ミドリシジミ族の縄張り性の種については,雄の行動はよく研究されている一方,雌の行動についてはその隠蔽的習性からほとんど報告がない.ジョウザンミドリシジミとメスアカミドリシジミの雄の縄張り行動の調査中に,雌による縄張りへの侵入や交配が見られたので報告する.ジョウザンミドリシジミにおいては,雌による雄縄張りへの侵入とそれに続く交配が2回観察された.さらに未交尾雌の縄張りへの導入は,雄の追跡を招き,それらの高所での交配が推定された.メスアカミドリシジミにおいては,雌による縄張りへの侵入は4回目撃され,そのうちの3回では,侵入雌と縄張り雄との交配が樹林内で行われたものと推定された.こうした中,雄の不在中に雌が縄張りに侵入することや,また侵入雌が翅を開いた輝く雄に向かって直進飛翔する積極的な行動も確認された.以上の諸観察から,これらの種の雌は雄の縄張りに侵入し,その雄と配偶するのがごく一般的なものと推定された.
世界のチョウの求愛行動と交尾記録の文献を集約したCannon(2020)に,Vanessa属のチョウの交尾例はないとされているほど少ないが,日本にはアカタテハVanessa indicaについて4例の報文があり,関東地方(2例)と沖縄県(2例)で午後,とくに夕方交尾し,そのままひと夜を過ごして,翌朝離れる例が知られている.本報では南九州のいちき串木野市の人家庭に設置した大型野外飼育ケージ内で,第1世代成虫4ペアの交尾が,すべて夕方に成立し翌朝に離れた例を報告した.これらのことから,本種は地域,世代を問わず,午後とくに夕方(薄暮時)交尾し,翌朝離れるという,タテハチョウ亜科では特異なパターンであることを示唆する.
第三著者の吉武が,西表島古見の海岸に打ち上げられたサキシマスオウノキ(アオイ科)の種子から多くの小蛾を羽化させた.これらの蛾は,斑紋や交尾器よりメイガ科マダラメイガ亜科のAssara seminivalisであると同定された.これまで日本からはAssara属が9種記録されていたが,本種は知られていなかったため,今回日本初記録種として報告した.