にPTが_丸1_OTと共有した場にて不安なくアプローチできた_丸2_症例が貯金している事から立ち上がり訓練を毎日続けた_丸3_OT、PT共に励まし賞賛を行う事を通じて症例が持つ可能性や具体的な目標に症例自身や、スタッフも気づく事となったと考える。
    第3期 自己能力に気付き目標をみつける
    症例が絵画などを行っている時や病棟生活内で身体の軽さを感じリハビリ効果を実感する。更に、美術展に絵を出品するという夢を見つけた。
    【まとめ】
    OT、PTの連携や共通認識をもちアプローチしていくことは、そこから生まれる対象者の自信や気づきなど、心身の疾患を併せ持っている方に対して必要性が高く、そしてそれはスタッフ自身の対象者への気づきにもつながるのではないだろうか。
  • 自傷行為などの二次障害の予防
    立石 恵子, 立石 修康
    セッションID: 160
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     近年、発達障害の分野において、特別支援教育の名のもとに従来は「変わった子」で済まされていた学生に診断名がつくようになった。それとは逆に、現在の学生は、根底に発達の偏りの問題があっても見過ごされ、不適応行動は、人格障害などの文脈で治療が行われてきた場合も多い。今回、演者はケースを通じてどちらの文脈で行うかにより介入支援が変化するという経験をしたのでここに報告する。なお、プライバシー保護のため、細部を実際と変えている。
    【症例】
     20代女性。高校時代より自傷行為開始。親と折り合いが悪く、現役で不本意受験し、国立大学に入学。夏ごろより、不登校となり、休学。のちに退学。その後、精神科受診し、うつ病と診断を受けた。
    【治療経過】
     大学入学時には、SSRI等の服薬継続中で、入学後すぐに学生相談室に来談。自傷は継続中であった。本人の自己認識として「うつ病であり、いろいろなことができないことが不安である」ようであった。  話をしている中で、PDDが疑われたため、MMPIなど複数の心理テストを行った。その結果の中で、「思い込みが強い」という部分に対して主に介入し、「病気と思いこみすぎているのではないか」とフィードバックを行っていった。また、前の大学を退学した季節に対して過度の不安があったため、その時期を過ぎるまでは支持的に関わりを継続した。
    【結果】
     前の大学を退学した時期を過ぎ、前期試験の結果が良好だったこともあり、主治医と相談しながら減薬し、薬をやめることができた。本人の自己評価も「精神的に追い詰められやすいところはあるが健康である」と変わっていった。支援が必要ないとお互い思えたため、終了となった。
    【考察】
     今回、PDDが疑われる学生への支援をPDDという病名を使うことなくおこなった。自傷行為に着目してうつとして介入する場合との違いは、もともとの本人の特性をフィードバックして、一歩間違えれば障害と捉えられかねないその特性の良い部分を強調し、自己認識を変えていくことであると考える。
  • 外間 繁克, 新門 貴子, 翁長 司, 嶺井 毅
    セッションID: 161
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    症例は陰性症状が残存しながらも慢性化し、多少他者とのやりとりを持ちながらひっそりと生活していた。しかし、徐々に集団についていけなくなり、演者はコミュニケーションがうまく取れないことや提供している活動が適合しない感覚を覚えることが多くなっていった。そのような症例との関わり方を考える。
    【症例紹介】
    30代後半、女性、統合失調症、専門学校に進学し勉強するといって睡眠をとらなくなり中退。自室に閉じこもるようになる。X年、他病院のデイケアを通所するが不定期。拒薬傾向から症状は悪化しX+9年、当院へ医療保護入院となる。入院当初、薬や体調のことをスタッフに相談し、活動にも集中して取り組めていた。しかし、現在X+18年、一人で同じ場所を往復して過ごすことが多く、スタッフの問い掛けに返答もみられなくなっている。ADLは援助にて行っており、活動には自らの意思というよりは、スタッフの誘導に促されるままに参加している様子である。
    【活動の経過】
    1)クローズでの楽器合奏グループ。開始当初楽器を持ち譜面を見ながら合奏が出来た。現在は、合奏に関係なく、目の前に楽器を見つけると反射的に鳴らす。曲の途中でも離席し空笑。頑固な声かけや合奏している音を聞いて席に戻ってくるが、また離席の繰り返しである。2)造形グループ・開始当初は、人物画をイメージしながら描いたり、作詩を行い「楽しかった。」とコメントしていた。現在は下絵や色ペンが用意された席に着くと、道具や簡単なやりとりを介すことで、作品づくりに取り組めている。席を離れることも少なく、離れても軽い声かけで席に戻って取り組む。3)ダンス・最近からの参加。集団の中にいることもあるが、離れて体を揺らし空笑や視線の合わないことが多い。何度か声かけ行うと集団の中に入りダンスを踊りはじめる。繰り返しのステップは大まかに真似てダンスを踊っている。
    【考察】
    1)タイミングに合わせて行う集団活動では状況を処理するのが追いつかずストレスが大きいと思われ見直しや改善が必要である。2)言葉のやり取りを必要としない、自由な個人有形活動である特徴を利用し、症例の状態やペースにあった活動へと取り組みが変化してきている。3)さほど集団に合わせなくてもよく身体だけを使うという特徴や繰り返しの動作であることは、症例が無理なく現実についていけることに繋がっている。
    【おわりに】
    今回、集団の流れに追いつけない症例について振り返り、活動の難易度や環境設定することに配慮し症例本人の中の流れをより重要視して関わることが必要であると感じた。
  • 安田 直史, 村田 伸, 米田 香, 樋口 直明, 樋口 善久
    セッションID: 162
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    高齢者が転倒すると多額の医療・介護費用を費やし、生活の質を低下させることは明らかであり、高齢者の転倒予防は社会的に重要性が高い。高齢者の転倒リスク要因の1つとして足把持力が注目されている。健常成人では足把持力に関連が高い身体的因子は足部柔軟性と足部アーチ高率であったとの報告がある。しかしながら、先行研究では健常成人を対象としたものであり、転倒予防の必要性が高い要介護高齢者を対象とした研究は見当たらない。そこで本研究は、要介護高齢者の足把持力と足部柔軟性や足部の形状(アーチ高率、足長)を測定し、それらの関連性を検討した。
    【対象】
    対象は、某通所リハビリテーション施設を利用し、要介護認定を受けている高齢者女性52名とした。年齢は平均84.0±6.2歳であった。なお、対象者には重度の認知症を有する者、運動麻痺を有する者はいなかった。これらの被検者には、研究の趣旨と内容および被検者にならなくとも不利益が生じない事を十分に説明し、同意を得て研究を開始した。なお、 本研究は西九州大学の倫理委員会の認証を得ておこなった。
    【方法】
    足把持力の測定は、足把持力測定器を使用した。測定は、左右2回ずつ測定し、それぞれの最大値を足把持力値(kg)として採用した。足部柔軟性の測定は専用シート上に足底を置き、足趾及び前足部を最大屈曲させ、踵後端から足部先端の距離を測定する。足長からその距離を除いた値を足部柔軟性とした。左右2回ずつ測定し、それぞれの最大値を足部柔軟性(cm)とした。アーチ高率の測定は、1.安静立位で舟状骨粗面から床面までの垂線の長さと、2.第1中足骨底内側部から踵骨接床最後部までの長さを測定し、アーチ高率を算出(1/2×100)した。足長は、踵後端から最も長い足趾先端までの距離とし、左右それぞれの値を足長値とした。統計処理は、足把持力と足部柔軟性、アーチ高率、足長との関連をピアソンの相関係数を用いて検討した。なお、有意水準は5%とした。
    【結果】
    足把持力は、足部柔軟性との間に有意な正相関(r=0.56、p<0.01)が認められた。一方、アーチ高率(r=-0.08)や足長(r=0.18)とは有意な相関は認められなかった。
    【考察】
     本研究では、転倒予防の必要性が指摘されている要介護高齢者を対象に、足把持力と足部柔軟性や足部の形状(アーチ高率、足長)との関連を検討した。その結果、足把持力と足部柔軟性に有意な正相関が認められたが、アーチ高率や足長との間には有意な相関は認められなかった。このことから、要介護高齢者女性の足把持力は、アーチ高率や足長などの足部の形状よりも足部柔軟性に関連することが示唆された。これにより、高齢者の足把持力同様に足部柔軟性の評価ならびに向上の重要性が推察された。
  • ‐床反力計を用いての重心動揺の観点から‐
    山本 幸弘, 坂本 智洋, 荒木 秀明
    セッションID: 163
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    頚部痛症例に対する胸椎モヒ゛ライセ゛ーションの有用性に関しては頚椎モヒ゛ライセ゛ーションとの比較から、その安全性と治療直後の疼痛緩和と可動域改善から多数報告されている。最近では疫学的検討から頚部痛症例における腰痛発生の危険性が指摘されている。それを受け、頸部痛症例の立位平衡機能が検討され、頸部痛症例は健常人と比較して重心動揺が有意に大きく体幹平衡能力の低下が示唆された。我々は臨床において頚部痛症例の視診で骨盤帯と肩甲帯アライメントに非対称性を有する例に対して、積極的に骨盤帯に対する正中化を目的としたマニュアルセラヒ゜ーを行っている。その結果、肩甲帯アライメントの正中化と頸椎可動域が改善する症例を多数、経験している。しかし、頸部痛症例に対する骨盤帯マニュアルセラヒ゜ーの効果に関する報告は、見当たらない。そこで今回、頚部痛症例に対して骨盤帯マニュアルセラヒ゜ー前後の立位重心動揺を測定したので報告する。
    【方法】
    対象は頚部痛を有して外来通院治療中の12例とした。頸部痛症例では心理社会的影響が危惧されるため、全症例に対して Neck Pain Disability Index(以下NDI)を実施し、重度障害例を除外した。治療比較対象群はNDIで15~24点の中等度障害の8(男性6、女性2)例とした。年齢は23~53(平均34.2)歳で、罹病期間は3~18(平均6.3)週であった。除外診断項目として、顕著な下肢アライメント障害や神経学的脱落所を有する症例を除外した。方法はZEBRIS社製の床反力計WinPDMを使用した。重心動揺は前方のマークを注視させ、足部位置は自然立位、足部を閉じた立位、前後への継足姿勢での立位をそれぞれ10秒間測定した。骨盤帯正中化モヒ゛ライセ゛ーション後、再度重心動揺を測定し、治療前後で比較した。対象者にはヘルシンキ条約に準じ、事前に十分な説明を行い、同意を得た。
    【結果】
    治療前、全例で骨盤非対称性が観察され、自然立位で重心位置は疼痛側へ中心から変位しているのが観察された。骨盤帯正中化後、1例を除き重心の中心化と総軌跡長の有意(P<0.01)な減少を認めた。特に前後方向への継足立位で顕著に改善傾向を呈した。
    【考察】
    下肢アライメントに異常がなく中等度の頸部障害を有する頚部痛症例において骨盤帯の正中化により立位姿勢の安定化が重心動揺の観点から立証された。頚部痛症例では疼痛により頚部肩甲帯周囲筋群の筋緊張が亢進し運動制御障害が生じることで、肩甲帯や体幹のアライメントに異常が生じる。腰痛症例に対して骨盤帯を正中化させることで立位重心位置の中心化と安定化が有意に改善することは従来から報告されていたが、今回頸部痛症例においても同様の結果が得られた。腰部障害のみではなく、頸部障害に対しても立位重心が存在する骨盤帯の評価、治療が重要であることが示唆された。
    【まとめ】
    頸部痛症例をNDIでサフ゛ク゛ルーフ゜分けを行い、中等度の機能障害例に対して骨盤帯マニュアルセラヒ゜ーの重要性を示唆した。
  • 野中 繁, 川波  真紀子, 金子 秀雄
    セッションID: 164
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    一般的な寝返りでは上肢と下肢を挙上させ、頭部・体幹は肩甲帯を先行させる動作になることが多い。しかし、その動作は多様で画一的ではない(Richter 1989)。特に、頭部・体幹にその傾向は強く、それらの機能が寝返り動作に影響していることが考えられる。また、寝返り動作は下肢から開始することが多い(角 1995)。このことから、下肢動作パターンは頭部・体幹機能に関連している可能性がある。そこで、今回、頭部・体幹機能として肩甲帯の可動性に着目し、下肢動作パターンとの関連について検討した。
    【対象と方法】
    運動器・神経系に既往歴がなく、かつ肩甲骨および肩関節の関節可動域制限がない健常者24名(男性;6名、女性;18名、平均年齢32.5±8.6歳)を対象とした。
    方法は、背臥位より「寝返って下さい」との口頭指示のみ与え寝返り動作をビデオカメラで撮影した(対象者の尾側で、プラットホームより3m、高さ1.6mに設置)。その分析より、寝返り動作開始時に寝返り側と反対側下肢を挙上させる対象者を屈曲優位パターン(flexor pattern;FP)、寝返り側と反対側下肢を伸展させる対象者を伸展優位パターン(extensor pattern;EP)とし、その2群に分けた。次に、肩甲帯の可動性評価として立位で左右のApleyのScratchテスト(ASテスト)を用い、橈骨茎状突起間の距離(AS橈骨間距離)をメジャーにて計測した。そしてFP群とEP群とでのAS橈骨間距離を比較した。
    本研究では、その趣旨を十分に説明し対象者の承諾を得て実施した。統計には対応のないt検定を用い、有意水準は5%とした。
    【結果】
    FP群は11名(男性;6名、女性;5名)であり平均AS橈骨間距離は35.2±8.3cm、EP群は13名(女性;13名)であり平均AS橈骨間距離は28.2±3.2cmであった。FP群とEP群ではAS橈骨間距離に有意差を認めた(P<0.05)。
    【考察】
    ASテストは挙上側肩甲骨の外転・上方回旋と非挙上側肩甲骨の内転・下方回旋の動きが組み合わさったものである。そのテストにおいて肩甲骨の複合運動は基より、それに伴う体幹の伸展が生じる。つまり、長年FPで寝返りを行っている人は表現型として日常的に屈曲優位姿勢を用いる傾向が強い。この表現型の影響によって、ASテストでの肩甲骨の複合運動に必要な体幹の伸展が生じにくいため、EP群との比較においてFP群のAS橈骨間距離が大きくなったと考えられる。よって、健常者における寝返り動作時の下肢運動パターンは、肩甲帯の可動性に関連していることが示唆された。
    今回の研究では肩甲帯に着目したが、寝返り動作には体幹や頭部の可動性要素も関与していると考える。今後は、これらを含めた寝返り動作の研究を行うことで、動作分析への一助になると考える。
  • テーピング固定条件と自由歩行の比較から
    吉塚 久記, 中村 朋博, 吉住 浩平
    セッションID: 165
