マツダ技報
Online ISSN : 2186-3490
Print ISSN : 0288-0601
38 巻
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巻頭言
特集:MAZDA MX-30
  • 松田 陽一
    原稿種別: 特集
    2021 年 38 巻 p. 3-8
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
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    クルマに縛られずに新しい価値を創造する。これがプログラムチームに課されたミッションである。環境や社会貢献意識の高まり,ITがもたらすライフスタイルの変化やグローバル化等,CASEの定義にかかわらず人々の生活に大きな変化が起きていることは周知のことである。この時代を前向きに生きていく人々とマツダは手を結びたい。そんなチャレンジングなクルマをこのパワートレインの変化を好機としてリアルなプロダクトとして生み出す。MX-30誕生の全ての起点がここであった。

  • 竹内 都美子, 上藤 和佳子, 岡田 譲太, 岩永 未央, 信本 昇二
    原稿種別: 特集
    2021 年 38 巻 p. 9-12
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
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    MX-30は,これまでの常識にとらわれることなく,新しい価値の創造に挑戦し,人とクルマの新しい関係を提案したモデルであり,同時にマツダの電動化戦略のリードも担っている。お客さま自身が自由な発想でクルマの多彩な楽しみ方を創造し,より自分らしく過ごせる空間の提供を実現した,MX-30の商品コンセプトや特徴を紹介する。

  • 梅津 大輔, 塚野 孝俊, 小川 大策, 藪中 翔, 加藤 史律
    原稿種別: 特集
    2021 年 38 巻 p. 13-19
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
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    MX-30 EVモデルにG-ベクタリング コントロール(GVC)を搭載した。GVCは車両の横加加速度に応じて,わずかな前後加速度を付与することで車両の運動性能を高める。具体的には,ターンインの切り込み操舵に合わせて減速し,ターンアウトの切り戻し操舵に合わせて加速する。この切り戻し操舵におけるGVCを量産車に搭載するのは世界初であり,応答性に優れる電気モーターを用いて実現できた。電気モーターによる制駆動トルクを,走行状態に合わせて適切に付与する。今般,このGVCにブレーキを用いた直接ヨーモーメント制御を連係させた,エレクトリックG-ベクタリング コントロール プラス(e-GVC Plus)を開発した。本稿では,まずe-GVC Plusの制御則及びシステム構成を紹介する。そして,前後と横加速度,及びロールとピッチが,e-GVC Plusによって滑らかに連係することを実測データで示す。さらに,ドライバーの運転行動へ及ぼす効果を検証した実験結果を紹介する。e-GVC Plusは視線を安定させ,操舵を緩やかにし,修正操舵を減少させることがわかった。

  • 森下 慎也, 梅津 大輔, 光永 誠介, 津田 顕, 岡田 光平, 服部 之総
    原稿種別: 特集
    2021 年 38 巻 p. 20-25
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
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    マツダは「人間が本来持っている能力を最大限に発揮させること」を追求した人間中心の考えに基づき,ドライバーとクルマが一体となる人馬一体の車づくりを目指している。マツダ初の量産電気自動車となるMX-30 EVモデルも,人間中心の考えに基づき,モーターの特性を最大限に活用して人馬一体を追求した。マツダでは,EVにおいてドライバーがより意のままに車速や加減速をコントロールするための,ペダル,パワーユニット,オーディオユニットを含めた統合制御システムを「モーターペダル」と呼ぶ。アクセルペダルによるモータートルクのコントロール性を全域で緻密に制御し,サウンドによるモータートルクの向きと大きさの知覚をサポートすることで,ドライバーがまるで筋肉のように自在に車速コントロールできることをねらった。更にさまざまな走行シーンに対応するEV専用のステアリングホイールパドルと合わせて紹介する。

  • 木村 隆浩, 徳永 幸司, 上村 裕樹, 岩本 武尊, 延河 克明, 岡山 裕之
    原稿種別: 特集
    2021 年 38 巻 p. 26-31
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
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    MX-30では,『MAZDA PROACTIVE SAFETY』の3つの考え方(①認知・判断・操作しやすくする。②ミスに気付かせ,正常な状態に戻りやすくする。③それでもミスした時は,車がオーバーライドする。)に基づき,操作性と安全性を高次元で両立させることを目指して新しいシフトシステムの開発に取り組んだ。実現手段としてシフトを電子制御化(バイワイヤ化)し,その特長を最大限活用した安全制御を構築することで,操作性と安全性の高次元での両立を図りつつ,『際立つデザイン/意のままの走り』に貢献するエレキシフトシステムを開発した。本稿では,それらの技術紹介を行う。

