目的: 平成20年から開始された特定健診事業において, 保険者は適正な保健指導を実施し, 虚血性心疾患や脳卒中などの大血管性疾患の発症予防あるいはリスク低下のアウトカムが求められている。保健指導実施後の生活改善効果の判定要素としてはメタボリックシンドローム (MetS) マーカーのデータが用いられるが, 判定基準としては明確な基準が設定されていない。今回われわれは, HOMA-Rやアディポネクチンを健診項目に取り入れている企業健診データを基に, MetSマーカーの個体内生理的変動幅 (SDi) を算出し, 保健指導効果判定への適用の可能性を検討した。
方法: 本研究では, 当施設に検査依頼があった企業健診受診者のうち, 過去5回経年的にMetSマーカーを測定している受診者4, 174人 (男性2, 857人, 女性1, 317人) を対象に, MetSマーカー9項目 (腹囲, BMI, 血圧, 空腹時血糖, グリコHbA
1c, HOMA-R, アディポネクチン, 中性脂肪, HDL-CHO) のsDiを男女別に算出した。また, 年代別, 飲酒分類別, 喫煙分類別, MetSリスク4分類別にSDiが評価された。
結果と結語: SDiは個体問生理的変動幅 (SDg) に比較して小さく, 保健指導後の効果判定基準としての適用の可能性が示唆された。女性の腹囲SDiは男性に比して大きく, BMIと乖離しており, 測定誤差の関与が疑われた。年代別では加齢により変動要因が増し, 個体内変動幅が大きくなる傾向を示した。40歳代男性を母集団にしたMetSリスク4分類別のSDiの比較では, アディポネクチン, HOMA-Rにおいてリスクなし群とMetS予備群では顕著に差を認め, 保健指導効果判定には受診者が属するMetSリスク群のSDiの適用が実用的であると思われる。また, 性差, 年代差を考慮した基準設定を設けることでSDiの意義がさらに高まると考えられた。
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