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     臨床では一側上肢の過剰な振りを伴う歩容を多く経験する。反対側Initial Contact(以下IC)にて前方への上肢の振りはピークに達するが、臨床上その過大は反対側下肢推進力低下の代償的戦略に基づいたものが多い印象を受ける。しかし、歩行時の上肢に関する研究は少ない。そこで、本研究では一側の距腿関節固定が反対側上肢の振りに影響し得るのかを検討し、上肢の振りが過大な症例における歩行分析の一助とすることを目的とした。
    【対象及び方法】
     対象はヘルシンキ宣言に従って研究要旨に同意を得た整形外科的及び神経学的既往のない健常女性10名(平均年齢31.2±4.1歳、身長160.3±4.2cm、体重50.8±4.2kg、利き手右側)。被検者の非利き手側肩峰及び尺骨茎状突起にマーカを貼付し、無意識下の自由歩行(条件1)、距腿関節底背屈0°位テーピング固定での歩行(条件2)の2条件における10m歩行矢状面を各々デジタルカメラ(SONY社製)にて撮影した。解析は総計309場面のICを静止画に編集後、ImageJ 1.42q(アメリカ国立衛生研究所開発)を用いて、非利き手側上肢の角度を算出した。その際、基本軸は体幹長軸、移動軸は肩峰と尺骨茎状突起の結線に規定した。統計学的解析にはt検定を用い、有意水準は5%未満とした。
    【結果】
     平均歩行速度は85.8±10.0m/min(条件1)、79.1±9.5m/min(条件2)であり、自由歩行時が有意に速かった。上肢前方への振りは30.2±10.6°(条件1)、32.8±11.2°(条件2)、後方への振りは24.8±8.2°(条件1)、27.9±9.0°(条件2)となり、前方・後方とも固定条件歩行時の方が有意に大きな値を示した。
    【考察】
     先行研究にて歩行速度増加は上肢の全運動範囲を拡大するとされているが、今回固定条件にて歩行速度が減速したにも関わらず、前後方向とも有意に上肢の角度増大を認めた。その結果から、一側距腿関節固定に伴った推進力低下を補う代償的戦略として、反対側上肢の振りが拡大したものと解釈した。
     また、一般的に歩行中の上肢は屈曲20°から伸展9°間、約30°の運動範囲とされているが、各条件での標準偏差は大きく、個人差は著明であった。
     今回、上肢の振りが過大な症例の歩行分析における1つの指標を示す事ができたと考えるが、歩行時の上肢の振りには体幹回旋・骨盤回旋・股関節回旋など多因子が複雑に関与しており、臨床では多角的視点から個々に捉えていく必要がある。今後、角度算出を肩関節と肘関節で細分化し、回旋要素も考慮した追跡研究を検討していきたい。
  • 玉井 友香里, 草苅 俊和, 中島 忠伸, 宮本 知子, 丸小野 啓介, 小田 孝明
    セッションID: 166
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    在宅において杖歩行と歩行器歩行のADL能力には大きな違いがあり、歩行器歩行獲得後のリハビリは杖歩行の獲得を目標とする事となる。歩行器から杖への移行時期の決定は、間違えると転倒につながる危険性があり、客観的評価が求められる。当院では重心動揺計による平衡機能検査や立位バランス、歩行評価などを実施し、歩行器歩行からT字杖歩行に移行するための基準を設定して活用してきた。今回、この基準の有効性について検討したので報告する。
    【対象】
    研究の趣旨を説明し了解の得られた整形外科入院患者で、全加重が許可され、杖歩行獲得を目標もしくは達成した症例。症例数は42名(男性7名、女性35名、平均年齢82.3±7.0歳)で、疾患の内訳は、脊椎圧迫骨折9例、下肢・骨盤骨折11例、TKA 術後10例、膝OA5例、他整形疾患7例であった。
    【方法】
    重心動揺計はアニマ株式会社製グラビコーダGS31Pを使用。当院の杖移行基準は、以下の1~4全てを満たすこととした。1.重心動揺計にて外周面積5.5㎠以下、2.単位面積軌跡長10.0cm以上、3.片脚立位保持時間が左右どちらか3秒以上、4.歩行器での10m歩行18秒以内。この基準を全て満たしたグループをAグループ、一部または全てが満たせなかったグループをBグループと2段階に分類した。歩行能力の評価は、実際のADL能力に即したものとするため、立ち上がり動作を含めた杖歩行能力をPT・OT3または4名で評価し、「杖歩行」「歩行器」の2段階に分類した。検討は、A・Bグループ間で「杖歩行」「歩行器」の人数を比較した。
    【結果】
    Aグループは、「杖歩行」18名、「歩行器」0名、Bグループは、「杖歩行」4名、「歩行器」20名であった。移行基準を全て満たした症例は全員が杖歩行可能と判断されたが、満たせなくても杖歩行可能な症例も4名いた。また、移行基準の各項目について、「杖歩行」「歩行器」間で有意差を調べたところ、「外周面積」P<0.01、「単位面積軌跡長」P<0.05、「片脚立位保持時間」P>0.05、「歩行器での10m歩行」P<0.01となった。
    【考察】
    今回の調査で、当院の杖移行基準を満たせば杖歩行の目安となるが、満たせなくても可能性はある事がわかった。該当した4症例に年齢や疾患による偏りは無かった。重心動揺計のデータのうち移行基準に含めていない「単位軌跡長」は、歩行能力との比較で有意差(P<0.01)が認められたので、今後基準への追加も検討していく。
  • 田嶋 裕作, 山下 導人, 園田 昭彦
    セッションID: 167
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    Bennett骨折(CM関節脱臼骨折)後の合併症として母指手根中手関節症(以下CM関節症)がある。症状として疼痛とそれに伴う握力・ピンチ力の減弱などが出現し、母指の機能低下を引き起こす。そのため、日常生活動作や就業などに支障をきたしやすく、能力低下も問題となる疾患である。今回、右CM関節症に対する関節形成術を行った症例を経験したので報告する。尚、今回の発表に際し症例より同意を得た。
    【対象】
    40代男性。職業:焼酎製造。利き手:右。受傷日:H20.10.11ベルトコンベアーに右母指をはさまれ受傷。手術日:H20.10.14観血的脱臼整復術施行、H21.11.25関節形成術(Burton法)施行。経過観察期間:4ヶ月。
    【術後プログラム】
    翌日:患肢挙上・手指可動域訓練3週:母指自動可動域訓練・渦流浴4週:シーネ除去6週:他動可動域訓練・セラプラスト8週:Power grasp開始
    【検査】
    VAS、関節可動域、握力、ピンチ力(指腹・三指・側腹つまみ)、関節可動域・握力・ピンチ力の健側比、日本手の外科学会日常生活動作検査(以下手の外科ADL)、DASHを術前・術後4カ月を行った。
    【結果】
    VAS:8/10→2/10
    自動可動域(°):橈側外転40→55掌側外転45→50MP屈曲40→50MP伸展10→20IP屈曲50→65IP伸展40→30
    握力(_kg_):43.0→38.7
    ピンチ力(_kg_):指腹母指示指間2.8→3.4指腹母指中指間2.6→3.6三指つまみ4.4→4.8側腹つまみ7.0→6.4
    健側比(%):橈側外転73→100掌側外転90→100MP屈曲67→83MP伸展50→100IP屈曲71→108IP伸展100→75ピンチ力:指腹母指示指間54→68指腹母指中指間48→86三指つまみ73→104側腹つまみ120→84握力105→97
    手の外科ADL:43/60→56/60DASH:32.5→12.5
    【考察】
    ピンチ動作などでは強力な母指内転筋力により第1中手骨は内転・屈曲し、長母指外転筋により橈・背側に引かれ、母指CM関節には剪断力が加わる。さらに強力な母指球筋や長母指屈筋により、この関節にかかる応力は大きなものとなる。このことから外傷後のCM関節には負担が加わると関節症に移行することは十分に予測できる。作業療法をする上でも把握しておかなければならないことである。
    結果としてピンチ力は術前・健側との比較でほぼ改善しており、ADLは手掌をついた動作時とタオル絞り動作時に若干疼痛を感じているが、生活に支障はない。またDASHで32.5から12.5となり手、腕、肩に関する症状と活動遂行能力は改善した。
    今後、作業療法を行っていく上で重要なことは、患者自身の協力を得ることが必要不可欠であり、患者へ対して訓練の意味、状態把握、CM関節への影響などを十分説明し、指導を行うことで効果を得られると考える。
    川島らはCM関節症に対する装具療法で高い疼痛改善率と、満足度が得られたと述べている。今回は装具療法を行っていないが状態に応じては十分必要であると考える。
  • 松尾 奈々, 村田 伸
    セッションID: 168
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    腰痛は,個人の身体能力にさまざまな身体・作業負荷が加わり発生する。腰痛発症の原因は様々であるが,腰痛症患者に対して,原因に応じた運動療法や日常生活動作の指導が行われている。そのなかで,日常生活動作の指標として,高い所への収納動作の際に,腰部負担軽減からみて好ましい収納の高さを身長比で示している。しかしながら,収納動作の際に足台を使用することもあり,身長比のみでは十分な指標とならない場合も考えられる。そこで本研究は健常成人女性を対象に,荷物挙上動作を行う際の脊椎彎曲角の変化について比較検討した。
    【方法】
    某医療系専門学校に所属する健常成人女性14名を対象とした。対象者には研究の趣旨と内容,得られたデータは研究の目的以外には使用しないこと,および個人情報の漏洩に注意することについて説明し,理解を得た上で協力を求めた。方法は,安静立位姿勢にて,両上肢で重量2kgかつ横幅が肩幅程度の箱を把持し,上肢を0°,60°,90°,120°挙上した姿勢の胸椎後彎角および腰椎前彎角を計測し,スパイナルマウスを用いて測定した。今回分析に使用したのは,第1胸椎から第12胸椎までの上下椎体間がなす角度の総和である胸椎後彎角と第1腰椎から第5腰椎までの上下椎体間がなす角度の総和である腰椎前彎角であり,後彎角を正,前彎角を負で表記した。統計処理は,反復測定分散分析ならびにScheffeの多重比較検定を行った。なお,解析にはStatView5.0を用い,有意水準を5%とした。
    【結果】
    腰椎前彎角は上肢挙上角0°が-25.9±5.9°,上肢挙上角60°が-25.8±5.3°,上肢挙上角90°が-29.1±6.5°,上肢挙上角120°が-29.6±6.3°であった。腰椎前彎角の有意な増加が認められたのは,上肢挙上角90°(p<0.05)および上肢挙上角120°(p<0.05)であった。一方,胸椎後彎角は上肢挙上角0°が28.9±5.3°,上肢挙上角60°が27.6±5.6°,上肢挙上角90°が25.3±5.6°,上肢挙上角120°が22.5±7.8°であった。胸椎後彎角の有意な減少が認められたのは,上肢挙上角90°(p<0.05)および上肢挙上角120°(p<0.01)であった。
    【考察】
    本研究の結果,上肢挙上角90°以上で腰椎前彎角が有意に増加することが明らかとなった。本研究では荷物挙上動作時に2kgの負荷を加えたことで腰部関節モーメントに変化を生じ,モーメントアームが最大となる上肢挙上角90°位で腰椎前彎角の増加が生じたと考えられる。一方,胸椎後彎角は上肢挙上角90°以上で有意に減少していた。上肢挙上時の胸椎後彎角の変化は先行研究の結果を支持するものであった。以上より,立位姿勢で荷物挙上動作の際に,上肢挙上角を90°未満とすることで,腰椎前彎角の維持が図れることが推察された。
  • 持永 博幸, 大野 由夏子, 橋口 久仁子, 上西 祐樹, 豊丸 雅恵, 久保田 空, 長嶺 英博
    セッションID: 169
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    今回入院中に誤嚥性肺炎を発症し、長期臥床による全身的な筋力低下、不良姿勢、嚥下障害を呈したパーキンソン病の症例を経験した。嚥下機能の改善を目標に頭頸部、体幹、姿勢へのアプローチを行った結果、経口摂取の獲得につながったので考察を加え報告する。本報告に関しては本人の同意を得て実施した。
    【症例紹介】
    70代男性、Yahrの重症度分類でStage_III_、食事は常食を自己摂取していた。当院入院中に誤嚥性肺炎を発症し、挿管後人工呼吸器管理となり安静臥床になった。人工呼吸器離脱後は喀痰量が多く、気管切開術が施行され、カフ付きカニューレ装着となった。基本動作、日常生活活動は全介助で、食事は経鼻経管栄養となった。
    【作業療法評価】
    嚥下造影検査(以下VF)ではムセは認められなかったが、水分、ゼリーで誤嚥量8割と多量の誤嚥が確認できた。検査体位は車椅子座位で実施した。脊柱は全体的に右に側屈し、胸椎・腰椎の後弯、骨盤も後傾し、それに伴い胸郭が左拡大、右狭小していた。上部体幹は屈曲位であり、両肩甲骨も外転し、頭頸部の不良姿勢を助長していた。頭頸部は、頭部後屈、頸部は著しく前屈、右側屈し食物が候頭侵入しやすい状態であった。
    【介入方法】
    不良姿勢の原因となっている筋緊張や筋短縮の軽減をアプローチの目的とした。まず背臥位で両肩甲骨内転・下制、体幹左側屈、脊柱は全体的に伸展し、背面部がしっかりと床面へ接することを考慮し、アライメントを整えた。骨盤前傾へもアプローチを行った。頭頸部に対しては、頸部の全体的な後屈を行い、特に頭部は前屈を促すために後頭下筋群の伸長を行い、右側屈のアライメントも整えた。また全体的な体力や活動性の向上を図るために歩行も実施した。
    【結果】
    評価時よりも頭頸部や体幹の姿勢が整い、リクライニング位で頭部前屈位、頸部後屈位が可能となった。VF再評価時も体位調整にて全ての模擬食品で誤嚥を認めず、直接嚥下練習が可能となった。最終的には車いす座位で全粥、キザミ食(あんかけ対応)、水分とろみ付きで1/4ほど自己摂取可能となった。
    【考察】
    姿勢管理に着眼点をおき、その中でも今回は頭頸部の位置を重要視した。一般的には誤嚥しにくい肢位は頸部前屈位と言われているが、症例は頭部後屈位、著しく頸部前屈位をとり喉頭侵入しやすい状態であった。そのため頭頸部軽度前屈位を目指し、頭部前屈、頸部後屈と個々の運動にアプローチを行った。また体幹の崩れも頭頸部の崩れを助長しており、全身の姿勢調整も頭頸部の安定に必要と考えた。個々の症例にあった良肢位の設定が経口摂取の獲得には重要であると考えられた。
  • 稲田 尚大, 坂田 亮, 松下 兼一
    セッションID: 170
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     在宅生活障害者の「できるADL」と「しているADL」の差や介助者介護負担感増大の報告は多い.今回,受傷から10年以上経過,更衣の実際能力と実施状況に差のある症例と家族へのアプローチを通し長期化例の問題や課題について検討したので報告する.