  • 橋坂 明, 若山 敬平, 江角 圭太郎, 田中 健治, 塚本 直樹, 岡田 光平
    原稿種別: 特集
    2021 年 38 巻 p. 32-37
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    一般的に,BEV用の駆動用バッテリーの入出力可能電力は温度や充電状態に大きく依存するため,駆動用モーターの出力や回生発電量が減少し,走りの魅力や航続可能距離に影響が出る。MX-30 EV MODELでは,「入出力可能電力を余すことなく使う」,「入出力可能電力を安定させる」,「入出力可能電力が低い状態を補う」の3つの観点で,厳しい温度・充電状態でもバッテリーのポテンシャルを可能な限り使うための要素技術群を開発した。これにより,マツダが目指す人馬一体の走りと,実用的な航続可能距離を確保することができた。本稿では,MX-30 EV MODELの電気駆動システムの紹介とともに,この要素技術群である「バッテリーを使い切る技術」について解説する。

  • 三戸 秀樹, 北川 浩之, 鴫濱 真悟, 明神 未季, 田中 大介
    原稿種別: 特集
    2021 年 38 巻 p. 38-42
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
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    ZEV(Zero Emission Vehicle)規制を筆頭に環境規制への適合による開発ボリュームの増加は,開発期間をどれだけ短縮化できるかがキーである。MX-30 EV MODEL(以下,MX-30)は,マツダ初の量産電気自動車(Battery Electric Vehicle,以下BEV)として従来のICE(Internal Combustion Engine)車にはないモーター(駆動)制御系/バッテリー(エネルギー)制御系を搭載し,各高電圧コンポーネントを協調させた機能を実現するパワートレインシステム(以下,PTシステム)を新規開発した。

    今回,MX-30では,制御システムが多重通信(Controller Area Network,以下,CAN)中心のシステム構成に変わることで,検証環境や開発のプロセスの視点を変更する必要がある。BEV特有の課題に対して,効率よく開発する手段としてマツダが強みとしているMBD(Model Based Development)の既存開発環境をベースに仕様変更することで,開発期間の短縮化を実現した。

  • 藤岡 真也, 川田 卓二, 北川 浩之
    原稿種別: 特集
    2021 年 38 巻 p. 43-47
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    マツダは技術開発の長期ビジョン「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030」に基づき,2030年時点で生産する全ての車に電動化技術を搭載することを発表した。今回,全ての電気駆動システムにおける高電圧コンポーネントを統合制御するパワートレイン制御ECUを中心としたシステム構造を構築し,モデルと実機を活用した検証により品質を担保した。これにより,電気駆動システムの多様化に伴って複雑化するパワートレインの全ての機能を,安全かつ不整合なく動作させる高電圧システムを短期間で開発することに成功した。本稿では,MX-30へ実装した新たな制御構造を採用した高電圧システムの技術紹介を行う。

  • 土井 政寛, 德永 隆司, 藤原 康祐
    原稿種別: 特集
    2021 年 38 巻 p. 48-51
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    MX-30 EVモデルの外部充電は欧州仕様ではCCS2(TYPE2),北米仕様はCCS1(TYPE1),日本仕様ではCHAdeMO+AC充電(TYPE1)を搭載し世界の充電方式をサポートしている。これらの充電規格と充電設備全てに対して互換性を持たせることが開発の課題である。MX-30の充電システム開発では,これら多数の変化点を持った充電システムの同時開発が求められたことに対し,一括制御構造を構築し主に固定と変動に制御機能を分けて管理することにより効率化を実現した。加えて机上検証環境として充電設備モデルをMILS(Model In the Loop Simulation)及びHILS Hardware In the Loop Simulation)環境内に構築して充電システムの成立性を早期に検証した。本稿ではこれら外部充電システム開発について報告する。

