廃棄物資源循環学会誌
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22 巻, 5 号
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巻頭言
特集:水銀条約制定に向けての国際動向
  • 原田 正純
    2011 年 22 巻 5 号 p. 337-343
    発行日: 2011年
    公開日: 2016/09/14
    ジャーナル フリー
    水俣病は1956年5月に正式に確認された。原因は水俣市にある新日本窒素肥料(株)水俣工場 (現在のチッソ(株)) の廃水に含まれていたメチル水銀が魚貝類に蓄積されたことによる。それを多食した不知火海沿岸住民がメチル水銀中毒に罹患した。有機水銀中毒であるが食物連鎖を通じて起こったというその発生の特徴から水俣病と呼ばれた。
    1969年になって患者および家族が原因企業を相手に裁判を起こした。判決は安全性を確認しないで工場廃水を海に流したことは違法であるとして損害賠償を支払うように命じた。この判決や世論を受けて魚貝類に含まれる水銀の安全基準を0.4ppm,メチル水銀で0.3ppmとした。さらに,1962年にはメチル水銀が胎盤を通過して胎児に影響を与えることが明らかになった。患者の正確な数は不明だが約70名が確認されている。世界各地では魚貝類に含まれる微量なメチル水銀が胎児に与える影響が注目されている。各国の報告では母親の頭髪水銀値が10~20ppmでも胎児に一定の影響を与えることが明らかになっている。
    2011年に水銀の環境汚染に関する国際的規制が計画された。すなわち,2013年までに水銀の規制に関する国際的な条約が模索されており,日本政府はその条約に水俣条約と命名することを提案している。しかし,水俣の問題は決して終わっていない。現状ではその命名に対して異論も在る。
  • 早水 輝好
    2011 年 22 巻 5 号 p. 344-351
    発行日: 2011年
    公開日: 2016/09/14
    ジャーナル フリー
    水銀による地球規模でのリスクの低減のため,国連環境計画 (UNEP) における水銀条約の制定に向けた交渉が2013年までの合意を目指して進められている。交渉は2010年6月から開始され,2011年1月には第2回政府間交渉委員会 (INC2) が千葉市で開催された。水銀の供給,貿易,使用,排出などの削減・廃絶や,適正保管,廃棄物管理などが交渉事項であり,INC2における議論を踏まえ,第3回政府間交渉委員会 (INC3) での議論のための条約の案文 (Draft text) が事務局で作成されることとなった (7月に公表済み)。INC3は本年10月末にケニアのナイロビで開催される予定であり,それに先立って9月末に神戸市でアジア太平洋地域会合が開催された。2013年に最終的に条約の採択・署名を行う外交会議は日本で開催することが決定されており,日本は「水俣条約」を実現するため,水俣病経験国として条約交渉に積極的に貢献すべく取り組んでいる。
  • 鈴木 規之
    2011 年 22 巻 5 号 p. 352-362
    発行日: 2011年
    公開日: 2016/09/14
    ジャーナル フリー
    水銀の大気中移動・運命研究パートナーシップは,国連環境計画 (UNEP) により設置されているグループで,水銀の大気中移動・運命に関して各国が共同して国際的な理解を増進しようとするものである。本パートナーシップは,イタリアをリード国として2005年に設立され,現在までカナダ,日本,南アフリカ,米国,およびElectric Power Plant Institute (EPRI),Natural Defense Council (NRDC),AMAP (Arctic Monitoring and Assessment Programme) Mercury expertsおよびUNEPが参加している。これまで,地球規模での水銀の発生源,各国での水銀観測の成果,地域および地球規模モデルなどを中心に,各国あるいは研究機関の成果に基づくとりまとめを行ってきたので,本稿ではそれらについて概要を紹介する。
  • 貴田 晶子
    2011 年 22 巻 5 号 p. 363-374
    発行日: 2011年
    公開日: 2016/09/14
    ジャーナル フリー
