筆者らはアメリカ合衆国における死亡,ことに年令別死亡の季節変動の分析を試みた。その結果・日本や英国に比較して著しくことなる2,3の特性を指摘し,序報的ではあるがそれについての若干の考察を行った。
本研究の最終目的は,これまで試みた日本における死亡の季節変動の研究より導かれた事実,即ち“文化の進展とともに死亡の冬季集中現象が著明になる” ということが,アメリカやイギリスにおいては, いかなる形態をとるかを実証することにある。さらにこの事実より,死亡の季節変動を通してみた,人間による気候の征服,人工気候の問題等を明らかにすることにある。
アメリカ合衆国の1952年より1956年に至る5力年間平均の月別死亡指数(年平均100,年合計1200)を用いて年令別の季節変動カーブを比較した。
1才未満のカーブは殆んど一直線であるが1~14才,15~24才では6月を中心に小さな山を示し,緩やかな変動がみられる。一方,25~34,35~44,45~54才の階級は殆んど変動がない。しかし年令の増加とともに冬の指数は高まって季節変動も増し,ことに85才以上の高年令では一層著明となる。全年令の変動は冬に山のある緩やかなカーブである。また,これを白人及び黒人にわけてみると,白人の変動は冬季のみ緩やかな山をみるが,黒人の場合は冬と夏の2つの緩やかな山をみる。
ニューヨーク市の年令別季節変動をみると― 年令の階級区分はやや異なるが― 大体の傾向は合衆国のそれと類似する。即ち,一体に季節変動は緩慢で,1才以下,1~4,20~29,30~39,40~49の変動カーブは見事にこれを示す。一方60~69,70以上は冬季の山が目立ち季節変動は増大する。
以上を通じていえることは,合衆国もニューヨーク市の場合も,日本や英国に比べると死亡の季節変動が概して緩慢であるということである。ことに1才未満が季節変動を示さない事実は注目にあたいする。また,高年令においても冬季集中現象の著明な日本,英国とは比較にならぬほどゆるやかである。
死亡の季節変動はさまざまな要因がからみあって決定されるが,気候的要因の大きいことは容易に想像される。気候が死亡に作用する場合,自然の気候そのものよりも,暖房等によって作られた人工気候の影響は一層大きい。アメリカの場合,冬季でも寒さを感じないような室内気候が,死亡の季節変動を緩慢にさせていると考えられる。
抄録全体を表示