放射光は,高エネルギーで加速器内を旋回する電子が,電磁石で曲げられたときに発生する高輝度,かつ指向性の高い電磁波である.この放射光からヨードのK吸収端直上の光子エネルギーの単色X線を用いる放射光血管造影システムを確立した.最近,視野の拡大とX線強度を増加させる改良も行われた.これを用いると従来撮像できなかった細動脈(20~170 μm)を可視化することができる.ラットを用いた実験では,心臓では微小血栓,微小冠攣縮など微小冠循環障害,肺では肺細動脈や肺の腫瘍内血管の評価,腎臓では輸入細動脈や糸球体の評価が可能になる.これら細動脈レベルの可視化から得られる知見は各臓器の微小循環にかかわる病態の理解と治療法確立への新たな手段になることが期待される.
放射光の高輝度かつ波長可変の特徴を利用することで,さまざまなイメージング技術が実現されている.筆者らの研究室では,大型放射光施設SPring-8および米国アルゴンヌ国立研究所Advanced Photon Sourceを利用して,ヒト脳組織などの三次元構造を,放射光ナノCT法およびマイクロCT法で解析する研究を進めている.本論文では,それらナノCT・マイクロCTの生体組織への応用例を取り上げて,放射光ユーザーの視点から,難しいことは抜きにして,得られる成果の実際をご紹介する.
静脈血栓症は高致死率を呈する心血管疾患であるが,同一生体内にて微小血栓発生から成熟血栓へと成長していくメカニズムは十分に理解されていない.そこで本研究では,金ナノ粒子をX線造影剤に用いたin vivo CTイメージングから,血栓の成長過程の可視化を試みた.その結果,モデルマウスの静脈血栓(短径約200 μm)の成長過程を,血栓と静脈壁の空間情報を保持したまま経時的に観察することに成功した.また,シンクロトロン放射光を用いたX線CT計測により,摘出血栓内部の細胞・タンパク質の分布とそれに基づく多層構造の形成過程を可視化することができた.さらに,成長した血栓内には金ナノ粒子が局在することを見出し,血栓内免疫細胞動態との関連が示唆された.以上の成果は,血栓形成から成長,溶解,さらには遊離に至るまでの一連の過程を理解するための手法を提示するものであり,静脈血栓症の病態解明と治療戦略の確立に寄与すると期待される.
高空間分解能型X線干渉計の軟部組織構造の観察が可能になった.この手法は,低倍率の光学顕微鏡像と同様の解像度に匹敵する情報量で,生物学的軟部組織の微細形態構造を描出することができる.さらに,位相差X線トモグラフィーは,従来の組織像と比較して短時間で,試料を破壊することなく軟部組織構造の詳細な情報を得るためのボリュームデータを提供する三次元イメージング法である.本研究では,高解像度X線干渉法を用いてラットの腎臓,脾臓,脳などのホルマリン固定軟部組織の観察を行った.
ヒトは受精から出産までの間に劇的な形態的変遷を遂げるが,組織切片を利用した調査方法や吸収コントラストCTおよびMRIのような既存の撮像技術ではその詳細を捉えるのに限界があった.この状況に対して,位相コントラストX線CT(PCX-CT)技術は,ヒトの胚子期における形態形成過程の解明をけん引してきた.本論文ではPCX-CTを主軸としたヒト胚子三次元形態解析の研究を概観し,その成果と今後の展望について議論する.
X線CTの画像再構成では,メタルアーチファクトの発生が課題である.本研究では物理現象をより忠実に考慮するため,数理モデルベースのアプローチを主軸とした.特に,逐次近似画像再構成法で従来使用されているX線強度の対数スケールでのコスト関数に代わって,X 線強度に線形なコスト関数で画像再構成をすることでアーチファクト低減を試みた.結果,三次元コーンビーム投影の人工投影データ,および金属被写体に対する実投影データを用いた実験で従来のメタルアーチファクトの特徴が現れにくくなる効果を確認した.一方で,収束を保証した高速な最適化アルゴリズムの開発が課題である.
糖尿病網膜症は,進行度に応じた適切な治療が失明予防の鍵となる疾患である.そのため,AIによる重症度分類の自動化が実用化されている.深層学習による画像分類は,ResNet,ViT,ConvNeXtと進化してきた.さらに精度を高めるため,樹状突起ニューロンモデルの生物学的情報処理機構をConvNeXtに融合したD-ConvNeXtを開発した.D-ConvNeXtは,従来の深層学習モデルと比較して,Recallを除く評価指標(Accuracy,Precision,AUC,F1値)で有意に優れた性能を示した.特にPrecisionの改善が大きく,ConvNeXtの69.6%に対して,71.8%を記録した.重症度別では,PDRの分類精度の改善が最も大きく,PrecisionとRecallの両方で有意な精度向上がみられた.