医学教育
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40 巻, 1 号
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原著-探索的研究
  • ―1年を通じたプロフェッショナリズム育成の場としてのearly exposure―
    後藤 道子, 津田 司, 横山 和仁, 中井 桂司, 横谷 省治, 竹村 洋典
    2009 年 40 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/07/07
    ジャーナル フリー
    早期医療体験実習は欧米を中心に他の国々でも広く行われており,中には年間を通して実施している大学もある.しかし,わが国においてはその多くが保健福祉現場での実習であり,かつ,ある一定の期間集中的に行うもので期間も様々だ.三重大学では学生の医学学習への意欲を高めるためのみならず,プロフェッショナリズム教育として,振り返りを伴った早期医療体験実習を1年を通して行っており,その授業を評価した.
    1) アンケートの結果,学生はコミュニケーション能力の重要性,医療と社会の関わり,患者と家族の関わり,医師としてあるべき姿について深く考え,授業を意義あるものと捉え高く評価していた.
    2) デイリーログの省察項目を分析したところ,学生は最初,衝撃を受け現場活動への参加を躊躇したが,1年の間に積極的に参加し,学習にも前向きになっていくと同時に慣れを生じるという経時的変化を起こすことが分かった.
    3) 「実習を通して何に気付いたか」についてポートフォリオの感想を質的に分析したところ,コミュニケーションの重要性,医師の責任・やりがい,医師・医療のあり方,学習意欲等10カテゴリーに纏められた.
    4) 最終回のリポートには,実習体験を踏まえ多くの成書を読んで,自分が将来あるべき医師の姿を描くことが出来ていた.
    5) 結論として,1年間を通して行った本実習は,短期間あるいは一過性の実習では得られない学生の医学学習や動機付けの維持に効果があることが明らかになった.
  • ―全国医学部調査より―
    児玉 知子, 浅井 篤, 板井 孝壱郎
    2009 年 40 巻 1 号 p. 9-17
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/07/07
    ジャーナル フリー
    国内医学教育における医療倫理は,これまで“医の原則”としてその重要性が認識されてきたが,現場での倫理的問題への対応について,どのように医学生に教育しているか明らかでない.本研究では,国内医学部における医療倫理の卒前・卒後教育の実施状況を調査するとともに,教育者による現状認識と今後の課題について検討した.
    1) 学務担当者へのプレ調査(79大学回答,回答率99%)では医療倫理を履修する学年は低学年が高率(1年次61%)で,5-6年次は11%であった.
    2) 医療倫理教育担当者が一貫してカリキュラムを担当していたのは54大学中28%であり,看護学生,保健学科などの他学部との合同教育を実施していたのは15校だった.
    3) 教育担当者への調査では,「ベッドサイドティーチングへの医療倫理教育導入」が教育体制への満足と関連する可能性が示唆された(オッズ比[95%信頼区間]=7.4[1.75-31.59]).
    4) 教育内容が十分であるかについて,教育者の専門分野を調整したロジスティック回帰モデルで検討したところ,「医療従事者を交えた講義やディスカッションあり」が有意であった(オッズ比=9.3[1.06-86.12]).
    5) 医療倫理の重要性が再認識される昨今であるが,医学部教育実状にはばらつきも大きく人的資源も乏しい.現場のニーズに早急に対応しつつ指導者育成も視野に入れた教育体制整備が必要である.
  • ―アクションリサーチによる短期的な臨床研修のカリキュラム評価―
    錦織 宏, 鈴木 富雄, 三島 信彦, 山本 直人
    2009 年 40 巻 1 号 p. 19-25
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/07/07
    ジャーナル フリー
    新臨床研修制度下において,地域の医師不足問題が深刻化している.その解決のための一案として,本研究では,地方都市の郊外にある海南病院における臨床研修カリキュラム改変に対する評価を行って,それを基に臨床研修の充実化による医師確保モデルを提唱する.本稿ではまずアクションリサーチの形で短期的なカリキュラム評価を行った.
    1) カリキュラム改変では,屋根瓦方式の診療チーム体制をとり,研修医がより主体的に診療に参加できるシステムを整備した.また教育回診やカンファランスを積極的に導入した.
    2) 研修医を対象に行ったカリキュラム評価の結果「研修医に対する教育の機会の保証」や「臨床研修の充実化という病院の明確な方向性」などが臨床研修の充実化に必要な点としてあげられた.
    3)カリキュラム改変後,海南病院の研修医数は増加した.臨床研修の充実化は一定の成果を収めたと考えられた.
