日本産マグソハナバエ属の成虫については, 篠永・加納(1974)が5種, 岩佐(1982)が3種を記録しているが, これらのうち幼虫については, キタマグソハナバエG. humilis, キイロコハナバエG. flexa, シロオビコハナバエG. subtilisの3種がPortchinsky (1910), Thomson (1947), Ferrar (1979)らによってそれぞれ報告されているにすぎない。著者は, 若齢期が未知の5種, エゾマグソハナバエG. ezensis, トウホクマグソハナバエG. tohokuensis, ケナガコハナバエG. lasiopa, ミナミコハナバエG. ascendens, ウスグロコハナバエG. nigrogriseaの卵・幼虫・囲蛹を新しく記載し, キタマグソハナバエの幼虫を再記載した。また, これら若齢期の分類上重要な形質について論じた。エゾマグソハナバエとトウホクマグソハナバエの卵は, 典型的なトゲハナバエ型で, ミナミコハナバエとウスグロコハナバエのそれらは変形したトゲハナバエ型であった。6種とも2齢で孵化し, 2齢期は糞食性と思われるが, 3齢になると糞のみでは生育せず, 真性の肉食性にかわる。3齢幼虫は記載のごとくで, 前方気門, 肛板の突起, 腹部棘帯, 咽頭骨格などには大きな差異はみられなかったが, 後方気門に最も種の特徴が現れ, これらの形・色などにより同定が可能である。マグソハナバエ属は, トゲハナバエ亜科に属し, Helina属と近縁であるが, 咽頭骨格の咽頭板(pharyngeal sclerite)の腹部の黒色で強く硬化したその特徴は, オーストラリアから記載されているHelina属の幼虫のそれらより, むしろマルハナバエ亜科に属するHebecnema, Mydaea, Myospila属などのそれらに類似している。囲蛹は全体の形と呼吸角の形・色彩に特徴がみられ, 卵と幼虫同様にマルハナバエ亜科と共通の特徴をもっていた。
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