本稿では,多元計算解剖モデルに基づいた術前術中診断・治療支援について述べる.多元計算解剖学は,空間軸,時間軸,病理軸,機能軸の4つの軸に沿って解剖構造を解析し,それを診断治療へと応用する新しい研究分野である.名古屋大学を中心とした研究グループでは,多元計算解剖モデルを活用した診断治療支援システムの構築を行ってきた.また,マイクロCT画像を活用して,標本レベルでのマイクロ解剖構造の解析などを行ってきた.加えて,腹腔鏡手術支援や内視鏡検査支援などの研究も強力に遂行してきた.マイクロ解剖構造解析に基づく超拡大大腸内視鏡の診断支援システムも開発され,医機法に基づく承認も得ることになった.ここでは,多元計算解剖学に関連する筆者らの研究グループの研究成果を紹介するとともに,多元計算解剖学を振り返り,今後の展望について述べたい.
肺がんを中心とした難治な胸部多疾患を,高精細三次元CT画像や低線量三次元CT画像情報を用いて検出・診断するシステムの開発を進めている.マルチスケールな画像情報を用いて病態を多元的に診て,高性能診断支援システムを開発する.これには,放射光大視野顕微CT画像,高精細CT 画像・病理・臨床情報,長期低線量CT画像・遺伝子情報を用いる.これらの基礎研究から応用研究の成果について述べる.
本解説では,文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「医用画像に基づく計算解剖学の多元化と高度知能化診断・治療への展開」(略称:多元計算解剖学,2014年度から約5年間実施)における計画班の一つである「多元計算解剖モデルを利用した臓器・組織機能診断支援システム」の開発に関する研究の成果の一部を紹介する.まず,1)多元画像における多臓器・組織の自動検出・セグメンテーション・位置合わせについて解説し,続いて2)全身FDG-PET/CT画像における腫瘍領域の評価および脳血流画像解析,3)PET/CT画像と病理画像を用いた肺がん診断支援技術の開発,また,4)骨格筋の機能解析のためのモデルベースの筋認識についても記述し,5)その他の関連する話題にも触れる.
ヒトの脳は,正常加齢に伴って萎縮することがわかっており,この傾向を利用することでT1強調画像から年齢を推定することができる.アルツハイマー病などの脳疾患は,正常加齢と異なる萎縮パターンを示すため,T1強調画像から推定される年齢と実年齢とを比較することにより,診断支援を行うことが可能である.本論文では,3D CNNを用いた年齢推定手法を提案する.提案手法では,3D CNNにより年齢推定に適した特徴量を抽出するとともに,推定精度を改善するために性別を補足情報として全結合層に入力する.日本人健常者からなるT1強調画像データベースを用いた性能評価実験を通して提案手法の有効性を示す.また,提案手法のアルツハイマー病診断支援への応用について検討する.
新学術領域「多元計算解剖学」公募班A02-KB103「X線動画イメージングによる胸郭・横隔膜運動ならびに肺機能評価の試み」においては,胸部領域の筋・骨格・臓器・組織の動態機能の中でも,呼吸機能と密接に関係する肋骨を含めた胸郭運動ならびに横隔膜運動に注目し,X線動画イメージングによる動態機能の理解と評価に取り組んだ.本稿では,1)広い撮像視野でリアルタイムの動態機能評価を可能にするX線動画イメージング,2)各種動態機能の定量化・可視化手法,3)動物実験ならびに初期臨床研究で得られた所見,さらに国際連携研究支援の成果として,4)仮想人体ファントム(computational phantom)を対象とした仮想臨床試験の初期検討について,肺機能評価における多元計算解剖学の展開に言及しながら紹介する.
Whole slide imaging(WSI)をはじめとする仮想顕微鏡技術の多くは,red-green-blue(RGB)カメラにより画像化されている.しかし,光学顕微鏡で観察するよりも波長方向・空間方向の情報が大きく失われていることが病理診断において懸念されてきた.これに対して,ハイパースペクトル画像(HSI)やマルチスペクトル画像(MSI)などの分光画像は,より詳細な波長方向の解析が可能になることから,ディジタル病理画像処理における新たなセンシング技術として期待されている.本稿では,HSIやMSIと病理画像処理の親和性に注目して,関連研究を紹介する.
Synchrotron radiation x-rays provide x-ray images with improved spatial and density resolutions compared to those using conventional x-ray sources. BL-14 at the Photon Factory in Japan is a characteristic beamline where a vertically polarized synchrotron radiation beam is produced from a superconducting vertical wiggler which is the only active vertical wiggler in the world with a field strength of five Tesla. Here, the performance of vertically polarized synchrotron radiation x-rays emitted by a vertical wiggler is discussed from the viewpoint of x-ray imaging. The distance between the source point of x-rays and the detector is more than 36 m at BL-14C, which is one of the three experimental stations at the vertical wiggler beamline. Although the effect of the source point size on the spatial resolution of an x-ray image is unknown, a key advantage of x-ray imaging at BL-14C is a high-spatial resolution x-ray image in the vertical direction. We evaluate the spatial resolution of an x-ray image in the vertical direction taken at BL-14C quantitively.
トモシンセシスは,制限角内の投影から三次元画像を再構成する技術である.現在開発中の4つのX線管を有する装置では1秒以内の短時間撮影が可能で,患者の息止めによる負担がほとんどない.しかし,投影数が4と少ないため,再構成画像の画質が劣化する.本研究では,正則化項を組み込んだ逐次近似アルゴリズムを少数方向トモシンセシス画像再構成へ応用し,その有用性について検討した.ML-EM法とTV正則化を組み込んだ方法で数値ファントムおよび実測データの再構成を行い,RMSEおよびCNRによる比較検討を行った.数値シミュレーションでは,ML-EM法と比較してML-EM+TV再構成像の奥行き方向に生じるアーチファクトが抑制され,分解能が向上した.実測データではTV正則化を組み込むことでノイズが抑制でき,近似回数を重ねるにつれCNRが向上した.少数方向トモシンセシスにおいて,正則化項を組み込んだ再構成アルゴリズムはアーチファクト抑制およびノイズ低減に有用であった.
本稿は3回にわたる連載「SPECTの基礎」の最終回で,SPECTの臨床応用について概説する.まず,臨床核医学検査におけるSPECTの位置づけを,シンチグラフィーやPETと対比しながら説明する.次に,SPECTを含むシングルフォトン検査は30種類以上もあるが,案外知られていないのも多いので一覧に供する.最後に,SPECTの今後を展望するため,PETに置き換わりうる検査やセラノスティックス(theranostics)の概念について解説する.