Appletonが提唱したProspect and Refuge Theoryは,人間には危険などを離れたところから発見できる「周囲の見晴らしのよさ」と,自分の身を潜めることのできる「隠れ家」の性質を備えている環境を好むという傾向が形成されていると考える理論である。本研究は,このProspect and Refuge Theoryに基づき,見知らぬ他者が存在する空間における,不均一な室内照明が部屋の評価に及ぼす影響を,見知らぬ他者と評価者自身の位置の明るさに注目し検討した。模型を撮影した写真の評価実験から,1)部屋の評価は部屋全体の明るさをどのように感じたかどうかに影響され,2)部屋の印象は他者の位置が明るい場合により良く評価され,3)さらに部屋の印象の中でも,リラックス感は自分自身の位置が暗い場合に高く評価される。また,4)他者の位置が明るい場合に部屋の様子がより分かると評価され,自身の位置が暗い場合により人の目が気にならないと評価されることが示された。実験協力者自身が模型の照明を調整する実験から,1)他者の位置が自身の位置よりも明るい状況が快適とされる。しかし,明らかに他者のほうが明るいと分かるほど明るさの差が大きい状況ではない。また,2)色温度が高い光の場合には,快適な環境を作るために他者の位置と自身の位置の両方において,色温度が低い光の場合よりも明るさが必要であることが示された。
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