The purpose of this special issue is two-fold. The first objective is to show the latest progress in sport marketing research, which has been attracting attention and growing in recent years, and to indicate future research directions. The second objective is to provide an opportunity for researchers and practitioners in brand management to learn about methods and ideas for developing enthusiastic fans and building relationships with customers through sport marketing research. This special issue contains four excellent sport marketing articles.
スポーツマーケティング研究は,国内外のスポーツマネジメント学の主要研究分野として,スポーツビジネスを対象としたマーケティング研究として経営学や商学においても取り組まれている。これらの学問分野はオープンイノベーション的に考えると共創相手であり,スポーツマーケティング研究の発展のためには,共に「スポーツマーケティングとは何か」について問い続けることが重要である。本論では,その一助とすることを目指し,スポーツビジネスと学問としてのスポーツマーケティングの発展の背景を示し,日本のスポーツ界の現状を考慮したスポーツマーケティングの定義について議論する。そして,スポーツマーケティングの特徴はスポーツプロダクトとスポーツ消費者にあることを指摘し,それぞれの特異性について論じ,今後のスポーツマーケティング概念の発展の方向性について述べる。
本研究は,この数年間の日本代表チームの活躍や国際大会開催の影響も相まって人気が高まり,ファン層拡大の契機に直面し複雑化していると想定されるラグビーの観戦市場を研究対象とした。スポーツ消費者を対象にしたマーケット・セグメンテーションの有効性を改めて確認するためにも,クラスター分析を用いて観客層を探ることを目的とした。さらに,発見された各クラスターの属性,観戦行動および今後の観戦行動意図の比較を試みた。実際にラグビーの試合会場を訪れた観戦者を対象に,スタジアム内で質問紙調査を実施し,3,140部の有効なサンプルを獲得した。過去のスポーツ関連経験,知識および観戦理由に関する変数を用いてTwo-Stepクラスター分析を行った結果,有効な5つのクラスターが発見された。さらに各クラスターには,人口統計的属性,観戦時の行動,および今後の行動意図において異なる特性があることが確認され,スポーツ観戦市場におけるマーケティング戦略への有用性の可能性が示唆された。
2021年9月に日本初の女性プロ・サッカーリーグであるWEリーグが誕生し,初年度は11クラブが参画した。サッカーの一般的なリーグ構造である昇降格制ではなく,クローズドなリーグ構造であり,また東アジアでは初となる秋春シーズン制を採用した。このリーグではサッカー事業の成長だけでなく,女性活躍社会の実現をはじめとした社会課題解決をもその理念に掲げ取り組んでいる。リーグ経営ではリーグ,クラブ,選手,マーケティングパートナー企業,メディア等のステークホルダーが弱い繋がりの強さによって一体となるコレクティブ・インパクトを形成し,リーグの存在意義であるパーパス経営を推進することにより,WEリーグの成長・発展を達成しうる可能性があることを明らかにした。
米国では,同じ時代に生まれ育ち同じ価値観を共有している人々を対象に「世代別コホート理論」によるセグメンテーション研究が進められているが,日本ではこの分野での事例研究は少ない。本研究では,日本で開催された2019ラグビーワールドカップ日本大会の観戦者を対象に世代別にその特徴を明らかにするものである。Z世代,Y世代(ミレニアル世代),X世代,ベビーブーマー世代の「4世代」のファンのスポーツ観戦動機による満足度への影響を回帰分析によりそれぞれの特徴を明らかにし,さらにラグビーのファンマーケティングで課題になっている「女性ファン」やワールドカップで短期的に熱狂し応援した「にわかファン」についても分析した。本研究の結果から,各世代ファンの特徴を明らかにしてスポーツ観戦におけるマーケティング戦略について考える。
近年,自己不一致によって生じる脅威に対する消費者の反応に着目した研究が注目を集めている。こうした自己不一致による脅威と消費者の反応は消費者行動研究の領域において,補償的消費という概念で捉えられている。本稿では,2017年から2022年の間に発表された補償的消費に着目した研究をレビューした。これにより既存研究の知見を統合し,既存研究に残された「対処方略の決定要因」に関する課題,「逐次的な補償的消費」に関する課題,企業や社会にとって「ネガティブな消費者の行動を導く対処方略を回避する方法」に関する課題の3つの課題を明らかにした。また最終節では既存研究の課題をもとに今後の研究の方向性を議論した。
企業が不祥事を起こした時,どのように信頼と業績を回復させるのだろうか。ITエンジニアの派遣企業であるアクサス株式会社は,2018年労働局から行政処分を受けた。危機に瀕した同社であったが,インターナルブランディングの取組みにより,リストラをせずに組織の体質改善を図り,長年懸案であったビジネスモデルを抜本的に変えながら,事業の成長基調を取り戻した。2022年現在の同社は,理念・ビジョンの浸透が進み,業績の拡大が続く。本稿では,アクサスの取り組みを時系列で追う中で,Kotter(1995, 2012)の企業変革における段階的プロセスが見出された。とりわけ意図せざる不祥事そのものが,インターナルブランディングを更に加速させていたことを確認した。結論として,(1)組織文化を変革するためのツールとしてインターナルブランディングは有効であり,アクサスでは(2)組織に短期的成果を見せつつ(3)危機を逆手に,求心力を高め(4)現場に理念・ビジョンの解釈の余地や裁量など自由度を与えながら(5)ビジネスモデルの転換による新たな成長機会の獲得へと至っていたことが確認される。
本稿では,シェアすること自体の価値を,同じ製品を他の消費者と共同で利用する行為そのものに対して消費者が評価する価値とする。モノのシェアリング・サービスを提供する企業がシェアすること自体を顧客価値として訴求することは,一見当たり前のことに思える。しかし,積極的に取り組んでいる企業は決して多くない。本稿ではまず,シェアすること自体の価値を定義したうえで,多くの企業が訴求に対して積極的でない理由を先行研究から検討する。次に,多くの企業とは対照的に,徹底してシェアすること自体を顧客価値として訴求している事例として,ブランドバッグのシェアリング・サービスを展開するラクサス・テクノロジーズ株式会社の取り組みを紹介する。その後,同社の取り組みの意義を示す。最後に,本稿の示唆をまとめる。