九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会
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  • ~軟性素材を用いた一症例~
    武智 あかね, 久保田 珠美, 長尾 恭子, 廣瀬 賢明, 遠山 まり
    セッションID: 251
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回、外反扁平足に対し靴型装具を使用していた症例に、軟性素材を用いた短下肢装具を検討し作製した。その結果、足部のアライメント及び歩容が改善し、転倒の減少がみられたので報告する。尚、今回の報告は両親と本児に説明と同意を得て行った。
    【症例紹介】
     症例は支援学級に所属する普通小学校3年生の男児(DQ:20)。1歳6ヶ月時、急性脳炎に罹患し、全身の低緊張、失調様の運動障害が出現したため、1歳8ヶ月、当センターにてリハビリテーションを開始した。5歳7ヶ月、数歩の独歩を獲得したが、外反扁平傾向が強かったため靴型装具を作製した。しかし、靴の重さにより下肢の振り出しが一定せず直進が難しい状態で、歩行距離も10m程度と伸びなかった。また歩容は前足部で接地し、左立脚に体幹が左側へ傾いていたため装具の再検討を行った。装具作製を開始した7歳時の機能状況は、足・膝関節を中心に過可動性あり、粗大筋力は3~4であった。裸足で閉脚位はとれず、立位時の足部アライメントは外反扁平を呈し、特に左側では後足部の回内が強かった。
    【装具の検討・作製】
     本児の機能状況から、(1)軽量である(2)圧迫が加えられる(3)長時間使用が出来る(4)足部アライメントのサポートができる、これらの要素を兼ね備えた装具を作製することとした(1)(2)(3)に対して、全体の素材は弾性のあるネオプレーンを使用した。(4)に対して、クッションで内側縦アーチを支え、足関節の内側はプラスチックの支柱2本で内外反中間位となるように内果と舟状骨・踵骨内側をそれぞれ支えた。外側は螺旋ばねを外果の下方に添って1本つけた。さらに、底背屈中間位となるように足底中足部から足関節前方でクロスして下腿後方で止めるストラップをつけた。
    【結果】
     靴型装具と違い屋内でも連続使用が可能となった。装着開始して3ヶ月後、歩行中の体幹の傾き・転倒は減り、20m以上の連続した直進歩行が可能となった。現在、裸足での足部のアライメントは改善できていないが、前足部での接地や転倒も見られなくなった。
    【考察】
     今回、軟性素材を用いた短下肢装具を作製し、歩容・歩行能力に改善が得られた。その理由として靴型装具と比べ、弾性のある素材を使用したことにより圧迫での足部の固有刺激による求心性フィードバックが促進され、静的・動的に足関節が安定したことが挙げられる。また、屋内外の使用が可能となったことで装着時間が延長し、良好なアライメントで運動学習が行えたこと、装具の軽量化によって重さに左右されず振り出しが一定化したことが要因であると考える。加えて、接地時の床反力を足関節周囲以外の股・膝関節に適確に伝え、合理的な体重支持の学習に繋がったと考えられる。今後は本装具の長所と改善点を検討していき、足部アライメント及び歩容の評価や装具の調整を継続していくことで、本児のより活動的で安定した運動が出来るよう支援していきたい。
  • 佐伯 匡司, 鳥飼 彩, 西村 千恵, 内野 康一, 池田 優生, 今田 吉彦, 中島 雪彦, 藤原 勇, 中島 英親
    セッションID: 252
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院では義肢装具士と先天性前腕欠損の症例に対して筋電義手の処方に取り組んでいる。今回、簡易上肢機能検査(以下STEF)を用いた評価や使用状況の調査を行なうことができた。若干の考察と今後の課題を報告する。
    【対象】
     平成15年より筋電義手を処方した6例中、評価や調査が行えた3例を対象とした。練習開始時の年齢は4歳、5歳、12歳で左先天性前腕欠損であった。筋電義手はOtto bock社のMYOBOCKを用いた。使用期間はそれぞれ8ヶ月、2年、4年であった。
    【筋電義手処方の流れ】
     Otto bock社のマイオボーイで筋電の検出と分離ができるかを10回程度の外来リハで判断した。4歳児では介入当初にモニターを見ながらの練習が困難であったため、試用の筋電義手に筋電シグナルを繋いで練習を行った。筋電義手の適応を確認した後に意見書を含めて申請し、障害者自立支援法の特例補装具で支給が認められた。支給後は装着・操作・両手動作練習を行った。
    【評価】
     筋電義手では実施困難なものを除くSTEFの7つのtaskを用いた。使用状況は本人や家族に問診を行い具体的な使用場面や筋電義手の装着時間と、筋電義手と装飾義手の装着割合を調査した。
    【結果】
     STEFにおいては3例を通してtask1から6の物品移動では良い操作が行えていた。しかし、task7の布の裏返しでは体幹・肩関節での代償が目立った。使用状況においては、使用期間2年以上の2例で特徴的であったのは、原付バイクで筋電義手を使用してハンドル支持していたこと、ズボン着脱やファスナーの開閉、折り紙でつまみ動作ができていること、4歳児では使用に促しが必要であることであった。筋電義手の装着時間は、それぞれ5時間から12時間程度であった。また、3例ともに装飾義手との使い分けをしており、筋電:装飾が5:5から7:3であった。体育時間では3例ともに装飾義手を使っており、4歳児では幼稚園教諭の協力のもと屋内外の活動で使い分けているとのことであった。
