熱帯アジアにおいては,吸血性昆虫であるブユ成虫の生態に関する周年調査はこれまでにない.本研究では,自然生態系がよく保存されているタイ国北部のドイインタノン国立公園の標高の異なる4地点(400m, 860m, 1,360m, 2,460m)において,人囮法を用いて,2003年8月から2004年7月まで,毎月2回,午前6時から午後6時までブユ成虫の採集を行い,季節消長および日内の活動パターンを調べた.その結果,採集ブユ数は,標高の低い方から,2,599, 24,010, 7,996, 4,496個体の総計39,101個体であった.これらはブユ属の4亜属23種に分類され,種数および多様性において豊かなファウナであることが示された.種構成は標高で異なっていた.最優先種は低および中標高でSimulium asakoaeで,高標高ではS. rufibasisであった.S. nigrogilvumは,中標高でS. asakoaeについで優先種であった.これら3種の年間の消長は種別に,また,同じ種でも標高により異なっていた.日内活動では,朝,夕の2峰性のほか,1峰性や3峰性のパターンも認められた.捕集された23種のうち5種については人吸血性が確認された.
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