    4) 開業医に臨床研修に参加してもらって研修医に教育の機会を保証する方法は,より一般化可能性の高い教育資源確保の手法と考えられた.
  • ―臨床研修の中期的カリキュラム評価から―
    錦織 宏, 鈴木 富雄
    2009 年 40 巻 1 号 p. 27-33
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/07/07
    ジャーナル フリー
    新臨床研修制度下において,地域の医師不足問題が深刻化している.その解決のための一案として,本研究では,地方都市の郊外にある海南病院における臨床研修カリキュラム改変に対する評価を行って,それを基に臨床研修の充実化による医師確保モデルを提唱する.本稿では前稿に加えてさらに中期的なカリキュラム評価を行い,上記モデルの提示を行った.
    1) カリキュラム評価のため研修責任者を対象に行ったインタビュー調査の結果,臨床研修の充実化に必要な8個の項目が明らかになった.
    2) 臨床研修の充実化によって初期研修医が増加した後,後期研修の質を保証することで初期研修修了者が残留し,それが医師確保に繋がる.
    3) また初期・後期の研修医が多い病院は大学の関心を呼ぶため,指導医を派遣してもらうことがより容易になり,これも医師確保に繋がる.
    4) 臨床研修の充実化による医師確保の一定の成果が出るまでは最低約3~5年の期間が必要であるが,医学部の定員増の結果を待つよりは即効性がある.
総説
  • 堀 原一
    2009 年 40 巻 1 号 p. 35-42
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/07/07
    ジャーナル フリー
    1)40年前をふり返る
    形ばかりで実を伴わなかったインターン制度に反対して立ち上がった医学生や青年医師らの問題提起に端を発した全国の大学紛争の1969年8月,場当たり的対策しか講じられなかった全国医学部長病院長会議で,医学教育改革のため中長期の目標を定めての研究を通じた活動をすべく本学会が始動した.
    2)その後の歩み
    設立時全国から参集した62名の同志的会員は時代と社会の要請を受けて2,000名を超え,全80大学医学部と教育研修病院の機関会員が230となって,本学会は医師候補者たる入学者選抜に始まる卒前医学教育から,医師国家試験,卒後臨床研修,大学院での基礎研究者育成および生涯教育にわたる広いスペクトラムで,研究活動に根差して医学界や国への重要な発言や提言を積極的に続け,国民の健康・福祉の向上を追求してきた.
    3)活動の実績
    医学教育改善のために各種委員会やワーキンググループが日常的に活動するとともに,多くの会員個人としても公の医学教育改革の諸局面に参画して実績を挙げてきた.
    会員の研究発表と交流のために,毎年機関会員の場で大会の開催を続け,40回を重ねた.時時の課題を取上げて研究会やワークショップなども開催し,問題解決を図っている.
    年6号の機関誌「医学教育」を発行し,会員の研究や調査の結果と医学教育に関する情報を広く提供してきた.また学会編集や監修および会員の著作になる医学教育図書の刊行が続いている.
    1974年から35回になる「医学教育者のためのワークショップ」(富士研ワークショップ)を主催するほか,全国諸機関や組織でのFDの推進と協力を枢要な活動の柱としてきた.
    全国の大学や教育病院に設置されるようになった「医学教育ユニット」(総称)立上げの仲立ちの役割を担い,また大学院「医学教育学」コース(仮称)設置を検討している.
    4)将来へ向けての期待
    わが学会は,"noblesse oblige"のプロフェッションたる良き医師育成と望ましい健康・福祉の開拓という国民の期待に応えるべく,今後も使命の高揚に努める.
Opinion
  • Atsushi SHIMIZU, Yuzo TAKAHASHI, Yasuyuki SUZUKI, Alan T. Lefor
    2009 年 40 巻 1 号 p. 47-53
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/07/07
    ジャーナル フリー
    Medical students in Japan often want to do clinical rotations abroad. Preparation for these important clinical experiences is essential to maximize the learning opportunities. Language ability is only one small part of assuring success.
    1) It is important to consider the hospital where the rotation will take place, the specific rotation, the living arrangements and commuting to the hospital. Preparation before the rotation should include practice in performing and writing a complete patient history and physical examination.
    2) It is very helpful to have a cell phone while abroad, as well as a credit card. Students must bring a white coat, and it is recommended that they also bring a Japanese textbook in the field they will study.
    3) While on a clinical rotation, students must be active participants in patient care and in discussions. They must be aggressive about answering questions during ward rounds. Students must be aware of many cultural differences to have good relationships with patients and colleagues.