  • 伊藤 智昭, 丹羽 貴大, 花田 裕, 岸田 直樹, 鍋島 範之
    原稿種別: 特集
    2021 年 38 巻 p. 52-56
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    マツダはクルマのライフサイクル全体でのCO2排出量を考え,各国に対応できるマルチソリューション戦略を推進している。今回,カーボンニュートラル実現の第一歩であるマツダ初の量産電気自動車であるMX-30 EV MODELを開発した。MX-30に搭載する高電圧電池は,お客様の求める走行距離,走行加速性能,回生ブレーキ性能,充電時間といった商品性能を実現しつつ,安全性能,信頼性能,高寿命,低重量を満足するよう材料選定や部品配置の最適化を目指した。本稿では,安全信頼性能の一つである耐振動性能開発について紹介する。高電圧電池パックは多数の電子部品から構成されており,振動伝搬が複雑化している。そのため,それぞれの部品の耐振動性を保証しながら最適な部品配置を実現できる開発と解析精度の向上が必要である。

    振動開発では,振動の伝達を考慮した各部位への共振周波数のコントロールを決めた。そして,モデルを活用した振動に対するレイアウトの開発要素を見定め,応力を低減する形状・締結方法などに変更した。更に,実機の振動評価のコリレーションを行いモデルに反映できていない部分を見極め,より実機に近いモデルで解析することで耐振動性能の高い高電圧電池パックを開発した。

  • 山田 守英, 松田 大和, 久保田 陽満, 銭谷 恒明, 森本 誠, 三石 直人, 後藤 英貴
    原稿種別: 特集
    2021 年 38 巻 p. 57-61
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    新型MX-30 EV MODELは,MAZDA3・CX-30に続き,車両構造技術SKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTUREをベースに,フロア下にバッテリーを搭載し,RX-8以降,約20年振りとなるフリースタイルドアを採用したマツダ初の量産電気自動車(BEV)である。バッテリー搭載による従来モデルからの大幅重量増並びにBピラーのないボディー構造において,他のマツダ車同等の高い車両性能を実現した。本稿では,バッテリー筐体をボディーの一部ととらえ,ボディーとともに強度・剛性を向上させる工夫,Bピラーのないアッパーボディーにおける強度・剛性を向上させる工夫,バッテリー・フリースタイルドアを含めたボディーの振動伝達特性の開発など,MX-30 BEVのボディーシェル開発について紹介する。

  • 濵田 隆志, 廣田 和起, 河野 勝人, 古賀 俊之, 石倉 一孝, 川船 良祐
    原稿種別: 特集
    2021 年 38 巻 p. 62-66
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    マツダでは「走る歓び」と「優れた環境・安全性能」を目標に,安全・安心なクルマと社会の実現を目指した商品開発を実施している。その中で,衝突安全性能開発は,高い安全性能と軽量化という背反傾向にある課題を両立させるために,MBD (Model Based Development) を駆使して車両構造を開発している。SKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTUREに代表される車体開発では,高精度CAE 技術を用いて,衝突時の荷重を効率的に分散させるマルチロードパスを進化させた新しい構造を作り上げた。

    Mazda MX-30は,EVモデルとフリースタイルドアという2つのユニークな特徴をもっており,これらの特徴と高い衝突安全性能を高次元で両立させる構造を織込んで,欧州の衝突安全アセスメント(New Car Assessment Program: NCAP)であるEuroNCAPで,2020年に最高ランクの5★を獲得した。本稿では,代表的な衝突モードである前面衝突,側面衝突,後面衝突,歩行者保護について織り込んだ技術を紹介する。

  • 石井 哲雄, 梶原 彰人, 吉崎 真吾, 江口 覚, 中塚 勇輝, 山田 孝行
    原稿種別: 特集
    2021 年 38 巻 p. 67-72
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    MX-30はガソリンをパワーソースとするマイルドハイブリッド車と,バッテリーをパワーソースとするBEV(Battery Electric Vehicle)の2車種を展開するマツダ初の量産モデルである。それぞれのパワーソースで,共通のデザインコンセプトである「Human Modern」を実現するためには,パワーソースによらず同じ外観品質の完成車を造り込む必要があった。そのため,図面段階から開発・生産技術・製造部門で車体・車両構造差による課題抽出と解決に向けた活動を進め,両パワーソースともに量産車においてねらいの外観品質を実現した。