    【考察】
     切断者と家族が筋電義手を希望するが高価であるため有効に活用できる対象を選択する必要がある。当院では、確実に筋電の検出と分離が可能であること、筋電義手が第1選択であることを確認し、障害者自立支援法の特例補装具で申請を行っている。今回、筋電義手作製後の評価を行ない、全例において補助手程度の操作が可能となっていた。日常生活では、2年以上使用している2例に関しては日常活動でなくてはならないものとなっていた。Friedmanらは幼児など早期から筋電義手を処方することで両手動作が増加、ボディーイメージに義手を受け入れやすいとしている。しかし、4歳児においては早期からの処方であったが使用定着に至っていない。4歳児では使用期間が1年未満であること、具体的な使用場面の設定が不十分であったため、装飾義手と同程度の使用方法で有効に使われていなかったと考える。今後の課題として、遊びや工作で筋電義手の使用の設定を家族・幼稚園教諭と協議できるようセラピストの継続した介入が必要と思われた。
  • 上野 友愛, 木山 良二, 川田 将之, 前田 哲男
    セッションID: 253
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     人間の足部は身体の中で唯一地面に接して身体を支え,起立,歩行,走行などの身体の動きを誘導する部位である.足部は前足部,中足部,後足部に分けられ,前足部には可動性があり,推進力に関連するとされている.足趾の機能に関しては,足趾把持力や姿勢制御,動的バランスに関する研究が多く報告されている.しかし,歩行中の足趾への荷重量や足趾の運動については報告が少ない.そこで本研究の目的はstep lengthの変化が歩行中の足趾荷重量と足趾の運動範囲へ与える影響を明らかにすることである.
    【対象】
     対象は整形外科的・神経学的既往の無い健常成人男性19名とした.対象者には事前に研究の目的,内容を説明し,研究参加への同意を得た.なお本研究は鹿児島大学医学部倫理委員会の承認を得たものである(第174).
    【方法】
     歩行条件は通常の歩行(normal),step lengthが短い歩行(short)と,長い歩行(long)の3条件とした.足趾荷重量の測定には足圧分布計(Zebris社,PDM-S)を用い,最大荷重量を算出した.足趾の運動の測定には三次元動作解析システム(Oxford Metrics社,VICON MX3)を用い,最大伸展角度を算出した.測定は練習を行った後に実施し,各条件を3回ずつランダムに試行し,平均値を代表値とした.歩幅は口頭にて指示し,歩行速度は被検者の任意とした.統計学的分析に反復測定による一元配置分散分析を用い,多重比較にはBonferroni法を用いた.統計学的有意水準は5%とした.
    【結果】
     歩行時のstep lengthの平均は,short:0.50±0.06m,normal:0.64±0.06m,long:0.84±0.07m(平均値±SD)であった.一元配置分散分析により有意差がみられ(F=114.9,p<0.01),多重比較により全てにおいて有意差がみられた(p<0.01).足趾荷重量はプレスイングで最大値を示し,short:185.9±10.5N,normal:221.4±11.4N,long:256.6±10.5N(平均±1SD)であった.step lengthの延長に伴い,足趾荷重量は有意に増加した(F=20.5,p<0.01).多重比較によりshort - normal間(p<0.05),short - long間(p<0.01)に有意な差が認められた.足趾伸展角度はプレスイングで最大を示し,short:36.5±5.9°,normal:41.2±4.4°,long:43.0±5.7°となり,step lengthの延長に伴い有意に増加した(F=27.3,p<0.01).多重比較の結果ではshort - normal間,short - long間に有意な差が認められた(p<0.01).
    【考察】
     足部は立脚相においてwindlass機構により剛体を増すことによってstep lengthを増大させることが可能となる.今回の結果ではstep lengthが増大すると足趾伸展角度が増加した.それに伴い足底腱膜の緊張が高まり,第1中足骨頭が支点となり足趾荷重量が増加したと考えられた.Dustinらは立脚後期には足趾がわずかではあるが後方にブレーキをかけ,前方に向かう力はわずかであると報告している.このことから,step lengthによる足趾荷重量の増加は前方への推進力を得るためというよりはむしろ,立脚後期の姿勢を制御することによりstep lengthを確保するためと考えられた.今後は後足部,中足部を含めたより詳細な運動学的,運動力学的な分析が必要と考えられる.
  • ~2ヶ月でTUGが20秒以上改善した症例~
    是永 浩二
    セッションID: 254
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     TKA術後十年以上経過され,その後入退院を繰り返し徐々に歩行能力の低下が生じた症例を担当した.膝関節の位置覚と協調性の低下,フォアフットロッカーの機能低下に着目してアプローチを行い,歩行能力の改善が得られたので以下に報告する.
