大洋上のような広域で乱流輸送量を求めるためには,研究観測で用いられるような乱流変動量や精密な鉛直プロフィルの測定などは到底望むべくもない.そこで,実用上は,より簡便な測定方法が開発されるべきである.本論文には運動量,顕熱,潜熱の乱流輸送量を求めるための簡便法を,これまでに得られた理論的,経験的な成果を基礎にして開発した結果が示されている.すなわち,風速,温位,湿度の平均鉛直プロフィルと輸送量の関係を用いて二高度における気象要素の測定値だけから乱流輸送量を求める方法が示されている.
基礎方程式系は連立超越方程式になるため,繰り返えし法(iteration method)を用いて解を求めている.この方法によって計算された乱流輸送量に関するいくつかの性質が研究されている.
(1)近中立成層の場合の風速の値から二高度バルク法で求めた粗度高Z0の平均値は完全中立成層時の風速の下層プロフィルの外挿による値とよい一致を示した,またこの方法による粗度高の推定の誤差を最小にする測定高度の撰び方があることが分った.
(2)二高度バルク法で求めた運動量,顕熱および潜熱の輸送量は近藤のバルク公式によって計算した値と極めてよい対応を示した.
(3)この方法で求めた顕熱,運動量の輸送量の値は渦相関法から計算された値とよく一致したが,潜熱輸送量は値が大きくなるにつれてバルク法の方が大きな値を与える傾向が認められた.この場合,水蒸気圧の平均プロフィルの測定に過小評価の傾向が見られたので,今後,更に検討する必要がある.
(4)計算された顕熱輸送量の日変化は同時に測定された雲量や純放射量とよく対応した.
(5)計算された運動量の輸送量は安定成層時を除いて二つの測定高度の撰び方によって余り変化しない.そして渦相関法で求めた輸送量に対する相対誤差は近中立成層時には,35-50%と大きな値を示したが,不安定成層時には,(4m-16m),(2m-16m)の測定高度から求めた輸送量が最小誤差(27%-30%)を示した.安定成層時には(2m-8m),(4m-8m)の測定高度から求めた値が比較的相対誤差が小さかった,一方,顕熱輸送量の測定高度による変化は非断熱成層の場合には比較的小さく,変動係数は0.16であった,また,相対誤差は中,下層で最小値を示した.
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