    【症例紹介】
    70歳代 男性 左視床出血 右片麻痺
    介助者は妻で,現在2人暮らし.他者に対して丁寧な対応であるが,妻に対しては命令口調で依存的.
    本報告における本人・家族の同意を得て実施した.
    【作業療法評価】
    両上肢(特に右肩)可動域制限あり.感覚は表在・深部共に軽度鈍麻.Br.StageIV-V-IV.肩甲帯・体幹背面の筋緊張亢進.
    ADL(更衣):上衣脱衣はシャツが頭部に掛かり,外せないため要介助.その他自立.着衣,下衣着脱は時間を要するが自立.
    家庭では全て全介助.介助者より「動作能力を把握できていない.」「依存的である.」とのこと.
    【経過】
    「更衣要介助,要時間.」「依存的.」「介助者の動作能力把握不十分.」「家庭での全介助実施.」と問題点を抽出,更衣動作訓練,家族指導(介助方法伝達,家族の訓練介入,更衣マニュアル)を週3回,4ヶ月間実施.
    導入前は「家では自分でしている.」と訴え,訓練に対し拒否的であった.
    導入後,拒否はなくなるが,家庭では全介助で実施していた.
    家族指導後,介助者が動作能力を把握,状況改善の意欲を示す.
    【考察】
     在宅生活障害者の生活状況は把握しづらく,訓練室では出来ても家庭では行っていないなど,見落とすケースも多い.
     坪井らは介護者の介護負担感軽減は,障害者が在宅生活を維持する上で重要な要因であるとし,本例も「できるADL」と「しているADL」の差が介護負担を増大させていた.可動域制限や筋緊張亢進による可動性低下,巧緻動作能力低下に伴う更衣のやりづらさから,介助者への依存を強めていた.医療従事者,家族への依存は,非有能感を悪化させることもあり,動作指導に加え,家族指導の必要性が急務と考えた.
     今回は有する更衣動作能力に着眼し実施したが,長期間全介助での更衣動作を「できるADL」から「しているADL」へは繋げられていない.要因は身体・精神機能低下による更衣のモチベーション低下が考えられる.そのため依存が強く,介助者は症例が「家では自分で何も出来なくなった.」と感じており,動作遂行能力への関心の希薄化も考えられる.
     備酒は,結果の見通し,行動に実現の見通しがあるという条件を満たすと自己効力感が生じるとし,今後,心身機能の変化から活動状況を見極め,更衣を行う目的を共に考え,症例,介助者,セラピストの持つゴールを検討,統合する必要がある.家族へは純粋な動作指導に加え,賞賛を与えるなどモチベーション,自己効力感向上を目的とした心理的フォローと訓練室,家庭での反復練習が,「できるADL」から「しているADL」へ変容する学習となることを指導し,協業したフォローアップ体制が重要であると考える.
  • 児嶋 由佳, 松本 沙織, 吉村 修, 今石 綾子, 村田 伸
    セッションID: 171
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当院の回復期リハビリテーション病棟では、平成19年度からADL評価に機能的自立度評価表(以下FIM)を用いている。しかし、4点以下の採点には介助量を%で表すため、判断が難しいとの意見が多く、看護師への定着が困難であった。そこで、当院独自の採点方法を工夫し、その使用に関する意識調査を行ったので報告する。
    【FIM評価法の工夫】
    FIM18項目のうち、4点以下の具体的な採点方法が示されていない計8項目について、具体的な採点方法を示した。例えば、更衣(上衣)では、服を「着る」「脱ぐ」の動作を「頭を通す」「袖を通す(右)」「袖を通す(左)」などの8動作から採点し、8動作中6~7動作が可能であれば4点、4~5動作が可能であれば3点、2~3動作が可能であれば2点、1動作が可能または全動作不可能であれば1点と評価した。
    【意識調査】
    使用開始から3ヶ月経過した後、意識調査を行った。対象は、リハビリスタッフ29名、回復期リハビリテーション病棟所属の看護師33名の計62名で、全スタッフが従来のFIMと変更後のFIMの両方による評価を経験している。評価法の内容、評価に要する時間、患者の状態が把握しやすくなったかについてアンケートを実施し、59名(95.2%)から回答が得られた。その結果、52名(88.1%)が以前と比べ「評価しやすい」と回答し、2名(3.4%)が「評価しにくい」、5名(8.4%)が「変わらない」と回答した。評価に要する時間について、以前の評価時間と比べ「短縮した」が25名(42.4%)、「長くなった」が11名(18.6%)、「変わらない」が16名(27.1%)、「わからない」および無回答が7名(11.8%)となった。また、患者の状態が把握しやすくなったかの質問に対して、「とても思う」が16名(27.1%)、「まあまあ思う」が32名(54.2%)、「あまり思わない」が6名(10.1%)、「わからない」と無回答が5名(8.4%)であった。
    【考察】
    4点以下の採点について、具体的な項目を示したことで評価時の迷いが減り、「評価しやすい」という意見に繋がったと考える。さらに、患者の状態を細かく評価できるようになったという意見からも、この評価法は当院のスタッフにとって有効であったことが示唆される。評価時間に関しては、42.4%が「短縮した」としている一方で、「長くなった・変わらない」という意見が45.8%を占めている。その理由として、以前のFIMより評価内容が細かくなったこと、使用開始3ヶ月という期間であり、慣れていないため評価に時間を要したことが考えられる。このような結果から、現在は勉強会やアンケートを定期的に実施し、評価法の検討を繰り返しながら看護師への定着を図っている。なお、当会当日には当院で使用しているFIM評価法について具体的に紹介する予定である。
  • 川満 尚彦, 増崎 力, 友田 秀紀, 矢野 浩二, 宮岡 秀子
    セッションID: 172
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    当法人における障害者施設等一般病棟(以下障害者病棟)の入院患者を対象とし、入院時の動作・活動能力から日常生活自立度(以下自立度)改善に関係する因子を分析する。
    【方法】
    対象は平成20年4月から21年2月迄に当院の障害者病棟を退院した当該病棟対象患者の内、調査及びデータ使用に同意の得られた103名(男性71名、女性32名、64.7±15.1歳)。なお、本研究を行うにあたり当院の倫理委員会の承諾を受けた。診療録より属性項目(年齢、性別、診断名、自立度、入院期間等)、入院時項目(認知症の有無、意識障害の有無、起居動作能力、ADL)のデータを後方視的に抽出した。入院時日常生活自立度のランクが退院時に改善がみられたものを改善群、ランクの変化がなかったものを維持群に分類した。診断名は、特定疾患治療研究事業対象疾患(以下、難病)か否かで分類。入院期間を入院~90日を短期群、91~180日を中期群、181日以上を長期群に分類。認知症有りをMMSE22点以下とし、起居動作能力は自立・見守り・介助・未実施の4段階で評価。ADLはBarthel Indexを用いて評価した。(1)日常生活自立度の改善群、維持群で属性項目を比較した。(2)自立度ランク変化に寄与因子探索のための統計解析として、改善群、維持群の2値を目的変数とし、入院時項目の起居動作能力、Barthel Indexを説明変数とした決定木分析を行った。統計解析にはJMPver8.0.1を用いて有意水準は5%未満とした。
    【結果】
    診断名は難病45名(43.7%)であった。入院時自立度はランクCが57名(55.3%)と最も多かった。入院目的はリハ加療73名(70.8%)が最も多かった。発症から入院までの期間は225日(69-1654日)、入院期間は93日(40-168日)であり、短期群50名(48.5%)が最も多かった。転帰先は自宅53名(51.4%)、病院43名(41.7%)であった。自立度の改善群は43名(41.8%)、維持群は60名(58.2%)であった。対象患者でランクが低下した者はいなかった。 (1)改善群と維持群の比較では、年齢、性別、診断名、入院目的、転帰先、意識障害の有無において有意差を認めなかった。認知症の有無、発症から入院までの期間、入院期間で有意差を認めた。改善群では認知症有と入院期間の短期群の割合が少なかった。また入院期間の短・中期群で33名(78.6%)であった。疾患と入院期間の比較で有意差を認め、難病では短期群が多く28名(68.2%)であった。転帰先と入院期間の比較でも有意差を認め、自宅退院者の37名(69.8%)が短期群であった。(2)決定木分析の結果、起居動作では第一ノードで寝返りが見守り以上で剪定された。ADLでは食事が一部介助以上、次いで排尿管理の自立以上で剪定された。
    【考察】
    約4割に自立度の改善がみられた。入院期間は自宅療養の難病疾患に対して短期間のリハを実施している結果、短期群において維持群の割合が多く、自宅退院者も多い結果となったと考える。自立度改善がみられた約8割は、入院に約6ヶ月要しており中長期的な関わりの必要性もあると思われた。自立度改善の寄与因子は、入院時に認知症がなく、寝返りが見守り以上、食事が一部介助以上でかつ排尿管理が自立であれば改善する可能性があった。
  • 永富 祐太, 江原 まどか, 猪野 嘉一
    セッションID: 173
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    離床は,身体機能維持だけでなく,文化的・社会的な側面からも重要な要素となる.そこで,当院の離床時間を調査し,離床時間に影響する要因となっているものを分析したので報告する.
    【対象と方法】
    対象者は,当院に入院していた離床可能患者69名(男性34名,女性35名,平均年齢76.2±13.0歳)とした.離床時間は,看・介護スタッフおよび療法士がベッドから離れる際と戻る際に記録用紙に記入し,AM7時よりPM7時までの12時間について連続した3日間調査し,1日あたりの平均値とした.各患者の1日の離床時間を目的変数とし,性別,年齢,寝たきり度,認知症度,移動能力,BI,認知症の有無,訓練頻度,パンツの種類,尿意の有無を説明変数として,決定木分析を行った.統計処理にはSPSS(ver.14)を使用し,作成アルゴリズムはCHAIDを用いて,有意水準は5%未満とした.なお,個人情報についてはヘルシンキ宣言に基づいた規定に遵守し,入院時にその使用について説明し同意を得た.また,個人が特定されないように匿名化し,データの取り扱いには十分注意した.
    【結果】
    全体の平均離床時間は4.5±3.5時間で,以下の5つのノードに分類された.まずBIで分岐し,BI0点では次に訓練頻度で分岐し,週6回が4.4±3.4時間,週3回が1.7±1.9時間であった.BI5点以上では,次に認知症の有無で分岐し,有りの場合7.6±2.9時間,無しの場合はさらに性別で分岐し,男性が2.5±1.0時間,女性が5.5±2.6時間であった.
    【考察】
    当院では,転倒予防や危険行為防止の観点から,認知症者を病棟詰所の近くで見守るといった体制があるため,認知症者の離床時間が最も長かったと考えられる.また,このことは非認知症者における性差に影響していると考えられ,非認知症女性は,病棟内に認知症者を含んで小さなユニットを形成し他患との交流を行っている.一方で,非認知症男性は,認知症者との交流を拒み,自室で臥床してテレビを見て過ごす時間が多くなったと考えられる.一般的に,閉じこもり発生には他者との交流頻度が関与し,離床は社会的側面からも重要とされているため,当院においても他者との交流という観点から離床の重要性が示唆された.最後に,BI0点の患者には,療法士の介入頻度が影響していたため,生活の質を高めるための工夫が必要であると思われた.
    【まとめ】
    当院において,離床時間に影響する要因として,BI5点以上の患者には認知症と性別,BI0点の患者には訓練頻度が挙げられた.さらに,離床は患者の社会的側面にも影響を与えるため,他患との交流機会の提供や各患者特有の工夫を行うことで,質の伴った離床を促していくことが今後の課題である.
  • 山下 憲二, 菊永 直子, 井手 朝美
    セッションID: 174
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     平成18年4月の診療報酬改定により疾患別リハビリテーションに変わり,大腿骨頚部骨折(以下FNF)をはじめ,多くの下肢・体幹疾患への作業療法(以下OT)介入が報告されている.
     当院では,FNF・脊椎圧迫骨折での入院患者が多く,全入院患者との比率として,平成21年は247/958名(26%)と1/4を占めている.しかし,両疾患に対し,作業療法士(以下OTR)の早期からの介入が10%と少ない現状である.これらの現状を検討し,早期介入する必要性について考える.
    【対象】
     平成21年1月~12月までに入院した『FNF』、『脊椎圧迫骨折』の患者247名,平均年齢79歳である.
    【方法】
    1)FNFにOTRが入院7日以内の介入(以下A群),
      入院7日以降(以下B群),RPTのみ(以下C群)
    2)圧迫骨折にOTRが入院7日以内の介入(以下D群)
      入院7日以降(以下E群),RPTのみ(以下F群)
      以上について(1)在院日数,(2)入院・退院時のFIM・BIの比較検討を行った.
    【結果】              (小数点以下四捨五入)
    1)A群(1)58日(2),FIM入院36点・退院65点,
                  BI入院16点・退院51点
      B群(1)78日,(2)FIM入院59点・退院89点,
                  BI入院30点・退院70点
      C群(1)59日(2)FIM入院69点・退院95点,
                  BI入院39点・退院73点
    2)D群(1)52日,(2)FIM入院49点・退院90点,
                  BI入院35点・退院72点
      E群(1)66日,(2)FIM入院60点・退院102点,
                  BI入院26点・退院80点
      F群(1)52日,(2)FIM入院70点・退院100点,
                  BI入院42点・退院83点
    【考察】
     今回の調査ではOTRの早期介入が在院日数・ADLの改善度に影響を与えていることが分かった. B・E群への対応として,認知症との関係もあり,今後入院時FIM・BIでの介入基準の検討が課題である.
    【まとめ】
     当院でのOTRの役割は下肢・体幹疾患に対するADL介入,ハンドセラピィである.今後OTRの早期介入を拡大していくために,整形外科領域の知識や技術を高めることも重要であると考える.