    【症例紹介】
     70歳代女性.三十数年前にRAを発症し,右膝を12年前,左膝を10年前にTKA術施行.大腸潰瘍により昨年9月当院入院.U字型歩行器歩行自立レベルにて今年の1 月に当院併設の老健施設へ入所.
    【初期評価】
     ROM制限は両膝関節屈曲100゜.下肢筋力は概ね4レベル.ADLは入浴動作以外すべて自立.Time Up and Go(以下TUG)は42秒5.歩行は右立脚期のDouble Knee Action(以下DKA)が消失し立脚期が短いため左下肢は外側へ振り出される.体幹は前傾位で,右膝関節伸展を補助している.閉眼端座位にて他動運動で保持した膝関節をもう一方の膝関節で模倣するように指示をすると,左右ともに3~5横指のズレを認めた.
    【アプローチと結果】
     初期は位置覚と協調性の低下に着目し,片脚でのホリゾンタルレッグプレス(以下HLP)を低負荷にて行った.膝関節の急な伸展や屈曲が観察された.この逸脱運動に対しコントロールするよう指導し,協調運動の学習を図った.1ヶ月後,位置覚は1~1.5横指のズレまで改善した.HLPは極端な逸脱運動は見られなくなったが,ぎこちない屈伸運動は残存した.TUGは30秒5で,初期よりも12秒改善した.右立脚期が延長し,左下肢の外側への振り出しも減少した.この時にターミナルスタンス(以下TSt)でのtoe-outが観察された.この逸脱運動は,右下肢のフォアフットロッカーの機能低下を示しており,ウィンドラス機構が不十分なため足部の不安定性や推進力低下などの悪影響を及ぼしていると想定した.平行棒内にてフォアフットロッカーのポジションでの下腿三頭筋の促通運動を追加した.徐々に動作に慣れてきたら「親指で床を蹴るように.」と指示を出し,下腿三頭筋の強い収縮を促した.2ヶ月経過では,位置覚の検査は1横指未満のズレとなり,HLPは協調性のあるスムーズな屈伸運動が行えるようになった.TUGは21秒6で,初期と比べると20秒9の改善となった.歩行時の体幹の前傾が改善されDKAも観察でき,右下肢への十分な体重移動が可能となった.TStでのtoe-outは消失し,推進力が増強され,TUGの飛躍的なタイムアップにつながった.
    【考察】
     今回着目した位置覚と協調性の低下,フォアフットロッカーの機能低下は,本症例が長期間の入院中にU字型歩行器に依存的となったためによる二次的な機能障害だと捉えている.加重不足による固有受容器への刺激の減少と歩行時の正常な筋活動の欠如が生じた結果だと考える.
  • 小門 知笑子, 川田 将之, 木山 良二, 前田 哲男
    セッションID: 255
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【緒言】
     高齢社会に伴い,看護・介護業務における腰痛が問題となっており,介護者の80%以上が腰痛を経験しているといわれている.移乗介助に関する研究では介助用具や,介助動作が腰部負荷に与える影響を検討した報告が多くみられるが,被介助者の機能障害と移乗介助の関連性については報告が少ない.本研究では股関節屈曲制限や脳血管障害による伸展共同運動パターンの影響で体幹の前方移動が困難な症例に対する立ち上がり介助において,介助者の手の位置が介助者の腰部負担に与える影響を検討した.
    【対象】
     対象は本研究に関する説明を行い,同意が得られた腰痛の既往のない16名の若年健常男性とした.対象者15名(平均身長173.0±5.2cm,平均体重65.0±6.3kg,平均年齢23±2歳)を介助者とし,1名を被介助者(身長180cm,体重74kg,年齢23歳)とした.なお本研究は鹿児島大学医学部倫理委員会の承認を得たものである(承認番号第140号).
    【方法】
     測定には赤外線カメラ7台で構成される三次元動作解析装置と床反力計3枚を用い,立ち上がり介助の際の腰部・股関節・膝関節モーメントの最大値を算出した.装具にて被介助者の両股関節の屈曲を制限した(90°,60°).介助方法は介助者の手の位置が両上肢とも骨盤帯を把持する介助,左上肢で骨盤帯を把持し,右上肢で被介助者の肩甲帯を支持する介助の2条件とした.計測中は被介助者の下肢荷重率を介助者に視覚的にフィードバックし,被介助者の体重の30%を介助するように指示した.統計学的分析は介助方法と制限角度を2要因として反復測定の二元配置分散分析を行い,介助者への負荷を比較した.有意水準は5%とした.
    【結果】
     腰部後屈・回旋・側屈モーメント,股関節伸展モーメントにおいて右上肢で被介助者の肩甲帯を支持した介助の方が,両上肢で骨盤帯を把持した介助より有意に低い値を示した.また腰部側屈,股関節伸展モーメントでは被介助者の股関節の屈曲制限の増大に伴い有意に高い値を示した.
