本研究ではエオシンとそれをレーキ化したゼラニウムレーキ顔料について,レーキ化が耐光性に及ぼす影響を検討した.X線回折,電子顕微鏡観察より,どちらも結晶構造をもつが,ゼラニウムレーキ顔料の方が,粒子が微細であることを確認した.また紫外-可視分光分析で両者に吸収端波長の違い等がみられたのに対し,赤外分光分析,ラマン分光分析では差異は認められなかった.エオシンとゼラニウムレーキ顔料を用いた油絵具の耐光性試験では,ゼラニウムレーキ顔料の変色はエオシンの4分の1程度であった.ゼラニウムレーキ顔料ではアルミニウムイオンとの結合により電子状態の変化が生じ,耐光性の向上に寄与していると考えられる.光による変色の機構を赤外分光分析で検討した結果,いずれの絵具もC-Brの分解とキサンテン環の構造に変化が確認された.また試料の断面観察,顕微赤外分光分析から,どちらの試料にも表面に薄い層が形成されており,光劣化は表面層にのみ生じていることが明らかとなった.
漆液の主成分はウルシオールであり,カテコールの一種である.通常ラッカーゼという酵素によって漆液を高湿度下で室温硬化させるので,漆器作製に長時間を要する.ここでは漆の主成分であるウルシオールに対してUV照射による迅速な硬化を試みた.ところが,UV照射法では表面の光沢が低下した.これは表面にシワが発生するためであることがわかった.そこでこれを抑制すべくUV硬化前に臭素化を行って硬化速度を遅くする方法を検討した.その結果数十秒以内の臭素化処理で光沢の低下を防ぐことができた.さらに,明度,彩度などの色彩因子に関しても本法で得られた膜は従来法によるそれより劣ることはなかった.以上の事実から臭素化とUV硬化によって漆器の迅速な製造が可能になることを示唆している.
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