1945年当時, 我が国の医学部入学定員は1万人を超えていた. 終戦後, サムス大佐により医師養成課程が改革され, 医学校の統廃合, 国家試験, インターン制度が導入された. 卒後トレーニングは1968年に卒後臨床研修, 2004年に法に基づく臨床研修に変わった. 法に基づく臨床研修導入前は, 医師養成に医局講座制度が深くかかわっていた. 卒前医学教育は1948年に医学教育基準が策定され, 全国統一のカリキュラムとなったが, 新構想大学としての筑波大学医学専門学群の登場により, カリキュラムの自由度は高まった. これらの歴史を踏まえ, 専門医制度のあり方や, 医学教育カリキュラムの今後のあり方を考えていく必要がある.
2017年のモデル・コア・カリキュラム改訂に伴い, 医療人類学と医療社会学が初めて医学部のコア・カリキュラムに組み入れられた. これら学問の知は, 生物医学が明確なひとつの答えを提示することができず, 不確実性が生じる場面において有用であると思われる. 20世紀の後半以降, 疫学的知識に基づく早期介入が医学では盛んになり, また個人は, 自身の健康に責任を持ち, 未来の病気のリスクを飼い馴らすよう要請されている. 不確実性に直面した患者は科学の目から見るとしばしば非合理な判断をするが, そのような際にこそ, 患者の選択がどのような社会文化的, あるいは政治経済的背景から生じるのかを理論的枠組みの中で理解することを補助する医療人類学・医療社会学の知見が有用になるであろう. ふたつの学問の知見は医療従事者と患者が建設的な対話をするための場を提供するはずであり, そのための知見として本稿では, 文化人類学者メリー・ダグラスのリスク論, 医療人類学者アーサークラインマンのヘルスケアシステムを紹介する.
教育は社会的に構築される. 医療は, 保険制度はもとより, 国の成り立ちや歴史, 国民性, 文化によっても影響を受け, 国によってそのありようは異なる. 大きく時代が変わる中, 社会のニーズに応えられる医師の育成に向けて, 医学教育がどのように取り組んできたか, また, 今後の課題について概説する. 4年ごとに改訂されてきた海外の教科書『Practical Guide for Medical Teachers (第5版) 』と, 本学会の『医学教育白書2018年版』の記述に加え, 著明な医学教育研究者から頂いた意見をもとに, 世界の医学教育の流れをいくつかの岸辺に立って眺め, わが国の課題について論考を試みた.
今, 医学教育は大きな転換を迫られている. それにはさまざまな社会的背景があるが, それらを9つに分け, それぞれに伴って, これから変化が求められる医師の役割と, そのための医学教育改革について述べた. その9つの社会的背景とは, 1) 高度先進医療の発展・医学知識の膨張, 2) 医療のテクノロジー化, 3) 患者の知識の増大・意識の変化, 4) 人口の少子高齢化, 5) ICT (情報通信技術) 革命の進行, 6) AI (人工知能) の発達, 7) 医療の専門細分化, 8) 医療関係職種の多様化, 9) 世界のグローバル化, である.
臨床研修制度は5年に一度の見直しが行われ, 2020年度から施行される「研修制度に関する省令」が2018年7月3日付で各都道府県知事宛てに通知された. 公表された制度は, 卒前医学教育のモデル・コア・カリキュラムや日本医師会生涯教育制度との一貫性を強く意識したものになった. 日本医学教育学会卒後・専門教育委員会は, 臨床研修制度と医学教育と題したシリーズをこれまで6回にわたり本誌に掲載してきている. 今回, 当委員会でシリーズ全体の振り返りを行い, 新しい臨床研修制度とそれを取り巻く現状, これからの医学教育に関わる課題について意見交換した. その内容をシリーズの最終回として報告する.
医学部1年生に対する初年次教育として, 医学部での6年間の学習の全体像を示し, 必要なスタディスキルをディスカッションやワークを通じて学習する授業を実践した. もともと講義として割り当てられた授業であったが, 医学部の多彩な学習形式を体験できるよう, 学生同士でのディスカッション, レポートの採点や論文の紹介などのワーク, 学習記録のノート提出とMoodle上でのフィードバックの閲覧などを取り入れた授業を展開した. 本教育実践を通じて, 学生が医学部6年間でのコア・コンピテンシー獲得に向けての学習の道標を理解し, 多様な学習方略の基盤となるスタディスキルを獲得することを期待している. 本実践の学習効果は経年的な評価による検証が必要であり, 検証に基づいた実践の改善に長期的に取り組んでいきたい.