    本稿では,パワーソースにより異なる構造に対して,共通の外観品質を実現するために取り組んだ車体領域の生産技術開発とそのプロセスを紹介する。

  • 永田 浩太郎, 服部 博晃, 松元 貴大
    原稿種別: 特集
    2021 年 38 巻 p. 73-78
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    マツダは2030年を見据えた技術開発の長期ビジョン「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030」に基づいてWell-to-Wheel視点でのCO2排出量削減に取り組んでおり,生産工程においても再生可能エネルギーの利用や工程革新によるエネルギー・資源・廃棄物の削減を進めている。

    今回,MX-30にマツダ初となる3トーンカラーを採用した。一般的なマルチトーン塗装は塗装工程を数回周回させることで異なる色を塗り分けていくが,ボディーを塗装工程に通した回数だけエネルギーを消費するため環境負荷は大きくなる。本稿では,MX-30に新たに採用した環境にやさしいマツダ独自の3トーン塗装の内容について紹介する。

論文・解説
  • 栃岡 孝宏, 田内 一志, 前堂 勝久, 山本 友也, 和泉 知示, 石崎 大智, 富井 圭一, 任田 功, 岩瀬 貴志
    原稿種別: 論文・解説
    2021 年 38 巻 p. 79-85
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    マツダのコーポレートビジョンは「多くの人々にカーライフを通じて人生の輝きを提供します」とうたっている。これは障がいをもたれた方々も例外ではなく,クルマを愛する全ての人々のために,どんな困難にも独創的な発想で挑戦し続け,「走る歓び」により生き生きとした豊かな人生を提供するための宣言である。Self-empowerment Driving Vehicleは,上記に基づき,障がいをもたれた方々もご自身の運転操作で安心安全に移動することを通じて,日常生活で人生の主役となれるよう,また自己選択を行い生活や環境をコントロールできるよう,自分らしくありたいと願う「あなた」を尊重・大切にして支援することを目指している。本稿では,限定免許をお持ちの方の中で多くを占める,両手は使えるが下肢に障がいをもたれた方々への支援に焦点を当てた技術開発について紹介する。

  • 小田 裕介, 上村 匠, 吉田 健, 山内 道広, 西田 智宣, 平林 千典
    原稿種別: 論文・解説
    2021 年 38 巻 p. 86-90
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    マツダは技術開発の長期ビジョン「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030」に基づき,クルマのもつ魅力である「走る歓び」を通じて,地球・社会・人それぞれの課題解決を目指す新しいチャレンジに取り組んでいる。更に,2050年のカーボンニュートラルに挑戦することを表明した。このビジョンの実現に向けて,SKYACTIV-G新型1.5Lエンジンは,特に燃費性能を重視し,走行性能を犠牲にすることなく,内燃機関の効率を徹底的に追求し,「走る歓び」と「優れた環境性能」を更に進化させた。本稿ではこのエンジンの諸性能と採用技術について紹介する。

  • 桑原 潤一郎, 岩瀬 耕二, 岩下 洋平, 山本 康典, 一杉 正仁
    原稿種別: 論文・解説
    2021 年 38 巻 p. 91-97
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    運転中の体調変化による死亡事故は全体の約10%を占めるといわれており,昨今においてもドライバーだけでなく周囲の人を巻き込む凄惨な事故が発生している。このような事故を防止するには,早期にドライバーの体調変化を検知し,ドライバーの早期救命や周辺の二次被害防止に向けた対応が必要である。

    マツダでは,人間中心の自動運転技術であるMazda Co-Pilot Concept(普段はドライバーの能力を最大限に発揮することを助け,危険が生じた場合にはクルマがオーバーライドして安全を確保)に基づき,ドライバーの走る歓びや安心・安全を最大化することを目指しており,その一環として,万が一ドライバーが運転できないと判断した場合には自動運転に切り替え,周囲を含めて安全な状態を確保する技術を開発している。本稿では,ドライバーの体調変化による運転機能低下をとらえる技術と今後の展望について紹介する。具体的には,運転機能低下を通常運転からの逸脱として検知するため,通常の視認行動や運転操作を規定するドライバーモデル(以下,モデル)を構築した。また,体調起因の死亡重傷事故の約3割を占める脳卒中を例に,後遺症をもつリハビリ患者及び健常者のドライビングシミュレータ運転データからステアリング操作や視認行動が異なることを明らかにし,体調変化による運転不能前の検知の実現可能性を確認した。今後は実交通環境への適用や検知性能向上のための取り組みを進め,早期商品化を目指す。

