ラテンアメリカ・レポート
Online ISSN : 2434-0812
Print ISSN : 0910-3317
36 巻, 2 号
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論稿
  • 三浦 航太
    2020 年 36 巻 2 号 p. 1-15
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/31
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    本稿は、2019年10月中旬以来チリで発生した社会危機を、2011年の学生運動や新しい左派勢力という視点から検討する。軍政下に導入され民主化後も継続してきた既存の政治経済社会システムは、経済格差や社会と政治の乖離を生み出し、それは市民の不満の蓄積、そして近年の抗議行動の増加へとつながった。2011年に大規模な学生運動が発生したことや、そこから生まれた新しい左派勢力である広域戦線が2017年総選挙で台頭したことは、2019年の社会危機の以前から既存のシステムに対する問題提起がなされていたことを示している。これまで学生運動や新しい左派勢力が示してきた変革への意思は、2019年の社会危機を通じてチリの多くの人々からも示され、新憲法制定に向けた合意へとつながった。2020年4月には新憲法をめぐる国民投票が実施される。既存のシステムを修正して維持するのか、新しいシステムへ変革していくのか、チリは大きな岐路に立たされている。

  • 北野 浩一
    2020 年 36 巻 2 号 p. 16-31
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/31
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    2019年10月中旬に中高生の地下鉄無賃乗車運動から始まったチリの大規模な反政府デモは、瞬く間に社会問題全般に対する改善要求へと変わっていった。特に、高齢者の貧困の問題と年金改革要求は広く国民が支持する要求となった。統計データから見ると、チリの貧困・所得格差の実態は近年改善がみられる。しかし、OECDへの加盟や左派勢力の躍進などにより、貧困・所得格差の問題に関する民衆の不満は急速に高まっている。これまで、チリは比較的安定した政治システムと堅実な経済政策を維持してきたが、躍進する左派勢力と力を増す民衆運動を前に、政策の大転換を迫られている。

  • 内山 直子
    2020 年 36 巻 2 号 p. 32-50
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/31
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    2018年12月に就任した左派のアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領は、それまでの新自由主義を否定する言説を繰り返すとともに自らの政権奪取を「第4の変革(Cuarta Transformación)」と位置づけ、就任直後から矢継ぎ早に公約を実行に移し、2019年10月まで70%近い支持率を維持し続けてきた。同大統領は就任から10カ月となる2019年9月に発表された政府年次報告書(Primer Informe de Gobierno)において、100項目の政権公約のうち、79項目をすでに「実現した」とその成果をアピールした。一方で国内経済に関しては、政権発足当初は2.7%と予想されていた2019年の経済成長率は11月の最新予想で0%まで引き下げられる事態となっているほか、治安状況にも改善がみられず、殺人件数は2018年を上回り、過去最多となることが確実視されている。AMLO政権の言説とメキシコ経済の実態の乖離はなぜ起きているのか、本稿では月次マクロデータを用いてその実情を明らかにするとともに、対外要因に加え、財政規律重視の行き過ぎた緊縮財政(公務員改革)が経済停滞の要因となっていることを指摘する。

  • 上谷 直克
    2020 年 36 巻 2 号 p. 51-70
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/31
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    2019年の5月にV-Dem(Varieties of Democracy)研究所から発行された年報『Democracy Facing Global Challenges-V-Dem Annual Democracy Report 2019』によると、昨年のレポートでここ約10年の世界の民主政の特徴として指摘された、「民主主義の後退(democratic backsliding)」や「専制化(autocratization)」傾向が相変わらず続いているという。中南米地域についても、引き続き「専制化」が指摘されるニカラグアやベネズエラ、「後退」するブラジルに加え、新たにハイチやホンジュラスでも「後退」や「専制化」傾向が認められた。そこで本稿では、そうして「専制化」するホンジュラスや、隣接するグアテマラ、エルサルバドルの、いわゆる中米の北部三角地帯諸国(Northern Triangle of Central America、以下NTCs)の「民主主義」の現状について、V-Demの様ざまな指標の変化に着目しつつ、報告する。

現地報告
情勢報告
  • 磯田 沙織
    2020 年 36 巻 2 号 p. 85-90
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/31
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    本稿はビスカラ政権下における国会解散について、憲法の規定、国会解散までの経緯およびその後の憲法裁判所の対応を詳述したものである。2016年の大統領選挙においてクチンスキが当選したが、決選投票でクチンスキに敗れたケイコ・フジモリの所属政党が国会の多数派を占めることになり、大統領と国会の対立関係が始まった。このため、国会による二度目の大統領弾劾裁判中にクチンスキは辞任し、副大統領から大統領に昇格したビスカラの政治改革も国会によって阻まれてきた。硬直状態を打開するため、ビスカラは憲法の規定を解釈することで国会解散を正当化し、軍や大多数の有権者もビスカラの決断を支持した。解散された元国会議長が憲法裁判所に違憲判断を求めているが、その決断が先送りされたまま、国会選挙が実施される見通しである。有権者からの支持率が高いビスカラに対して、憲法裁判所が違憲判断を下す可能性は低いものの、正式な判断までは政局を注視していく必要がある。

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