ゲタ群ウイルスのプロトタイプ(MM2021)はマレー半島クアラルムプールで得られたCulex gelidus Theobaldから分離されたが, 他に同地域のクアンタンで得られたコガタアカイエカからも分離され, さらに, オーストラリアにおいても同種ウイルスに対する抗体の分布が確かめられている。日本では, 埼玉, 群馬, 大阪, 長崎, 大分, 沖繩において, キンイロヤブカ, コガタアカイエカおよび, と殺ブタ血液から類似のウイルスがときどき分離され, この群のウイルスは関東以南では日本各地にかなり広汎に分布するらしいと考えられている。福岡地方において, 1963-1972年間に, 数地点から採集したコガタアカイエカ205,095♀♀およびその他の蚊7,636♀♀について, 同ウイルスの保有を, 組織懸濁液の, 乳のみマウス脳内接種法によるウイルス分離試験によって検索した結果では, 計10株の非日本脳炎ウイルスが分離され, 通常のアルボウイルス同定試験および抗分離株マウス血清による血球凝集抑制試験の結果, 9株はゲタ群のウイルスと判定された。これら9株のうち, 3株は1970年に特定のサンプルから集中的に分離されたが, 他は異なった年に異なった地域で得られたサンプルから散発的に分離された。このことから, コガタアカイエカのゲタ群ウイルス自然感染は当地方ではかなりの頻度で各地に発生するが, 常に小規模にとどまると推察され, その時期は7-9月にわたっていた。また, 同蚊の日本脳炎ウイルス自然感染との関連では, 特定の時期的関連は認められなかった。従来, ゲタ群ウイルスは日本ではコガタアカイエカからよりもキンイロヤブカから分離された例が多いが, 当地方ではキンイロヤブカは個体群密度が低く, この蚊のゲタ群ウイルス自然感染については知ることができなかった。しかし, 北部九州各地におけるゲタ群ウイルスの主要媒介蚊は, 実際的には, 個体群密度が他よりも著しく高いコガタアカイエカとみなされる。
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