  • 菅野 崇, 黒田 康秀, 伏間 丈悟, 山本 康典, 齊藤 裕一
    原稿種別: 論文・解説
    2021 年 38 巻 p. 98-104
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本稿では,Mazda Co-Pilot Conceptの実現に向けた潜在的危険の予測技術として,他車の車線変更予測と歩行者,自転車の飛び出し予測について説明する。従来の車線変更予測では,予測対象とする他車の予備動作や周辺車両との車間距離から,車線変更を予測してきた。本研究では,予測対象が車線変更を決断する車間ギャップのモデルを応用することで,実際に車線変更を行う2.0秒前の予測が可能となり,他車の横方向からの衝突を回避可能とする目途が付いた。また,飛び出し予測では環境の危険度を予測する先行研究があるが,飛び出す対象が分かっている必要があった。そこで本研究では,飛び出すのが歩行者か自転車かを一方通行やビルの壁,歩道の有無などの環境特徴から予測する技術に取り組んだ。今回,統計的に説明できるようモデル化の検討を進めることで,環境特徴が歩行者,自転車の行動に影響を与えることが明らかになった。

  • 丸山 慧, 土屋 明宏, 吉田 敏弘, 山根 貴和, 上岡 孝志, 落岩 克哉
    原稿種別: 論文・解説
    2021 年 38 巻 p. 105-110
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    自動車の防錆品質の適正化のためには,部品ごとの腐食環境を定量化し,それぞれの環境に応じた防錆処理を施す必要がある。しかしながら,車両の構成部品は何万点にも及ぶことから,実車での腐食環境計測には膨大な時間,コストを要する。そこで,防錆開発の効率化のために部品ごとの腐食環境を予測する上で最も重要な因子である走行中の部品ごとの被水量に着目し,被水シミュレーションの開発に取り組んだ。流体解析手法としてMoving Particle Simulation(MPS)法を活用することでタイヤからの水跳ね挙動を再現し,更に車両周りの気流速度データとの連成解析を行うことで,極めて高精度な被水量の予測技術を確立した。

  • 佐々木 大地, 重里 政考, 山本 綾人, 河野 一郎, 藤井 祥平, 小国 英明
    原稿種別: 論文・解説
    2021 年 38 巻 p. 111-116
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    マツダのブランドエッセンスである「走る歓び」を実現するため,クルマの高機能化に合わせて素形材部品には高精度化と軽量化の要求が高まっている。その中で,エンジン構成部品のシリンダーブロックは,軽量なアルミダイカスト工法で製造される。シリンダーブロックは,内部に「メインオイルギャラリ」と呼ばれる潤滑オイル分配用の穴を備えており,鋳抜きピンで成形されるが,この穴が鋳造の過程で曲がる課題があり,後工程の機械加工で曲り部分を切削していた。穴が曲がるメカニズムの解明とモデル化を行い,それを制御する金型技術を確立したことで,機械加工レス成形を実現した。本稿ではこの取り組みについて報告する。

  • 加藤 雄, 篠田 雅史, 寺本 浩司
    原稿種別: 論文・解説
    2021 年 38 巻 p. 117-119
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    世界規模で環境保全への意識が高まる中,自動車生産における環境負荷物質の排出量低減の取り組みは非常に重要である。当社は,技術革新で工程や機能を集約する考え方により,自動車塗装工程から排出されるCO2と揮発性有機化合物(Volatile Organic Compound,以下VOC)を包括的に削減する取り組みを継続している。

    自動車塗装工場における一般的な塗装乾燥炉では,塗料に含まれるVOCを燃焼処理し無害化しているが,燃焼方式という特性からCO2,窒素酸化物(Nitrogen Oxides,以下NOX),煤塵などを発生させている。今回,省エネルギーに配慮したシステム設計を行うことで乾燥炉の排気ガスからVOCを回収する技術を開発し,電着乾燥炉に導入した。その結果,燃焼式排気処理の休止とクローズドシステムによる排気ガスの排出ゼロを実現し,CO2とVOCの同時削減を達成した。