     腰部モーメントが最大値を示した際の,被介護者の荷重率の比較では手の位置により有意な差を認め,右上肢で肩甲帯を支持した介助で有意に高い値を示した.
    【考察・結論】
     股関節屈曲制限や脳血管障害による伸展共同運動パターンの出現する症例では体幹の前方移動が困難となる.右上肢で肩甲帯を支持した介助では,体幹の前方移動を促しやすく,被介助者の重心との距離が小さくなるために,腰部負荷が減少したと考える.
     また,被介助者の股関節屈曲制限が60°の場合は被介助者の骨盤が後傾した状態であるため,重心を十分に支持基底面内に移動することができず,被介助者の重心との距離が大きくなるために腰部負荷が高値を示したと考える.今回の結果では介助方法により介助率に差が認められ,今後さらに検討が必要と考える.
  • 木村 尚道, 益川 眞一, 河津 隆三, 久保下 亮
    セッションID: 256
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     努力性呼気が体幹に安定性を与え,また体幹が安定すればバランス能力の向上が得られることは多くの文献等でいわれている.しかし,努力性呼気自体がバランス能力向上をもたらすかどうかの検討は多くはない.そこで今回,努力性呼気がバランス能力に与える即時効果について検討してみることにした.
    【対象・方法】
     対象は20代前半の男性8名・女性5名の成人健常者である.はじめに重心動揺計を用い,片脚立位を30秒実施し,総軌跡長(Length:以下LNG)を計測する.次に端座位となり,努力呼気・腹式呼吸(口すぼめ)にて10回呼吸を実施する.最後に片脚立位を30秒実施し,LNGを計測する.統計学的処理を行い,バランスに与える即時効果について検討した.重心動揺の計測には重心動揺計(グラビコーダ:アニマ株式会社製)を用いた.
    【結果】
     努力性呼気実施前のLNGは98.0±15.2cmで,努力性呼気実施後は92.0±14.2cmであった.統計学的分析では,努力性呼気前後に有意差が認められた.(p<0.05).
    【考察】
     努力性呼気は,腹直筋・内腹斜筋・外腹斜筋・腹横筋等が収縮する.片脚立位時にも同様の筋の活動がみられる.これらは,外在筋安定装置であり,体幹内部および体幹と下肢との間の強硬さを調節し体幹にコアの安定性を提供する.努力性呼気を実施したことで,神経興奮性の改善により体幹筋の出力が向上し,まず体幹の安定性を獲得したと推測できる.体幹の不安定さは尾側・下方の体軸骨格に大きなてこの作用を生じさせる.よって,努力性呼気により片脚立位時の体重心にかかる重力と床反力との関係で生じる回転モーメントが減少していると推測できる.これらのプロセスにより理論的に考えてみると努力性呼気はバランス能力を向上させると考えられる.実際に,今回の検討結果をみてみる.LNGが努力性呼気を10回実施することで減少している.大概らによるとバランス能力が高い程LNGの数値は小さくなると述べている.そのため,やはり努力性呼気を実施することでバランス能力の即時的効果を得ることが可能ではないかと推測する.
    【まとめ】
     今回,努力性呼気によりバランス能力向上の即時効果が得られることが示唆された.即時効果が得られることで,患者自身が効果を実感できればセラピストと患者との信頼関係の構築のひと手段にも活用できると考える.今後,今回の検討をより臨床現場で活用するための裏付けが必要になる.効果の持続時間等の検討,また今回はあくまで静的バランスにおける検討であったため,動的バランスに与える効果について検討する必要があると考える.
