人間・環境学会誌

犯罪機会に着目した安全教育プログラムである「地域安全マップの作製」が、小学生児童の犯罪被害防止能力に及ぼす効果について検討した。小学校3年生60名と5年生75名が本研究に参加した。5年生の参加者は、過去に2回「地域安全マップの作製」を経験していた。児童の約半数は、「地域安全マップの作製」プログラム(実験群)に、残りの半数はその他の安全教育プログラム(統制群)に参加した。研究では、安全教育の前後に、2種類のイラスト(公園と街路)を用いて、児童の犯罪機会の認識の程度を調べた。イラストには、犯罪機会に関する環境特徴が、各8ヶ所描かれていた。児童の犯罪機会認識得点に対して4要因2水準(学年、群、イラストの種類、プレ/ポスト得点)の分散分析を行った結果、各イラストについて、プログラム前よりプログラム後の得点が全群で高いことのみが認められた。結果から、地域安全マップの作製が児童の犯罪被害防止能力に及ぼす効果は他の安全教育と同様であり、かつ、学年差も認められないことが明らかになった。また、5年生と3年生との間でプレ調査の得点に差はなく、地域安全マップの作製の効果の持続性は1年未満であることが示唆された。考察では、得られた結果について議論した。

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本稿は、日本の建築計画学分野における「トランザクショナリズム」の導入紹介及びその実証的研究の展開過程をレヴューし、若干の課題と展望を素描したものである。Canter,D.(1985),Moore,G(1987),Altman,I.&Rogoff,B.(1987)を参照しつつ、舟橋國男(1989)が理論の概要と特質を紹介するとともに、これに基づいて既往の建築学や建築計画学・建築設計に蔓延する決定論的な思考に対する一つの新たな視点として、人間環境関係の非二元論的・一体的なあり方を謳って、建築計画学におけるその意義と可能性を考察した。これを受けて、「トランザクショナリズム」や「相互浸透(論)」を標榜する幾つかの研究が展開された。それらの諸研究における「相互浸透」の意味に留意してみると、人間と物理的環境との関係性を論じたものと、異なる立場・役割にある人間間の関係性を論じたものに大別されることが明らかになった。ただし、これらの諸研究が論じている相互関係・相互連関・相互交流等の記述は、「人間」と「環境」という二元論的把握を含意している虞があり、それぞれがそれぞれを前提として分離不可能な統一体であると言う「トランザクション」の本質的観念とどのように関わるか、必ずしも明確ではない場合が多い。個性的でより豊かであるべく不断の創発的変化を続けようとする人間とその環境(ヒトモノコト)のトランザクションを疎外することなく、建築物ではなく「ものごとを組み立てること」の本質を問い直す建築を目指すとき、我々はより広く深い「建築世界」を展望し得るであろう。

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現象学的心理学の基盤である現象学は、意識の「志向性」、「現象学的還元」による素朴な定立の判断中止、「本質直観」による個別現象を越えた本質の把握を重要な視点としている。現象学的視点に立てば、人間は世界の内に存在する自我としてのみ存在しうる。この人間にとっての環境世界は人間のさまざまな価値によって彩られた主観的な生活世界である。さらにハイデガーによれば世界は主体と他者とが分かち持っている世界である。一方、トランザクショナリズムは、人間と環境の関係性を要素的ではなく全体的構造として捉えるべきであるという基本的観点に立脚し、時間とともに生じる変化そのものも重視する。また因果関係の追及よりも心理現象の実体や本質そのものを構造の記述と理解を通じて捉えようとする。その一方で複数の諸原理を折衷して適用する柔軟性も備えている。この現象学的心理学とトランザクショナリズムとの共通性と差異牲を検討し、今後の展望を考える。

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本論文の課題は、トランザクションという単位の有効性を明らかにすることである。トランザクションという単位は全体をとらえることを含意しているため、これまで「人と環境は一体のものである」というテーゼに代表される人と環境の同一視・完全な融合という極端な単位として受け止められることが多かった。トランザクションをそのような極端な単位として受け止めることは、トランザクションという単位の有効性を著しく損なうことになる。そのため、全体について理解を深めた。具体的には、「取り囲むという環境の特性」「主体の周囲」「時間」について検討を行なった。その上で、(1)トランザクションという単位における全体とは、主体である人の視点からとらえることのできる範囲であること、(2)人は環境に取り囲まれながら、かつ環境を知覚しているため、人と環境は内的関係にあること、そして、トランザクションという単位における全体とは、人と環境の内的関係における時間的な変容・展開であること、を提示した。つぎに、著者による特別養護老人ホームでのフィールドワークの事例の紹介と考察を通して、トランザクションという単位の有効性についてさらに検討を行なった。

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