1970年代に近づいてから,日本の死亡の季節性 -季節パターン- が著しく変形し,ことにこれは一歳未満の乳児死亡に顕著であることは既に報告したところである.本論は,同年代に,果して外国も日本と同じような変化を示すかどうか,またその原因はいかなるものであるかにつき考察した.
資料の入手可能なイギリス,アメリカと日本との比較を試みた.総死亡の季節パターンはイギリスは冬山が高く著明な冬季集中型であるが,アメリカは著しい緩慢型である.日本は両者の中間であるが,夏にごく低い山があり特異的である.脳血管疾患は日本,イギリス何れも冬山の目立つ冬季集中型,アメリカは緩慢型である.肺炎・気管支炎は前者と類似している.
乳児死亡は日本とアメリカを比較すると何れも脱季節化が進んでいるが,そのパターンはややことなり,日本は夏冬の二峰型,アメリカは1~2月と4~6月の作る二つの低い丘と,7~9月の底の浅い谷がある.
1970年に近づいての日本の死亡率の低下,急速な脱季節化の背後には,日本の高度の工業化,都市化の進行があったためと考えられる.一方,イギリスではすでに1800年代の後半にはかなりの衛生状態の改善があり,それが死亡にも反映されて長年月にわたって,先進国の代表的なパターンを程してきた.しかし70年代になっても多少の死亡率低下はあるものの,パターンそのものは殆んど変化をみせない.アメリカは死亡の脱季節化は日本より25~30年以前に形成されて,比較的ステーブルな状態がつづいているが,70年代に近づいても日本のような急激な変化はみられない.さらにアメリカを地域別に詳細に分析すると,後進的地域としての南部には死亡,ことに黒人の乳児死亡の冬山が高く,アメリカとしては極めて特異的なパターンを示す.このタイプは60年代初期も70年代も殆んど変化していない.
最後に,籾山がかつて考察した“季節病カレンダー”-これは筆者らの一連の研究は本カレンダーよリスタートしたといっても過言ではない- を日本,イギリス両国については3年代,アメリカについては2年代の比較を試みた.日本は年代的に著しい変遷をとげている事がわかるが,アメリカ,イギリスはそれほど著しい変遷はみられないのが特色的である.
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