広義のアカイエカCulex pipiens s.l.のmolestus型の実験室飼育系統から分離確立したgenetic markerを保有するGr系とOr系, およびanautogenous(pallens型)Ka系を用いて, 種々の交配実験をおこない, これらの系統の交尾選択性, 交尾習性等について検討した.1.Or系♀×(Or系♂+Gr系♂)の交配では, 全観察卵塊のおよそ13%に, 同一卵塊から由来する幼虫に, Or色と混合色MIXの幼虫の混在が認められ, これらの幼虫は, Or♀×Or♂とOr♀×Gr♂から由来し, GrとOrの2系統の♂の精子と受精した卵の集りから由来するとみなされた.従つて, 1匹の♀がOrとGrの両者の♂と交尾受精し, それぞれの精子と受精したものが混合することがあると推定された.2.Ka系♀×(Gr系♂+Ka系♂)ないしGr系♀×(Ka系♂+Gr系♂)の交配では, 得られた卵塊別のふ化率, 胎死率, 末熟率と, ふ化した幼虫の色によつて, これらの組み合せにおいても, Ka系およびGr系において1匹の♀が2匹ないし, それ以上の♂より受精することがあると推定された.3.(Gr系♀+Ka系♀)×(Gr系♂+Ka系♂)の交配では, Ka系♀にKa系♂とGr系♂の2系統の♂と交尾受精したと推定されるものが観察卵塊の6.3%に認められた.4.♂羽化1日前と8日前に羽化した2系統の♂が混在する場合は, Or系♀×(Or系♂+Gr系♂)ないしKa系♀×(Gr系♂+Ka系♂)およびGr系♀×(Ka系♂+Gr系♂)のいずれの組み合せでも, ♀の羽化1日前に羽化した若い♂と交尾受精する傾向が強いことが推定された.5.Ka系♀×(Ka系♂+Gr系♂), Gr系♀×(Gr系♂+Ka系♂), (Gr系♀+Ka系♀)×(Gr系♂+Ka系♂)の交配では, それぞれ同型同志との交尾選択性が明らかに認められた.
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