人間・環境学会誌
Online ISSN : 2432-0366
Print ISSN : 1341-500X
22 巻, 2 号
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目次
原著論文
  • 劉 秀鳳, 南 博文
    2020 年 22 巻 2 号 p. 1-13
    発行日: 2020/03/25
    公開日: 2024/02/22
    ジャーナル 認証あり

    本研究は中国福建省西部にある伝統的な集合住宅―客家土楼の居住様式と住民たちの生活について環境行動の観察に基づいた質的な分析を行った。明時代に創られ、現在も引き続き居住されている客家土楼の空間構造とそこに居住している住民たちの日常生活の環境行動学的考察を通して、客家土楼において観察される居住様式を明らかにし、以下の3つの研究結果を見出した。まず、客家土楼の全体構造は、外部に対しては「閉鎖」的な空間でありながら、内部に対して「開放」的な空間を維持するという特徴がある。また、住民たちの日常生活行動は内部に対する「開放性」を持ち、相互視認性を通じて居住者と土楼環境の各要素が相互浸透しており、生活の場の共有に基づく同族集住感覚という独特な生活感覚が生まれることが考察された。さらに、黒川(1983/2006)の中間領域論に基づいて、客家土楼の内部空間のいくつかの場所は中間領域の性格を持っていることが注目された。多数の中間的な空間の存在と空間の利用のしかたの多様性、曖昧性の特質をもつ客家土楼の構造を、「中間的領域」と呼ぶことによって客家土楼の空間構造と日常生活の関係性についてモデル的な考察を行った。

短報論文について
短報論文
  • 齋藤 美優, 山田 あすか
    2020 年 22 巻 2 号 p. 14-18
    発行日: 2020/03/25
    公開日: 2024/02/22
    ジャーナル 認証あり

    現在,日本は少子化に加え,公園の厳しい規制や自動車の普及,遊具の撤去などから,こどもが「やりたい」と思うことができる遊び場が減少している。本研究では,冒険遊び場と地域の遊び場におけるこどもの活動を調査し,遊び活動と環境の豊かさを明らかにする。

    冒険遊び場とは,「自分の責任で自由に遊ぶ」というモットーを掲げたこどもの「やりたい」という気持ちを実現できるようにした遊び場である。

    東京都武蔵野市にある小学校の学区内を対象とし,行動観察調査を行う。小学校の校庭と冒険遊び場と,遊具のある公園とない公園を1箇所ずつ選定した。

    調査から,公園から十分な情報が得られなかったため,冒険遊び場と小学校の校庭を比較する。遊びの継続時間に着目すると,平均遊び継続時間が冒険遊び場より校庭の方がおよそ5倍長かった。また,共通して起こるボール遊びでは,冒険遊び場は様々な場所で行われ,多様な遊び方が発生する。

    冒険遊び場での遊びを見ると,年齢により継続時間や遊具の結びつきが異なり,複数の結びつきから,多様な遊び場面が生まれる。さらに,数分で遊びや場所を転々とし,短い遊びの繰り返しが一連のストーリーを作り1つの遊びとなる特徴が見られた。

    冒険遊び場は遊びの要素が豊富なため遊具の遊び段階にも多様性が生まれる。現在日本の地域の遊び場は遊具が少なく,多様性が生まれにくいため,このような環境が今後のこどもの遊び環境に必要であると考える。

  • 柴田 祥江, 松原 斎樹
    2020 年 22 巻 2 号 p. 19-23
    発行日: 2020/03/25
    公開日: 2024/02/22
    ジャーナル 認証あり

    高齢者の住宅内での熱中症対策は喫緊の課題である。本研究では,有料老人ホーム(住宅型)居住者を対象に介入調査による室内温熱環境制御の啓発を行い,以下のことが明らかになった。(1)介入前の実態調査アンケートの結果,高齢者の住まいの夏期温熱環境制御の実態は,有効とされている外付けの日射遮蔽装置による対策は充分でないことが分かった。エアコン・扇風機の使用は,居間81.7%,寝室66.7%で,エアコンも扇風機も「不使用」は居間3.8%,寝室13.2%であった。熱中症への関心は全体的に高く,温度計の確認頻度が高い群は,熱中症への関心も高い傾向であった。(2)啓発後に行った10戸を対象にしたモニター調査の結果,シェード設置の評価は,効果があったとの回答は6戸で心理的な効果が確認できた。WBGT読み取り調査では,WBGT計の警告を活用しての室内温熱環境制御の行動を促した。今回の介入調査では,講演会での啓発により熱中症の危険性を自覚し,シェード設置とWBGT計の読み取り調査で,温熱環境改善の可能性を認識したことにより,行動変容が出現したと考える。

  • 堀越 まい, 佐藤 将之, 宗政 由桐
    2020 年 22 巻 2 号 p. 24-28
    発行日: 2020/03/25
    公開日: 2024/02/22
    ジャーナル 認証あり

    本稿は、まちの居場所としてのコミュニティシネマにおける交流や参画の様態を明らかにする。特に周辺地域の人々の希求意識に応えて幅広い種類の映画上映機会を提供するコミュニティシネマを通じたまちの居場所づくりの事例に着目し、2000年代以降に新設のシアターから規模や併設機能が異なる3事例を選定した。各運営者へはヒアリング調査を、規模が最大でイベントの多様な事例では来場者20名へのアンケート、ヒアリング、また行動観察調査を行った。運営者は、来場者やそのまちの人々と様々な取り組みを通じてつながりを深める意識がみられ、来場者は、映画を主目的とせずにふらっと立ち寄ったり、映画を介して交流の輪を広げていることがわかった。

    シアターにおける来場者の主体的な参画の段階を梯子に見立てて試論的にまとめると、来場者の主体的な参画を生み出すために運営者が心掛けるべき指標は、人的環境としての〔来場者とのつながり〕、物的・事的環境としての〔取り組み〕があり、これらが段階に影響している。参画の段階が上位になるにつれ、来場者とのつながりは運営者・スタッフによる市かけのみならず、来場者同士の市かけが発生する。また、来場者が当事者意識を持っためには随時的に長期間行われるイベントが求められる。来場者は様々な周期・期間で行われるイベントによって参画の機会を得たり、当事者意識を抱き主体的に参画するようになる。

  • 西尾 幸一郎, 小松 佐穂子
    2020 年 22 巻 2 号 p. 29-34
    発行日: 2020/03/25
    公開日: 2024/02/22
    ジャーナル 認証あり

    青年期には、高齢者に対して否定的な印象を持つことがある。専門職においても同様の場合があり、このことが介護サービスの質の低下や、高齢者自身の自己概念や適応にも影響を及ぼすことが指摘されている。そこで、高齢者の印象を向上させるため研究や実践の広がりが期待されている。本研究では、対人印象に影響を及ぼす要因の中でも室内空間要素に注目し、室内のインテリア様式の違いによって高齢者の印象がどのように異なるのかを検証した。152名の被験者に5様式のインテリア画像を背景に配置した高齢者男性と女性の人物画像を呈示し、15の印象評定項目について5段階尺度を用い印象評定を行った。得られたデータをもとに因子分析を行った結果、個人的親しみやすさ、社会的望ましさ、活動性の3因子が抽出された。各人物画像の因子得点の平均値を用いて分散分析を行った結果、和風様式は他の様式と比べて、個人的親しみやすさや社会的望ましさの評価を高めるが、活動性の評価は低くなること、和風様式における個人的親しみやすさの評価は男性よりも女性の方が高いこと、などが明らかになった。

研究会報告
編集後記
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