  • 増見 伸, 濱田 大樹, 田中 重成, 深川 優子, 岡本 伸弘, 山田 学, 兒玉 隆之, 甲斐 尚仁, 福良 剛志
    セッションID: 257
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     運動学上では,内側広筋は臨床的に下肢の内側伸展機構の一役を担うとともに,膝蓋大腿関節における膝蓋骨の安定性にも貢献する重要な構造と考えられている。近年,下肢運動機能に重要な役割を果たす内側広筋について多くの研究が行われている。そのひとつに,大腿直筋腱(以下,直筋腱)に徒手的な圧迫を加えることで大腿直筋の筋活動が抑制され,内側広筋および外側広筋の筋活動が高まるという報告がある。圧迫は痛みが出現しない範囲と報告されているものの,圧迫に対する的確な負荷量は示されていない。そこで,圧迫の有意性を確かめる為の前段階として,直筋腱を圧迫するためにはどの程度の負荷量が必要かを超音波エコーにより検証した。
    【対象】
     下肢に形態的変化の既往がない健常な男女20名(男:10人,女:10人)を対象とした。年齢25.5±3.7歳,身長165.9±9.6cm,体重56.7±11.6_kg_であった。これら被検者には,研究の目的と方法を十分に説明し,同意を得た上で研究を開始した。
    【方法】
     大腿直筋と直筋腱の移行部を測定するために,超音波エコー(GE横河メディカルシステム製LOGIQ‐7)を用いた。測定肢位は股関節80°屈曲位,膝関節伸展位とした。大腿部にエコープローブ部分が垂直に接触および加圧できるように装置を作成した。なお,測定する足はボールを蹴る際に軸足となる側にした。(1)超音波エコーを使用し,前額面および矢状面から大腿直筋を遠位方向に追っていき,直筋腱が出現したところを大腿直筋腱近位端(以下,近位端)とし,膝蓋骨上縁から近位端および中間点までの距離を測定した。(2)近位端および中間点に対し,0.4kg・0.5kg・0.6kgの負荷を加えたときに直筋腱への圧迫がみられるかを画像より確認した。なお,大腿直筋腱の歪みを圧迫とした。(3)近位端および中間点に対し,負荷を加えていない状態と0.4kg・0.5kg・0.6kgの負荷を加えたときの皮膚から直筋腱までの距離を測定し,負荷を加えていない状態と0.4kg・0.5kg・0.6kgそれぞれの負荷を加えたときの皮膚から直筋腱までの距離を,一元配置分散分析により検定を行い,多重比較検定にはTukey-Kramer法を用いた。(4) (3)の結果を独立変数とし,大腿周径との関連をPearsonの積率相関係数により検討した。
    【結果】
    (1).膝蓋骨上縁から近位端までの距離は5.6±0.8cmであった。
    (2).近位端および中間点に0.4kg・0.5kg・0.6kgの負荷を加えたところ,皮下組織および軟部組織に対し圧迫が認められた。
    (3).負荷を加えていない状態と比較し,0.4kg・0.5kg・0.6kgではそれぞれ有意に距離が短かった(p<0.01)。また,0.4kg・0.5kg・0.6kgそれぞれの間には有意差を認めなかった。
    (4).負荷量の有無に対する皮膚から直筋腱までの距離は,大腿周径との間に有意な相関関係を認めなかった。
    【考察】
     直筋腱を圧迫するには0.4kgの負荷量で十分であるとの知見が得られた。大腿周径は皮膚・脂肪・筋・骨などの諸組織により構成されており,個体差があるため,臨床での指標には不十分な可能性が示唆された。
  • ~人間作業モデルを視点としたアプローチ~
    長嶺 野乃, 黒木 俊光
    セッションID: 258
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     OTとして作業活動を選択する際、対象者にとって価値のある活動を用いることが多い。今回、人間作業モデルを視点とし、リーズニングを行うことにより、作業活動を選択し介入した。結果、若干の活動や記銘力の改善が認められたので、以下に報告する。
    【症例紹介】
     50歳代男性。X年低酸素脳症を発症。前向性健忘、記銘力低下を呈し、精神科閉鎖病棟に入院中。発症前職業は、建築家で現場監督。
    【初期評価】
     身体機能として明らかな麻痺は認められない。ADLはB.I85/100(日中臥床傾向で促し必要)HDS-R 16/30(見当識、短期記憶で失点)。エコクラフト作業実施時には、依存的で問題解決能力低下あり。OSA-IIより、全てのサブシステムで、価値と有能性において乖離(大事だがするには問題のある状態)が見られ、その中でも意思の項目に最も乖離が認められた。有能性低く、変化を望む項目としては、“好きな活動を行う”“能力を発揮している”が挙げられた。NPI興味チェックリストでは、興味の強い項目として、木工など職業に近い作業が挙げられ、「復職出来なくても、特技を活かし人の役に立ちたい」というデマンドが挙げられていた。これらより、現在好きな活動を行う場所がなく、能力を発揮出来ていないと考えられた。
    【治療方針】
     目標は作業における活動性、記銘力向上、有能感の向上と定め、興味の高い木工を提供し、意思に対しアプローチを行った。また、カレンダーに完成の締め切りを設定、進捗状況に合わせ、スケジュール変更を記載し日々の意識を高めた。