  • 生田目 琢哉, 堀元 直生, 大谷 崇, 岩永 健太, 西野 恭弘
    原稿種別: 論文・解説
    2021 年 38 巻 p. 120-126
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    近年,労働人口減少による人手不足や,自動ブレーキ等の先進安全技術の普及による検査項目の増加などから,自動車業界において検査工程を省人化,効率化することは喫緊の課題となっている。本稿では,マツダが参画した国立研究開発法人新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)の調査事業「AIを活用した自動車の完成検査の精緻化・合理化に係る調査」(1)におけるマツダの取り組み内容と,AIを用いた自動化システム開発・導入のガイドラインを紹介する。

  • 佐伯 千春, 久保 祐貴, 須賀 実, 江草 秀幸, 大田 敦史
    原稿種別: 論文・解説
    2021 年 38 巻 p. 127-132
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
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    「魂動デザイン」は随所にデザイナーの想いが込められている。マツダの生産技術領域では,魂動デザインを高い精度で量産車にて実現するため,Mass Craftsmanship(職人技の量産化)に取り組んでいる。その中で,金型製作部門は,匠と呼ばれる熟練技能者の動作をモーションキャプチャーで計測し,匠技の見える化に取り組んでいる。長年掛けて培われる匠技の勘・コツを定量化することで,技能者本人と匠の技能を定量的に比較することができ,技能の短期育成を実現する。これまで金型製作の重要な技能の1つであるグラインダー研削技能を対象に,デジタル動作解析による技能伝承システムを開発し,技能育成期間の短期化を実現した。本稿では,同様に重要な技能である肉盛り溶接技能について技能伝承システムを開発した事例を紹介する。

  • 浅田 照朗, 佐々木 將展, 江﨑 達哉, 重永 勉, 髙見 明秀
    原稿種別: 論文・解説
    2021 年 38 巻 p. 133-138
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    自動車の防錆品質は,お客様の安全・安心に直結し非常に重要である。自動車の腐食対策を高精度かつ高効率に実現する技術は,品質の迅速な造り込みに不可欠で,商品価値向上に寄与する。従来の実腐食試験をベースとした防錆技術開発では,市場の代表的な腐食環境に基づき,腐食を促進することで市場15年相当のダメージを2~4ヶ月程度(業界標準)で与え,発生した錆の程度を性能の判断指標としてきた。従来方法では時間が掛かる上に,さまざまな状態の錆を目視で評価するため,結果は定性的であった。この課題を克服すべく,防錆塗膜の性能発現メカニズムに基づいたモデルベース研究開発手法を活用し,塗装部の耐食性を電気化学的に迅速に定量評価する技術を開発した。本報では,この耐食性の迅速評価技術と,その効果について説明する。また,技術適用先として,新規防錆技術の開発へ適用した事例を紹介する。

  • 河村 力, 高橋 拓也, 住田 弘祐, 杉山 哲也, 上田 政人, 米山 聡, 轟 章, 宮永 俊明, 西田 健二, 横関 智弘, 樋口 諒
    原稿種別: 論文・解説
    2021 年 38 巻 p. 139-143
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
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    低燃費のための車両軽量化と,人命保護のための衝突安全性能向上の両立は自動車開発における大きな課題であり,その解決には構造技術だけでなく材料技術の革新が重要である。材料技術の革新には,車両機能からバックキャストした,効率的な技術開発が必要である。マツダでは,そのためのイネーブラーとして,材料開発から車両開発までを机上で行うModel Based Development/Model Based Research(MBD/MBR)の構築を進めており,微視的な現象のモデル化に取り組んでいる。そのために,モデルを検証するための微視的な現象の可視化・評価技術が必要である。

    本稿では,車体軽量化に高い効果が期待できる複合材料を題材に,微視的な現象の可視化・評価技術を構築した事例を紹介する。可視化にはSPring-8の放射光を用いたCT撮像と独自のIn-situ試験装置を組み合わせ,密度差が小さな材料であっても,負荷過程の変形挙動を観察可能な技術を構築した。評価には繊維や樹脂の特徴点を活用したDigital Volume Correlation(DVC)を用い,材料の内部まで含めた変形量を定量評価可能な技術を構築した。

