医療安全を契機に医学教育の質保証が強く求められるようになり, 教育のアウトカムが重視されるようになった. 教育のアウトカムとして全ての医師が修得すべき能力 (ジェネラル・コンピテンシー) とそこに至るマイルストーンズを設定することで医学教育から臨床研修へのシームレスな医師育成が可能になる. アウトカム基盤型教育ではコンピテンシーの達成が教育の柱であり, その達成を証明する評価が重要である. コンピテンシーの評価は, 筆記試験に加えてパフォーマンス・テスト, 観察評価, ポートフォリオなどにより多面的に行われる必要がある. 現状の医師国家試験ではこのような多面的な評価は実現できていない. 卒前から卒後へのシームレスな教育継続を担保するには, ジェネラル・コンピテンシー, マイルストーンズの設定に加えて, 医学部, 医科大学が臨床実習, 卒業判定において卒業時マイルストーンを適切に評価し, 学位を授与することが求められる.
日本の医学教育では, 欧米に比して, 学生の医学知識の面では決して劣ることはないものの, 臨床実習の時間と内容という面で不十分であることが指摘されている. 全国医学部長病院長会議では, CBTとOSCEからなる共用試験の資格化に取り組み, 全国統一基準でスチューデント・ドクターの認定を行おうとしている. これにより臨床実習に進む学生の質保証が行われ, 国民の理解を得たうえで, より充実した診療参加型臨床実習に実施することが可能となる. 日本の医師国家試験は問題数が多く, 受験生の負担も大きい. 今後, 医師国家試験が臨床実習の成果を判断するものになると共に, 将来的には各大学での客観性, 公平性の担保された卒業時OSCEの実施を条件として医師国家試験の軽減化も考慮されるべきであろう.
筆者は, 臨床実習開始前の共用試験OSCEの運営に関わっている. 本稿では, 臨床実習後OSCEを受験する学生に問う内容の考え方, 試験システムの導入や運営上の想定される課題などについて述べ, 最後に国際基準による分野別認証制度の導入や医師のプロフェッショナリズム教育に焦点が当たっている現状を踏まえ, 近未来の臨床教育について展望する.
背景 : 本研究では, 新人看護師が先輩看護師に求める関わりを測定する尺度を作成し, その実際と影響要因を検討することを目的とした.
方法 : 先行研究を参考に尺度を作成し, 先輩看護師844名を対象に調査を行った.
結果 : 作成された尺度は「新人理解行動」「関わり促進・雰囲気作り」「自身の感情コントロール」「ねぎらい」の4因子で構成されていた. 本調査では関わりを実施している先輩看護師が多かった. プリセプター経験とプリセプター研修受講経験は各因子への影響は異なり, 年齢と看護師経験年数は全ての因子でほぼ関連を認めなかった. 新人看護師が求める関わりは, 先輩看護師の基本属性に関係なく実施可能であると示唆された.
目的 : 模擬患者参加型医療面接実習での教員からのフィードバック (FB) の内容とそれに対する医学生の評価, および教員用FBマニュアル (マニュアル) の効果を検討した.
方法 : 実習を撮影したビデオの解析, 学生への質問紙調査, マニュアルの作成とそれを用いた教員の研修を実施した.
結果 : FBの内容の違いには面接の出来が強く影響していた. 学生からの評価は良好で, 特に「臨床の体験談」「学生同士の討論」を肯定する意見が多く得られた. マニュアル導入後はFBの内容の偏りが減少した.
結論 : (1)臨床の体験談や学生同士の討論を含むFBは学習効果を高める可能性がある. (2)マニュアルの導入でFBの偏りを減らすことができた.
背景 : 電子カルテを用いて多人数を対象としたシミュレーション授業は医学部ではまだ十分に普及していない.
方法 : ファイルメーカーで疑似電子カルテを作成した. 医学部3年生および6年生に講義室で症例に関連する外来診療体験シミュレーション授業を行い, アンケート調査を行った.
結果 : 回収率は3年生 63.1%, 6年生 76.3%で, 回答した各受講生の87.1%, 78.9%に興味を持ってもらえた. 本授業は実践的で参加型であると評価された. 3年生は5.6%が難しいと答えたが学習したいという意見も多かった.
考察 : 疑似電子カルテシステムを用いることにより, 低学年でも興味深くシミュレーション授業を受けることができた.
医学部臨床実習・卒後臨床研修を担うよき臨床指導医を育成するため, 海外での教員養成プログラムが構築された. 医学部教員10名が参加し, 講義・実地見学を通じて海外の臨床教育を学び, それに対する認識を変容させた. この経験から, 海外教員養成プログラムの効果を最大限にする要因を考察した. すなわち, 1) 優秀な教育機関・環境, 2) 参加者の専門性と見学診療科のマッチング, 3) 講義と実地研修・振り返りのコンビネーション, 4) 文化的相違への相互理解, 5) 1週間という滞在期間で生じる仲間意識である. これらは海外における教員養成プログラム構築・運営・医学教育研究の発展に示唆を与えるものである.
諸言 : わが国の医学教育においては, 行動科学が医学教育の中で独立したカリキュラムとして取り扱われることはほとんどなく, 体系的な教育はなされていない.
方法 : 日本行動医学会評議員に対するデルファイ法を用いた意見調査から明らかになった医学部卒業時に求められる行動科学に関するコンピテンシーを基に討議を重ね, アウトカム志向型のカリキュラム案を考案した.
結果 : 演習や実習を取り入れた, 行動科学1単位=15時間の学習モデュールを提案した.
考察 : アウトカムに到達するために, 疾患の全人的理解および行動変容を目的とするロールプレイなどを取り入れた実習・演習や, 実際の治療戦略を考案するPBL, TBL形式の学習を推奨したい.
医療現場でのチーム医療実践のため, WHOは多職種連携教育 (IPE: interprofessional education) の重要性を提唱している. 近年, 患者の参加協力を得て行ったIPEの報告があるが, 糖尿病教室におけるIPEの報告はほとんどない. そこで, 多学部学生による糖尿病教室の企画・運営, そして振り返りを含めたものを「糖尿病教室IPE」として実施した. 参加学生は, 医学生2人, 看護学生4人, 薬学生4人, 栄養学生3人の計13人であった. 参加した学生, 患者, 医療スタッフに対するインタビューの結果より, 本IPEはIPEプログラムの一形態として有用であると考えられたため報告する.