ラテンアメリカ・レポート
Online ISSN : 2434-0812
Print ISSN : 0910-3317
38 巻, 2 号
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論稿
  • 上谷 直克
    2022 年 38 巻 2 号 p. 1-18
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/31
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    2019年に大規模な社会騒乱を経験したラテンアメリカ諸国は、そのさなかにCOVID-19に襲われ、感染者や死者が断続的に増加するなか、多くの国で厳格なロックダウンが施行された。しかし、もちろん各国の政治は政治であるがゆえにその動きを止めることはなく、極端にはハイチの大統領暗殺事件など、多様な政治事象が生じている。本稿では、このように「混乱するラテンアメリカ政治」の今を捉えるべく、複数のラテンアメリカ諸国の事例を対象にさまざまなデータを用いつつ、「国家の脆弱性」「政治体制の変動」「代表制の危機」などいくつか政治学の重要テーマに絞って、問題や論点の明確化と整理を試みる。

  • 木下 直俊
    2022 年 38 巻 2 号 p. 19-34
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/31
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    2021年2月7日、レニン・モレノ大統領の任期満了に伴う大統領選挙が行われた。1979年の民政移管後で最多の16名が立候補した。いずれの候補者も当選に要する票を得られなかったため、ラファエル・コレア元大統領を後ろ盾とするアンドレス・アラウス候補(左派)と、元銀行家で実業家のギジェルモ・ラッソ候補(右派)の上位2名が4月11日の決選投票に進んだ。その結果、ラッソ候補が事前予想を覆し勝利を収めた。その勝因については、コレア体制への忌避感から無効票を投じた有権者が多かったこと、コロナ禍の選挙戦でラッソ陣営がSNSを巧みに活用したことなどがあげられる。

    5月24日に発足したラッソ政権は、ワクチン接種の促進を最優先課題に据えた新型コロナ対策が奏功し、国民からの評価は高く好調な滑り出しをきった。今後の政策課題は経済再建に向けた諸改革へと移るが、国会は与野党の対立が先鋭化し機能不全の状態に陥る可能性もあり、審議は難航が予想される。安定した政権運営がいつまで続くか予断を許さない。

  • 笛田 千容
    2022 年 38 巻 2 号 p. 35-47
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/31
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    2019年の大統領選挙での勝利につづき、2021年2月の国会議員選挙で自身の政党が勝利を収めたエルサルバドルのブケレ大統領は、同年5月1日の新国会発足と同時に違憲審査権を行使する最高裁憲法法廷の掌握を図り、政権の意向に沿って憲法解釈を行う機関に変質させた。つづいて最高裁および裁判所システム全体に対する影響力を強めながら、憲法改正の準備に進んでいる。また、それと並行して、検察長官の交代や汚職事件の捜査にかかわる国際的な協力協定の破棄によって検察を掌握し、「反汚職」を旗印に政敵の排除に邁進している。本稿は、これらの経緯を整理し、そこから導出される長期政権化のシナリオを提示する。

  • 坂口 安紀
    2022 年 38 巻 2 号 p. 48-60
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/31
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    ベネズエラでは、ニコラス・マドゥロ(チャベス派)、フアン・グアイド(反チャベス派)のふたりが、自らが正統な大統領であると主張して対峙する状況になって約3年が経過した。国際社会も、マドゥロを支持する中国・ロシアなどの国々と、グアイドを支持する米国、EU、南米のリマグループなどに分かれている。米国の経済制裁や中国・ロシアによるマドゥロ支援、またノルウェーなど両者の対話を求める国々、国内の食料・医薬品不足や難民問題などで支援を拡大する国連の機関など、国際社会の関与は、内政にも影響を与える。本稿では、両勢力を支持する大国である米国および中国・ロシアが、ベネズエラに対してどのような政策対応をとってきたのかについて、それぞれの国や政権ごとの特徴に焦点を当てて考察する。

  • 菊池 啓一
    2022 年 38 巻 2 号 p. 61-72
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/31
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    ジェンダー・クオータの一種である法律型候補者クオータがラテンアメリカに導入されて久しいが、2000~10年代にみられた後発国による導入と以前からの導入国による改革の動き、また、2000年代終わり頃からみられ始めているパリティ(男女同数)をめざす動きは、実際の女性議員の比率にどのような影響を与えているのであろうか。この問いについて考察するため、本稿ではラテンアメリカにおける法律型候補者クオータと女性下院議員比率との関係、ならびに、女性閣僚比率と女性下院議員比率との関係を中心に検討した。そして、パリティをめざすべくクオータを引き上げた場合や候補者擁立・順位規定を厳格にしている場合には、従来は同規定の適用が難しいとされてきた非拘束名簿式比例代表制や小選挙区比例代表並立制・併用制を採用している国でも女性下院議員の比率が高まることと、国によっては議会で政治経験を積んだ女性政治家が閣僚に就任するという新たなパターンが生まれてきていることを指摘した。

  • 近田 亮平
    2022 年 38 巻 2 号 p. 73-85
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/31
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    社会的マイノリティのなかでもLGBTと総称される性的マイノリティに関しては、社会において差別や偏見がより強く脆弱な存在でもあり、国や地域により状況は異なるが、権利の保障は遅れるとともに現在でも不十分である。ブラジルでは1985年の民政移管後、民主主義の定着とともに、社会的マイノリティを擁護する左派の政策や政治勢力が支持されたことにより、多様性を尊重する方向で社会が変化した。本稿はこのようなブラジルにおいて、性的マイノリティの権利を保障すべくどのような制度が整備され、どのようなアクターが行為し、それらがどのように相互作用してきたかを明らかにしようとするものである。先行研究とブラジル地理統計院のデータ、および、筆者が現地で行ったインタビュー調査をもとに、日本よりも先進的なブラジルの性的マイノリティの権利保障の変遷や課題について論じる。そして、多文化主義が民主化後の新憲法で唱導されたブラジルで、セクシャリティをめぐり多様性と排他性が衝突し合っている現状を指摘する。

現地情勢報告
  • 村井 友子
    2022 年 38 巻 2 号 p. 86-92
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/01/31
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    ラテンアメリカでは、過去およそ20年にわたり、研究成果をオープンアクセスで提供する学術情報インフラを構築し、維持・発展させてきた。そのあいだ、数多くの学術情報プラットフォームが発足し、ラテンアメリカの学術情報のオープンアクセス化を推進してきた。

    本稿は、このうち、学術機関が学術雑誌を電子ジャーナルとして刊行する際に活用できる共同出版プラットフォームを提供し、ラテンアメリカにおけるオープンアクセスジャーナルの発展を牽引してきたSciELOとRedALyC、および、国を超えてラテンアメリカ諸国とスペインの学術機関の機関リポジトリを繋ぐオープンアクセス・リポジトリネットワークLA Referenciaの活動を伝える。

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