  • 西田 健二, 氷室 雄也, 河村 力, 本田 正徳, 藤元 伸悦
    原稿種別: 論文・解説
    2021 年 38 巻 p. 144-149
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
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    低燃費のための車体軽量化と,クルマの商品性向上のための操縦安定性能や乗り心地性能の両立が求められている。これら要求を同時に満足するには,材料・部品・車体の各スケールをつないで材料と構造の両面で機能を最大限に引き出すことが必要である。しかしながら,現状は,材料と構造の個々のモデルは存在しているが,それぞれのモデルをつなぐ方法論は確立されていない。そこで,車体性能からバックキャストして革新的な材料技術を創出することをねらい,材料モデルから車両の構造モデルまでをつなぐ技術開発に着手した。今回,樹脂複合材による車体性能の向上を題材に,材料から車体モデルまでのインプットとアウトプットをつなぐ手法を構築した。これにより,材料特性から車体性能を予測する順解析と,車体性能を満足するための構造・材料の指針を導出する逆解析を行うことが可能となった。本稿ではその取り組みについて報告する。

  • ―エンジン筒内の空気充填効率の推定について―
    小川 史恵, 桑原 一徳, 平野 拓男, 目良 貢, 和田 正義, 松江 浩太
    原稿種別: 論文・解説
    2021 年 38 巻 p. 150-155
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
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    自動車エンジンの低排出ガス・低燃費化の鍵を握るのは,エンジン気筒内の空気量を高精度に予測することによる空燃比制御技術の実現である。 そのためにはさまざまな運転シーンにおいて,過渡的に複雑に変化する筒内の空気量をリアルタイムに把握することが必要である。筆者らはこの課題を解決するために,統計モデルであるGaussian Process(以下,GPと記す)を用いた推定技術について研究している。本報告ではWLTCモード中の条件の下,GPを用いて空気量を予測するための説明変数の選択方法やそれによる推定結果について検討した結果を報告する。

  • 倉持 晃, 原田 雄司, 永澤 健, 瀬戸 祐利, 山下 洋幸
    原稿種別: 論文・解説
    2021 年 38 巻 p. 156-161
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
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    内燃機関の高熱効率化に加え,ゼロインパクトエミッション(ZIE)化及びカーボンニュートラル(CN)燃料への対応が急務となっている。多種多様な燃料において高い熱効率とZIE化を両立するためには,各種液体噴霧の分裂特性に基づいて,エンジン燃焼室内の混合気濃度分布・温度分布を精密に制御することが重要となる。本研究では,噴霧の分裂特性に深く関係する分裂長さに着目し,多種多様な液体噴霧の分裂長さを統一的に整理可能な指標構築に取組んだ。気液の相対速度を考慮した慣性力と表面張力の比を表すジェット数,噴霧先端速度と噴孔直径,雰囲気気体の動粘性に基づく気相レイノルズ数,及び液体の潜熱顕熱比を表す無次元量によって,液体種,噴孔諸元,雰囲気環境それぞれが異なる噴霧の分裂長さを統一的に整理できることを示した。

  • 阪井 博行, 市川 和男, 小湊 裕允, 中野 光一, 坂木 民司, 竹澤 晃弘, 北村 充
    原稿種別: 論文・解説
    2021 年 38 巻 p. 162-168
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/08
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    内燃機関の振動騒音対策には,耐熱性やレイアウトの制約,更には軽量化を考慮して有効となる制振技術を適用することが重要である。本研究では,小型軽量な振動減衰構造として設置の容易性や耐熱性を必要とする箇所での振動減衰を可能とする,粒状体ダンパについて研究開発を行っている。粒状体ダンパは,構造内に複数の粒子を充てんすることで,構造体の振動エネルギーを粒子の摩擦に熱変換して振動減衰する。本減衰構造を自動車部品へと適用するには,粒子間の摩擦力や構造体との衝突力を考慮した設置が重要となる。本稿では,エンジン構造内へ設置可能な振動減衰機構として,基本粒径100μm前後の微細粒子を用いた粒状体ダンパの振動減衰の概要について紹介する。

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