マーケティングジャーナル
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
42 巻, 4 号
文化とマーケティング
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
巻頭言
特集論文 / 招待査読論文
  • ― 包括的分析フレームワークの構築に向けて ―
    金 春姫
    2023 年 42 巻 4 号 p. 6-15
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/31
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    ポップカルチャーは消費者の行動やライフスタイルに幅広い影響を与える重要な要素として知られている。特に近年,インターネットの普及やソーシャル・メディアの発達,定額型配信サービスの台頭に伴い,消費者は常にさまざまな国や地域からのポップカルチャーに触れられるようになっており,その影響はますます大きくなっている。しかし,これまでのマーケティング・消費者行動領域においてポップカルチャーの影響を直接扱うことはあまり多くない。本稿では,多様なポップカルチャーが同時に受け入れられている現状に注目し,そうした多文化のコンテキストにおいてポップカルチャーが消費者行動に与える影響について考察する。研究方法としては,マーケティングとツーリズムにおける先行研究を整理した上で,東・東南アジアを中心に実施したインタビュー調査を用いた定性的アプローチを用いる。これらの作業を通して,多文化時代におけるポップカルチャーと消費者行動に関する包括的な分析フレームワークを提示する。最後に今後の展望について述べる。

  • 松井 剛
    2023 年 42 巻 4 号 p. 16-26
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/31
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    本論文の目的は,米国ニューヨーク市(New York City,以下NYC)における日本料理レストラン(Japanese restaurant)の歴史的発展の経緯を明らかにすることにある。主要な発見事実は2つある。第1に,戦後の日本企業の対米進出にともない,接待など法人需要が高まったため,高級日本料理レストランの発展を促した。日本のレストランのNYC進出に日本企業が出資するケースも見られた。第2に,かつて米国人に知られた日本料理は,すき焼き,天ぷら,テリヤキぐらいしかなかったが,企業家の努力を通じて,寿司やラーメンのような未知の日本料理が定着した。さらに近年では,居酒屋,焼き鳥屋,カレー専門店,モツ鍋料理店,お好み焼き屋,洋食レストランなど,日本料理の細分化が進んでいる。この集合的な努力がゆえに,NYCは米国の他の都市には見られない日本料理の多様化が実現している。

  • ― 芸術支援のパブリック・リレーションズにおける役割 ―
    川北 眞紀子, 薗部 靖史
    2023 年 42 巻 4 号 p. 27-38
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/31
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    日本では長年にわたって企業が芸術支援をしている。近年では資金提供だけでなく,アートプレイス(アートが存在する場所)を企業自らが運営し,関係者のコミュニティを支える事例が注目されている。そこでは,アートプレイスを通じて,企業はステークホルダーとの関係を深め,企業への好意的な態度を獲得している。そこで,本稿の目的は,アートプレイスのメディアとしての役割をパブリック・リレーションズの視座から示すこととする。最初に企業の芸術支援に関する学際的な研究群を整理した。そのうえで,それぞれのコミュニケーション上の特徴を期間,到達範囲と深さ,コンテンツの編集権に関して提示した。これにより,企業が多様なステークホルダーとの関係構築を目指すための手がかりが得られただけでなく,芸術組織にとっても,資金提供者との交流の場を共有する意義が示された。

  • ― 東京五輪のスポンサー汚職に関するツイートデータを用いて ―
    松井 彩子
    2023 年 42 巻 4 号 p. 39-50
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/31
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    本研究の目的は,スポーツイベントへのスポンサー契約にネガティブなインシデントが発生した場合の,消費者の反応を探索的に検討することである。具体的には,2021年に開催された2020東京五輪に関して,2022年に入って指摘されはじめた五輪汚職を事例に,Twitter上で発生したネガティブな口コミを探索的に検討する。そして,ネガティブな事象が発生した場合の,スポンサー企業への消費者の反応を明らかにする。実際にツイートデータを抽出した企業は,AOKIとKADOKAWAの2社である。これらのツイートデータに関して,ネガティブインシデントが発生した時系列ごとに頻出単語を整理した。その結果,一度ネガティブインシデントが発生して以降は,消費者の反応の増減に関わらず,ネガティブな頻出単語の性質には変化はないことが示された。

レビュー論文 / 招待査読論文
  • ― マーケティング研究への応用可能性 ―
    北澤 涼平
    2023 年 42 巻 4 号 p. 51-57
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/31
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    対象に対する個人の所有感覚である個人的心理的所有感という概念は,2000年代初期に組織論の文脈において提唱されて以降,製品に対する購買意図や支払い意思額の向上などのマーケティング成果をもたらすために,マーケティング研究に盛んに応用されてきた。さらに,この概念に加えて,対象に対する集団の所有感覚である集団的心理的所有感という概念が提唱されており,組織の効率性などの組織成果に関して,個人的心理的所有感とは異なる帰結をもたらす可能性が指摘されている。それにもかかわらず,マーケティング領域にこの概念を応用することを試みた研究はほとんど存在しない。本稿は,個人的心理的所有感と集団的心理的所有感に関する研究をレビューし,後者の概念の,消費者コミュニティや経験消費などのマーケティング研究への応用可能性を検討する。

