哺乳類科学
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原著論文
  • 高槻 成紀, 阿部 隼人, 片山 歩美
    2025 年 65 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/18
    ジャーナル フリー

    福岡県篠栗町の九州大学農学部附属福岡演習林において2023年2月から2024年1月までの5回,ニホンジカCervus nippon(以下シカ)の糞を採集してポイント枠法で分析した.糞組成は2月は常緑広葉樹の葉を中心に生葉が42.1%を占め,残りは繊維と稈が主体であった.4月には生葉がやや減少し,繊維が大幅に増えた(45.8%).8月になるとイネ科の葉が11.2%,稈が56.5%に増え,シカが林外で採食することを示唆した.10月には葉がやや減少し,稈が減少(12.0%)して繊維が回復(39.0%)した.またツブラジイCastanopsis cuspidataと思われるドングリとヨウシュヤマゴボウPhytolacca americanaの種子が検出された.1月には生葉が最少(16.8%)になり,不明物質(35.1%)が増加した.調査地では2010年前後にシカが急増し,植生が貧弱になっており,シカの食性はそのことを反映して植物の生育期でも生葉の占有率が23–33%に過ぎなかった.

  • 正木 美佳, 森田 哲夫, 越本 知大, 篠原 明男
    2025 年 65 巻 1 号 p. 9-17
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/18
    ジャーナル フリー

    多くの小型哺乳類は,寒冷や食物不足といった厳しい環境に曝されたとき,冬眠や日内休眠を利用して消費エネルギーを節約する.ハムスター類は種によって,冬眠を利用する冬眠動物と日内休眠のみを利用する日周性異温動物に大別される.ハムスター類のうち,冬眠を利用する種は体サイズが比較的大きく,日内休眠を利用する種は小さい傾向がみられるが,未だ休眠特性が明らかでない種も多い.キヌゲネズミ(Tscherskia triton)はハムスター類の中では体サイズが大きいが,冬期の環境適応については不明のままであった.本研究では,キヌゲネズミを短日光周期(8L:16D)・低温(5°C)といった冬期様環境に暴露することで休眠の誘導を試みた.その結果,自発的で可逆的な体温低下が観察され,体温が低下した持続時間は24時間を超えることはなく日周性が認められた.したがって,キヌゲネズミは自発日内休眠を利用する日周性異温動物であることが初めて明らかになった.

報告
  • 船越 公威, 杉田 典正, 高畑 優, 山口 英昌
    2025 年 65 巻 1 号 p. 19-28
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/18
    ジャーナル フリー

    トカラ列島の有人7島でエラブオオコウモリPteropus dasymallus dasymallusの生息状況について目視による調査を実施した.そのうち中之島,悪石島および平島でエラブオオコウモリの生息を確認した.目撃できた個体数は,各島それぞれ少なくとも35頭,26頭および2頭であった.過去に口之島と諏訪之瀬島で島民によるエラブオオコウモリの目撃例,宝島で捕獲記録があるが,1989年前の調査と同様に今回も生息を確認できず,定着していないと考えられる.小宝島ではオオコウモリの飛来に関する確度の高い情報を得た.これらの結果は,約30年前(1988~1989年)の分布(船越1990)が現在まで大きな変化がなかったことを示している.また,口之島,諏訪之瀬島,宝島および小宝島のようにいったん消滅してしまうと,その後に飛来しても定着することが難しいことを示している.食痕が確認された樹種の分布は集落に集中しており,本亜種の生活範囲は島民の生活域と重複している.エラブオオコウモリの生活環境は島民の環境意識と行政の保全のための施策に委ねられているといえる.今後,トカラ列島各島において,島民と行政や研究者が連携しながらエラブオオコウモリの生息環境の改善に努め,本亜種の自然な飛来と定着を促進する必要がある.

  • 清水 俊輔, 浅利 裕伸
    2025 年 65 巻 1 号 p. 29-36
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/18
    ジャーナル フリー

    日本でのタヌキ(Nyctereutes procyonoides)の分布は北海道から九州まで広域に及び,食性は生息環境によって異なることが知られている.しかし,北海道でのタヌキの食性研究は道央地域の森林および奥尻島に生息する個体群に限られている.本研究では胃内容物分析により十勝地域に生息する個体群の食性を明らかにすることを目的とした.ロードキル個体と有害鳥獣駆除個体を2021年12月から2022年11月まで収集し, 38個体の胃内容物を分析した.出現した採食物は11項目17種類であり,出現頻度と占有率をポイントフレーム法により算出した.イネ科草本(94.7%)と昆虫(71.1%)は年間を通して特に出現頻度が高く,占有率(それぞれ,18.1%と13.5%)も高く,北海道で行われた先行研究でも多く利用されたことから,これらは北海道の広域においてタヌキの主要な餌資源であると考えられた.また,餌資源が乏しい冬季には,タヌキが畜舎周辺などにおいてイネ科草本,濃厚飼料やハエ目の幼虫を利用している可能性が示唆された.同時期に出現する複数の餌資源は,タヌキの採食物の選択性に影響を及ぼすかもしれない.

