【はじめに】
人間の足部は身体の中で唯一地面に接して身体を支え,起立,歩行,走行などの身体の動きを誘導する部位である.足部は前足部,中足部,後足部に分けられ,前足部には可動性があり,推進力に関連するとされている.足趾の機能に関しては,足趾把持力や姿勢制御,動的バランスに関する研究が多く報告されている.しかし,歩行中の足趾への荷重量や足趾の運動については報告が少ない.そこで本研究の目的はstep lengthの変化が歩行中の足趾荷重量と足趾の運動範囲へ与える影響を明らかにすることである.
【対象】
対象は整形外科的・神経学的既往の無い健常成人男性19名とした.対象者には事前に研究の目的,内容を説明し,研究参加への同意を得た.なお本研究は鹿児島大学医学部倫理委員会の承認を得たものである(第174).
【方法】
歩行条件は通常の歩行(normal),step lengthが短い歩行(short)と,長い歩行(long)の3条件とした.足趾荷重量の測定には足圧分布計(Zebris社,PDM-S)を用い,最大荷重量を算出した.足趾の運動の測定には三次元動作解析システム(Oxford Metrics社,VICON MX3)を用い,最大伸展角度を算出した.測定は練習を行った後に実施し,各条件を3回ずつランダムに試行し,平均値を代表値とした.歩幅は口頭にて指示し,歩行速度は被検者の任意とした.統計学的分析に反復測定による一元配置分散分析を用い,多重比較にはBonferroni法を用いた.統計学的有意水準は5%とした.
【結果】
歩行時のstep lengthの平均は,short:0.50±0.06m,normal:0.64±0.06m,long:0.84±0.07m(平均値±SD)であった.一元配置分散分析により有意差がみられ(F=114.9,p<0.01),多重比較により全てにおいて有意差がみられた(p<0.01).足趾荷重量はプレスイングで最大値を示し,short:185.9±10.5N,normal:221.4±11.4N,long:256.6±10.5N(平均±1SD)であった.step lengthの延長に伴い,足趾荷重量は有意に増加した(F=20.5,p<0.01).多重比較によりshort - normal間(p<0.05),short - long間(p<0.01)に有意な差が認められた.足趾伸展角度はプレスイングで最大を示し,short:36.5±5.9°,normal:41.2±4.4°,long:43.0±5.7°となり,step lengthの延長に伴い有意に増加した(F=27.3,p<0.01).多重比較の結果ではshort - normal間,short - long間に有意な差が認められた(p<0.01).
【考察】
足部は立脚相においてwindlass機構により剛体を増すことによってstep lengthを増大させることが可能となる.今回の結果ではstep lengthが増大すると足趾伸展角度が増加した.それに伴い足底腱膜の緊張が高まり,第1中足骨頭が支点となり足趾荷重量が増加したと考えられた.Dustinらは立脚後期には足趾がわずかではあるが後方にブレーキをかけ,前方に向かう力はわずかであると報告している.このことから,step lengthによる足趾荷重量の増加は前方への推進力を得るためというよりはむしろ,立脚後期の姿勢を制御することによりstep lengthを確保するためと考えられた.今後は後足部,中足部を含めたより詳細な運動学的,運動力学的な分析が必要と考えられる.
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