1・自然氷晶核の濃度が日々にまた季節的にどのように変化しているか,またその origin はどこにあるかなどを知るために1959年の11月から1960年の10月までの1年間,type Aの装置を用いて作用温度にたいする核数のスペクトルの観測を行つた.
自然氷晶核の濃度は作用温度が低くなると指数酌に増加することが明らかになつた。また-20°C核について9/
l以下の濃度の観測される割合は50%(夏季)から70%(冬季)を占め,50/
l以上の割合は10%(冬季)から20%(夏季)となり,100/
l以上になると5%(冬季)から10%(夏季)と少くなることがわかつた。また主な流星雨の日から約28日目に氷晶核濃度の増大が観測されることもみいだされた.
流星雨との関係をさらに確めるためにその28日目の前後の期間に type B の装置を用いて-20°C核にいて5~10分おきの連続観測を行つた。1961年の5月までの主な6つの流星群についての結果,そつのいずれも28日目に核の増大が観測された。これが偶然の一致であるならばその確率は10
-4となる。そしてその値は最高100~1000/
lとなり普通の日の値の数十倍の増加を示した。しかしその増加は2~3時間ぐらい続き10時間以上続くことはまれである。またその前後の日にも約24時間の間隔で小さいピークがあらわれることもみいだされた。また,Leonids, Geminids, Ursidsなどの流星群に対応して2年とも同じ日付でピークが観測された。したがつてこれらの結果から,28日目に増加した氷晶核は流星群の軌道上に存在していた微細な流星塵であり,地球大気を通して地上まで運ばれてくるのに約28日を要すると結論してもその危険率は非常に小さいといえる.
2.Bowen(1953)の降水量の統計的研究をチエツクするために日本全国から約60年の観測年数を有し,相互に約200kmはなれている測候所を20ケ所えらび,月日別降水量の累年平均値を用いて統計的検定を行つた。その結果,大きな流星群の日から28~31日目の4日間の降水量はその前後に比し,平均として15%増加していることが,0.1%の危険率で有意となつた。そして個々の流星群にたいしては30%も増加していることがわかつた.
3.もし流星群からの微細な粒子が地上の氷晶核の濃度や降水量を増加させるとすれば,次のようなphysical processが推測される.
1) 氷晶核として観測された粒子の大きさは半径1μ前後と推定され,その粒子は成層圏内では自然落下により,対流圏では強い下降気流(数cm/sec)によつて地上まで運ばれたものと考察される.
2)対流圏に入つた流星塵は対流,大気拡散によつて約28日から数日の間全地球の,特に中緯度の大気中の氷晶核濃度を増加させ,各地において雲系に入つたものは氷晶の核として作用し,その結果として降水の増加をもたらすものと考えられる.
4.しかしながら,流星塵と氷晶核との関係は流星群と地上の氷晶核濃度との対応の統計的結果のみでは不充分である。流星塵が有効な氷晶核であることが直接的に証明され,また流星塵が宇宙空間(流星群の軌道上)に高濃度に存在していることの確認や,大気中に入つてから下層に到達する機構などが明らかにされなくてはならない。
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