天狗の麦飯は,中部地方の火山帯,標高の高い地域に点在し,(藍藻類を含む)真正細菌,古細菌,糸状菌等,複数の微生物群からなる微生物の塊である.今回分離源とした天狗の麦飯は,昭和14年に黒姫山で採集され,ガラス瓶に封入されて80年間長野市内の小学校に保管されていた標本である.本研究では,この天狗の麦飯の標本から分離した糸状菌について報告する.この天狗の麦飯を希釈平板法により3種類の培地に塗布し,27℃で1週間培養した.その結果,各培地で形態的特徴の同じ1種の糸状菌のみが検出され,細菌など他の微生物は一切検出されなかった.この1種の糸状菌について,コロニー性状確認,各種顕微鏡による形態観察,3遺伝子領域に基づく系統解析を行ったところ,Lecanicillium aphanocladii であると同定した.また,本菌株の微生物培養液を用いて13種の微生物に対する抗菌試験を行ったところ,Proteus vulgaris NBRC 3167に対し弱い抗菌活性が確認された.NMR などの各種機器分析により,本活性化合物を oosporein であると同定した.
Homolka のパーライト法による超低温槽での担子菌培養株105株の長期凍結保存性の評価を行った.復元した105株のうち86株は5年間の凍結保存後も良好な生残性を示し,一方19株について不良な生残性であった.次に生残性が不良か不安定な25菌株を選抜し,保管温度の違いが生残性に与える影響を調べたところ,液体窒素気相(-170℃)で凍結保存した25株のうち7株において,超低温槽(-80℃)で凍結保存した場合よりも明らかに良好な生残性を示した.さらに,これら25株のうちで復元後のコロニー直径の大きさの比較が可能な16株においてコロニー直径の統計学的比較を行ったところ,7株について液体窒素気相保存したもののコロニー直径が-80℃ で凍結保存した場合よりも有意に大きかった.これらの結果から,Homolka のパーライト法を用いた超低温槽での凍結保存法は幅広い種類の菌根性担子菌培養株の長期凍結保存に有効であることを示すとともに,液体窒素気相での凍結保存はさらに安定した保存に有効であることを示した.
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