  • 中村 早央里, 牛津 智美, 吉田 真奈美, 朝倉 みり, 堤 逸人, 中山 真一
    セッションID: 175
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回下腿・足部疾患(以下、膝下疾患)患者に対しADL・IADLや趣味活動等へのアプローチを行い、作業療法の必要性を感じた。膝下疾患に対して作業療法士(以下OT)が介入してはならないという決まりはないのに何故OT介入数が少ないのか、また当院のOTがどのようなアプローチを行っているのか興味を抱いた。当院における上記患者へのOT介入数を調べ、OT介入の現状と必要性について検討を行った。
    【対象・方法】
     平成21年度の整形外科入院患者より膝下疾患の患者を抽出し、PT・OT・STの介入状況を調査した。また、OT介入患者については担当OTがどのようなアプローチを実施したのか把握する為にアンケート調査を実施した。アンケートは機能・基本動作・ADL・IADL訓練、家屋調査、介護保険・サービス利用状況、家族・他職種との連携、精神・心理面の項目を設け、各項目に対し自由記載とした。
    【結果】
     全204症例のうち膝下疾患は56症例であった。PT介入は全症例に行われていたが、OT介入は27症例であった。アンケート結果を以下に述べる。介入初期(免荷時期)はROM訓練や筋力強化訓練等の機能訓練を主に実施し、移乗やトイレ・更衣動作等のADL訓練を環境調整も含め行っていた。また、早期より自宅環境に応じた訓練を行うため、患者本人や家族に当院独自の家屋調査表を用いて家屋状況聴取を行うと共に、必要に応じてMSWに介入を依頼していた。介入中期(荷重可能時期)は荷重下でのADLを獲得するため、許可された荷重量の範囲でADL訓練を進めていた。介入後期(全荷重可能時期)では、片脚立位など下肢の支持性が要求される入浴動作や屋外歩行訓練を実施していた。IADLについても、自宅での生活を想定した家事訓練や買い物訓練等を行っていた。家屋改修などの環境調整も実施していた。精神・心理面へのアプローチは全期を通じて必要であり、不安軽減の為に心理支持的に関わり、余暇時間を有意義に過ごしてもらう為に趣味活動の提供も行われていた。
    【考察】
     今回、膝下疾患へのOTに関する文献を調べたがほとんど見当たらなかった。このことから、当院ばかりでなく全国的にも膝下疾患に対しOTが介入しているケースは少ない傾向にあるのではないかと推測される。しかしながら今回の調査にて膝下疾患患者に対してOTが早期から介入することでより早期から患者のADL拡大を図り、IADLや環境調整に対する関わりを十分に提供できたという結果を得た。また、文献では上肢を適切に機能させるためには体幹や下肢の強化が必要であると述べられている。ADL・IADLでスムーズな上肢の動作を保障するためにも、今後はOTも下腿・足部にも十分に着目し、標準的なアプローチ方法の確立や下腿・足部疾患に関する知識を深めることが重要であると考える。
  • -高いニーズに応えるために-
    矢野 真澄, 草野 清隆, 堀之内 洋美, 上森 千尋
    セッションID: 176
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    近年、通所介護施設で機能訓練が普及しつつある。当施設でも3年前より理学療法士(以下PT)が配属され、利用者の運動機能向上に努めているが、機能訓練の定着に伴い、要望や個別性を重視する声が高まってきた。そこで今回、機能訓練に対する満足度と意識を調査し、現状の把握、今後の課題を明確にできたので報告する。
    【対象と方法】
    調査に同意を得られた重度認知症を除く当施設利用者(運動器機能向上加算あり)95名(男性22名、女性73名、要支援66名、要介護29名、平均79.66±6.36歳)を対象とした。質問は1)最も辛い症状は何か、2)自分に機能訓練は必要か、3)集団体操に満足か、4)機能訓練時間は妥当か、5)機能訓練を継続したいか、6)やりたい趣味はあるかであり、選択回答法(2、3は自由記載あり)、集合調査法を用いた。
    【結果】
    1)は痛み25名、痺れ18名、体力低下15名が上位回答であった。2)は93名が「必要だと思う」と回答、「必要だと思う訓練内容」は、マッサージ33名、物理療法16名、歩行訓練16名が上位回答となった。3)は「とても満足/まあ満足」が計76名、「あまり満足していない/全く満足していない」が計20名で、不満足の理由に「入浴と時間が重なる」「時間が短い」等があった。4)は「妥当」55名、「短い」36名、「長い」4名であった。5)は「続けたい」が92名で96.8%を占めた。6)は「ある」49名、「ない」42名であった。
    【考察】
    機能訓練については前述通り肯定意見が多かった。しかし必要だと思う訓練内容では、要支援者の63.6%が「マッサージ(47%)」と「物理療法(16.6%)」と回答、これは疼痛や痺れの緩和を期待している点が理由に考えられる。またマッサージが多くを占めた理由には、PTと他の手技療法系職種を混同している点が挙げられる。対照的に要介護者ではマッサージの回答が14.3%に留まり、「歩行訓練」が25%と最多であった。要介護者はより日常生活に直結する歩行を重要視していることが予測できる。また「やりたい趣味」では半数以上が「ある」と回答したが、現在当施設で提供できている活動は少ない。しかし大渕らは運動機能向上プログラムに関して「狭い範囲の機能向上を目標とするのではなく、QOLを向上させることを狙っている」と報告しており、今後は狭義の機能訓練だけでなく、趣味活動や作業を通して運動機能向上を図る必要もあると考える。
    【おわりに】
    今回、機能訓練に対する高いニーズを確認できた。しかし要支援者の運動への意識は薄い傾向があり、今後PTは介護予防や機能訓練についての啓発活動をする必要があるだろう。当施設は機能訓練特化型通所介護を新設予定であり、機能訓練に関する利用者の意識改革、訓練内容の充実化、趣味活動の提供を考慮した取り組みを第2報にて報告する。
  • 病棟連携に至るまで
    藤田 曜生, 禰占 哲郎, 太田 祐子, 瓜生 充恵, 田尻 由季, 高杉 紳一郎
    セッションID: 177
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当院は、病床数1275床で都道府県がん拠点病院に指定されている。大学病院と言う特性上、多種多様なガン疾患群と関わっている。特に、OTが扱う領域としては、脳腫瘍、頭頸部、小児、乳腺、肺・食道、骨・軟部腫瘍、脊髄腫瘍、造血器、リンパ浮腫、緩和ケアなどに関わる事が多い。今回は、ガン及び緩和ケアに関わる作業療法士として、これまでは、身体機能へのOT的な関わりが中心であったが、心身面を大切に取り組んできた結果、病棟での勉強会やカンファ参加依頼を通じて、医療チームとしての関わりにOTの役割が認知されてきたので報告する。
    【概要】
    当院のOTでは、身体機能維持改善、高次脳機能面、日常生活指導、離床、痛みの評価、家族ケア、病棟指導等、施設間連携等ガン患者への取り組みは多岐に渡っている。既に取り組みが先行している乳腺に関しては、パスに沿って腋窩郭清実施後のケースのみ対応。マニュアル、病棟連携パンフを共同で作成して指導実施。患者に向けた定期的な研修会の開催も行っている。なお、リンパ浮腫については、随時外来医師より依頼がある状況で、外来フォローも実施している。
    【考察】
    大学病院という特性上、身体機能面の依頼が従来は主体であった。スタッフ数の少なさに加え、医師側からも適用になるケースかの判断に迷うケースが多く、病棟内のみで完結していたケースも多い現状である。病棟側からの依頼を受け院内での研修会やカンファに参加し、情報交換する中で病棟の意識が変わり、リハの依頼内容にも変化が見られ始めている。病棟の連携の中で、移動能力の確保や外泊への試み等の要望が見いだせた。反面、病棟の個々のケース対応に苦慮している事も分かったと同時に、治療側の対応もより知り得た。情報共有することで役割分担が明確化や問題点も分かり得た。ガン、特に終末期のガンの進行は思いのほか早いために、OTが迷いながらどこまで関わるべきであるのか、そして患者の生きる事に対する思いを大事に捉え、大切に関わった。その中で、医療チーム連携の強化を模索している間、終末期の病状進行の早さに、スタッフ間連携が、思いの実現を困難にしてしまった。
    【まとめ】
    ガンのリハビリテーションにおいては、今回診療報酬が付く事になった。しかし、ガンのリハビリテーションと言っても多彩な疾患群や症状変化、身体心理面症状、チーム医療、痛みへの配慮等々、OTの関われる範囲は多方面にある。チーム医療で関わる全ての職種が、それぞれの専門性を発揮できるためには定期的に集まれる場が必要である。また、OT自身のより一層の専門性、精神心理面への配慮等、他職種とリンクしながらチームとして機能するよう関わり取り組む事が必要である。
  • 鎌田 陽之
    セッションID: 178
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    老人保健施設では,新規入所者に対して認知症短期集中リハビリテーションを行うことができる。今回当苑での実施例について考察を交え報告する。
    【当苑での実施状況】
    H21年4月~12月
     1対象者11名(男4名女7名)年齢79.4±8.47歳(89~69)MMSE15.4±5.88点(23~5)寝たきり度A7名B1名C3名。認知症高齢者の日常生活自立度_II_a3名_II_b2名_III_a6名。BI 61.3±31.3点(5~100)
     2介入:学習訓練療法を中心にADL評価・訓練(環境設定含む)出来る活動の提供
     3結果(3ヶ月後):MMSE向上4点2名3点1名2点1名1点4名で同じ者は1名、低下したもの2名。ADL尺度では著変を認めなかった。
    【事例紹介】
     1学習訓練療法を用いた軽度例:60代女性。団地で独居をしていたが、意欲の減退、ADLの低下により当苑入所。MMSE15点寝たきり度A2認知症高齢者の日常生活自立度_II_b。BI 75点入所時臥床傾向あり。介入:個別での学習訓練療法とともに、グループ訓練でも課題に取り組んでもらうようにし、集団生活への適応を図った。結果:MMSE19点となり、レクリエーションにも参加するようになった。
     2出来る活動を提供した重度例:80代男性。外科疾患治後、病院より入所。MMSE5点。寝たきり度C2。認知症高齢者の日常生活自立度_III_a。BI 20点。入所時易怒性であり、介護拒否もあった。介入:車椅子での散歩。歌唱。掲示物を用いた日付の確認。切り紙を行った。結果:MMSE1点。課題には集中して行われるようになった。
    【考察】
    当苑での介入を振り返るため、対象者全体の傾向と事例の検討を行った。対象者全体としては同じ認知症であっても、心身の障害が様々であることがうかがわれた。MMSEの点数では、8名で向上が見られており、リハビリによる改善が示唆された。今回ADL尺度においては大きな変化は認めていないが、今後は対象者により、ADL面での介入の検討も必要と思われた。事例検討では認知症の程度で対照的な2例を選択した。事例1においては、学習訓練療法を中心にしながらも、集団の適応を目的とした。軽度の認知症においては意欲の減退により、社会生活・対人関係の維持が困難になることがあり、それを配慮した介入が必要であると考える。事例2においては、情動面に配慮しながら、出来る活動の提供を行った。認知症短期集中リハビリテーションの対象者が認知症重度の者も含むということを考えると、机上課題でのアプローチのみでなく、残存機能や感情の障害にも配慮した介入が考えられて然りだと思われる。また重度例では、定量的な問題行動の検査から介入を検討する必要があるのではと思われた。認知症のリハビリでは、認知機能自体の評価、介入とともに、全人的なアプローチの必要がある。今後も検討していきたい。
  • グループ別、項目別の特性比較
    奥野 由佳, 岩崎 猛, 松浦 由美
    セッションID: 179
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    認知症患者は複数の認知能力が障害されるが,すべての認知能力が同時に障害されるわけではないと言われている.そこで今回,当施設の入所者を対象に実施したNMスケールのデータをもとに,統計学的見地から「低下しやすい機能」と「維持されやすい機能」を比較検討した.その結果,認知症の程度ごとに一定の特徴があることが分かった.認知症予防進行のために何が大切か,考える機会を得たのでここに報告する.なお,報告に際し当施設の倫理委員会より承諾を得ていることを付言しておく.
    【対象】
    2009年3月~5月までの期間に,当施設に入所されていた全利用者86名(男性27名,女性59名).平均年齢85.51±9.09歳.要介護度3.67±1.28.
    【方法】
    86名に実施したNMスケールのデータをもとに,判定基準に従って「正常群」~「重度群」のグループに分けた.グループ間で「身辺処理」「関心・意欲・交流」「会話」「記銘・記憶」「見当識」の項目についての比較と,「正常群」~「重度群」のグループ内での各項目の比較を,t検定を用いて実施した.
    【結果】
    グループ間で低下しやすい機能について検討した結果,「軽度群」は「正常・境界群」に対し,全ての項目において有意に低下していた(P<0.05).「中等度群」は「軽度群」に対し,「身辺処理」の項目において有意に低下していた(P<0.05).「重度群」は「中等度群」に対し,「記銘・記憶」と「見当識」の項目において有意に低下していた(P<0.05).
    項目比較では,「会話」と「関心・意欲・交流」に着目し,「中等度群」および「重度群」において維持されやすい機能について検討した.その結果,「中等度群」において「身辺処理」は「会話」「関心・意欲・交流」と比べ,有意に低下していた(P<0.05).「重度群」においてすべての項目は「会話」と比べ,有意に低下していた(P<0.05).また,「記銘・記憶」は「関心・意欲・交流」比べ,有意に低下していた(P<0.05).
    【考察】
    上記より,「軽度」~「中等度群」にかけては「身辺処理機能」から低下しやすく,「重度群」になるにつれて「記憶・記銘」や「見当識」が低下しやすいことが示唆された.また,「会話」および「関心・意欲・交流」は,他の機能に比べ,最後まで維持されやすい機能であることが示唆された.
    介護老人保健施設においては,その性格上,利用者に対する認知症の評価とアプローチは不可避である.今回の結果は,各利用者についてリハビリテーション計画を策定するとともに,本人や家族にこれを説明し合意と協力を得る上で,有効な指針となり得るものであると考える.今後はこれを活用したリハビリテーションの実践を展開し,続報につなげたい.
