機能性発声障害の治療には, 一般に音声治療が選択されることが多い.音声治療の効果を高めるには, 障害の要因を的確に絞り患者自身に明示する必要があり, 評価において, 声の高さ, 大きさ, 空気力学的評価, 最長発声持続時間のみならず, 声域, 声区にも留意し, 話声で声が柔軟に用いられているかも評価する必要がある.また, 発声に伴う頸部や構音器官の緊張の有無を目で観察することが評価として適切な効果を示す障害群もある.機能性発声障害の中で, 高さに問題を呈するもの, あるいは, 高さの変動により障害が改善されるものは少なくない.この場合の高さとは主に話声位の高さを指す.代表的障害として変声障害があげられる.音声治療法として, Gutzmann testなどが用いられることが多いが, われわれは, 話声というピッチ等の変動があるものに低さを適応させるためには発声機能の柔軟性が不可欠であると考え, Vocal Function Exercisesを試行し, 翻転せずに声の低さの安定を図れるように治療を行っている.一方, 話声位を上げることが治療目的となる障害として, Male to Femaleの性同一性障害による音声障害があげられる.われわれは, 2001年1月より2005年12月までに29例のMale to Femaleに対して音声治療を実施した.話声位が180Hz以上の例もあったが話声位が高い例でも「声が低い」「高い声が安定しない」と訴えており発声法の改善が必要であった.音声治療では, 話声位の上昇に加え, 絞扼や翻転することなく高音を出させること, 話声で持続して高音が出せることを治療目的として, Vocal Function Exercisesや音階をとりながら発話するPitch Matchingを主に試行した.聴取実験を中心に治療効果を検討し, 良好な結果が得られた.
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