    【経過と結果】
     作業遂行上の変化として、以前の作業では、前日の作業内容を覚えていない状況だったが、木工では、進捗状況を記憶し、日付など締め切りを意識して作業を進めること可能となり、自ら問題解決を行う場面が増えた。ADLでは、B.Iの点数に変化はないが、日中の臥床時間が減り、精神科OT への参加や、食堂で過ごす時間が増えた。介入1ヵ月後にはHDS-R23/30となり、見当識、短期記憶の改善あり。OSA-IIでも、意思の項目だけでなく、全ての項目で、乖離状態の改善が見られ、変化を望む項目でも有能性が改善した。しかし、環境と遂行の項目においては、まだ乖離が大きい状態が残っている。
    【考察】
     今回、人間作業モデルを視点として、問題点やデマンドを深く理解しようと努め、価値のある作業を提供し、意思にアプローチした結果、有能感が向上したことが、作業中の自発的な行動や、活動性向上に繋がったと考えられる。また、締め切りを設定し、仕事に近い環境を作り、絶えず活動に対する意識を高めたことで、見当識への意識が高まり、活動性向上に繋がったのではないかと考えられる。意思の有能性の改善みられたが、環境や遂行の項目で、価値と有能性に乖離みられる為、今後、まずは、環境面へのアプローチを行っていきたい。
  • 野田 将司
    セッションID: 259
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院は、重症度の高い患者様も数多く受け入れている。その中で、全介助の方、特に体格の大きい患者様が増加し、移乗時に安全性の低下、洋服や病衣の破損、スタッフの腰痛などの問題が発生した。その対策として市販の介助ベルトを使用したが、腰部のみの固定で不安定なため使用を躊躇してしまった。そこで今回これらの問題点を考慮し、当院独自の移乗用介助ベルトの作成を試みたのでここに報告する。
    【作成経過】
     1、車椅子業者に相談(安全性・安定性の高い介助ベルトの作成)。
     2、固定性・耐久性の面から素材はナイロンを使用。
     3、腰帯のみでの固定(腰部を巻く)では安定性に欠ける⇒まわし様の構造(股下を通す)が必要。
     4、まわし様の構造では、陰部に疼痛あり。また座位での装着が困難。⇒臀部・大腿部を支える2つのベルトを股下へ通し腰帯に固定。
     5、ベルトを腰帯へ固定する部分はマジックテープを使用。(バックルでは調節が困難)
     6、移乗時のズレを防ぐため、腰帯の内側に滑り止めを使用。
     7、装着しやすいように、腰帯の真ん中に目印をつける。
    【使用方法・用途】
     腰帯(ナイロンの帯)を骨盤を覆うようにあて、患者様に合わせ長さを調節し腹部にてバックルで留める。腰帯に付属する2つのベルトを、後方から股下を通し前方へ運び、腰帯の左右で留める(マジックテープ)。移乗の際は、腰帯に付属する握り部分を掴んで行う。
     用途は、主に全介助の方や体格の大きい方の移乗に使用し、慣れれば1人介助でも移乗可能となる。また、平行棒内での歩行介助にも使用可能である。
    【実際に使用しての意見】
     ●<良いと考えられる点>
     1、衣類、オムツがやぶれない。
     2、しっかりと支える(つかむことができる)ので安心感があり、力が入れやすい。
     3、身体への負担軽減(患者様・介助者)
     ●<改善が必要な点>
     1、装着に2人必要な場合がある。
     2、装着にある程度練習が必要である
    【今後の課題】
     今回、移乗用介助ベルトを作成し実際に活用しているが、さらに改善・改良すべき点もあがっている。それは、当院スタッフだけでなく、ご家族にも利用してもらえるような工夫である。病院内のセラピストが使用するだけでなく、看護師・介護師、さらには在宅でのご家族の方の使用へと繋げていきたいと考えている。そのためには、病院内での使用頻度を上げ、患者様の状態(回復レベルや体格)でどの程度の介助量・介助方法になるのかを調べ、必要なご家族への正確な説明と指導が必要である。今後も積極的に使用し、患者様への負担・介助量の軽減を図っていきたいと考えている。
  • 山口 敬子, 水溜 幸一, 福満 俊和, 米澤 武人, 森 俊介, 高倉 尚子, 楢林 美智
    セッションID: 260
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院は全病棟を障害者病棟として運営しているため入院期間の制約がなく、長期的な介入が可能である。今回、筋萎縮性側索硬化症で入院中の患者に対し、年間3回の外出支援を実施したので報告する。
    【症例】
     60歳代、女性。15年前に関節リウマチを発症。X年、A病院で筋萎縮性側索硬化症と診断され、在宅で近医のフォロー受けていた。しかし夫が前立腺癌の治療を受けるにあたり在宅が困難になったことから、X+1年4月にB病院へ入院となった。その後、療養およびリハ継続目的で6月に当院へ転院となった。温泉、食べること、ウィンドウショッピングが趣味で、発症前はよく外出していた。
    【経過】