  • 会場設置アンケートの内容を読み解く・高齢者とアートその1
    桑江 良貴, 前田 瑞穂, 金城 明美, 満留 文, 中村 由以, 金城 光政
    セッションID: 180
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
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    【はじめに・目的】
    当院作業療法科では、入院・入所高齢者らの社会参加、家族との接点の維持、地域社会との交流などを目的に、この5年間に院外で作品展示会を8回実施した。「作品」や「作品展」が、制作者はもちろん、一般鑑賞者や家族、病院・施設スタッフなど関係者に何らかの影響を与えていることを実感。本報告は、会場に設置したアンケート(統一様式)を再度点検し、高齢者の作品や作品展などの表現活動についての感想や意見を整理し、その意義について考察するものである。
    【方法と結果】
    平成17年の第1回「ご長寿19人展」から平成21年「希望のカタチ展」までに開催した作品展示会の回収アンケート(開催展示会ごとのアンケート資料集)をもとに、分類、整理した。
    A:展示会・アンケートの概況
    1)全展示会の合計開催実日数:72日 2)展示会開催会場(4タイプ):スーパーマーケット/銀行本・支店/ホテルロビー/県立美術館県民ギャラリー 3)作者合計数:延べ193名 4)作品合計数:258作品 5)回収アンケート合計数:689件
    B:アンケート内容の分類
    (1)賞賛・激励:作品の出来、高齢者であることの驚きなど (2)疑念:「これ本当に患者さんが作ったの?」 (3)発奮:作業療法学生 (4)参考:作業療法士 (5)出会い:一般市民、児童・生徒ら、作業療法・士の存在を知る (6)期待:恒例の展示会に (7)リピーター:再来場・鑑賞・アンケート記入
    C:影響
    (1)欲が向上する。展示会を目標に作業療法に積極参加する。(2)展示作品や展示会見学の話題が保持され、外出と遠出への期待が高まる(3)作品が常設展示され、家族会でも話題となる。(4)作業療法士の造形表現研究の意欲がさらに高まる。
    【考察】
    作業療法で行なわれる造形表現活動は、あくまで高齢者の個人的な体験である。アンケートの結果は、作者(高齢者)らは,造形表現活動や作品展示会によって自分と自らの環境(世界)との関係を変化させる<兆し>を得ることを示した。一方の鑑賞者らもまたいわば芸術体験の思いがけない感動を得て、見知らぬ世界や、新たな自分自身との出会いを体験していることなどを伺い知ることができた。
    作業療法での造形表現活動で生まれた作品は、「訓練」の結果でもなく、その場限りで消費される娯楽の類でもない。作品展示会は、停滞する日常生活の中では得難い空間と時間を体験することができることを確認した。
  • 「シール・アート」、「コラージュ・カラーコピー法」の特徴について・高齢者とアートその2
    金城 明美, 前田 瑞穂, 桑江 良貴, 金城 光政
    セッションID: 181
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに・目的】
    当院では、認知症患者を対象としたプログラムや、併設の介護老人保健施設において造形表現活動を多く取り入れている。中でも「シール・アート」および「コラージュ・カラーコピー法(以下、CC法)」は、高齢者の作業活動の導入や継続に有効であるという感触を得ている。本報告は、筆者らが開発・工夫した二つの方法を、コラージュ療法(コラージュ・ボックス方式およびマガジン・ピクチュアー・コラージュ方式/それぞれの特徴については割愛)との比較から、その特徴について考察するものである。
    【シール・アート、CC法の紹介】
     シール・アート(seal・art)は、市販されている事務用シールを用いて構成・制作するミクストメディアの一種である。一枚のシールには“すでに単純な形と明快な色の世界が形成されていること”の安心感が備わっていること、一片のシール支持体に移しかえるだけの簡便さ、手頃感が大きな特徴である(詳細は『沖縄県作業療法研究 第1号』平成18年 短報参照)。
     CC法(collage・color copy)は、いわゆるコラージュ療法の中心的な方法であるコラージュ・ボックス方式およびマガジン・ピクチュアー・コラージュ方式を参考に、高齢者向けに開発・工夫された、簡便なコラージュの方法である。すなわち、切り取るテーマは一点のみであり、それは素材集などから選択した図と地の明確なシート(カラーコピーされている)に配列されている。したがって切り取りは単純で連続性のある作業が提供できる。また、高齢者が嫌う雑誌などの破損を伴う作業工程が回避され、高齢者に罪悪感や作業への否定的感情を回避することができる点に特徴がある(詳細は『沖縄県作業療法研究 第4号』平成22年 実践ノート参照)。
    【おわりに】
    本報告は、当院で開発・工夫された<シール・アート><CC法>についての紹介である。ふたつの方法とも、その特徴を活かし、認知症を含む高齢者個々の状況に応じて現在も積極的に使用している。今後はふたつの方法のそれぞれの有効性や限界についても検討していきたい。
    当日は、実際の作品の展示、図表を用いて説明を加える予定である。
  • アルツハイマー患者の四年間の経過観察と作業療法の課題・高齢者とアートその3
    前田 瑞穂, 満留 文, 野村 美涼, 金城 光政
    セッションID: 182
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当院は、認知症高齢者に対して作業療法を提供している。今回は、造形表現活動の経過観察を通して作業療法士の主観的評価によるアルツハイマー患者の病状の進行に応じた作業活動の提供内容方法について振り返る。また、作業療法の課題についても報告する。
    【症例紹介】
    K氏:70歳代後半、アルツハイマー型認知症(中期~後期)、身体機能は保たれているが、年々見当識低下している。
    【経過】
    1期:当院入院して約4ヶ月後から精神科作業療法に参加。開始から約9ヶ月間は場に慣れず、頻回なトイレ、「どうする?」などの確認行為が続いた。
    2期:開始から10ヶ月経過した頃、他者が行っている点描に「私もやりたい」と興味を示し、作業に導入。「ずっと、やりたい」「家に持って帰りたい」などと言い、作業・場に落ち着き始める。点描だけにとどまらず、様々な画材・用具を使用し作品を制作。
    3期:開始から2年経過した頃、「家に帰りたい」「夕飯を作らないといけない」などの言葉が増える。K氏自身も“出来なくなっている自分”の不安を作業への抵抗・拒否の態度を示し、その場を取り繕った。
    4期:開始から3年経過した頃、作業療法はK氏の語りをもとにした造形表現で作品制作へと変化(スケッチブックを支持体としたなじみの写真をコラージュ)。また、多様な作業活動を提供し、K氏自身も不安を垣間見せながらも作業を楽しみ再び場に落ち着き始めている。
    【考察とまとめ】
    現在も作業療法を支援し続けられるのは、K氏が語れる“過去”があり、“過去”を取り込んだ作業療法を提供しているからだと考えられる。今回K氏の声を通して考えられるのは、症状の進行とともに「出来なくなること」が増えても、活かせる能力を見つけ出し、環境設定(声・態度・まなざし・活動)していくということの大切さである。語りを聞き、語りを受け止め、共有し、過去に経験してきたことを作業種目に取り入れること。すなわち造形表現活動においては記憶として残された過去にまつわるテーマとした作品を形として残し、料理においては匂いで懐かしい記憶を賦活させた。一人ひとりの高齢者は作業療法環境の中で常に固有の関係を作りだしそれは少しずつ更新されている。作業療法士はその小さな探索と発見を繰り返し、アルツハイマー患者への作業療法の更新・再構成を考え、支援していかなければならない。
    当日は、図表を用いて説明を加える予定である。
  • 伊波 秋生, 大湾 明穂, 與 由衣, 中村 優希
    セッションID: 183
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     高齢化社会へと移り当院の入院患者においても平均年齢は向上してきている。また、認知症を呈する患者も多くなり対応に苦難する事が多くなったように感じる。認知症患者を評価するにあたって行動、会話等からの観察に加え紙面上検査やCT所見などでの総合評価を実施しているが、評価に統一性が無く認知症患者における周辺症状の悪化を招いてしまう事も少なくない。その為他のOTがどのような視点を持ち患者を評価し、対応しているのか現状把握し得られた内容から今後の評価視点を広げていきたいと考え調査に至った。
    【対象と方法】
     対象は回復期病棟、一般病棟、外来リハ、通所リハ、訪問リハに所属するOTスタッフ27名。アンケートは自由解答式で実施。内容は1)初期評価での行動特徴、心理面の視点、2)認知症患者に対して困っている事、評価で困っている事の2項目とし経験年数での各視点の違いを比較した。
    【結果】
     問1)の回答で最も多かったのが、1・2年目は、1)コミュニケーション能力、2)表情。3~5年目は、1)表情、2)コミュニケーション能力。 6年目以上は1)行動2)コミュニケーション能力。この結果から、経験問わず共通して得られた視点としてコミュニケーションの評価が主となっている。また、経験が長いほど「何に興味、関心があるのか」「羞恥心はあるか」「本人のニート゛は何か」など、より細かな回答が多い傾向にあった。問2)では、不穏、帰宅願望など周辺症状への対応が苦難しているとの意見が上がった。
    【考察】
     今回研究するにあたって、1.2年のOTでも経験年数が長いスタッフの様に、幅広い視点で評価出来る方法が無いか考えてみた。幅広い視点とは何か考えた結果、評価する際に、それぞれ観察(物事の様相をありのままに見極める)は大切にするが、洞察(物事のありようを深く考えて、理解する)することが不十分ではないか、その為、個人を理解する事が十分出来ていないのではないかと考えた。アンケート結果2)から得られたように、経験年数問わず、問題に上がるのが周辺症状(不隠、帰宅願望など)への対応であり、その不穏の要因は患者個人によって異なるものである。諏訪は、「私たちが知識として持ち合わせているものに簡単に当てはめるものではない」「認知症患者を理解出来たと、自負すると高齢者との思いとはかけ離れてしまう」とある。真のニート゛を理解する為には、個人に合わせた評価をする必要があるという考えに至った。その結果、心理的要素から、人間の考えは常に快-不快に分かれているという視点から捉え、評価シートを作成し、主観的観察から、生活場面での快-不快を観察し、自由表記での評価方法を考えた。
  • -結果の知識をどのように与えるか-
    小鶴 誠
    セッションID: 184
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    セラピストは日常の訓練において患者に「結果の知識(Knowledge of results:以下,KR)」を与えている.KRについては様々な視点があるものの,運動に内在される多種感覚モダリティおよびその知覚経験について,KRをその基点として,詳細な言語記述を求め小脳機能の賦活化を計った報告は少ない.今回,小脳出血の症例を通してKRの付与について工夫し良好な結果を得た.以下,報告する.
    【症例紹介】
    60歳代,女性.病名:左小脳出血.病歴: A病院にて小脳血腫除去術後,リハビリテーション開始.約一ヶ月後,当院転院となる.転院時の評価は,ロンベルグ徴候(-)片脚立位不可,歩行は歩行器使用にて可能であったがややwide base気味であった.直進では目立たないものの方向転換において酩酊歩行様となり側方への動揺が著明であった.継ぎ足歩行にて股関節由来の動揺が観察された.
    【訓練方略】
    方向転換時に動揺が顕著になったことに着目した.このことは,遊脚側股関節の失調症状はもとより,立脚側の問題もあると考えた.つまり,遊脚側股関節での方向付けができないだけでなく,立脚バランスの崩れも存在すると考えた.歩行時の安定性とは,意識する・しないに関わらず,移動によって生じる体性感覚情報と視覚情報との整合性を保つことである.さらに小脳障害の場合,運動を視覚で補正し,体性感覚情報には注意は向きにくい.したがって,KRには様々な感覚モダリティを患者が予測し,意識化できているのかを付与した.
    【訓練】
    運動の結果に対して症例が注意を向けやすく,かつ立脚・遊脚双方からモダリティを得られる状況として,平行棒内立位を開始肢位とし,振り出しを行った.具体的には裸足で立位から振り出しにおいて,あらかじめセラピストによって指示された着地位置を視覚的に確認後,着地位置をイメージし,閉眼にて試行する.この時,着地位置を体性感覚情報で判断しやすいようにおはじき(直径1cm)をテープで固定した.症例は予測される感覚モダリティを口述後,振り出しを行う. おはじきの位置は数回の施行毎に変え,新たな予測を立てさせた.一回の施行毎にセラピストは様々な感覚モダリティを症例と共に確認した.
    【結果】
    約2週の訓練でほぼ症例のイメージ通りに振り出しが可能となり,KRとの整合性も獲れてきた.それと共に方向転換における動揺が消失し,その後約2週で院内歩行自立となった.
    【考察】
    従来,小脳は運動を円滑に行うための器官として認知されてきた.しかし,小脳が運動学習に関与し,比較照合器官の側面を持ち,さらに認知的制御や予測的制御にも関わることが報告されてきた.本症例において歩行の改善を認めたことは,体性感覚情報を顕在化させ,KRにより予測的制御の意味の付与ができたためと考えた.