報告
  • 矢久保 修嗣, 木下 優子, 太田 浩
    2009 年 40 巻 1 号 p. 55-60
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/07/07
    ジャーナル フリー
    漢方医学には腹診という日本独特の診断法が存在している.これは,患者の腹部を医師が触診したときに得られる腹部所見である腹証を得るために行われる.この腹診の習慣には困難が伴うため,これを学ぶための腹診学習用シミュレータの作成を行ってきた.これは心下痞こう,胸脇苦満,腹直筋弯急,小腹硬満,小腹不仁,心下部振水音などの所見をもつ6個の腹部模型である.
    1) 医師を対象とする漢方医学の講演会など腹診学習の現場において,我々はこのシミュレータを実際に使用し,これに対する参加者の意見や感想をまとめた.
    2) 漢方医学の関心や腹診の理解,腹診学習用シミュレータに関して無記名のアンケート調査を行い,回収ができた講演会の参加者149名分を対象とした.
    3) 参加した多くの医師は漢方医学に対して関心をもち,漢方医学の臨床における意義を認めている.しかし,腹診を知らないという医師が23.5%に存在した.
    4) 本シミュレータを使用した講演による腹診に対する理解については,たいへんによく理解ができた,あるいはよく理解ができたという答えが58.4%にみられた.
    5) アンケート調査結果からは本シミュレータの改良すべき課題も指摘されたが,腹診を学ぶ際にはシミュレータの使用は有用と考えられた.
  • 平川 仁尚, 葛谷 雅文, 植村 和正
    2009 年 40 巻 1 号 p. 61-64
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/07/07
    ジャーナル フリー
    高齢者の終末期ケアに関する医学科・看護学科用系統的教育プログラム作成のための基礎資料を得ることを目的に,全国の医学科・看護学科の教科案内(シラバス)の調査を実施した.
    作成されたモデル以外に,エイジズム(年齢による差別)や高齢者の終末期の定義を教育項目に盛り込む必要があると考えた.
    高齢者総合機能評価comprehensive geriatric assessment (CGA)を含めて,高齢者のquality of lifeに関する項目が教育上重要であった.
  • 奥宮 太郎, 森本 剛, 中島 俊樹, 小倉 健紀, 平出 敦
    2009 年 40 巻 1 号 p. 65-71
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/07/07
    ジャーナル フリー
    クリニカル・クラークシップ型の臨床実習が導入されるようになり,医学生の実習先は均一でなくなった.一方,実習先により実習内容が異なるため,満足な実習が受けられた実習先とそうでない実習先の存在が明らかになってきた.しかし,その満足度の差の原因が明らかでないため,自主的に医学生が満足度に関連する因子を定量的に調査した.
    1) 臨床実習を行った京都大学の5回生99人を対象に,実習先の満足度,実習内容 (5項目),責任者の熱意,指導スタッフの熱意について5段階評価で質問紙を配布し,84人から回答を得た.
    2) 実習の満足度に独立して関連する因子は,スタッフの熱意(β係数0.34),責任者の熱意(0.30),身体診察の頻度(0.09)であった.
    3) 不満(満足度1)と回答した34件の自由コメントを分析すると,「指導医との接触がほとんどなかった」が22件と最多であった.
    4)内科・外科や学内・学外病院の違い,実習先診療科の違いは,有意な因子ではなかった.
    5)学生の満足度が高い実習では,指導医の熱意があり,学生が常に指導をうけ,身体診察の機会が多いことが示唆された.
  • 北見 欣一, 篠原 諭史, 武藤 容典, 竹田 扇
    2009 年 40 巻 1 号 p. 73-84
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/07/07
    ジャーナル フリー
    近年カリキュラムの見直しにより肉眼解剖学実習の時間は削減され,解剖学教育を効率的に行う必要が生じてきている.また,教育負担が他の分野より多いにも関わらず解剖学講座の定員は他講座と同じであり,教員の負担は寧ろ増大している.今回,実習の学習効率の向上と学生の能力開発を目指し,3~6年生の学生からなるティーチングアシスタント(TA)を採用し,解剖学実習学習補助システム(TAシステム)を立ち上げた.
    1)TAシステムを評価するために,2年生・TAを対象に実習中盤と終盤の2回にわたりアンケート調査を実施した.
    2)1回目のアンケート結果を基に教官とTAが改善点を検討し,改善策を実施した.
    3)TAには解剖実習の補助に加えて,解剖学に関係する調査研究課題を課した.
    4) TAシステムは2年生・TAの双方から概ね好評であったが,正規カリキュラムとの関係から実習に参加可能なTAの数を一定に保てず不満が出るなど課題が残った.
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