     6月よりリハ開始。重症度分類はStage3、ALSFRS-R35点。上下肢筋緊張低下しているがGMT3(Rt<Lt)、歩行器歩行が見守りで50m程度可能だった。移乗は介助、端坐位は見守りで可能な状態であった。入院当初より身体が動くうちに温泉等へ外出したいとの希望があり、9月、リハスタッフ4名が同行し、同疾患の他患者と共に市内ショッピングセンターに、食事、買い物へ行った。食事は自助具を使用し自立できていた。10月、同じ患者とリハスタッフ4名で再度食事へ行った。この時は疾患が進行しており、自助具を使用しても口まで運ぶことが困難なことが度々みられ介助を要した。12月、市外温泉施設へ入浴、食事のために外出を行った。リハスタッフ3名、看護師1名、主治医が同行した。食事はスプリングバランサーを使用したが、30分ほどで疲労感があり介助を要した。入浴はリフトを使用し、看護師1名、リハスタッフ2名の介助で行った。現在も入院中でありPT、OTが継続して介入している。重症度分類はStage3で変化ないがALSFRS-R22点と低下している。
    【考察】
     本症例は現在のところ胃瘻造設、気管切開、人工呼吸器の使用を希望していない。現在は四肢筋力低下のみで球麻痺症状はないが、進行することは明らかである。今後は胃瘻、人工呼吸器に対する理解を深めてもらうことも必要と思われる。また院内生活でリハスタッフと過ごす時間を楽しみにしており、1対1で関わることができるからこそ、身体リハに限らず心理的なサポートが重要であると考える。当院では3年前から緩和ケアチームが発足し、生活リハの観点から一時帰宅などの外出支援を行っている。さらに難病患者に対しても医師、看護師、地域医療連携室を含め、チームで積極的に外出支援やグループ活動を行っている。本症例は進行性の疾患であり、残りの人生を満足したものにしてほしいと考え、緩和リハの一環として外出支援を行った。過去3回の外出ではストレス発散になり、疾患が進行しても外出したいという希望が叶ってよかったとの意見が聞かれた。しかし、より質の高いものにするためにも今後は外出支援のマニュアル作成や、多職種との連携方法の確立などを行っていく必要があると考える。
  • 神谷 喜一, 北村 佳苗, 古賀 美順
    セッションID: 261
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院では昨年11月よりがんのリハビリテーション(以下、リハ)を開始した。今回、介入した症例を振り返りリハの取り組みについて検討した。
    【方法】
     2010年11月~2011年3月までにリハ処方された18症例をリハの分類別(回復的、維持的、緩和的)に在院日数、リハ介入期間、1日のリハ介入時間、ADL評価、転帰先を調査した。
    【結果】
     男性9例、女性9例、平均年齢69±8.4歳。回復的リハ2例(以下A群)、維持的リハ4例(以下B群)、緩和的リハ12例(以下C群)に分けた。平均在院日数A群32日、B群52.8日、C群36.6日。平均リハ介入日数A群29.5日、B群33.3日、C群24.3日。1日平均リハ実施時間A群56分、B群46分、C群32分。ADL評価を機能的自立度評価表(以下FIM)にてA群(リハ介入時/終了時)113/122点、B群63.5/44点、C群64.7/61点。転帰先A群:自宅退院2例、B群:自宅退院2例、死亡退院2例、C群:自宅退院4例、ホスピスへ転院2例、死亡退院6例であった。
    【考察】
     今回、リハの分類別による取り組みの影響を調査した。回復的リハにおいては二次的障害を予防し、身体機能の維持、改善を目的に関わる事でFIMの改善傾向が見られ、自宅退院へと繋げられた。維持的リハ、緩和的リハでは、在院日数に比べリハが介入できた日数は短く、リハ実施時間にも制約が見られた。
     これは従来の心身機能回復や社会復帰を目的としたリハとは違い症状緩和が優先されており、またリハ適応や必要度、リスク管理、目標設定等を検討する機会も不十分であったことが要因と考える。
     対策として緩和回診や緩和ケア委員会にリハスタッフが参加し、回診時にリハ適応なのかリハの目的やリスク管理を明確にしてから介入していくように取り決めた。緩和ケア委員会の中では、医療チームとして早期にカンファレンスや症例検討会を開催する体制を取り決めた。カンファレンスにて治療方針を確認し、各職種の専門性を活かしたアプローチや多職種と協業出来る事などを共通理解し、更に家族を巻き込み心理的・精神的なサポートや今後の方針を情報共有できるような内容とした。
     今後の継続課題として介入当初より患者自身のモチベーションや疼痛を含む日々の全身状態の変化を把握し、随時、患者満足度やリハ必要度、リハ効果を評価しながら必要に応じてリハ目的の修正が必要である。またリハ実施時間も投薬を含む癌治療等の影響も考慮し、柔軟に対応していかなければいけない。それら課題を解決する事により、リハ効果を引き出しQOL向上へと繋げられるのではないかと考える。今後も患者満足度やリハビリ成果を検証し、定期的に体制を見直していかなければならない。
  • ~多発性骨髄腫症例を通して~
    大野 一行, 河島 英夫, 馬場 麻美, 徳重 周平, 瀬口 祥三, 宮川 弘毅, 小林 利彰, 坂井 まり惠, 星子 優, 平本 小百合, ...
