本稿では,体験型教育ゲーム“larp”(educational live action role-play)に参加した後の内省と話し合いのためのレビューアプリである「reLarp」の発展と機能を概説し,生成AI の学術的活用法を考察する.京都大学の日本とドイツの共同学位プログラムで生成AI 使用の問題を検討した結果,reLarp にも応用可能性があることを発見した.「体験型教育ゲームの振り返り」は,larp を通じて異なる生活世界を体験し,深い学習を促進する手法である.政治的・社会的問題を扱うedu-larp は,内省と解明のための時空間や精神的援助を提供し,学習効果を高めることを目指す.筆者はひきこもりのジレンマとニューロマイノリティーのチャレンジをテーマにしたlarp を設計し,振り返りにPAC 分析を試みた.初期のアプリ開発には失敗したが,ChatGPT の登場を契機に再開発し,reLarp として公開した.今後はグループディスカッション用途に向けた改善も計画している.
本稿では,筆者とシステムエンジニアの佐次田哲と共同開発した教育用匿名チャットアプリ“Outis”および生成AI 機能を加えた“Aivis”の開発経緯と具体的な運用事例を,英語教育と文学研究の方面から紹介する.生成AI を学問・教育現場で用いる場合,リテラシーの涵養やガイドラインの整備がまず必要になるが,その技術開発が驚異的な速度で進んでいるために,プラットフォームが安定せず,フリーミアム・モデル(freemium model)によって教育的機会格差を生む懸念がある.また,個人アカウントで生成されたテキスト・画像・動画が共有されにくく,デジタル廃棄物として使い捨てにされる現状がある.Aivis は,多人数による生成物を共有・吟味する空間を用意することで,上記の問題を一部解消する技術的ソリューションとなるばかりか,第二言語習得における訂正フィードバックを容易にしたり,文学作品の解釈可能性を広げる活用法を提供できると考えられる.
画像生成AI の登場は,簡単な言葉(プロンプト)によって地図を生成する可能性を開いた.本稿では,画像生成AI による地図の作成を試行したうえで,その研究利用の可能性と課題,また地図理解に与える影響を検討した.結果として,画像生成AI は世界地図などをそれらしく描くものの,都市スケールのような中~大縮尺図や,地図の細部を正確に描くことはできなかった(2023 年12 月時点).生成されたのは,地理情報を伴わない地図の意匠である.他方で,部分的な改描はある程度の質を維持して可能であるなど,事実よりも架空・虚偽の地図を生成しやすいことが指摘された.画像生成AI は景観評価に関する研究などへの応用が期待される一方,現存または実在しない地図の生成が学術研究に悪影響をもたらすことも懸念される.この新たな技術が私たちの地理的想像力や空間認知にどう影響するのかは未知数であり,それゆえ継続的な議論が求められる.
生成AIはデータを生成する人工知能技術であり,メンタルヘルスケア領域への寄与に大きな期待が高まっている.本稿では,テキスト生成AIに焦点を当て,応用可能性を考察した.まず,テキスト生成AIによる対話エージェントは,利用者の抑うつや心理的苦痛の軽減が示されているなど,メンタルヘルス改善のための有効性が期待される一方で,効果の実証にはさらなる知見の蓄積が必要である.また,ヘルスケアサービスの提供者においては,研究論文の執筆や,対話の自動要約,診断への貢献に加え,利用者に合わせた効果的なサポートの提供や,介入ツールの最適化など,多くの側面に役立てられる可能性がある.一方,データのバイアスやプライバシー,正確性,倫理的な問題などの課題が残っているのが現状である.今後は生成AIの展開を注視し,よりよいメンタルヘルスケアの実現に向けて,最適な活用方法を検討することが重要であると考えられる.