1967年4〜10月, 横浜市保土ケ谷区内の豚舎ならびに隣接する鶏舎でライト・トラップによりコガタアカイエカを連日採集し, 採集時の吸血率および経産率をしらべ, さらに生存吸血個体を飼育して次代の成虫を得, これらについて2, 3の観察ならびに実験を行なつた.実験期間中の幼・成虫の飼育ならびにマウス給血などはすべて室温下で行ない, また日長時間は自然のままとし, 人工照明は用いなかつた.本調査はおもに豚舎の採集蚊に重点をおいて行ない, 鶏舎のそれは参考程度にとどめた.結果の概要はつぎのとおりである.1)6〜9月間, 豚舎および鶏舎で終夜採集された成虫雌の吸血率は, 前者が平均59.0%, 後者は22.3%であつた.しかし豚舎では, 7月の吸血率が平均値よりはるかに低く, 豚コレラ予防消毒薬の使用による影響と推定された.これがなければ, 豚舎では60〜70%の吸血率が期待される.2)4〜10月間に豚舎で採集された満腹吸血雌を飼育し, ケージ内産卵状況を観察し結た果, 5月末より9月下旬まで産卵が認められた.そのうちとくに9月は産卵率高く50%以上を示し, 最高は9月上旬の60%であつた.しかし自然界における産卵率との関係は明らかでない.3)前項で6〜10月間に得られた合計約300卵舟の月別平均卵数は, 6月の227.5個を最高とし, これ以後は季節の進むにしたがい減少した.その割合は, 6月の平均卵数を100とした場合, 7〜10月間はそれぞれ86, 81, 78, 65であつた.卵のふ化率は季節的変動が少なく, 平均95.1%であつた.4)豚舎における4〜10月間の経産率は昨年(前報)とほとんど同じ傾向を示し, 5月が最も低く, シーズンの終りに向つて上昇し, 10月は89%に達した.平均卵数との間には逆の関係が認められた.鶏舎における5〜9月間の経産率も季節の進むにつれ上昇傾向を示したが, 卵数との関係は調査しなかつた.5)ライト・トラップ採集蚊の次代雌成虫につき, マウス給血後卵巣発育状態を観察した結果, 栄養生殖分離は8月上旬以後の羽化成虫に現われた.しかし, その出現率が80%以上に上昇したのは9月中旬羽化成虫からであつた.両者の羽化当時における日長閾値は, それぞれ14時間および12時間30分〜12時間20分であつたが, 卵・幼虫期の日長はこれよりさらに長い.6)前項の結果から推定される本種の越冬個体群構成は, 二系統より成ることが考えられた.第I集団は9〜10月の年内活動世代の一部, 第II集団は第I集団に由来する本来の越冬個体群である.後者は未吸血未経産で越冬し, たとえ吸血しても卵巣濾胞の発育は期待されない.
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