  • シングルケースデザインを通して
    甲斐 学
    セッションID: 185
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    長期間に及ぶ慢性期のアプローチは、身体機能維持的なものが主体となり、効果判定も判断がしづらい側面がある。今回慢性期の脳梗塞後遺症の症例に対して、A-B-A-B型シングルケースデザインを使用し、長期間のトレッドミル歩行訓練(以下TM-ex)を行った。この結果、歩行速度の効果判定につながるか検証することを目的とした。
    【症例紹介】
    本症例は80歳後半の男性で、H6に脳梗塞(右片麻痺)を発症し現在16年経過している。H15.9より現在まで、当通所リハビリテーション(以下デイケア)を週2回の頻度にて利用し、介護度は要支援2と現状維持である。身体機能面は、Br.recovery stage 4-3-4、認知症や高次脳機能障害等は問題なく、日常生活活動作は概ね自立している。しかし利用当初の歩行レベルが杖主体に対して、現在は杖または押し車レベルと歩行能力の低下が見られていた。また訓練導入前まで、デイケアでのTM-exの経緯はない。
    【方法】
    H21.4~H21.8までの間において歩行速度の確認を行った。この際、TM-ex期間をA期、通常歩行期間をB期とし、各期は1カ月交代にて週2回の対象日に訓練を実施し、各訓練頻度は利用日の午前午後の2回とした。10m歩行速度の測定は、訓練導入前4ヶ月間の評価の平均をベース期とし、訓練期間のデータ測定は2回目の利用終了時とした。TM-exの各設定は耐久性や恐怖心等を考慮し、速度は機械の最低出力0.5km/hからとし、時間は導入事前の同速度での確認により、3分で自覚疲労を確認したため、疲労軽減の目的で2分からの設定として開始した。また通常歩行訓練では、頻度をTM-exに近い形で平行棒にて歩行訓練を行った。なお本研究においての趣旨は紙面および口頭にて行い、特にTM-exの中止期については十分な説明をし、症例からの承諾を得た上で実施した。
    【結果】
    各期の10m歩行速度・歩数の月平均は、ベース期の106秒・124歩に対し、A期は第1期に79秒・96歩、第2期に73秒・88歩、各B期は第1期に88秒・102歩、第2期に81秒・96歩と、両期とも前回1期からの向上が見られた。しかし、目視法においては各期でばらつきがあり、効果においてはTM-exのみではないとも示唆された。
    【考察及びまとめ】
    今回単一症例ではあるが、慢性期片麻痺の症例において比較的長期間と、週2回という少ないアプローチの中でTM-exを実施した。その結果、本症例においてのTM-ex導入は、歩行速度に影響があるものと考えられ、現在は継続的に対応している。しかし、本研究における長期間の問題点として、状態不良時や休日などに対しての同一訓練期間や頻度の設定や、明確な効果判定が困難であった点などが上げられた。これらは今後の課題となる面であるが、慢性期においてもアプローチの変化が確認できる点は興味深いところでもあり、今後症例数を重ね詳細な検討をしていきたい。
  • 岐部 隆明, 瀧上 英一, 加藤 貴志
    セッションID: 186
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    太田らによると歩行パターンはCentral Pattern Generator(以下CPG)の周期的な出力によって、自動的に再生されると考えられている。このCPGの賦活を利用した歩行トレーニングとして体重免荷型トレッドミル(以下BWSTT)が近年注目されている。
     BWSTTとは、ハーネスを用いて身体を吊り上げ、下肢への荷重量を免荷した状態で、トレッドミル上を歩行させるトレーニングである。
     先行研究では脳卒中患者に対する歩行速度等の改善の報告があるが、本邦では慢性期脳卒中患者に対する報告は少ない。
     今回、我々は、慢性期脳卒中患者1名に対し、BWSTTを6ヶ月間試行し「歩行速度」「歩幅」の改善が得られたのでここに報告する。
    【症例】
    60代、男性。2008年9月発症の脳出血、左片麻痺患者。訓練開始時の上田の片麻痺grade上肢:11手指:11下肢:11。ADLはBarthel Indexにて100点。歩行は杖、装具なしで自立であった。GMT:上肢:4手指:4下肢:4。10m歩行13秒26.歩容の特徴は遊脚終期にてハムストリングスの筋活動の低下が疑われ、初期接地では左踵接地困難であった。
    【方法】
     BWSTTの設定として、患者の体重を20%免荷した状態で歩行した。歩行速度は1.5~6.0kmまで訓練の進行にあわせて漸増した。注意点としてボルグスケール10~12に該当する負荷とアンダーソンの基準内で実施した。実施期間は週1回を6ヶ月、全24回とした。全24回のBWSTT試行前後に普通歩行速度、最大歩行速度の10mタイム(以下普通速度、最大速度)、歩幅、TUGを測定した。なお訓練にあたっては対象者に十分な説明を行い、同意を得て行われた。
    【結果】
     普通速度は、初回時11秒06、最終時6秒80へと4秒26短縮した。最大速度は、初回時10秒53、最終時5秒80へと4秒73短縮した。普通速度の歩幅は、初回時52.6cm、最終時66.6_cm_へと17.0_cm_延長した。TUGは、初回時6秒98、最終時6秒70へと0秒28短縮した。
    【考察】
     今回、我々は、慢性期CVA患者1名に対し週1回の頻度で6ヶ月、BWSTTを試行し、歩行速度等の改善を得た。
     大畑らは、健常成人に対しBWSTT(10~50%免荷)を行いその時の下肢筋電図解析を実施した。その結果20%BWSTTは、全荷重歩行と比較して、半膜様筋と大腿二頭筋の筋活動が増加傾向にあると報告した。
     また、健常成人の全荷重歩行において、ハムストリングスの筋活動は、遊脚中期から立脚初期で増加傾向にある事が報告されている。
     また、ハムストリングスは遊脚終期に遠心性収縮となり、大腿の前方への動きにブレーキとなる。そして立脚初期に控えた強い荷重に備え緊張を高める事で歩幅を決定する作用がある。
     本症例では20%BWSTT前後にて普通速度の歩幅が17.0_cm_延長していたことからハムストリングスの筋活動が高まっていたことが一因でないかと考えられる。
     以上のような歩幅の改善の結果から歩行速度の改善につながったのではないかと考えられる。
     今回の検討は1症例のみであるため、今後症例数を増やし、慢性期脳卒中患者におけるBWSTTの有効性について検討していきたい。
  • 新たな随意運動介助型電気刺激の試行
    大戸 元気, 渡邊 誠司, 加藤 貴志, 小嶋 加代子, 一丸 慎吾
    セッションID: 187
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     近年ニューロイメージング技術の発達により中枢神経の可塑性について明らかになってきており、脳損傷者のリハビリにおいて治療効果の改善が期待されている。中でも、電気刺激療法では随意運動と電気刺激を連動させる随意運動介助型(IVES)が有効とされている。しかし、現状では上肢機能についての報告が多く、歩行能力についての報告は少ない。今回、我々は脳卒中左片麻痺患者に対し、セラピストのスイッチ操作により、狙ったタイミングでの通電が可能なSwitch-triggered electric stimulation(Switch-ES)を考案し、歩行練習中に電気刺激を行った。その結果、歩行能力の改善につながったため以下に報告する。
    【症例】
     50代、女性。2009年12月右視床出血(脳室内穿破)にて発症。上田の12段階グレードにて左上肢5、手指7、下肢7。感覚は表在・深部ともに重度鈍麻。ADLは立位・歩行にて軽介助~見守り。高次脳機能障害は注意障害、半側空間無視が認められた。歩行状態はSemi-KAFO、四点杖(大)を使用し3動作前型。遊脚期において顕著に骨盤を挙上し、股関節外旋位での努力様の振り出しであった。又、時折著明なひきずりがみられ大きくふらついていた。
    【方法】
     Switch-ESでは、低周波刺激装置の配線に改良を加え、装置と電極間のコードにスイッチを設置している。このスイッチを操作することで電気刺激のタイミングをコントロールすることが出来る。歩行訓練時に股関節屈筋(主に大腿直筋)に電極を貼り付け、症例の下肢の振り出し(麻痺側遊脚前期~中期)にスイッチによる通電を症例の疲労をみながら10~20分間行った。訓練期間は約3週間であった。訓練前後で10m歩行、観察にて歩容を評価するWisconsin gait scale(以下、WGS)にて治療効果を検討した。なお、事前に症例に対して訓練に対する説明を行い、同意を得た上で訓練を行った。
    【結果】
     10m歩行では初期時50.48sec(32steps)、歩行率38.0steps/min。最終時は22.1sec(28steps)、歩行率は47.4steps/minと歩行速度、歩幅において改善を認めた。WGSは初期時33点、最終時は22点と11点の改善がみられた。最終時の歩行状態はAFOと四点杖(小)を使用し2動作前型にて見守りレベル。遊脚期での顕著な骨盤挙上、足底の引きずりが減少し、麻痺側振り出しのタイミングが良好となった。
    【考察】
     今回、我々は脳出血により左片麻痺を呈した症例に対してSwitch-ESを使用し、歩行能力に改善を認めた。鈴木は、大腿四頭筋に対して歩行前に電気刺激を行うことで歩容の改善を認めたとの報告がある。又、原によると上肢においては、麻痺筋に対する単純で受動的な電気刺激に比べ、IVESの方が促通効果に優れているとされている。本症例においては、Switch-ESにより随意的な振り出しと同時に大腿四頭筋に電気刺激を加えたことで、股関節伸筋群の緊張の抑制が図れ、麻痺側下肢に対しての促通効果が得られていると推察され歩行能力の改善につながったと考える。今後は症例数を重ね対象筋群、通電方法等、より効果的なアプローチを検討していきたい。
  • 田邉 紗織
    セッションID: 188
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     脳血管障害片麻痺患者の歩行に対するアプローチは、安定性の獲得による歩行の自立を第一とし、その後、歩行スピードや耐久性の改善を主とする応用的能力の獲得へと段階的に展開されることが多い。しかしながら、脳血管障害片麻痺患者の症状には個人差があり、脳損傷の部位や程度が同じであっても、異なる歩容を呈することが少なくない。そのため、より良い治療プログラム立案のためには、脳血管障害片麻痺患者の歩行の一般的特性を把握するとともに、歩行能力の回復過程で患者の多くに共通する現象とそうでないものを選別し、身体機能と関連付けていくことが必要であるように思う。
     そこで今回、脳血管障害片麻痺患者7名について、歩行能力が軽介助と自立に至った時期の歩行を運動力学的視点より分析を行い、自立歩行の獲得のために共通して必要となる因子の検討を行った。

    【方法】
     本研究は当院の倫理審査委員会の承認を得て実施した。対象は本研究に対して同意を得られた著明な関節可動域制限、高次機能障害を有さない脳血管障害片麻痺患者7名(男性4名、女性3名)、平均年齢は59.9±13.6歳で、麻痺側は右片麻痺4名、左片麻痺3名であった。Brunstrom StageはStage4が4名、Stage5が3名であった。歩行能力が軽介助レベル(発症日より70.14±39.7日)と、自立レベル(発症日より131.9±62.7日)に至った時期に、独歩での自由歩行を三次元動作解析装置(VICON MX13 カメラ14台)、床反力計(AMTI社製)6枚を用いて計測を行った。その後、歩行速度と歩行周期における各時期の身体重心の位置、前後方向床反力、下肢の各関節角度と角度変化、モーメントを算出し、対応のあるT検定で比較した。

    【結果】
     軽介助期には7名中3名が麻痺側立脚終期(以下TSt)に股関節屈曲位を呈していたが、自立期には7名中6名が股関節伸展位となり、全ての被検者において股関節伸展角度の増大が認められた(P<0.05)。また、自立期の麻痺側前遊脚期(以下PSw)において、床反力前方成分の有意な増加が認められ、歩行速度にも改善が認められた(P<0.05)。

    【考察】
     TStは身体が支持側足部を越えて前進する時期であり、PSwは対側下肢へ荷重を移しつつ、遊脚期への準備を行う時期である。歩行自立のためには身体重心の円滑な前方への推進が不可欠であると考えられるが、軽介助期にはTSt時に麻痺側股関節を十分に伸展位に保持することができず、TStからPSwにかけての前方推進が阻害されていたと考えられる。今回の結果より、脳血管障害片麻痺患者の歩行自立のためには、TSt時に股関節を伸展位に保持し、PSwにおいて床反力前方成分を出現させることで、身体重心の十分な前方推進を可能とすることが共通して必要であると考えられた。今後はそれらを可能とするための身体機能について、継続して検討していきたい。
  • 清水 裕貴, 長田 悠路, 大田 瑞穂, 坂口 重樹, 田邊 紗織
    セッションID: 189
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     脳卒中片麻痺者の麻痺側下肢への荷重量が歩行速度や歩行自立度に関連することが知られている。一方、麻痺側下肢への荷重肢位でバランスを崩すことも多く、麻痺側下肢の支持能力だけでなく、姿勢保持能力も歩行に関係することが予想される。
     脳卒中片麻痺者の麻痺側下肢最大荷重動作を経時的に計測し、歩行速度と麻痺側下肢荷重量及び荷重姿勢の関係を検討した。
    【対象】
     対象は、当院に入院中の脳卒中片麻痺患者4名(麻痺側:右2名, 左2名、平均年齢:62.0±8.2歳、下肢Brunnstrom stage:3;1名,_5;2名,_6;1名)。約1ヶ月毎に、それぞれ2~4回の計測を行った。対象者の条件は、立位保持可能かつ見守り下で10m裸足歩行可能レベル以上とした。また、高次脳機能障害や認知症等により指示理解が困難な者は除外した。尚、本研究は当院の倫理委員会より承認及び対象者からのインフォームドコンセントを得た後に実施した。
    【方法】
     課題は、静止立位から麻痺側下肢への最大荷重動作、動作指示は「両肩を水平にしたまま、右(又は左)側の足に最大限体重をかけてください」とした。計測は、三次元動作解析装置(VICON MX12)と床反力計(AMTI社製)を使用し、重心位置、床反力垂直成分、体幹左右傾斜角度を解析パラーメータとした。歩行速度は10mを最大努力で歩行する速度とした。
     麻痺側下肢最大荷重量及び体幹左右傾斜角度は、支持脚方向への重心移動終了時点から1秒間の平均を採用した。麻痺側下肢最大荷重量は、比較のため体重で除して下肢荷重率(以下WBR)を算出した。歩行速度と麻痺側WBR及び体幹左右傾斜角度の相関関係をSpearmanの順位相関係数を用い、有意水準5%で検定を行った。
    【結果】
     麻痺側下肢最大荷重時点で体幹左右傾斜は全て支持脚方向に傾斜しており、歩行速度と負の相関(r=-0.594, p<0.05)が認められた。歩行速度と麻痺側WBR(r=0.173)には有意な相関は認められなかった。麻痺側WBRの平均は79.6±4.8%であった。
    【考察】
     麻痺側下肢最大荷重肢位で麻痺側方向への体幹傾斜が少ないほど、歩行速度が速くなることがわかった。また、麻痺側WBRと歩行速度に相関は認められず、これは対象者が見守り下で裸足歩行可能で麻痺側WBRの平均が約80%と高いことが一因と考えた。
     体幹を傾斜させた重さを優位に利用した荷重戦略では、反対方向への荷重切り替えが円滑に行えない。体幹左右傾斜角度の減少は、このような荷重戦略から体幹が重力に抗し筋活動による能動的な荷重戦略への変化と捉えると、麻痺側下肢の支持能力だけでなく体幹を正中位に保持できることが歩行速度に関係すると考えられた。
     今後は、歩行能力の低い対象者を含め、荷重姿勢と歩行速度や歩行自立度との関係について検討を行っていきたい。
  • 勢理客 宗秀, 小波津 英樹
    セッションID: 190
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    人間が活動する際に重要なのが姿勢やバランスだと考える。身体の軸が安定していると、自然と無駄な力が抜け、関節や筋肉に機械的なストレスが減り、動きに円滑性や安定性が生れることを日々の臨床場面で感じることがある。今回、スリングを使用しぶらんこを作成、ぶらんこ振子運動(以下、振子運動)が矢状面での立位姿勢や坐位リーチに良い効果をもたらすと仮説を立て検証を行ったので報告する。
    【対象】
    本研究の主旨に同意の得られた健常人20名(男性12名、女性8名、平均年齢31,5歳±6,6)で行った。
    【方法】
    矢状面での立位姿勢と坐位での前方と後方のリーチ距離を、振子運動前後で比較検討した。その際両足底は股関節幅で接地。立位姿勢は、耳垂・肩峰・大転子・膝関節前部(膝蓋骨後面)・外果の2cm前部へマーキングし、重りを付けた紐を頭上より外果前2cmを通るように垂線を下ろしCanon製デジタルカメラで撮影、重心線と各マーキングの位置関係を観察。坐位リーチは、40cm台に奥行き25cmより腰掛、両膝は床面へ垂直に下ろし足底接地。両肘関節伸展位で肩関節90°屈曲し手指を軽く握り第3中手骨を先端へ向けた肢位を開始肢位とした。足底接地での前方・後方のリーチ距離を計測し、結果は対応のあるt検定を使用した。ぶらんこは、ノルディスクセラピー社製スリングを使用し座面高50cmで作成、自由な振り幅や速度で1往復を1回とし50回を楽しみながら振子運動を行った。
    【結果】
    運動後の坐位リーチ距離は、t検定の判定により前後両方向への結果には有意水準5%有意差あり、1%有意差なしとなった。よって、振子運動が坐位リーチへ変化をもたらせたと考えられる。内訳として、前後両方向へ改善7名、前方のみ改善1名、後方へのみ改善4名、前方改善後方低下3名、前方のみ低下4名、変化なし1名。立位姿勢では、運動前に頭部や上部体幹が前方へあったが運動後に伸展し重心線へ近づいた5名、頭部・上部体幹が伸展し重心線上へ重なり大転子が重心線より前方へ遠くなる1名、その他変化なし。
    【考察】
    振子運動は、座面が前後に移動しながら上下にも変化する動きを見せる。身体が振子の運動方向に合わせ重心をコントロールすることで振り幅や加速度を増加させたり、逆に減少させることが出来る。今回、50回の振子運動によりlocal muscleを上手く使い、体幹のスタビリティを高め身体重心をコントロールし、それによって坐位における矢状面での動的バランスも向上、リーチ距離の改善や立位姿勢の一部改善に繋がったと考える。また、逆に低下のみを示した群では、身体重心のコントロールにglobal muscleが強く働き体幹のスタビリティの低下や過緊張を起こし、動的バランスを低下させたと考える。今後、振子運動時の動作分析や運動量などを検討することで、より実用的な治療手段として取り入れることが可能だと思われる。