    国連環境計画 (UNEP) の進めている水銀条約の中での重要課題の一つである水銀の大気排出量について,既報およびUNEPの報告をまとめるとともに,日本における排出量推定値を概説した。また過去の採掘量,消費量も併せて示した。1900年からの世界の採掘量55万tonのうち,日本は1956年以降2.7万tonを消費し,1970年代に世界の1/5を消費した時期もある。水俣病の発生原因でもあり,UNEPの水銀プロジェクトのきっかけとなった極地への移動とそれに伴う食物連鎖の高位にある生物群への高濃度蓄積の事実に鑑み,日本の責務が求められる。世界の水銀排出量は年間1,930ton (1,220~2,900ton) と推定され,そのうちの56%をアジアが占めている。現在の採掘量1,300tonよりも多い量が大気排出されていることになるが,これは水銀使用製品以外に,不純物として原燃料に含まれるものの熱処理による大気排出量の寄与も大きいことがあげられる。日本の水銀の大気排出量は21.3~28.3ton/年と推定された。日本の特徴として,世界では石炭火力が45.6%と排出源としてもっとも大きな寄与があるのに対し,日本ではセメント製造 (31~42%),非鉄金属精錬 (2~13%),鉄鋼・製鉄 (14~19%) など製造業からの排出量が約60%を占めている。化石燃料燃焼は10~14%であり,世界全体に比べて日本での寄与は小さい。また廃棄物焼却全体は8~12%であり,下水汚泥焼却・医療廃棄物焼却,産業廃棄物焼却がほとんどを占め,一般廃棄物焼却は1%程度であった。一般廃棄物焼却では入口で,電池等,水銀不使用製品が普及したこと,また焼却炉内部では2000年前後にダイオキシン類対策のために集じん装置がバグフィルターに換わり,活性炭吹込も行われていることが,水銀排出量が小さい理由と考えられる。水銀排出量については,1980年代半ば以前には焼却ごみ中に1~2mg/kg程度あった可能性があり,また電気集じん機が主たる集じん設備であった当時の水銀排出量は年間30~60tonあった可能性がある。
  • 高岡 昌輝, 福田 尚倫, 吉元 直子
    2011 年 22 巻 5 号 p. 375-383
    発行日: 2011年
    公開日: 2016/09/14
    ジャーナル フリー
    本稿では,最初に日本,EU,アメリカでの水銀廃棄物の発生量,処分・保管等の現状について紹介した。日本においては,水銀の大気排出インベントリーとマテリアルフローから水銀の最終処分・回収量の推定を行った。その結果,最終処分されている水銀量と回収量を比べると回収量の方が大きいことがわかり,EUと比べても回収率が高いことが示唆された。今後,一次鉱出だけでなく回収された水銀についても輸出することが禁じられる可能性があり,余剰水銀や水銀含有廃棄物はその含有率に応じて長期・永久保管あるいは適正処分が求められる。そのため,この閾値を決めるための基礎的な実験的検討を行った。その結果,バーゼル条約やスウェーデンが独自に定めている水銀含有廃棄物の基準:0.1%には一定の合理性があると考えられた。今後は,水銀の安定化機構や長期的な安定性に関するさらなる科学的知見の蓄積が必要である。
  • 高村 ゆかり
    2011 年 22 巻 5 号 p. 384-393
    発行日: 2011年
    公開日: 2016/09/14
    ジャーナル フリー
    水銀条約は,人の健康や環境への悪影響を低減・防止するため,産出から,使用,輸出入,環境中への排出,そして最終処分までを通したあらゆる曝露の経路において水銀を規制する方向で交渉中である。水銀はバーゼル条約など他の条約ですでにその一部が規制されているため,これらの条約との齟齬を回避するよう,規律対象の定義と範囲を明確にし,同一の規律対象に国家が相反する義務を負わないようにすることが必要である。他の条約との調整に関する具体的な規定を定めることも有益である。関連条約の事務局との情報交換など継続的な制度的調整とともに,長期的には化学物質関連条約を統合的に管理するしくみの構築が検討されるべきである。
    水銀廃棄物や水銀,水銀含有製品の貿易規制は,特に水銀条約の非締約国からそのWTO協定適合性が争われる可能性がある。国内で水銀含有製品を生産し続けながら同種の製品の輸入を制限する措置や特定の国からの輸入のみ制限する措置は,WTO協定適合性が争われる可能性が高い。保護主義の口実として貿易規制が用いられないための条件を条約に定めることも検討に価する。
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