哺乳類科学
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48 巻, 2 号
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総説
  • 辻 大和, 高槻 成紀
    2008 年 48 巻 2 号 p. 221-235
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    哺乳類の食性の長期研究の動向を探るために,BiosisとGoogle Scholerを用いて文献検索を行い,93の文献から99の事例を収集した.食性評価の期間には2年から16年とばらつきがあった.食性の長期研究事例には分類群ごとにばらつきがあり,食肉目(Carnivora)と霊長目(Primates)で多く,齧歯目(Rodentia)と翼手目(Chiroptera)で少なかった.食性の長期研究事例は時代とともに増加する傾向があった.多くの事例では食性評価に糞分析を用いていたが,特定の分類群に特徴的な分析手法がみられた.80%以上の事例で食性の年次変動がみられたが,多くの事例では食物環境の定量的な評価を行っておらず,さらに個体群パラメータへの影響を評価した事例はごくわずかだった.動物の食性の長期変化の把握は動物の基礎生態の理解に貢献するだけではなく,種子散布や採食に付随する行動などの派生的な研究,ひいては保全戦略の策定などにも貢献すると思われる.
原著論文
  • 山﨑 晃司, 林 友直, 横山 幸嗣, 細川 繁, 小藤 幸史, 木下 俊一, 小坂井 千夏, 小池 伸介
    2008 年 48 巻 2 号 p. 237-243
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    既存のGPS首輪による野生動物の追跡システムに存在する課題の改善,すなわち位置測位データの取得を即時性をもって安価に確立することを目的に,クジラ類の地球規模での行動追跡を目的に打ち上げられた低価格国産低軌道衛星(鯨生態観測衛星:WEOS)の発展的利用として,陸生哺乳類であるツキノワグマ位置情報のセミリアルタイム送受信システムの試験を行った.ツキノワグマに装着する首輪型の国産GPS受信機で求めた緯度・経度情報を,内蔵の送信機で極軌道にあるWEOSに送信し,WEOSが受信した位置情報を,地上からの指令に応じて送信するものである.
    平地(茨城県坂東市:開空度30.83%),山地(栃木県日光市:開空度28.39%)においてボックス型送信機を用いて送信能力の定置試験を行った後,実際に栃木県日光市においてツキノワグマへの首輪型送信機の装着を行った.ツキノワグマへの装着事例では,WEOSの可視回数は平均4.76通過軌道/日で,また1回あたりの可視時間は平均11分54秒であった.送信機からWEOSへの送信成功率は,平地定置試験に比べ,山地定置試験,ツキノワグマ装着試験(21.5%:n = 195)で低下したが,ツキノワグマ装着試験ではなお平均1.02回/日の送信成功が可能であることがわかった.1回あたりでのGPS測位情報の送信量を増やすことによって,個体位置情報のセミリアルタイムでの取得は実用可能な範囲にあることが示された.
    とが示された.
  • 坂田 宏志, 鮫島 弘光, 横山 真弓
    2008 年 48 巻 2 号 p. 245-253
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    イノシシ(Sus scrofa)の保全と管理に向けて,銃猟時の目撃効率を補正した上で指標化し,生息状況を左右する要因や農業被害との関係を分析した.共分散構造分析によって双方向の因果関係や間接的な効果を考慮に入れたパス解析を行った結果,イノシシの目撃効率は,積雪の多い地域や広葉樹林の多い地域で高くなる傾向を示すパス係数が有意であり,ニホンジカ(Cervus nippon)の目撃効率が高い地域や入猟者の多い地域では低くなる傾向を示すパス係数が有意であった.また,雪の多い地域への入猟頻度は少なかった.これらの結果から,積雪と狩猟が相互に関連しあってイノシシの密度分布に影響を及ぼしていること,ニホンジカの食害による植生の衰退がイノシシの生息数を減らし目撃効率を下げるという間接的な競争関係がある可能性などが示唆された.また,イノシシの目撃効率はアンケート調査の農業被害程度と有意な相関があり,その関係はニホンジカとは異なる特徴があった.これらのイノシシの目撃効率に関する知見を活かして,管理目標の設定や地域的な状況の違いにあわせた対策の選択などの意志決定が可能なことを示した.
  • 清田 雅史, 米崎 史郎, 香山 薫, 古田 彰, 中島 将行
    2008 年 48 巻 2 号 p. 255-263
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    伊豆三津シーパラダイスにおいて飼育され1988年から2005年までに死亡した,ラッコ22個体の外部形態の計測値を解析した.年齢と体長から推定した成長式は,雄が雌より速く成長して大型になる傾向を示し,体サイズの性的二型が確認された.飼育下における雌雄の成長速度は,自然界の良好な栄養条件において記録された値と同等以上であった.体各部位の体長に対する相対成長に一般線形モデルをあてはめ,相対成長のパターンと雌雄差をモデル選択により分析した.雄には優成長を示す部位はなく,体の大型化以外に二次性徴は認められなかった.一般に頭,口,前肢は劣成長を示し,後肢や尾部は等成長を示した.頭部や前肢の相対成長パターンは,本種の早成性仔獣の水中生活への適応に関係している可能性が考えられる.
  • 佐藤 友紀子, 植竹 勝治, 田中 智夫
    2008 年 48 巻 2 号 p. 265-270
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    食物の確保,保存,隠蔽などを目的とするリス科動物の貯食行動は,温帯域以北に生息する種の報告が多いものの,クリハラリスのような亜熱帯域以南に生息するリス科動物については少ない.そこで,本研究では,温帯域以北に生息するリス科動物と同様に,クリハラリスもランドマークを用いた貯食を行うかについて明らかにすることを目的とした.野外に生息するクリハラリス4個体に,5個ずつクルミを与え,自由に貯食を行わせた.その貯食場所のマイクロハビタット,貯食場所に出現する植物種および樹木の地際周,貯食場所の草本および樹木の本数について解析した.貯食場所には,草本および樹木のある環境を多く選択し,立体物のない環境には貯食されなかった.植物の種類としては,アオキが多く分布する環境を選択した.樹木が繁茂する場所よりも草本や樹木の本数が2本程度の疎な下層環境を利用していた.このことから,クリハラリスの貯食場所には温帯域以北に生息するリス科動物と同様に,ランドマークをもとに特徴的な貯食場所を選択することが明らかとなった.
短報
  • 立石 隆
    2008 年 48 巻 2 号 p. 271-276
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    本州東部に位置する秩父山地雲取山の標高1,000~2,000 mの森林内で捕獲されたスミスネズミの繁殖活動について検討した.調査は1981年4月から1986年10月まで行った.用いた標本は雄48頭および雌46頭であった.生殖器の発達状態から雌雄ともに体重17.1 g以上の個体を成体とみなした.雄成体の71.0%(31頭/48頭)および雌成体の56.7%(30頭/46頭)は繁殖活動中であった.哺乳中でなおかつ妊娠中の個体が観察されたため,同じ繁殖期中における複数回の妊娠が確認できた.妊娠雌の平均胎仔数は2.13であった.繁殖活動個体の捕獲時期,哺乳個体および幼体の母親の推定交尾日などから,本調査地においてスミスネズミが確実に繁殖活動を行った時期は3月から9月までであると考えられた.
報告
連載「食肉目の研究に関わる調査技術事例集」
奨励賞受賞者による研究紹介
国際会議報告
2009年度大会案内
IMC10案内
日本の哺乳類学監修後記
書評
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