経済圏で利用される窒素はアンモニアを開始形態とし、肥料だけでなく化学繊維や樹脂、半導体などの化学製品を通して私たちの生活に大きくかかわっている。本論文の目的はマテリアルフロー分析(MFA)により、2005 年から2015 年にかけての日本国内の反応性窒素(Nr)のフローを定量化し、その経年変化を分析することで、国内におけるNr、特にアンモニアを開始形態とした窒素(NH3-N)需要の傾向と特徴を整理し、将来の経済構造・技術変化に伴うNr・NH3-N フローへの影響に関する情報を得ることである。MFA の結果より、2005年と2015年で食料・飼料部門から家計部門へのNr フロー量は898 kt-N ならびに775 kt-N、化学産業分野から肥料への投入は632 kt-N ならびに500 kt-N、そして下水汚泥から肥料として回収されるのが28.6 kt-N ならびに68.3 kt-N であった。2005年から2015年にかけて食料・飼料分野、化学産業分野、肥料分野それぞれで、流出入するNr・NH3-N量の減少が見られた(食料分野:13%,化学産業分野:26%,肥料分野:7%)。国内化学産業分野において需要されるNH3-N は減少傾向にあるが、工業用途や環境保全用途のNH3-N 量は884 kt-N(2005年)、623 kt-N(2015年)であり、それらの化学産業全体におけるシェアは期間を通じて50% 以上であったことが明らかとなった。この数値は、世界全体のアンモニア生産量のうち工業用途の占める比率として報告されている約20% という値に比べてかなり大きいことが分かった。また、工業用 NH3-N フローのうち、半導体産業へのフローは、2005年には0.21%、2011年は0.57% そして2015年は1.03% であり、年々拡大傾向にあった。今後、我が国のNr,・NH3-N フロー管理を進めるうえで、工業活動や環境保全に用いられる窒素化合物の管理保全がますます重要になっていくことが予想される。
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