山頂占有性チョウ類を識別するとともに,その季節消長を明らかにするために大阪と奈良の府県境に位置する葛城山(=大和葛城山,標高960m)および二上山(2つのピーク,雄岳517mと雌岳474m)の山頂,亜山頂,斜面に,それぞれ46, 26個の半径5mの架空の円形調査地を設定した.葛城山では2001年および2002年,二上山では2002年に春から社まで調査を行い,定量化のために5分間の調査時間内に各観察円を訪れた平均回数を用いた.葛城山から53種,雌岳で42種,雄岳で31種,合計55種(8科)が確認され,そのうち29種が3つのピークで共通に見られた.2つの山のいずれにおいても,これらの種の大部分は低頻度であった.2001年の葛城山の調査においては,統計的に「広義の山頂」(山頂および亜山頂)に分布が偏っていたキアゲハ,ツマグロヒョウモン,テングチョウ,モンキチョウ,ベニシジミを山頂占有性種と分類した.しかし後者の3種については,検討の余地が残されている.2002年の二上山の調査では,アカタテハ,ヒメアカタテハ,キアゲハ,ナミアゲハ,カラスアゲハ,モンキアゲハ,ヒオドシチョウ,ツマグロヒョウモン,ウラナミシジミ,ゴマダラチョウが山頂占有性であった.これらすべての種は葛城山でも記録されたが,2001年と2002年の結果からナミアゲハ,カラスアゲハ,モンキアゲハ,ゴマダラチョウは,葛城山では山頂占有性とはみなされなかった.それ以外の上記のすべての二上山における山頂占有性種は,葛城山でも山頂占有性であった(2001年または2002年の結果).逆に,イチモンジセセリとギフチョウは,2002年の調査結果から葛城山においてのみ山頂占有性とみなされたが,二上山ではギフチョウは記録そのものがなかった.二上山では,モンキチョウ,ベニシジミ,テングチョウは山頂占有性種ではなかった.また,ナミアゲハ,ゴマダラチョウ,ヒメアカタテハは雌岳では山頂占有性を示したが,雄岳では追っていた.一部の山頂占有性種は,3シーズン(キアゲハ),2シーズン(ツマグロヒョウモンは夏と秋,モンキチョウとテングチョウは春と夏)あるいは1シーズンのみ(ウラナミシジミとイチモンジセセは秋),山頂において数多く見られたが,3つのピーク間で優占順位は異なっていた.一方,アカタテハなど数種の山頂占有性種は,ピーク間で相対的な密度や優占順位は異なるものの,3シーズンを通じてどのピークでも少なかった.
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