ボリビアの2019年国政選挙は実施後に大規模な市民の抗議行動を引き起こし、当時の現職大統領であり同選挙で4選を果たしたモラレスの亡命を招いた。この事件に対しては、(1)モラレス側を強く批判する説明、(2)モラレス退陣を求める側を強く批判する説明、そして(3)ボリビアと同時期に大規模抗議運動が発生した国々との共通点を指摘する説明がある。本稿はそのいずれもが事態の説明としては過度に単純化されたものであることを指摘する。第一に、(1)と(2)は自らが擁護する側の暴力や不正の可能性に沈黙している。第二に、(1)が指摘する選挙における不正はいまだ実態不明であり、それを既成事実とした批判は成立しない。第三に、(2)は革新モラレスと保守的な抵抗勢力の対立として今回の紛争を捉えるが、革新勢力が反モラレス側にいることを無視している。第四に、(3)が重視する紛争の要因としての経済悪化やそれに伴う市民の不満の高まりについて、それを裏付けるデータは不十分なうえに、抗議行動が不透明な選挙過程を最も重視していた事実を看過している。
本稿は、アルゼンチンのアルベルト・フェルナンデス政権の閣僚構成と政策課題への対応の特徴を検討したものである。マクリ政権下での経済状況に対する市民のネガティブな評価とクリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル前大統領の選挙戦略の妙によって誕生した同政権は、いわば正義党「連立政権」である。2020年4月時点では新型コロナウイルス対策に対する評価から高い支持率を得ていたが、債務再編交渉と経済再生については政権内での経済政策をめぐる調整不足が目立っている。有権者はフェルナンデス政権に対する評価を大統領個人に結びつける傾向があるが、今後政権の支持率が低下した場合にキルチネル派を重用するのは得策ではないと考えられる。
本稿では、2019年6月に誕生したブケレ政権のおよそ1年の成果を振り返る。まず、閣僚等の人選と政府計画の概要から新政権がめざすものを明らかにする。次に、過去の政権や周辺国との比較をふまえながら、重点政策である治安対策と汚職対策に評価を加える。最後に、昨今浮上した大統領と立法府との対立および新型コロナウィルスによる混乱の背景と、大統領によるそれらへの対処の仕方について述べる。
本稿は、2019年10月中旬以来チリで発生した社会危機を、2011年の学生運動や新しい左派勢力という視点から検討する。軍政下に導入され民主化後も継続してきた既存の政治経済社会システムは、経済格差や社会と政治の乖離を生み出し、それは市民の不満の蓄積、そして近年の抗議行動の増加へとつながった。2011年に大規模な学生運動が発生したことや、そこから生まれた新しい左派勢力である広域戦線が2017年総選挙で台頭したことは、2019年の社会危機の以前から既存のシステムに対する問題提起がなされていたことを示している。これまで学生運動や新しい左派勢力が示してきた変革への意思は、2019年の社会危機を通じてチリの多くの人々からも示され、新憲法制定に向けた合意へとつながった。2020年4月には新憲法をめぐる国民投票が実施される。既存のシステムを修正して維持するのか、新しいシステムへ変革していくのか、チリは大きな岐路に立たされている。
移民増加がチリ経済に与える効果
公開日: 2019/03/07 | 35 巻 2 号 p. 70-83
北野 浩一
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混乱をきわめるベネズエラ経済 ――とまらない経済縮小とハイパーインフレ――
公開日: 2019/03/07 | 35 巻 1 号 p. 35-48
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脆弱化するラテンアメリカ民主政治
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