既存のGPS首輪による野生動物の追跡システムに存在する課題の改善,すなわち位置測位データの取得を即時性をもって安価に確立することを目的に,クジラ類の地球規模での行動追跡を目的に打ち上げられた低価格国産低軌道衛星(鯨生態観測衛星:WEOS)の発展的利用として,陸生哺乳類であるツキノワグマ位置情報のセミリアルタイム送受信システムの試験を行った.ツキノワグマに装着する首輪型の国産GPS受信機で求めた緯度・経度情報を,内蔵の送信機で極軌道にあるWEOSに送信し,WEOSが受信した位置情報を,地上からの指令に応じて送信するものである.
平地(茨城県坂東市:開空度30.83%),山地(栃木県日光市:開空度28.39%)においてボックス型送信機を用いて送信能力の定置試験を行った後,実際に栃木県日光市においてツキノワグマへの首輪型送信機の装着を行った.ツキノワグマへの装着事例では,WEOSの可視回数は平均4.76通過軌道/日で,また1回あたりの可視時間は平均11分54秒であった.送信機からWEOSへの送信成功率は,平地定置試験に比べ,山地定置試験,ツキノワグマ装着試験(21.5%:
n = 195)で低下したが,ツキノワグマ装着試験ではなお平均1.02回/日の送信成功が可能であることがわかった.1回あたりでのGPS測位情報の送信量を増やすことによって,個体位置情報のセミリアルタイムでの取得は実用可能な範囲にあることが示された.
とが示された.
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