高い線量集中性をもつ重粒子線がん治療は,正常組織への影響を抑えつつ腫瘍を効果的に制御できる.重粒子線を生体に照射すると,副次的に陽電子放出核種が生成される.そのため,実際の治療ビームに関する情報を得るには,開放空間を有するOpenPETを用いた照射中のイメージングが有効であり,治療ビームの飛程や治療効果を照射直後にその場で評価できると期待される.われわれは,2008 年の初期提案以降,OpenPETの研究開発を継続しており,HIMAC(Heavy Ion Medical Accelerator in Chiba)の物理実験室での照射イメージング実験を経て,2023 年より頭頸部がん患者を対象とした臨床試験を開始した.本稿では,これまでのOpenPET装置の開発と,現在進行中の臨床試験について概説する.
陽子線治療はブラッグピークによる高い線量集中性を示す一方で,照射位置のずれが治療効果の低下や正常組織へのダメージにつながる.患者体内の陽子線治療ビームの挙動を直接目で観察することができないため,臨床現場ではビームモニタリング技術が求められている.筆者らは「二次電子制動放射線」に着目したモニタリング手法を考案し,現在も臨床応用に向けて研究を進めている.本稿では,二次電子制動放射線の物理特性について概説し,開発したシンチレーション検出器による陽子線イメージング実験の結果を報告する.さらに,ディープラーニングを活用した線量分布推定手法についても紹介する.
光イメージングは放射線治療のビームの品質管理(quality assessment: QA)などのために研究が進めら れている.筆者らは,陽子線の実験中に陽子線照射で水が発光することを発見し,この発光が線量分布 をあらわすことを見出した.その後,水の発光に含まれるチェレンコフ光の補正や発光機序の解明,あ るいはさまざまな種類の放射線に対する光イメージング研究を行い,現在も研究を続けている.この解 説では,これまでに筆者が行った研究を中心に放射線治療における光イメージングの概要を紹介する.
放射線治療における画像誘導の導入は,がん治療の精度に大きな進歩をもたらした.Image-guided radiation therapy(IGRT)では,portal imaging,on-board imaging(OBI),cone beam computed tomography(CBCT),MRIなどの技術を利用し,体内の構造に基づいて患者を正確な照射位置に配置することが可能である.これらの技術の進歩により,解剖学的に複雑で経時的に変化する腫瘍体積により正確に放射線を照射すると同時に,周囲の正常組織への放射線の影響を低減することが可能である.各画像誘導装置にはそれぞれ利点と欠点があるが,装置の普及性や,適応的放射線治療への応用可能性を踏まえて,本稿ではCBCTに焦点を当てる.CBCTの画質劣化要因について述べた後,これまで適応的放射線治療のために提案されてきたCBCT画質改善に関する先行研究を概観する.この中で,最近注目されている深層学習に基づいた複数の改善手法について,臨床データを用いた実行結果とその有効性を検討する.