    セッションID: 262
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     近年、がんの羅患率は3人に1人と言われている。がん治療の発展とともに5年生存率も向上し、それに伴い、リハビリテーション(以下リハビリ)を適用するケースが増えている。今回、精神面へのアプローチとして、患者のニードを重視した目標に設定することで、機能面・ADL面にも良好な結果が得られたのでここに報告する。尚、今回の報告は本人に説明と同意を得ている。
    【症例紹介】
     80歳代女性。転倒し、左大腿骨転子部骨折と同時に多発性骨髄腫と診断され入院。手術を強く希望されるも適応がないと判断され、心理的に落胆されていた。疾患に関して予後が平均余命3~5年であることも把握されている。
    【評価】
     左股関節に関節可動域制限と疼痛を認めた。脚長差9cm。ADLはバーサルインデックス 25点。パフォーマンスステータス グレード4である。リハビリ対してのニードを聴集すると「ポータブルトイレ(以下Pトイレ)を使いたい」「家に帰りたい」などの発言が見られた。
    【経過と考察】
     機能面の問題点の他に、予後に関することと、手術の適応がなかったこととの2つの精神的苦痛により、「動けないなら死んだほうがましだ」というスピリチュアルペインを表出され、活動性の低下から生きる意味の喪失につながっていると考えた。そこで、易骨折性の為、活動度を上げることによるリスクが予測されたが、本人のニードであるPトイレでの排泄動作獲得を目標として設定した。
     Pトイレ動作の獲得に向けては、機能面での訓練の中でも小さな変化を見逃さず、リハビリの効果を感じてもらうようにした。すると、「少しでも動けるようになってうれしい」という達成感を示す言葉を認めるようになり、リハビリに対してさらに積極的に取り組まれ、立ち上がり動作、移乗動作の獲得に繋がっていった。これは、ニードを目標に定め、その大きな目標に向けて、小さな目標を達成していくことの喜びがさらなる活動性向上に繋がったと考える。機能的な問題が解決すると共に最終的なニードである「家に帰りたい」というニードを目標と設定し、Pトイレでの排泄動作訓練を開始した。本人から「本当に家に帰れるかもしれない」と積極的に訓練に取り組まれ、Pトイレでの排泄動作が軽介助にて可能となり、在宅復帰という症例のニード達成に至った。
     今回の症例を通して、評価から導き出す目標よりも、予後が不良であるこの疾患と共存していく患者・家族のニードを目標に設定し、アプローチしていくことががん患者に生きる希望を少しでも感じてもらい、スピリチュアルペインを軽減させることができる一つの方法ではないかと考えた。今回の経験で今後ますます増えていくと思われるがんの患者に対するリハビリを行う上での一つの指標になったものと考え大変意義のある経験であった。
  • ~患者、家族それぞれへのアプローチ~
    磯野 美奈子, 江郷 功起, 山下 満博, 井形 竜也
    セッションID: 263
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回予後6ヶ月の終末期乳がん患者の上肢リンパ浮腫に対し、複合的理学療法(以下CDP)にて浮腫の改善に加え、QOL、心理的苦痛の改善を認めた。また、終末期に寄り添う家族にもCDPが心理的サポートやポジショニングに効果的であったためここに報告する。
     尚、本報告に関しては本人、家族より同意を得ている。
    【症例】
     57才女性右乳ガン、肝転移、Stage4期。2009年10月右胸筋温存術、レベル1郭清、植皮術施行。2010年11月脳多発転移にて放射線治療を施行し、3週間の入院。予後6ヶ月と家族へ告知。2011年1月食欲不振、症状増悪にて入院。同年2月中旬永眠される。家族は息子と2人暮らし、県内に娘2人、趣味は手芸、オカリナ演奏である。
    【経過及び結果】
     脳転移による入院後用手的リンパドレナージ(以下MLD)と集中的な圧迫療法、圧迫下での運動療法、セルフドレナージを追加し、セルフケア習得を指導し退院後も継続した。退院後はスリーブへ変更し指のみの圧迫包帯にて、自己管理を行った。周径は手掌部が最大15cm減少。握力は左右差がなくなり、STEFは治療開始時86点退院時91点、慈恵リンパ浮腫スケールの機能は開始時20点退院時55点退院2週後87点、感覚は開始時18点終了時67.5点退院2週後85点、美容は開始時28点終了時79点退院2週後67点、心理的苦痛は開始時43点退院時68点退院2週後90点と特に退院後の点数の改善にはADLで使用する中で機能面のみならず満足度を実感された結果となった。調理動作では皮むきなどの包丁動作、趣味の手芸では針の操作などの巧緻性が改善され約1か月間自宅生活を送ることができた。症状が増悪し、入院後は意識レベル100~200/JCS、理学療法は浮腫の観察、必要に応じてMLDと圧迫療法、ROM練習、ポジショニングを計画した。浮腫改善に喜ばれていたことを知る家族は、浮腫の増強に敏感でスリーブの着用を希望された。輸液の量も多く、四肢への浮腫増強から広範囲なMLDは施行できなかった。「怖くて触れない」と顔と手指を清拭するだけであった家族へCDPの基本でもあるスキンケアに加え軽擦、指のドレナージ、ポジショニングを指導、施行し、浮腫、褥瘡、拘縮が予防できた。
    【考察】
     リンパ浮腫は終末期乳癌に合併する頻度が高い。今回の症例を通し、常に存在する浮腫がどれだけ心理的苦痛となっているかが分かった。終末期のリンパ浮腫に対するCDPには運動機能の改善、心理的苦痛の改善、QOLの向上、緩和治療としての疼痛改善、緊張の緩和、精神的な支援が期待できる。また、終末期に寄り添う家族の「何かしてあげたい。」という気持ちにも応えるアプローチとして心理的サポートにも効果的であった。CDPは終末期の患者、家族それぞれにおける多様な状況にも対応できるアプローチとして有用ではないかと思われた。
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