日本医学教育学会誌の投稿区分を概説する. 「原著」「教育実践研究」は明確なリサーチ・クエスチョンに沿ってデザインされた研究で, 妥当性・信頼性の確立した研究手法を用いたものである. 先行研究の確認 (literature review) や, 理論的枠組み (theoretical framework) を用いたディスカッションが不可欠である. 本稿では, これらの区分に投稿された論文の不採択理由を具体的に示し, 査読者の視点や論文執筆のポイントを伝える. また, 本号から新たに投稿区分に加わった, 「実践報告―新たな試み―」について説明する.
研究論文を国際学術誌に投稿する際には, 学会 (誌) の趣旨, 読者層, 採択率, インパクトファクターなどを踏まえて投稿先を考える. 今回「医学教育」編集委員会は, 日本の医療/教育機関に所属している筆頭著者の論文で, 2009から2018年の間に国際誌に掲載されたものを集計した. 最も掲載論文数が多かったのはBMC Medical Educationで41本 (全て原著論文), 続いてMedical Teacherで22本 (原著16本) であった. Academic Medicineは8本, Medical Educationは7本の掲載論文があった. このほか日本からの掲載はほとんどないが, Advances in Health Science Education, Teaching and Learning in Medicineなどが主要誌に位置づけられる. また専門領域に特化したものにはAdvances in Physiology EducationやJournal of Surgical Educationなどがある. 本稿ではこれら代表的な医学教育誌の特徴 (重点を置いている話題, ユニークな投稿区分, 投稿に際する注意事項など) を情報提供する. 論文投稿に活用いただければ幸いである.
興味深いデータや結果が得られたとしても, 論文化する際にどのように学術的, 論理的に研究の意義や結果, 解釈, 提言をまとめるかで, その論文の「質」は大きく変わってしまう. 本稿では, 「質」の高い研究論文の作成で必要なことに関して「文献レビューに基づいたリサーチギャップの特定」「認識論的立場の明確化と理論的枠組みの援用」「実施した研究方法の厳密性の強調」「読み手の文脈へ応用可能な実践的および理論的な示唆の提供」「本文全体の論理展開の一貫性の確保」の5つの観点を取り上げて考えていく.
我々はなぜ医学教育研究の論文を書き, また学会などで発表するのだろうか? またなぜ医学教育研究の論文を読み, 学会での発表を聞くのだろうか? 医学教育の実践はしばしば講義室などの閉じられた空間で行われ, そこには, <教員・指導医>と<医学生・研修医>といった明確な権力勾配が存在する. 本稿では, 権力構造に着目した批判理論という認識論的立場に立ち, 医学教育研究における教育事例報告の意義についての論を展開する.
背景 : 効果的な教育を行う上で, 医学用語の修得プロセスを明らかにすることは重要である. 方法 : 医学生1〜5年生を対象に, 医学用語57語の認知・理解について質問紙による横断調査を行った. 用語ごとに学年別の認知率, 理解率を算出し, クラスター分析を行った. 結果 : 448名が回答した. 57語は, 1年生から認知と理解がある I 群, 1年生から認知は高く理解は学年と共に進む II 群, 学年と共に認知と理解が進む III 群, 1年生から認知は高いが理解は高学年でも低い IV 群, 学年と共に認知は進むが理解が進まない V 群の5つに分類された. 考察 : 用語ごとに習熟パターンが異なることから, 用語習熟の特徴を踏まえた教育の工夫が必要と考えられた.
目的 : 臨床研修事務担当者の役割と資質について担当者の認識を明らかにする. 方法 : 臨床研修事務担当者に対し, 具体的な役割として重要と考える「業務」と「姿勢」を自由記述して貰い質的・半定量的に分析した. 結果 : 業務では管理業務, 広報活動, 連携調整の他に, 研修医の精神的支援・生活支援・社会人教育等の支援的, 教育的役割も多数抽出された. 姿勢面では人間性, 業務の質向上の他に, 相談役, コミュニケーション, 潤滑剤, 研修医中心性, 教育マインド等, 人材育成に重要と考えられる多様な資質が抽出された. 考察 : 臨床研修事務担当者は人材育成の役割と姿勢が重要であると認識していた. この結果は担当者の能力開発に資すると考えられる.
最近ではLGBTという言葉が一般的に使用されるようになり, 多様な性表現の人たちがテレビに出演したりして, 性の多様性が広く知られるようになっている. 一方で, 性同一性障害と診断されても自認する性のトイレや更衣室の使用を禁止されることもあり無理解や偏見は根強く残っている. 医療の現場には様々な性表現を持つ人びとが受診されることから, 医療のプロフェッションとしての医療従事者が多様な性表現に偏見を持つことは許されない. 本稿では性別違和を持つ人たちに対する偏見を解消するための方略を提案する.
医学教育モデル・コア・カリキュラム (平成28年度改訂版) に収載された「放射線の⽣体影響と放射線障害」の教育実践推進策を検討するために, 全国医学部の実態調査を⾏った. 4つの学修項⽬のうち「生体と放射線」と「医療放射線と生体影響」では全大学の半数程度が1コマあるいはそれ以下の教育時間数, 「放射線リスクコミュニケーション」と「放射線災害医療」は半数の大学で教育されていなかった. 大学間の⼈的リソースの偏りも顕著であった. ⾼品質化, 均質化した教育を⽀援するプログラムが必要で, そのツールとしては要望の高かった学内教育で使⽤できる教育コンテンツを開発, 提供することが現実的な初期策として考えられた.