本報告はイギリス,オックスフォード大学博物館に保存されているホープ昆虫コレクションの中の東洋区からもたらされたスカシバガ科のMelittia属の7種のタイプ標本を再検討したものである.これらの内chrysogaster,rutilipes,siamica,strigipennisの4種類はWalkerによって,astarteとphorcusの2種はWestwoodによって,またhumerosaはSwinhoeによって記載されたものである.これら7種のタイプ標本とゲニタリアを図示し,再記載して種名を検討した.Melittia phorcus(Westwood)(Figs 1-4,20,24)インド中部からの1♀の標本によって記載された.♂は知られていない.M.chalciformis(Fabricius),M.dichroipus Hampson,M.leucogaster Hampson,M.notabilis Swinhoe,M.sangaica Mooreなどに外見は似ているが,中室外方透明紋の大きさや後脚脛節の毛束の色彩などで区別される.M.humerosa Swinhoe(Figs 5-6,21,25)"North China"から1♀で記載された本種は,すでに中国上海から記載されたMelittia sangaica Moore,1877のシノニムとされた(Spatenka et al.,1993).今回タイプ標本のゲニタリアを精査したところsangaicaとよく一致した.この種は本邦にも別亜種nipponicaが産することが知られている.M.rutilipes Walker(Figs 7-8,22,26)ウォーレスによって採集された標本のようで"Batchian"のラベルとともに"Wallace"のラベルがある.外見からはDesmopoda bombiformis FelderやM.moluccaensis Hampsonに似ているが明らかに後脚脛節の毛束の色彩が異なる.M.siamica Walker(Figs 9-10,18)Siam(タイ)で得られた1♂によって記載されたやや小型のMelittiaである.東洋区に分布しているM.gorochovi Gorbunov,M.newara Moore,M.callosoma Hampson,M.indica Butler,M.kulluana Moore,M.proxima Le Cerf,M.staudingeri Boisduvalなどに外見が非常に良く似ているがいずれの種類からも中室外方透明紋の形,胸部背面の色彩,後脚脛節の毛束の色彩,腹部腹面にある細い帯などで区別される.M.chrysogaster Walker(Fig 11-12,27)スラウェシ島の1♀によって記載された.M.batchiana Le Cerfに最も良く似ているが,中室外方透明紋や腹部腹面の色彩が異なる.M.strigipennis Walker,sp.rev.(Figs 13-14,19)インドネシアのGilolo島(Halmahera島)で得られた("Wallace"のラベルがある)1♂によって記載された本種はその色彩からM.eurytionのシノニムとされていた.今回,本種のタイプ標本のゲニタリアを精査したところM.eurytionと異なることが判明したので,種strigipennisを有効名として復活させた.M.astarte(Westwood)(Figs 15-16,23,28)インド中部で得られた1♀によって記載された本種は前翅に透明な部分がなく,完全に鱗粉に覆われており,東洋区のMelittia属としては大変ユニークな種である.おそらく中東(旧北区)のM.gephyra Gaedeや熱帯アフリカ(エチオピア区)のM.abyssiniensis Hampson,M.ectothyris Hampson,M.houlberti Le Cerfなどに近縁な種類であると思われる.
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