  • ― 秘密内容の概念的課題の克服 ―
    六嶋 俊太
    2023 年 42 巻 4 号 p. 58-66
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/31
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    本論文は,秘密消費に関する既存研究を整理し,それらの貢献と限界を提示した上で,今後の研究の方向性を検討する。秘密消費とは「他者に対して情報を隠そうとする意図を持っている状態での消費」のことを指し,本論文では特に,そこで意図的に隠される情報を指す「秘密内容」概念について議論する。具体的には,まず,既存研究を「秘密消費の動機」「秘密消費が消費者に与える影響」「秘密消費の実践的側面」の3つに分け,それらの貢献と限界を整理する。次に,これらの限界を克服することを妨げる可能性のある,「秘密内容」概念の概念的混同という課題について説明する。そして本論文では,その解決のために2つの下位概念「個人的秘密内容」と「集団的秘密内容」を区別した上で研究を進める必要があることを述べる。最後に,上述した2つの下位概念を峻別することによって発展が見込まれる,今後の研究の方向性を提示する。

  • 野村 拓也
    2023 年 42 巻 4 号 p. 67-74
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/31
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    本稿は,近年における消費環境の変化を背景とする消費者の物質主義に関する議論を統合的に整理する。ここでいう消費環境の変化とは,デジタル化の進展,シェアリングをはじめとする財の法的所有を伴わない消費形態の普及,ミニマリズムなどのような反物質主義的な価値観の流行を指す。これらの消費環境の変化は,種々の弊害があると問題視されてきた消費社会における物質主義の弱体化を象徴する現象として評価されることがある。本稿では,物質主義に関する初期の研究や,消費環境の変化に着目した研究のレビューを通じて,物質主義の弱体化を楽観的に期待する見解を批判的に検討する。そして,物質主義の概念を用いて今日の消費者行動と消費社会のあり方をより適切に理解するための視座を提供する。

投稿査読論文
  • ― 未来展望と将来自己連続性の観点から ―
    磯田 友里子, 工藤 玲, 恩藏 直人
    2023 年 42 巻 4 号 p. 75-86
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/31
    [早期公開] 公開日: 2023/01/16
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    シニア市場は同質な単一セグメントではなく多様な消費者の集まりであり,この多様性に応じたマーケティング戦略が必要であるという認識が広まりつつある。しかし,シニア市場内の多様性を捉える具体的な枠組みを提示する既存研究は少なく,消費者間の差異を十分に捉えきれていない。そこで本研究では,シニア市場内の多様性を表す指標として未来展望(FTP)と将来自己連続性(FSC)を用い,シニア女性を対象として,実際の購買データを用いて探索的な調査を行った。その結果,FTPは非消耗品の購買活動に負の影響を与え,FSCが正の影響を与えることが明らかになった。また,FTPとFSCの交互作用が観察され,購買活動がもっとも活発なのは「将来の自分とのつながりは強いが,残された時間は長くないと感じているシニア女性」であり,「将来の自分とのつながりが強く,残された時間も長いと感じるシニア女性」は,金銭的支出を控える傾向が示された。

マーケティングケース
  • ― REVISIO株式会社を例として ―
    芳賀 悠基, 恩藏 直人
    2023 年 42 巻 4 号 p. 87-96
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/31
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    近年,テクノロジーの進歩に伴って,企業や消費者を取り巻く環境は大きく変化している。特に,機械学習を中心としたAI関連技術の進化は,企業にビッグ・データの取得と分析を可能にし,それに伴う顧客価値の創出や伝達の機会を与えている。しかし,急速に変化する今日の市場では,適切にデータを取得し,分析・解釈を行い,価値あるマーケティングにつなげることは極めて困難であると言える。そこで,本稿では一般家庭から独自のデータを取得し,分析・ソリューションまでを一貫して企業に提供することで成長を遂げたREVISIO株式会社(以下,REVISIO)の取り組みを紹介する。REVISIOは,テレビCMの視聴データについて独自の方法による収集を行い,ユニークな指標を用いた分析を実施し,顧客である広告出稿企業から支持を得ている。なぜ,REVISIOのデータは顧客に受け入れられたのか。本稿では,独自のインタビューからその成功の要因を考察した。その結果,REVISIOのマーケティングが顧客の4Aを満たし,REVISIOの取り組みが顧客にとっての価値を生んでいることが明らかになった。

  • ― 群馬県のメディア戦略と「ぐんまちゃん」のブランド化事業 ―
    濵田 俊也, 新田 都志子
    2023 年 42 巻 4 号 p. 97-107
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/03/31
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    本稿はコンテンツを活用するマーケティングのマネジメント事例研究である。群馬県はマスコットキャラクター「ぐんまちゃん」を用いて,県内外の事業者へのデザイン貸与やグッズ販売等を通じた群馬エリア経済への貢献と,群馬エリアの宣伝・広報に長年取り組んできた。現在,群馬県は,さらに戦略的に「ぐんまちゃん」を群馬県のキラーコンテンツと位置付け,ブランド化事業を行って認知度と好感度の向上を達成し群馬エリアのブランド向上に結び付けようとしている。この取り組みは近年群馬県が推進するメディア戦略が基礎になっている。本稿では,1)群馬県の26年間の「ぐんまちゃん」運営の状況を確認し,2)現在の群馬県のメディア戦略と3)「ぐんまちゃん」ブランド化事業に焦点をあてて論じ,コンテンツを活用するマーケティングのマネジメントで考慮すべき要を抽出する。

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