  • 山根 奈々, 長田 悠路, 坂口 重樹, 田辺 紗織
    セッションID: 191
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     バランス能力を評価する検査の一つに片脚立位がある。片脚立位は重心を側方移動し遊脚側下肢を挙上する動作であり、側方移動の際下肢の両側性活動が重要である。しかし先行研究では片脚立位へ移行した後の支持側下肢に着目した報告が多く、片側立位へ移行する際の下肢の両側性活動に着目した報告が少ない。そこで今回健常成人にて静止立位から片脚立位に移行する際、下肢の両側性活動が重心の側方移動にどのように関与しているのか着目し、検討を行った。
    【対象と方法】
     整形外科的疾患のない健常成人10名(男性7名・女性3名、平均年齢25.2±1.3歳、身長167.1±9.0cm、体重59.4±9.2kg)。被験者に反射マーカー(左右肩峰、股関節、膝関節、足関節、第5中足骨、踵骨)を添付。開始肢位は頭部正中位、両上肢は体幹横で下垂し足部は肩幅に開いた状態での静止立位とした。検者の合図にて遊脚側(全被験者とも左側)を股関節・膝関節90°付近まで10秒間持ち上げる動作を、三次元動作解析装置(VICON MX)・床反力計(AMTI社製)にて計測した。解析区間は遊脚側下肢の静止立位での床反力鉛直成分の平均値から標準偏差の2倍を越えた地点を開始とし、終了は左右重心位置が平均値±標準偏差の2倍の範囲内に入った地点までとした。解析するデータは両側下肢の床反力成分、合成床反力作用点(以下合成COP)、重心の加速度、両側股関節屈伸・内外転モーメント、膝関節屈伸モーメント、足関節底背屈モーメントとした。また重心の加速度の積分値と各関節モーメントの積分値の相関をピアソンの相関係数にて検定した。尚、本研究は当院の倫理委員会より承認を受け、対象者へ説明し了解を得た後に実施した。
    【結果】
     片脚立位に移行する際、被験者全員一度遊脚側の床反力が大きくなり合成COPが遊脚側へと偏移した。その際重心は加速していき、遊脚側が床から離れる直前に減速へと切り替わっていた。また重心の減速と各関節モーメントとの相関で、支持側股関節外転モーメント(r=0.58、p<0.05)、遊脚側股関節内転モーメント(r=0.59、p<0.05)に正の相関がみられた。
    【考察】
     片脚立位に移行する際、遊脚側下肢に一度荷重することで合成COPを遊脚側下肢へ移行し重心に回転モーメントを生じさせ、支持側へ重心を送り込んでいったと考える。また遊脚側が床から離れる直前から支持側股関節外転モーメント・遊脚側内転モーメントが作用することで重心が減速していき、支持側基底面内に重心を留めことが出来るよう制御したと考える。片脚立位は遊脚側下肢を持ち上げた瞬間から一側下肢のみで重心を支えなければならない動作である。よって瞬時に重心を減速させ支持側基底面内に重心を留めるためには、床から足が離れる直前から両下肢の運動制御にて重心を減速していく必要があると考える。そのため一側下肢の機能が不十分であると十分に減速出来ず、片脚立位保持が困難になるのではないかと考える。
  • 佐藤 彩子, 植野 拓, 本多 亮平, 塩貝 勇太, 清水 一
    セッションID: 192
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     書字動作は作業療法でよく用いられる課題であり、毛筆と硬筆は治療場面で使い分けられている。これらの特性の違いは何か、今回、毛筆および硬筆において、体幹と肩甲帯は各々どの程度移動しているのかを比較した。その結果から対象者の特性に見合った治療手段の選択に役立てられないか検討した。
    【方法】
     対象者は同意が得られた成人男女10名で右利きである者。課題は5cm間隔で引かれた横線を標的線とし、毛筆は書道で使用する一般的な中筆、硬筆はマジックペンを使用して標的線になぞって線を引くこととした。被験者が座る背もたれなしの椅子の高さは42cm、机の高さは69.5cmとした。課題実施前に被験者の最大リーチ範囲を測定して、その区間内を課題遂行範囲とした。三次元動作解析装置(POLHEMUS社製3SPACE FASTRAK)により毛筆・硬筆課題遂行中の体幹(胸骨上端)と肩甲帯(右肩峰)の空間位置情報を得、データを比較した。統計処理は反復測定による分散分析を用い、有意水準は5%未満とした。
    【結果】
     課題実施時の累積移動距離を被験者が引いた軌跡線の長さで徐し、軌跡線の長さ1cmあたりの移動量として各課題間の体幹と肩甲帯の移動量を統計処理により比較すると、体幹は毛筆時の方が移動量は大きく、肩甲帯は硬筆時の方が移動量は大きかった(p<0.01)。課題遂行時の前後・左右・上下方向の移動量を全体の平均値(単位:cm)として示すと、体幹の絶対移動幅は毛筆では前後3.7、左右13.4、上下1.3、硬筆では前後3.9、左右10.1、上下1.6であった。肩甲帯の体幹に対する相対移動幅は毛筆では前後1.0、左右0.8、上下1.3、硬筆では前後1.3、左右1.1、上下1.8であった。
    【考察】
     本研究の結果から、毛筆は硬筆と比較して体幹の移動量が大きいことが示された。しかし、毛筆は体幹の累積移動距離は大きかったが、前後・上下への絶対移動幅は硬筆と比較して小さかった。毛筆時には目的動作達成のための体幹の横方向への効率的な重心移動が道具使用の反応として得られたと示唆される。また、硬筆は毛筆と比較して肩甲帯の移動量が大きいことが示された。硬筆時には目的動作を行う際に体幹の重心移動に頼るのではなく、肩甲帯の動きの増大が道具特性の反応として得られたと示唆される。
     同じ書字という動作でも、道具の違いにより身体の使い方が変わるということが分かった。治療では体幹あるいは肩甲帯のどちらにアプローチしたいのか、その焦点を当てる際に前述の特性を利用できるのではないかと考えられる。課題に対する使用道具の種類によって引き出される動きが異なるため、道具特性を捉えた上で課題の選択を行うことが作業療法士にとって必要ではないかと考える。ただし、今回の研究は限定された課題内容や環境設定下で行っており、また得られた結果は健常者でみられた動作特性であるため、今後は様々な場面や対象者においても同様の特性があるか検討する必要がある。
  • 下田 武良, 岡 真一郎, 山下 夕佳里, 江口 日登見, 中原 雅美, 甲斐 悟, 田原 弘幸
    セッションID: 193
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     高齢者における二重課題条件下での歩行(dual-task歩行;DT歩行)において、歩行速度の遅延には注意機能が関係しているとの報告がみられる。しかし注意機能の評価についてはいずれも単一での評価が多く、複合的に注意機能を検討したものは散見される程度である。そこで今回、注意機能を複合的に評価し、DT歩行と注意機能の関係について明らかにすることを目的とした。
    【対象】
     対象は要支援から要介護2の認定を受けた地域在住高齢者で、福岡県内のデイサービスを利用している19名(平均年齢73.0±9.5、男性9名、女性10名)とした。いずれも独歩または杖歩行が可能で、serial-2s(50から2を順次引く暗算)が坐位で可能な者。Trail Making Test-A・B(TMT-A・B)が測定可能で、Mini-Mental State Examination(MMSE)が20点以上の者を対象とした。
    【方法】
     自由歩行(single-task歩行;ST歩行)では10m歩行時間、DT歩行ではserial-2s(100から2を順次引く暗算)を行ないながらの10m歩行時間を測定し、ST歩行時間とDT歩行時間から変化量を算出した(Δ歩行時間)。注意機能の評価では、TMT-A、TMT-Bを用いた。TMT-Aでは用紙にかかれている数字を小さい方から順に線で結んでいき、TMT-Bでは用紙にかかれている小さい方の数字から50音順の仮名を交互に結んでいく。これらの結び終えるまでの時間を測定し、TMT-AとTMT-Bの変化量(ΔTMT)を算出した。統計処理にはSpearman順位相関係数の検定を用い有意水準を5%未満とした。対象者には事前に研究の内容を口頭および書面にて説明し、書面にて同意を得た。
    【結果】
     Δ歩行時間は0.14±0.13%であり、TMT-B(r=0.54.p<0.05)やΔTMT(r=0.58.p<0.01)との間に有意な相関を認めた。しかしTMT-A(r=0.32.p>0.05)との間には有意な相関は認めなかった。
    【考察】
     注意機能の評価では一般的にTMT-A、TMT-Bを複合的に使われることが多い。TMT-Aは集中性の注意、TMT-Bは集中性の注意に加え配分性の注意を反映するといわれている。またΔTMTでは身体機能(上肢機能)や集中性の注意の影響を取り除き、配分性の注意のみを反映させるといわれている。集中性の注意とは、1つの対象に注意を定める能力であり、配分性の注意とは複数の対象に注意を振り分ける能力のことである。今回の結果では,Δ歩行時間は集中性の注意よりも、配分性の注意との関係が強いことが示唆された。DT歩行では歩行と計算の2つの課題に注意を振り分けることが必要となるため、配分性の注意との関係が強かったと考えられる。
  • 大城 彩乃, 座波 信司
    セッションID: 194
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    近年、同時二重課題(Dual task)に関する研究が多く報告されており、日常生活での歩行では注意を歩行以外に配分することが必要とされている。先行研究にて、第二課題として様々な課題が考案されており、その難易度によって姿勢調節や注意配分機能への影響は異なるといわれている。今回、若年健常者(以下A群)をコントロール群とし一般高齢者(以下B群)を対象に複数の同時二重課題を施行し、歩行への影響を比較検討した。第二課題の難易度を判別することを目的とし、日常歩行における評価の一手段として活用できる同時二重課題を考察し、ここに報告する。
    【対象】
    A群20名(男性3名、女性17名 平均年齢26±2.8歳)、および当施設の地域事業利用者である神経学的疾患のないB群20名(男性1名、女性19名 平均年齢74±6.8歳)を対象とした。なお、対象者には事前に十分な説明を行い同意を得た。
    【方法】
    15m直線路を自由歩行し、その時間を測定した(Single task)。次に、動物想起課題 、計算課題(連続的な減算)、コップ運び課題といった3つの第二課題(Dual task)をそれぞれ課しての自由歩行時間の測定を行った。それぞれ課題なし歩行に対する歩行時間の変化量を算出し、統計解析は判別分析のためにx二乗検定にて有用性を判定し、各項目の難易度の順序性の判別式を求めた。
    【結果】
    1.各項目の変化量平均値の標準偏差(A群/B群)動物想起課題(1.91±1.4秒/5.37±3.1秒)、計算課題(2.48±4.13秒/2.66±1.61秒)、コップ運び課題(2.46±1.79秒/2.91±3.1秒)2.判別分析による線形判別関数式Z=-0.7259×x1+0.2008×x2+0.0835×x3+1.9095  2つの群の分散共分散行列は異なると考えられ、線形判別関数は判別式として適当ではなく、有用性が得られなかった。
    【考察】
    今回の結果から、本研究の全対象者では3つの第二課題において難易度の順序性はない傾向にあることがわかった。先行研究にて、高齢者では課題を課すことで歩行への注意量が減少し、歩行が稚拙になると示されている。しかし今回の対象群では、A・B群ともに日常生活を自立している健常群であり、日常的に他の事象へ注意を配分しながら歩行を行っていると考えられ、3つの第二課題において歩行中の注意配分機能への影響に差はなかったと推測される。臨床場面での評価手段として活用するため、注意・身体機能に障害のある疾患患者を対象とした検証が今後の課題だと考える。また、課題の難易度としていくつかの報告があるが、今後さらに課題の検討をしていきたいと考える。それにより、疾患患者において第二課題の難易度を判別することが可能と推測され、今後も日常生活場面での歩行を反映した評価手段として活用できる第二課題を検討していきたい。
  • 小川 久美子, 塚本 沙織, 釜谷 幸児, 舌間 咲子, 花田 謙司, 平川 善之
    セッションID: 195
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    入院中独歩自立であっても、退院後の生活で不安を訴える術後の運動器疾患患者は少なくない。これは、歩行のみに注意が向く入院中の歩行訓練とは異なり、周囲の環境にも注意を分配しなければならない日常生活の歩行に対応できないことが原因となり、不安を生じているのではないかと考えた。先行研究で、大角らはDual Task(二重課題;以下、DT)と注意機能に関連があること、山田らは変形性股関節症患者の歩容はDT歩行(何かをしながらの歩行)で体幹動揺が増大することを述べている。本研究では、入院中の歩行訓練にDTを取り入れることの有用性の検討を目的とした。
    【方法】
    当院回復期病棟入棟中の杖または独歩自立の運動器疾患患者のうち無作為に16名を対象とし、DT歩行訓練を実施した実施群(男性2名、女性8名、年齢71.0±6.8歳)と、DT歩行訓練を取り入れなかったcontrol群(男性3名、女性3名、年齢75.3±4.8歳)に分類した。歩行自立時、退院時に無課題10m歩行速度と、DT課題として、想起課題(野菜の名前の呼称)、計算課題(100から7を次々に引いていく)、音課題(CDラジカセから流れる太鼓音の数を答える)の3課題を準備し、各課題を行いながらの10m歩行速度と課題成果数(音課題は答えの誤差数)を計測し、マンホイットニーの検定を用いて2群間の比較を行った。実施群はDT歩行訓練を週3回以上取り入れた。
    【結果】
    10m歩行の改善時間において有意差は認められなかった。DT課題での歩行速度の改善時間については、想起課題を行う歩行速度においてのみ実施群の優位な改善を認めた。課題成果の改善度については、想起課題と計算課題において有意な改善を認め、音課題において有意差は認められない結果となった。症例によって改善が認められた課題は異なっていた。
    【考察】
    無課題10m歩行速度で2群間に差はなかったが、DT課題下の歩行速度・課題数においては差が生じた。このことから、2群間に身体機能面の差はないが、DT訓練を行うことにより、歩行以外にも注意の分配が可能になったと考えられ、歩行訓練にDTを取り入れる有用性は十分にあると言える。研究を進めていく中で、各症例の職業・趣味・環境などのライフスタイルに着目してみると、改善課題は各症例で異なっていた。一例として、想起、計算の改善が大きかった症例のほとんどが主婦であった。このことに関して、食事の献立の想起や、買物中の計算など、主婦業で必要な課題において高い改善を示したのではないかと考えた。個人のライフスタイルに関わりの強い課題での向上が大きい傾向にあり、今後も継続してDT訓練を実施していきながら、選択課題についても検討していく必要があると考える。
  • 楠木 静香, 黒岩 喜代子, 山中 弘毅
    セッションID: 196
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)の管理、治療については、GOLDをはじめ各種ガイドラインが示されている。今回、既存のガイドラインに加え、非侵襲的陽圧換気(NPPV)を用いながら、呼吸リハビリテーション(以下呼吸リハ)を行い、歩行能力と運動耐用能の改善が見られた最重症の2症例を経験したので、報告する。
    【症例1】
    A氏、85歳男性、身長150_cm_、体重37kg、COPD病期4、呼吸困難にて入退院を繰り返しており、二回目の入院。息苦しさの為離床せず。酸素3ℓにても喘鳴と呼吸困難あり。やや難聴だが、声掛けにはしっかり反応され、会話も問題なく理解良好。表情は、呼吸苦もあり活気みられず。ポータブルトイレ自立。食事自立。胸部CTでは、肺野の血管影減少。気管支壁肥厚あり。 動脈血ガスでは、室内気にてpH(7.303)、PCO2(84.1)、PO2(37.2)、1秒量の予測値(29%)
    【症例2】
    B氏、86歳男性、身長168_cm_、体重48kg、COPD病期4、既往歴としてむちうち症、交通事故による前脛骨筋麻痺、息苦しさのため離床できず。酸素4ℓ使用。発語は良好だが、難聴で家人に怒鳴ったり暴れたりする様子ある。頑固で、家人や病院職員の助言も聞かない。ポータブルトイレ自立。 胸部CTでは、肺過膨張、肺野の血管影減少。両側気管支壁肥厚あり。酸素3ℓにて動脈血ガスでは、pH(7.296)、PCO2(93.8)、PO2(76)、HCO3(44.7)、1秒量の予測値(15%)
    【結果】
    今回は、3分間歩行検査実施し、歩行後の酸素飽和度の変動、歩行後の脈拍数、歩行後の回復に要する時間を記録した。A氏は歩行距離延長と歩行後の酸素飽和度の低下からの復帰、脈拍数の回復時間の短縮が著明に認められた。B氏は歩行終了直後の酸素飽和度の低下がおさえられ、脈拍の増加がおさえられ、回復時間の短縮が認められた。
    【考察】
    2症例ともNPPV治療と呼吸リハを併用した結果、下肢筋力増強、心肺機能向上、運動耐用能向上が認められた。しかし、両者とも血液ガス、ADL等の著明な変化は得られなかった。COPDは定期的なリハビリの介入によりADLの低下を防ぐ必要がある。3分間の歩行でも代謝が増大し、筋の酸化ストレスが増加、筋耐久性の低下から、時に運動療法も過度な負荷となりうる。適切な運動負荷を考慮して、リハプログラムの作成をすべきである。
    【おわりに】
    今回、運動機能面に着目し評価を行った。一方COPDの合併症には抑うつもあるといわれている。ADLやQOLの低下を考えると心身両面からのサポートが必要と考える。
  • 心機能・呼吸機能改善と離床に向けて取り組んだ急性期心臓リハビリの一症例
    中塚 祥太, 槙垰 賢政, 相良 好洋, 横山 正一
    セッションID: 197
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    心臓外科がない当院の心大血管リハビリ(以下,心リハと略す)対象疾患は,心不全,狭心症患者が多数を占める.その中でも,ICUにて人工呼吸器管理となる症例は少なくない.今回,重症心不全により人工呼吸器管理となったが,早期離床,心機能・呼吸機能改善を目的に,急性期からBedsideにて心リハを施行することで歩行可能となった症例を経験したので経過,当院の心リハ紹介を踏まえ報告する.なお,報告については本人および家族に同意を得ている.
