哺乳動物の母乳の主要な中性脂質であるトリアシルグリセロール(TAG)は,主にsn-2位置にパルミチン酸,短鎖や不飽和脂肪酸はsn-1(3)に分布していることが知られる。乳児用調製乳に含まれるTAGの脂肪酸位置分布は,乳児の脂質吸収性や栄養価,調製乳の組成設計の観点から重要である。栄養価を高めるため高度不飽和脂肪酸を強化した乳児用調合乳も販売されている。しかし短鎖や高度不飽和脂肪酸含有油は,膵リパーゼを用いた従来の脂肪酸分布分析法(ISO 6800)の適用範囲外である。
そこで本研究は,乳児用調製乳中の脂質のFA分布を分析する実験法の確立を目指した。まず,紛体や液体の乳児用調製乳をAOAC公定法932.02(レーゼ・ゴットリーブ法)で抽出し,推定収率88~96%で主にTAGから成る脂質を得た。魚油混合液中のPUFA含有量は抽出操作で有意に変化せず,本抽出操作においてPUFAは安定なことが示唆された。抽出脂質を,短鎖や高度不飽和脂肪酸を含むTAGに適用可能なJOCS/AOCS公定法Ch 3a(JOCS基準油脂分析試験法2.4.5)に供した。本研究で分析した殆どの乳児用調製乳において,パルミチン酸はsn-2に偏在していた。高度不飽和脂肪酸が強化された調製乳では,ドコサヘキサエン酸も主にsn-2に分布していた。
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