ヒメジャノメの日本本土産亜種Mycalesis gotama fulginia FRUHSTORFERとリュウキュウヒメジャノメM.madjicosa BUTLERとの交配の結果については,これまでにたびたび報告してきたが(高橋,1976,1978,1979,1981など),これらの結果から両者の関係を要約するとつぎのようになる,1.両者のあいだには,成虫および幼生期の各段階にわたって明らかな差異がある.2.ヒメジャノメを♂とした場合では,雑種の羽化率がきわめて低く(多くは10%以下),原則として奇型の♂のみが羽化し,ごく稀に羽化する♀も虚弱で不妊である.3.ヒメジャメノを♀とした場合では,羽化率は50%台に達することがあるが,羽化した個体は例外なく♂である.4.リュウキュウヒメジャノメどうしの亜種または変種間交配では,すくなくともF_1では雑種の羽化率は高く,またその性比は比較的正常で,すくなくともF_3までは可能である.さらに,台湾,中国本土,朝鮮半島産のものは,成虫および幼生期の形態的特徴が日本本土産のものと基本的に同じである.したがって,これらはヒメジャノメという一つの種を形づくり,南西諸島のものは,リュウキュウヒメジャノメという別の種であると考えてきた.ところで,白水(1985)は上記の見解を基本的に支持しながら,さらに慎重な検討の必要を述べている,筆者は,上記の見解をさらに検証するために,1984年から1985年にかけて,若干の種間交配のほかに,種間雑種と一方の親とのもどし交配を行い,上記の別種説にむしろ有利な結果を得たので報告する.なお,その結果の一部は,すでに日本鱗翅学会第32回大会(大阪,1985)で述べたとおりである.報告するにあたり,材料の入手に関していろいろとお世話になった那覇市の長嶺邦雄氏にあつくお礼を申しあげる.
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