  • 渡邉 英之, 赤石 旺之
    2025 年 65 巻 1 号 p. 37-44
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/18
    ジャーナル フリー

    特定外来生物アライグマ(Procyon lotor)の防除において,生息確認等のモニタリングは重要である.アライグマ餌トラップはアライグマの訪問を確認するトラップであり,安価で簡単に作成することができる.しかし,検出力など生息確認手法としての有効性は分かっていない.そこで本研究ではアライグマ餌トラップについて,生息確認手法としてのアライグマの訪問検出力(1訪問あたりの偽陽性率・偽陰性率)を調べた.また,既存の手法との比較として,カメラトラップ法との関係を検証した.その結果,餌トラップの食肉目の訪問1回に対する偽陽性率は0.00と低く,偽陰性率は0.66(95%信用区間0.55~0.76)と高かった.また,カメラトラップ法による撮影頻度と餌トラップの判定結果には有意な関係があり,撮影頻度が高いほど陽性と判定される傾向があった.以上の結果から,餌トラップは生息確認手法として一定の有効性が示唆された.1訪問あたり偽陰性率は高かったが,本調査で偽陽性は確認されなかったため,長期間大量に設置するなど運用方法を工夫することで有効的な手法となる可能性がある.

  • 永里 歩美, 船越 公威
    2025 年 65 巻 1 号 p. 45-60
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/18
    ジャーナル フリー

    九州と琉球列島に生息する4科20種(クビワオオコウモリPteropus dasymallus,キクガシラコウモリRhinolophus nippon,コキクガシラコウモリRhinolophus cornutus,カグラコウモリHipposideros turpis,アブラコウモリPipistrellus abramus,モリアブラコウモリPipistrellus endoi,シナオオアブラコウモリHypsugo pulveratus,モモジロコウモリMyotis macrodactylus,ノレンコウモリMyotis bombinus,クロホオヒゲコウモリMyotis pruinosus,ヤンバルホオヒゲコウモリMyotis yanbarensis,ヒナコウモリVespertilio sinensis,ニホンウサギコウモリPlecotus sacrimontis,テングコウモリMurina hilgendorfi,コテングコウモリMurina ussuriensis,リュウキュウテングコウモリMurina ryukyuana,ユビナガコウモリMiniopterus fuliginosus,リュウキュウユビナガコウモリMiniopterus fuscus,オヒキコウモリTadarida insignis,スミイロオヒキコウモリTadarida latouchei)の体毛について,剥製標本の背面の体毛を採取し,スンプ標本と透過標本を作製して光学顕微鏡下で観察と計測を行った.体毛の髄質はクビワオオコウモリにだけみられた.体毛の先端は「触角型」と「竹の子型」の2型がみられた.鱗片の接続型として「鱗型(imbricate)」と「冠型(coronal)」に大別され,さらに鱗片上縁の形状について「鋸歯型(crenate)」,中央で窪んだ「均等矛型(equal hastate)」,不均等に窪んだ「不均等矛型(unequal hastate)」および「小歯型(denticulate)」に細分された.また,鱗片の長さが不ぞろいの「不規則型(mingling)」や鱗片の接続が「ジグザグ型(zigzag)」のものもみられた.体毛長,体毛の基部,中央部,先部の各鱗片の長さ,最小幅,最大幅)の計10項目を計測し,判別分析を行った.以上の形状的特徴,計測値および毛色を基に,コウモリ20種の検索表を作成し,18種を識別した.

  • 野嵜 歩, 上條 隆志, 安井 さち子
    2025 年 65 巻 1 号 p. 61-65
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/02/18
    ジャーナル フリー

    伊豆半島より約75 km離れた火山島である,伊豆諸島三宅島において,2023年5月下旬~9月上旬にコウモリ類の音声自動録音装置を設置した.その結果,2023年6月に20 kHz台のコウモリ類の音声が録音された.この音声は,これまで伊豆諸島において記録されていないコウモリ種の音声であったのでここに報告する.パルスの形状がFM/QCF型であること,およびピーク周波数の値から,ヤマコウモリNyctalus aviatorまたはヒナコウモリVespertilio sinensisの音声である可能性が考えられた.このコウモリ種の三宅島での確認が偶発的であるか,季節性があるか等を判断するには,さらなる調査が必要である.

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