分布の広い昆虫が夏季の長さの異なる地方に適応して生活する実態の分析は,Danilevsky(1961) の綜説(日高・正木訳,1966)に多くの例が上げられている.日本においても正木(1966,1967,1968)その他によって研究されている.スジグロチョウは,日本では北海道から屋久島まで広く分布する(白水,1965).一般に寒地では世代数が少なく,成虫出現期短かい.暖地にいくにしたがって世代数が多くなり,成虫出現期間が長くなる.同一地方においても,夏の短かい山地と夏の長い平地のあいだにも,これと同様の関係が見られる.山地において秋に成虫が姿を消す時期が平地におけるよりも早いのは,休眠蛹が早くから形成されるためであろう.そしてこのことは,光周反応の臨界日長が平地産よりも山地産の方がより長いことによるのであろうと予想した.そこで,1969年に群馬県の平地産と山地産について,飼育実験および野外観察を行ない,日長と温度の条件に関する生活史の適応を研究したので,ここに報告する.
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