    【当院の心リハ】
    平成21年度,PT2名で施行していた.心リハ患者実数は全疾患別リハビリに対して14.2%(195例)となっている.その中でも,Bedsideにてリハビリを開始したのは45.2%(88例)で,人工呼吸器管理での心リハ施行は9.2%(18例)となっている.集団療法が唯一ゆるされる心リハだが,当院ではBedsideで個別療法を施行する心リハ対象患者数が多数存在している.呼吸リハチームとの連携で,早期心リハの介入にて人工呼吸器の離脱,基本動作能力の獲得,歩行の獲得ができた重症心不全患者を例にして報告する.
    【症例紹介】
    50歳代,女性.診断名は重症心不全,心房細動,肥大型心筋症.現病歴:深夜呼吸苦が出現,救急搬送され入院となった.顔面蒼白,四肢末梢チアノーゼが見られる.
    血ガス:PH 7.180,PCO2 61mmHg,PO2 45mmHg,HCO3 22.8mmol/l,BE -5.6mmol/l.入院後人工呼吸器管理となり,早期抜管後第5病日から心リハ開始となった.
    【治療経過】
    第5病日,ギャッチアップ,離床目的にて心リハ開始.BP 80台,HR 70台.バイタルチェックしながら第9病日には端坐位可能となった.第10病日,BP 150台,HR 150以上,SPO2 90%を下回る状態となり(心房細動),再び人工呼吸器管理となる.胸郭可動域訓練,排痰訓練を中心とした心リハ,薬物療法(ジゴキシン投与)によるrate controlを施行した.全身状態の改善にて,第20病日抜管となる.抜管後は,端坐位,車椅子坐位,立位,歩行と訓練を進めていった.その結果,第50病日から平行棒内歩行訓練開始,Walker使用し心リハ室内歩行可能な状態となった.
    【考察】
    重症心不全,心房細動により人工呼吸器管理を繰り返しながらBedsideからの早期心リハを施行した症例を経験した.当院では,このような症例が多数存在し,Bedsideでの心リハを施行することで全身状態の改善,心機能・肺機能の改善が期待でき,歩行の獲得が可能であることを痛感した.今後は,1日の中で時間指定での集団療法を組み込みながら,Bedsideからの早期心リハを積極的に施行し,医師,病棟看護師,薬剤師,栄養士などと連携をとりながら包括的心臓リハビリテーションを提供していきたいと考えている.最後に,平成22年度から開始した心臓病教室,本人・ご家族への退院時指導など当院が取り組んでいる内容を報告する.
  • 北野 晃祐, 甲斐 悟, 高橋 精一郎
    セッションID: 198
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    筋萎縮性側索硬化症(ALS)は,疾病の進行により全身の筋力が低下する神経難病である。本研究は,ALS患者に対するピークフローメータを用いた呼気抵抗運動が呼吸機能改善に及ぼす効果の検証を目的とした。また,交感神経活動亢進が報告されるALS患者に対し,呼気抵抗運動が自律神経系機能に及ぼす効果も合わせて検証した。
    【方法】
    対象群は機器による換気補助を必要としないALS患者6名(69.7±12.6歳)。コントロール群は,基礎的な疾患を持たない健常成人10名(38.2±16.3歳)とした。本研究は当院倫理委員会の承認を得て,対象群ならびにコントロール群には研究内容を説明し同意を得た。呼吸機能評価はピークフローメータとスパイロメータおよびテープメジャーを使用した。加えて,椅子座位にて側腹筋厚を超音波診断装置で測定し,画像解析ソフトを用いて解析した。自律神経系機能評価は, MemCalc/Tarawaにて心電図R-R間隔の周波数解析から高周波成分(HF)と低周波成分(LF)を算出し,HFを副交感神経活動,LF/HFを交感神経活動の指標として,変動を確認した。自律神経系機能評価時には,血圧と経皮的酸素飽和度も併せて計測した。呼気抵抗運動は咳の最大呼気流量(PCF)の30%呼気流量を目標に,呼気10回を1セットとし,1日2セットで連続12日間実施した。介入終了日に自律神経系機能の再評価,退院日である終了翌日に呼吸機能評価および側腹筋厚の再評価を行った。統計学的分析は統計ソフトDr.SPSS _II_ for Windowsを使用し,いずれも有意水準は5%未満とした。
    【結果】
    対象群ではPCFは有意差がみられないものの増加傾向がみられた。第10肋骨高位の胸郭拡張差は介入後に有意な拡大(p<0.05)を認めた。スパイロメータと超音波診断装置を用いた評価では変化を認めなかった。自律神経系活動は、HFのみが介入前と比べて介入後に有意な低下(p<0.05)を示した。対象群のHF活動変化パターンは,介入後では運動開始より緩やかに下降しコントロール群と同様の軌跡を辿ることが認められた。
    【考察】
    ALS患者に対する短期間の呼気抵抗運動は,筋肥大を認めないがPCFが増加傾向を示し,廃用性に低下した筋力が増強した結果と考えられる。更に,抵抗運動にピークフローメータを使用したことにより,運動学習効果として咳嗽に重要な働きを持つ側腹筋の筋出力が向上したと考えられた。また,第10肋骨高位部にて拡大が認められたのは,機能解剖学的に共同収縮により下位肋骨を下制させる側腹筋筋出力が向上した結果だと考えられる。筋肥大は筋力増強の後にみられることから,ALS患者には継続した低負荷による筋力維持増強運動が必要と思われる。自律神経系機能では心交感神経活動が健常者に比べ遅延する傾向がみられ,これが自律神経系異常を誘発する一因と考えられた。更には,呼気抵抗運動介入後の心副交感神経活動変化により,呼吸理学療法が自律神経活動を正常化し得る可能性を示した。
  • 武藤 真由, 陣内 達也, 有川 あゆみ, 真鍋 靖博
    セッションID: 199
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当院では平成19年より透析中の運動療法を実施している。3ヶ月~半年毎の効果判定で、以前使用していた自転車エルゴメーターでは適切な運動負荷をかけることができず十分な有酸素運動ができていなかったという問題点があがった。そのため平成21年8月からは10段階の負荷設定可能な簡易型自転車エルゴメーターを新たに導入した。導入後半年間実施した4症例において、各評価項目に変化がみられたので報告する。
    【対象・方法】
    当院に外来維持透析にて通院中の患者4名(男性1名、女性3名、平均年齢57.3±3.3歳、平均透析歴8.5±7.1年)を対象とした。
    透析導入20分後より、下肢・体幹のストレッチ、ゴムチューブ(polar社製)を用いた下肢筋力訓練、簡易型自転車エルゴメーター(Medica-Medizintechnik GmbH社製)による有酸素運動を実施した。運動強度は心肺運動負荷試験(以下CPX)に基づき嫌気性代謝閾値(以下AT:Anaerobics Threshold)処方とした。また運動の頻度は外来透析日の週3回行い、運動療法中は血圧測定にてリスク管理を行った。なお、運動療法開始にあたっては対象患者には説明と同意を得た。
    【評価】
    柔軟性をChair and reach test、筋力を膝伸展筋力(HUR製レッグエクステンション)、握力、歩行能力を10m歩行スピードテスト、運動耐容能をCPX(ミナト医科学社製エアロモニタAE-310S)で評価した。またQOLの評価はSF-36を用いた。CPX、身体機能評価は3ヶ月毎、SF-36は半年後に再評価した。
    【結果】
    最大酸素摂取量は、4症例平均14.9±4.5ml/kg/minから16.3±3.0ml/kg/minへ、膝伸展筋力は、右72.5±31.0kgから85.5±33.8kg、左70.5±30.6 kgから86.0±42.0 kgへ、SF-36では、日常役割機能(身体)75.3±26.4から92.3±11.9、日常役割機能(精神)77.0±20.8から89.5±12.6へと変化を認めた。
    【考察】
    平成21年8月に透析中の運動療法プログラムの見直しを行い、簡易型自転車エルゴメーターを導入した。機器の導入によりAT処方に基づく適切な運動負荷をかけることができるようになった。その結果今回実施した4症例において、半年後の最大酸素摂取量、膝伸展筋力に変化を認めた。また、簡易型自転車エルゴメーターにはアシスト機能が付いており運動耐容能の低い患者や運動習慣のない患者に対してもスムーズに導入でき、患者の運動意欲向上につながった。運動負荷についてはAT処方としたが心イベントはなく、安全に運動を行うことができた。今後はさらに症例数を増やし、透析中の運動療法の有効性について検証していきたい。
  • 井元 淳, 高宮 尚美, 中野 吉英, 甲斐 尚仁, 仲村 匡平, 野方 拓
    セッションID: 200
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    2000年に介護保険法が施行され,在宅生活を促す方向へ変化している.そのため肺炎入院後,いかに身体機能を落とさず早期退院を促すかが重要となる.本調査では,肺炎患者が自宅復帰できるかどうかの可否を決定する因子として何があるのかを把握することで,自宅復帰を可能にするためにどのような視点で関わっていくべきか検討することを目的とした.
    【方法】
    対象は平成19年11月からの6ヶ月間に肺炎の診断名で入院となった症例のうち,自宅で発症した81例(男性53例,女性28例,平均年齢79.3±13.4歳)とした.退院の転帰が自宅であった群を自宅群(67例),自宅以外であった群を非自宅群(14例)とし,入院期間は自宅群が15.1±8.8日,非自宅群が36.9±27.1日であった.除外基準は入院中に肺炎以外の治療が必要であった症例とした.対象患者について,18項目をカルテより後方視的に調査した.ただし,データ処理は各個人が特定できないように配慮し,必要な情報のみ抽出した.また調査は当院の施設長及び当科責任者の許可を得て実施した.
    統計処理は自宅群と非自宅群との比較で,18項目についてMann-Whitney検定もしくはχ2独立性検定を行った.この結果から独立変数を決定し,自宅復帰を従属変数とした判別分析を行った.統計処理にはSPSS11.5 J for Windowsを用い,有意水準は5%未満とした.
    【結果】
    自宅群と非自宅群との比較で有意な関係を認めたのは18項目のうち7項目で,この 7項目を独立変数とした判別分析を行った.なお独立変数間の相関関係において多重共線性の影響が無いことを確認した.その結果,誤嚥の有無,重症度,退院時のADL能力が自宅復帰に影響を与える要因として選択された.
    【考察】
    肺炎患者において嚥下能力の低下はよく見られる症状の一つである.嚥下機能障害に関連した誤嚥性肺炎が多くを占める高齢者の肺炎は,急速に進行し重症化することも多い.よって入院時の食事形態の検討は,より慎重を要する必要がある.また,食事中や食事後の姿勢の調節やムセの確認など他職種と協力し注意を払わなければならない.
    次に,前本らは重症度の高い患者ほど臥床期間が遷延することを予期しなければならないと報告している.重症化に伴い,入院中の活動量は低下し入院期間は長期化すると考えられる.先行研究で肺炎の重症度が入院期間や生命予後の規定因子として報告されているが,本調査の結果,重症度が生命予後だけでなく自宅復帰の可否という社会的予後についても示唆できると考えられる.
    また退院前後に比べて入院期間中は身体活動性が少なく,在宅生活を図るための活動量が不足していると報告があるが,本調査でも入院期間中の身体活動量は減少している傾向は見られた.その結果,ADL能力が低下している可能性がある.ADL能力の低下が高齢者市中肺炎発症の危険因子の一つとされているため,入院期間の長期化による身体活動量の減少とADL能力の低下を病棟のスタッフと協力し予防しなければならない.
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